41話 その中身 挿絵有り
僕は指示を安全な所からしているだけ・・・。苛立ちが産まれる。いつかあった嫉妬が浮かび上がる、妬みが育つ。
「卓君先を急ぎましょう。留まっても、モンスターが来るだけです。」
「そうですね、進みましょう。」
宮藤さんに促されて、歩み始める。渓谷の底に着く頃には更に現れるモンスターは増え、大きいものは優に10mを超え、こちらを叩き潰そうと手を振り上げる。あれは流石に、雄二の剣では対処に困る。
「宮藤さんお願いします!雄二は宮藤さんを守れ。」
「任されました。・・・、炭は弾け、蛍火となりて、散り果てる・・・、散火。」
薄暗いゲート内が、爆炎で照らされ明るくなる。宮藤さんもまた、クロエさんに近づいて行っているような気がする。それは、置いていかれたという、寂しさ。
「いや〜、宮藤さん凄いですね。音で相殺しましたけどヒリヒリ来ましたよ。」
「流石にあの大きさだと手加減できませんよ。大丈夫でしたか?」
宮藤さんと望田さんは、互いに褒めあって、後から合流した雄二も混ざる。4人全員で対処するが怪我も増えてくる。特に多いのは雄二で、今も斬られた傷に痛いと言いながら薬を掛けている。
「大丈夫か?割と深そうだが。」
「大丈夫、大丈夫。支障はないさ。回復薬様々だな。」
笑いながら返してくるが、心がズキリと痛む。相棒と言う彼1人に大きな傷を押し付ける、申し訳無さ。宮藤さんにしても、望田さんにしても大なり小なり傷を負っている。
望田さんは、絶えず笛を鳴らし索敵や防衛、攻撃までも担当してくれているが、それは絶対ではない。本人曰くまだ慣れないとの事で、感知した瞬間に既にモンスターが攻撃していると言う事もある。そうなれば、後は雄二や宮藤さん、僕で対処する事になるけど、雄二は速く、宮藤さんは予想以上に烈火。
負う傷は僕が一番少なく、指揮をする様言われているが、どこか仲間外れにされたような気がする。僕はここにいる意味はあるのだろうか?指揮はやはり宮藤さんに任せ、僕も前へ・・・。そう思うが、叫びは心の中だけで響き、口には出せない。それを叫べば、僕はここでの役割を放棄した様な気がする。宮藤さんは、僕よりも強いのだから。
「・・・、行きましょう、皆さん。」
先に行く事を促し進む。底に着き、また上り、モンスターを倒す度、雄二の剣は鋭さを増し、望田さんの笛は的確に防衛を行い、宮藤さんの炎は咲き乱れる。そんな中僕も攻撃に参加するけど、宮藤さんの様に素早く発火させる事は出来ないし、望田さんの様に上手く守る事も、ましてや雄二の様な身体能力はない。悔しい・・・、ヒーローを夢見たのに、悔しい・・・。思い描く姿との乖離がありすぎる。僕は無力なのだろうか・・・。
そんな思いをしながら、幾度と無くモンスターとの戦闘を行い、歩き続けて既に1日は過ぎたと思う。女性の望田さんに配慮する場面はあるが、そうも言ってられない場面もあった。前にクロエさんが、糸が欲しいと言っていた意味が分かる、今の望田さんはズボンこそ短パンの様だが、上はタンクトップ。薬で回復するものの、傷は負っている。
他のメンバーで言えば、雄二は既に上半身裸で宮藤さんもあちこち煤けている。僕は・・・、そこまで汚れていない・・・、指揮自体はそこまで下手ではないと思う。ただ、思うのだ、宮藤さんならもっと上手くできたのではないか、クロエさんならもっと手早く対処したのではないかと。自身の不甲斐なさに腹が立つ。
「もうそろそろ、見えてくるはずですよ。」
「あー、今回も疲れた!」
「こらこら雄二君、まだたどり着いて無いですよ。」
「うっす。と、卓どうした?なんか変だぞ?」
「いや・・・!」
何でもないという言葉は紡がれる事なく、虚空に消え、見下ろすゲート付近に新たなモンスターが現れ、今までそこにいたモンスター達を壊し尽くした。多分、これは前に兵藤さんが見たという彼等の進化行為。元々、今までに見た事ないモンスターが2体だったが、どちらも少し形状が変わったように思う。
