37話 検証
兵藤との模擬戦は周囲への被害が酷いので取り止めて、彼に魔法を使ってもらいそれを塞いでいく。ごめんよ、グラウンドが土から砂になったり、泥沼になったり、草が急成長したりしてボコボコにして。遠くで見ていた自衛官達は魔法を見て一喜一憂しているので、多分大丈夫だろう。今のグラウンドは雨が降った後のぬかるみの様だ。
彼の水のイメージは、前に賢者が見ていたので掴みやすい。水と言う物を体積のある物体と捉え、高圧力による圧殺系。いくらでも出てくるのは、多分大気中にあるからと言うよりは生まれる等の生命力のイメージが重なっているからだろう。
母なる海は気まぐれで、時に殺し時に生かす。なら、火よろしく、いや、アレよりも遠隔操作はしやすい。今ウォーターカッターやハンマーを使っているのは、ゲート内で最初にそれをみせたから、それに引かれた部分が大きいと思う。
「兵藤さん、りん・・・、いや桃とか、なにか水分の多いものありますか?」
「今は手持ちがないですが、水分含んでたらなんでもいいですか?」
何でも良いといえばいいが、あまり大き過ぎるとイメージしづらいかもしれない。やって見せてもいいが、魔法を使う工程に齟齬が出るかもしれないので、見せるよりは助言だろう。
「水はどこにでもあります。大気中でも、今のぬかるみの様なグラウンドにも。兵藤さんは水が自在に使える。なら、浸透圧とかもやれるでしょう?」
「あー、モンスターって水分あるんですか?」
「さぁ?でも、少なくともゲート内で我々が活動出来るなら、大気中に水分はあるでしょう?手始めにグラウンドの水分を、大気中に浸透させて乾かしてください。必要なのは空想です。」
この部分は妄想の先の空想部分。現物はあるし、乾かすと言う思考はすでにしている。なら、後はグラウンドがどう乾くかの空想から操作すればいい。そうすれば後の工程は既にやり方がわかるのだから組み上がる。
「ちょっと離れてくださいね?危ないかも知れません。乾いた所へ。」
「危ない?分かりました。」
兵藤から離れて乾いた地面へ向かう。乾燥させるだけでそんなに危ない事はないと思うが、何か違うイメージで事を成すのだろうか?個人的にはタオルが陽射しで乾く程度。アレを蒸発と取るか、タオルの水分が、大気中の水分へ浸透したと取るかの違いくらい。
「水よ、抜けろ。」
「待て、それは規模が!」
ぬかるみから水分は抜けたよ・・・、うん。地面が土壁並みの強度に、下手したらそれよりも更に強度のある何かになった。抜けた水分は空中で水の玉となりフヨフヨ浮いている。範囲としては多分500m四方くらい?カチカチの地面の出来上がり。埋め立てとかする時はかなり使えるかも知れないが・・・。
「兵藤さん。スポイトかなんかで吸うイメージでもしました?」
「いや、単純に水吸い上げれば良いだろうと。モンスター相手ならそれでいいですが、地面は不味かったですね。戻せます?」
地面は固くひび割れ、干ばつ地帯の様になっている。水を戻せば大丈夫だとは思うが、どれくらいかかるだろう?戻すのは戻せるが、まぁ、兵藤にやってもらおう。これもイメージ練習だ。
「出来ますが、それは最後の手段にしましょう。田んぼに水を流して染み込ませるイメージです。必要な分だけ戻して、後は拡散させてください。これができれば、見ただけでモンスターから抜くも大気中の水分で圧殺するも自在ですよ。」
「おぉ、いきなり燃えてたアレが出来るようになると。ここまでしたら後は一緒か。試しましょう。」
言うが早いか、兵藤は水を戻したり抜いたり、泥の塊を手の形にしたりと、妄想が捗っているようだ。兵藤の場合、水はいくらでも出せるのでいいが、他の魔術師で水を出すのが苦手な者は、セーフスペースの水箱を持ち歩くといいかも知れない。水がウネウネと動いたり、飛んでいる泥水が乾燥した土玉になったりと、変化させている中兵藤が口を開いた。
「なんか読んだ方がいい本とかありますか?イメージは分かるんですが、小難しく考えると無理だって思ってしまって・・・、やっぱ常識を捨てないと駄目ですかね?」
