閑話 90 走破中 挿絵あり
快楽と娯楽の違いとは何か?一度ツカサに聞いた事がある。モンスターと戦う時に娯楽ならいいと言うけど、どちらも楽しむ行為で間違いはない。なら、その違いとは?回答は溺れるか溺れないか。下を見るか上を見るかだそうだ。分かりやすく言うなら私やエマ達が15階層辺りでモンスターを狩るのは快楽だと言う。
確かにその辺りのモンスターに負ける気はしないし、大群でかかってこられても凌ぎ切る自負がある。確かにその道は歩いた後の道で、振り返ったとしてもよほどの事がない限り躓く事はない。仮に私達がそこに赴くとするなら新しいイメージを形にする時だろうか?
「ハミング伝達ダ。カオリが暴れるから前線組を少し下げロ。」
「いいんですかい?防人は防衛職って聞いてますが。」
「構わン。巻き込まれないと思うがフレンドリーファイアは避けたイ。それニ、彼女は1人で20階層以降をバイトと下位の時点で散歩していタ。」
「了解、目はなさないが見学させてもらいますかね?」
後ろの会話は確かに伝達され私と走るバイトがモンスターを切り裂くように進む。歌人へと至り記者の職を得て私が新しく手に入れた武器は宮藤さんの様な手帳ではなく勝手に浮かぶ楽譜。まぁ、最初は真っ黒で今は灰色のこれに譜面はないけど確かにこれは私が奏でるべき音を集約してくれてる。
「さぁ!行きますよ!!」
灰色のフルートの様な横笛を構え一吹き。作られた音はエコーボールで広がり更に記者の職により伝達されて拡散する。響いて広がればいい。私の職は伝える事に集約されるのだから。『チンッ!』と言う音で一部のモンスターが崩れ逃れたモンスターも肉感的な部分からすぐに消える湯気を上げる。お得意のレンチン攻撃は確かに成立する。しかし、これはさらなるイメージの布石。仮にツカサが宇宙に行ったとして真空の宇宙では音は響かない。なら、どうすればいいのか?答えはこの攻撃で音を鳴らす原理は振動にある。一度この職についてツカサと話した時に言われた。
「防衛職って言うけどそもそも盾じゃないんだよカオリは。防衛するって事は明確に攻めてくる敵がいると言う事でしょう?凄く分かりやすいよね、攻められたら守る為に相手を倒せばいい。そして、攻めてくるだろう敵もまた倒せば防衛は成立する。なにせ敵がいなければ防衛状態は理想的に推移して安全が確保できるんだから。」
ただ守るだけが能じゃない。私の職は身体能力こそ上がらないものの耳だけはすこぶる良くなった。なら、それを頼りにしていけば聞こえてくるのだ、そのモノが発する壊れやすい音が。固有振動と共振。数式は理解し、何度も問題を解いて頭に馴染ませてモンスター各個から反射してくる音を整理して理解した上で伝達して返す。
本来なら神志那さんや宮藤さんみたいに移動装置を操るまで出来ればいいんだろうけど、生憎と笛だろうとマイク型だろうとなんならメガホンだろうと扱いが下手なのか常に移動装置を片手で持つ事になる。まぁ、今はパワードスーツも手に入れたから改善されたけど、アレの扱いも結構しんどい。なにせ頭部はむき出しじゃないと音は奏でづらいし、そのせいで飛行ユニットの制御を足に集約したから下手に踏ん張るとロケットみたいに一直線に飛んでいく。
ユーモアとしては面白いのだろうけど、流石に音速を超えて光速に近づくのは怖い。音を拾って飛ぶしかないのにその音を置き去りにしたら飛行ルートなんて作りようがないし・・・。帰ったら目隠しして生活してみようかな?エコーロケーションの制度が上がればなんとかなるかもしれないし。
「そのビームは危ないので拒絶します!エコーボール直下、斬撃音!指揮官タイプの投擲・・・、モンスター爆弾?悪いですが不発です。広範囲、再度『チンッ!』残ったモンスターは再度固有振動で分子崩壊!クリスタル以外はいりません。今回素材回収は考慮しませんからね!マインドサウンド、アドレナリン全開ーー!!」
モンスターを倒す横でバイトも矢の様に突き進む。ただ、噛みつきではなくその前足や尾でモンスターを打ち据え切り裂く。ツカサ曰く実態のある幻影は現実に作用するけど代償を払うそうだ。それがツカサの決めたルールで魔法なのか、それとも魔法とはそういうものなのかは分からない。分からないけど、元が煙ならそれは確かに濃かろうといずれは消えて元の姿をさらしてしまう。
「バイトちゃん背中借りますよ!」
「アォーーーンーー!!」
返事をしてくれればなんとなく言っている事は分かる。鳴きもせずに息を殺す様にツカサの近くでは大人しい犬だけど、暴れていいとの許可が今回は出てるからかその動きに淀みはなく破壊の嵐を一緒に撒き散らす。危ない階層なのは知ってる。でも、危ないからこそ防衛する者はその守りを固くする!
