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街中ダンジョン  作者: フィノ
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47話 糸紡ぎ

忙しくて遅れました

「試される服?普通の衣類に見えるが?」


 少なくとも露出は少ない。可愛らしさとか華やかはないが、そもそもゲートで着飾っても仕方ない。時が進んで観光地にでもなれば、話は変わるかもしれないが、今の所その予定はない。皇居ランナーとかも着てそうな服だと思う。


「そのですね、ピッタリフィットじゃないですか・・・。」


「まぁ、インナーだし。アンダーアーマー着たようなものだろ?」


「そうなんですけどね、やっぱ女性としてはその・・・、お腹周りとか、お尻とか気になる訳ですよ・・・。ツカサは無駄なくキレイだからいいですよ?でもですね、ゲートから出て現実に戻ると、死にたくなるんですよ!」


 そこまでの事なのだろうか?生きて生還良かったね!で済みそうなものだが・・・。元を正せば、戦闘で服が破損しての羞恥心や、そもそも防具が欲しいから始まった作成劇。インナーを着てもらえないなら、外装を高槻製の糸の品にして、更に刻印を施せばそれなりに防具として使えるだろう。


「まぁ、無理にとは言わないよ。私は今日1日これを下に着て過ごしてみる。それと、遥悪いけど、今日1日付き合えないか?」


「いいよ、外ではクロエって呼ぶ。話は合わせるね。」


「ありがとう。それじゃあ準備するよ。」


 シャワーを浴びて身支度を済ませ、部屋に来たルームサービスで腹ごしらえ。好きなだけ食べる横で、望田が恨めしそうにしている。最近よく見る光景だが、食べ過ぎると動けないし下手すると戻す。食べなさ過ぎるとカロリーが足りず動けないと言う、食べる量の見極めが難しい状況らしい。


 俺が居ても居なくてもゲートには出向くし、当然モンスターとも戦う。望田達参加者メンバーの1日のスケジュールはランニングから始まって、座学がなければゲートに直行し、以後時間までモンスターハントを行うという流れになっている。当然、話を聞きたければ聞いてくるし、模擬戦したければたまに相手になる。


 目標は20階層で地力上げしてからの35階層だが、今の所15階層から遠出しても、宮藤か卓を連れて17階層辺りが、限界となっている。広すぎるのも考えものだな、追跡者か索敵能力のある人間ならどうにかなるが、無いなら最悪虱潰し。砂漠ではないが、右に進めばすぐ次へのゲートなのに、左に行った為に2日近く彷徨うなんて事もある。


 本来の目的は攻略ではなく、掃除。お宝は二の次で、本来はモンスターを目標として出入りする場所なので、掃除関係はかなりシビアだ・・・。寧ろ、退出ゲートを頼まなかった場合、永遠に彷徨ってしかも仕切りがないので、行き成りバイトクラスのモンスターと遭遇なんて悲劇もある。と、思考がそれた。


「食べ終わったなら、さっさと行きましょう。貴女の食事は目の毒なんですからね!あんなに美味しそうに、エッグベネディクト食べるとか・・・。」


「ま、まぁ落ち着いて望田さん。お父さん食べる量増えた?健康的でいいね!」


「遥ちゃんは莉菜さん寄りだったかぁ・・・。」


 額を手で打ちながら天を仰ぐ。今日は少し抑え目に食べたから大丈夫。肉が多めだが、朝食には差し支えないはずだ。仕上げのデザートまで食べて朝食終了、一服して歯を磨いて部屋を出て望田の車で遥を連れて駐屯地へ。犬は勝手に付いてくるのでほぼ野放しだ。さて、駐屯地に着く前に千代田に連絡を入れておくか。


「もしもし、おはようございます。千代田さん。」


「もしもし、おはようございます、クロエですか?何かありましたか?」


「装飾師と調合師の派遣を願えませんか?防具関係で進展しそうなので。」


「糸が出来、布に成ったらもう防具ですか・・・。精力的で嬉しいですが、派遣できる人員がいません。装飾師はほぼ全員、ドッグタグのビーコン化計画で動いてもらってます。調合師はどうにかしましょう。優先度は人命のかかるタグが上と、理解してください。」