ここが20階層であると言うのなら、この階層に飽きて21階層へ行こうとするモンスターが、いてもおかしくない。思い出されるのは、クロエさんが撮ってきた動画・・・。
彼女は何事もないかの様に倒していたが、それでも見ただけでアレは強いと思った。宮藤さんを見ると、何時も優しげな彼の顔が挑発的に歪められている。あれは小骨で間違いないだろう。秋葉原で見たものが、本当に何でもない雑魚で、ここにいるのが本物の小骨だと嫌でも分からせられる。
「卓君、アレは2つとも間違いなく小骨です。それも、かなり凶悪な。1体は受け持ちますが、手助けはできません。彼女が来ないと言う事は、自分達で対処できる範囲なんでしょう。」
そうモンスターを睨みながら話す宮藤さんの周囲には、既に火の気が集まり、ジリジリとした熱気が伝わってくる。でも、宮藤さんを1人で行かせる訳には行かない。彼は小骨を、倒しこそすれ片腕を失ったのだから。
「宮藤さん、どちらを取りますか?それと、望田さん。僕達ではなく、宮藤さんをメインで防衛してください。」
「いいですよ、お姉さんが1人と言わずまとめて面倒見てあげましょう。」
そういう望田さんは笛を持つ手に力が籠もり、眼の前のモンスターを睨んでいる。彼女も相手が強いと言う事は分かっているのだろう、話す言葉の端々が震えているのが分かる。
「選べるのなら、緑の方を貰いましょう。」
「なら、俺と卓で灰色の方だな、相棒。」
眼前の2体。宮藤さんが受け持つのは、全身が緑色で腹が白く、長く大きな手に、背後から無数の触手の生えた、どこか虫のようなモンスター。脇からも腕のようなものが生えているが、あれは動くのだろうか?望田さんは僕達から距離を取り、後方に控えた。
残された方は、何と形容すればいいか分からない。強いて言うなら鬼・・・、だろうか?全体的に灰色がかり右手は、赤い光の糸のようなモノで編まれている。背後には、尾の様なものが見え、時折威嚇するように地面を叩いている。
「では、離れますね?ココでは近すぎますから。ほら、虫。こっちへ来い。」
そう言ってモンスターの周りを発火させ、気を引きながら僕達から距離を離すように走って行く。悔しい、僕は彼が生還する姿を見た、それなのに彼を死地へ送るというのが、途方もなく悔しい、苛立つ!
「ほんじゃ、ま。ちっとばかし遊んでくれや!」
脇構えのまま滑るように進む雄二は、流れるままに得意の下段からの切り上げを放つが、モンスターはその切り上げを摘んだ!
「なっ!?」
「そのまま手を離せ!」
摘んだ手を発火させようとするが、動揺したせいか火は灯らず、表面を赤熱させるのみ。雄二は手を放して、そのまま手刀で貫手を放つが、その手にモンスターの蹴りが迫る。速い!今までのモンスターはまだ、動きが追えた。しかし、コイツは速い!
「それはさせません!」
望田さんの声とともに、飛んできた黒い玉からポヨンと笛が鳴り、腕は守られた。しかし、インパクトは防ぎきれなかったのか、腕が大きく上がり体が開く。そこへモンスターの糸の様な手が解け!
「引け!死ぬぞ!」
「クソ!」
雄二が大きく跳ぶより早くうねった光はしかし、足元から立ち上がらせた炎の柱と望田さんの笛の音でどうにか防ぎきれた。モンスターは剣に興味がないのか適当に投げ捨てて、こちらを値踏みするように口だろう部分を開いて…!
「お得意のビームかよ!あいつ等誰でも撃つな!」
「それも、音はあります!」
それは声なき咆哮か極太のビームは望田さんのボールから響く『キーン・・・』と言う音のバリア音で反発し上空へ打ち上げられる。この隙は逃せない、無数の火炎弾を生み出しモンスターへ殺到させる。頼む、少しでもダメージを!それさえあれば!
