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街中ダンジョン  作者: フィノ
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32話 涼しい

 鑑賞会も終わりある程度話は出来たが、どうしても実戦の方は現場対応になってしまう。究極的な話をするなら、ゲートに籠もってお互いの攻撃が届かない範囲で、モンスターと戦い続けるというのが効率的ではあるが、流石にそれはできない。


 やるとすれば20階層の退出ゲート付近でやるのが、損耗を考えた場合は安全マージンがある。こちらとて、死んでもらっては困るのだ。それに考える時間というのもまた必要で、頭空っぽでは意味がないし、死ぬ気でやれば強くなれるというものでもない。


 試行錯誤。イメージを作っては試し、結果からまたイメージを重ねて積み上げる。しかし、それを積み上げても、崩れる時は簡単に崩れ去る。それはある意味、人生を圧縮したような工程だ。育って挫折して、折り合いを付けてまた歩き出す。


 特に35階層には多数の小骨がいた。それと対峙した時、本人のイメージが崩れる可能性は高い。今回のメンバーで兵藤、赤峰、宮藤は小骨と戦っている。その中で頭一つ抜けたのが宮藤。なにせ彼は腕こそ無くしたものの、小骨を倒している。それはつまり、倒すイメージがあるという事。このイメージは非常に重要で、一度経験した事は偶然にしろ、狙ってにしろ強烈な成功体験となりイメージが固めやすくなる。


「さて、宮藤さん。話はある程度は固まったと思いますが、これからの事で不安はありますか?」


「そうですね・・・、少なくとも、自分はまだ腕を諦めてません。薬は探そうと思うので、ゲート内で同行していただいた際は薬を譲ってもらえませんか?報酬は出します。」


 そのうち付くだろう片腕の魔術師と言う、中二病じみたあだ名も格好いいと思うが、それは漫画の中だけ実生活ではやはり、不便を感じるのだろう。


「いいですよ、見つけたら金貨1枚でいいです。それと腕はもしかすれば、治癒師が再生してくれるかもしれません。この職の詳細は増殖、再生、結合。どれを取っても可能性はある。」


 そう言うと、宮藤は柄にもなく口を歪めて笑った。しかし、それは決して悪い笑い方ではなく、不敵に相手を挑発するような、強者が挑戦者を叩き潰すと決めたような、そんな笑み。


「そうですか、ならリベンジは出来ますね。あの時は腕を取られた。次は無傷で倒しますよ。・・・、とクロエさん少し卓君を助言してみませんか?自分とクロエさんで多分違うので。」


 秋葉原は宮藤を戦士にしたのだろう。腕を取られ仲間を取られ、誇りも取られ、駄賃に貰ったのはモンスターのクリスタル。仇は取ったと考えるか、まだ足りぬと敵を見据えるかは自由だが、見据えたほうが先はある。と、卓か。


「いいですよ。それではまず、卓君はなんで火なんですか?」


「え?なんで火かですか?」


「ああ、職は3つ最初に出る。その3つは適性で決まる。なら、3つとも何かしらの想いなり、強烈な体験がある。」


 橘は友人の死を引きずっていた。だから、出た職は全て想いに応えるように、犯人確保に向いた職が出た。犯人を見つけたい追跡者、友人を殺した車を壊したい格闘家、忘れたくないスクリプター、そして、自身を責めて、証拠を探す鑑定師。


 職の語録が俺の記憶からだから、違うかもしれない。でも、適正とは正当なものだ。正当なものなら、何かしらの親和性があるはず。その中で火を選ぶからには、何かしらの体験が無いとおかしくなる。


「・・・、笑いませんか?」


「笑う理由がない。仮に笑うなら、目を瞑って適当に押したと言った時かな?」


「・・・、昔ヒーローショーを見たんです。子供を攫ったりして、ショーが進んでクライマックスになると、レッドが必殺技の火を放って敵役が燃えたんです。今にして思えばアレは演出だとわかるんですが、小さかった僕は子供ながらに、正義の炎は消えないんだって、悪いやつを倒すんだって思ったんです。だから、火を選びました。」