本か。俺も好きで読むが、読むなら漫画よりは小説の方がいい。絵で見るとイメージが固まりやすい反面、そのイメージに囚われやすい。魔法職にしろ、近接職にしろ敵を常に一撃で倒すようなモノがあればいいがソレはほぼない。有名雑誌の理念は努力・友情・勝利だが、勝利の為に無数の技を出したりして勝利する。ソレはイメージに置き換えると何発も殴ると言う事になる。
モンスターと戦う際、確かに毎回一撃とは行かないが、それでも一撃確殺なイメージは必要なわけで・・・。まぁ、本人の考え方やイメージの仕方もあるが、読む本を考えるなら。
「感覚派か理屈派かで別れますね。どちらを読んでもいいし、自身の経験に置き換えてもいい。兵藤さんが理屈派なら、化学の教科書とか。感覚派なら小説とか或いは絵本ですね。」
「絵本?何でまた絵本なんですか?漫画とかでいいんじゃないですか?」
「漫画で魔法を見ると制約があるでしょう?魔力値がーとか、属性がーとか。イメージはしやすいですが、絵本の方が自由なんですよ。杖を振ればかぼちゃが馬車に。ね、理屈抜きで自由でしょ?」
物語の魔女は良くも悪くも自由だ。誰かを助ける事もあれば、害為す事もある。ただ、共通するのは理不尽に魔法が使える事。そこには制約はない。兵藤は水を操作しながら何か考えているが、まぁ、それはいいだろう。それよりも1つ気になることがある。
「モンスター図鑑の進捗ってどうですか?仮の物でもあれば、ゲート内で共通認識が作りやすい。」
「ある程度は出来てますよ?ただ、貴女が35階層まで行ったのでそれの分の追記はまだですね。仮で良ければ借りてきましょう。」
「お願いします。そう言えば、兵藤さんヘリ操縦できますよね?」
着々と世界は動いているようだ。テレビでCMを見ても、たまに新作スィーパー用品販売や、調合師を募集する製薬会社などがある。政府発令のモノはやはり鑑定師の募集など様々。そのうち履歴書にスィーパー職の記載場所なんてのも出来そうだ。
兵藤はヘリも操縦出来るし、何なら他に参加者で2人ほど操縦出来るメンバーがいるとのこと。魔法の練習を見ていると3t半とジープが近くに止まり、中から講習メンバーが降りてきた。一部はボロボロの服で、一部は綺麗なので奥に行ったメンバーと、そうでないメンバーは分かりやすい。まぁ、どこかで着替えたのなら、それで区別はつかなくなるが。
「お疲れ様です、兵藤さんは個人授業ですか?」
「お疲れ様です、奥に行ってきましたね?彼はやりすぎたので責任を取っている所です。」
ジープの助手席から降りてきた宮藤は、奥に行ったのだろう。下は綺麗だが上はジャージがボロボロになり、あちこちに切られた後が見える。どこまで強行軍したのやら。
「着いて早々に脱出アイテムで、何人出られるか確認しました。結果は10人でしたね。なので、メンバー分けして自分と雄二君、卓君で1チーム。赤峰さん望田さんで1チーム。後は4〜5階層マラソンです。奥に行ったメンバーで負傷者は出ましたが、死亡者は無しです。」
良かった。5層までで死亡者は流石に出ないと思っていたが、そこから以降は保証がない。退出アイテムは規模で変わるらしいが、上限は10名と見てそこから減るのだろう。今の所俺は使わないので、このまま貸出続行だな。チャージも放置してれば溜まるらしいし。
「それで、どこまで行けました?」
「モンスターへの対処はそこまで問題では無いですが、フィールドの広さが厄介ですね。セーフスペースを抜けて赤峰さん達と別れて探し回って9階層。追跡者がゲートを発見してくれたのでいいですが、移動手段は欲しい所です。」
そうなってくると、ジープと幌なしの3t半を借りるか。流石に幌有りだとモンスターが出た時の対処が遅れるし、ゲートの中は雨も降らないだろうから、幌が無くても大丈夫なはず。テントでも指輪に入れておけば、女性への配慮もできる。
「兵藤さん、ジープと幌なしの3t半、出来たら装甲車の手配もお願いします。」
「それくらいならすぐ出来ます。明日ヘリと一緒に揃えるようにしましょう。」
