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街中ダンジョン  作者: フィノ
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34話 模擬戦

 チラリと後ろを見る。今の所脱落者はいない。まぁ、キロ3分単位まで上げると、魔法職側はぼちぼち出るかもしれない程度には疲弊している。逆に元気なのは近接職。ワックと赤峰がウズウズしている様に見える。時間的には1時間経ってないが、このままだと物足りないだろうし可哀想だ。


「赤峰さんとえーと?」


「清水です。」


 ストレートの髪を高い位置でポニーテールにして、女侍の様な凛々しい人は清水か。赤峰に追い付くと言う事はそれなりに鍛えているのだろう。なら、着いて行ける者はそろそろ行かせるか。


「赤峰さんと清水さんは、付いて行ける人を引いてください。速度はキロ・・・そうですね。2分でどうでしょう?宮藤さんの居るグラウンドに戻ったら終わりです。ルートは清水さん決めてください。」


「おう、軽いな!」


「余裕ですね。来れる人は来てくださーい!」


 キロ2分それは原チャと同じ30km/h。近接職は軒並走って行ってしまった。ふむ、これでは訓練にならない。高い身体能力とあるが、基礎を上げれば応じて増すと思っていた。多分、それは間違い無いが、問題は鍛える場所か。今まではゴタゴタやそれぞれやる事があって、打ち込めなかった。しかし、今回は違う。山籠りならぬゲート籠もり。補給はセーフスペースで行い、後はひたすらモンスターと戦う。近接組の最終工程はそうなるだろうな。


「ク、クロ、クロエ・・・、は、速い・・・。」


「カオリ、普通に走ったらきついよ?貴女は音、ならリズムがあるでしょう?無理なら歩いていいからね。他の方も、無理な方は宮藤の所へ戻ってくださーい!」


 望田は魔法職ではないが、イメージと説明内容なら出来る。要は自分の音を感じて調整し、身体を疲労から防衛する。やり方は色々有るが、本人がどう考えるかが肝になる。今回走る前に赤兎馬と言ったが、これもまたイメージが関わってくる。


 なにせ速く走るだけなら、車でもバイクでもいい。しかし、人は機械ではない。心臓をエンジンに見立てれば機械的な物でもいいが、残念な事に四肢が無いのだよ。最初に強化して走るイメージをするなら、動物的なモノの方がイメージしやすい。それに、車ではガソリンという有限性が出てくるが、千里を走る馬、つまり3900Km走れるならほぼ体力は無尽蔵だろう。


「クロエ・・・、そろそろ。」


「そう言えば、兵藤さんもこちらのグループでしたね。分かりました、脱落者はまぁ、折り返して回収しましょう。」


 適当な位置で折り返して、バテている人達を回収する。魔法職だからと体を鍛えてないからバテるんだぞ、自分の事は棚に上げたものとする。実際的な話をすると、戦場でバテられても困るし、ゲート内は広いので体力が有るに越した事はない。ストレッチをしていた宮藤さんの所に戻り休憩。心遣いの煙缶が嬉しいので一服。


「く、クロエさん・・・、疲れないんですか?」


「ん、卓くんか。君は強化しやすいだろう?」


「してはいました、それと疲れないは別です。汗一つかいてないじゃないですか・・・。」


 卓が肩で息をしている。最後まで付いてきたのだから、体力が無いわけではない。強化もしていたというのなら、後はイメージの積み重ねの問題だろう。結果だけ見れば最後まで着いてきたのは魔法職内では半数以下。仕方の無い数字だとは思う。大人になると運動の機会は減るし、意識的にジムでも行かないとあまり走らない。最後まで残ったメンバーはたぶん自衛隊組だろう。これからは少しずつ出来るイメージを積んでもらい、最終的には今の近接組と並べる位になってもらいたい。