 ふむ、総合すると悪い奴を倒すなら火!と言った所かな。なるほど、彼が宮藤に付きたいと言うのも分かる。だから彼は自身にヒーローを投影して、消えない火なんて言ってたのか。


「君の炎は純粋だね。うん。なら消えないよ君が君である限り、君の炎は君しか消せない。ちっぽけな火でも、燃え上がればそれは紅蓮の大火となる。君は君を信じる所から始めるといい。幸いにして、目標とできる人が近くにいるのだから。」


「このまま進めと?」


「どうだろう、でも、斜に構えるよりは怒った方がいいよ。誰かをせせら笑うのではなく、正当な怒りを持って怒ればいい。」


「正当な怒り・・・。」


 正義のヒーローとは、良くも悪くも誰かの代弁者だ。力のない人に代わって悪を倒す。独善的だが、それでも確かに救われる人はいる。難しいイメージだ。大人になると叫んでしまう。誰が為の正義かと。相手()には相手()の主張があると。だが、モンスター相手なら、相手を考えなくていい。そこには純粋な怒りを持って叩き潰す、正当な権利がある。


「なんか、お前も俺とそんなに変わらないのな。」


「・・・、悪いかよ。」


「いいんじゃね?怪人はいっぱいいるし、ヒーローは休業出来ないべ。」


 雄二が卓にニヤリと笑いながら言う。ちょうどいいところに相棒がいる。正義のヒーローには当然、仲間がいる。なら、後は本人次第。歩む先の正義は自身で決めるしかない。


「自分と大分違いますね、やっぱり。自分は割と楽しいイメージで火を使ってるので、ヒーローショーなら楽しんでって言っちゃいましたよ。」


「えっ!モンスター灰にするのって、楽しいイメージだったんですか?」


 驚いたように卓が言う。モンスターを灰にする、俺も楽しいが、宮藤は多分違う。そもそも、宮藤のイメージは火事だった。それが楽しい・・・、放火魔ではない。なら、多分。


「笑うしかないってやつですか。」


「ええ、火事が起こって灰になって、でも父さんも母さんも兄妹も無事だった。なんなら保険でいい家も建った。なら、笑うしかなかったですね。灰になった家に思い出はあったけど、その先もまた思い出はできますから。」


 2人とも魔術師:火だが、イメージの方向性が違うので似て非なる同じような事が出来るだろう。多分、宮藤の炎弾は火の粉から、卓の炎弾はヒーローの攻撃から。イメージが重なれば更に非なる部分のウェイトが大きくなる。そうなると、同じ職でも方向性が変わり自分だけの炎になる。うむ、魔法とはまず思考しなければならない。


「ツカサ、私にも助言していいんですよ?」


「それはまた後で。ちょっと紙巻き吸ってきます。流石にここで紙は煙たい。」 


 そんなに狭い部屋ではないが、非喫煙者の前で吸うのも気が引けるので部屋を出て喫煙所を探す。エレベーターでここまで上がってきたが、隊舎の左右にはつづら折りの階段があり、そこの踊り場に灰皿とベンチがあったので座って一服。業務時間中なので、下からは走る兵士達の声が聞こえる。


「お!お久しぶりです、クロエさん。」


「ん、兵藤さんお久しぶりです。秋葉原以来でしたか、無事は知っていましたが、中々会う機会もなく特殊作戦群に私的に連絡も取れないし、取っても多分蹴られるので機会がなかった。無事で何よりです。」


 下の階から兵藤が上がってきた。30を過ぎると、未婚でも外の宿舎に出されるので、多分通いで通勤していると思うが、今回の参加者という事で営内に住んでいるのかもしれない。格好は迷彩Tシャツに、ジーパンスリッパとラフだ。