「灯れ!少しでも灯れ!なれば、その炎は自らを焼く!」
火炎弾は寸分違わずモンスターへ殺到した。しかし、結果は尻尾とうねる光で全て叩き潰され、モンスターはその身体からは思いもよらぬ軽やかさで、地面に点を残すように走ってくる。尚も撃った炎弾は、邪魔とばかりに腕に振り払われる。
「卓、背中は任せた!」
「待て!武器は!」
「体がある!手刀がある!赤峰のおっさんに空手も少し習った!ならやれる!」
眩しい程に真っ直ぐな相棒は、なんの躊躇いもなくモンスターの前に躍り出て、自らの腕に風を纏わせ更に望田さんの音を纏ってモンスターと切り結ぶ。うねる光はクラッカーの内容物の様に広がり、大小様々な傷を相棒に刻み付けるが、雄二は引かず僕も、宮藤さんの援護の合間に助けてくれる望田さんも攻撃を与えるが、決定打はない・・・。腹が立つ、イライラする。無力な自分に嫌気が差す。僕はそんなモノになりたかったのか!背後から回復薬を浴びせるが、全く持って回復速度が追いつかない。
「一旦仕切り直せ!流石に回復が間に合わん!」
「引けっかよ!前衛は俺だけなんだぜ!」
「バカ!こんな所で死ぬ気か!」
『わりぃな相棒、獲物は待っちゃくれないんだ!』そう言って、話も聞かずに雄二は攻撃の手を休めず傷付き、尚も自身の信じる道をいく。余りにも眩しい、余りにも羨ましい、そして、憧れる。
腹が立つ、イライラする、僕はなんでこんなにも安全な所で守られてるんだ!そして、その安心感に、守られている事を事実と受け止めもせず、斜に構え偉そうにしているんだ!僕はこんな事がしたいんじゃない!僕は・・・!
「認めなさい?貴方には貴方の権利がある。貴方の持ち物をどう扱おうが、誰も文句なんて言わないわよ?」
「え!?」
いつの間にか背後にいた、彼女に思いっきり背中を蹴飛ばされた。戦闘中になにをすると振り返って叫ぶ前に、煙で頭を固定され、戦う雄二の姿を見せつけられる。目が離せない。モンスターに引かず立ち向かい、ただまっすぐに進む姿に嫉妬する!
ただ、限界は近い。身体は傷付きボロボロで、太腿を斬られたのか動きは鈍くなっている。負ける?此処で初めての友人を眼の前で死なせる?助けてくれと叫ぶ前に、彼女が先に叫びをあげた。その声は、純粋な子供の様な声。
「助けてレッド!怪人に仲間が連れて行かれちゃう!」
カチリとその声が何かに嵌る。僕は焦れたヒーローに、そして彼や彼にそうだ・・・、簡単な事だったんだ・・・。
思考。既に目標はある、成りたいモノもある。
妄想。あぁ、それは見たさ。余りにも純粋なモノを。
空想。既に成りたいモノは決まっている。これ以外ない。
操作。何もかも足りない。だから、純粋に怒りを覚える。
具現化。その姿は既に僕は思い描いて知っている。
法を破る。工程は完了した。至ろう中位へ!
身体が熱い。消えない炎は自身の心を焼切り、屈折を慣らす。あぁ、心が凪ぎ、残ったのは純粋な怒りと、立ち向かう純粋な闘争心。正義の有所は僕が決める。正義の味方が守るのは自らの仲間のみ!
職の選択?それはすでに、新たな職が出た時に決まっている。元からあった追跡者でもない、スクリプターでは意味がない。僕が成りたいのは、欲しいのは格闘家だ!
吹き上がる炎は操作できる。当然、それの使い道は決まっている。ヒーローは変身するものだ! 身体の全てを炎が覆い、傍目からは火達磨に見えるだろう。デビュー戦で悔しいが、煙犬から先のイメージがない。
けど、それは問題じゃない!事を成すのに綺麗も汚いもない。雄二が片膝を突いた、元々無茶をするやつだ。なら、前衛が守るのは当然だ。炎のラインを残し、地を駆ける。ヒーローは間に合う、それは仲間のピンチなら当然の事。魔法に距離はない、ならその地点には既にいる。膝を突いた雄二にビームを撃つ為に開けた口を、殴りつけて無理やり閉じる。
「またせたな、相棒。」
「・・・、おう、カッコイイじゃん。」
「当たり前だ、ヒーローは格好いいに決まってる。・・・、ありがとう、相棒になっていてくれて。背中を見せてくれて。本当に感謝する。」
「まぁな、すぐ追いつく。お前の横には俺がいる。今回は任せた・・・。」
身体が軽い。身体能力の向上もヒーローとしてのイメージも合致している。当然だ、なら怪人を倒すのもヒーローの役目じゃないか!