「卓君お疲れ様。クロエさん、この後はどうします?一応、自衛隊と同じ時間割りなら17時が終礼なので、後2時間ありますが。」


 今回は約1時間半のランニングか。汗で気持ち悪い人もいるかも知れないが、15時半まで休憩して30分反省、その後、明日の指示をしてシャワーでも浴びてもらえばいいだろう。まだ初日、飛ばしすぎても仕方ないし、明日の筋肉痛解消の為に薬を飲むやらマッサージをするのもいい。


「15時半から反省会をして、明日の指示を出した後は身体の手入れにしましょう。いきなり潰れられても困りますから。近接組の方はどうでした?」


「早々に走りあげて、体力のあるメンバーは走りに行きましたよ。やはりゲート内の方が近接組はやりやすそうですね。」


「そうですね。一応、軽くなら駐屯地内でもやっていいとは言われてるんですが・・・。組み手くらいなら大丈夫かなぁ?」


 組み手と言っても、そもそも俺に格闘経験はほぼない。あるとしても齧った程度で素人も素人。しかし、やらないわけにもいかない。これはどちらかというと対モンスターではなく対人として、スィーパーの犯罪者を捕まえる為に必要な技能。ああ、ちょうどいいのがいた。


「雄二くーん、カオリちょっといい?」


「どうかしたっすか?」


「なんですか・・・?」


 やってきたのは汗だくの雄二と望田。雄二は近接組なので赤峰と最後まで走っていたのだろう、望田は途中でバテ上がったので疲れの色が濃い。ただ、これに卓を加えて秋葉原の続きをやってもらおう。近接対魔法、お互い気心はしれているし、望田と俺が防御に徹すれば多少の怪我はあるかもしれないが、取り返しの付かない事態にはならないだろう。


「模擬戦をしてもらいたい。カードは雄二君対卓。宮藤さんはともかく、君達は社会人としての実績もないし、組織にも属していない。端的に言うと私が連れてきた異物だ。


 なので、ここで力を示してもらいたい。防御は私とカオリがするから、ある程度は構わないけど、間違っても殺してはいけないよ?カオリ、君は周囲への被害と2人の致命傷を徹底的に防衛してほしい。


 君の使命はこの周囲と人命を守る。その一点だ。音は兆候、君なら君の音で潰して。私は不測の事態のバックアップに徹する。宮藤さん、レフリーお願いします。引き分けはありですが、ある程度は魅せてください。」


 それぞれの顔を見ながら話したが、雄二と卓はお互いの顔を見ると、ニヤニヤと笑って拳を突き合わせている。今はコンビだが、元はお互い武器を抜くほど挑発する間柄。上下ではなく、純粋に試したいのだろう。宮藤は2人を苦笑しながら見ているが、その眼差しは優しい。


 なんだかんだで俺より付き合いが、この2人とは長いのだ、信じているのだろう。逆に青い顔をしているのは望田。スィーパーになってゲートに潜ったのは1回。それも、俺と橘という考えうる最高のカードを持った最高の接待プレー。仕方ない、助言役として仕事をしよう心を込めて親愛とともに。


「カオリ、よく聞いて。貴女には守りたいものがある。それは人か物か或いは他の何かは、私は貴女じゃ無いから分からない。でも、貴女は知っている。貴女は貴女自身が守りたいモノを決して譲る事の出来ないモノを心の中で感じている。なら、守るために響かせて?貴女の想いを音に乗せて。」


 両肩を掴んでお互いの目を見ながら話す。望田の瞳には俺が。俺の瞳には望田が映っているはず。本来は姿見を使って後ろから話した方が、自己と向き合うという面では強い。しかし、それは暗示になってしまうのでしたくはない。多分、やってここが限度だろう。


「ツカサ・・・、貴女は私を信じますか?」


「私の護り手は貴女(カオリ)でしょう?なら、私は貴女(カオリ)に全部ベットする。」


 掴んだ肩から手を放す。信じるともSPで防人の貴女を。なんだかんだで今まで一緒で、こうして元の俺を知って妻を知っても親しく話してくれるんだ。なら、信じるに値する。友人として親愛を込めて、君を信じよう。


「あれが、助言・・・。」


「俺にされてないはずなのに、言葉は温かい。」


「言葉は誰でも紡げるけど、彼女が言うから価値があるのか。」


(兵藤さんもあんな感じだったんですか?)


