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街中ダンジョン  作者: フィノ


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43話 分かれ道

「これが初期の箱から・・・。」


 橘がキセルと俺を見ながら、何か考え込んでいる。これについて聞かれても、俺は何も言えない。そもそも武器は勝手に送られてきて指定なんて出来ないし、適性が無ければ使えない。なら、逆を言えばこれが使えると言う事は、これに適性があるのだろう・・・。説明は補助具の1点のみ。しかし、橘はこれがなにか見えないのか。


「説明は補助具の1点のみ。まぁ、色々鑑定してわかるでしょうが、雑ですよ。」


「補助具・・・。つまり、何かを補助していると?」


「そうなりますね。個人的にはタバコと変わらないので、スパスパ吸ってますよ。煙は扱いやすいし、いいものです。」


 武器?と言うには心許無いキセルだが、殴れもするし煙は出し放題。他の人はハズレと言うかも知れないが、俺には最大級の当たりである。これのお陰でモンスターは犬になったし、ビルは消せたし、補助具としてもかなり扱いやすい。


「試しに吸っても?」


「え?普通に嫌ですけど。」


「・・・、そうですよね?すいません、取り乱しました。」


 なにを取り乱したか知らないが大方吸えば内容が分かるかもと思ったのだろう。男と間接キスとか普通に嫌だ。それが、缶ジュースとかすぐ捨てるものなら、まだ許せるが、キセルは常用的だし咥えるたびに橘の顔が横切るのもなんか嫌。橘を本気で疑う訳では無いが、狙われてる?


「返してください。」


 手を差し出すと橘はすんなりと、キセルを手に乗せた。これで駄々を捏ねられても困るのだが。鑑定出来なかったのが彼のプライドを傷つけたのかもしれない。しかし、中位で鑑定出来ないとなると、このキセルはそれ以上の物になるのか。


「どうぞ、当たりを引いたんですね。」


「まぁ、いいものですよ?生活や習慣に馴染みますからね。」


「そうですか、私はそろそろ帰ります。あまり部署を離れると何があるか分からない。千代田さん送ってもらえますか?」


「いいですよ。私も警視庁に用事がありますから。」


 そう言って千代田と橘は帰っていった。卓の鑑定結果とか聞きたかったが、鑑定師は貴重なので、忙しいのだろう。前に電話した時も病んでたし。さて、雨は鬱陶しいが午前中を潰しての武器配布も終わったし、新しい武器や予備の武器を持った面々はやる気満々。


「昼食後、ゲートにいきましょう。使用感を確かめる為に、本日は15階層で皆さん行動してください。」 


 皆の返事を聞き、昼食後はゲートへ。さて、新しい武器はかなり高額だが、使いこなしてくれるかな?金貨も貰ったし、設計図関係や金貨は箱にまとめてあったので、後で目録と見合わせて精査しよう。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 千代田さんとともに車に乗って、駐屯地を後にする。どんよりと雲が厚く、降雨は夏なのに冷たい。今回わざわざ呼ばれたのは1つの疑問から。それはズバリ彼女の職について。誰もそこに言及しない事だが、不安と言うモノはある。仮に、彼女の職と同じ職に就くものがいた場合、彼女と同等かそれ以上の力を自在に扱えたなら、それの脅威は計り知れない。


 新しく上がったネット配信は、まだ、誰も足を踏み入れていない35階層までのもの。その配信の中の彼女は苦も無くモンスターを倒し、或いはゴミクズの様に殲滅している。それは異常。今の段階で、誰しもが苦戦し、或いは対処出来ずに殺されるモンスターを、彼女は歯牙にも掛けない。


 ゲート発生当初から、彼女の行動は一貫してゲートに対する対処に集中して、今もソレの対処の為に助言役に収まっているが、果たして彼女の強さは何処から来るのだろう?今回はそれを見て欲しいと、呼ばれたが・・・。


「橘警視正、なにか分かりましたか?」


「全く分かりません。彼女どころか武器も見えなかった・・・。卓は見えましたよ?申告通り、炎術者と格闘家。格闘家の武器はまだ最初の箱を開けてないので、持っていないとの事でした。」


