表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街中ダンジョン  作者: フィノ
55/838

44話 糸 挿絵有り

 退出アイテムで退出した後、宮藤の中位到達を聞いて講習者達は更に色めきだった。2人目が出たと言う事は、次があると希望を持てる。希望があるのはいいのだが、そもそも俺が至らせる訳ではなく、自身で至るのが前提としてあるので、模擬戦を毎度申し込まれても困るし、対人戦を重ねるよりは、モンスターを倒す方がイメージは固めやすい。

 

 人、それも仲間とやり合うなら、必ず手加減や手心或いは、互いの背景なんてものも加味してしまう。はっきり言おう。邪魔であると。手加減できない相手に、手加減した練習をしても意味はない。確かに、ここにいるメンバーは、何れは本部長になる。そうすれば犯罪者相手の対人戦も増えるだろうが、それは今必要な事ではない。

 

 そんなこんなで宮藤が至ってから1週間。訓練会場は20階層にしたいが宮藤や雄二、卓他に兵藤、赤峰なんかと話し合い、今の全体レベルを考えると、1度15階層までで戦闘に不得手な職の底上げをしてから、挑んだ方が安全だという結論に至った。まぁ、至ったのはいい。盆には帰省する事も既に決まっている。何なら予定さえ組めれば一時帰宅出来る。

 

 至った場面を録画してなかったので、案の定千代田にはお小言を貰ったが、まぁ、これは仕方ない。映像があれば解析しやすいかは別として、何かしらの取っ掛かりは掴めるかもしれないし、至れていないメンバーにも、何かしらのイメージが生まれるかも知れないのだから。

 

「クロエさん1本! 1本だけ!」

 

「赤峰さん、私とするよりモンスターを倒しましょう。対人戦では、手加減してしまうでしょう?」

 

「そらぁそうだけどよ、あれ見るとな・・・。」

 

 離れた位置で煌々と炎が立ち上っている。出しているのは2人は宮藤と卓。互いの戦闘スタイルは真逆で、一致しているのは炎術者である事のみ。宮藤が炎の兵士を出せば、卓がそれを殴って屠り、屠った側から新たに生まれる兵は、前進する事を止めない。

 

 まるで千日手の様相だが、互いに決め手が無いのか、或いはそもそも決める気がないのか、延々と物量対個人の戦いが繰り広げられている。卓の姿はかなり様になって思い描くヒーローの姿に近付き、逆に宮藤の兵は人の姿に近いものの、変幻自在に姿を変える。

 

 卓は手にメリケンサックを持ち、宮藤は新しく得た記者の黒いスマホくらいの大きさの手帳を持っている。記者の能力ウェイトは付与する所が大きい。手帳に向かって話し、対象に伝達拡散させる。そして、伝承で継続させていく。対象は自分でも仲間でも、何ならモンスターでもいいので、中々凶悪な部隊が作れそうだ。

 

 2人共第2職の影響が色濃いようで、出来る事が増えれば、それを組み合わせて先に進む。彼ら2人は多分35階層まで行って帰って来れるだろう。余裕かどうかは別として、15階層のモンスターでは物足りなさ過ぎて、1階層からここまで来るのはピクニックくらいの感覚だろう。

 

「そうは言っても、道はそれぞれですからね。赤峰さんは強いですよ、裏打ちされた自信があるでしょう?」

 

「まぁ、ずっとこの拳でやってきたからなぁ。」

 

 見つめる手は分厚く、握る拳はバシッと握り込んだだけで音がする。格闘家か、俺には経験の無いものである。武術なんて習ったことないし、この身体では無理をすれば出来るが無理してまでするものでもない。助言するにしても取っ掛かりがな・・・。

 

 よくよく拳で語るなんて言うけれど、語り合うなら相手の背景やら師弟関係やらを、知らなければいけない訳で、今の俺がなにか言った所で、それはあまりに薄っぺらく意味は無いだろう。模擬戦をして、言葉を紡ごうとそれは同じ。ただただ思い上がりの上から目線の言葉なぞ、それこそ大きなお世話と、切って捨てられる。

 

