49話 赤峰さん 挿絵あり
テンポが悪くなるので、短めです
誤字報告ありがとうございます。
井口のとある台詞集は抜き取って読んでみてください。
一応、誤字ではないので、ご報告です
全員で15階層までスキップし、班編成をして16階層へ。着き次第、辺りのモンスターを倒し、索敵出来る人間で次へ進むゲートの方向を調べる。結果としては15階層へ戻るゲートの正面に1つ左右に2つ。距離はさほど変わらないようだが、地形は山岳地帯なのでどれも道は悪い。さて、それでは別ルートで20階層を目指してもらおうか。
「リーダーは集合。最終打ち合わせをします。」
声をかけて集める。集まったのは宮藤、雄二、卓、赤峰、兵藤。望田は今回、雄二班に入れて最悪を避ける切り札とした。今回の参加者にはS職や盾師などの防御役がいない為、その処置とした。
「打ち合わせ通り、リーダーが舵取りして20階層を目指してもらいます。方向は各人で決めていいですが、同一方向は避けてください。宮藤さんには兵藤さん赤峰さんペアを任せて、残り2班は私が見ます。基本的に私は空にいるのでなにかあったら、これを使ってください。」
取り出して渡したのはロケット花火。別に爆竹でも照明弾でもいいのだが、夏場と言う事で、買い出し先で見つけたのがこれ。軽くて安い。上がれば笛でヒューと甲高く鳴るので遠くても見つけやすい。卓と雄二が正反対に行きだしたら、着いてきた犬をこっそり後追いさせるか、煙を出来る限り薄く撒こう。
「俺と兵藤さんは左行こうかと思うが、卓と雄二はどうする?左行きたいなら譲るが?」
「クロエさんのサポートを受ける関係上、僕達は真っ直ぐか左右にどちらかしかないですね。雄二はどっち行く?」
「俺は右かな、正面は卓だろ?正道を歩けよ。」
「なら、話は決まりだな。赤峰さん行こうか。」
「おう!無事に20階層で会おうな!」
それぞれが拳を合わせて背を向け、班員の元へ歩いていく。ゲートをくぐればある程度同じ所に出るが、到着時間次第ではどのリーダーとも会えない。今生の別れではないが、楽に歩める道ではない。
『心配なら、私が平らげてあげるわよ?』
『駄目だ。』
『そう・・・、なら、不測の事態を期待しているわね?下僕アナタに煙をあげる?仮初でもアナタはそれを選んだの。なら、尽くしなさい?』
ゲート索敵用に撒いた煙が集まり、犬を煙犬へと変えていく。魔女のおかげで手間が省けた。コイツはどちらかに付けてしまおう。付けるなら卓かな、中位なのでそこまで苦戦するイメージもないし、元々指揮能力もある。雄二もない訳では無いが、少し直線的すぎる。そこは、子供から大人になる過程、経験が足りていない。
卓は何でもそつなくこなすタイプだが、雄二は何方かといえば不器用な愛されキャラタイプ。ただ、上司にするなら雄二だろうな。大人になると、学力よりもコミュニケーション能力が物を言う場面など山ほどある。それは集団生活で磨くしかないが、天性の資質と言うモノもまたあるわけで・・・。
「クロエさん、借りっぱなしだったので1つ返します。」
そう言って宮藤から渡されたのは脱出アイテム。適当に2個と予備を貰ったが、今考えるとかなりいい采配だった。これのおかげで教育もスムーズ。ただ、多分だが俺が使うと1人用になるんだろうな・・・。元々俺が使う為のアイテムだし、早く後1つくらい他に脱出アイテムが欲しい。
「はい、確かに受け取りました。何かあれば花火をお願いします。一応、スマホも持っておきますが、余り当てにしないでください。」
「分かりました、花火で無くとも火柱でも上げますよ。では。」
宮藤は一礼して、赤峰達と共に歩き出した。雄二と卓も歩き出している。なら、俺は空から見るとしよう。キセルを取り出しプカリと1つ煙を吐く。刺又に腰掛けて、空から皆の無事を保証するとしよう。
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「でりゃっしゃー!」
「そっち!ダメージは重なった!崩れろ!」
