310話 面倒事は増える 挿絵あり
電話は終わったが出張かぁ・・・。出かけるのが嫌いな訳では無いが、こっちの仕事も少ない訳ではないので長期は厳しい。目算なら3、4日とか?最悪書類だけならメールで送ってもらえばどうにか整理はできると思うが、物理的に俺がしなければならない仕事といえば・・・、出土品の保管か。
まぁ、これについては一旦預かってもらって、帰ってから金庫に投げ込めばいい。決裁印も望田に任せるか、どうして本部長でなければならないものは保留扱い。一応、電子印も使えるので問題にはならないだろう。
データにしろ現物にしろ事、スィーパーが関わると複製やらの難易度が下がるんだよなぁ〜。鋳物師は少ないけど書類程度なら簡単に贋作作れるし。だからこそ、大勢の前での手書きが一番信憑性があると言う懐古主義染みた考えになるのだが・・・。
風の噂ではスクリプターに記憶バンクさせる手もあるらしいが、そのスクリプターが嘘をつき出すと収拾が付かなくなるので考えものだな。
「とりあえず出張は決まったけど、期限は分からないしぼちぼち仕事を進めようか。書類も多いし宮藤さんにも連絡しないといけないし。」
「そうですね。ただ、51階層越えるのはそれなりに準備がいるんじゃありませんか?次の退出ゲートの件もありますし。」
「そうなんだよなぁ〜。退出ゲートないのに外に出たらまた変な疑いをかけられるし、脱出アイテムの話をすれば貸し出せって絶対言われる。みんなないと思ってるから文句も出ないし、仕方ないで済ませられるけど、あると分かれば探すだろうし価値としても値がつけられないしねぇ・・・。」
出す意味がないから脱出アイテムは出ないんだろうけど、あるとわかれば間違いなく荒れる。何せ強制退出出来るんだから効率が悪かろうと、奥のモンスターを一体狩って持ち帰ってまた潜ってを繰り返す事が出来る。死亡率自体は繰り返す分増えるのだろうが、毎回万全の体制でモンスターに挑めるなら、ある程度帳消しに出来る。
「確かにさし迫った死が回避出来る物ですからね。そう言えば、蘇生薬は見つかったんですか?」
「いや、まだ聞かないよ。仮にあったとしても公表するものでもないし、権力者なら切り札として秘匿するだろうしね。」
「暗殺とか怖いですもんね。ただ、蘇生薬持ってる人が暗殺者だったらとか考え出すと疑心暗鬼になりそうな・・・。」
「怖くて疑心暗鬼になるくらいなら権力を手放す事をオススメするよ。時間制限があるからタイムオーバーまでの猶予はある。でも、そのオーバーまでの時間に誰かが必ず使ってくれるとは限らないし、下手したら本人ごと爆散してるかもしれない・・・。やっぱりifの話は好きじゃないな。きりがない。」
「死にづらくは十分なってるんですけどね。さて、獣人の申請がいっぱい来てますけどスィーパーじゃない人の申請は市役所でいいんですよね?」
「いいよ〜。同居人ってくくりでその人の住民票に記載するから。後日マイナンバーカード持っていくか、変更された住民票を役所で確認するんだって。通知なんかも役所から直接本人に行くから、ウチとしてはちゃんと獣人がいて無理やり連れてこられてない事を確認して証明書を渡すだけ。」
スィーパーでない人は疎開の影響でかなり少ないがいない事はない。それに、16歳未満はスィーパーになれるかも微妙。国として16歳未満でもライセンスは発行するが義務教育中はそもそもゲートに入れない方向である。たまにギルドでゲートを眺めている子もいるが、スィーパーになりたいのだろうか?R・U・Rで訓練しているようだし。
そんな数少ないスィーパーじゃない人が獣人と同居するのは中々大変で、政府発行の接し方の冊子なんかも配っている。かなり穴のある冊子だが対等な隣人として接するやら、法律関係が明記されていたりするのだが、一般人より獣人の方が強いので中々大変だとか。
野良だと腹減ったと暴れるし、信頼関係があってもじゃれつかれるとかなり体力使うとか。ただ、赤ん坊とかは可愛がるらしいので擬似的なベビーシッターにはなれるかな?まぁ、教育機関もないので本人達の教育次第だが・・・。そのうち子守ロボットの某青狸もゲゲゲな猫娘並にリニューアルした姿で現れるのだろうか?
