469話 妻のいない日 挿絵あり
仕事を終えて望田と家に帰る。妻は夜勤なので今日は泊まるそうだ。ただ、夜間帯はそこそこ時間があるので暇な時はにジムスペースで身体を動かしてるとか。本人は体型が崩れて来ていると言うが、見た感じそんな事はなく引き締まる所は引き締まり、お尻もキュッとしている。
大ベストセラーであるスィーパー職別ダイエット法は多分効果があるのだろう。そもそもダイエット本と言うかダイエットに対する動画や話しは多く、日々配信でも本以外にもこう言ったイメージと方法で私は痩せましたなんて話がゴロゴロある。
治癒師の簡単ダイエットは痩せるホルモンやら筋肉量を増加させたり、その筋肉量が少ない人はタンパク質取ってから増殖させるなんて話が多い。ボディービルダーがよくよく筋肉増強にステロイドを使うなんて話があるが、今では治癒師とタッグ組んで筋トレしつつ胃を鍛えてプロテインやらの筋肉になりやすい物を大量摂取してから結合させたり増殖させたりと、まともに鍛えるルートから科学と職でマッチョになるルートとなりつつある。
なら、なんで筋トレするかって?しないと増えた筋肉が扱えないからだよ!スィーパーの場合イメージが優先されると言う仮説はほぼ確定らしく、例えば足も腕も閉じないくらい筋肉が肥大したとしても、それを異物と捉えるか鍛えて肥大化させたと取るかでイメージが違う。
異物と捉えるとどんどん萎んでいくし、下手したら回復薬飲むと身体が排除しようと下からタンパク質やらが出る。逆に鍛えた末とイメージするなら定着してやるたびにどんどん肥大化する。筋肉量の限界がどこにあるかは分からないが、少なくとも動けなくなったら限界かな?まぁ、そうなったら筋肉量ではなく密度を上げて行くなんて方向になりそうだが・・・。
日本人としてはゲームのイメージやらアニメ漫画のイメージがあるので、やたら力の強い細マッチョ路線が多い。実際物語の男主人公の体型って悟空タイプかベジータタイプに分かれると思う。前者は胸板も厚くガッシリとした体型なのに比べ、後者は筋肉はあるもののかなり細い。日本人総ベジータ計画があるかは分からないが、選択されるのは後者が多い様だ。まぁ、俺には筋肉が付かないので何をしようと無駄である。
「ただいま〜って、何この紙?初日から大量の宿題が出たとか?」
「お父さんおかえりです・・・。」
「テストの要点だなぁ〜。量が多いなぁ〜・・・。」
「夏休み明けの実力テストか。習ってない所やら知らない所もあるだろうし、今回は平均点辺りを目指せばいい。」
「難しいなぁ〜、いい点取れば平均は上がるし悪い点だと平均に届かないなぁ〜。」
「ですです・・・。へ、平均って50点くらいとかです?」
「いや、確かに平均点って言ったのは私が悪い。具体的に言えば65点以上を今回は目指す様にすればいい。」
ちょっと高望みと言えばそうかも知れないし、ソフィアに関して言えばこっちに来てから勉強を頑張ったとは言え、授業を受けたわけではないので知らない所は全く知らない。一応、1学期の中間と期末テストで点は取れているが、それ以前の小学校の問題と言うか基礎はかなり駆け足だった。まぁ、それも理解出来ない所は自分で調べたりタブレットで解いてみたりとしていた。
基本的に学校の勉強とは暗記である。教科書を見て問題を解くのは忘れない為の反復訓練だし、文章問題は要点を探せるかで変わってくる。つまり小学校6年+中学1年分、計7年の勉強とは数学なら足し算、引き算、掛け算、割り算、分数を覚えたら基礎は終わりでそこからは方程式を使った応用となる。
どちらかと言えば問題は国語なんかの漢字の読み方だろう。賢者曰く日本語はすんなりはいるらしいのでそこまで危惧していないが・・・、やはり社会が問題か。日本では大きな事件やらでも海外からすれば他国の事で片が付く。それに、自国の歴史として勉強したとしても、隣国と戦争したり領土が変わったりするので主軸をどこに置くかで見方も変わるし、かなりオブラートとに包んだ表現もありそう。
実際日本でも昔社会の教科書の表記で隣国とバチバチ摩擦が発生したな。多分今でも知らない所でバチバチやってる可能性もあるから歴史の勉強って大変だし、地理はそもそも馴染みがないので地名聞いても日本地図のどこにあるかは中々覚えられない。一応、食べ物と関連付けたのでフェリエットは割と覚えたが、ソフィアの方は美味しかったけどどこだっけ?という場面も多い。それに日本の工業地帯とか言われてもねぇ・・・。
「65点・・・、フェリエットは大丈夫そうです?」
「問題を見らんと分からんなぁ〜。でも、間違ったなら覚えればいいなぁ〜。」
「その通り。別に今回が悪くても天地がひっくり返るわけでもないし、中間も期末もある。悪かったらそこで取り返せばいいし、今回は学校のテストがどんなモノか体験すると位置づけてもいい。なにせ初めてのテストまでの準備期間はかなり少なかったからね。さて、私は夕食作るけどリクエストは?」