「押し流すぞー、固まったら頼む!」
「了解!槍はいっぱい有るんだよね!」
別れて歩いて数時間、既に何度目かねぇ。煩わしいが、敵じゃねぇ。殴って蹴って、投げて踏み砕いてクリスタルへ返す。誰も言わなくなったユニーク、小骨が多いって事だったが今んとこ順調だ。まだ、雑魚しか出てねぇから言える事かも知れんが。
「後藤、索敵は?」
「発見にかかるものは無いですね。箱はありますよ、あの岩の影です。」
「そうか、回収だな。」
「宮藤さん、歩きづれぇけど大丈夫かい?」
「自分の事は気にしなくてもいいですよ。いないものとして扱ってください。」
「わーぁった。井口、大丈夫か?」
「赤峰さん心配し過ぎ、大丈夫ですよ。」
井口の軽口にみんなが笑う。どうも不器用でいけねぇ。産まれてこの方喧嘩と空手に明け暮れて、女の扱いなんてわからねぇ。抱くだけなら風俗で事足りるし、つるむのも地元じゃ悪友、こっち来ても男が多かった。だから、井口と差しで飲んだ時は、柄にもなく緊張しちまった。
地元の悪友は結婚してガキのいるやつもいる。人生、どっかで結婚とか、彼女は出来るもんとは思ったがどうなんだろう?兵藤なんかは、なんか知らんがガツガツアプローチかけてるみたいだが、不器用な俺はそこまで行けねぇし、今はやることもある。
「出発しましょう。」
スクリプターの内藤から声が上がり、ジャーキーを口に放り込んで歩き出す。薄暗くて足場のわりぃ山岳地帯は、どこも陰気でいけねぇ。一番後ろを歩く宮藤は軽い足取りで歩くけど、あれも中位になったおかげなんかね?
「休みとか、休憩はどうする?」
「前回みたいにセーフスペースはないからねぇ。車両で見張りと休憩組に分けて、やるのがいいんじゃねぇか?流石に強行軍するもんでもないだろうし。」
ヘリ1機とトラック1台。渡されたものはそれだけで、後は自分達で準備したもんで賄う。たまに、歩いてると草っぽいなにかもあるんで、それも集めとく。インナーは出来たが、上着は素材がいるんで、面倒だが仕方ねぇ。ゲートが出てこの方、人も社会も色々変わっていってる。
あんまり頭はよかねぇが、肌で感じる空気は何処かお祭りの始まりみてぇだ。俺もそれは分かってる。空手の大会で強ぇヤツとやり合った事は何度もあるが、今のこれは試合じゃねえ。空手の先生にも言われたが、ゲートでモンスターとやり合うなら、心技体じゃなくて、生き残る事を優先しろと言われた。勝てば官軍か。
言葉を大事にしろと橘さんに言われたが、確かにそれは何となく分かるようになってきた。どんなに弱いモンスターでも、負けると思い続けて殴ると、なんでか知らないが拳が当たってもピンピンしてやがる。イメージ、気の持ちよう、考え、倒せるという認識。無心で殴ってもあんまり意味はねぇ。
頭の痛てぇ話だけど、考えまくりながら戦いを組み立てる。無心のミット打ちじゃ意味がねぇ。身体が反応するなら、その反応を理解して攻撃しなきゃいけねぇ。格闘家が脳筋なのは話の中だけ。魔法職がイメージして魔法を使うように、近接職は攻撃の成功を考えて有効打を模索しなきゃいけねぇ。
「ほら雑魚、頭砕けときな!」
回し蹴りでイソギンチャク見たいな頭を踵で蹴り砕く。お得意のビームは手で叩き飛ばす。秋葉原では指をやられたが、今はそれもない。クロエさんの火の玉を握り潰した時、ストンと理解した。何故やらないのか?どうして出来ると思わないのか?荒っぽいらしい俺は、空飛ばれてそんなもんなんだと荒っぽく理解した。なるほど、あの人が強いんじゃなくて、俺が弱いんだと。
「今日は一旦休憩。新型レーションを試してくれ。」
「了解。ふぃ〜、疲れた・・・。」
「見張りは打ち合わせの順番でお願いします。」
「佐藤、飯くおうぜ。」
「あいよ、内藤も来いよ。」
先に休む組が食事に入る。メンバーは5人で俺と井口も早飯組。ゲートの中は時間感覚が、どんどんなくなっちまっていけねぇ。戦って休憩して、また戦って休憩しての繰り返しで、ふとした時に周囲を見ても、今度は風景が変わり映えしねぇ。回復薬も飲むもんだから、余計疲れの感覚もなくなってガンガン先に行っちまいたくなる。