いや、アレが獣人の様な姿で現れたなら恋愛物にルート変更する?美少女猫耳娘とひとつ屋根の下で同居・・・。起きたら押し入れからおはよう・・・。あれ、これってウチの息子なんじゃ。流石に押し入れからフェリエットは出てこないが、寝る時は俺と一緒だったり妻と致す時は別の部屋で寝たり、息子の部屋で寝たりしている。恋人もいるから大丈夫だろうが、フェリエット自身がそのあたり寛容だしな。
そんな事を考えつつ仕事を進める。流石にさっきの今で出張の日程は決まらないし、東京ギルドの落成式の日取りも正式発表されていない。寧ろ、書類の山を見るに落成式で仕事をストップするよりも、今の流れでヌルっと稼働しましたの発表を出した方がいいのでは?
「クロにゃんいる〜?」
「いますよ〜、どうしました神志那さん。また変なものが出たとか言いませんよね?」
「流石にヤバい物はないにゃあ。来たのはアレの設計図を見て作っていいかの確認だね〜。」
「アレってどれですか?設計図自体は数十枚持ってますけど、死蔵して全く出していませんが・・・。東京で箱開けた時のやつですか?確か特殊条件下でのエネルギー生成装置。」
神志那と俺の両方が共通して知っている設計図となるとこれかな?宇宙にいるだけでどんどんエネルギーを作ってくれる装置らしいが、結局危ないと思って公開はせずに死蔵している。ただ、このタイミングで作りたいと言い出したって事は斎藤かJAXAからなにかオファーがあった?いや、そもそも神志那も宇宙に行ったしそこから探究心が爆発したとか?
「カオリ、設計図の取り扱いってなにか指標あったっけ?スィーパーが見つけて持ってきたら買い取るで決着はついてるけど、死蔵オンリーじゃなかった気がする。」
「え〜とですね・・・。あっ!あったあった。基本方針は死蔵ですけど、設計図の作成品目を政府に送り目録とする。以後、研究機関等より作成方法の公開依頼があった場合、内閣府の決議により可否が決定される。特例として発見者が個人の意思により特定の個人に公開する場合はギルド本部長の許可を得ること。」
「つまり、クロにゃんがYESと言えば私は見せてもらえるにゃあ。」
・・・、本部長の権限つよ!な~んで研究機関からオファーあったら多数で話し合うのに個人に公開するなら本部長だけでOKなのか小一時間問い詰めたい・・・。まぁ、物がモノだけに個人で作れないと思ったんだろうが、神志那は前に個人で圧縮装置を作っている訳で・・・。クリスタルバッテリーだって液化した物を圧縮装置で圧縮してるから知らない訳はないんだけどなぁ・・・。
「因みに作ってどうする気ですか?宇宙で永久機関作るのが面白そうだからではないですよね?」
「半分はそれだね〜。人類の夢!永久機関はそこにあったのだ!」
「暴走リスクがですね・・・。」
「確かに装置が暴走したらどんどんエネルギー作って・・・、どうなるんでしょうか?」
「そりゃぁ・・・、大量のエネルギーで爆発とか?」
そもそも一口にエネルギーと言っても色々ある訳で・・・。発見した設計図の方式を見るに熱交換システムっぽい。超低温か超高温でエネルギーを生み出すので、寒い宇宙に置けば装置の熱と宇宙の寒さでエネルギーを作ってくれる的な?詳しくは見ていないし、設計図の精査はほとんどしていないので内容とか知らない。ただ、暴走したら爆発するイメージはあるな。だって制御出来ないって事だし。
「内容見てないから分かんない。ただ、宇宙ステーションの新型エネルギー供給装置として欲しがる所は多いねぇ〜。今までだとソーラーパネル展開して太陽光で賄ってたけど、スペースデブリ直撃のリスクもあるしステーションに穴が空いたら隔壁閉めて船外修理だしでリスクも高い。ブロック式構造は変わらないけど、ステーションが小型化出来てエネルギー機関を内包出来るならその方が安全だにゃあ〜。」
「分かんない物を作る方がリスクが高い様な・・・。それに素材も厳しい様な・・・。浮遊ユニット・・・、今は飛行ユニットとも言われていますが、あれだって作るのにモンスター狩って来ないといけないんでしょう?」
