35話 風呂
諦める、諦の字は仏教的に言うと真理、道理という意味があるらしい。ついでに言うと、明らかにするなんて事も含まれるらしい。そうか・・・、俺の男の部分って心?だけだもんな・・・。いずれ時が経てば、男の俺を知っているのは自分1人か。まぁ、仕方ない。先の事はその時の自分しか知らないのでその時の考えよう。今考えても無意味だ。
「えーと、脱がないんですか?」
「・・・、胸が小さいので恥ずかしいです・・・。」
恥ずかしくなんてないし、そもそも胸の大きい人を見て思うのは、肩凝りとか邪魔じゃないのか?だったりする。時点でセクハラを疑われないように視線を逸らすか、そもそも意識しない。個人の趣味だけ言うなら、全体のバランスが一番大事である。
「はぁ、バカやってないで入るか。」
周りもポンポン脱いでいるので、変に意識しても仕方ない。見られて恥ずかしい身体でもないし、別にいいか。ガバリと上をTシャツとタンクトップをまとめて脱いで棚に投げ入れ、スポブラを外す。そのまま、短パンとスパッツを脱いで・・・、めっちゃ視線を感じる。あれか、男にもある外人さんの下どうなってるの?問題。金髪の人は下も金か否か。或いは・・・。
「あの〜、脱ぎづらいんですが・・・。」
一緒に来た5人。夏目、清水、井口、小田に望田が凄い見てくる。心なしか熱っぽい視線を感じるが、自分がやられてみろ。かなり困るぞ。
「クロエ・・・、なんか破壊力増してません?凄く綺麗なんですけど・・・。」
「カオリは見た事あるでしょう?」
「いや、一瞬ですよ?」
「望田さんとは肌を晒す仲だと?」
「夏目さん、それは違う。ホテルの浴衣が寝起きで、はだけたのを見ただけだ。私は妻一筋、一途なんだよ。」
変な所に夏目が食い付いてくる。既婚者なのを知らないのだろうか?配信でも言ったはずだし、結婚指輪もしてる。いや、今の姿だとファッションと思われた?
「しかし、色白というか色が抜け落ちたというか、触ってみてもいいですか?」
「・・・、まぁ、背中とかなら。」
清水が背中をスーっと、ブラインドタッチで撫でてくる。なんかゾワゾワするな。鳥肌が立ちそうだ。手が増えたと思ったら小田が撫でながら抱きついてきた。
「は~、肌スベスベプニプニ、気持ちいいですね。ちょっと抱っことかしていいですか?ぬいぐるみみたいに。」
両腕ごと抱きしめられて、持ち上げられ足が浮いた。小田の腕の感じだと多分ワック。望田も持ち上げられたし、彼女なら苦も無いだろう。しかし、女性のスキンシップとは意外と過激なんだな・・・。背中に胸が、これでもかというほど当たっている。
高校の時も女の子同士で抱きついたり、頬を寄せて写真撮ったりしてたし、これが普通なのだろう。考えてみたら普通に一緒に温泉とか行ってる人もいたし、妻も何とかさんのオッパイ柔らかかったとか言うし、多分普通。
男同士?やるにしても腹筋すげーとか、そんな感じで抱きついたりはしないな。なんなら、騒いでも触れ合う事はあんまりしない。
「ちょ、皆さんお風呂に入りましょう、お風呂!何でクロエはなすがままなんですか!?」
「えっ?普通じゃないの?」
「まぁまぁ、望田さんも。下脱がしちゃいますねー。」
井口がスポンとパンツを脱がせた。控え目な印象だったが、割と行動的というか、竹刀取りに走っていったのも彼女だったな・・・。多分、彼女もワック。警官組でココの地理や備品を知るものは少ないだろうし、竹刀と言ってすぐ出るものでもない。自衛隊だと銃剣道、木銃はいっぱいあるが竹刀は無い。
名簿に目を通して、彼女達が自衛隊だとは知っていた。しかし、出身部隊は別。うぅむ、腹に一物無いといいが。やけに4人共仲がいい様に見える。しかし、女性なら普通の距離感じゃなかったのだろうか?妻も割とすぐ女友達とか作ってたし。
「ツルツル・・・。」
「見ても面白くないので入りましょう。カオリ、何してるの?」
男同士だと割とそこは気になる。大きさとか長さとかその他諸々・・・。しかし、何も無い女性の場合どうなのだろう?恥ずかしいは恥ずかしいと思うが、そんなに違いがあるようにも思えないし・・・。しかし望田よ、そんなにマジマジと見るな。
「いや、うん、あれだけタバコ吸って、お肉食べて、お酒も飲むのに理不尽だと・・・。魔法って頭使うみたいだから、痩せるんですね・・・。しかし、気を付けてくださいよ、ほら。」