「今日は下見ですか?俺も昨日来たのであんまり案内はできませんが。」


「気にしなくていいですよ。そう言えば、これ上げます。上げるのは1号ですね。」


「名刺ですか。特別特定害獣対策本部 本部長。クロエ=ファースト。偽名ですか。まぁ、本名よりは有名ですからね、ファーストは。」


「まぁ、これならそうそう辿れないでしょう。」


 本名より有名なこの名前は、記号として考えれば扱いやすい。ゲート=ファーストのイメージは中々に強力だ。名字が外国の名前の様で良かった。日本人なのは間違いないが、今の容姿は日本ぽくはあまりない。寧ろ、何人かと聞かれても困る。


「俺も明日からの講習会に参加するので、よろしくお願いします。講習で必要な物で、駐屯地にある物なら手配できます。」


 ほぅ、いい事を聞いた。装甲車とかどうしようと考えていたが、駐屯地から借用出来るならありがたく使わせてもらおう。寧ろ、車両関係の懸念は自衛隊から借用すれば考えなくて済むようになる。まぁ、バイクは中免までしかないし、乗り慣れたバイクがいいので、また同じものを手配してもらうが。


「ゲートに潜る時車両関係をお願いします。乗り心地は最悪ですが、身を守るなら仕方なく3t半の荷台にも乗りましょう。尻は痛いですが。」


「アレの荷台は板張りで痛いですからね・・・。ゲートに潜るって事は実技は20階層辺が目標ですか?」


「いえ、最終目標は35階層です。下見もしたので、鍛えれば行けると思いますよ?」


 各都道府県別に長として人を置くなら、本当に何処からかは知らないが、理不尽の始まる中層辺りまでは行ってほしい。今回のメンバーは誰も中位に至っていないし、至った橘にしても経験の積み方が異常なのだ。


 橘と雑談した時に言っていたが、鑑定で経験を積むならゲート出土品を見るのが一番早いらしい。理由は簡単で理解出来ない異質な物を鑑定すると、扱い方が分かり新たなイメージに繋がるから。日常に有るものでも、車のエンジンとか制御システムとかでも経験は積めるらしいが、感覚的にはやはりゲートの物の方がいいらしい。


 警察官であり警視という関係上、出土品は殆ど橘が鑑定しているので、成長速度だけを考えるなら他の追随を許さないだろう。まぁ、その他にも本人の適正も必要なのだろうが。


「・・・、1人でピクニックですか?」


「ええ、楽しかったですよ。動画があるので、講習で使うかも知れませんね。元は千代田さんからの借り物ですが・・・、アレも配信しようかな。」


 ドン引きされた動画だが、先にいるモンスターが分かれば、後から潜る人々への注意換気にもなるし、対策も立てやすくなる。編集は必要だし、殆ど魔法で殲滅状態だったが、それでも得るものは多分あるだろう。


 問題はそのまま俺がドン引かれる事だが、恐怖も行き過ぎれば自衛本能から対象を無視する様になる。家族に手を出す事への抑止になるなら、今回の動画をアップして下手な事をしないようにと、各方面(・・・)に釘を刺すのに使えるかもしれない。面識の無い人間が勝手に恐怖し続けるのは無視するものとするが、人は割と鈍感だ。


 なにせ、最大の恐怖が常に付き纏っているのに、平然と寝て起きて飯を食べては仕事のストレスを抱えている。ハロー死、俺のは無くなっちゃったけど、忘れはしないよ。メメント・モリ。


「・・・俺達行けますかね、そこ。」


 兵藤は遠い目をしながら話している。秋葉原では、何か辛い経験でもあったのだろう。俺の知らない、彼の知っている友人の死とか。


「練習場所は20階層退出ゲート付近。こちらの被害は気にしますが、相手なら被害は考慮しなくていい。なんなら、地形さえ変えても文句言われないんです。好きに暴れるといい。」