 耳に入ってないプロジェクトだが、確かに刻印なら上手く扱えば可能だろう。ドッグタグの捜索依頼は、散々探し回って1つの成果しか出なかった。千代田の言うように、優先度は人命が上。他国なら適当でいいが、自分の所の話となると、これは無茶が言えないな。自分の娘が装飾師で、しかも一緒に行動しているんだし、遥の予定次第ではあるが時間が許す限りは手伝って貰うか。ただ、遥がいるなら。


「分かりました。こちらには娘が居るので、お願いしてみましょう。かわりと言ってはなんですが、バイクを1台都合してください。物は秋葉原の時の物をお願いします。」


「いいですが、ゲート内で使うんですか?それなら、別の物も用意出来ますが。」


 ゲート移動でバイクは役に立つ。小回りが利いて、モトクロスで使えるくらい丈夫。5階層以降は山岳地帯が広がるので、車よりはソロ向けだが、移動の利便性を取るならバイクに軍配が上がる。


「それも目的の1つですが、久々に娘に会えたんです。ツーリングですよ、ツーリング。バイク自体は買い取りでいいのでお願いします。」


「分かりました。こちらも進展があれば連絡するので、情報交換は密にお願いします。」


「了解です、お互い密に行きましょう。」


 電話を切ると目の前はすぐに駐屯地。警衛に遥の事を、とやかく言われるかと思ったがすんなり入れた。毎日ここに来てるし、車も一緒。なら許されない事だが、部外者を同伴させても許されるのだろう。言いたくはないが、ネームバリューはあるのだし・・・。


 車を駐車場に止め、望田に遥の事は口外しないようにいい、教室前で別れ宮藤達と合流。外からはランニングを始めた講習者達の声が聞こえる。誰だ、キロ1分とか言った奴。それだと車と一緒じゃないか。


「おはようございます。」


「おはよう。」


「おはようございますクロエさん・・・、と?確か遥さんだったかな?宮藤です。よろしくね。」


 部屋には宮藤1人で、雄二と卓はランニングに行ったのだろう姿が見えない。しかし好都合だ。参加者の中には娘の情報を持った者も入るだろうし、なんなら写真で本人を特定出来る奴もいるだろう。しかし、こちらから話すつもりはない。疑っている訳では無いが、用心するに越した事はない。


 宮藤は知っていて当然の人間、同郷で伊月と共に家まで来てるし、何なら遥も見ている。今回いるメンバーで遥の事を知っているのは、望田、赤峰、宮藤の3人ぐらいだろう。逆を言えば、それ以外のメンバーは面識が無いはずだ。雄二と卓なら、元から手駒要因で民間から引っ張ったので、バレても良かったが、いないなら伏せておこう。


「父がお世話になっています。娘の遥です。お父さん、どうする?」


「カオリ、赤峰さん、宮藤さんはいい。」


「分かった。それ以外には、スカウトされた事にする。宮藤さん。呼ぶ時は遥でお願いします。」


「自分を含めた3人以外には、伏せる方向ですか。まぁ、何かあったら優先的に守りますが、クロエさん並みに強いとかあります?」


 宮藤がそう聞きながら娘を見るが、遥の方は苦笑して返す。まだ職を言っていないので、連れてきた時点でバリバリの戦闘職でしかも俺の娘なので、おかしな強さになっていると思ったのだろう。


「宮藤さん私は装飾師です。呼ばれたのは、インナーとか防具を装飾するためです。鍛冶師ではないので、武器関係は出来ませんけど、衣類ならまぁ・・・。」


「そうなんですか、これで女性陣に光が差しますね。何か完成品はありますか?」


 そう聞かれたので、遥と視線を交わし白いブラウスを脱ぐ。ピッチリインナーは昨日から着ているが、特に邪魔になる事もなく、寧ろ着てる事を忘れるくらい身体に馴染む。修復機能が有るので、サイズが合わない部分は破損して修復を繰り返し、個人の体型にどんどんフィットしていくのだろう。逆にダボダボとか作れるのかな?


