48話 準備完了 挿絵有り
ランニングを取り止めて、糸の作成とゲートでの訓練を繰り返して早3日。出来なかったメンバーにもアドバイスを行い、糸が出せるようになり、それなりの量が確保できた。高槻製の糸は材料が足りない為、十分ではないがぼちぼち20階層アタックを考えてもいい頃合いだろう。宮藤の話では、全員で行けると言う事らしい。それなら、本当に予定を組もうかな。
最短距離は取るつもりがないので、期間としては10〜15日。10階層潜るより長い期間だが、モンスターの強さを考えるとこれくらいを考えた方がいい。遥の事は妻に連絡を入れたが『遥ばかりずるい、私も一緒に居たいのに!』と、駄々を捏ねられて宥めるのに苦労した。そんな日々を、送ったホテルでの夜。
「何描いてるんだ?」
「インナーのラフ画。色々要望があってね。」
遥がペンを走らせるスケッチブックを見ると、様々なデザインのインナーや衣類が描かれている。しかし、着せる人形が全て俺風と言うのは如何なものか。遥は毎度俺の裸を見て奇麗だと褒めてくれるが、どうも恥ずかしい。家ではパンイチでうろつく事はないにしても、ロンTにトランクス姿でうろつく事はあった。
その際はお褒めの言葉はなかったので、何だか複雑な気分だ。まぁ、40過ぎたおっさんの裸など見たがる人間もいない・・・、妻は割と喜んでた?まぁ、夫婦だし嫌がられるよりはいいか。一緒に風呂にも入っていたし。
「へー、やっぱりファッションデザイナー志望だと、ラフ画も上手いんですね。あっ、私2ページ目左上のやつお願いします。」
「お父さんと同型?いいですけど、これもどんどんフィットしていきますよ?」
「やはり試されますね・・・、でもスカート型は邪魔になるんですよね。魔法職ならあまり気にしなくても、いいかもしれませんがどうしても近接〜中距離だと短パンにタイツ・・・、1枚目の右上とか?その辺りが最適解なんじゃないかと・・・。」
望田が選んでいるデザインのインナーは上下分かれるが、俺のはレスリングのユニフォームの様に、上下繫がったワンピースタイプ。最初に作られた物をそのまま正式採用と言う形で着ていて、もう身体にはフィット済み。背中がパックリ開いているので解放感があって暑くもない。
インナーの作成自体は遥も経験を積んで、そこまで時間がかかる物ではなくなり、本人を目の前にすれば割とすぐ出来るようになった。刻印の検証も上々で大体の魔法糸なら刻印を5個くらいなら刻める。本人に刻んだ場合は更に増えるが、無限とは言えずあまり刻みすぎると血が出だす。多分、それを無視して刻んだ場合は、普通の服と同じコースを辿るのだろう。
また、刻印の強度は刻んだ人の技量による。ルーンの様に単純な模様でも効力は出るが、どちらかといえば絵を描く感覚で、入念に1つを描き込んだ方が、刻印に対してのイメージが固まりやすく、防御力も上がりやすいようだ。1つの刻印が完成するまでの期間は延びるが、命に直結するモノなのでワガママは言えない。
夏目なんかは戦闘スタイルの関係上、モンスターに取り付くことが多いので、首や額に刻印してもらっていた。他にも数名、心臓や人体急所に刻印してもらっている人はいたが、流石に男性の急所付近に書き込むのは辞退してもらった。気持ちは分かるが、それは男の装飾師を探してやってもらってくれ。娘はまだ、うら若き乙女なのだよ・・・。諦めないなら、セクハラで訴えるぞ。割とマジで。
「カオリ、そろそろ20階層へ行き出そうかと思うけど、貴女はどう思う?」
「そうですね・・・、皆さん地力は上がってますよ。ただ、小骨と相対するなら集団戦ですね。何チームかに分けてアタックですか?」
「一応3チーム。赤峰さん兵藤さんペア、卓、宮藤さんにリーダーを任せて、後はバランス良く人員配置かな。15階層までは一緒に行って、16階層から別ルートを辿って20階層ゲートで合流出来れば良いかな。私は全体監視でバイトとウロウロする感じ。幸いスマホで連絡も取れるしね。」