「拳の先はモンスター、それでも強いヤツとはやり合いてぇ。だから、な? 警視庁の時はやり合ってもいねぇしよ?」

 

 それを言われると弱い。あの時は早々に負けを認めて模擬戦自体を流した。しかし、やはり対人戦はなぁ。結果が見えているとは言えない。何でも有りの戦いなら軍配は多分俺に上がるだろう。しかし、模擬戦として戦えばそれは分からない。得手不得手と言えば距離は関係ないが、捕捉出来る出来ないは変わってくる。バカ正直に煙に突っ込んで来るなら、それまでだが流石にそんな事はしてくれないだろう。

 

「どちらかと言えば、私は小細工派ですよ?」

 

「その小細工を味わってみたい。」

 

 あまり乗り気ではないが、赤峰はやる気満々。この辺りでガス抜きしないと、1人で奥に行きそうだ。最悪、脱出アイテムを持たせれば行けない事もないが、あれも取り出して手に持って思い描く事が必要なので、モンスターとの戦闘中にすぐ使えるわけでもない。

 

「分かりました。小細工有りで、1つしてみましょう。ただ、模擬戦なので時間を区切った形でお願いします。」

 

「おう! 誰かタイムキーパー頼む!」

 

「なら、私がしましょう。ちょうど雄二君とモンスターを倒して帰った所ですから。」

 

 名乗り出た清水にタイムキーパーを任せて、赤峰と距離を取る。時間は5分、対峙した距離は5m。キセルを一吸い、プカリと煙を吐き出す。しかし、既に赤峰の拳は眼の前。それはそうだろう。格闘家の身体能力なら5m程度、一瞬で飛び込んでくる。

 

「はっ!」

 

「疾っ!」

 

 ぎりぎり見えた拳をキセルで受けながら、拳の衝撃と自身の力で後ろに飛んで距離を取る。結構間合いを開けたと思ったが、素早い踏み込みと追撃は距離を離させてはくれない。やはり、接近戦では不利だ。格闘経験もなければ、殴り合いの喧嘩なんてやった事がない。ラッキーパンチなんてものは、あった所で赤峰なら簡単に捌くだろう。

 

「迷い惑わせ姿を覆い、揺蕩う煙は・・・。」

 

「望田のねぇちゃんに聞いた! 前後不覚だろ?」

 

「ええ。発動はしましたが、煙まるごと殴り散らしますか。」

 

「そらぁ、格闘が殴るのは当然(・・)だろう。」

 

「ええ、ええ。当然です。なら、魔法使いが理不尽なのも当然(・・)ですよね?」

 

 身体強化はかかっている。別にこれは接近戦をする為のモノではない。捕捉出来ないと困るからする補助。煙を拳で打ち払ってからの回し蹴りを、やはりキセルで受ける。これが刈り取るような軌道なら他を考えたが、あくまで横に振り抜く蹴りなら、受けるに限る。何せ俺は飛べるのだから。

 

「えぇい! 手応え無くそこまで吹っ飛ぶのかよ!」

 

「そりゃ飛べますからね。疾く疾く、雷鳴は遠くに響き、今はここ!」

 

 バチバチと放電音のする煙から、数発の紫電が迸り赤峰に殺到するが、躱しもせずに両足を揃えて膝を充分に折り、上半身は前かがみになり全て受け流した。落雷の勉強もしたか、これで決まれば良かったが、身体から少し煙は出ているものの、ピンピンしてニィッと笑っている。

 

「やっぱつえーわ。」

 

「赤峰さんこそ、雷まで受け流してるじゃないですか。」

 

「それも見たからなぁ。蹴って多少は距離取られると思ったけど、そんなに距離取られるとは思わなんだ。」

 

 蹴られて取った距離は20mぐらい。何もしなければ多分、もっと距離は取れていただろう。2回キセルで受けたが、手が痛くて仕方ない。すぐに巻き戻るが、それでも痛いものは痛いし、下手をすると手首が砕けていたかもしれない。全力で戦える場所、或いは相手がいるのか。模擬戦なのでお互い手加減しているが、手加減なしで戦えば、やはりどちらかが死ぬ未来しか見えない。

