315話 UFO 挿絵あり
降りてきた橘は既に中身のパワードスーツになっていた。遠目で見た感じ壊れていない様だったが、上昇アイテムを使うにしても脱出アイテムを使うにしても邪魔といえば邪魔か。ただ、1つ文句を言うなら・・・。
「警告と言う意味を理解していますか?直上より少し前なので暴風くらいでしたけど、下手すれば私も宮藤さんも文字通り吹っ飛んでましたよ?」
「ですね・・・、2人共風を受け流せたから良かったですけど、もう少し周囲への被害と言うものを・・・。」
「お二人共申し訳ない。弁明は安全な所でするので一旦撤退しましょう。バイトは・・・、いますね。」
橘が促すので一旦脱出後に6階層セーフスペースで合流。合流までスーツをチェックしていたのか、俺が現れるとパワードスーツを橘が収納し、撮影していたフェムが橘の腕に腰掛けるように座っている。重くないのだろうか?ただ、そのフェムの髪はストレートだったものが下敷きでも擦り付けたかの様にふわふわしているし、服も変わっている。戦闘で破損でもしたのかな?結構好き勝手やってたし。そんなフェムの髪を橘が櫛で整えているが・・・、本当に目覚めたのか?
「愛着あるみたいですけど、ドールに本当に目覚めました?」
「クロエさんもそう思います?櫛で髪を整えている時の顔ときたら・・・。」
「違います!対話出来て互いの命を預けるパートナーなんです。正式名称はエンゲージドール、死が2人を分かつまでは最適化され続ける様に設計されてるらしいので、無碍には出来ないでしょう?渡された時も愛を待って接しろって言われましたし。」
「・・・、そのうち第何ドールとか言い出してローザミスティカを取り合ったりしませんよね?」
「ローザ・・・、なんですかその言いづらい横文字。」
「ローザミスティカ、聖母マリアの別名称ですね。ただ、特定の人にはカワユイ人形の魂と聞こえるかもしれません。」
巻く巻かないの質問もなければ空飛ぶトランクも・・・、本人が既に飛んで話してるからいいのか。何気に武芸者の玉を仕込んでるから多分戦えるしここに奇跡はなされた。ただ、奪い合ったりはしないだろうが。
「クロエはどれが好きだったんですか?」
「私は水銀党員だったのでヤクルト飲んでましたよ?橘さんは?」
「金糸雀です。」
がっしりと握手。第1ドールと第2ドールだから多分二人は仲良し。なので、党員としては自民党と公明党の様な間柄だと思う。ただ、やはりフェムを作ったのはあやつで間違いないだろう。現代のローゼンにでもなろうというのか?てか、本当にどういう仕組みだよこれ?
「自分の知らない話をされると置いてきぼり感が否めませんね・・・。やはり歳が近い分同じモノを見て過ごしたんですか?」
「私はリアルタイムで雑誌からですね。掲載誌が変わったら読まなくなりましたけど。こう・・・、雑誌名言ってもなにそれって言われるアングラ感が好きでしたし・・・。」
「私はフェムと会った後に、単行本を新旧全て渡されてアニメも見ろと指定されました・・・。」
イケメン人形師の暗躍が見え隠れするが、愛を持って接しろって事はピグマリオン系のイメージ?確かに愛して接していれば解答は別として動いてくれそうだし、パーソナルデータを勝手に収集してくれるなら毎回HHDを交換しなくても済むのかな?
しかし、この方式が大々的に採用されたら自衛官やら米軍やらの将校と言うか、エースが全員ドールを連れてウロウロしだす?シュワちゃんの横に美少女ドール・・・、『お前は最後に殺すと約束したな・・・、あれは嘘だ』『そうなのです!』うわぁ・・・、どう考えても絵面がヤバい。筋肉モリモリマッチョマンの変態だ!いや、多様性を考えるとありなのか?
「自分も今度見てみようかな?火を使う人形とか出てきます?」
「いや・・・、鋏使う娘とかはいますよ?」
「ならマーズで我慢しておきます。それで、なんであんなカウントだったんですか?」
俺もそこは気になった。カウント3から始めればいいというものではないが、使用しますカウント2からの即ブッパはいくらなんても早すぎるし、周りがスィーパーだから大丈夫と言うものではない。下手したら交戦していたモンスターと抱き合って転げ回る可能性もあれば、接戦していたならモンスターに追い風が吹いて急に加速するかもしれない。
「その〜・・・、ウチの娘って私最優先なんですよ。」
「宮藤さん、惚気けだした愚物は焼き菓子にしましょう。スイーツなんでしょう?食べる気はないですが、これは怒っていい案件です。」
「そうですね・・・、自分達が真面目に戦ってたのに1人キャッキャウフフと惚気て、被害考えずにラブラブ砲撃したんですよね?」
「ち、違う!生命維持の最優先が私なので、危険な事は基本的に早期解決するんです!試験運用ではダブルリアクターに耐えられましたが、それでも発射可能な収束状態を維持し続けると自壊の危険があるんです。連発する分には砲身融解で済みますが・・・。」
「私は橘を最優先で守ります。最低限の配慮はしました、お二人なら自力で生き残れるでしょう。」
ラブラブと言うかヤンデレと言うか・・・。まぁ、それでも生き残ったから無理だとは言えないし、死んだら死んだで口無しだからモンスターに殺られたと言われたら誰も言い返せない。あれ?確かにあの時優先すべきは橘だった?まぁ、ロジックが分かればどうにかなるか。人じゃないモノになにか言っても現段階では多分無理。獣人でその事は分かった。
「判定は宮藤さんに任せます。」