全員本部長候補なので、30人の集団戦ではこれまで活躍出来る出来ないの問題があった。しかし、腕っぷしで選ばれた30人。これからは、引っ張る側の立場になるので、そろそろ個人の強さを持ってもらいたい。本部長になれば、当然スィーパーの管理も、それに関する犯罪絡みの対応も増える。その際に力及ばずがあっては困る。
少なくとも、1対1なら確実に勝てる程度になって貰わないとな。それに、ドッグタグのビーコン化計画が成功すれば、嫌でも政府からタグの捜索要請が入る。大半は残念な事になっているし、自己責任だろうが生存の可能性はゼロではない。依頼があった分くらいは、できる範囲でいいので、受けてもらいたいとも思う。そこはまぁ、個人の裁量になるだろうな。
「お父さん、危なくないの?」
「まぁ、配信は見ただろ?絶対はないけど、安々とやられる程やわじゃないよ。」
「うん・・・。でも、危ないし、急にいなくなっちゃ嫌だよ?」
「大丈夫ですよ遥さん、私が守ります。」
そう言って望田が自身の胸を叩く。なんだかんだで、彼女は部屋を引き払った後に遥が来たので、行く宛もなく最終的に話し合った結果、3人部屋に移る事になり今も一緒にいる。遥も割と望田に懐いたので、楽しい日々が過ごせている。
「望田さん、お父さんをお願いね?私はあまり奥へは行けないから・・・。」
禁じている訳ではないが、遥の仕事はインナー作成。一応、新学期が始まるまでとの制約があるが、作ったインナーの人気次第ではその後も糸を送って支援してもらう予定。生産職の不人気がここに来て足を引っ張っている状態だ。日本中を探せばそれこそ人数はいるが、東京での人員確保は中々難しい。
どの道、高槻糸も奥に行かないと素材が無いので、どこまで作成が進むかは目処が立っていない。まぁ、魔法糸を重ねて服にすれば、強度面以外はどうにか目処が立ちそうではあるのだが・・・。
「お父さんを信用してくれてもいいと思うんだが・・・。」
「それは分かってるけど、あのお父さんがこんなになっちゃったからね・・・。」
「お父さんと言うより、歳の離れた妹ぐらいの年齢ですからね。」
服のラフ画を描いていた娘が、ヒョイと俺を後ろから持ち上げる。昔では無理だった事だが、今なら軽いので簡単に出来てしまう。仕方は無いのだが、父親の威厳さんは何処かへ家出したらしい。探しに行けないので、帰って来る見込みはない。娘がいるので、タイトスカートもやめていたが、即刻スカートに戻されたし・・・。何なら、普段着はチューブトップとホットパンツから、かわいい系の服とスカートにコーディネートされた。
「言いたい事は分かるけど、遥も持ち上げない。匂いを嗅がない。」
「いや、落ち着くし。」
後頭部に顔を埋めて匂いを嗅いでいるが、そんなに臭うだろうか?まぁ、体臭なので自分では分からない。この身体になってからよく言われている気がするが、加齢臭の臭さで避けられるよりはよほどいい。
「甘えて無いでラフ画を完成させる。明日にはインナー作成が終わる予定なんだろ?」
「うん、一応目処は立つ。望田さんは先に着てみる?刻印するのはそんなに時間かからないし。」
「おっ、いいんですか?試される服ですけど、新しい服には興味ありますね。お願いします。」
望田にお願いされた遥はアイスピックを持って、出来た糸を捏ねくり回す。それで服が出来るのだから流石だと思う。望田を見ながら上下左右、縦横無尽、一心不乱に振られるアイスピックの先から、次第に糸が服の形に生成されていく。見様によっては3Dプリンターでの製作工程に似ているのかもしれない。それから程なくして、服が一着出来上がる。
「どうぞ。サイズは若干大きめにしてあります。」
