452話 宇宙開発の夜明け 挿絵あり
「さてと、増田さんは今日で引き上げと言う事ですが何時のフライトですか?」
「予定では最終便となります。実りのある視察でしたね、フェリエットさんの公表に付いては今しばらく待つ事になりますが、先に他国等の獣人が職に就いたと情報が入ればその限りではありません。ただ、その獣人の職が妖怪でなければ秘匿延長でお願いします。」
「了解したいですが魔術の練習はどうしますか?私としては比重が偏る前に魔術の練習を始めたい。」
「その点はセーフスペースを利用するか、可能なら座学でお願いします。何分指輪の中が見れると知られるのはまずい。それと、国際会議の場はスイスとなります。」
「スイスと言うとジュネーブですか・・・。国連本部で開催すると言う話で間違いないみたいですね。まぁ、それは政治家に任せましょう。私は行きたくないですし。」
「その点は心得ていますがオンライン出席の打診は覚悟してください。」
「話す事はなにもないんですけどねぇ・・・。」
朝から出勤して本部長室で話しているが、国際会議に紹介されても何を言われるのかねぇ?祭壇さっさと探せはまぁ、交渉権を無駄にしたくないと言う話で分かる。分かるが交渉しようにも材料がないので雑談で多分終わりだろう。仮に喜ばしい状態を引き出すならゲート等の話を聞くとか?
色々な人が鑑定せずにゲートを調べている様だが未だに不明な点は多いし、エラーとなる項目の詳細が分かればこちらとしても動きやすい。その他挙げられるとすれば増田の言う他の宇宙人発見時に協力してくれとか?サンプルデータは配信動画しかないのでそれが読み解ける人がいれば任せたいが、今の所その話は聞かない。
国として秘匿しているとも考えられるが、それならそれで利権を独り占めする為にこの話が出たら反対するだろう。まぁ、読み解けたと言い出した人物が土壇場で分からないと言い出したら目も当てられないし、本当に読み解けたか検証するのは難しい。
別に国連そのものは嫌いではない。193カ国が加盟する組織なのでトップがどうこう言おうがその思惑だけで動くわけでもないし、今の所どこかの国が脱退したと言う話も聞かないので現場レベルでの運用は正常なのだろう。ただ、ありそうなのは世界的にギルドを作る動きが過熱しているので、日本のギルドも取り込みたいとか?
他国が作ろうとしているギルドもスィーパーの管理者と言う側面が強い。日本の様に託児所があったり取り引きの仲介をしているかは知らないが、スィーパー犯罪者に対する警察と言う立場が主な様だ。まぁ、ウチも犯罪者の捜索には協力するので悪い事ではない。悪い事ではないが、スタンピード発生時に毎回名指しで日本からの派遣を叫ばれてもどうしようか迷う。
言ってしまえば地球規模の問題だとしても戦地に日本人を送るのか?その話に行き着いてしまうのだ。米国の時は同盟国として積み上げてきた実績があったし、親日国なら折る骨もあるだろうが、そうでない国の場合どう転ぶかは分からない。そもそも応援に来てほしい国と来てほしくない国も国の付き合いとしてはあるだろう。
更に言えば国連の私物にされるのも拒否したい。日本としてもそれは拒否するだろうが慎重な舵取りをしてもらわないと割食うのは俺達である。他の国でも中位は誕生してるし次までは戦力増強期間と位置づけて自分達で頑張ってもらう方が得策だとは思うが・・・。
「クロにゃんおは〜。増田さんもいたんだおは〜。」
「おはようございます。」
「おはよう、どうかしました神志那さん。今の時間帯だと鑑定とフェリエットの職調査をしていると思ってましたが。」
挨拶をしながら入って来た神志那がコップにコーヒーを注ぎ適当に椅子を出して座る。態度からして急を要するものではないと思うがなんだろう?変なスィーパーに難癖付けられたと言うなら出向いて話すというのもやぶさかではない。
学生が増えた分変な事を言い出す奴はそこそこいるんだよな・・・。例えばアプリで出土品調べて納得いかずに判定機で調べてもまだ納得出来ず、神志那の所に持ち込んで鑑定してもらってもまだ納得しない。
例えるなら骨董品だろうか?有名な陶芸家の皿を30万で買ったとして、それを鑑定してもらったら100円。文句言いたい気持ちも分かるが判断は下されている。たた、そこでふと思うのは鑑定師がこの皿を90万と言えばその値で売れるのではないか?と言う事。
ギルドも信用商売と言うか、信用を欠いた時点で立ち行かなくなるのでその点だけは口酸っぱく言っている。不正はするな、法を違えるな、意見が食い違うなら多方面から人を集めて判断を下せと。神志那の鑑定に納得しない奴の時は警察からも鑑定師呼んで薬を鑑定してもらったな・・・。
