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街中ダンジョン  作者: フィノ


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491話 ライター

(メアリーはどこに?)


(最後尾、入り口の近くに座ってます。)


 サイラスが聞いてくるので場所を教え煙で矢印を出す。音もなく現れる矢印に気付く生徒もおらず、さされている本人も気付いていない。ただ、椅子に座っているので生徒の影となって顔までは分からないかな?そもそも距離もあるし。


 ただサイラスも何かの方法でメアリーを確認したのか、どうしたものかと考える素振りを一瞬見せたものの不自然にならない程度に俺に話しを振ってくる。このまま生徒と言うか視察は続行させるのだろうか?


 そう言えば女王陛下って絶対に逮捕されない無敵特権を持ってるんだった・・・。まぁ、永きにわたり立憲制の君主として格式や規範、法律に沿って行動を律して来たから問題も起こらなかったのだろう。まぁ、過去にお忍び外出したエピソードが映画にもなっていたりするのだが・・・。


 と、言うか女王陛下が外出するとして止められる人って誰だろう?護衛は必要として若返ってその姿をお披露目していないならそっくりさんとして押し通せるし、逆に大勢で取り囲んでいる方が人目につく。それに、ここは魔法省内なので最新の公的機関内と言われれば・・・。これ以上に考えるのはよそう。やはりメアリーはメアリーとして決着を付けるのが心穏やかにいられる最善策だ。


「モルガンではなくてよかったのですか?」


「最初の質問から察するに既にここの生徒達は私が来ている事を知っている。その中でモルガンを名乗るのは無意味ですよ。プライベートで出歩いている時に見かけたらモルガンでお願いします。」


「分かりました、他の生徒にもそう言いつけておきましょう。さてと、せっかく来られたのですから質疑応答や魔法を見せたりしますか?」


「う〜ん・・・、自慢じゃないですけど余り派手な魔法って作ってないんですよね。基本的に目立つのは苦手ですし。かと言って質疑応答もまた、私が言ったからそれが正解とされても困るんですよね。変な固定概念が生まれても事ですし。」


「なら杖を作るのはどうですか?作った姿は誰も見てませんし。」


「それは応用になると思いますが・・・、多少順を追って説明するとしましょう。」


 方向としては杖作りか。他にそこそこ目を引きつつ魔法っぽいものと言えばフレッシュゴーレム作ったり勝手に料理させたりとか?後ろから見た感じ火や雷を出せない生徒はいなかった。つまり、本人達の中でこう言う原理で私は魔法を使っていると言うイメージはあるのだろう。


 魔法は面白いのだがイメージの齟齬を気にすると確定的な話しは出来ず、だろうやらだと思うと言う不確定ベースの話しとなってしまう。まぁ、そうじゃなければみんなが同じ方法で魔法を使い応用も独自性も消えてしまう。


「まず最初に。これはあくまで私が使う魔法のあり方です。だからこそ人と比べず、自分を見失わず、自身の魔法をイメージして結果を出す事。全てにおいて魔法に正解はありません。では・・・。サイラス魔法長官がいるので土の杖でも作りましょうか。糸を出せる、魔法が受け渡せる。それが出来るなら杖は作れます。」


 キセルをプカリ。土とは何か?平たく言えば鉱物と有機物の混合体である。言い換えるなら鉱物は無機物と言ってもいい。つまり大気中に漂う窒素や二酸化炭素は無機物で、ありそこに漂うウイルスは有機物。なのでそれが合わされば土は出来る。出来た土は二酸化炭素が豊富で頑張って不純物を取り除けばダイヤとかにもなりそうだが、そんな華美な物はいらないので頑丈さ一辺倒のカーボンへ。


 軽くて丈夫だから外観はコレでいいだろう。100%魔法で作れば形も自由自在に変形出来るが、あくまで今回は土を起源として作っているので頑丈であるものの変化には乏しい。パッと見た感じ色も黒で紳士が使うステッキの様に見える。


「取り敢えずここまでで杖の外観は出来ましたね。今回は頑丈さに振っているので棍棒にも出来るでしょう。さて、次ですが・・・。」


「ち、ちょっと待ってください?流石に説明無しでここまで進めては生徒が置いてけぼりになる。」


「ふむ。取り敢えず今は土ではなくカーボンまで加工しましたが。皆さんこれは平たく言えば炭素結晶体。工程を省かずスタートは土からですが、それを生成して行けばカーボンにもダイヤにもグラファイトにも出来ます。なにせ大元は炭素でそれの結合方式による違いが、結晶化し固体とし現れた時の違いとなる。分かりやすくするならダイヤとかばらまいてみましょうか?今だと価格にして金貨数枚で上質なダイヤも買えますし、場合によってはゲートの中で巨大なダイヤやサファイアなんかも手に入りますから。」