「肉がいいなぁ〜!」
「サラダは大事です!」
「なら簡単にレモンチキンステーキをメインにするか。風呂掃除とバイトの餌やりお願〜い。」
さてと、チキンステーキと言ったもののチキンがあるかどうか・・・。なければ冷蔵庫と相談だな。それでも思いつかなければ唐揚げを買ってこよう。幸いと言うか、鶏肉自体はフェリエットの好物でもあるのでブロイラーが1kgほど冷蔵庫にあった。多分妻が使おうと朝から冷蔵庫で解凍していたのだろう。
取り出すと多少凍っていたが、その方が包丁は入れやすい。あった肉全てに網目状の切れ込みを入れつつフライパンに油を引いて熱し、ソフィアがサラダと言うので手を洗って更に冷蔵庫を漁る。レタスにキュウリにトマトか。レタスは芯を叩いて引っこ抜いてから割って盛り付けトマトは串切り、キュウリはスライサーで薄切りにして塩昆布と揉む。4人分としてもレタス一玉にトマト4個、キュウリ3本は多いかな?まぁ、俺が食えるからいいし、残れば明日の朝飯である。
生肉触った手で野菜を処理したくないが、魔法でやればあら簡単♪弱火で包丁を入れて塩を振った面を下にして蓋を被せてじっくりと蒸し焼きに。まな板と包丁1本はさっさと洗うが、汁物どうしようかな〜?それでご飯かパンかを決めたいが、そもそもパンが見当たらない。そうなると飯だが早炊きしても約30分か。そうなると19時も回ってしまう。
フライパンのフタを外してびっくり返し、皮面付をパリッとなる様に強火で一気に焼く。レモンはないがレモン汁はあるので仕上げは塩胡椒とレモン汁でいいとして主食を・・・、夏の風物詩そうめんがあるな。なら、塩ラーメン風そうめんにしよう。肉第一弾はフライパン2つ使って焼いたので味付けも終わり皿に乗せたが、後1回分は焼かないとダメ。だが、コンロに空きが出るのでさっさと鍋に水を入れて火にかける。
スープの量は迷うが最悪残っても指輪に収納すればいいか。大きなボールに鶏ガラスープとチューブにんにくを入れて水を入れて混ぜ、味を確かめたらごま油と白ごま投入。ここでも登場するのはレモン汁だが、好みがあるので今は入れない。お湯が沸くのに時間がかかるからさっさと魔法で熱湯にしてそうめんを投入!ゆで卵はレンジで作るか。アルミホイルとマグカップがあれば作れる。要点は水からアルミホイルが出ない事だな。
出来上がりの時間は全部一緒ぐらいだろうが、第一弾の肉は多少冷めている。まぁ、猫舌のフェリエット用と考えればいいし俺も猫舌なので多少冷えていてもいい。菜箸でそうめんを食べると言い茹で加減なのでザルに上げで水で洗い氷で冷やす。
「お風呂掃除終わったです。」
「クロデカはいなかったけど餌は入れたなぁ〜。鳥が食べてたけどいいのかなぁ〜?」
「ありがとう、餌は鳥が食べるならそれでもいいよ〜。そこそこ量を作ったからカオリに食べるなら来てって伝えて。」
「分かったなぁ〜。」
「なら、私は料理を運ぶです。浮いてるお皿は持っていっていいですよね?」
「いいよ〜。サラダはキュウリ入れて持っていって、取り皿はいらないかな?肉の乗った皿に取ればいいし。代わりに丼ぶり持っていって。」
「ど、丼ぶりご飯は入らないですよ?」
「いや、主食をラーメン風にしたからそれ用。スープは濃い目に作ったから水差しと麦茶も持っていって。コップは飛ばすからいいよ〜。」
洗ったそうめんの水を切ってザルとボールに入れて運ぶ。量は本人達が勝手に取って決めればいい。今日は塩分多目だが、暑かったしいいだろう。出来上がったゆで卵は半分に切り適当な皿に置いて盛り付けて貰えばいいし、お湯を沸かす所も時短したのでかなり早く出来た。残った洗い物もフライパン2個に包丁一本、後はそうめんを茹でた鍋だけなのでさっさと洗う。食器はまた後からだな。まぁ、食洗機で洗ってもいいし魔法で洗ってもいいので手間はない。
「お呼ばれして来ました〜。晩ごはん食べに行こうか迷ってたんですけどご相伴に預かっていいんですかね?那由多君もまだみたいですけど。」
「量的には多めにあるから大丈夫だと思う。莉菜は帰ってこないとして、取り敢えず鶏肉1枚は残しとくかな。」
息子も含め結城君達も就職組になるので今のうちからモンスター退治をしたり、仕事のやり方を学んだりしているのかな?スィーパー業のいろははネット等で見れるし、分からない事は受付や込み入った話なら法律課か先輩に聞いてもいい。ここで悪い先輩と言う騙そうとする人がいない訳ではないが、それがかなりリスキーである事も知っている。
各地を転々としていてもギルドに登録してライセンスを習得している以上、問題行動が目立てば他のギルドで捕まる可能性もあるし、最悪ライセンス剥奪や奉仕刑なんて事もありえる。ただ、難しいのは解釈の違いなんだよなぁ・・・。人の数だけ解釈がにたニュアンスで受け取り方が違う事もあれば、話している本人も全く別の解釈をしている事もある。まぁ、それは3学期になれば高校でも話が出てくるかな?