「鑑定は学生が増えたからめっちゃ多いけど、判定機とスマホアプリの使い方教えたからそこそこさばけてるし変なもんはでてないよ〜。フェリにゃんはソフィっちと科学実験動画とアニメ鑑賞会中〜。これで魔術イメージの基礎が作れるか検証出来ればいいけど眠そうなんだよね。」
「基本的に猫ってじっとしてるのは苦手ですからね。ただテストは真面目に受けたので要は達成目標があるか否かじゃないですか?」
「私もそう思ったから、見たら食べていいおやつおいてきた。ここに来たのは宇宙エレベーター建設に着いての説明が主かな?斎藤っちと山口さんが共同で理論構築して他のメンバーと理論バトルの末に方向性が決まったんだって。クロにゃんは大株主だし宇宙に行く可能性があるから先に説明しといてだってさ。」
「ふむ、昨日JAXAとNASAが共同プロジェクトを発足したとニュースで見ましたが既に開発に着手していると?増田さんはなにか聞いてます?私はJAXAからよく思われてないのでなんな話も聞かないですけど。」
田辺理事とブラックホールエンジンの件で言い合って以降、JAXAから俺に接触してくる事はない。まぁ、スィーパーの管理と宇宙開発は畑違いもいいところなので当然と言えば当然だし、ブラックホールを作ったとも聞かないので計画が頓挫して宇宙エレベーター開発に舵を切ったとか?
「私もその辺りは詳しく聞いていません。ただ所管する省庁から宇宙開発を優先しろと圧力があった可能性はある。共産圏が連日の様にスペースシャトルを打ち上げていますからね。」
「目に見えない開発よりも現物と実績の方が政治家は喜びますからね。長い目で見て予算の割り振りを増やす為でしょう。佐沼さんの会社、東洋技術開発も高槻製薬と株式提携して傘下に入ってますし懐はどんどん加熱してますし。」
「それについては危険視する声がないわけではない。ですが国営にするリスクを考えると現状を変える方法もない。不用意な事は自重してください。」
「私は配当貰うだけで何も口出ししませんよ。それで、どんな感じに作るんですか?やっぱりケーブル使っての巻き上げ式?」
斎藤的には研究していたカーボンナノチューブを使いたいだろうし、エレベーターと言うなら箱に入って巻き上げてもらうか、ピストン式の様に同質量の何かを反対から降ろすのが筋かな?ラボで見たUFOもケーブルに繋がってたし。ただ、山口と共同となるととうだろう?斎藤がマシンガントークでミンチよりひでぇ状態になってないとも限らないが・・・。
「エレベーターって言うとそう考えちゃうよね〜。でも、斎藤っちは英断を下したのさ!」
「英断?ケーブル式をやめたんですか?」
「使わない事はないけど飛行ユニットの特性を考えた時に地上までケーブル張るのはリスクしかないからね。そもそもエレベーターって昇降装置じゃん。安全確実を目指すと物理的になにかに繋ぐと問題が出てくるんだわさ。そこでクエスチョン!どんな問題があるか増田さん出して。」
「問題点・・・、やはり地球の自転速度との整合性でしょうか?ケーブルで繋ぐからには地球と同速で移動する必要性があります。ケーブルの強度にもよるでしょうが、誤差を許容範囲出来ないまでズレが発生した場合宇宙ステーション側が外宇宙に放出される可能性がある。」
宇宙ステーション側がどこに作られるかは分からないが、増田が言っているのはスイングバイの事だろう。イメージとしてはハンマー投げの様に地球から伸びたケーブルで宇宙ステーションをぐるぐる人工衛星の様に振り回しているが、速度がズレればケーブルにかかる力は増すし、速すぎてもやはり厳しくなる。つまり永続的に等速での飛行をしないといけないし、仮にケーブルが切れればその飛行速度のまま地球の周りを回り続けて軌道が少しでもズレればそのまま放出されてしまう。
「惜しい!確かにその問題は大きいけど他の企業が2050年辺りならどうにかなるって話を出してるよ。もっと物理的な問題でケーブルで繋ぐって事はそのケーブルに隕石やらスペースデブリが激突する可能性があんのよ。2020年のシュミレーションだと10%以上物体同士が衝突する確率があるって出てるし、繋ぎ止めるケーブルは細く出来ない。デブリの大きさも問題で1mmで軽症10cm以上で大破。ケーブルぶった切るだけならまだ立て直せるけど、切らずにケーブルを巻き込んで宇宙ステーションの高度を下げたらなし崩し的にバンバンデブリに撃ち抜かれる可能性がある。」
「話を聞くだけだとかなりリスキーな物を建造している様に聞こえるのですが・・・。」