「宮藤さんこれですよ・・・、って何で固まってるんですか。」


「いや、いきなり脱ぎだされると固まりますよ。しかし、ピッチリしたインナーですね。これだと破けないんですか?夏目さんや清水さん他多数の近接職の女性は、ゲート内だと最終的に全裸になるのでは?と危機感を抱いていましたが。中には退出時の服を惜しんでトップレスとかも・・・。」


 流石にその人には、俺の衣類を渡して胸に巻いてもらった。男性陣も配慮はしてくれるが、下手すると彼等も下がね・・・。速く動ける、力強く殴れると言うのはいい事なのだが、現実でやるとかなり厳しい。地面を殴れば石の破片で服は破け、速く走れば靴は駄目になり、何ならモンスターと戦えば、避けても服に穴が空く。


 当初は皆、自衛隊支給の迷彩服だったが、毎度30人で90着ぐらい駄目にするので、最初から諦めて夏目のように、ラバースーツでウロウロする者も現れだしている。流石に年頃の乙女の女子力さんが逃げ出す所か、永眠されても可哀想なので、やはり衣類や防具関係は早急に必要だろう。


「ええ、それをなくす為に宮藤さん達魔法職には、魔法糸を生成してもらいます。それは、後で教室で話しましょう。帰ってきたようですし。」


「おはようございま・・・。」


「おい雄二止まる・・・。何でクロエさんはそんな格好で?それと、そちらの方は?」


 ランニングしてきた雄二と卓が、汗を拭きながら部屋に帰ってきた。いつもならここで俺が部屋から出て着替える流れだが、遥もいるし、手短に説明してしまおう。


「糸が出来て、着ているのはその糸で出来たインナー。彼女は装飾師の遥。インナーの作成者で今日は刻印関係と、他の人のも出来ればと来てもらった。」


「なるほど、要点は分かりました。雄二いつまで止まってる?」


「・・・、はっ!そう言えば、クロエさんの普段着はチューブトップとかホットパンツって言ってたな!」


 興奮して人の普段着を叫ぶな雄二。下着でウロウロしているなら驚かれるだろうが、普通の服だ。夏場で暑いのだから、薄着でいいだろう。嬉しそうにしているのは、見なかった事にしておこう。


「雄二・・・、論点がずれてるぞ。まぁ、僕も初めて見た時は驚いたよ。それと、僕は神崎 卓。隣のが木崎 雄二。よろしくね。」


「装飾師の遥。スカウトよ、よろしくね2人とも。」


 卓と遥が互いに挨拶を交わし、それに雄二も続く。さて、顔合わせも済んだし、そろそろ教室に行こうかな。上はサンプルとして見せるし、ブラウスを羽織るだけでいいだろう。遥は雄二と握手する時若干嫌そうな顔をしていたが、父親が青年から、そんな目で見られたら誰でも嫌だろうなぁ。まぁ、雄二も卓も昔の姿を知らないので仕方ない。


 部屋を出て教室に入る。ゲートに行く為それぞれ思い思いの格好をしているが、破ける前提なので古い服などの人もいる。移動はトラックの荷台だし、入るのは秋葉原ゲートから入るので、だんだん見た目を気にしなくなってきた。兵藤はアンダーアーマー一枚だし、夏目は諦めたのかボディースーツ。井口は喧嘩番長の様にサラシを巻いて上を羽織っている。


 そんな参加者の集まる瞳は俺と遥。何時も着崩さずキッチリとボタンを締めている俺が、前を開いているのが珍しいのと、今いる参加者以外に、追加の人員が来るなんて情報を誰も掴んでいないからだろう。一部は訝しそうに、一部は値踏みするように、残りの一部は俺の開けた服に熱い視線を・・・、送るなよ。でもまぁ、女性陣に朗報なのは確かだ。