「空の敵も逃がしませんよ!」
網を投げて地面に叩きつける。音にするならバッとドンッ!誰にも見えない音の世界は確かに私の耳を通して広がる。伝達すれば多分イメージも伝わるし範囲も分かりやすいのだろうけど、今は私とバイトのオンステージ!なら、そんな事に気を割かなくてもいい!
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「大佐、ありゃ一体どうなってるんで?魔法か?」
「さぁナ。話しただろウ?私が戦いたくない相手であるト。彼女は友人でそれなりに深く付き合っていル。しかシ、その友人であると言う点を除いても彼女を攻略する道筋は中々見つからなイ。」
「身体能力は並だから俺やダレスならいけるか?」
「厳しいのではありませんか?リンゴが割れないならそれを成す人を攻撃しようとも守りが抜けないであります。ドゥは?」
「回避は出来る。俺の目には確かに何をしているか見えてるよ。でもな、点だろうと面だろうとくまなく潰せる攻撃をコンマ以下の世界でガンガン飛ばしてるんだぞ?その上本人の守りは常に展開されてる。鑑定速度と本人の引き出しの多さが争点になってくるが・・・、防人の説明を聞く限りランダムに発射され続けるサブマシンガンの壁を越えろって言われた方がまだ生き残れる。まぁ、米国の防人はあそこまでデタラメじゃないがね。」
「盾師が点での前線防御ならさながら防人は防衛機構か。と、言うかエマさん。彼女は元からあんなデタラメだったのか?どうも納得いかないんだが・・・。」
「何か秘密がないのかカ?あるとすれば彼女はクロエ=ファーストと言う人物が表舞台に現れてからずっと一緒にいル。つまリ教本はクロエであリ、その助言を受ける量も違ウ。実際にクロエと話せばわかるガ、彼女の声は耳に残りやすいしイメージも作りやすイ。現に私はそれでトラップが出せたしナ。」
下げたグリッド達の代わりに暴れると言ったカオリは言葉の通りバイトと共に最前線でモンスターを駆逐している。人と戦う事はクロエ同様苦手とするが、それは能力をセーブしなければならないからだろうか?当然本人の性格もあるがクロエはスタンピードの最期を一人で戦った。理由は巻き戻りを見られたら恥ずかしいからと言うものだったが、本当は傍若無人な姿を見られたくなかったからではないだろうか?
前にセーブしていないかと聞いたら一人ならいいとも言っていたし。確かにカオリを見ても思う。一人ならなんの憂いもなくモンスターの群れに正面から立ち向かい、その職を十全に使い叩き潰す事に注力すればいい。実際私も一人で潜るなら同じ様にカオリの様に、その能力を解放してモンスターを叩きのめし続けるだろう。まぁ、あそこまで理不尽に出来るのかと問われればいささか疑問符はついて回るが・・・。
「たダ、これではやはり訓練にならんナ。助っ人に呼んだ人間が強すぎル。講習会でもクロエから1人で走り回っていいと言われていただけはあル。」
「砂漠では惜しい事をした。踊りに気づいた時に出向いて教えを請えばよかった。」
「ファーストは魔法以外も教えてくれるのでありましょうか?自分のセカンドジョブは魔術師:水でありますが。」
「ミスター赤峰を御したんだ。その手管もあるんじゃないか?」