(いや、俺は違ったかな。)


 それなりに休んだ外野が遠巻きにガヤガヤと煩い。心なしか雄二も期待しているようだが、それはまたの機会と言いたいが、少しはしよう。本当なら背景や本人の考えがあるので聞いてからがいいが、単純にやらせると卓が勝つ。それはフェアじゃない。それに、本当に武器でやると危ない。


「先ずは雄二君、木剣と竹刀どっちがいい?」


「流石に武器は駄目っすか・・・。なら竹刀で。」


 落胆しているが、流石に本物でやり合うのは危ない。そもそも、ゲートの武器を俺も受けた事がないので、魔法で対処はできると思うが、不確定要素は排除したい。


「分かった、誰か竹刀をお願いします。」


「井口が行きますよー!」


 髪をアップにした細身の井口が走っていった。行くと言うからには彼女は、この駐屯地の設備に詳しいのだろう。さて、武器も調達出来たし、後は赤峰にお願いするか。投げるのはこれでいいだろう。


「赤峰さん、アレお願いします。」


「アレ・・・、おう!アレね。危ないかも知れないから離れてくれ。」


 赤峰の横の清水達が、怪訝な顔で赤峰から離れた。別に危なくはないと思うが、ビリッとはするかもしれない。汗かいて通電も良さそうだし。本当は火の玉にしようかとも思ったが、流石に今からやり合う卓に悪いイメージを与えても困る。


「雄二君、職とは武器じゃない。自分自身に付随する補助だ。近接職の人は見てよく考えるように。ほいっ。」


 パチパチと音のする電気の玉は、軽い速度で赤峰目掛けて飛んでいく。威力も速度もない玉だが、見本ならこんなものでいいだろう。赤峰は火の玉は潰した。なら、イメージさえ増えていれば簡単な事。


「はっ!・・・、造作もないですねぇ。ちょっとピリッとしましたが。」


 上から下へボールを取るように電気の玉を掴んだ赤峰は、そのまま玉を握りつぶす。軽くパンッ!と弾け音がして無くなったが、通電したのか手を振っている。その光景を見た近接、魔法職も含めて思い思いに考えている。さて、雄二にはこれくらいでいいだろう。


「赤峰さんは今、武器を持たずにやった。秋葉原ではビームも握りつぶした。なら、形は問題じゃない。」


「・・・、うっす!」


 竹刀を持って井口が帰ってきた。望田も笛を出して、落ち着いた感じでスタンバイしている。宮藤も卓と話しこちらに手を上げたので、スタンバイ出来たのだろう。キセルを取り出してプカリと一つ。別に煙はなくても良いが、安心感は出るだろう。ここにいるメンバーは少なからず、煙でビルを消した事を知っているのだから。


「さて、皆さん少し離れて。これから神崎君と木崎君に模擬戦をやってもらう。これは対スィーパー用のデモンストレーションだと思ってほしい。開始は・・・、2人でお好きなように。」


 2人を囲む様に参加者が輪を作る。周囲を見れば、他の自衛官も気になるのか、隊舎からこちらを見ている。危なくないの意味を込めて軽く微笑みながら手を振ると、何人かは姿が見えなくなった。多分、安心して仕事に戻ったのだろう。