「皆さんおはようございます、今日はクロエさんの方から話があります。」


 宮藤から話を振られたし、講習者に朗報を伝えるとしよう。遥の時間的制約があるので、作るなら早い方がいい。いつまでいられるのか、どれだけ加工出来るのかも、わからないのだし。


「喜べ女子〜!破れない服が出来たぞ!そして男子ぃ〜!今日から少しだけ女性が増える。彼女はスカウトした遥。衣類関係と刻印を使う装飾師だ。」


「装飾師の遥。元はファッションデザイナー志望。時間がある限りは尽力するわ。」


 そして、羽織っていたブラウスをぬぐ。視線が集まるが、破れない服に皆興味津々なようだ。一部男性陣の顔が、歓喜と絶望に染まったのは見なかったものとする。ゲートで何を求めてるんだ。まぁ、生存本能は相当に刺激される場所だが・・・。


「今着ているのが、破れない服・・・、インナーになる。修復機能が有るので、破損してもある程度はもとに戻るが、検証はこれから。魔法職はこれから、糸を出す訓練も追加するので覚悟するように。糸の量と質で作るインナーの量が決まる。」


「はい、糸を出すのは分かりました。服のデザインはそれのみですか?」


「それは遥による。ある程度は弄れると思うが本人に要相談。修復機能がある為、段々身体にフィットする形になると思う。因みに、昨日から着ているが、着心地は快適だぞ?個人的には、スカートを脱いだ状態で、ウロウロしても恥ずかしくない。」


 質問した女性の顔には絶望の色が浮かぶとともに、ヒソヒソと試される服と言う単語が聞こえる。参加者は全員太ってないし、何なら連日の訓練で、痩せたり筋肉が付いた人間が多い。小田なんかも治癒師だが、薄っすらと腹筋が出て来たと言っていた。そんなにボディーラインが出るのが嫌だとは思えないが・・・。


「遥くん!優先的に!優先的に肉壁持ちに服を!」


「夏目落ち着け!先ずは近接職・・・、格闘家優先だろうが!男はいいけど、女性の格闘家は毎回半裸か、全裸覚悟なんだよ!赤峰さんとかパンイチなんて事もあるんだぞ!」


「痩せなきゃ・・・、皆に見られる・・・、もう少しお腹周りを・・・。」


「魔法職は後回しかぁ・・・、仕方ないけど、糸どうやるんだろ・・・。」


「ファーストさんが羨ましい・・・、あの無駄のなさと、堂々と着こなす感じ・・・。真似できない。」


「兵藤さんよぅ、アンダーアーマー卒業だな。糸頑張ってくれや。」


「赤峰さんも道着卒業だろ?しかし、ピチぃ。下半身のアレが浮き彫りだな・・。」


 やいのやいのと、教室の中でそれぞれに声が上がる。やはり服問題は色々と大きかったようで、否定的な意見は出ない。ただ、腹周りを触って絶望する女性や、股間を押さえる男性なんかはいるが・・・。しかし、まぁ。


「これはあくまでインナー。外に着るのは、調合師の作る方の糸で作る予定。強度としてはそちらの方が上なので、このインナー姿でウロウロする事はあまりないでしょう。」


 そう言うと不安は歓喜へ変わり、教室の空気はいいものになった。若干たじろいでいる遥くんだが、こればかりは慣れてもらうしかない。


「これからの予定は魔法職は糸の作成、近接職は遥に採寸と服のイメージを伝える事。後は・・・、刻印を試してみたい人も遥に相談する事。宮藤さんからは何がありますか?」


「いえ、特にはないですよ。自分も糸を出す側なので、勉強ですね。」


「了解です、遥。採寸はさっきの部屋で頼む。」


「分かった、何かあったら言いに来る。じゃあ、最初は女性から。」


 遥が退出し残りの魔法職で糸を紡ぐ。昨日は口からだったが、イメージは出来たので、キセルの先からも出せるはず。要は煙が出ていればいいのだ。下手に考えるより、上がる煙を受け入れ、切るのもチョキで切ればハサミで切ったイメージにもなる。


