427話 決着後 挿絵あり
フェリエットは善戦したと言っていいだろう。自身の持てる手札は全て出したと思うし、立ち上がりも増田が様子見を決め込んでいたとしても有利に運んでいた。そもそも狩人はS職の中でもかなり戦闘よりなんだよな。俺が増田と同じ職で様子見しないとするなら、最初からありったけの愛を込めて全て爆破する。
それこそ自身が隠れる用の木を残し地面も草も他の木も含めてまっさらにした後、木に隠れたままひたすら罠と銃で牽制しながらダメージを蓄積させて隙を見つけたならそこで更に烈火に攻めて勝利を掴む。
フェリエットの敗因を考えると、勝負の組み立て方と魔術に対する知識不足だろうか?接近戦で武術を知らないのは仕方ない。しかし、野生の勘とでも言えばいいのか隙はあまり見逃していなかった。だが、猫ではなく人の身体となった事で猫とは違う体重移動もある。増田にすっ転ばされたのもそれが要因の1つだろう。あれはどちらかと言えば合気道とか柔道方面の技だし、捕縛術と言われればそれなのかもしれない。
なんにせよフェリエットの戦闘スタイルも見れたし、他のスィーパーと同じ様にモンスターとも戦える。後は魔術を勉強する気になるかだな。まぁ、負けて悔しがっていれば出て来た時に愚痴くらいは聞いてやろう。
コンソールを離れて先に本部長室へ。増田達はまだ来ていないので、今回の戦闘を元にして獣人達にどう言ったイメージが不足しているかを文章にまとめていく。取り敢えず足りないのは相互作用系だろうか?人なら当然学びイメージ出来るのだろうが、四足歩行から二足歩行に変わっただけですっ転ばされるのは少しまずい。
身体能力的には足払いされた所でそのまま側転して相手の腕をねじ切るくらいやれそうだし、水で木が貫通出来ないのも水圧がどの程度凶悪かを知らないからだろう。増田が大爆発を起こすならフェリエットは水球に籠もってやり過ごす。その程度の駆け引きは出来た方がいい。
瞬間発火や瞬間蒸発は確かに便利だが、水球を浮かべてビームを屈折させるのに使う事もあれば夕闇を灯す火は燃え続けないといけない。なんにせよイメージと経験による積み重ねに知識だ。タブレットの中の問題は確かに知識をくれるが経験はなく、画像も少ないので反応状況を考える教材としてはいささか不足しているな。元々は有名学校のへの入試問題を掻き集めたものなので、それを求めるのは酷だろうが、次のステップに進む時の為に何か模索をしよう。
「戻りました。」
「お疲れ様でした。観察は済みましたか?あと、フェリエットは増田さんから降りる。そこまで重くないにしても背中にへばりついて頭に噛み付いてたら変に見られるだろう?と、言うか増田さんはそのままここに来たんですか?」
「離れませんでしたので。ポチ君もたまにこうしてへばりついているので大丈夫と言えば大丈夫です。」
増田的には日常なのだろうが、たいそう人相の悪い男に噛みつく美少女。なにかの漫画でありそうな一コマだが、現実で見るとなんとも。そう言えば昔どこかの有名な芸人が芸人は漫画やアニメに勝てないと言っていた。理由は単純で人のリアクション限界をアニメや漫画は軽く超えるから。人は涙を滝の様に流せないし、その涙がアメリカンクラッカーの様に跳ねる事もない。
まぁ、俺はドラマなんかは見ないが妻曰く最近はスィーパーやりながら俳優をやる人もいるので、コメディードラマなら本当に目から滝の様に水が流れたり、女の子がビンタしたらはるか彼方まで吹っ飛ぶなんて演出もノーカットCGなしでやる様だ。
人がフィクションに追いついたと言えばいいのか、演技のレパートリーが増えたと言えばいいのか分からないが、リズム芸人ならぬ吹き出し効果音芸人なんてのもいるので悪くはないのだろう。ただ、その芸人を見ると画面がうるさいと見えなくもないが・・・。
「松田さんじゃなくて増田さんにへばりつくあたり、何か親近感を持たれているのかもしれませんね。さてと、フェリエットをソフィアの護衛として起用する件に対して私は可能だと判断しますが?」