 

「終了、5分です。」

 

 再度赤峰は構えたが、清水から終了の声がかかった。物足りないような顔をしているが、約束は約束。構えを解いて話し合う。宮藤達が物足りないなら、一緒に先に行かせた方がいいのかもしれないな。

 

「押忍! お疲れ様でした。」

 

「お疲れ様でした。いゃあ、手首が痛い。」

 

「そりゃあ、俺も受けられるとは思ってませんでしたからね。大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫です。強化もしてましたからね。しかし、私は武術の心得がないので、一度師匠とかに連絡してみたらどうですか?」

 

 手を振っていたら、赤峰が手を取って手首の辺りをマッサージしてくれた。大きく分厚い手である。掌の皮も厚くゴツゴツしている。俺の手首なんか簡単に握り締めて、折ろうと思えばポッキリと簡単に折ってしまいそうだ。

 

「しっかし細いですね。」

 

「食ってますけど肉がつかないもので。」

 

「まぁ・・・、あれ以上食べろとは言いませんよ。さて、模擬戦ありがとうございました。次は望田のねぇちゃんを攻略してみるかな?」

 

「赤峰さん。今の状態で全力が出せないのなら、宮藤さんか卓と先に行ってみてください。私はあくまで助言しかできません。道を探すのは赤峰さんの仕事です。」

 

「・・・、おう!」

 

 言葉を残し、赤峰は望田の方へ歩いて行った。望田は望田でボールが増えてから、共振の練習をよくしている。身体能力強化の目処はあまりに立っていないらしいが、それでも出来る事を増やすと言って、音で出来そうな情報を仕入れては試している。共振もその1つで、グラスを叫んで割った動画からヒントを得て、3つのボールから固有振動数さえ掴めれば崩壊を引き起こせるのでは? と岩やモンスターに繰り返し試している。

 

「よっ、はっ、ほっ! 長いけどデビルスティックは出来るはず!」

 

 大量に槍を買った井口は、1人で10近くの槍を取っ替え引っ替え扱い、無くなれば直ぐに指輪から出すか、或いは手元で引き戻し、1人槍結界を構築している。あれをやられると、近寄るのに中々苦労しそうだ。失った武器は既に手元、距離を取れば槍を投げて穿ちに来る。

 

 清水はタイムキーパーを終えた後は、抜刀練習。雄二と似た脇構えだったのか、新しく手に入れた武器。吹き矢筒というものが、鞘になるのではと考え、大きさが合わなかったのを、未だに会えない鍛冶師に調整してもらい今に至る。

 

 吹き矢筒は別に矢を入れなくても、何かを撃ち出すという特性があるようで、本来はガンナー辺りが使うものなのだろうが、清水はそれを利用して剣を撃ち出す事で、いつ抜いたのか分からない斬撃を出し、仮に外れても鞘から銃撃して仕留めるというスタイルになったようだ。実際、鞘だけでもモンスターを撃っても殴っても倒せるので、割と便利そうだ。

 

「加納さん。本来は魔術師:水ですよね? 寒いんですけど!?」

 

「あははは・・・。まぁ、水も氷も元は一緒ですよ。」

 

 氷の中から夏目が腕を引き抜き、指を振って氷を切っている。格好は諦めたのかボディースーツ。日々体型が変わった姿で現れ、何なら顔つきも変わる。何なら、一発芸でリアル福笑いなんて事もできる。会った当初はカッコイイ系の王子様タイプだったが、彼女は割と笑いのツボをおさえている。

 

 一度褒めたら色々やってくれて嬉しいが、彼女の戦い方は堅実の一言。肉壁自身の身体を変化させながら戦うのだが、元々が自分の身体という認識が強いおかげで相当無茶がきく。顔もそうだが、身長にしろ指の長さにしろ変幻自在。問題は、自身の体積を超えられない事らしい。

 

 つまりは、身長を低くすると何処かに肉が付き、高くするとゲッソリする。そんな夏目が持っていった武器は、卓と雄二が倒したモンスターの光る手の武器版。平たく言うと両手から無数のレーザーカッターが打ち出せるし、鞭や糸のようにも扱える。ただ、レーザーなので鞭や糸といっても触れれば切れるため拘束には使えないが。