 彼には鑑定が通じた。ある程度、彼の中も見えた。しかし、彼女、クロエは一切見えない。それは至った当初だからとかではなく、深く見ようとすればするほど、暗い穴の中に誘われ、ふとした瞬間に空虚感に襲われる。空っぽ・・・、そう形容するしかない感覚。感情の色はある。時折途切れるが、それでも彼女は人らしい感情のそれはある。


「・・・、橘警視正、仮に彼女に『貴女の職はなんですか?』と聞いた場合、彼女は答えると思いますか?」


「前提として、私はクロエを信じていますよ。彼女は少なくとも、ゲートの危険性に対し行動し、出来る限り被害を抑えた。その彼女が話さない、或いははぐらかすならそれ相応の理由があると思いませんか?」


 知りたいのは、知りたいと思う。キセルを吸えば経験が積めて、なにか見えるようになるかと思ったが、割と本気で彼女に拒否されて傷ついた・・・、心が痛い。


「理由ですか・・・、職が公表されれば、同一職の方は彼女と同じ事ができるから?私はスィーパーではないので、感覚は分かりませんが、事を成すのに必要なのはイメージだとか。」


 千代田さんが運転する、車の助手席から外を見る。雨は面倒だ。漠然と鑑定すれば、雨粒1つ1つから鑑定結果が返ってくる。ただ、それはまだ優しい。スクリプターの能力もあるので、幸い頭痛にも悩まされない。積み重ねた記憶と鑑定結果から彼女の職を推測するなら、少なくとも上位。


 望田さんはSだが見えた、卓は中位になっているがそれもまた見えた。なら、鑑定術師では鑑定出来ない職はと考えるなら、少なくとも上位、或いはSの中位という可能性もある・・・。いや・・・、まさか?彼女からEX職は聞かされている。それに彼女が該当している?なら、それの詳細を聞けば、何かしらの情報が手に入るかもしれない。


 何処かで犬が吠えたような気がした。


「ええ、イメージです。特に魔法職はその傾向が強い。何故職業システムがこのような作りか、彼女も知らないと言っていましたが、彼女曰く『身体がないなら、思い描くしかない。』と言う事らしいです。」


「身体がないから夢想する、そして、結果が出る。なら、何故彼等は掃除するモノ(・・・・・・)を作らないんでしょうね?」


 多分、犬だろう声はヨクワカラナイコエ?ナニ・・・。


「さぁ?それよりも食事何にします?私は久々に蕎麦が食べたい。」


「そうですね、食べましょうか。身体がないから夢想する、そして、結果が出る。ですか、羨ましい存在だ。」


 土砂降りの雨の中、黒い大型犬が何かを咀嚼しながら歩いて行った。



________________________

 

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 駐屯地からゲートに移動して15階層。退出ゲートを確保して、周囲に広がり思い思いの訓練をしている。武器が更新されたり、人によっては全く違う形状になったので、その使用感を確かめている。しかし、なんだか蕎麦が食べたい。最近肉ばかり食べてるし、熱くなったからバテているのだろうか?身体ではなく精神的に。


「はっはっはっ!来いよヒーロー!炎なんか捨ててかかってこいよ!」


「その発言宣戦布告と見なす!とうっ!」


 目の前で赤峰と卓が、戯れと言うには激しい模擬戦をしているわけだが・・・。そういえば、近接職の中位はまだいないな。橘はSで近接系の攻撃が多いが、本質は完全なオールマイティ。身体能力こそないものの、それまで揃えれば大抵の事は何でも出来るだろう。


「赤峰さんのアレ、負けフラグですよね?」


「さぁ、少なくともメリケンサックからフィンガーグローブに変わったからなぁ、赤峰さん。」


 格闘家の初期装備はメリケンサック。前にボクシングスタイルの格闘家と戦ったが彼にはマッチした武器だろう。しかし、赤峰は空手家、詰まる所投げも関節技もある。なら、武器としては指が使える今の方が合っている。現に殴りかかった卓が投げ飛ばされている。