横で土と水をいじくり回していた兵藤に、声をかけるとOKが出た。なるほど、このぐらいなら兵藤の一存で手配できるのか。装甲車が使えるのはありがたい。陸将補が有用性とか言っていたが、国内でガンナー適正が出やすいのは警察、自衛隊、後は猟師とか?サバゲー好きな人も出るかもしれない。そもそも国内で銃を取り扱う職場がないので、本人の資質は別にして多分出やすいだろう。
この日はこのまま解散となり、宮藤に明日からゲート15階層まで潜る旨をLINEで流してもらった。そうして、帰ろうとした所、望田達に風呂に連れて行かれて頭や背中を洗われた。何でも俺を洗う当番なるものがいつの間にか出来たと言うので、好意を蹴るのも悪いし、頭と背中だけなので好きにさせている。
しかし、こうやって背中を洗ってもらっていると、子供達の小さかった頃を思い出す。やたら脇の下辺りや尻を周りを洗われるが汚れてはないと思う。洗うのも、タオルではなく、手で洗われるが肌が傷まないようにする為らしい。
妻は普通にゴシゴシタオルで洗っていたが、たまに手で洗う事もあったので、女性とはそういうモノなのだろう。個人的にはガシガシ洗った方が綺麗になった様な気がするが・・・。
「いや〜、今日も疲れました。赤峰さん元気良すぎですよ・・・。」
「ん?カオリは奥行ったの?」
「赤峰さんチームで、夏目さん達とご一緒しましたよ、LINE交換もしましたね。今日は割と職を使いこなせましたよ。」
明日のゲート入の為の買い物を済ませ、車で望田から今日の事を聞く。戦力的には、少し偏ってると思うが、宮藤の場合あの2人は助手兼補助なので仕方ないか。本当は3チーム作りたいが、雄二と卓コンビは社会経験が無いので考えあぐねる。模擬戦のおかげで認められているとは思うが、年下のリーダーを認める認めないはどうしても個人による。
まぁ、後追いも移動の問題も、今の所片が付いているのでその辺りはもう少し時間を置いて考えよう。ホテルに帰り着くと、望田が飲もうと言うので二日酔いにならない程度に飲む。酒の肴が人のチア姿というのが頂けないが、動画再生数が凄い事になっていた。
望田は今日も泊まるというので好きにさせ。いつものように寝る前に妻に電話すると、案の定その事でからかわれ、那由多からは呆れられた。まぁ、金の行方を説明すると、理解してもらえたので良しとする。
そして明くる日の朝。交代でシャワーを浴びて身支度を整え、タバコで一服し犬を連れて駐屯地へ。グラウンドにはジープ1台、装甲車1台、3t半1台に戦闘ヘリ10機と中々に物々しい。望田と別れいつもの会議室に入ると、宮藤達が既に揃っていた。潜るのに格好は何でもいいが、今回は迷彩服と半長靴を貸してもらったらしい。
「おはようございます、準備はいいですか?」
「おはようございます、いいですよ。2人共大丈夫だよね?」
「大丈夫です。」
「うっす、すぐ行けますよ。」
それぞれ準備は出来ているようだ。さて、後はブリーフィングをして、さっさと行くか。教室に入り今日からの説明をする。前日宮藤がLINEで伝えたので、それぞれ泊まりの準備は完了しているはずだ。
「今回のゲート入りで15階層まで行きます。準備は事前に伝えたので終わっていると思います。他、クロエさんからなにかありますか?」
「今回は検証事項があります。1つはパーティー、退出後の再突入で、仲間の元へ戻れる可能性があると言うのが1つ。もう1つはグラウンドにあるヘリ、あれを飛ばします。検証事項はそれとして、政府の依頼で行方不明者本人、或いはドッグタグの回収を頼まれています。質問はありますか?」
「はい、再突入の検証は具体的になにか情報がありますか?」
夏目が質問したので昨日の橘と話した事を伝える。距離の検証は後日だが、再突入の検証ならすぐできる。ついでに、脱出アイテムでも可能かの検証を行う旨を伝えグラウンドへ。ヘリの割り当ては兵藤に4機、他2名に3機渡して任せる事にした。1機は預かろうかとも思ったが、そもそも俺はヘリなど操縦出来ないので、宝の持ち腐れである。