「よう、魔術師。火は消えそうか?消えないなら消してやるよ。」


「まさか、なまくらで僕の火が消えるとでも?元無敵君は言う事が大きい。自分の小ささがわからないのか?」


 対峙した2人は、5mほど離れてお互いを罵り合う。これもまた、互いのイメージを潰し合おうとするがゆえ。ただ単純に「お前には無理!」と言っても必ず反発がある。なら、相手の職を分かった上で、それにマイナスのイメージを重ねていく。そうすれば、自分のイメージで相手は首が締まって出来る事も出来なくなっていく。・・・、スィーパーはみんな口が悪くなりそうだ。


「おせぇよ!減らず口!」


「猪か!単細胞!」


 雄二は脇構えからの突進で一気に距離を詰めようとしたが、そこは流石にコンビ。卓が炎の壁を出し、行く手を阻む。しかし、雄二は止まらず炎の壁を下段から中段までの剣閃で斬り、その流れで突きを放つが、卓は既に左へステップを踏んで先にはいない。


「ほら避けろ、火傷するぞ?」


「まさか、線香花火で火傷するかよ!」


 卓の周りにブワリと熱波が生まれ、コチラまで熱くなるが、そんな事はお構いなしと空いた左脇腹に火が灯る。ふむ、遠隔発火のイメージはある程度固まっているのか。教えていないが、もしかすれば宮藤がそれを使うのかもしれない。


 生まれた火はしかし、燃え上がる前に雄二が服ごと左手の手刀で切り離し、身体は軽く赤くなる程度で済んでいる。そして、手刀を放った勢いのまま、右手に持った竹刀で横一閃。ギャラリーは決まったと思っただろうが、それは甘い。魔法に距離は関係ないし、イメージさえあれば事はなせる。


「お前、手燃えてるぞ?」


「おいおい、燃えてるんじゃない。燃やしてるんだよ、剣は鉄、鉄は溶ける。今は竹刀なら、燃え落ちるだろ?」


 横薙ぎの一閃は、卓が竹刀を両手で掴む事で受け止められた。しかし、雄二も止まらない、竹刀を放すと更に距離を詰め、手刀で首を狙う。互いに息の掛かる距離、職だけを考えるなら近接に軍配が上がるが、それは問題ではない。


「パンッ」


 望田の笛が響き、雄二の腹で起こった爆発をガードする。流石にアレは、致命傷になる可能性がある。反発音が鳴り、爆発は起こったものの傷はなく、しかし衝撃はあったようで雄二が後ろに吹っ飛んだが、そのままバク宙を決めて地面に降り立つ。


「あぶねぇな!」


「お前こそ首を取りに来ただろ!」


 雄二が卓を睨みながら怒鳴るが、卓も竹刀を投げ捨てながら怒鳴り返す。竹刀は無くなったが雄二は手刀を構え、卓も自身の周囲に火の玉を浮かべだす。しかし、それは目眩まし。雄二の足元から炎の柱が立ち上る。それを熱さで察知したのか後ろに飛んで躱して、腕を振り抜くと炎の柱が切断されそのまま卓目掛けて不可視の刃が迫る。


「熱くなってきてるな。」


「そろそろ止めますか?」


 卓は柱を出した時点で動き出していた為、軽くジャージが切られた程度。脇腹に掠ったのか、薄皮から血が出ている。飛んだ刃に望田は対処の音が思いつかなかったのか、笛が響かなかったので、煙で巻き取って霧散させた。チラリと望田を見ると悔しそうだ。


「次の交戦で終わりにしましょう。近接、魔法共にどの距離でも戦える事が見せられた。」


「分かりました。と、そろそろですね。」


 模擬戦は終盤に入り、卓は出した火の玉をファンネルよろしく雄二の周りに飛び回らせているが、雄二は雄二で火の玉を斬っていく。ここは身体能力の問題だろう。卓が操作すると言う事は、どこに当てたいという思惑がある。物量は有るが雄二はそれを走り、飛び、躱しながら斬り捨てる。確かに被弾はあるが、脚だけは絶対に被弾させまいと、身体よりそちらを優先させている。