「さて、残った魔法職の諸君と、それ以外の人で2人一組になって。」


 2人一組を作る。さて、糸を出して見せてみよう。出来れば、早く皆で量産できれば当面の衣類の心配はなくなるのだが、得手不得手は仕方ない。俺のペアは昨日も糸巻きしてくれた望田、これならある程度息は合う。


「では、糸を出すので見ていてください。要点は具現化と法を破る点。糸のイメージは各人で持ってください。こればかりは、人によります。」


 椅子に座ってキセルをくわえ、火皿から細い煙が立ち昇る。ユルユルと登る煙を束ねて、細く長く強く靭やかに。出来たイメージは固まっている。それを具現化し法を破る。


「おぉ〜、確かに物体として成立している。」


「服問題は解決しそうですが、今度から魔法職は糸紡ぎを催促されそうですね・・・。」


 ある程度の長さを出したら、指のハサミでチョキンと切る。よし、切り離しのイメージも成立して、糸が無くなる事もない。属性がある以上、それぞれの特色のある糸が出来そうだが、それは先の話、とりあえずは紡ぐ所から始めてもらおう。



「では、やってみてください。糸のイメージはそれぞれ。具現化と法を破るイメージさえ出来れば、物体として成立出来るはずです。」


 そうして各人が様々なイメージで糸を紡ごうとする。やはり多いのは虫系、蜘蛛がトップで次点は蚕。その他は繊維からイメージしてナイロン糸とか、自分をリールにして糸を出すイメージ。ロマンチカは運命の赤い糸が相手の男女に繋がってるイメージなど様々。まぁ、その前に中々具現化しないと言う点があるのだが・・・。


「クロエさん。これ、かなり難しくないですか?現象の固定ですよね、極端な話。」


「そうですよ兵藤さん。ただ、兵藤さんはボードに身体固定出来るんですから、他の方よりイメージしやすいでしょう。」


「あれは固定で張り付けてるイメージですよ・・・。」


「そんなら、それを引き伸ばしたら、お得意のウォーターカッターですなぁ。」


 そう言われると、兵藤ポンと手を叩いて水を赤峰の差し出された手の上に垂らし出した。多分、赤峰の手はボードの代わりなのだろう。出された水はそもそも具現化している。それを操作して、細くして、後は法さえ破れれば物体として固定化してくれるだろう。糸紡ぎ一番乗りは兵藤かな?


「あちぃ!卓クソあちぃ!燃える!燃える!!」


「すまん!かなり難しいんだこれ。炎が糸になって、更に言えば固定化されるんだぞ、物理現象を超越してる。」


 逆に手を焼いているのは卓、雄二ペア。確かに炎は消えるよなぁ・・・。だが、彼はヒーローを目指している。なら、彼の糸は炎を目指すものでもない。後ろから両肩にポンと手を置く。一瞬ビクリとしたが、そのまま声をかける。


「ヒーロー、絆、紡がれる、希望。繋がり、仲間。」


「・・・、分かりました。」


 卓は大丈夫だろう。他手の掛かりそうなのは・・・。


「出来ました、多分これで大丈夫な筈ですよ。」


 そう声が上がったのは宮藤から。彼の周りには小さく妖精のような炎の兵士が飛び交い、宮藤の無い腕から糸を紡いでいく。イメージ的には繋がり続ける絆を、伝承している感じだろう。