「そう言えば、クロエさんはその格好なんですか?それとそのわんちゃん動画のやつですよね?」
「ん、なにか問題あります?犬はバイトといいます。勝手にウロウロするので気にしないでください。」
ジープに乗り込み出発して早々に、運転手をしていた井口が聞いてきたが、格好はなんでもいい。魔女はゴスロリ着ろとウザいのでそのうち着るかもしれない。犬は指輪に入れて行こうかとも思ったが、流石にゲート内で要らぬ驚きも面倒だとそのまま連れてきた。
「大きいわんちゃんはバイトですね。服は・・・、配信で着てたものが安心感はありますね。」
「安心感ですか・・・、着るものが無くなったら考えます。まぁ、今いるメンバーなら15階層までは大丈夫でしょう。井口さんは確か槍師でしたよね?」
「そうですよ、モンスターを穴だらけにする槍師です!頼ってくださいね?」
そう言って冗談っぽくウィンクしてくる。槍師か、緑マフラーがそうだったな。槍師は穿つ、手元、投擲のと説明がなっている。どうやら、突いてもいいし、投げても手元に戻ってくるらしい。ついでだ、井口に槍師の事を聞いて内容理解に務めるか。そうこうしているうちにゲートへ到着。小銭を稼ごうとゲートの周りに人は多い。
「お待ちしていましたよ、クロエ。」
「千代田さんどうしました?条件は取り下げませんよ?」
ゲートに到着すると千代田がいた。今日は特に用事もないと思うが、なんでいるんだろう?昨日の今日で来る外国人の条件緩和のお願いだとは思わないが、先制はしておこう。
「その件は・・・、まぁ。今回来たのはこれです。内部映像のリアルタイム確認の為ですね。昨日橘さんの所に行ったついでに、貴女と何を話していたのかを聞いて、可能ならお願いしようかと。撮れれば今後の映像資料とします。」
「また首輪ですか、そろそろ悪い噂流しますよ?」
「やめてください!しかし、ヘッドギアタイプは邪魔でしょう?宮藤さんに確認を取ると、今日から15階層まで潜るというので急ごしらえですが、鍛冶師に無茶を言って準備させました。個数は3個です。」
手渡されたアクションカメラはチョーカー型、前回と同じである。まぁ、頭に付けるよりは動きやすい。電波の検証の一環として持っていくか。
「受信は何処で?あと、何日持ちます?」
「秋葉原の件から考えて、4km以内すぐそこのビルに受信基地を設置しました。バッテリーは約10日程度は持つそうです。」
「分かりました、誰かに持たせましょう。では。」
「ええ、では。無事を祈っていますよ。」
千代田と別れ、乗ってきた車はドライバーが指輪に収納し、政府関係者優先権で人混みを素通りしてゲートに入り5階層。入るまでに写真撮られたり、手を振ってくれと言われたのでボチボチ振りながら宮藤と話した結果、カメラは俺、赤峰、兵藤で持つ事となった。
これは、一応3勢力に配慮して分配した形だ。仲良く皆で手を繋いで入り、手狭に感じるがここのゲートを潜れば問題はない。辺りの雑魚を参加者が瞬殺して、安全確保後に検証開始。
「さて、検証しましょうか。退出ゲートは大丈夫だと思いますが、脱出アイテムも同じか分かりません。ここで待機するのは10分。それまでに合流できない場合は、私達も一度退出して迎えに行きます。有志はいますか?」
そう言うと清水と小田が真っ先に手を上げた。ではお願いしよう。清水に脱出アイテムを渡し、小田は退出ゲートへ。出て入るだけなら10分有れば問題無いだろう。程なくして、2人共参加者の背後に姿を表した。
よし、これで確定事項が増えた。上手くやれば、セーフスペースにデポが作れる。それが作れれば、階層の掃除も組織立ってやっていきやすくなる。
「パーティー検証は成功ですね、良かった。」
「ええ、ゲートの周りに自衛隊基地とか出来そうですけどね。」
横にいた夏目が嬉しそうに話しかけてくる。有志の2人と仲が良さそうだったから、嬉しいのだろう。その後皆でゲートを潜り6階層から手狭感は一気に消えるが、残念ながらセーフスペースではなかったので、辺りのモンスターを殲滅後、車移動する時は追跡者がゲートの方向を指示しガンガン進んでいく。