「確かにリスキーですけど飛行ユニットの特性的にノーリスクな部分もありますね。なるほど、静止軌道を超えて更に外に宇宙ステーションを設置するつもりですか?あの辺りなら静止軌道を超えれば人工的なデブリは少なかったはずですが。」
「場所的にはね。静止軌道や低軌道周辺は人工衛星で大混雑してるからラボと同規格の物を設置すると混雑どころか事故まっしぐらだし。設置場所から地球までの距離を考えると現実的じゃない。だから、昇降装置として運用してケーブルで地上と繋ぐのはなし。地球側には受け皿設置して宇宙で宇宙ステーションに接近したらケーブルで繋ぐ方式にするんだって。」
ロケットよりも安価な宇宙への定期便か。確かに地上と物理的に繋ぐ事を止めたのは英断だな。スペースデブリ衝突も怖いがテロリストがケーブルを狙わないとも限らないし。
「では、形はどうされるのですか?円筒形の筒のような物を使い宇宙と地上を行き来すると思っていましたが。」
「形は球体だよ増田さん。それ以外は出来ない事もないけど安定性にかけちゃうからね。どこかに平らな面や角があると何かが衝突した時にその一点に衝撃が集中してすぐに壊れちゃう。球体にして対衝撃分散性と斥力を全方位に発生させやすくするの。重力下で飛行するなら引力で引っ張ってもらうけど宇宙では引力に対する斥力を全方位に出して静止する。そして、地球から離脱する時は斥力でデブリをある程度吹っ飛ばしつつ進んでく。やったね!人類は対物理障壁を手に入れぜ!ヒャッホイこれで亜光速も夢じゃない!」
「・・・、クロエはどういう事か理解できますか?」
「概要なら。要すれば衝突物に対して反発する力を纏って撃ち返すって事でしょう。それが平面よりも流線型の方が力は分散するし小型な物よりは大きい方が力は増すし分散もしやすい。弾丸を鉄骨で受け止めたらめり込みますが鉄球で受け止めたら中心点で受け止めない限りどこかの方向に飛んでいくでしょう?私はアダムスキー型のUFOをイメージした時に重力下では上下があるでしょうが、宇宙空間なら屋根を前面にして飛行してると思ってますよ。」
要は平面よりも流線型の方が分散力は増すという話だな。盾を作るとして平べったい盾なら受け止める方向にウェイトを置くが、曲面なら受け流す方にウェイトをおく。隕石が宇宙ステーションに突っ込んできたとしてそれを受け止める労力は膨大だが、側を通り過ぎさせるだけなら被害は軽微だし、飛行ユニットなので早期発見できれば回避行動も取れる。ケーブルに繋がれた宇宙ステーションなら回避と言う選択肢は皆無となるが、摩擦力のない中で引力を使うなら高速移動も可能。
デス・スターが丸い形だったけど色々考えていけばあの形は理にかなってるのか。まぁ、剥き出しの部分から戦闘機の侵入を許して撃墜されてしまったが・・・。しかし、かなり話は詰まってるんだな。残るのはドッキング方式とか?
「次は物理や科学の勉強ですか・・・。全く持って忙しない。」
「半分は空想科学が現実性を帯びたとも言えますけどね。宇宙ステーションの座標は割り出せるとして、球体同士移動はどうするんですか?まさかパワードスーツ着て飛んで来いとは言いませんよね?」
「この辺りはまだ実験段階だけど聞いた話の中では、半レーザー誘導方式で導いて、外殻はカーボンナノチューブのワイヤーで固定が妥当かなぁ。斎藤っちはドッグをイメージしてステーション側の防御膜に使えるならダイラタンシー流体使いたいって言ってたけど。」
「問題は表面張力と不凍性ですね。無重力で雑巾を絞っても水は飛び散りませんでしたけど、ただの水なら凍りますし。しかしレーザー誘導方式って大丈夫なんですかね?」
「光の特性は直進だからにゃあ。対戦車ミサイルと同じ原理でエレベーター側がレーザーを受信して中心に向かって行く感じ。手動切り替えを残してるのは何らかの問題が発生した場合はエレベーター側で接続を離脱するする為だね。まぁ、下手するとビリヤードの玉みたいにお互いに反発するから接続時はかなりゆっくりになるみたいだよ。その後は通路を伸ばして接続だせ!因みに作る素材は主に石英ガラスだね。ラボ同様にやるみたい。」
液体使いたいと言うから泳がされるかと思ったが、宇宙遠泳はしなくて済むらしい。まぁ、真空の宇宙に放り出されるよりは液体膜の中の方が生存率は高いのかな?素材が石英ガラスなら対酸対アルカリ、宇宙線への耐性等理想的ではある。反面割れるのでデブリ対策やら劣化対策も必要といえば・・・、劣化は固定処理でどうにかなるか。話した限りだと後はステーションその物の住みやすさとか?取り合えず寒くないといいがどうなのだろう?