去年はギルドもなかったし法の整備もガタガタで皆んな手探りだったけど、今年はギルドもあるし法律も固まって来ているのでそこまで混乱はないと思いたい。本来ならさっさとゲートを進みたいが来年と言うか、新年度辺りまではゲート外のゴタゴタが続くと考えられるし、ぼちぼちやるしかないな・・・。
「「いただきまーす。」」
鶏肉を残し後は皆んなで食卓を囲む。スープの味を確かめながら水とレモン汁で整えるが、熱いせいかレモンの酸味がさっぱりして嬉しいな。フェリエットはスープにレモンを入れない様だが、ソフィアは結構多めに入れている。
「なんでも出来ると言うか、これをちゃっちゃと作るあたりが流石と言うか・・・。」
「料理は自分の為だからね、どうせ食べるなら美味しいものがいい。そう言えば馬味調味料あるけど誰か使うなら取ってきて。」
「あったら使うけど私は酸っぱい肉でいいなぁ〜。パリパリの鶏皮に誘惑されて箸が置けないなぁ〜。」
「フェリエットも野菜を食べるです。昆布とキュウリが美味しいですよ?トマトも甘いです。」
「葉っぱはなぁ〜。マタタビかけると食べるなぁ〜。」
「今は野菜も消化出来るからぼちぼち食べる。猫の時は苦手と言うか身体が受け付けなかったから仕方ないんだろうけどさ。」
フェリエットは野菜が嫌いと言うわけではないが、猫は野菜に含まれる炭水化物や食物繊維をうまく消化することができず、嘔吐や下痢をする場合がある。猫草食うのもわざと食べて毛玉を吐く為だしね。その名残からなのか食べられるし消化出来るけどあんまり野菜は食べない。まぁ、肉だけダイエットで健康的に痩せて過ごしている人もいるし、種由来の食事選択と言われたら仕方ない。まぁ、それでも塩昆布と揉んだキュウリはポリポリ食べている。
「ただいま〜。腹減った・・・。」
「ご飯にする?お風呂にする?それとも千尋ちゃん?残念ながら私と言う選択肢はない。」
「最後のは残念でもなんでもないだろ?寧ろ、最後を選んだらどうするつもりだよ父さん・・・。望田さんも来てたのか、お疲れ様です。」
「おかえりなさい那由多君。最後のを選んだら倒錯者として語り継ぎましょう。」
「お兄ちゃんおかえりです。」
「おかえり〜、那由多の分は台所にあるなぁ〜。」
「ちょっと汗臭いけど飯から食べる。そっちの方が片付けも楽だろ?それと語り継ぐのは勘弁してください。」
ナチュラルに洗い物を任せる気だが作った手前仕方ない。まぁ、俺も妻に任せているのでとやかく言えないが、卒業して家を出て千尋ちゃんと暮らすなら家事の分担もまた話し合う争点になるだろう。息子と遥には料理も洗濯も教えたので一通り出来る。出来るのだがそれが面倒でないかは別の話。疲れて帰って飯作って洗い物するとなると結構面倒なんだよなぁ〜。だからこそ妻には家庭に入って欲しいとお願いして専業主婦になってもらったのだし。
ただ、今は妻も働いているのでもう少し家事のウェイトを俺に置いてもいいのかな?畑や植木の剪定はしているが魔法で済ませるので重労働かと聞かれると疑問は残る。まぁ、前は耕運機使ったり脚立出して木を剪定していたので結構重労働と言えばそうだったのだが・・・。一応気を使って手伝いはするが長年の役割分担を変えるのは中々難しい。
「タバスコなかった?ないなら七味か紅生姜でもいいんだけど。」
「冷蔵庫か店になければない。そうめん用か?」
「チキンステーキとそうめん両方。父さんなら指輪にあると思ったんだけど・・・。」
「指輪か・・・。うげっ、お惣菜についてたゆず胡椒ならある。他はゲートを旅して使ったか空だな。」
「調味料の備蓄は必須ですよ?ゲートで馬を食べても魚を食べてもおんなじ味ですからね。最近はスパイスブームが再来して色々手に入りますし。」