「休んだらどうだ?」


「生憎と休憩って言われないんでね!」


 互いに距離を、間合いを牽制してフェイントを絡ませて止まる事なく、隙を探す。ダメージは雄二が上。しかし、純粋な身体能力では卓が下。だが、距離は関係ないのだ。必要なのは如何にして決めるかの1点のみ。間合いを開く?バカを言うな。剣士の雄二は間合いを離す訳がない。近寄ろうとも発火出来る魔術師の卓が引く訳がない。


「クソが!引っ込んでろ魔術師!」


「黙れ前衛!お前は怯えて寝てろ!」


 いい勝負だが、これは模擬戦。熱くなりすぎだ。そろそろ止めようかとしたら、宮藤から肩を叩かれた。見上げる笑顔で指輪から小袋を取り出して口を開く。


「自分も講習側なんで多少はね?・・・、燃え尽きて、地固まり、枷となる。結束。」


 ポーンと投げられた小袋からは白い粉、多分石灰か灰だろう。それが舞い散り2人の踏み出した足に絡まりついて、たたらを踏んだ2人は体勢を崩して、額がぶつかり合って仰向けに倒れた。音はしなかったが、あれは痛そうだ・・・。


「それまで、引き分けです。クロエさん、それでいいですか?」


「いいですよ、あれ以上は殺し合いです。さて、皆さんに見てもらいましたが、スィーパーと戦うと言う事は、理不尽と戦うと言う事です。今のスィーパーが、彼等のように戦えるかは分かりません。あれ以上かもしれないし、あれ以下かもしれない。ただ言えるのは、積み重ねやきっかけがあれば、飛躍する人もいるでしょう。」


 観戦していた参加者は今の模擬戦を見て、何を考えたのか・・・。少なくとも、今より先はこの2人レベルが段々出てくる。ゲートに入り、先に行けば否応無しに強さを求められる。そんな人達に対抗して貰う為の講習でもあるので、頑張ってもらおう。


「はい。ここにいる全員と戦えば、何か掴めますか?」


「ん~、小田さん。戦ってもいいけど、あんまり意味はないよ?強くは成れると思うけど。」


「意味ですか?」


 小柄な小田が勢いよく手を上げて質問してきた。胸に地震が起きている。対人戦をやれば強くなれるか・・・、鍛えは出来るが、あまり意味はない。やるなら1回〜2回だろう。イメージで戦うなら、それは十人十色、千差万別の攻撃があり防御がある。ちょうど魔術師:火が、二人いるのだ聞いてみよう。


「宮藤さんと、卓君。お互い魔術師:火だけど、卓君はその枷作れる?逆に、宮藤さんは自分を燃やせる?」


「自分は駄目ですね、あれ熱そうだし。積み重ねれば出来ますけど、イメージの方向性が違います。」


「僕も同じです。火なのに灰を操作するイメージはないですよ。寧ろ、何で出来るんですか?」


 横にいた宮藤と、望田から薬を貰って身体を起こした卓が答える。結果は当然。そもそも、2人のイメージが異なるから出来る事の方向性が変わってくる。似たようなイメージなら、補強し合えるが決して同じではない。それは中位、上位と積み重ねれば顕著になっていき、交わる事はない。自身の歩む道程は自身の道で、寄り添う事は出来ても、本質的に人は1人なのだから、自分で至って行って貰わないと困る。


「卓、火傷とかねーの?」


「ない、自分の火で燃える訳がない。まぁ、アレは煙犬からのイメージだけどね。ヒーローなら変身するだろ?君はどうだ?かなり腕も身体にも当たっていたが。」


「流石レッド様。俺は大丈夫、あちぃけど魔法が握りつぶせるなら、剣で切れるし身体に当たっても大怪我はないだろ?」


 二人して話し込んでいるが、やはり2人共筋がいい。若者故の無鉄砲さか、はたまた思考の柔軟さかは分からないが、1つ言えるのは、若さとは発展である。


「今聞いたように、同じ職でもイメージで変わる。なら、同じ人と何度もやるより、モンスターを倒して自分のイメージを補強した方がいい。」


 そう言い切って時間を見ると16時、思ったよりも時間を取ってしまった。しかし、今回の模擬戦はかなり得るものがあっただろう。反省は各人でして、後は明日の朝でいいかな。