 まぁ、投げられた所で卓にダメージはない。空中で身体を捻り、炎を吹き出し地面に瞬着する。あれは炎をまとうというより、自身を炎として移動しているようだ。身体が変化出来ない俺にはできない芸当だろう。


「活殺自在、それが空手の極意よ!」


「なるほど、なら実践的に教えてください。」


 卓はどうやら、赤峰にも弟子入りするようだ。空手の技に炎術者としての能力。中位とはやはり、下位よりかなり強いらしい。格闘家単体なら赤峰に軍配が上がるが、総合力では卓に敵わないだろう。


「清水さん縮地って出来るっすか?」


「漫画のあれか?まぁ、出来るよ?現実の技だしね。理論的には体重移動を、前進エネルギーとして活かす歩法だよ。・・・、私達の身体能力なら瞬間移動じみた事ができるか?ちょっと検証に付き合ってもらうよ。」


「うっす!」


 そう言って数人で移動し始めた。すり足と違う様で、前足の力を抜いた瞬間に前傾姿勢になり、後ろ足で蹴り出す事で早く動いているようだ。ある程度移動できるようになると、集団で遠くへモンスターを倒しに行きたいというので、いつの間にか居た犬に煙をまとわせてついていかせた。


「皆さんすごいですね〜、私も身体能力あげたいな。一応、目と耳は良くなったんですけどね・・・。」


「防衛なら本来は後方だしね、それがあれば事足りるんじゃない?」


「そうなんですけど、移動とかが辛いのです・・・。」


 本来望田の職は動き回るようなものではなく、どこぞに据えて延々笛を吹いていればいいのだが、人には限界というものがある。聴力や視力が上がっても見えない、聞こえない状態なら・・・。


「出来るのは身体共鳴と反響定位かな?」


「反響定位、エコーロケーションはソナー音で分かりますけど、身体共鳴ですか?なんか凄そうですね!」


「いや、全然。単純に言うと上がる音を聞いて、身体が反応するって話だからね。ただ、これは馬鹿に出来ないよ?脳内麻薬ドパドパ出せるから。」


「それは・・・、大丈夫なんですかね?」


「まぁ、程々なら?近接職張りに前で戦おうと思うのが間違いで、カオリの場合中〜遠辺りが間合いでしょ?」


「まぁ、そうなんですけど、守れないのは嫌ですから・・・。」


 防人が出るなら、やはり守りたいものがあるのだろう。踏み込むかはデリケートな問題になってきそうだ。彼女が話すか、踏み込むか。それは難しい。仲良くなろうと、ましてや家族程近かろうと話したくない事はある。それは、個人の秘密であったり、言いたくない過去であったり。ここは1つ、待つとしよう。プライベートな問題ほどその本人の自主性に任せた方がいい。他人にはどうでもよくても、本人には重大な事など山ほどある。例えば、俺の身体の秘密とか。


「クロエさん、模擬戦をお願いしてもいいですか?」


 そう声を掛けたのは宮藤。はっきり言うと、手加減はできない。彼が魔術師:火を習得したのは目の前でみた。なにせ、彼は配信メンバー、つまりは初期の初期で職についている。そして、戦い方も秋葉原で戦った事も知っている。詰まる所、戯れで躱すには強すぎる・・・。


「受けないと不味い状況ですか?」


「ええ。クロエさんは、自分が何で火を選んだのかも知っている。そして、自分は強くなりたい。貴女と戦う事が中位に到れる条件であるとは、思っていませんがそれでも、貴女に挑みたいんです。魔法職の最高峰である貴女に。」

 

 そこまで俺は強い人間ではない・・・。だからこそ驕らない、思考を回し考える。出来る事を広げる。誰かがするであろう仕事の誰かとは、自分で有っても問題ない。自分勝手な考えで行動する。ただ、この状況で職について思うのだ、誰かができるのなら、そこにあるのは出来るという可能性で、可能性があるなら自分にも出来るし、自分の職にも出来るのではないかと。