「分かりました、シャワー室で着てきますね。」
『うわぁ〜、更に試される・・・。』そう言葉を残し、望田はシャワー室へ消えていった。デザインを見た限り大丈夫だとは思うんだが・・・。インナーの下に下着もつけるし。
「望田さんはスタイルもいいから、あの服で大丈夫。」
「ん?デザイン変えたの?」
「若干ね。やっぱりキレイな方がいいよ。やる気も出るし、モチベーションも上がる!」
そう娘は拳を握りながら力説するが、誰の、の部分が抜けているような・・・。まぁ、女性は女性の美的感覚があるのだ。俺がとやかく言っても仕方ない。女の子がキレイと言って紹介する女の子と、男がキレイと思う女の子だって違うのだし。
「どうです!私は勝った!」
シャワー室の扉が開きドヤ顔の望田が現れた。確かにデザインの変更がされ、ホルターネックタイプになり、下は膝丈のハーフパンツとなって大人っぽくなっている。俺もホルターネックタイプが良かったが、起伏の乏しい身体なので、金太郎前掛け状態になってしまう。
「カオリ、似合ってるよ。避暑地にいる美人さんスタイルだ。」
「やっぱりそのデザインにして正解でした。これから更にフィットしていくので、スタイルの維持は頑張ってくださいね。」
その言葉を聞いた、望田の顔が絶望に染まる。あれを着て物を食べれば、当然膨れた腹は見られる。まぁ、インナーなのでそんなに見せる事は無いが、普段着にも使える親切デザインなので、うっかりあれ1枚で出歩いたら、確かに試されるだろう。しかし、それはさておき。
「せっかく完成したんだ、お祝いに飲もう。」
「そうね、少し早いけど予定もないし、望田さんもお父さんも飲も。」
「鬼ですか・・・、確か丸一日着てた方が、馴染みが早いんですよね?」
「感覚的にはそう。多分、修復機能でフィットするのはそれくらいかかる。」
着っぱなしでも疲れないし、違和感もないのでそこまで問題にはならない。脱ぐのもスルスル脱げるので、締め付けなんかも大丈夫。ただ、今から飲むとすると、膨れたお腹の分が明日の朝にちょっと余るかも知れない。
「いいですよ。多少・・・、多少控えめにすればいいだけなんですからね!」
ルームサービスで適当に頼んで軽くお祝いをするが、望田よ。割とその量はちょっと控えた量じゃ、無い気がするぞ・・・。望田の服の完成祝いをした次の日、朝の用意を済ませて一服。適当にテレビを見ていたらゲート特集をしていた。
『それでは今回のゲート特集ですが、先ずはゲートが出てからの簡単な時系列…と行く前に石波さんはスィーパーになったとか?』
『ええ、先日補助者をお願いしてゲートに入ったんですよ。いゃあ、あれは中々凄い所ですね。』
『やっぱりそうなんですか。私はまだ入ってないんですが、モンスターとか職でしたっけ?どんな感じなんですか?』
『私はスクリプターと言う職に就いたんですけどね、驚いたのが記憶力!外見的には変化無いんですけど、今日の台本とか一回見ただけで全部頭に入っちゃったんですよ!ネットで調べて知ってたんですけど、やっぱり驚きましたね。』
「はぁ〜、羨ましい。これで俳優業の再開も出来ますね。往年のドラマリメイクとか、本人役でできるじゃないですかぁ〜!名演技期待してますよ?」
『いゃ〜、この能力だと台本追っちゃって、演技どころじゃ無いですよ。でもね、モンスターと戦うのは何でしょうね、本能を刺激された感じで新しい役作りとかにはいいと思いますよ?』
『えっ!怖くないんですか?そう言えば、武器とかは?』
『武器は出すと捕まりそうなので出せませんが、代わりに指輪なら見せられますよ。ほら。』
『おぉ!噂の指輪ですね、AD君達が荷物運び用に取り行くって言ってやまない。実際便利なんですか?』
『使ってみましたけど、ずっとしたくても出来なかった部屋の模様替えが凄い楽に出来ましたよ!重い箪笥とか中身落とさずに好きなように移動できるんですから!』