山岳地帯なので、道も悪く途中何度か徒歩との切り替えを行いながら進む。残念なのは人もタグも見つからない事だが、箱はそれなりに見つかった。開けるのはとりあえず後回しにして進んでいると、兵藤から声がかかる。
「この辺りで、高度測定もしてしまいましょうか?」
「そうですね、モンスターに苦戦するような状況でもないですし、飛ぶだけですからやりましょう。」
今の所、飛べるのは俺と兵藤のみ。羨ましそうに見る面子を後に飛ぼうとしたが、夏目から待ったがかかった。
「ファーストさん、下着見えますよ?」
「あぁ、ペチコート履いてるんで大丈夫ですよ?」
「それでもです。男は狼!こんな所だとどうなるか分かりません!こんなの兵藤さんを飛ばしておけばいいんです。昨日の撮影といい、個人授業といい、空のランデブーといいうらやまけしからん!」
「なっ、夏目さん落ち着いて。兵藤さん早く飛んで!」
夏目が俺の肩を持ってガクガク揺するのを、望田が止めてくれた。その隙に兵藤は空に飛んで行き、辺りが薄暗いせいで姿は見えないし、抑えてはいるのだろうが噴射した水は降ってくるしと、割と散々だ。
「ヘリは大丈夫そうですよ。ただ、薄暗いんで・・・、すいません抑えたんですが・・・。」
ずぶ濡れの女性メンバーから睨まれて、兵藤がペコペコしておる。実際、俺が飛んだ方が被害は無かったような・・・。まぁ、起こったものは仕方ないか。水なら乾くし。問題は女教師スタイルで来たので、下着が透けてるくらい。とっとと着替よう。
「ちょっとそこの岩陰で着替えてきます。」
「あっ!護衛します。」
望田が番をする中、着替えるが黙れと言った魔女が折りを見ながら話しかけてくる。分かったよ着ればいいんだろ、着れば。
「おまたせ、カオリ背中のファスナーあげて。」
「もちろん!お任せください!」
そんなこんなでゴスロリ服に着替え、捜索しながら進んで階8層。未だタグは見つからないが、セーフスペースでヘリの検証も済ませた。結果は飛べた。ただ、周囲が薄暗いのであまり高度を上げると、サーチライトの範囲外から砲撃されるおそれがある。運用方法を参加者で模索した結果、ガンナーと追跡者でコンビを組めば先制攻撃でモンスターは倒せそうだ。
「今日はここまで、キャンプとしましょう。」
朝から潜って今は16時、ヘリの検証やゲートの位置を把握しながら進んでこの時間。セーフスペースでキャンプをするのがベターだろう。15階層までは後に7階層ある。ゲート内でのゲート移動は、上の階層に戻るのは戻れるが、下には進めない。どの階層にも行けるのは最初のゲートのみ。
「ファーストさん、どうぞこっちへ。女性組と男性組で分かれますから。ささっ!」
「あー、分かりました。とりあえず私はカメラを外しますので。」
千代田カメラを外し指輪の中へ。辺りではキャンプファイヤーよろしく焚き火を中央にして男女対面になるようにテントを張って・・・。
「兵藤さんだったか、ちっとばかし訓練に付き合ってもらえないか?」
「いいですよ、格闘家がどれほどか見せてもらいましょう。道中もかなりモンスターを倒してましたしね。」
「雄二君、私は清水と言う者だが同じ剣士だ。お手合わせ願いたい。」
「いいっすよ。あんまり無茶はしないでほしいです。」
「怪我した人いませんか〜?体調不良とかでもいいですよ〜!治癒師にも活躍を〜!」
「望田さん。S職だと聞いたが、その笛から察するに音楽系かな?」
「違いますよ、防人です。これはですね・・・。」
ワイワイと情報交換に興じる。赤峰にしても兵藤にしても、外では全力が出せない鬱憤かお互いを傷つけない範囲で競いそれを眺めるギャラリーも声援を飛ばしている。
「いい感じですね、クロエさん。」
「ええ。外のしがらみもないし、みんな楽しそうですよ。」
ゲートに人を導いた張本人だが、出来ればこんな穏やかな時間が続けばいいと思う。いつまた溢れるか分からないものだが、これから先、今回の参加者達がいれば前より被害は出さずに済むだろう。まだ、中位は橘しか知らないが、これから先みんなに育って貰いたい。