「ほい。赤峰さん、どうぞ。」
「おう、わりいな井口。新型って言ってっけど何が違うんだ?飯ですらなく栄養バーだけどよ?前食った缶とか、パック飯の方が好きなんだがよ。」
「驚いて聞いてください。これ1個で1500kcalあります。2本食べれば、お腹は膨れませんが体は動く!」
横で井口がシャドーボクシングして見せる。小動物みたいなこいつは、割とかわいい。今まで俺の周りにはいなかったタイプだ。大抵の女は俺の厳つさに引いて、荒っぽさで引いて離れて行っちまう。そんな中、こいつは珍しく離れず近くにいる。兵藤が曖昧な顔で俺の方を見るが、何かあるのかねぇ?まっ、お上の事情は俺には関係ねぇし、ゲートの中ではそんな駆け引きしてる暇もねぇ。
「チョコ味か、割と旨いな。腹は膨れねぇけどよ。」
「それが難点ですからね。お茶いります?」
「貰う。あんがとよ。お前もアメいるか?」
「ほう、イチゴ味ですか。見た目によらずかわいいですね。好きな味ですよ。」
アメを渡して並んで味気ない食事を食べて寝る。まだ半分進んだくらいだが、中々どうしてモンスターの質が違う。倒せるのは倒せる。傷も負うが、回復出来る。10人でウロウロしているおかげで、カバーもできるし兵藤も魔法でそつなくこなす。安定性はあるけど、卓と宮藤が戦ったクラスが出て来たらどうなるかねぇ。まぁ、俺は弱い。だが、弱いから拳を握るし、考えもする。喧嘩番長は背中で語るもんだ・・・。
「赤峰さん起きてください、交代です。」
「おう、岩井サンキュ。すぐでらぁ。」
寝たと思えば起こされる。寝る前に辺りは一掃したから、モンスターも出ずに快眠だ。道着は早々に破れたので、上はタンクトップ型のインナー1枚。下は迷彩ズボンと靴は邪魔なんで、インナーの素材をそのまま足に巻き付けてる。石を踏んでも痛くないし、踏み込みも楽なんで、これは目っけもんだ。
「うっし、ツーマンセルで警戒な。佐藤、内藤で一組、後藤はトラック上で全体索敵。俺は井口と反対側を警戒する。何かあれば、声掛けて必ず2人で動けよ。」
「了解です。佐藤、こん前の合コンがな・・・。」
「好きだな、誘えよ・・・。」
それぞれ配置に付いて警戒をする。ゲートの中はモンスター含めて耳が痛くなるほど静かだ。快眠は快眠なんだが、騒がしい方が好きな俺からすれば、やっぱり味気ねぇ。あんまりよかねぇが、モンスター殴ってた方が活気がある。
「さて、警戒ですけど暇は暇ですね。後藤さんが追跡者で発見してくれるんで、そこまで根詰めなくていいし」
「気ぃぬくなよ?あいつら音もなく忍び寄るし、ビーム撃ってくるからよぉ。」
井口と背中合わせで座り周囲を見る。何もいねぇ。静かな警戒はどちらともなく口を開かせる。15階層に行く時もこんな事があったなぁ。
「井口よぉ、何でまた俺に付き合う?自慢じゃねぇが、荒っぽいしデリカシーもねぇ。見た目だって怖ぇゴリラだろ?」
「す?割と愛嬌あると思いますよ?気前いいし、奢ってくれるし。」
「キャバのねぇちゃんじゃねぇんだ。おべっかはいらね。」
「き?またまた、人気有るんですよ?」
「俺が?アレだろ?守ってくれる的な。自慢じゃねぇが俺は、弱いぞ?」
「だ?大丈夫ですよ。赤峰さん弱かったら、格闘家はみんな弱くなっちゃいます。」
「そんなこたぁねーよ。元々俺は地方の警官で、その前はヤンキーの番長なんだよ。」
「よ!それでもですよ。硬派一点、いいじゃないですか。」
「貴方は?貴方が思うより素敵ですよ。」
「そんなもんかねぇ?」
「では質問です。女の人が本当に仲良くなるのは、どっちだと思います?」
「そらぁ・・・。」
どっちなんだろうな?考えた事もなかった。男とはよくつるむが、女はコイツが初めてつるんだようなもん。さてさて、こいつぁ難しい。仲良くなれりゃあどっちでもいいが、井口が言ってるのはそんなことじゃねえ。言ってるのは男女のそれで、答えは一択。あぁ、もう!ガキじゃねえ。けど、俺は、こんなに初心だったのか?