「任せられたので判定しますが・・・、疲れたのでご飯奢ってもらいましょうか。良い記憶はストックできましたか?」
「ええ、砲撃の記憶はありがたいですからね。日常風景なら歩いているだけでも集まりますが、編集して違和感のない記憶となるとその場で補填しないといけないし・・・、食事は何がいいですか?好きなものでいいですが、ラボで食べますか?」
取り敢えず帰ってきて橘たちと話していたら結構時間もたったし、一度ラボへ向かうか。51階層以降のアタックは政府からのオファーでもあったし、祭壇探せとうるさい各国からの要請に答えた形でもあった。まぁ、俺も行きたかったし掃除を進めたいとも思っていたので渡りに船だったな。
それにスタンピード回避の為にはアソコをメインに掃除するのが効率的らしいし、威力偵察と考えるなら成果は上々。撮影もしたし文句は言われないだろう。1人だとどうしても撮影はおざなりになるし、何よりもそこまで意識を割いていられない。
「そう言えば、動画の方はこのまま橘さんに任せていいんですよね?」
「ええ。増田さんとも話し合わなければならないし、政府としても情報開示をせっつかれてるんですよ。スタンピードの対策としてモンスターとゲート内で戦うにしても、先の状況が分からないのに兵は出せないだろう?って。誰も最前線を歩けとは言っていないんですが、それでもそこを歩くメリットは国にはある。」
今までは鍛えて訓練してれば良かった兵達は大変だろうな。他所の事なので首は突っ込まないが、見合わなければ軍人にはならないだろうし、階級や勲章ぶら下げてもモンスターには効果がない。
何せモンスターは捕虜なんて取らないし、情報を持ってるから生かそうなんてしない。各国でギルドを作る動きが活発になっているらしいが、そのまま人間兵器とかにされないといいな。流石にまだスィーパーを運用して表立った戦は聞かないが、犯罪者もいるし小競り合いは知らない所で日夜起こっているのだろう。呼びかけと主導が国連と言うならまだストッパーはあるのだろうが、内容は知らないがどうなる事やら。
次のスタンピードがいつかは分からない。そのいつになるか分からない間に風化して人同士でやり合わなければいいが・・・。そんな事を考えながらラボに到着。代わり映えのしない風景だが、そんな中でも空にはなにか飛んでいる。
「お疲れまです皆さん。」
「お疲れ様です増田さん。噂をすればですね、スィーパーとしての活動はどんな感じですか?」
「木崎本部長と共に潜る日々・・・と、なればよかったのでしょうが、落成式が近い分書類に埋もれています。夏目さん引き上げがこのタイミングで助かったと言っておきましょう。宮藤教導官も一旦教育ペースを落とし、こちらを手伝っていただきたい。」
「いえいえ、自分は戦い一辺倒。教えて生存率が上がるならそれが最優先任務です。書類仕事までしたら疲れてぶっ倒れますね。」
「橘さんに監査官は?」
「私も忙しく各県を回っているので無理ですね。知っているでしょう増田さん?私達は何気にゲート内会議室がなかければこうして面と向かって話す事なんて何年先になるか分からない面子ですよ?」
実際今回集まった時に何処に今いると言う話になったが、宮藤は最終的に東京に戻るにしても、それまでの間は中位ではない本部長達をサポートしつつ、各県のスィーパーを育てて回っている。なので今回は青森からラボへ駆けつけたし、橘は監査官としての立場があるが、大分しかギルドが稼働してないから暇だろうと思っていたら鑑定課に呼ばれたり、ネットでの不当な企業とスィーパーの契約を是正する為に警視庁で契約を監査したりと動いている。
そんな話を聞いた増田が苦虫を噛み潰したような顔をする。テレビ電話で話した時も書類が多かったが、マンパワーが足りてないのだろうか?採用自体はそこそこ難しいし、どの部署が足りないかの全容は稼働しないと分からない。うちが稼働した時も人員増やしたり増援してもらったりと、事細かに人の管理だけは頑張った。
なので、多少ごたごたする事はあっても大混乱とまではいかなかった。稼働日の渋滞?そんなものはどう対処しょうとも人が移動すれば必ず起こる。誰がいつ来て誰がいつ帰るかなんて分からないし、逆を言えば24時間稼働しているので出勤時間帯に被ると言う事もない。
「落成式は見送ったほうがいいんじゃないですか?下手に稼働を止めると仕事だけが積み上がりますよ?」
「いいたい事は分かりますが、首都のギルドが稼働するのです。本部長も年若く、未来を見据えたニューモデルとして宣伝したいとする政府の意向もあります。」
「意向示すなら人をくれ!って雄二が叫びそう。卓は一緒にいるんでしょうけど、それも年内の話で早ければ数ヶ月後に千葉ギルドに行くんでしょう?」
「ええ、日本としては年内にギルドのフル稼働を目指しています。そこまで行き着けば逆に来年以降は多少の時間も出来るでしょう。今回の様に獣人なんて言う突拍子もない話が舞い込まなければですが。」
増田が暗に『面倒事を持ち込むなよ?』と言うニュアンスを込めて話して来るが、俺だって面倒事はゴメンだ。仮に面倒事を持ってくるなら他国でありゲートであり、人であり宇宙人だ。と、そう言えば飛んでるアレはなんだろう?ぱっと見UFOらしいUFOとか?光の筋が地面を照らしてるし、そこに浮いたまま消える事なく飛んでいる。確かアダムスキー型とか?
「話は変わりますが、誰も突っ込まないってことは知ってるんですよね?あのUFOがなにか。」
「アレですか?アレは宇宙エレベーターのテスト用試作機です。」