『と、ここでお時間のようです。石波さんの部屋の間取りは、皆さんのご想像におまかせします。ファーストさん見てたらそのうち出演とかして貰いたいですね。では次のコーナーです・・・。』
懐かしの俳優さんは、ゲートに入って職に就いたらしい。たまには海外セレブも、大所帯でゲートに入ったなんて情報もスマホに流れてくるので、かなりゲートは生活に馴染んできているようだ。少なくとも5階層間でなら、配信を見て人数を揃えれば絶対ではないが帰ってこれる。雇った人間がベテランの補助者なら、怪我はあるかもしれないが、命を落とす事も稀だろう。
そのうち戦隊モノの俳優は格闘家で固めるとか、スタントマンはサバイバーオンリーとかになるのだろうか?CG使わずに生身で全部のアクションができそうな辺り、迫力も変われば怪我しても薬で治ると無茶もしそうだ。
でもまぁ、今度は架空のモンスター考えるのが大変だろうなぁ。エイリアンはいいとして、プレデターだと格闘家なら拳で胸板貫いてしまいそうと、批判が飛んできそうである。
「ツカサ、そろそろ行きますよ〜。」
「分かった、今行く。」
望田の運転で駐屯地に向かい、いつもの部屋で打ち合わせ。今日やる事は既に決まっているので、卓と雄二は先に教室に向かわせて糸作りをさせる。必要な打ち合わせは、衣類以外の所だ。
「宮藤さん、そろそろ20階層アタックにシフトチェンジしましょう。」
「そうですね、それは自分からも提案しようと思ってました。」
「なら・・・。」
昨日考えた事を宮藤に伝え、考えをすり合わせていく。期間は問題無かったが、リーダーは宮藤を外して雄二を付けてほしいと提案があった。宮藤曰く2人でコンビを組めば負けはないが、そうならなかった場合の対応力を付けて貰いたいとの事。宮藤自身は兵藤、赤峰ペアに付きたいとの事なので、これを許可すれば雄二は久々にサポートなしの班活動。何れは来る時が、今回だったと言う事か。
「分かりました、私は空から全体監査をしますが、宮藤さんがサポートに入るなら、そちらはすべて任せます。」
「いいですよ。あの2人もなんだかんだで、中位をずっと意識してたので手厳しく行きましょう。」
手厳しい宮藤というのも中々想像が出来ないが、彼もまた道を歩む人。なら、任せよう。予定期間も大丈夫だし、千代田から最近呼び出しがないので、米国からの派遣要員もまだ来ない。ゲートに籠もれば、後は出るまで雲隠れ出来るので、さらに猶予が出来る。最後に今回20階層まで行けば、数日の休暇を作ると言う事で話はまとまった。
「予定発表はこの後おこなって、そのまま今日は準備時間に当てましょう。服と刻印は大丈夫そうですか?」
「服は大丈夫。刻印は人数によるとしか。今日はここに詰めるから、準備の合間に来てもらえたらいい。」
「ありがとうございます遥さん。」
そうして教室に移動したが、部屋の外まで聞こえるほど談笑しているようだ。扉を開いて中に入ると、教室の真ん中で望田が上着を脱いで昨日できた服を見せびらかしていた。
「女性陣の皆さん。これが完成品・・・、試される服です。昨日から来てましたが、どんどんフィットしていって、今は薄い下着を着けていますが、ボディーラインは・・・、丸分かりです・・・。」
「望田さんは気にしなくていいだろー!綺麗な君が好きだー!」
「そうだそうだ!私の胸はどうなるー!ん?」
「待って、本当待って!昨日食べすぎたの!」
「兵藤さんよぅ、腰巻きとかあっかなぁ・・・。」
「俺は普通に・・・、ワンピースとストッキングで・・・。」
「雄二、僕腹筋割れてないんだが・・・。」
「卓、周り見ろ。ゴリラしかいない中それは貴重だ。後ろは気をつけろよ・・・。」
「・・・、ちょっと頭冷やそうか・・・。」
インナー1つで大騒ぎ・・・。はぁ、仕方ない。
(ちょ!クロエさん!?)