望田に言われて周りを見る。・・・、視線が増えてる。・・・、あぁ、理由が分かった。黄金比だ、この身体の比率、それは人が本能的に美しいと思う物。言い換えると、服なんて邪魔でマッパが1番綺麗に見える。そして、俺は今真っ裸な訳で・・・。
「小田さん、取り敢えず離してください。そして、髪に顔を埋めない。」
「・・・、香水とかシャンプーとかポディーソープ何使ってるんですか?嗅いだ事ない匂いですけど、凄くいい匂い。髪もサラサラ。」
「小田さん。私も思ってましたけど、クロエは香水とか持ってないですし、シャンプーとかもホテルのアメニティですよ・・・。なんなら化粧品持って無いです。」
「えっ!?なら、体臭?」
「ちょっ!集まるな、嗅ぐな!」
今は違うけど、加齢臭とかかなり気にしていた。スメハラとか出だしたから、朝のシャワーは日課になったし、元々風呂は好きだったので、より入るようになった。だから、あんまり臭いは嗅がれたくない。
「仕方ない。護身術、腕抜け!」
コツは素早く万歳する事。素肌が密着していたので、小田の胸が下に引っ張られてかなり痛かったと思うが、こちらとしてもいつまでも抱っこ人形は嫌だし、そろそろ本当に風呂に入りたい。タオルを指輪から出しながら、扉をスライドさせて中に入る。
中は銭湯の様な作りで真ん中に大きい湯船があり、壁にシャワーとカランがついている。視線はあるが、そのまま適当な所に座り頭からシャワーを浴びる。初夏なので冷たいシャワーが気持ちいい。後ろから来る面子は無視だ無視。ホテルアメニティのシャンプーとボディーソープでそれぞれを洗い、さて、湯船に・・・。
「適当過ぎませんか?」
「適当の意味を辞書で引くように。過ぎるのならば十分です。」
「まぁまぁ、お姉さんが洗ってあげよう。実家では妹の面倒もよく見ていてね。」
いつの間にか背後にいた夏目に捕まった。立ち上がろうと重心を前に移す前に頭に手を置かれた。くそ、首を後ろに倒しながらなら立てるが、下手に立つと蛇口にぶつかって痛いじゃないか。
「そもそも私は4・・・。」
「まぁまぁ助言役殿、ヘッドスパだと思って。」
頭をモミモミされる。婦警さんにもされたが、床屋で頭を洗われるのは気持ちがいい。凝る物が無いので、マッサージに意味があるのかは疑問だが、気持ちいいとは思う。そう言えば、エステとかも行こうかと思ってたな・・・。
「流しますよ〜。」
「ありがとうございました。では湯船に行きます。」
「身体はいいですか?くまなく洗いますよ?」
頭を洗った夏目が流し目を送ってくるが、答えるつもりはない。ここは年齢出して逃げるか。やけに世話を焼いてくれてありがたいとは思うが、焼き過ぎである。まさかとは思うが、本当に狙われてる?・・・、ナイナイ。
「残念ながら、こう見えても43なのでいいです。では。」
湯船に浸かるが、やはり囲まれている。望田は何やら洗顔や美容液を使い入念に顔を洗ったりしているので、まだ時間はかかりそうだ。夏目も頭などを洗っているのでこっちには来ない。
「髪は湯船に付けないほうがいいです。巻いてあげましょう。」
先には入っていた清水が立ち上がり、髪をタオルでまとめてくれた。彼女も髪が長いので気付いたのだろう。確かにマナーとしては悪かったな。何時も1人風呂で、長くなってからは妻としか入っていなかったので見落としていた。そんな清水はそのまま横に座り、肩の触れる距離で話してくる。
「ありがとうございます。最近は何時も1人なので気づきませんでした。」
「いえいえ、確か奥様がいましたよね?会えなくて寂しいですか?」
「まぁ、寂しいですが、この仕事を投げるわけにも行きませんからね。」
ようやく半月くらい。長いようで短いが、中身は濃密だった。まさかモブいおっさんの俺が、世界デビューとかね。まぁ、誰かの仕事が俺の仕事になっただけの話。もしかすれば、他の冴えたやり方と言うモノがあったかも知れないが、残念ながら、そのやり方は受け付けない。何故なら、既にこれは俺の仕事だから、なら好きにさせてもらうさ。
「会ったら聞こうかと思ってたんですか、怖くないんですか?その、モンスターと戦ったり、ゲートの中を歩き回ったり。」
「ん?怖いよ?けど、楽しいかな?モンスターを倒すのは仕事だけど娯楽だよ。それに、キレイになれば気持ちがいいし。」
「その感覚は・・・、私には分かりません。初めて入って怖かったので。」
「フフフ・・・、貴女が本当に怖いのはなぁに?モンスター?上官?それとも・・・、貴女自身?」
「!」
「さて、タバコが恋しいので上がります。後はごゆっくりどうぞ。」