「ですね。確か飛行型モンスターが多数必要で羽を傷つけないとか、玉みたいなヤツは極力クリスタルだけ抜いて欲しいとか。企業が必要とするのも分かるんですけど、スィーパーとしてはクリスタルだけ残して外装というか、モンスター自体はさっさと倒したいんですけどね・・・。」
「還元変換途中も駄目だから、倒して即回収じゃないと買取額は落ちるにゃあ〜。素材も安くないから企業とスィーパーは何時も価格で言い合ってるにゃ。」
救いがあるとすれば、内部だけきれいに消えている事が無い事とか?還元変換は全体に作用するので、切り離した腕やらは別として倒したモンスターは全体的に同じ速度で消えていく。大きさが大きければ多少の猶予はあるが、飛行型は小さかったりそもそも飛んでいるので狩りづらかったりと結構高額になるし、どっちが死ぬか分からない状況では金より命を優先する。
なので、かなり細いモンスターの破片を持ってくる事もあるが、企業側としては出来る限りきれいな状態のクリスタルのないモンスターが欲しいので言い争いは絶えない。一応、少額でも前金があればそれで手打ちにする事が多いが、出せない所はゴネる。
まぁ、そこは個人と企業の問題なので余程悪質でない限り介入はしないし、モンスター素材が駄目でもクリスタルは売れるのでスィーパーとしてはマイナスではない。ただ、怪我した時に保険に入ってなかったり、装備品が壊れたりするとマイナス分が大きくなるのでシビアと言えばシビア。
なにげに探索者である青山は金持ちで、クリスタルだけ抜き取れれば高級素材としてモンスターの亡骸が売れる。ただ、彼奴は企業に卸すのではなくギルドに卸しているので、そこからオークション行きになる。前にどれくらいするのか興味があってオークションを覗いてみたが、青山の名前とギルドからの出品と言う事でかなり高額化していた。
お金には困ってないけど、なんかあったらやっぱり奥のモンスターを出来るだけきれいに狩るか。そんな余裕ないかもしれないが・・・。
「価格は個人売買するなら何も言えないですし、ギルドを通さない依頼は範疇外。てか、作るにしても素材がないでしょう?」
「うん!でも、素材は設計図見れば指定できるし私も中位だにゃぁ。少しはモンスターを狩れると思わない?」
「参考までに、どこまで潜りました?」
「7階層!上昇アイテム様々で行ってきたぜ!因みに、中位に至る前だからフライングボードで逃げまくって、藤っちが『神志那女史、悪い事は言わぬ。せめて浦橋殿か御堂を連れて来ぬと首が飛ぶ。撤退するでござるよ。』って言われた。」
「あ〜、ボードで飛んでたら下手したらワイヤーカッターで死にますからね・・・。」
「もっちーもそう思う?かく言う私もヤバいって思ったし。でも、今はパワードスーツも買ったし行けるはず!」
神志那は息巻いているが、望田は微妙そうな顔をしている。俺としても神志那1人をゲートへ入れるのは怖いし、下手したらそのまま消えてしまう。中位だから弱い訳ではないのだろうが、遥同様戦いの中で至ったわけではなく志で至ったタイプなのでなんとも。まぁ、これで戦闘もバリバリこなせるタイプなら更に設計図を欲しがったんだろうが、そんな完璧超人は早々いないので仕方ない。
ただ、素材は買えるのでお金さえあれば完全に無理とも言えない。問題はそのモンスターが何処にいて、どの部位が必要なのか?進化するので大元が何かは分からなくなるし、設計図には『飛んでるモンスターには概ねある』や『外殻の硬いものなら概ねある』等、割と抽象的に書いてある。なので、企業は素材を買い漁るし、奥のモンスターは特徴を引き継ぐので複合的に必要な物がある場合もある。
因みにモンスターの解体が上手いのは鍛冶師と料理人。生物っぽければ料理人で機械っぽければ鍛冶師だとか。一応、ギルドでも解体は請け負っているが、保証なしの勝負なので大企業は企業お抱えの人物に頼むそうな。次点は装飾師で調合師は出来ないらしい。まぁ、溶かすだけとかならいいらしいが・・・。てか、モンスター溶かせる薬品ってやばくない?