井口の行動は、傍目から見りゃあハニトラだ。最初はクロエさんにベタベタして、次は俺んとこ来た。多分、自衛隊の息がかかってるのは間違いねぇ。それでもまぁ、コイツはかわいい。
「分かんないですか?」
井口が急かすように聞いてくる。あぁもう!小っ恥ずかしい。何だこりゃ!喧嘩やモンスターと戦うより、よっぽど心臓がバクバクしてやがる。背中が合わさってるせいで、心臓の音が筒抜けなんじゃねーかって思っちまう。結婚したアイツもこんな気分だったのかねぇ?弱虫なアイツだったが、中々どうして勇気があるじゃねぇか。
「女だよ。」
「正解です。」
「・・・、理由あんのか?」
「当然ですよだって・・・。」
立ち上がって俺を見る井口の顔は、柔らかく微笑み安らぎを覚えた。あーくそ、やられちまった。負けちまった。勝負じゃないが、こんな言葉があるだろぅ?惚れたら負けって言う。井口が本気かは知らねぇ。ただ、俺が本気になっちまう。
「そうじゃないと・・・、赤ちゃん・・・。産まれないじゃないですか・・・。」
薄暗い中で微笑む井口は魅力的だ。こんな場所じゃなきゃ、そのまま2人でまた飲みに行くのもいい。ここを出たら休暇だ。なら、何処かへ遊びに行くのを誘ってみっかね?
「・・・、そうか。なら、守ってやんよ。」
「ふふふ、答えはちゃんと聞かせてくださいね?」
そう言って井口は歩き出した。腕時計を見れば、出発の時間はもうそこか。俺も立ち上がって井口の後を追う。さてさて、守るって言ったんだやらなきゃ男じゃねぇな。それから皆で先を目指して歩き出す。
「炎の兵列は、歩き止まらず、事を成す。やろうか皆、仕事の時間だ。」
ズタボロにされて地面に転がる横で、宮藤の兵達が歩みを進めモンスターに群がっていく。18階層で出くわしたモンスターは見た事ない形で、話し合って戦ったが全滅しかけた。あれは、理不尽の権化だ。殴れる、蹴れる、投げ飛ばして、ビームも対応出来るけど、一向に倒れねぇ。一瞬の弱気でモンスターから土手っ腹に一撃、死ぬかと思ったが、刻印何ていう素敵な防御装置でどうにか死なずに済んだが、インナーはボロボロになった。既にズボンは帰り用しかねぇから、下着状態だがそんなこと言ってる暇はねぇ!
「赤峰さん!大丈夫!?」
「・・・、おう、なんとかな。」
井口が俺の前で無数の槍をモンスターに投げ、兵藤が水圧砲を放ち、それに他の仲間がダメージを重ねていく。そんな中、宮藤の炎が消えた?倒れた仲間を見る兵藤は泣いていた。あいつは災害派遣にも行ったらしいから、倒れ伏す仲間達がその惨劇の姿に重なったんだろう。
「モンスター如きが!人の命を刈り取ろうとするんじゃねぇんだよ!人ってのはなぁ、歩み止まらず、何があろうと突き進む!俺はお前を否定する、お前達モンスターの殺害行為を否定する!」
兵藤の水が凶悪なまでに、溢れかえり。辺りの地形ごとモンスターを削り取る。あれは、死の嵐だ。宮藤の様に優しげでもなく、卓の様に直線でもない。害あるモノをひたすらに追い狩り尽くす刃。兵藤は狩人の様にモンスターを見定め、その形をありとあらゆる形に水を変形させては存在を崩していく。
初めて見たが、あれが至るってこったろう。あぁ、あれはすげぇ。目に焼き付く光景に兵藤以外のメンバーは息を呑む。ただ、宮藤だけはその光景を優しげに見つめたまま、崩れ去って死に絶えるモンスターを眺めている。
「宮藤さん、至りましたよ。中位水術者、第2職は追跡者です。」
「はい。目に焼き付けました。」
「俺は人を助けたい。」