「・・・、いいですよ、ここでは場所が悪い。全力を出したいのでしょ?なら16階層に行きましょう。」


「ありがとうございます。」


「いえ、脱出アイテムはありますね?」


「ええ!」


 お互いの回答に、それまで自主練をしていた組が、どよめき出す。講師陣の模擬戦、それも全力の言葉付き。誰もが見たいだろうソレは、未だに進めない16階層で行われるのなら見たいと言うと気持ちが湧き上がる。しかし、駄目なのだ。ギャラリーがいては、巻き込まないようにと手加減してしまう。


 宮藤と戦うなら殺しさえしないとしても、手加減などしている暇はない。きっと勝敗は意地と意地とのぶつかり合いの末に決着する。残る組に言葉を残し宮藤と2人16階層へ。周囲にモンスターが居たが問題はない。全てを宮藤が焼き尽くして灰にした。


「場所は少し離しましょう。誰かが興味本位で覗きに来たら危ない。」


 その言葉から彼の本気度が伺える。手加減は無い。しかし、殺せはしない。なら、決着は納得する事でしか決まらない。ある程度離れてお互い向かい合う。構えなんてモノはない、魔法職は既にそこにいるだけで戦う準備は出来ているのだから。だが、確認はしないといけない。自己完結で終わらせるには、余りにもあやふやだ。


「決着は納得でいいですか?」


「納得・・・、いえ、自分が地を這いずるまでお願いします。」


「・・・、かなり危ないし、私が這いずるかもしれませんよ?」


「まさか、貴女はそこまで弱くない。では!」


 宮藤の期待は重く、始まりの合図は既に放たれた。服の端に火が灯る。十八番の遠隔発火はしかし、発火点ごと煙で隠され消えていく。


『これは僕がやろう。』


『賢者が?』


『この前中位に至るのを見て、少し動きたくなった。』


『・・・、分かった任せよう。』


 キセルを1吸い。口から煙を吐き出せば、そこには映るだろう。何とも分からぬ影の姿が・・・。



________________________

 

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 自分と言う人間は平凡だ。幼少期にあった火事の経験こそあれ、他は普通。警察官になったのも、公務員が安定していると思ったから。事実、仕事は忙しかったけど、安定性は抜群の公務員。あの時、彼女の担当にならなければ、自分は未だに地方で警察官をしていただろう。


 模擬戦を依頼し、距離を20mは取っただろうか?発火させた彼女の服は、しかし煙で覆われ燃え上がる暇なく消された。イメージはあった、速度も結果も見えたが、それは煙に隠された。


「君の火は楽しげだ。見せる人がいれば、さぞ喜ぶだろう。」


 キセルを取り出し吸って吐き出された煙は、明らかに吸った量よりも多く、霧散する事なく周囲に揺蕩い視界を悪くする。彼女の十八番・・・、いや、テリトリーと言った方がいいのかも知れない煙の園。しかし、ソレは既に幾度となく見た。


「炎の家を建て、閉じ込められた先は、灰の中。燃え落とせ、炎害!」


 周囲の煙を炎の風で閉じ込め、一気に燃焼させる。炎の牢獄の中では酸素もなく、燃焼させれば真空になる。なら、煙が無くなるのは当然。産まれた火は自分の物、ならそれもまた操作できる。彼女の背後には、モクモクと煙が集まり濃さを増している。何かすると言うのなら、事を成す前に吹き飛ばそう。


「篝火よ。燃えては、広がり、埋め尽くし、花火の様に散りゆきて、周囲を照らし、事を成す・・・、炸裂!」


「立ち上り狼煙となりて木霊する。きれいな花火だ。」


 燃え広がった炎は下からの煙で、尾を引きながら上に押し上げられ、天高くで炸裂した。彼女は花火の所から言葉を紡ぎ出したが、その時点でイメージを上書きされた。・・・、打ち上げ花火か。確かに楽しいイメージの物だ。


 手持ち花火は炸裂しないし、これは仕方ない。妄想して、イメージを固めよう。隙を探しては発火をかけるが、うねる煙が発火点を覆い隠す。巧みだと思う。物理的に隠され、その上で煙は鎮火のイメージが付く。相性としては最悪の相手、水ならまだ蒸発のイメージがあるのだが・・・。


 片腕を失い接近戦では不利だが、彼女はそれを知っていても接近戦に持ち込もうとはしない。消えた炎の先でキセルをふかし、優しげな顔で佇んでいる。よし、自分はそもそも挑戦者。胸を借りるつもりでいこう!