謎は深まるが、今度高槻に聞いてみるかな。しっかし神志那はどうするかなぁ〜。話を聞いた限りでは有用なのだろうが、その後JAXAが絶対に絡んでくるんだよなぁ〜。ブラックホールエンジンの製作をやめさせられるならまだGOサインを出しやすいが、同時並行で作ると言い出しそうだしなぁ・・・。そもそもブラックホールエンジンの設計図を見ていないので何が必要かは分からないが、簡単に揃えられるものではないだろうと放置している。
実際どんなモンスターの何が欲しいと言う問い合わせは来てないし、来たら来たで販売拒否も出来る。個人の一存で発展を遅らせている様な気もするが、破滅の可能性がある以上慎重に事を運んで悪い事はないだろう。
「一旦保留で。宇宙ステーションその物の建設が始まったら考えましょう。何せまだエレベーターのエの字もない。先ずは神志那さんが青山か人数揃えて15階層に行けたら、その時再度話しましょう。」
「うぬっ・・・、15階層かぁ・・・。体力はつけたけどまだ足りないし、もちっとトレーニング量増やすかなぁ〜。」
神志那がぼやきながら退出して仕事を再開。切りの良いところまでと仕事をしていたら昼飯時間を過ぎていた。妻からの弁当を食べて一息。望田も離れで自炊したのか弁当を食べて、休憩してから仕事を再開し、15時を過ぎた頃にフェリエットがやってきた。
「温泉の作法を守らない奴をどうにかしてほしいなぁ〜。」
「作法?かけ湯してから入れってやつ?面倒なら頭からお湯を被せてやれ。それが嫌ならシャワーを使えシャワーを。」
「違うなぁ〜。女湯は私がいるからまだいい。男湯は水泳大会みたいだなぁ〜。」
「・・・、話はわかった。バイトは?」
「外の子を見てるなぁ〜。」
「犬人ですかね?猫人はあんまり水が好きじゃないですし。」
「正確には顔に掛かるのが嫌だけどね。ちょっと男湯行ってくる。」
「ヘイ!ツカサ!ちょっと待ちな!ユーはガールOK?」
「銭湯だって女の人が温度計りに来たり、サウナのタオル替えに来るから大丈夫でしょう?別に水着やら裸で入るわけでなし。」
フェミニスト諸君!そこんとこどうなの?女湯に男が入ったら通報されるが男湯なら女性従業員が入ってもOKな風潮がある。まぁ、入ってきたからなんだという話ではあるのだが、例えば男子高校生だったとして母親から裸が見られたいか?そう言う話だと思う。う〜ん・・・、セクシャルな部分が下だけで上半身はいいだろう的な?来たら下はタオルで隠せばいいし。
露出狂?テメーは引っ込んでろ。わざわざ見せる程のモノかは知らないが、進んで見せているなら、それはそれでセクハラである。人の気持なんて分からないが、見せたい欲求もないので多分分かり合えない人種だろう。
「しかしですね、他の男性スィーパーも入ってるとして変な性癖に目覚めたらどうするんですか!単純に犯罪者増えるかもしれないんですよ!」
「目覚めて露出狂になるならそれはそれで、そう言う性癖があったんだろう・・・。はぁ〜、次から次へと面倒な。誰か手空きはいたかな・・・。」
青山は呼びに来て以降、仕事でいないし夏目は女だし、そもそも男湯なんて行きたくないだろう。そうなると内田か神近か。ただ、神近は法律課で忙しいので無理。そうなるとちょうど食堂が暇そうな内田か。腕っぷしもあるしはしゃぐ獣人に返り討ちはないだろう。ただ、一人で行かせるのもなぁ・・・。
「時間的に食堂が暇そうな内田さんにお願いするかな。それで駄目なら行ってくるけど・・・、一緒に来る?」
「青山さんが出てるのが痛いですね・・・。いらない時はいやがるのに。1人は危ないので一緒に行きましょうか・・・。」
「恥ずかしいなら1人でいいよ?見たいものでもないだろうし。」
望田がぶつくさ言ってるが風呂を壊されても困る。何気に人気があって仕事終わりのスィーパーは結構入ってるんだぞ?無料のせいか仕事で来たおっちゃん達も入るし。そんな事を思いながら内線を食堂へ。
「もしもし?内田さんいますか?」
「あらやだクロエちゃん?ごめんねぇ〜。今内田さんは仕入れの話で手が離せないのよぉ〜。獣人達がよく食べるからって仕入れ量増やさないといけないし、価格自体はいいらしいんだけど購入時期をどうするかで揉めててねぇ〜。内田さんも内田さんで明日いきなり増やせは無理だって分かってて言ってるからなら何時ならって所よ。」
「あ〜、分かりました。最悪足りない分は馬と魚を出しましょう。それで足りないなら青山に依頼してください。私の名前を出せばどちらも大量に持ってきてくれるはずです。」