「誰かが言ってたなぁ〜。カレールウさえあればいいってなぁ〜。あの茶色は確かに美味しいなぁ〜。」
「フェリエットは甘口だけどな。ソフィアは中辛いけるからいいけど、牛乳の備蓄は切らせない。フェリエットとソフィアも簡単な物作れる様に練習する?那由多も教えられるし。」
「父さん俺はそんなに凝ったもの作れないぞ?」
「それでもレシピ見ればある程度作れるだろ?」
「ゲートを旅するなら何か作れた方がいいですね。じゃないと食の貧しさで泣く事になりますし・・・。」
「ホットケーキ焼く所から・・・。」
「腹減ったら買うなぁ〜。」
フェリエットは買い食を覚えた!しかし、お小遣いは底をついた。2人にはお小遣いとして現金を渡しているが、なにに使うかは任せている。貯金箱もあるのでそれに入れてもいいし、財布で管理してもいい。まぁ、フェリエットはゲートを歩けるので最悪どうしようもない時は、そのお金をソフィアと相談して使う様に言っているので変な散財はしないだろう。
ただ、空腹ってどうしようもないレベルと言われたらそれまでだが・・・。実際育ち盛りだからと言うか、単純にお菓子が好きだからと言うか2人ともお菓子をよく食べてるし。良識のある範囲だからいいのだが、お菓子でお腹いっぱいは流石に許されない。
みんなで食べてそうめんはなくなったが、サラダと鶏肉は少し残った。ゆで卵も明日の那由多の弁当はサンドイッチかな?パンがないから買いに行くか、今から米炊くか悩みはするが・・・。
「ごちそうさまでした、それでは私は御暇しますね。」
「お腹いっぱいです・・・。お兄ちゃんが先にお風呂どうぞ〜。望田さんもさようなら〜。」
「私は帰ってからシャワー浴びたから今日は入らなくていいなぁ〜。」
「なら先にお風呂入ろうかな?望田さんはシャワーやらに不具合あったら言ってくださいね。直しに行きますんで。」
「風呂の前に明日は米とパンどっちがいいか決めてけ。パンなら買いに行く。」
「それなら俺が米炊いて残り物弁当に詰めるよ。3合あれば足りるかな?」
望田は帰り息子は米を研ぐ。ソフィアとフェリエットは満腹なせいか居間で寝転がりグダグダしながらテレビを見ている。2人でお笑い番組を見ているが漫才は分からないがコントなら分かるのかな?笑い声を上げるタイミングはコントだし。ただ、フェリエットは両方興味ないのか骨伝導イヤホンしてタブレットを取り出した。
何を見るのか気になって画面を見ると、サブスクで映画を見ている。ちょっと意外だが内容はアクション映画。もしかして映画はどうでもよくて画面の中の小さな人が走り回るのがいいとかだろうか?なんにせよ文化的な生活である。
学校の事を聞こうかとも思ったが、今日は初日だし友達と呼べる様な人もまだいないだろう。授業は明日からだし特段本人達が話さないなら話す時を待てばいい。14歳って子供でもなければ大人でもない、ある意味人生で一番宙ぶらりんな時期。人、それを思春期と言う。
「ちょっとタバコ吸ってくる。風呂は先に入っていいからな。フェリエットもちゃんと入る事、お前のシャワーを浴びたは本当に浴びただけだからな。」
外に出てプカリ。何時も座って吸っていた所は離れの前なので今は座れない。流石に望田もカーテンは閉めていても外に誰かの気配があるのは嫌だろう。その代わり空を飛べる様になったので屋根の上へ。
適当に座布団を出して座り夜空を見ながらのタバコは中々乙な物だ。人生は長い様で短いと言ったのは誰だったか?終わりなき身体になってしまったが、今思ってもやはり後悔はない。それをする時はきっと生き疲れて眠たい時だろう。まぁ、その疲れが来る時までは精々足掻いてみるとしよう。