膝を突いた雄二は彼女が煙で引き取った。なら、ここからはヒーローショーの幕開けだ!なら、倒すイメージはある。それは子供の頃、幼心に抱いた夢。
「怪人!お前の好きにはさせない!」
炎を纏う拳はモンスターを殴り付けて、角を折る。まだまだぁ!爆炎纏う蹴りは叩きつければ、当たった胴体がくの字に折れる。苦し紛れに放つうねる光は、炎のムチで巻取りモンスターごと引き寄せて腹に一発!背後にあった棘はアンカーなのか、後方の地面に突き刺して、身体を巻き取って離脱しようとするが、そんな事は許さない!
「頑張れレッドー!」
「応援有難う!君の声が力になる!」
ヒーローは仲間を守り、仲間と戦う。今まで1人だったから、恋い焦がれた。けど、僕は焦がれるだけではなく、そういう存在に成りたかったのだ。仲間に乞われれば守り、その仲間からも守られ、支え合う者に。そこに優劣はない、ただ純粋な相互協力があるだけ。劣等感なんて入る余地はない。
「これで終いだ!我が拳は鉄槌、我が心は炎!ゆくぞ!ハンマーレイジ!」
撃ち込んだ腹に更に必殺の一撃!撃ち込んだ拳は想いの分だけ重くなり、燃える炎は僕の想いが燃え上がらせる。なら、これは、必殺の一撃!悪を燃やす正当な怒りを、仲間を傷付けられた怒りを僕は胸に抱いている!
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タバコをプカリ。撃ち込まれた拳はモンスターを貫き、クリスタルへ変える。大きさは中々。それよりも、卓が中位に至った方が驚きだ。最初は宮藤だと思っていただけに、嬉しい収穫である。死にそうだった雄二は、少し上等な回復薬を掛けて飲ませたので、今は傷もなく俺の横で卓のフィニッシュを見ていた。
「あいつマジで、ヒーローになりやがったな・・・。」
「まぁ、なるだろ。魔術師:火が中位に至って第2職で多分、格闘家が出たんじゃないか?」
「斜に構えてたアイツがか・・・。」
横の雄二は相棒の晴れ舞台を、見逃すものかと食い入るように見つめている。その瞳には子供がヒーローを見る、憧れの色が見て取れる。正義の味方、それは男なら誰しもが幼い頃に憧れたもの。大人になると、叫ぶのは変な恥ずかしさからなかなか出来ないけど、でも、ヒーローが嫌いなやつなんていない。
「やれやれ、男の子だな。」
「まぁ、カッコいいんでね。うちの相棒。」
卓の戦いを思い出しながら考えるが、動きは肉壁のそれではないし、蹴りや拳に籠る力もそれとは違ったように思う。なら、多分格闘家で間違いないだろう。宮藤の方も決着が付いたようで、モンスターが灰になり、クリスタルを残す。俺が言うのも何だが皆ボロボロ。しかし、その分成果はあった。
「クロエさん、中位へ至りました。魔術師:火は炎術者へ。新しく習得した職は格闘家です。」
纏った炎を解きながら、歩いてきた卓は嬉しそうに話す。目算は当たったようだ。望田と宮藤もこちらに集まり、それぞれに卓におめでとうの言葉を送り、もらった卓は素直に喜ぶ。まるで憑き物が落ちたようだ。
後は退出ゲートを目指すだけ、まとまって歩きだす。それぞれの顔は明るい。誰も脱落者は出ず、全員無事で至った者も出た。
「・・・、良かったですけど、やっぱり先を行かれると悔しいですね。」
横にいた宮藤がポツリと零す。感覚だけなら彼ももうすぐだと思うが、そこはやはり師としての威厳の問題だろう。だがまぁ。
「道は人それぞれ、歩く速さもまた同じ。なら何れは至りますよ。感覚だけなら、宮藤さんももうすぐでしょう?」
「分かるんですか?・・・、何となく予感めいたモノはあります。ただ、そうなると怖いとも思ってしまうんですよね。力を手に入れたら溺れるんじゃ無いかって。卓君の戦いを遠巻きにちらりと見ましたが、あれができるようになるなら、自分は先を1人で目指してしまいそうです。」
何やら宮藤には宮藤の想いがある様だが、それはそれ、これはこれ。軽く釘は刺しとくかな。もし、彼が本気で行くのなら止める事は出来ないが。