「赤峰がビームや魔法を握り潰せる発端はクロエの助言だそうダ。何かの際に会えれば色々と聞いてみればいイ。割とクロエは話が通じる相手なら話してくれル。」
声のせいかはたまた本人の資質なのか、スルリと人に話させて必要な事を言ってくれる。何気に人の話を聞いて話させると言うのは難しいし、知らない事をはっきり知らないと言って人に聞くのもまた難しいし。外見は別として私も40だ。生きた年数分の重みがプライドとして伸し掛かり、無知を嫌い自身の考えに固執する。
数百はいただろうモンスターは残骸も消え、クリスタルだけがそのいたと言う存在証明を残し殺し尽くされてしまった。地形もガラス化した部分やえぐり取られた部分はあれど、それもまたガラス化した部分は元に戻り変わった地形だけが戦闘の激しさを伝える。そんな中で白いビジネススーツに汚れ1つ付けずに帰ってくるカオリはクロエが認める防衛職としての仕事を完璧にこなしている。
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「いやぁ〜、久々にアドレナリン全開でした。物足りないと言えば物足りないですけど、次以降は援護に回らないと訓練にならないですよね?」
「だナ。ただいい教材になったのも確かダ。前にクロエにキャリーしてもらった事があったガ、流石にうちの兵達を遊ばせてキャリーして貰う訳にもいかン。緊急装置として頼めるカ?」
「いいですよ。本番は中層のモンスターですからね。あの中に喋る個体はいませんでしたし・・・。援護に回るなら歌でも歌いましょうか?クロエの命名は割と引っかかる命名でしたけど。」
「歌って何か意味はあるのでありますか?」
「ありますよディル君。命名は呪歌って命名ですけど、人に作用する音を歌に乗せて歌うだけです。別に笛でもいいんですけど加減を間違うと危ないですからね。」
「大丈夫なら頼みたいガ・・・、お前達の判断に任せル。試しに使ってもらえるカ?」
「では一曲。」
歌は何でもいい。アップテンポであがる曲なら。コレの本質はリズムだ。人に何か作用できないかと言う話で試して最終的に行き着いたのが原始の音楽。つまりは打楽器や弦楽器。それも木管なんかの洗練されたものではなく、太鼓や更に言えば穴の空いた筒や紐を1本張っただけの簡素なモノの音が望ましい。
簡単に言えばゴリラのドラミングとか?難しいのは威嚇音はダメな事。威嚇するって事は相手に脅威を感じていると言う事だからそれを混ぜると萎縮してしまう可能性がある。だから、あくまで気分を高揚させてやる気を出させ前に進む勇気を与える音。
ま、まぁ?確かにやりすぎると人をバーサーカーにしてしまって、傷さえ厭わず前に進もうとするけど要は匙加減。コレのいい所はエンドルフィンやアドレナリン、ドーパミンなんかが出だせば割と継続してくれる事かな?出すものの種類もある程度は決められるので慣れてしまえば心強い力となる。
「〜♪〜〜♪♪〜〜〜♪♪♪」
「なんと言うかこう・・・。」
「攻撃的になるな!大佐、グリッドさんさっさと次に行きましょう!」
「ダレスのヤツなんか変なもんがキマったか?まぁ、俺も今ならバカスカ撃ちたい気分ではあっけどよ。」
「脳内麻薬の強制排出だ。俺は自身制御でいいが、下手すると仲良く突撃コースだな。まぁ、量的にはそこまで多くないが。歌のおかげでやる気は出る。」
(カオリ、これは大丈夫なのカ?)