「恐怖に囚われず楽しめってやつですか。・・・、そうですね。開き直るしかないですよね、許しを乞うても相手は答えてくれない。」


「ええ、鳴き声1つ・・・、上げる奴は居ましたが、言葉が通じないなら意味はない。」


 やるやらない、出来る出来ないは結局本人達による。今回の30名、色々思惑も有りそうだが、それ以前に生きてもらわなければ始まらない。


「さて、私はそろそろお暇します。明日からよろしくお願いしますね?約束のお酒も飲みましょう。」


「ええ、こちらこそよろ・・・。」


「兵藤さんだれと話して…ってこの声ファーストさん?」


「えっ、居るの?」


「警衛からは来たって聞いたけど、ここにいるの?」


「抜け駆け?」


 何やら下から女性達の声がする。兵藤と呼んでいたから、部下だろうか?今回の講習で兵藤は、班長的な立場をお願いされたのかもしれない。ちらりと、上がってくるワック達が少し見えたが、なかなか美人さんのように見える。


 前に兵藤とは妻や彼女の話をしたが、まだいないならいい機会になるかもしれない。職場恋愛が悪いとも思わないし、そもそも仕事をすると大半は職場に拘束されるのだから、そう言う相手は限られてくる訳で。


「いいですね、両手に花。この機会に彼女が出来るかもしれませんよ?長居し過ぎました、ではこれで。」


「そうですね・・・。」


 兵藤が複雑な顔をしながら見送ってくれたが、何かあるのだろうか?美人さんの様に見えたが、好みじゃ無いとか実はワックの方が階級が上とか。


 階級差婚した人の話を聞いた事があるが、家庭内でも上官と部下の様な感じで妻に不満はないが窮屈は感じると言っていた。階級社会の自衛隊、兵藤はそこを気にしてるのかもしれない。でもまぁ、老婆心ながら彼女達に会ったら、兵藤はヨイショしておこう。


「戻りました。」


「結構時間かかりましたけど、何がありました?」


「喫煙所で兵藤さんに会って話してた。元気そうで何よりだったよ。」


 部屋に戻ると、4人で何だかんだ話していたようだ。配線も戻されているので、何か検証していたのだろう。リモコンは望田が持っているのは多分、最後の脱衣シーンを映さないためかな?


「自分は会った事有りませんが自衛隊の方ですか?」


「自衛隊、特殊作戦群所属の兵藤さん。今回の講習にも来るので、正式には明日顔合わせですね。魔術師:水なので魔法関係では一緒になる事が多いと思います。」


「分かりました。それでは後は、やりながら日程調整していきましょう。」


「そうですね、今日はお疲れ様でした。明日の集合はここでいいですか?」


 明日の朝8時までに、この部屋に集合と言う事で話は終わり解散。宮藤はホテルではなく、今は外部講師と言う事で外来宿舎に泊まっているらしい。雄二と卓はなんだか肩の力が抜けた卓が雄二をゲートに誘い5階層までを回るようだ。


 本来なら、15階層辺りを回りたいそうだが、生憎と時間もなくそもそも、15階層の退出ゲートにたどり着けていないらしいので仕方ない。感覚だけなら、2人は5階層以降が掃除適正区域になると思う。


 望田の車で近場のゲートに送り、そのまま2人はゲートに入っていった。しかし、助手席に座る俺を2人して、チラチラ見ては目を逸らすのはやめてほしい。気付かないフリはしたが、バックミラーでまるわかりだ。


「さて、多少時間もありますがどうします?」


「そうだな・・・、服が欲しい。助言役で一応講師なら、それっぽい服もいるだろう。」


 今持っている服は、ゴスロリや今着ている黒ワンピにノンスリーブタートルネックに、有志のコスプレ紛い服。スーツもあるが、流石に1着着たきり雀と言うのも見栄えが悪い。取り敢えず、黒のタイトスカートと装飾の無い白のブラウス。後はタイツとかあれば大丈夫かな。デザインは同じものでいいし。


「分かりました、買いに行きましょう。どうします?ホテルへ帰った後、私が買ってきてもいいですが、自分で選びますか?」


「ふむ、この格好ファーストだとバレると思います?」


 今日はスーツを着ている。望田も面が割れているが、それは俺と共にいる焼肉屋の写真を見た人が気付いただけで、多数の人は知らない。格好的にもスーツだし、最近は白髪スーツの人も増えたので、人混みには紛れられると思う。ただ、今が昼間というのがどう働くかと言う所か。