宮藤が横で驚いているが、それは横に置いておき、服を脱いでいく。上下脱いでインナー1枚。下着は着けているが、下着のラインは浮かんでいない。そもそも恥ずかしがるから騒ぐのであって、堂々としていれば、スポーツウェアと変わらない。嫌なら上に何か羽織ればいいのだ。高槻糸の上着が出来るまでは、ゲート内では高確率でインナー姿で彷徨うので、ここで変に恥ずかしがられても困る。贅沢を言うのは、物が揃ってから!
「ちゅーもーく!」
声を上げると、こちらに全員の視線が集まる。人前は苦手だが、ここで俺が恥ずかしがっては意味がない。無表情で淡々と。明日からの事も有るので、準備時間も多めに取りたい。場合によっては露天まで行く人間もいるかも知れないのだし。
「明日から・・・。」
声を上げてしまったので、そのまま俺から説明を行う。リーダーは決まっているので、人員に関してはリーダー同士の話し合いと言う事になった。相変わらず、俺の格好に視線は集まる。熱いものから艶っぽい視線まで様々。
「伝達事項は以上。なにか質問は?無いならこの後インナーを作ってもらう事。時間はそんなに取らないが、1人ずつなので外出は完成した人からになる。」
説明が終わり周囲を見回し、質問がないかと思えば、清水から手が上がった。彼女がしそうな質問とすれば靴関係だろうか?怪我をする事は無いが、素足でゲート内は歩きたく無いもんな。一応、今回は布は薄いのだが、魔法糸を足に巻いてもらう事でしか対処が取れない。斎藤に渡したダンゴ虫が上手く加工出来てれば良かったが、これもまたドッグタグの作成等で忙しい人だ。
「何でしょう?」
「ファーストさん、恥ずかしくないですか?」
「下着じゃないから恥ずかしくないもん!」
そんなこんなで解散して準備に入る。必要な物は一応の生理用品と食料に衣類。テントなんかは前回の物が有るので要らないし火は出せる。タバコはかなりの量がいるな・・・。キセルで済ませてもいいが、やはり紙とキセルでは吸い心地が違う。そもそも、俺は補助要員なので、危ない時以外は監視に務める構えである。
「買い物行きましょう。」
「いいよ、私もタバコと食料品ほしいし。その前に遥を覗いてくる。」
望田にそう言って遥のいる部屋に向かう。すれ違う人は新しいインナーを、中に着込んでいるようだ。長袖タイプのインナーをチョイスした人は、上に着た半袖からインナーが覗いている。明日にはみんなフィットした形になるだろう。
「遥くん、後生だからフィットしないものを!」
「夏目さん、それだとマントとかでどうですか?布単体なら多分フィットしないかな?それで成立している筈ですから。」
「分かった、それで頼む。」
何やら夏目と遥がお互いに意見を出し合っている。当初から夏目はピッチリスーツが嫌だと言っていたので、マントなら大丈夫だろう。衣類ですらなくなったが、纏っていれば身体は見えないし本人が納得出来るならいいか。
「遥、買い物行くけど何がいる?」
「まだ人数いるから、軽食とお茶〜。」
「了解、早めに買ってくる。」
遥に言葉を残し、望田と合流して駐屯地の売店でお茶とサンドイッチなどの軽食を買い差し入れしてから車で外へ。お互い欲しい物は一緒なので、そのままゲート付近まで車を走らせる。
「やっぱり食料品は大事ですよね〜。カロリーバーとか、ガムもいりますね。」
「食べる暇がないかもしれないからね、後はナッツ類とかカロリー取れそうなもの?」
「自衛組は新型レーション試してくれって、頼まれたらしいですよ?」
「缶飯が進化してるなぁ・・・、あれのたくあんが分厚くて旨かった。」
「おっ、回復薬。心なしか色が濃い気がする。・・・、買いですね。」
タバコ何かもまとめて買って支払いは金貨。この前まではカードやPayやと支払いは色々な形が有ったが、今ではかなり金貨での支払いを受けてくれる所が増えた。まぁ、問題とすればレートで換算するので安定性がない事。まさか金のレートがこんなに早く下がるとか、投資家もびっくりである。ゴスロリ服も買い込んだので、それなりに時間が経った。
「さて、お茶でもします?」
「そうね、少し休もうか。」
適当なカフェでアイスコーヒーで一服。相変わらず、街は色々な格好の人がいるが、それも見慣れて馴染んだのか奇抜でも振り返る人はいない。ただ、喫煙者が増えたように思う。うぅむ、俺の影響でなければいいが・・・。吸うなら自己責任、いいね。20歳過ぎてからだよ!
