517話 交わりそうな人達 挿絵あり
「どうぞ高槻先生。今回はお力添えありがとうございました。わざわざ飛行ユニットまで情報開示していただいて助かりましたよ。アレがなかったら更に会議は荒れていた。」
「社訓の提唱者が社訓に従わないのも体裁が悪いですからな。と、言っても米国は山口君主導で開発には既に着手してますし、他のくにからの注目度も高い。売り抜くなら今と社としても方針が出てました。そんな状況でこのオファーなら、ビッグウェーブに乗るしかないですなぁ。」
ニヤリと笑いながら高槻が話す。会議が終わって1日休み潜ったゲートはスイスの物。はよ帰りたいと言う話もあるのだが、会議終了後のロビー活動が活発で平たく言うと『日本の人帰らないで〜!!』コールが鳴り響き松田が帰りを遅らせている。寧ろ帰ると外務省がパンクしかねないらしい。
大使を蹴り飛ばして追い出した後、政府から解除依頼を受けて解除はいいけど誰を受け入れるかは政府に任せるとしたのだが、その窓口は外務省。話を右から左に回すだけでもいいのだが、中露関連で色々とやらかしていたので政府内での風当たりが強く、今が正念場と真面目で丁寧で融通の効かない仕事をしている。
松田曰く『議員のスクランブル交差点での土下座と、公安からのガサ入れ。加納本部長が前外務大臣を弾劾して更迭したと言う噂のおかげで、不正アレルギー状態ですよ。』との事。実際、前大臣は松田達がソフィアの件で動き、別ポジションへうごかしただけだし今の大臣はコレからの外交トップをやれる人材として据えられている。
そのトップが堅実なやり手として手腕を振るい出すのだろう。なんにしても政府内での粛清騒動はなく今日もまた誤情報を流し、誰が真実を知っているのか?或いは情報の出所はどこなのか?巧妙に隠されつつ日々正面にある問題に手一杯状態を示している。
「儲け話ついでに紹介したい人と言うか、技術があるんですけどどうです?」
「ほう?国際会議で何か面白いものが見つかりましたかな?映像を見る限り英国や台湾、他は友好国とかもありますね。オファー相手は私でいいですか?それとも藤君達に直接持っていきますかな?」
「相手としては佐沼さんですね。紹介したいのはR・U・R関連ですよ。題して思考ダイブトレースシステム。作ったのは台湾で紹介したいのはサイ大臣です。」
「ほう!海外の大臣を引っ掛けるとはやりますな!しかし、まるっと信用して技術者同士を引き合わせるわけにも・・・。」
「問題点は作った物よりもそれを強奪された事ですよ。まぁ、防壁があるので簡単には突破できないでしょうが・・・。」
「ふむ、佐沼さんを呼びましょう。本社は外にあるとしてもラボの支店長役は彼ですからな。」
タバコをプカリ。高槻が内線で佐沼を呼び程なくしてやって来る。前は裸眼だったが何やらヘッドギアを付けているのでキール議長と叫びたくなる。あれもまた新しい技術なのだろうか?或いは出土品改造でもしたのかな?
「お久しぶりです、会議お疲れ様でした。まさかあんな秘密があったなんて・・・。」
「墓場まで持っていく秘密でしたよ。墓参りしながら妻や親しい人と話すくらいの秘密でした。まぁ、巻き戻りを話すとは妻と話し合って互いの納得の末の決断です。それよりも最近R・U・Rサーバーへのサイバー攻撃って検出されてます?」
「本社からの話では不明な大容量データが時折検出されるとは聞いています。しかし、それはお二人が作った防壁で跳ね返されているので今の所問題は出ていません。それが何か?」
「う〜ん・・・、どこからの攻撃とか何を使っての攻撃かは特定出来てないですよね?」
「難しいですね。監視ソフトは常に立ち上げていて、異常を検知すればすぐにモニタリングしたりしています。しかし、相手のマシンスペックは愚か何処からの接続かも完全に痕跡は消されています。R・U・Rに接続するからにはどこかの国のR・U・Rからではあると思うんですが、何分コレも出土品の改造品。新たな機能を見つけたと言われればそれまでです。しかし、それでも対策して安全性を示すのが私達でもあります。」
やっぱり攻撃はされてるか。まぁ、攻撃と言うよりはデータの抽出目的で不正アクセスしていると思うのがいいかな?仮に俺がR・U・Rに潜り込めと言われるとしたら、システムを壊すよりもデータ抽出を優先する。理由としては幾つかあるが、攻撃元が中国だとするとトレースする為のデータが必要で例えば中位のデータが収集出来るならそれを仮想敵として作り出して勝ち方を研究してもいいし、兵士にそれをトレースさせて身体にそんな動きが出来る事を覚えさせてもいい。
何も壊すだけが能ではなく、ある物を上手く使うのもまた戦闘上手になる為のスキルだろう。今回の会議で罵倒する程度にはあちらも煮詰まってる様だし、完全に抽出が成功すれば壊すとも考えられるが流石に現段階で壊すとも思えない。そうなると、対策としては監視ソフトと攻性防壁、後は人による介入となる。