「難しい質問ですね。サングラス無ければ確実にバレます。ツカサは本能的に綺麗だなーと思うんですよ。だから、余計目に付くんです。ただ、サングラスなんかで隠すとそうでもないんですよね、綺麗は綺麗なんですが。」


 隠せばいい、それは多分比率が崩れるから。なら、サングラスとかカツラを被れば、かなり紛れる事が出来るのでは?あまり自身の事に構う暇も無かったが、サングラスして出歩いてみるか。幸いにして、身長が低いのであまり人と真正面から見合う事もないし。


「一緒にいきましょう。護衛対象が1人なのもいけませんからね。」


「あの映像を見ると護衛がいるかと、疑問ではありますが、分かりました。行きましょう。」


 何処かに電話した望田に、途中コンビニでタバコを買って連れて来られたのは、どこぞの大きな百貨店。109とかに連れて行かれても、若者の物しかないだろうし、これだけ大きいならフォーマルな物もあるだろう。


 ブランドなんて分からないし、既製品でいいから量販店で構わないのだが。リクルートスーツは偉大だと思う。安くて清潔感があって、おまけにシワになりにくい。スーツにサングラスと、なんだか身長が低いのでコスプレしている様な気になるが、これはまぁ仕方ない。


 髪は望田がアップにしてくれたので暑くない。蓄髪に回された脂肪や体重だが、髪はショートでも良かったかもしれない。背中まであるのは暑い。試しにこっそり切ってみたが、切れはするが切り離せなかった。地面に髪が落ちる前に、元の位置に髪が勝手に巻き戻る。仕方ない、諦めよう。暑くはあるが、汗はかかないのだし。


「こっちですよ。電話では、このフロアのこの辺りなんですが・・・。」


「お待ちしておりました。本日はご来店有難うございます。」 


 知った声がするので振り返ると、そこには七三メガネ千代田。胸のネームプレートには増田 竜一の文字。バックグラウンド先はここか。多分、望田の電話でここに来たのだろうが、やけに似合っている。そう考えると、この百貨店のトップは警察の協力者なのかもしれない。


「お忍びです。リュウイチ、教師っぽい服を。私は他の服を見ておきます。」


「分かりました、準備しましょう。」


 千代田に言い残して望田と服を見る。今の所バレてない。多少俯きながら歩いているおかげかもしれないし、服の影でそもそも俺が見えないせいかもしれない。


「これとかどうです?」


「まいうー。着てみましょう。」


 差し出されたのは白Tにデニムのオーバーオール。ダボッとして裾が長いので適当に折り曲げて着ると、着やすいが肩紐がずり落ちやすい。ベルトがあるので、締めれば大丈夫かな?


「動きやすくていいですね。肩紐はズレますが。」


「つばを反対向きにして被れば、ヤンチャな感じでイメージも変わりますよ。」


 望田がなぜかスマホで写真を撮りながら、着こなしを教えてくれる。そうか、俺は麦わらで牧草とか運んでるくらいしか思いつかなかったな。うむ、実にカントリー。


「そんな着方も有るんですね。まぁ、これは着やすいので同じものを後2〜3着・・・。」


「何言ってるんですか?莉菜さんからも、着たきり雀をやめさせて、何か着せろって連絡来ましたよ?」


 望田のスマホには、LINEでの妻とのやり取りと先程の写真。その先には、もっと何か着せて送れの文字。面倒だが、容姿も変わったし今までの感覚で、ユニセックスな物を買うのも限界がある。


 身長が低く華奢な為、大人向けの物は見た感じ合うサイズは少ないし、靴も女性のSサイズでも大きい。毎回ゴスロリ服とかブーツとか用意してもらっていたが、なかなか大変だったんではないだろうか?