「炎の如き試練の果て、友とたどり着く、願いの場、認めよう、自分は送火は焚きたくないのだと・・・。我が友達よ!陽炎よりいでよ!」


 秋葉原の情景が浮かぶ。死に行く者、会って言葉を交わし、散ったもの、腕を失った自分を守り、身代わりに果てた者、母の名を叫びながら事切れた者、泣きながら逃げた者、逃げた先で死んだ者、或いは、生き残った者。共に地獄を歩み生還した者。誰もが命の炎を燃やしていた。誰かの命の炎が燃え尽きた。全ての記憶は炎の中に燃え落ち、戦人(いくさびと)は黙して進む。その試練の果てには、きっと護りたかった者の笑顔があるはずなのだから!


「行こうみんな。自分と歩んで欲しい。」


 陽炎より出た揺らめきは、具現化されて法を破る。すまない、みんな不格好だな。腕が、足が、或いは首や腹に穴が・・・。その姿が脳裏に焼き付いてしまったんだ。小田さんから、腕を再生しないかと言う申し出はあった。でも、この無くなった腕は君達との絆。だから、多分もう生身の腕は死ぬまで生やさないよ。義手で十分、それさえも君達とならきっと動かせる。


「やはり、君の炎は楽しげだ。なにせ一人じゃない。なら、僕もそれに付き合おう。ただ、多少手厳しいよ?」


「望むところです!」


「姿なきモノ達よ、貸してやろう、仮初の身体を。歩ませてやろう、葬送の道を。師の言葉を聴け。汝等は何ぞ?」


 紡がれた言葉は煙に消え、その先からは煙で出来たモンスターが這い出てくる。どれもこれも見覚えがあるそれは、きっと秋葉原で見たモノ。再演・・・、その言葉が脳裏を横切る。確かにこれは手厳しい。自分は勝って生き残った。しかし、歩もうと声をかけた同胞は、散った者達の影法師。


「臆するか?恐怖するか?ならば、停まれ。道を探せ。歩む道は迷いの中にある。」


「そうですね・・・、うん。」


 道は沢山ある。逃げた先にも道はあるし、納得できなくても道はある。振り返っても、やはりそこは道で、歩き出しても道になる。うん、感謝しよう。歩む道を選べる事に。共に歩む事が出来る友がいる事に、そして、その道を歩むすべを手に入れられた事に。


 一歩踏み出す・・・。道は決まった。楽しげに語らえはしないが、歩んでくれる者達もいた、なら、自分は止まらない。感謝しよう、生きて歩めた事に。


「行きますよ?」


「ああ、来るといい。待っていよう。」


 互いの同胞達が動き出す。自分の同胞は歓喜と友愛を持って、突き進む。煙のモンスター達は、無言で同胞達を圧し潰そうと、煙に乗ってあらゆる所に現れる。でも、大丈夫だよ。君達は既に自分の中にいる!


 煙に巻かれ、腕がなくなった者があった。元の姿は覚えている、だから言葉を紡ぐ。身体が引き千切られた者があった、言葉を紡ぐ。圧し潰された者、消された者、食われた者、齧り取られた者、声無く悲鳴を上げる者、怒りに身を任せ特攻する者、自身の無力を嘆く者、全ていて、語っていける。伝えられる!自分は君達に生かされ、その姿を焼き付けたのだから!


