502話 窮屈だな 挿絵あり
空港から車でホテルへ。報道陣と言うかパパラッチと言うか、大名行列の様に人や車がついて回る。窮屈の一言で済めばいいが、ホテルにも他国の要人が泊まっているので何かしらの接触があるものと思われる。実際俺達は先に出たが英国からも参加者はあるし米国からも来る。今回の会議と言うか・・・、首脳会談？
普通と言う言葉が正解かは別として、内容的にも色々と重要な話しが多数あるので専門家の話す会議と政治家の話す会議の二部構成となり、それに出席する政治家はトップないしその国での最高権力者付近となっている。なのでジョージも来るしうちは松田が出席となっている。なんで松田かって？
政治的な話だが日本の内閣総理大臣って代わりやすいのよね・・・。ゲート出現以降、政府としての役割がかなり重要になり汚職も裏金も不正も警察や検察、公安がバンバン暴いてしまっているので深刻な政治家不足と言うか人材不足が否めない。
なので現状、長く政治家を務め実績のある人間として松田が選ばれた。不思議なものだが松田のバックはクリーンらしい。起業家や法人と政治家の繋がりなんてズブズブもいいところだろうと思っていたが、何も出ないならなにもなかったんだろう。まぁ、今の大臣や総理大臣って国民からバンバン叩かれるし、遅かったら文句言われるしで寝る暇もなければ派閥でワチャワチャやってる暇もない。
本当にやる気のある人間で頭の回転が速く、意見をまとめるだけの能力とコネクションがある人が重宝と言うか上に行くガチの実力主義的な？舵取り間違うとスィーパーが決起する可能性もあるし、ギルドとしては法律に触れない限り演説しようが何かを呼び掛けようが知らんぷりである。国家転覆罪と言う罪もあるが、破壊活動しないで国に文句言うのには適応されないし、意見を嘆願しただけでは成立しない。
政治に興味なかった若い人も今は敏感にニュースを見たり読んだりするし、やらかした時に追求が甘いとスィーパーなら勝手に調べだす。要は揉み消そうとするならよほど上手くやるか、最初からヤバい橋は渡らないに限る。その代わりと言ってはなんだが、個人の給料で飲むのも自由なら風俗行くのも自由。その辺りの寛容さがないと、政治家としてもつらいし一般人がやる程度の娯楽なら割とみんな許してくれる。その代わり、罪を犯して示談に持ち込んだとしても取られる額はかなり多く、それが抑止力的な役割かな？
それにゲートの中でハメを外しても怒られないと言うか、肩書捨てて自由に出来る場所があると言うのは心の拠り所なのか、風の噂では統合基地の近くで口汚く罵りあって取っ組み合いの喧嘩をする著名人も・・・。その他には獣人ハーレムではめ外すとか？中世ヨーロッパには地獄の火クラブなんて言う乱痴気騒ぎする貴族の秘密クラブがあったが、それがゲート内に復活した様だ・・・。
なんにせよゲートから出た人はストレスがなくなったのかスッキリした顔をしているらしい。それでも足りないならR・U・R使ってガチガチの果たし合いかな？決闘は決闘罪と言う罪もあるし仇討ちも犯罪なのだが、なんかそれが改正されそうな雰囲気もあるんだよなぁ〜・・・。
死刑判決を受けて執行された時に紐が切れれば無罪と言うか、執行された事になり罪はなくなる。しかし、相手がスィーパーだと一筋縄ではいかない。ゲート奉仕刑以上の刑が死刑として残っているが、それを逆手に取るなんて言う狼藉者もいないわけではない。中々難しい問題なのだが、世界的に死刑はやめようと言う流れが強く、しかし残された遺族としては納得がいかない。なのでR・U・Rで仇討ちした後にゲートに放り込む方が心情的にもいいのでは？という話が・・・。
まぁ、それだけやらかした犯罪者なので奉仕刑も生半可なものではなく、刑の項目に中層行きなんてものもあったな・・・。行って帰ってくれば終わるのだろうが、それだけ強いスィーパーをまた外で一般人としていいものかは悩みどころ。まぁ、重い罰をかせられて帰ってきた犯罪者は今の所皆無なのだが・・・。