風呂から上がって浴場前で一服。この前買ったチューブトップと短パンは涼しくていい。アイドルみたいにキャーキャー言われながら、ワック達と取り留めもない会話をしたり、記念撮影をする。たまに業務で通りかかった男性自衛官もこちらを見るが、ワック達の手前話しかける勇気はないらしい。そもそも場所が女風呂の前なので、立ち止まると変な噂が立つ。
初日としては上々だろう。話せていないメンバーもいるが、いきなり全員と話すのは無理がある。スマホを見ると宮藤からグループLINEの招待があったので、グループに入り挨拶と基本的に見るだけの旨を書き込みアプリを閉じる。
夕暮れを眺めてタバコを吸っていると、望田が上がってきた。他のメンバーも上がってきたが、どうやらここに泊まりらしく、笑顔で見送られた。望田と共に歩き出してチラリと彼女を見る。大きい風呂で身体が伸ばせたのか、気持ちよさそうにしているが、彼女自身は良かったのだろうか?駐車場までの道すがら聞いてみるか。変に気を使われて一緒に風呂に入られたのでは、やはり申し訳無さがある。
「カオリ、その、わざわざお風呂誘ってくれたけど良かったの?・・・、中身の事とか・・・。」
「はい?いいですよ?考え方なら後天的トランスジェンダーだと思ってますし。そもそも、どこを取ったら男性に・・・、軽率でした。すいません。」
「いや、いいよ。どの道この容姿からは変わらない。ある意味、踏ん切りがついた。確かに、この身体で男風呂に入るわけにもいかないし、利用する施設も女性のモノになる。・・・、うん、対外的に見て女性なら、やはりそれは女性だ。見えない部分は仕方ない。」
うんうん、難しい問題だろうけどこればかりは仕方ない。例えば俺と兵藤や橘が一緒に家族風呂に入れば、それはカップルに見えるだろうし、望田となら友人として見える。人の評価とは対外的なもので、本質は評価出来ない。なら、対外的評価としての俺は女性である。ただし、妻の前では俺であるものとする。うむ、折り合いだな。
「その・・・、大丈夫ですか?」
「ん?43年も生きれば、折り合いの付け方も上手くなる。譲れない線引きはあるけど、それはソレ、これはコレ。私が男風呂に特攻しても困るでしょ?」
「全力で止めますね。なんでわざわざツカサが狼の巣に入るのを、見送らなきゃいけないんですか。」
「ふふふ、分からぬよ?もしかしたら、男って…うわっ考えただけで鳥肌が!」
「すご、もう鳥ですよ鳥。白いんで・・・、白鳥とか?」
「なるほど、みにくいアヒルの子か。」
どちらともなく笑い出す。女の子半年生、女性同士の距離感と言うモノがいまいち分からないが、おいおい分かっていくだろう。望田の車に揺られてホテルへ帰り着く。運動して風呂入ったせいか彼女も若干眠そうだ。
「カオリ、家は近いの?」
「ふぇ?まぁ、そこそこです。」
「居眠り運転も怖い、一緒にご飯食べて泊まっていくといい。」
ベッドも2つあるし、手狭でもない。むしろ、妻と居た部屋から移ってないので、1人だと薄ら寒く感じる。本当にそろそろ安いアパートでも借り・・・、いや、やめよう。変にまた気を使われても困る。借りたアパート俺以外全員警察とか嫌だ。
「ツカサがデレた!」
「違う。真面目な話、本当に事故を起こされても困る。それに、たまには飲む相手が欲しい。」
望田と共にルームサービスを適当に頼み乾杯。彼女は日本酒を飲むようだが、酒の回りは大丈夫だろうか?二日酔いはゲート産の薬でどうとでもなるからいいのだが。
「音楽が〜、音が〜、笛ってね・・・、牛若丸かよー。」
「職的には弁慶だけどね。」
「うぅ〜、せめて、せめてマイクなら・・・。音痴の音楽家とか居ないか・・・。」
「いるよ?」
食事もそこそこに、酔いの回った望田は武器に対して文句を言っている。俺も楽器は得意ではないので気持ちはわかる。しかし、今望田が言ったのは間違いだ。音痴の音楽家と、言うか超有名人がいる。古い人だから知らなくても無理はないが、彼女の歌は割と元気になれる。なんなら、音が合うと嬉しくなる。スマホを取り出して、その人の歌でも流すか。
「ぷふ、なんですかコレ?歌ってみた動画の音痴なやつですか?」
「違うよ。フローレンス・フォスター・ジェンキンス、伝説的な歌姫だよ。めっちゃいい人で、事故した運転手に高級葉巻送るような人。彼女はリサイタルで罵られても、気にしないし、何より絶対の自信を持って歌い、人々から喝采を貰った。」
「はぁ~、凄いですね・・・。」