 

「夏目さん治療しますね〜。加納さんも、あんまり無茶しちゃ駄目ですよ?」

 

「すいません、力入っちゃって。」 

 

 小田が笑顔で銃の引き金を引く。うーん、実にサイコパス。まぁ、あれで怪我が治るからいいのだが。小田が持っていた銃とパーツは、まんま銃と弾倉。銃と言ってもリボルバー式のグレネードランチャーぐらい大きく、弾にはなんとクリスタルか或いは武器を使う。

 

 ガンナーの棒とは、逆の発想なのだろうそれは、ガンナーから言わせれば使い道のない道具との事だが、治癒師の小田からすれば、再生や結合を打ち出せると好評で、最近空を自由に歩き出した事で再生範囲も広がり、モンスターの群れに結合弾を打ち出してキメラを作り出したりと、割と一番やりたい放題している。

 

「卓、ちょっと遠くまで行くから付き合ってくれ。」

 

「分かった、二刀流は慣れたか?」

 

「いや、模索中・・・、剣道にも二刀流はあるし、時間あったら道場に顔出すかなぁ。原点回帰ってやつ?」

 

「原点回帰か、割と重要だな。僕が至った時は・・・。」

 

 卓と雄二は遠くへモンスター狩りに行くようだ。残った宮藤は、周囲の状況を見ているし、最近はこの流れが多い。出来れば全員で20階層まで行きたいが、何処かで分けて行けそうなメンバーを、送り出した方が効率がいいのだろうか? 別に俺は父母ではないし、いるのも全員大人。

 

 自己管理が出来ない訳でもない。ある意味これは、死なせたく無いという過保護な自己満足なのかも知れない。そんな事を、考えているとスマホのコール音が鳴った。最近この時間になったら鳴る嫌な電話。

 

「現在この番号は使われています。ピーッと言う発信音はしないので切ってください。」

 

「嫌なのは分かりますが、こちらも仕事です。一度出て確認してください。」

 

「分かりました、口頭で全て蹴ったでは駄目なんですよね?」

 

「それがまかり通ったら、最初からこの話は無いですね。」

 

「分かりました、今から出ます。」

 

 宮藤に声を掛けて退出ゲートから外に出る。途端にむわっとした熱気が肌に当たり、相手を見つけたい蝉の声がけたたましく耳をうつ。ゲート内は静かなので、ギャップに頭がクラクラする気がするが、それはただの思い過ごし。

 

「お待ちしていました。毎度出る場所が違うので探すのも苦労しますよ。」

 

「それはどうしようもない事ですね。暑いので、何処かの店に入りましょう。」

 

 そう言って、千代田の車で移動して入った喫茶店。秋葉原は復興の真っ最中で、何なら一部を国が買い取って対策本部予定地とした。その関係で、周りに店がなく、こうして喫茶店に入るのも車移動だ。春秋はいいが、夏冬はゲートに籠もりたい。あそこは気温が一定で過ごしやすい。変化に乏しい場所ではあるのだが。

 

「アイスコーヒーでよろしいですね?」

 

「ええ、何時もと同じで。では、見せて下さい。」

 

 差し出した手に載せられたのは、バストアップのお見合い写真。上半身は水着、或いは裸である。米国からの派遣予定者のプロフィールと経歴、職等が乗ったそれは、みんなにこやかな笑顔で写されている。画像加工とか、何かしてないかは知らないが、軍人ってこんなにキレイなの? あぁ、一部の人は肉壁持ちか。気に食わないのは、その肉壁持ちはどことなく、妻を連想させる面影がある事。つまりは、自宅も妻も何なら家族もバレていると言う事か。

 

「とりあえず、妻に似た方は却下。流石に階級は望み通りですね。マッチョは・・・、この人腹筋割れてないですか?」 

 

「それは痩せた為に出た線だと言い張っています・・・。」

 

「この人、ケツアゴなので駄目ですね。厳つい。」

 