電力ヒーターでまるっと温めてしまうのもありと言えばありだし、広げるタイプの太陽光パネルでも塗るタイプの太陽光パネルでもクリスタルリアクターでも電力確保は出来る。文字通り宇宙への架け橋とでも言える代物だがどれくらいで作るつもりだろうか?
「建造には何年を予定しているのですか?大規模構造物となるとそれ相応の時間が必要だと思いますが。」
「最短で来年の今頃とかかな?ラボの設計図を元に外観や設計方式はあるし、不要な部分は減らせる。例えば底面部の鏡とか防御機構は宇宙ステーションにするなら必要ないし、代わりにバイオマスとか誘導システム入れるスペースにした方がいい。フロア構造にして一区画全てサーバールームなんて案もあるし、私もそっちに参加したくなって震えて来たぜ!」
「必要な要請は蹴りませんがギルドの仕事も忘れないでくださいよ?夏休みにスィーパーになった学生が学校始まったからと言って来ないとは言えないんですから。」
「あい・・・。実際フェリにゃんの方も気になるしにゃあ。魔術ってやっぱり飛び道具限定的な感じ?」
「それは本人のイメージ次第ですね。卓みたいに拳から火を吹き出しながら殴るのも魔術なら辺りを消し飛ばすのも魔術。突き詰めていくと人に出来ない事をするのが魔術です。だから最後は法を破る。」
不可能を可能にするなんて言葉があるが、人は不可能を可能にしながら歴史を刻み道を作り出来なかったな昨日を出来る今日に変えてきた。魔法とは言わばその出来ないを消して上書きする絵の具のような物だ。だから魔術師何々は自分がイメージしやすいものが出る。ただ、神志那が聞いてくるって事は魔術系で何か引っかかったかな?
「う〜ん・・・、フェリにゃんがどんどこ魔術使いたいって欲求はあるみたいなんだけど、私も魔術師じゃないからね。その辺りは丸投げしていい?」
「構いませんよ。魔術については私も教える予定でしたし、場所もセーフスペースならいいと増田さんから聞きました。そのうちフェリエットが増田さんにリベンジマッチを申し出るかもしれませんよ?」
「その時は観察抜きでお相手します。ただやるなら早めに連絡は頂きたい。ただでさえ多忙ですからね。」
「単純にこっち見んな案件が多いからでしょう?人に願うのは勝手ですがその願いを聞き入れる入れないは自由ですよ?宇宙に出て宇宙人が見つからないからと言って文句垂れるのは自由ですが、その文句の矛先は見つからない宇宙人へではなく自分自身へです。」
「それでも未知との遭遇を考えたら多少でも意思疎通出来る方へお願いしたい気持ちも分かる。国際会議の日程等は後日送ります。」
そう言って増田が帰ろうとするが何をこのままフェイドアウトしようとしてやがる!帰るのは最終便、繰り返すが帰るのは最終便!今はまだ昼を少し過ぎた辺りだ。ここで話し込んだ分仕事が溜まってるんだよ!
「青山〜、増田さんを確保!」
「既に背後を取ってます!」
「なっ!」
「溜まってる仕事があるんです。手伝うの嫌とは言わせませんよ?東京ギルドの時手伝ったんですからね!それに橘さんの監査も近いんでやる事は多いんです。」
「なっ!私がいなくとも書類仕事は終わるでしょう!?」
「私鑑定の仕事あるから帰るね〜。」
「お疲れ様でした神志那さん。何かあったらまた声かけてください。増田さん、1人より2人、2人よりも3人です。青山は引き続き学生のいざこざが発生しない様に指導方面・・・。」
「俺もここで書類の山に埋もれたい。大丈夫です!ご飯も運んできますし書類も運んできます!PC作業も共同作業としてどんどんやりましょう!」