「いや、君に足りないものだよ?」
「・・・、自信ですか・・・。」
その捉え方は違うなぁ。確かに自信は必要な要素だが、それを得るならその前が必要なわけで、いきなり自信を持てと言っても無理。そもそも、望田は音楽の評価と楽器の使えなさが、自身を縛っている。でも、考えればわかる。絶対音感とかいらないし、そもそも使いこなすなら主は彼女だ。
「先ずは気楽に楽しむといい。聞いた音が再現できるなら、君は君だけの音が奏でられるし、感じられる。別に学問じゃ無いから、評価なんてされないしね。」
「楽しむですか・・・、取り敢えず、肩の力を抜くところからですね。よし、飲もう!」
酔いが冷めかけていた望田が、日本酒をカパカパ飲みだした。俺は酔ってもすぐに戻るからいいのだが、あの飲み方は明日地獄を見るか、今晩トイレと友達になるかもしれない。歳を食うと友人を作るのが下手になる。
出会いが減るのも一因でもあるが、どうも先を見ると億劫だ。それに、出来たとしてもそうそう学生の様に遊び回る訳にもいかない。なら、新たにできた友人の介抱をするのもまた、友人の務めか。
「おぉぉぉはよぉぉぉゴザィマス・・・。」
「取り敢えず、薬飲んでシャワーを浴びる。私はもう済ませたから。」
ゾンビのような望田がベッドから這い出てきた。髪もぐちゃぐちゃで、顔は青白い。今にも吐きそうだが、とっとと薬を飲ませて動き出してもらおう。時間がない訳では無いが、女性の支度にはそれなりに時間がかかるだろう。
青白い顔の望田は薬を飲むと、大分落ち着いたのかフラフラとシャワー室に消えて行った。その間に、スマホで連絡事項の確認をする。ランニングからの座学から、またランニングして組み手。
今日1日の流れはそんな感じだが、あまりチンタラしても意味がないので、早々にゲートに入ってモンスター退治といきたい。差し当たっては15階層に到達してない人達を連れて行くか。
「上がりました。いや、薬は偉大ですね。」
ゾンビから復活した望田が、トレーニングウェアで現れた。昨日洗濯する暇はなかったが、多分何着か持っているのだろう。指輪を持てば手ぶらで旅に出れる快適さ。楽でいい。
「さて、ならボチボチ行こうか。」
望田の車で駐屯地に入り、そのまま教室前で分かれて宮藤達と打ち合わせを行う。特段変わった事はないが、座学自体は後4日程度で終了し、後はほぼ実技となる運びとなっている。その実技のカリキュラムはほぼゲート籠もり。目標35階層としたが、先に行けるなら先に行ってもいい。
「そう言えば朝から千代田さんが来て、前見たビデオの編集が終わったのと、ネットにもアップしたそうです。色々編集が大変だったとぼやいてましたよ・・・。」
「まぁ、独り言・・・、糸とかはいいですがそれ以外は削除でしょうからね。ラストは音だけなら、さほど気にしませんが。」
何かを思い出したのか、雄二と卓かソッポを向いた。初心なのだろうか、それともやばいモノが映っていたのだろうか?謎は深まるが、つついてもいい事がないのでスルーしよう。
「件の千代田さんは話があるそうで、後からここに来ます。午前中はビデオ鑑賞にするので、こちらは気にせずにどうぞ。多分ゲート関係でしょうから。」
「分かりました、取り敢えず話を聞きましょう。」
宮藤達が部屋を出て一服。下を見れば、参加者達が走り出している。赤峰と並走する清水が後続を引っ張る様に走るが、付いていく者達は物足りなさそうだ。道も平坦、障害物も無く危険も考えなくていいなら、ヌルいだろうな。魔法職は宮藤と卓が先頭でペースメーカーを務めながら、徐々に速度を上げるようだ。
「おまたせしてすいません。」
「いえ、いいですよ。」
ノックと共に千代田が入ってきた。手には数枚の紙を持っているので、何かの資料だろう。さて、こいつはネゴシエーターになったと言っていたから、何かしらのお願い事項があると思うが、突拍子もないモノじゃ無いといいなぁ。
「今回は政府からの要請で来ました。まずは資料を。」
「・・・、不明者捜索?人は・・・、厳しいですよ?そもそも、広すぎて他人と会うのも、前に聞いた話では稀なんですから。」
「ええ、理解しています。これは、政府の体面の問題なので、人命自体は考慮していません。しかし、ドッグタグの回収はできないものかとの意見がありまして。」
言いたい事も分かるし、遺族としては何かしらの形が欲しいのだろうが、確約できるモノでもない。それこそ、何かしらの人感センサーでもあれば・・・。テストケースができる?