 宝石の価格はかなり下がってしまった。まぁ、それでも欲しい人はいるし地球で採れた物を天然石としてブランド化する様な動きもあるが、その天然石とゲート内出土品の違いを見分けるのが宝石鑑定士でもスィーパーの鑑定師でもかなり難しいらしい。まぁ、宝石は武器ではないし違う点を見つけろと言われたなら天然石の方が濁ってる可能性があるとか?そもそもダイヤより高い宝石はあると言うか、あったのだがアレキサンドライトとかもゲートからそこそこ出ているので昔より買いやすいし、レッドベリルも価格は下がっている。


 寧ろ工業利用が検討されてレンズ何かを作る話しが持ち上がってるとか。ダイヤレンズで望遠鏡を作れば遠くまで見えるのだろうか?何にせよ鍛冶師がいれば形は自由自在だし装飾師が鏡をデコれば精度も上がる。昔より手に入りやすい分、利用のしやすさと言うモノもあるのだろう。


「いえ、流石に宝石をばらまくのは・・・。」


「そうですか?元はタダなのでかしこまる必要もないですが。さてと、更に補足と言うか個人としてのイメージの話しをしましょうか。魔法とは何か?ではなく何をもって魔法を成すか。ライターに鑽る。これは魔法ですか?そう思う人挙手〜。」


 誰も上がらない。まぁ、ライターに火が着くのは自然な事だ。オイルにしろガスにしろ燃料があって火石が十分で火花が飛べば火はつく。ただし、それは使用者が全てを確認し且つ手でフリントを回した時。つまり、ライターを眺めていても火は着かない。ある意味ここの生徒には初歩の初歩となる話しではあるな。


 指輪からライターを取り出し手のひらに乗せて周目に晒す。なんでもないオイルライターだがえらく興味津々に見てくるが、そんなに物珍しいものではないはずなんだが・・・。


「誰でもいいです。このライターに火を着けてください。ただし近寄らない事。手で触れない事。そして意地悪ですが魔法を使わない事。魔法ではないと定義した以上、先程の3点を守って火を付けてみましょう。やり方は周りと話し合って結構ですよ〜。」


 ライターはその場に浮かべ、込める魔法のイメージへ。魔法の杖と言うからには何か魔法を込めないとな。しかしそれもまた難しい問題の1つで、これを増幅器と取るか減衰器と取るかで方向性も変わってくる。


 増幅器なら風の魔法が合うかな?火吹き棒の様に筒先から風を出す様に組んでもいいし、トーチの様に火を浮かべてもいい。カーボンは電気を通す関係上、雷系を組み込むならもう少し加工してからかな?流石に雷の魔法を使って本人が感電しては目も当てられない。水はどちらでもいいか。パイプに見立てれば流すも吸うも自由だし。


「サイラス長官、何かリクエストとかあります?これ単体ではただの杖っぽいパイプですが、そこに込めて欲しい魔法とか、或いは込めた魔法を取り付けたいとか。」


「ふむ・・・、台座として使うなら自由で魔法の杖として使うなら法則性が必要になると。まぁ、その法則性もかなり捻じ曲げられるのでしょうが・・・、無害で何が変わった魔法は込められますか?」


「無害で変わった魔法・・・。ええ、いいですよ。」


 無害で変わった魔法となると移動系とか強化系とか?少なくとも杖を持っているなら腕は強化出来るな。無手より武器あり。ブンブン振り回す速度を早めるくらいは出来るが、流石にそれはしょぼすぎるし本当に魔法の杖かも疑わしい。かと言って移動系・・・、例えば空を飛ぶ魔法を込めたとしても杖が短いので乗るには不便。そうなると更に作り変えるが別の魔法を込める方がいいな。


 なんかこう・・・、吸い上げる的な?地面にぶっ刺して噴水の代わりにしてみるのもいいな。いや、吸い上げるとなると地中の水分を吸い上げる事になるから別の物を吸い上げよう。内部に鉄を混ぜて磁石にすれば金属探知機代わりになるし、そのまま吸い寄せてくれるなら砂鉄とか集められる。