(大丈夫ですよ?元々人体が精製するものですし、エナドリでも飲めはそこそこリセットしてくれます。)
雄叫びを上げそうな人達を見ながら、一曲歌い終わった後にエマが耳打ちしてくるけど。色々な人に聞いてもらってこれで何か悪影響が出たとは聞かないかな?寧ろやる気が出て精神的に参っている人にも効果があると言う嬉しい誤算はあった。
「アー・・・、やる気があるなら進むゾ!まだ潜り始めたばかりダ、休憩指示までは止まるナ!」
掛け声とともに走り出す。肉体派の人達はいいけどそうじゃない私はバイトに乗り、ハミングとディルはバイク。ドゥは肉壁確定かな?自身制御と言う言葉も聞けたし、今は肥大化した足で地面を踏み砕きながら走ってる。後判明してないのはグリッドとダレスか。多分聞けば教えてくれるんだろうけど、観察眼を養う為にも自分で探ってみないとね。最初に紹介された後にメイン以外は探すって自分で言い出した事だし。
ハミングはライブシーカーで記者、ディルは復元師で魔術師:水。エマはS狩猟者で追跡者。なら、体術師と城壁は何を選んだのか?職名に惑わされれば思いも寄らないイメージで攻撃される事もあるし、中位に至って自分なりのシナジーを見つければさらに分からなくなる。ただ、肉体派の人達を音だけで追うのはちょっと骨が折れる。なにせ彼等はその身体が武器だからモンスターを殴ればその分雑音は増えるし、人に集中しすぎれば鼓動や血流音は濁流の様に速度を増していく。私のお耳の友達と言うかみみやすめはツカサになるのだろう。
「行ってエコーボール。バイトちゃんが本気で暴れるのは中層からね。」
「相変わらず賢い犬ダ。どういったやり方で従えているのかは知らないガ、私も欲しくなル。」
「ダメですよ、この子もクロエの家族なんですから。しかし、先発組は暴れてますね。」
「歌のおかげて気合も入ったんだろウ。それにカオリの理不尽さで中位ならあれくらい出来て当たり前と言うイメージも出来ただろうしナ。」
前線で聞こえる音は飛び跳ねてモンスターにドロップキックする音や轟雷の様な衝撃音。バイクで走るハミングはショットガンを取り出し軽快なトークをしだす。
「前線の仲間達に朗報だ!炸裂弾をガンガン撃ってモンスターに風穴を開けてやる。なぁに、この弾はなんと追尾機能が伝承された優れモノ!俺は魔弾の射手みたいに外さねぇ!ガンガンキル数上げてくぜ!」
マシンガンの様に放たれた弾はモンスターに全て着弾し爆炎を上げ、それの被害が出ないようディルやダレスがカバーしていく。魔術師:水。その扱いはなかなか上手いと思う。ただ、多少速度が遅い事を除いてはだけど。次に進み更に進み、歌の効果は切れてるだろうけどそれでも止まる事なく進む。
多少の負傷はあった。流石に近接戦闘をしている中で防衛しようとすれば、下手をすると殴った腕を切断しかねない。でも、そんな傷をディルの赤い水が癒す。何で赤いのか?エマに聞いたらアレは馬のペーストを混ぜたものらしい。
小田と夏目の治療を見て、自分で出来る事を探した末の結晶。確かに馬は欠損部位の代用にも治癒師なら使える。そして、それを魔術師と合わせて距離をなくす。講習会メンバーは基本的に戦闘系の人ばかりだから、こう言う発見は素直に嬉しい。
倒した進んで休憩の話が出たのはどれくらい振りだろう?持ち込んだエナドリを飲んて疲れを吹き飛ばし、怪我を治してすぐにモンスターと戦う道。昔を思い出すけど、初めて足を踏み入れた彼等にとっては初めての道程。守れる限り守り無事に帰そう。
「洞窟クリアリングOK!」
「うム、休みなく走っても今日で10日カ。ゲートの位置取りが悪いとやはり時間を食ウ。」
「流石に47階層の200kmマラソンは仕方ないですよ。その前もなんの反響もなくて闇雲に走り回りましたからね。」
「食事は走りながらでも出来るでありますし、小も自分が抜けばどうにかなるでありますが、大の方は後で便秘薬を飲む事を推奨するであります。寧ろ、体内完結出来るドゥが羨ましい。」
「ケツ出して死にたかねぇからな。自分で方法考えな。大佐も望田さんもその辺りは出来てるみたいだし。さて、グリッドさん達レディーファーストでいいかい?」
ドゥの言葉に皆んなが同意して先に洞窟内で身体を洗わせてもらう。水箱の水は冷たいけど、それも私ならすぐにお風呂程度に出来る。何気に水分を気にしなくていいと言うのは人として嬉しい限りだし、簡単とは言えお風呂に入れるのも嬉しい。
「エマは髪を洗いますか?」
「いヤ、浸かるだけ流すだけにしよウ。あんまりくつろぐと後で困ル。ここが49階層でゲートを見つけられれば次はセーフスペースだ。本来なら走破したいガ、流石に限界というものもあるだろウ。」
「人間ですからね。時には休むことも必要ですよ。」
チャッチャとエマと湯船に浸かり身支度を整える。髪はベタつくから洗いたいけど、流石に私1人ジャンプーの香りを漂わせるのも気が引ける。それに、グリッド達はよくわからない匂いもしてるし・・・。ゲート内で人から臭うと言うのは相当臭いんじゃないかな?
「先に上ル。出来れバ・・・。」
「お湯は用意しておきますよ。」