「千代田さん、航空機の持ち込みはどうなってます?富士の樹海よろしく、歩いて探すのは限界がある。たしか、前にドローンを飛ばす動画は見ました。なら、ヘリも行けるでしょ?」
「武装面を考えると、自衛隊からの借用が妥当ですね。ガンナーがいれば空から戦える。クロエ、当てはありますか?」
ガンナーか、一般職なのに近代兵器との相性のお陰でぶっちぎりに有用だな。ヘリは燃料面を考えるとデポがいるが、そもそも燃料は指輪に収めれば、そこまで考えなくていい。必要なのは補給処、それと遭難者を発見した場合の救護拠点。5階層〜15階層までをマラソンして回れば、完全とは言えないがそれなりに捜索は出来る。
「私をどこぞの猫型ロボットか、なにかだと思ってませんか?まぁ、有りはします。確定で貸してくれる当てが。」
兵藤頑張って!お酒飲む時お酌するから。まぁ、事と内容なだけに、自衛隊側も断りはしないだろう。名目を聞かれると困るが・・・、近代兵器の有用性実験とか?実弾は効かないにしても、バイクなり戦闘機なりはゲート内で使える事が分かれば、有用性はあるだろう。
「どこのツテかは知りませんが、あまり変な所に粉かけないで下さいね?」
「人聞きの悪い、私は正当な権利と報酬で動いています。さて、お願いはそれだけですか?」
そう聞くと、千代田が何やら疲れた顔をしているが、つっ込みたくない。嫌な予感もするし、こいつがそういう顔をしていると言う事は、圧力に負けた後の敗残兵と言う事だ。よし、確率は低いけど逃げよう。
「それでは〜!」
「待ってください。私もそろそろ仕事を辞めようかと、考えるくらい嫌なんですから。この話を出すのは。」
「なら、胸のうちに秘めて辞職してください!雇用しますよ〜、私の名前で殴り放題ですよ、政治家を!」
「くっ!魅力的な!と、そうも言ってられない状態でして。米国が動きました。」
寸劇もそこそこに、お互い座り直して、タバコを吸いながら話を聞く。米国って、どっち?米国軍?それとも政府?どちらにしろ外人さんとか無理!英語も話せないし、なんか萎縮してしまう。しかし。これは・・・。
「えっ!フローレンスの曲を聞いたから・・・。」
「誰かは知りませんが、まだ要請段階です。今回の講習に噛ませろと。派遣人員は1としています。」
派遣人員1なんだろう、イーサンとか007とか、MI6とか?何にせよ無理だ。今の状況ではキャパオーバーもいいところ。せめて、もう少し後から・・・、何なら来ない方向で・・・。
「来てもランニングしか指示しません。会話もしません、何なら接触したくありません。」
「そこまでですか・・・、せめて、こう、なにかないですか?妥協出来る所とか?」
妥協?ん~、何か有るだろうか?そもそも突っぱねたいのだか。妥協ねぇ・・・。かぐや姫よろしく無理難題を上げるか。まぁ、同盟国という立場上断れないのも分かりはするし、大人の事情も分からなくはない。しかし、時期が悪すぎる。要請段階と言いつつも、ここでOKすればすぐ飛んでくるだろう。
「日本語堪能、筋肉なし、厳つくなくて、細身で、均整が取れてて、後は・・・、キレイな人!来るのは最低1月後。」
ふっふっふっ、無理難題ここに極まれり。容姿はすぐに変えられないし、日本語は難しい。それなら、来るのもダラダラ伸びる可能性もある。なら、最低限こちらが鍛えられた段階で来てくれるだろう。それに、俺はそもそも助言役。なら、会わないことを前提に動いてもいい。宮藤には悪いが、講師側として関わってもらおう。