「分かりました。1人で服も買えない大人にはなりたくない。合うものを探しましょう。」


 そして探し出したが大変だった。なんというか、色がね・・・、ピンクとか淡い青とかパステルカラーとか・・・。形も太ももがガッツリと出ている短パンとか、大人っぽいかもと着てみれば背伸びした感が否めない。望田は嬉しそうに写真を撮っているが、精神は削られる。いっその事魔女に任せ・・・。いや、辞めよう。多分アイツ、レースとかフリフリ好きそうだし。魔女って多分フリフリ着てる。


「取り敢えず10着ほど・・・。望田君。あれは彼女が普段着るんですか?」


「・・・、ツカサが選ぶなら。」


 今着ているのはへそ出しチューブトップに、スキニーホットパンツ。涼しいよ、すごく。量販店に売っているからには、着る人がいるという事。実際街で見かける事もあるし、ファッションとしてはありなのだろう。下着で怒る望田が、怒らないからこの姿はいいのだろう。ヌーブラという物も初めて付けたが、蒸れなくて涼しい。


「ん~、涼しいですよ?下着も見えないし、落ち着きはしませんが、夏はこれくらいの方が楽なのかな?街で着てる人もいるし。2人はどう思います?気分としては、上に上がった腹巻きと短パン小僧ですけど。」


 昔はいたな、一年中短パン半袖のやつ。夏になったらランニングで走り回っていた。そう考えると、この格好はそこまでおかしくない? 下着が見えるわけでもないし。


「私としては目のやり場に困りますね。クロエはからかうでしょう?」


「そこまでイメージが変わればバレないかもしれませんが、悪い虫には気をつけてくださいね、痴漢とか。」


「水着よりは露出しないし、涼しいので買いましょう。何だか懐かしい気分にもなりましたし。」


(千代田さん、あれは大丈夫ですか?端的に言うと魅力的すぎるのですが。)


(男としてノーコメントです。どう答えても地雷になる。)


 望田が写真を撮りながら千代田とヒソヒソ話している。やはりおかしいのだろうか?まぁ、部屋着にでもすればいいか。そう言えば、アレもいるんだった。実技をするにしても、近接職は身体を動かす。助言をするにしても、ある程度は動きやすい服がいる。ジャージは暑いし、ここにあればいいが。


「リュウイチ、スパッツはない?カオリ、貴女も必要よ?明日からは身体も動かすから、スポーツウェアを買うといい。」


「ありますが、お持ちしましょうか?そのまま見に行くなら、値札とタグは取りますが。」


 どうせ試着するなら、着替えてまた脱がないといけないし、値札を切るという事は、多分支給品扱いだろう。前に無欲すぎると言われて事も起こったし、ここは素直にもらっておこう。


「着ていきます。脱ぐのも面倒ですし、どうせ試着でまた脱ぎますから。服はありがたくいただきますよ。用意してくださった方に、お礼を言っておいてください。」


「・・・、分かりました。タグを取りましょう。他の服もそのまま持って行ってください。」


 貰った服を指輪に収納し、ハサミを借りて値札を切っていると、千代田が防犯タグを取る為に手を伸ばしてきた。背面にあったはずなので、くるりと背中を向ける。何だか生唾を飲む音が聞こえたような気がしたが・・・。そう言えば、短パンのタグも後ろの太もも当たりだったな。


「そのままズボンのタグも取れます?無理なら脱ぎますが。あと、首輪を後で返しますね。」


「その言い回しはやめていただきたい!私が危ない人に見られる!」


「ちよ、増田さん・・・、幼気な少女にそんなに趣味が?」


 魔女が首輪と言うものだからひっぱられた。カメラの映像を見て、楽しい気分になっていたので仕方ないだろう。千代田の名誉の為にも間違いは正そう。


「カオリ、あのカメラの事。そう言えば、あの映像を編集してファーストの動画として、流せる範囲でアップしてください。独り言のシーンは特に入念に編集お願いしますね。」


「分かりました、最初のチェックは私と望田君でしましょう。」


「千代田さん、ラストは絶対カットですカット。」


 望田がわちゃわちゃ言っているが、脱衣音とか聞いて楽しいモノでもないし、どうでもいい。重要なのはどの階層で、どの程度のモンスターがいるかという事。潜るにしても指標が無いとなかなか奥には行けない。命は1つしかないのだから。

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