「その前に1つ伺いたい。フェリエットさんは昨日と今日でどの程度魔術を使用可能になったのですか?或いは何を手ほどきしました?」
「手ほどきした内容?戦闘面では心構え程度で魔術については一晩かけて火が出せる程度。雷は朝飯食べてる時にイメージを持たせたくらいですね。そうは言っても基本的にはフェリエット自身の力ですよ。ほらフェリエット、降りてこっちに来なさい。煮干しあげるから。」
「は、腹が減ったなぁ〜。見過ぎて目が回るなぁ〜。」
「朝飯は食べただろう?足りないなら仕方ないが、金貨渡すから食堂で食べてきなさい。時間的には少し早い昼食としてもいい。ただ、ソフィアに一声かけるように。」
指輪から金貨を数枚取り出しフェリエットに投げるとパシリと受け取り部屋を出ていく。身体は動かしていないがそれでも腹がそんなに減るものだろうか?R・U・R初体験と言うわけではなく子供モードで格闘家やらの職は使うというが、その時はそこまで腹が減ったとは言ってなかった様な・・・。
R・U・Rに妖怪と言う職が組み込まれていないので追跡者の身体能力と魔術師全般のデータを引っ張ってきて妖怪風の職としたが、頭を使いすぎてごっそりと糖分がなくなったとか?今度から飴でも持たせてやろうかな?身体使わずに疲れると言えばそこだし、見過ぎたと言うのは増田の周りに回復薬のオブジェを浮かせていたからだろう。
見え方は別として指輪の中身が見えるフェリエットなら多分こんな感じとしてコンソールでいじったが、それも疲れた要因の1つとか?う〜む、その部分は先に話して削っても良かったのかな?ただ、対人戦でそのアドバンテージを無くすのは多少可哀想な気もするし・・・。
「その手腕が私にも欲しいものですね。魔術の進展はこれ以上にあると思っても?」
「本人次第でしょう。比重があるならバランスとって両方伸ばしたいですが、今回の模擬戦でどう転ぶかは分かりません。本人が面白いと思えば伸びるでしょうし、近接の方が性に合ってると思えばそれまで。まぁ、悔しそうな所を見るとやるんじゃないですか?」
自己鍛錬とは無報酬である。見返りは多分目に見えない強くなったかもと言う実感のみ。ボディービルダーがボクサーに勝てるかと言われれば勝てない事もないが技術がないのでひたすら的にされる可能性が高いし、逆にルール無しならタックルから押し倒してマウント取ってボコボコにする事も出来る。
要はルール無用のスィーパーと戦う場合、何処かに自信のある要素を持つと言う話になってくるだろう。獣人の場合スィーパーに対しては勝てないと言うか、一歩引いていると言う感覚もあるし同じ土俵に上がったとしても日が浅すぎて勝てるルートを模索するところから。
そのうち模擬戦でフェリエットが誰かに勝てれば自信も付くのだろうが、その機会がいつになるかは分からないなぁ。わざと負けて自信をつけさせると言う話もあるが、あからさますぎれば天狗になるし、出来れば接戦の末の勝利が望ましい。学校に行くと言う話ならライバルも出来るのかな?公表に待ったがかかっているので、オープンな模擬戦はほとんど出来ないだろうし、相手も限られる。
「魔術と接戦の出来る妖怪。将来的には背中を預けるに値する存在となりますが、獣人は妖怪と言う職がメインとして出ると考えますか?」
「う〜ん・・・、私が決める事ではないと言うのが前提ですが、フェリエットにはそれしか出なかった。多分、他を知らないからでしょう。戦った通り格闘術は修めていませんし、魔術も見ただけと言う状態です。言い方は悪いですが試金石と取るならこの先に他の職があるのでは?」
世代を重ねて出来るイメージが付けば他の職にも付けるのかも。それが何世代かかるかは分からないが、ゲートと言うか魔女達の中で出来ると判断すれば他の職も出てくるかも、
「隣人ですか。扱いの悪い国はこの先更に厳しくなる。」
「人と似た存在をぞんざいに扱ったんです。優先度は仕方ないにしてもそれに納得出来るかは別ですからね。」