その言葉を聞いて、歓喜の中歩みを進める。それから更に歩いて休んで、途中で雄二や卓に会ったりしながら先を進む。期間は最大で15日を想定されていたが、確かにそれくらいはかかる。逃げて隠れて、休まず走れば変わるかもしれねぇが、俺達はあくまで訓練で彷徨ってんだ、よっぽどヤバい怪我でもしねぇ限り、モンスターを見たら殴りかかって倒していく。しかし、小骨が多い。やり合う相手には事欠かねぇが、誰も彼もが疲れている。
「兵藤さんよぉ、もう20階層だ。どこかここいらで大休憩しねぇか?潜って既に10日以上は過ぎた。食いもんや水はいいが、休みがねぇのは流石にミスを誘発するぜ?」
「赤峰さんもそう思うか。インナーはいいが、付けてもらった刻印もほとんど残ってない。しかし、宮藤さんは手厳しいな。何度死ぬかと思ったか。」
至った兵藤は抜けるかと思ったが、そのままメンバーに残り戦っている。本人曰く至ったばかりで、出来るできないの区別が付けたいらしい。確かに、卓や宮藤の様に繊細さはないけど、それでも出力?魔法職じゃないから分からないけど、そんなもんが上がってるような気がする。
そんな兵藤達と歩き回って、死にそうになりながらの20階層。死亡者は出てねぇし、井口も無事。情けねぇ姿を見せちまったが、なんだかんだで背中を預けて一緒にいる。
「退出ゲートまでは距離がありますからね。休憩賛成!大ちゃんもいい事いうねぇ。」
「まねんな井口。ちゃん付もやめれ。」
「いいじゃないですか、大貴だから大ちゃん。私の事も裕子なんで裕ちゃんでいいんですよ?」
兵藤が曖昧な顔をしたあと、恨めしそうに俺を見てくる。お前も自衛隊側の人間だろうに。どこで誰にどんなに息がかかってかは知らねぇが、まぁ、その、何だ。悪い気はしねぇ。ニィっと兵藤に笑って返すと、アイツがこめかみをピクピクさせてるのは面白い。
大休憩を取って、歩いて倒して進んでまた倒して、進んだ先にまだゲートは見えねぇ。そろそろお天道様が恋しいが、モンスターは待っちゃくれねぇ!
「数が多い!小骨多数!」
「やらいでかー!」
「えぇい、記憶が少ないこの時に!」
「対応でどうにかする!一旦下がれ!」
モンスターの大攻勢、数は50はいる。だが、乱戦なんざ目じゃねえ!
「はっ倒す!死にさらせ!」
目の前のモンスターを刈り取るように蹴り降ろし、軸足を変えて更に回し蹴り。伏せるようにして足払いをかけて、すっ転んだ奴を踏み抜きながら、正拳突き!間合いが離れてる?関係ねぇな。反対の拳で正拳突き、拳圧を飛ばしてモンスターに叩きつける。
「OKそこ!」
拳圧で死ななかったモンスターは、井口が投げた槍で仕留められた。そんな井口に飛来するビームを、手で受け止めて投げつける。他のメンバーも応戦し、かなりの数倒した。それが、油断だったんだろう。それはそこにいた。動かないそれは、モンスター達の後方に佇んでいた。
動かないなら目の前に集中して、モンスターを倒す。内藤が傷を負い、佐藤が腕を折られ、岩井は両太ももの肉が一部抉られている。早く殴り倒す!掴んだモンスターを投げ付け、一瞬辺りが開けたとき、動かないそいつはビームを放った。掴める、握りつぶせる!出来る!やれる!
手を伸ばす、掌に収まるはずのビームはしかし、グニャリと曲がった!
「ぐきゃ!」
怖えぇ・・・、その声は、怖ぇ!身体の感覚がない、心臓は破裂しそうなほど早鐘を打つ。冷や汗が止まらない。ミスをした?間違った?届かなかった?守れなかった?薄ら寒い、しかし、確かめなければ・・・。
振り返る・・・、時間はかかっていないが、全てが遅く感じる。もう見える/見たくない。もう結果が分かる/知りたくない。声が聞ける?/当たって叫んだ。誰が/井口の声で・・・。見えた先には、煙を上げ後ろに倒れる・・・。
「井口ー!」