「明日からゲート籠もりか。」
「嫌ですか?」
「ん?嫌ではないよ楽しいし。ただ、毎回思うのは、みんな無事に帰れたらいいなとね。」
「先に行きますからね・・・。大丈夫、守りますよ。みんなも貴女も、貴女の心も。」
「ありがとう。」
望田が偉く男前な事を言っている。望田が男で俺が何も知らない生娘なら、コロッと行ってそうだ。まぁ、そんな未来はないが。街を見ていたら遠くの方に井口、小田、加納が見えた。明日から籠もるのだから、彼女達も買い出しだろう。準備は入念にしないとな。
「そろそろ行こうか、遙も終わってる頃だし。」
「そうですね、お会計お願いしまーす。」
お会計を済ませて遥を迎えた後も、入念に準備をした次の日。駐屯地に集まったメンバーは皆準備を終え、インナーも着込み準備万端。娘も見送りすると、駐屯地まで来てくれた。
「無事に帰ってきてね?」
「大丈夫、必ず帰ってくるよ。長丁場になる。東京観光でもして楽しむといい。」
「うん・・・、でも、本当に気をつけてね。」
娘が抱きついて来たので抱き返すが、残念な事に身長が逆転したので、中々頭を撫でてやれない。昔はよく撫でてたんだけどなぁ。大人になると、お互い気恥ずかしさから撫でる機会も無くなる。こんな場でしか、出来ないのはなんか寂しいな。
「帰ったら休暇があるし、ツーリングへ行こうか。」
「うん!」
(赤峰さん・・・、女でもクロエさんはモテるのに、俺の所にはどうして誰も来ないんだろうな・・・。)
(そりゃあ・・・、美しさが足りないから、かねぇ?)
(くそ!俺も必ず彼女作ってやるー!)
赤峰が兵藤の肩を叩いているが、何かあったのだろうか?まぁ、男同士の問題だろう。今の姿で介入するのは憚られる。娘を残し、ジープで秋葉原ゲートへ。ヘリの借受も3台出来たので、それぞれの班には受け渡し済み。今回はやけに素直にヘリを貸してくれたし、何なら前とは打って変わってもの凄く感謝された。下手に突っ込むと怖いので、無難な返答と愛想笑いで返しておいた。
「クロエ、今回もカメラお願いしますね。」
「今回は各班に優先的に配ってくださいよ、私は補助です。」
「分かっていますが、目は多い方がいいでしょう。スマホの方もお願いしますね?」
「壊れない限りは。と、注釈しておきます。帰ったら休暇なので呼ばないでくださいよ?」
「分かっています。米国からの返答はまだありませんが、貴女がゲート入りする事は伝えているので、文句はないでしょう。」
「分かりました。」
ゲート前で千代田と最後の調整をする。カメラ配布も終わった、スマホの充電バッテリーも山程渡された。その他、車両であったり食料品であったりも準備出来てるし、個人で携行出来るので余り心配はない。
「さてみんな、お手々を繋いで楽しくピクニックへ行きましょうか?」
ああ、久々なので魔女が喜んでいる。