「久しぶりだなクロエ！相変わらずの美貌で安心したよ、今回はドレスではなくジャポネ衣装なのだな。」
「寿司、天ぷら、富士山芸者は日本のモノ。私はドレスよりも和装の方が好きですよ。まぁ、今回は政府からのオファーですけどね。お久しぶりですジョージ大統領。」
ホテルの警備は厳重で中に入れば報道陣も入ってこない。青山とフェリエットは顔を隠して写真を撮られない様にしているが、どこまで効果があるかな？俺の横にいる松田はどこか手持ち無沙汰と言うか、メインは私ですよ？と言う雰囲気が漂っているが、事実なのでなんとも。とりあえず差し出された手に握手を返すが、外から見えないとは言えここってホテルのロビーと言うかそんな所なんだよな・・・。
泊まるホテルはベルゲス。場所的にはローヌ川の下流でルソー島が見える高級ホテルなのだが、1人だけ着物なので浮いている。全体的に明るく白を基調としているので黒だと目立つな・・・。まぁ、ここでピンクの振袖と言われても袖が邪魔なので拒否していただろう。
「ミスター松田は・・・、はじめましてかな？日本の政治家はすぐに変わってしまって覚えるのがね・・・。」
「直接は初めてですよ大統領。私はどちらかと言えば国内の裏方でしたから、こうして海外の会議に出席する機会も少なかったですからね。お忍びでの日本は楽しんでいただけましたか？ホストがクロエなのでそれだけが心配でしたけど。」
「大丈夫だとも！美しい女性にエスコートされればコンクリートジャングルだって花畑だ。さて、立ち話もなんだ後でサロンで話すとしよう。」
本当に出迎えに来ただけなのか？いや、会う約束を取り付けに来たという方が正しいのかな？別に会うのは吝かではないが、俺が当日まで引きこもらないとも限らないし、姿を消してのらりくらりと居場所を掴ませない可能性も考えた？性格からして重要な方ほど本人で動きたいタイプの様だし何とも言えないな。若くなる前もグイグイ来るタイプだったが、若くなってからはそれがより顕著で最近は遅ればせながらモーニングルーティン動画とかをSNSにアップしていた。
しかし、朝からステーキ食う動画は人気が出るのだろうか？若くて健康な大統領と言うパフォーマンスにはよくても、なんか違うような・・・。まぁ、俺も朝から食う時は重めの物をガッツリと食べたりするしいいのかな？なんにせよ俺はどこの誰とも知らない人に食事風景や朝の身支度を見せるなんて事はしないので、慣れている人がしたい様にすればいい。アップするのも自由なら見る見ないも自由だしね。
部屋に特に置く荷物はないが内見へ。どうやら本当にいい部屋でテラスからは川が見えその川の中央には島が見える。季節的に窓を開け放てば寒いだろうが、夏の避暑地にすればさぞ人気だろう。
「邪魔だなぁ〜！」
「言いたい事は分かるが明日の検査の時もそれで頼む。」
部屋に入るなり仮面を投げ捨てたフェリエットはさっさとベッドを陣取って寝る体勢へ。フライト中にパイを食っていたから腹は膨れているのだろう。まぁ、俺はこれからジョージと会うし1人で出歩かれても困る。幸いフェリエットは寝入るつもりらしいしホテルにもSPは多数。なら、このまま部屋に残して俺と松田だけで行こうかな？
「迎えに来ましたクロエさん。」
「ちょうどいい所に、お前ってこれから何か予定ある？」
ノックがしたので出てみると青山がいた。迎と言う事は俺達と共に話し合いに来るつもりだろうが、ジョージとしても流石に青山は受け入れられないだろう。話の内容的にも明日の会議の打ち合わせになるだろうし、何か話が漏れれば疑われるのは青山である。あちらのSPは姿を見せなかったが、エマが来ていないのかそもそもSPは連れてきていないとか？