 いや、吸わせるより同化して伸ばす方が楽かな?杖自体が伸びれば体積は減り細長くなるが考え方を変えて、目的物まで分子結合していくと考えれば体積はそのままに延長出来る。そして、人の食道の様に流動させれば固い物なら運び出してくれる。よし、方向性は決まった。自立探査型金属探知機。これなら危なくないだろう。そんな考えをまとめている横で生徒達は獣人含め議論を繰り広げている。


 先程の3点を守るなら多分火はつかない。仮に着けるとするなら火の着いた矢で芯を射って着火させるとかだろうか?それが出来る時点でウイリアム・テルには勝てると思う。まぁ、変わり者のガンナーは弓と言うかクロスボウで戦っているので全くの無理ではない。無理ではないのだがそれはもうガンナーであって魔術師ではない。


 この問題の争点はどうやって遠くの物体に火を付けるのか?そこに集約されるのだが、遠くの物体に勝手に火が着くのは全くない事ではないが、その特例状態を任意で発現させた時点で魔法である。


「皆さん意見はまとまりましたか?着けられる理論がまとまった方は実演してください。実演して火が着いたら・・・、何かあげましょう。」


「よろしいのですか?そんな約束してしまって。」


「いいですよ。私は不可能と解答をだしました。しかし、それが覆るなら新たなイメージとなると。魔術師にとって成功するイメージや新たな理論を収集するのは何事にも代えられない財産です。例えばサイラス長官、サイラス長官はPCの扱いがあまりとくいではないでしょう?」


「ええ、お恥ずかしながらPCのキーボードを打つよりも手書きの方が速い。しかし、それが何か?」


「風力発電があるので風でも電気は生み出せます。人の血は鉄分を多く含むのでそこからも電気に繋がるイメージも出来るでしょう。そしてPCと言うか今の時代、電気で動いてないモノはない。扱えると楽ですよ?私がR・U・Rのモンスターモデリング等をする時はキーボード操作ではなく直接接続状態でやってますし。」


「練習してみたいですがPCを何台も駄目にしてしまいそうだ。流石に出来立ての魔法省の経費を無駄遣いするのは・・・。」


「ジャンクのHDD、コレなら多分安いですよ。通電して中を見る。そもそもPCのパーツはほとんどが金属です。土の扱いが上手いなら金属の読み取りもいけるでしょう?目は光学レンズよりも自分で動かせる分高性能ですしね。さてと、そろそろシンキングタイムを終了して答え合わせと行きましょう。」


「古い魔法ではなく最新の魔法へ。時代の移り変わりを感じますね。私は本の中の魔法使いに憧れていたんですが・・・。生徒諸君、思考時間は終了として誰か実演する者は?」


「外ならレンズを使い火が着けられます!」


「残念ですがフタが閉まっています。近寄らないと言う前提が崩れるのでダメです。」


「周囲を高温にしてオイルの着火点まで温めれば発火します。」


「不可能とは言いませんが、それを行うならクリアすべき問題が多いです。まずオイルを高温だけで発火させようとするなら摂氏数百度は必要です。ライターに火が付く原理はオイルが気化しそこに火花が当たる事、その際の引火点は約6度程度です。つまり、この部屋を燃やせば報酬としてライターに火が付くかもしれません。」


 色々と意見は出るが3点を完全に攻略する回答はでない。まぁ、出ない問題をだしたので出たら本当に拍手喝采ものである。


「では解答としてライターに火を着けるのは魔法なのか否か?答えはその時の状況。つまりは定義次第です。手に持って火が着けられればなんでもない日常ですが、そうでないなら魔法です。魔術を使うなら先ずはその問題に対する状況考察と可否から判断していきましょう。先程の3点を守らない。つまり、法を破れば・・・。」


 プカプカ浮かぶライターを操作して火を着ける。魔術師にとってはなんて事ない操作になりつつあるが、無意識下で魔術を使うのか魔術を使うとして魔術を使うのか?どんな状況だろうと考えを休める事はない。常に考え方法を探り法を破る。まぁ、それでもなおどうしようもないと思ったら、先ずは一服して余裕を持つべきかな?


「さて、私の話しはこれで終わりです。杖の方も完成しましたしね。」


「やはり目の前で見てもなんで完成かはよくわかりませんね。それもまた、自己流で探るとしましょう。それで、その杖は何の杖なんですか?」


「変わった魔法を望まれたので変わった魔法を込めましたよ。ちょっと過去を探検出来る様な、ね。使うなら外でしか出来ません。」


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