「さて、宮藤さん。多少早いですが、今日はこのまま解散しましょうか。通いの人もいるし、何より汗で気持ち悪いでしょう?」


「いいですよ。こちらのカリキュラムは自衛隊に合わせたものでも無いですし。伝達事項はグループLINEで流せば問題無いでしょう。後で招待するので入って下さいね。」


「分かりました。皆さーん本日は終了です。反省は各人で行って何かあれば明日聞きます。解散してください。」


 集まった参加者に解散を伝えてそれぞれ別れる。模擬戦をした、雄二と卓は色々な人から話しかけられているので、これで多少は馴染む事ができるだろう。さて、俺も着換えて帰るか。


「カオリ、帰ろう。」


「うぅ、雄二君の攻撃が守れなかった・・・。イメージがー!」


 望田が頭を抱えて唸っている。まぁ、無理もない。不可視の攻撃なんて、それこそゲームでしか見ないだろう。それに、いきなり対応しようとしても無理がある。だからこそ、アニメや映画など無いものを描いた物を見て、音を増やした方がいいわけで。


「取り敢えず、アニメとかゲーム動画とか映画見よ?今日は終わりだし帰ろう。」


「うぅ・・・、そのまま帰るんですか?」


「そりぁまあ、汗かいてないし。」


 不思議な身体は楽でいい。走っても息切れしないし、汗もかかない。トイレもしなければ、太りもしない。この歳になるとね、2日後の筋肉痛とかなったら回復も遅いんだよ。


「でも、走りましたよね?汚れましたよね?お風呂行きましょう。」


「いや、駄目だろ。」


 不意打ちはあった、警視庁での事故が。しかし、それはお互い感知外での出来事。望田は俺の事を知ってるし、他にも知っている女性がいるかも知れない。流石にそれは悪いし、不快な思いはさせたくない。それに妻に悪い。夫が女湯とか嫌だろ・・・。


「まぁまぁ、ファーストさん。聞けばホテル住まいとか。大きいお風呂でゆっくりして行ってください。」


 左肩を掴まれた。見上げた先には王子様っぽい夏目。


「そうですよ、裸の付き合いは大事です。」


 右肩を掴まれた。見上げた先には女侍っぽい清水。


「お背中流しますよ〜。」


 右手を掴まれた。視線は左右の2人よりは下がるが、まだ見上げるしかない胸の大きな小田。


「綺麗ですよね、美容方法とか教えてください。」


 左手を掴まれた。控えめな感じでメガネの井口が笑顔で話しかけてくる。俺は美容方法とか知らんよ・・・。タバコも酒も飲むし、体の手入れも男の時と変わってない。


「カ、カオリ!」


「クロエ、これを・・・。」


 差し出されたスマホの画面には妻からの文章。良かった、流石にこれなら皆解放してくれる。妻が嫌がるから、お風呂は別。よし、これなら角が立たずに帰れる。


「・・・、一緒に温泉行きたいので、慣れさせてください。洗い方が悪いので、きっちり学ぶ事・・・。おい!」


「では行きましょうか、きっちり洗って教えてあげますからね?」


 5人に囲まれる。みんな俺より背が高いので、圧迫感がすごい。妻よ、なんで許可した!・・・、温泉一緒に入りたいのか・・・。家族風呂とかでいいだろ・・・、前に洗い方とか言ってたけど、どうでもいいよそんなの・・・。やけに嬉しそうな女性5人。俺は大丈夫なのだろうか・・・。


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