ジョージは要人だが直接スイスに来たならエアフォースワンを使っているだろうし、空港からここまでのSPも見た感じ国連側で用意しているし。なら、全く連れてきていないと言う話ではないにしても近くのホテルに泊まっているか、或いは他のフロアにいるとか？何にせよ米国でも中位はエマだけではないので他の人を人選したとも考えられる。例えばドゥとか？
あれだけ顔を見られたくないと言うからには、何かしらの潜入工作や情報収集をメインとして動き回っている可能性もあるし、何より鑑定術師とバレさえしなければ情報は集め放題。存在を公表した様にも思わないし多分、そう言う運用かプレッシャーをかける為の手段なのかもしれない。
「いえ？差し当たってホテルの構造確認と人の顔や癖を覚えるくらいです。肉壁対策には癖を覚える事や小さなホクロや傷を見るのが一番ですからね！雑な変装なら見破ってみせますよ！」
部屋の扉の左右にはSPが立っているのだが、たぶん日本語分かってるよね？青山の言葉で反応は示さなかったがサングラスをかけ直しているし。と、言うか疑うつもりはないがそこで反応したら逆に疑わしくなるだろ！SP〜、動かず廊下に立っとれ〜。バケツは要らないが少なくとも今の会話で身動ぎするなよ。
「それは一旦置いておけ。私は松田さんと共にジョージと話し合いに行ってくる。フェリエットは寝てるしルームサービスの使い方も分かると思うが部屋で待機しておいて欲しい。最悪、何かを勘ぐって侵入者があるなら容赦なくSPと共闘して捕縛していい。」
タバコを取り出しプカリ。未開封の箱も含めコチラに来る時に指輪の中身は望田に預けてしまって、中身と言えばキセルに化粧箱に上3つの薬に脱出アイテムや服くらい。多少の食べ物や飲み物、タバコはあるものの久々に指輪の中は空に等しい。一応、キセルも武器なのだが事前申告と言うか、未だにフェリエット達獣人が指輪の中身が見えると言う事を公表していないので、現段階ではこの事前申告のみが頼みの綱となる。
流石に明日会議に出席する時に指輪の中に見られたらヤバいものや、個人のおたのしみグッズを入れる奴はいないだろう。それに、国連側からの通達として基本的には会議場に武器の持ち込みは禁止され、事前チェックを行うと通達されている。
チェック方法は国連側にも開示していないが日本、英国、米国の3カ国で声明を出し、必ず明確に分かりやすいやり方で行うと言及しているので舐めた事はしないと思う。まぁ・・・、うん。避妊具とか出て来たら笑えばいいと思うよ？と、言うか魔術師って会議出席のハードルがべらぼうに高いよな？武器なくても魔法使えるし、何かあれば真っ先に疑われる。う〜ん・・・、やっぱり次からはリモートだな。
「なにか襲撃的なモノがあると？」
「いや？襲撃よりもゴミ漁りの方が嫌かな？まだ何一つ使っていないが、それでもゴミを探す者はあるかもしれない。私の髪1つ持ち出させるな。」
「それなら掃除をしながらフェリエットさんの面倒をみておきましょう！」
巻き戻るので髪にしろ唾にしろDNAが採取出来る様な物は何一つ落ちない。だが、ここは国連本部のお膝元。前のパンツの件もあったしクローン計画が続いているとも考えられる。なら、用心するに越した事はない。ある意味抜き取りって便利なんだよなぁ〜。証拠にしろ知られたくないものにしろ生体反応にしろ、やろうと思えば全て抜き取ってくれる。人間掃除機とは言わないが、人間収集機くらいにはなるんじゃない？
部屋とフェリエットを青山に任せ、松田とは合流してサロンへ。黒服が多数見守るのがうっとおしい。そりゃあ仕事だから仕方ないとは言えこんな人数いる？はい、相手は米国大統領で松田は日本政府の使者で俺は無自覚な要人でしたね・・・。
やはり権力者なんてなるもんじゃない。四六時中誰かに見られながらの生活とか窮屈極まりない。本当ならとはいいたくないが、襲撃されたら1人でいる方が身軽で逃げやすいよな？負傷者が出ればそれに構うし、見捨てて行けと言うのも中々ハードルが高い。
「やぁ！早速事前打ち合わせと情報交換と行こう！」