「ほら、まだまだいるぞ?」


「炎の如き試練は乗り越えられる。自分は1人では無いですから・・・。歩み語らい、伝えよう。君達の軌跡を自分は知っている!前へ!・・・、前へ!!乗り越えた先の、自らの帰る場所へ!共に行こう!」


 炎の同胞は止まらない。行先が見えたから、帰る所を知っているから、なら、その苦難の道は、踏んで均して平らにして、後から来る者達の道とする。増えた煙のモンスターを1人で足りないのなら、数を増やして倒していく。一歩、また一歩と歩みを進める。距離はもうない。歩む先の到着地点はもう見えている。


「・・・、辿り着きました。」


「おめでとう。久々に会って楽しかったかい?」


 辿り着いた先の彼女は、咥えていたキセルを手に持ち口を開く。話す声は同じはずだが、何処か快活な老人を思わせる。周囲に漂っていた煙は既になく、自分の周りにはかつての仲間の影法師が勢ぞろい。彼女はまだ戦えるだろうが、煙が無いのなら、その気はもう無いのだろう。


「えぇ。でも、これからは語り合える。自分はやはり、卓君の様にはなれません。これ程イメージが離れていては、きっと彼を邪魔してしまう。」


「だろうね。でもまぁ年長者は背中を魅せるものだよ。君の背中は中々魅力的だ。これからも憧れられるよ。」


「ふふ、クロエさんに魅力的と言われるとこそばゆいですね。・・・、模擬戦ありがとうございました。どうやら至れた様です。」


「そうかい、それは良かった。次は決めた?」


 彼女は戯けたように聞いてくる。元からあったスクリプター、記者、そして新たに盾師が追加されたけど、自分の選ぶモノは見えている。むしろ、これじゃないといけない。 


「記者です。これで、彼等を伝えられる。」


「そうか。うん、君はその道を選んだんだね。」


 記者・・・、元からあって選ばなかった職。盾師は、堅牢、カバーリング、衝撃と説明にあるけど自分には必要ない。記者は伝達、拡散、そして伝承。この能力があれば、きっと彼等を伝えて強化していける。自分は1人で戦うのではないのだから。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「宮藤さんはブリュンヒルデではなく館の方か。」


「え?館?」


 賢者は満足したのかごろ寝した。まぁ、あくまでイメージだが・・・、しかし、宮藤も中位に至ったか。魔女や賢者、それでなくとも予感はあった。それは寄越せと言った第6感の為せる技かは知らないが割と最近よく当たる。これで2人目。動画が無いので、また千代田に文句を言われそうだ。次から予感がする時はカメラを構えて置こうかな・・・。


「炎の館、北欧神話の伝承。ブリュンヒルデ、簡単に言うとヴァルキリーの住む家ですね。」


「ほう、そんなものが。と、言う事はヴァルハラで英霊・・・、うんうん!」


 何やら思いついたようだ。彼は秋葉原(ラグナロク)を生き抜いて次の戦に備えている。なら、彼と共にある火の人形達は、英霊と言っても過言ではないのか?変な事を言うと宮藤のイメージが崩れそうなので、口出しは控えよう。


「よし、卓君には正式に、補助を外れて貰いましょう。色々助かっていますが、彼にも彼の道がある。」


「宮藤さんが良くても、卓君が何と言うかですね。まぁ、格闘家の練習もあるので、その辺りは本人が決めるでしょう。」


 同じ術者でも中身は正反対、卓がワンマンアーミーなら宮藤は部隊活動。優劣はないが、得手不得手はかなり差がある。それはそうと、おめでたい事ではある。


「今日も宴会しましょうか。」


「いや、昨日の今日なんで、次は近接職の人と合同でやりましょう。今回は、公表だけに留めておいて下さい。しかし、クロエさん。明日から大変ですよ?」


「ん?なにかありま・・・、うわっ!模擬戦が増える?」


 宮藤が模擬戦で至ったという事が分かれば、当然それに倣おうとする。何なら助言よこせも増えてくる。助言をするのはいいが模擬戦かぁ、モンスター相手なら上がるけど、人相手では中々上がらない。むしろ、1人でモンスター倒して回った方が気分は上がる。


「まぁ、人数決めてしたい人がいたら・・・。」


「赤峰さん辺りが真っ先に来ますよ?近接職はまだ、誰も至ってませんから。」


「この身体で殴り合いは厳しいですね・・・。何か考えましょう。」

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[一言] 何が食われたんだ?
[一言] 初期アイテムにキセルなんて日本由来のものがあるなら 職にも日本のものがあるんですかね 忍者とか侍とか
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