「後は切るだけですけど、成立できそうですか?」


「多分イメージ通りならできると思いますけど、初めてなの・・・、あぁ、今回は駄目でしたね。挑戦を再開しましょう。」


「切り離すよりは、離れた存在の方が、宮藤さんには合うかもしれませんね。」


「なるほど、そちらでも試してみます。みんな、紡ごうか。」


 宮藤はそう言って糸を紡ぎ出した。逆に待ちぼうけなのは、ペアの小田。彼女の職説明は近接寄りだが、彼女には彼女の出来る事をしてもらおう。


「小田さん、はいこれ。」


「えっと、ファーストさんこれは?」


「私の糸です。増殖させてください。」


「・・・、出来ますかね?」


「それは修復機能があります。なら、修復機能を増殖すると?」


「増えますね!分かりました、やってみます。」


 他のメンバーも、思い思いの方法で糸を出そうと努力しつつ、採寸の終わったメンバーが次のメンバーを呼び、午前中いっぱいで採寸は終了。昼飯を食べて、一度着ているインナーを遥に渡してみんなの前で刻印してもらう。


「これから刻印します。普通の服は刻印1つくらいが限界なのですが、先程までクロエが着けてたインナーは魔法糸製なので、何個かは刻めると思います。人体にも刻めますが、一度見てから考えてください。消すのは消せますから。」


 そう言ってみんなで服を見るのだが、脱ぎたてなので何だか恥ずかしい。別に汗もかかないので汚れてはないし、体臭も臭くないはず。ただ、脱いだら洗濯のイメージがあるので、気恥ずかしさは仕方ないか。こんなに人に見られる事もないし。


「では、防御の刻印を刻みます。個数は先ずは3個。破けそうならすぐ止めます。」


 そう言って、遥は刻印しだした。3つの刻印は全て防御の印を刻み、服は破けていない。このまま限界を試すのかと思ったが、遥は一度アイスピックを横に置いた。これ以上は無理なのだろうか?


「刻印は出来ました。これ以上も出来そうですが、先ずはテストしましょう。攻撃とかしてみてください、刻印の破損状況を見ます。」


 そして始まった性能テスト。先ずは赤峰による軽い引っ張りは大丈夫だったが刻印が2個無くなった。まぁ、赤峰の引っ張りなので相当な力だろう。モンスターさえ普通に引き千切るのだから、それで破けないのなら多分戦闘で簡単には破けない。ただ、刻印が消えたのが気になるが、そこは遥に聞けば分かる。


 次に兵藤によるウォーターカッターで更に刻印は1つ無くなり、服は多少傷が付いたが、修復機能ですぐに元通りになった。残念なのは、刻印は修復されないようだ。後付け機能で刻んだ物なので修復しないのだろう。


 その後刻印を彫り直し卓や加納に攻撃してもらったが、刻印は無くなるが服は損傷せず、傷ついても修復機能で回復してくれる。刻印にある程度強度的なものが有るようだが、それは要検証だろう。そして今、ゲートの中で最後の検証をしている。


「うぉ!かすった!」


「雄二!もうちょい!服で受けて!」


「出来るけど!確かにソレ出来るけど!」


 遥の依頼でモンスターのビームに対する耐性が見たいと、5階層に来て砲撃型を一体残し、その前に雄二が躍り出て服でビームを受けようとしているが、そもそもモンスターが思い通り動くわけもなく、狙いは正確で雄二を攻撃する。雄二は雄二でそもそもモンスターを一撃で倒してきたので、イマイチ服を盾にして受けると言う事ができない。そこで発生したのがモンスターと雄二の逆ハンティング。


「ふぁいと〜!」


「クロエさん気が抜ける!っと、そこぉぉぉ!」


 ビームは服に直撃したが、多少破ける程度で全損はしない様に見えた。今回は刻印無しでしているので、強度はインナーとしてなら十分だろう。ただ、衝撃とかは発生するので、雄二が吹っ飛んだ。手早くモンスターを倒し雄二を助けに行く。流石に死んでないとは思うが、大丈夫だろうか?


「雄二無事か!?」


「あぁ・・・、いい匂いがする・・・。」


「人の服に顔を埋めて!匂いの話をするな!」


 とりあえず、蹴っ飛ばしておいた。

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