「多少でしょうに・・・。」

 

「この人は・・・、語学がB+う~ん却下。」

 

「それだけあれば、日常会話に支障は無いですよ?」

 

「この人は軍歴が短いので却下。」

 

 写真に目を通し却下の理由を上げていく。正直な話を言うと、ブサイクはいない。男女共に彫りが深いとかはあるが、方向性の違った美男美女ばかり。逆にそれが本当に軍人かと思わせる。当然といえば当然だが、一度却下された人は再度写真が送られてくることはない。このまま弾切れしないかな。しないだろうな、多分。

 

「クロエ・・・、選ぶ気はありますよね?」

 

「千代田さん、選ぶ権利はありますよね?」

 

 お互いに笑顔で運ばれてきたコーヒーを啜る。

 

 挿絵(By みてみん)

 

 毎度同じ店なので、遠巻きのギャラリーがついたが、味がいいので店は変えたくない。たまに写真を撮られるが、まぁ、その程度なら気にしない。卓と宮藤が至った事は、配信に情報として載せた。

 

 かなり千代田から止めた方がいいと言われたが、ゲートの問題は既に国の枠を越えているので、秘匿するよりはオープンにして、次に進めるというイメージを持たせた形だ。本人達が嫌がるなら当然載せなかったが、快く了承してくれたので所属を明らかにした上での配信となった。

 

「分かりました。ただ、あまり長引かせると、向こうも痺れを切らすかも知れません。」

 

「家族を狙うと?」

 

 それは容認出来ない。妻に似た写真を送ってくるのは、理解出来る。キレイな人という事に基準を付けるなら、それは大衆にではなく、俺にとってと言う事になる。なら、当然それは妻であり、もしくは好きな女優なんて事もある。男性の写真が毎回来るのだって、姿からすれば男性の方が好きになっているかも知れないという期待から。

 

 しかし、確率論から言えばやはり妻に似た人物の方が、目がある。しかし、その目が潰れて却下を出されたなら、秘密裏に動く事だって想定出来る。

 

「落ち着いてください、それは私達が阻止します。今、海外に行くと言うのは中々厳しくもなっていますし、早々無茶は出来ませんよ。」

 

「では、どのように?」

 

「日米合同演習・・・。それも、対モンスターを想定したものの打診があります。貴女は立場上、それへの参加打診があれば断りづらいでしょう?」

 

「まぁ、それで飯食べてますからね・・・。参加者を選べば、それ自体が無くなりますか? 参加した所で私は指揮所から出る気は有りません、詰めかけるなら飛んで逃げます。場所は、多分米国なのでしょう?」

 

 モンスターの出現範囲を考えると、場所は陸地で相手国。無事に帰ってこれる保証はない。なんなら、何かしらの言い訳を着けられて缶詰にされるかもしれない。知らぬ異国の地で缶詰は勘弁願いたい。

 

「・・・、一度行われれば、何度でも合同演習は行われます。最初の1回さえ潰せれば、演習は無意味と切って捨てられる。そもそも、ゲートから4km圏内のモンスター出現に対する、演習の打診なのですから、憲法上他国内での武力行使不能で名目が立つ。まぁ、最悪の事態なら、災害派遣で行く他無いですが。」

 

 そろそろ潮時かな。選んでも参加するまでの期間はある。ただ、選ぶにしても漠然と選んではな・・・。ただ訓練をして返してもいいなら問題ないが、配信の事を考えると変に向上心を持たれても困る。会って話して至れなかったと、文句を言われる筋合いはないが、来るからにはそれも狙いの1つだろう。

 

「分かりました。選びますが、過度な期待はするなと忠告してください。そうですね・・・、条件は幾つか解除します。日本語堪能、容姿は顔に傷とかあってもいいです。出来れば女性、男だと手籠めにされるとか嫌ですから。後は、階級のみでいいです、最後に身寄りのない方。来るのは1月後。」

 

「分かりました。それで再度打診しましょう。条件緩和で来日予定も弄れるでしょうから、多分大丈夫だと思います。」

 