「残念ながら、宮藤さんはうちの職員なんです。行くなら私に辞表を叩きつけてからにしてもらわないと困る。してくれないなら暴れます。」
「・・・、ぷはっ!それじゃ怖くて一生奥に行けないじゃないですか。酷い人質もあったもんだ。」
「人質で人命が救えるなら安いでしょ?」
そういうおどけて返していると、前を歩く2人から外れ望田がこちらに近づいてきた。その顔は何かを、企んでいるかのようにも見える。
「クロエ、何の話してるんです?」
「悔しさと、廃墟と、人質かな。それでカオリなにか?」
「ゲート出たら、打ち上げしないかっていうお誘いです。クロエもそろそろお肉が恋しくありませんか?」
「私は食いしん坊キャラじゃ無いよ。焼き肉食べ放題なら支払いは持とう。」
「やっぱり食べる気満々じゃないですか、やだ~。お腹は無いけど太っ腹ー!」
望田が茶化しみんなが笑う。中位に至ったものが出たなら、この講習に意味はあるのだろう。あと何人今回で至れるかは分からないが、それでもゲートに誘い道を見つけられたなら、きっと至れるはずだ。先を行く2人はお互いに意見交換をしながらじゃれ合っている。
「しっかし、よくあのタイミングで出てきたな。マジでヒーローじゃん」
「ああ、背中をな・・・。」
「ん?押してもらったのか?」
「いや、思いっきり背中蹴られた。」
「うわぁ、大丈夫か?」
「クロエさんは非力だぞ。まぁ、それで踏ん切りも付いたし、仲間のピンチにヒーローを呼ばれたからな。・・・、雄二、これから僕は君の横だ。」
「おう、俺の横はお前か。・・・、レッド、すぐ至る。今は待っとけ。」
雄二もやる気が出たようで、前を見て拳を握っている。スマホで連絡を取りながら退出ゲートから出る。日付と時間を見ると2日半ほど進んで、今は昼過ぎ頃。赤峰達の姿が見えないので、多分15階層辺りでモンスターと戦っているのだろう。辺りには自衛隊のトラックと、隊員達が忙しなく行き交っている。ここに来た当初は工事関係者やダンプが多かったのに、何やら偉く様変わりしたな。
「おっ、クロエさん達。そろそろ出てくると思ってました。」
「兵藤さん?どうしたんですか?こんな所で。」
若干足を引きずるようにして歩いてきた。松葉杖は使っていないから、大丈夫だとは思うが、なにかあったのだろう。回復薬は大抵の傷は無くしてしまうので、表面だけでは分からない。
「名誉の負傷と言うやつです。小田がいて助かりましたよ。15階層で小骨が出て倒しはしたのですが、右足がミンチにされました。幸い、馬肉と治癒で多少リハビリすれば歩けます。」
「それはまた、他に被害は?」
「軽いのは計算外とすれば無いですね。ただ、これでみんな気が引き締まった感はあります。」
ポンポンと右足を叩いているが、残った組も中々大変だったようだ。それなら、いいニュースで希望を運ぼう。兵藤は残った組のリーダー。引き締まったというが、締まりすぎてもまた、凝り固まる。
「兵藤さんにひと足お先に、いいニュースを伝えましょう。」
「ほう、なんです?また何か着てくれるんで?」
「・・・、無茶を言い出していいなら。と、ほら卓君。」
卓の背中を押す。それは、俺1人ではなく雄二や望田、勿論藤宮も。押された卓はみんなを見回すが、大丈夫。誰も君を孤高のヒーローにしやしないさ。
「中位に至り、炎術者になりました。第2職は格闘家です。」
その言葉に兵藤は目を丸くして、卓の両肩を掴み抱きしめた。思った以上に熱い男だったんだな。まぁ、仲間と何時も一緒の自衛隊。仲間が躍進すれば嬉しいものだ。
「おめでとう、本当におめでとう!誰もが抱いていた、至れるのかという不安がこれで払われた。ありがとう・・・。君はみんなのヒーローだ。」
偶然出たセリフは、しかし卓が渇望したもの。卓の顔は誰にも見えないが、多分泣いて笑っているだろう。
「さて、今日はお祝いだ。20階層に行ったメンバーでする予定だったが、皆で焼肉と洒落込もう。お代はもつ!」
ちょうど帰って来た赤峰達は、なんの事か分かっていないようだが、なに。聞けば分かるさ、祝う意味を。