しかし、介入しようにもキーボードカタカタ打っていては人の思考速度には勝てないし、変則的にやる事を変えるなら対応するにも限界がある。やはりサイと言うか台湾のチームを引き込みつつ技術を共同開発して試作品以上の物を作るしかないな。俺も奏江も対処は出来るがいつも監視しているわけでもないし。
「その不明データは人である可能性が高い。多分、システム的に追跡しても巻かれておしまいでしょう。」
「人・・・、ですか?なんでまた・・・。他国の魔術師スィーパーが攻撃を仕掛けていると?」
「国際会議で何か情報を掴まれましたか?」
「ええ。思考ダイブトレースシステム、台湾が開発してR・U・Rに組み込もうとしていたモノですが、完成には至っていません。しかし、話しを聞く限りではネット空間である程度自由に動ける。そして・・・。」
「回線の関係上R・U・Rサーバーに最初にたどり着くと。嫌な事を考えればデータ量を落とせば他のコンピューターにも侵入出来そうですな。どう思います佐沼部長。」
「個人的な見解をするなら可能性はありますね。しかし、データ量を見るとあの大きさの不明データなら侵入すればばれる。本来コンピューターウイルスは最低限のデータ量で且つ、何かに偽装したり潜ませたりして侵入させ、ファイルを解凍したりした時点で発動させます。しかし、仮に大元の大規模不明データがウイルスを直接投げ付けるなんて言う方法を取れば、不明な接続としてバレるでしょう。」
「バレてもしらばっくれそうですけどね。IPアドレスが検出出来ればいいでしょうけど、人にIPアドレスはないですし大元の不正改造R・U・Rも偽装は徹底してその上でスィーパーが好き勝手データを弄る。もしかすれば接続しているのがスィーパーとも限りませんし・・・。IPアドレスか・・・。」
「タイムスタンプを使えばある程度は追えるかもしれませんが、それも引き剥がされる可能性がありますし、そもそもタイムスタンプは接続している相手に対してするもので、スタンプ1つではどの程度接続していたかは分かりません。何個も押すなら時間計測に誤差はあっても使えない事はないですが。」
「いえ、それなら案内人がいい仕事をするかもしれません。」
間違った方に案内する案内人。そして迷路を作る時のイメージは九龍城砦をイメージした。しかし、その前段階で破棄したラビリンスやアリアドネの糸と言うものがある。そう、アリアドネの糸。ミノタウロスを倒しテセウスが辿って脱走したアリアドネが入り口で持っていた糸。モンスター達が迎撃失敗したら・・・、いや、入り口に案内人を配置して強制的に糸を持たせる?
色々と魔法を詰め込んだ案内人は見過ごすに見過ごせない対象だし、それが差し出す糸を取らずに九龍城砦に挑むのもまた難しい。そして、その糸は案内人が持っているので常に8割の間違いを叩き出し続ける。問題点としては本当に案内人から受け取ってもらえるかか。流石に来る人間は警戒しているから簡単には受け取ってもらえない。う〜ん・・・、何か自然に受け取って貰えそうな方法を考えないとな。
今の所は賢者がゲーム感覚で撃退してるからいいけど、それもいつまで面白いと感じるかは分からないし、ゲートに潜れば当然電波も悪くなる。やはり、防壁テコ入れは急務として・・・。
「佐沼さん、そのクラッカー対策に台湾のチームと手を組みませんか?」
「思考ダイブトレースシステムを完成させるんですか?」
「その方向がやはり有効だと思います。今の所魔術師:雷が幅を利かせて対処もしやすい。しかし、それでも限界があり数をそろえてやって来た人間には手が回らない。防壁は堅牢に作っていますが、それを数千数万と言う単位で攻められれば誰かが正解を引くかもしれない。なら、システムとしても相手の上をいくのが得策でしょう?」
「う〜ん・・・、高槻社長はどうお考えで?」
「私としてはR・U・Rシステム系は佐沼さん達に任せてますな。流石に医者であってエンジニアではない。ただ、話を聞く限りでは藤君を連れて行って貰うのがいいかもしれません。彼なら魔術師としても付喪としてもデータをいじったり、人の精神を加工したり出来る。」
「なるほど・・・、一旦本社にその話を持ち帰りましょう。ただ、現場の意見としては共同開発の方向であると伝えます。開発場所はラボで?」
「それなら統合基地にラボ2号を建設中なので、そちらをメインとしますかな?飛行しているここは研究ばかりで秘匿性が高いものが多いですが、2号では開示されたものの発展をコンセプトにやってます。」
「分かりました、本社と早急に連絡を取りましょう。これはクロエさんからのオファーとお伝えしても?」
「ええ。連名で松田副官房長官の名も出して下さい。日本の人サイバー攻撃に対しての防壁づくりと言う側面もありますからね。」