 千代田との話もまとまり、車で駐屯地まで送ってもらう。最初はゲートに行こうかと思ったが、居場所を確認すると既にゲートを出て、駐屯地に向かっているとの事だったので、そちらで合流。宮藤達と話も明日の予定を決め、駐屯地の風呂に連れ去られてホテルに帰宅。


 望田が住み着いたので、なんだかんだで生活用品が増え、アパートでルームシェアしているような感じになっている。椅子に座ってプカリとキセルを吸って煙を吐く。最近の日課になりつつある糸の作製だが、魔女や賢者と話しなんとなくコツが掴めてきた所。


 要点は具現化と法を破る事。魔法は現象こそ具現化して引き起こせるが、物体として存在させるとなると、質量というモノが出てくる。それが厄介で、無から有を生み出すなど現象として有りえない。イメージとしての取っ掛かりがない状態では、上手く行かないのも道理で、煙を固めようとしても、イメージと噛み合わず霧散する。

 

「あ~、糸が出来ない・・・。縦の糸も横の糸も交わらない。」 

 

「毎日椅子で煙をイジってると思ったら、糸を作りたかったんですか?」 

 

 ベッドの上で洗濯した服を畳んでいた望田が、話しかけて来た。何も言わずに毎日キセルを吸っていれば、知らないのも仕方ない。元々ヘビースモーカーで、吸っていても違和感はないだろうし。しかし、行き詰まったなら、新しい発想を手に入れるのも1つの手。

 

「防具とか欲しいから、とりあえず糸が出来ないかなと。魔法職なら作れるらしい。・・・、何か糸に関連するイメージってない?切れなくて丈夫で、無いのに有るようなやつ。」 

 

「ん〜、何でしょう?蚕でシルクとかは・・・、口から吐いてるから有りそうですけどそれじゃ駄目ですよね?」 

 

「うん・・・、どちらも元からあるものだからね。見え無い所にある糸っぽいイメージ。」 

 

 運命の赤い糸は試してみたが、駄目だった。具現化しようとやってみたが、糸の先が何処かへ行ってしまい巻取り続けても終わりがなく、そもそも固定しようにも運命は変わる物なので、どうしても流れて消えてしまう。なにか無いだろうか?


「あれはどうです?魂の糸!」 


「デカルト先生の?」


「ええ、21gを繋ぐ糸ですね。それなら見えないし、お腹から頭に繋がってるイメージらしいですよ?音を調べている時に偶然見つけましたけど。」


 目を閉じて考える。ぶっ千切れたら魂が飛んでいきそうだな・・・。しかし、魂を繋ぐ糸・・・、望田はポンポンとお腹・・・、子宮?玉の緒?へその緒?有無?産む?糸を子として、産み育む?魔法は現象として生まれて消える。なら、産み出して育むなら?


 身体は女性、繁殖能力は無いし、中身もないが魔法は産まれる。なら、それを育てる。産んではいないが、子育ての経験はある。煙を吐く、形の定まらないモノだが、形作る事はできる。細く長く、強く柔く靭やかに真っ直ぐと、優しさと厳しさを持ってその形を整えていく。君の形を思い描こう。父の思いと母の願いを持って。生まれいでたなら、君はそこにあるものだ。どうか、俺の願いに答えて欲しい。


「お?おお?キセルの先からは何か出てますよ!」


 望田が騒ぐが、それは後回し。産まれたばかりなら、それは弱い。なら、1人で在る為には別れないと行けない。旅立ちは必ず来る。しかし、旅立っても親と子なら再会出来る。縁は中々に切れない。それは絆があるから。


「出来た・・・、のかな?」


 不思議な光沢のある長い糸は、消える事なく存在し望田が触れてもなくならない。糸が愛らしく思えるのは、多分工程のせいだろう。加工しないといけないのだが、愛着がわくなぁ・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、ブックマークお願いします
― 新着の感想 ―
[一言] ゲートの創造者と直接交渉して得た自我を持つ規格外の「魔女」と「賢者」。イメージで出来る事の幅が広がるなら 最初できないと言っていた魔女の秘薬等も作れるのでは? ダンジョン内の不思議物質はそれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