手早く電話を切る。食堂にパートで来てくれてるおばちゃんだが捕まると話が長い。何気にスィーパー達の会話を飯を作りながら聞いているので噂話で情報を集めるなら候補に上がる。ただ、話が長い。本題に行くまでに脱線する事が多いので、情報を集める以外なら程々で話を切り上げるに限る。
「どうでした?内田さんじゃなかったみたいですけど。」
「おばちゃんが出たけど内田さんは取込み中らしい。仕方ないし行くか。風呂を壊されたらそっちの方がクレーム来るし。」
「ゔっ・・・、女は度胸!ゲート内で講習中に筋肉フェスティバルも見たんです!大丈夫でしょう!」
意気込むほどのものでもないと思うが・・・、乙女の恥じらいと取ろう。確かにゲート内だとインナーが出来るまではみんな半裸だったしな・・・。そのせいか一時期男どもは映える下着なんてモノを模索していた。結局インナーのおかげで見なくてすんだが、どんな物を買ったんだろう?定番の赤いパンツとか?流石にビキニパンツは見たくない。
そんな事を考えながらフェリエットを残し地下の温泉へ。湯上がりらしい人とすれ違いながら男湯の暖簾の前に立つ。中からは騒ぐ声が聞こえるので中で騒いでいるのだろう。
「本部長が今から入りますよ〜!見られたくない人はさっさと服を着ること、これは覗きではなく獣人が騒がしいと言う報告を受けて注意する為に来ました。5分後に入りま〜す!」
声掛けして5分。数人の男達がそそくさと出て行ったがまだ中は騒がしい。1人取っ捕まえて中に話しに行ってもらい少し時間をおいてから中へ。
「すご・・・。」
入口に腕組みしてる上半身裸の筋骨隆々の犬人に、今上がって髪を拭いている猫人。じゃれる様に髪を拭いている犬人達に他たくさん。人間の方はさっさと上着も来ているが、獣人の方は気にせず涼んでいる。まぁ、隠す様な貧相な体でもないからな・・・。
「凄いのはいいけど凝視しない。下手するとそのままポージング始めてタオルが落ちてボロンなって事もあります。私は見たくないのでさっさと済ませましょう。」
「そうですね・・・。」
「抱きついていいかな?ほん、ほんぶ・・・、本部長?」
「服を着て人らしい姿なら構いませんが、その姿は人として落第です。中で騒いでたのは犬人でいい?」
「ま、まぁ・・・、その・・・、ワン・・・。」
近くにいた犬人が話しかけてくるが、裸で抱きつこうとするな!服を着ろ服を。耳と尻尾が垂れているが、マッチョにそんな事されても可愛くない。そのままズカズカと歩いて行き風呂場のドアを開けると、中では今まさに飛び込もうとしている犬人や岩盤浴の板の上で丸まる猫人。猫はいいよ、騒いでないっぽいし。だが犬人、テメーは駄目だ。
「こんのぉ駄犬共が!風呂は静かに入る!守れないならご飯抜き!他の仲間にも同じ事を伝える事!返事は?」
「「ワン!」」
「よろしい。カオリもまじまじと見ない。行くよ。」
「えっ!あっ!はい!」
気後れしているが望田には刺激が強かっただろうか?恋愛話なんてしないから、その辺りがどうかは知らないがイケメンマッチョの集団に気後れしても仕方ないか。早々そんな集団の全裸なんて見る機会なんて無いし。ただ、ここでチクリ制度なんて入れると監視社会が出来上がるので注意に留める。
流石に今の獣人にそれは早いし、監視し合ってギスギスするのも後々面倒になりそうだ。これがガチの犯罪なら手厳しくするのもやむなしだが、今回は風呂で騒いだだけだしね。そんな注意を終えて外に出ると内田が麺棒と中華鍋を持って立っていた。
「お疲れ様です内田さん。何やってるんですか?そんな格好で。」
「いや、クロエさんと望田さんが男風呂に突貫したって聞いたんで連れ戻しに・・・。何かありました?内線もかかって来てたみたいですけど。」
「あぁ、騒いでた犬人への注意ですよ。犬は水遊びが好きですからね。大きくなったとは言えのぼせられても困る。注意も済ませたので大丈夫でしょう。」
「次からは引率でもつけましょうかね・・・。」
「多少騒ぐ分にはいいんですけどねぇ。さっき見た時は飛び込もうとしてましたが、怪我はないでしょうけど他の方の迷惑にもなるので早風呂したい人がいたらお願いします。」
「了解。しっかしクロエさんはいいとして望田さんは顔真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「多分刺激が強かったからでしょう。」
(えっ、あんな大っきいの?ゲートで見た時はそこまで・・・、膨張してた?いやいや、柔らかそうだったしブラブラしてたし・・・。犬って確か骨があったような・・・。)
「カオリ〜、帰っておいで〜。戻るよ〜。」




