閑話 71 開発秘話 中
飛行ユニットが使えぬ・・・、寝耳に水とは正にこの事。ここで拙者達の立ち位置と何で宇宙用ロボを作っているかを思い出そうぞ。拙者達はギルド協力系企業と言う位置付けの高槻製薬社員件ギルド職員と言う扱いになっているでござる。これは大株主が本部長殿本人と言う事と回復薬を作れると言うのが大きな要因でござるな。そして、拙者達がこうして宇宙用作業ロボを作っているのは一重に他の企業が対モンスター用のパワードスーツを作っているからでござる。
話が飛んでしまって何で?と疑問符が付くでござるが、一般企業が作っている物はあくまで鎧と言う位置付けでござって宇宙服ではござらんし、拙者達が当初作ろうとしていた物もあくまで輸送機の解体調査を円滑化する為の物でござった。つまりは宇宙のうの字もなかったのでござるが、JAXAより遥殿に宇宙服作成のオファーが来たのが事の始まりで、本来なら遥殿と高槻先生で従来の物をもう少しシャープにした様な物を作ると拙者は聞いておった。
その時に拙者の嫁達の様にバイオメタルを使用して無重力空間での姿勢制御や、EMSマシーンの様に特定負荷により筋力低下を防げないか?と言う部分で斎藤殿と研究していたでござる。最も拙者は作る側で理論は斎藤殿がメインで考えていたでござるが・・・。まぁ、人体構造の部分では拙者に分があったでござるな。嫁達を作る時やその前のフィギュア、人型のプラモデルを作る時に違和感がない様にする為に勉強したでござる。
そしてそんな交わる交わらないと言う微妙な中で転機はあった。拙者は今でも信じられぬが宇宙に行ったようでござる。ドタバタと変化する状況の中でクロエ殿の奥さんが斎藤殿になったり、扉を開けたら化け物の様な宇宙人がいたりと中々ショッキングでござったが、それは過ぎた事ゆえよい。
よいのだが、そこから宇宙開発熱は一気に増大して作っていたロボも輸送機がなくなったからと宇宙開発用に換装された次第でござる・・・。しかし、なぜ飛行ユニットは使用許可が出ぬのでござろうか?
「なぜ許可が降りなのでござるか?JAXAからの話では使用して良いと言う話でござったが。」
「ストップをかけたのは外務省ですよ・・・。そもそも飛行ユニット自体国外への発表も、それがある事実も隠蔽したいみたいです。」
「ぬ?確かに飛行ユニットは最新の技術でござるが・・・、人は空を飛べる者になりつつあるでござるよ?本部長殿達然り、橘殿然り。」
イメージと練習と、後は才能?クロエ殿が空を飛んで以降、止まったライト兄弟の時間は進み出して個人飛行を模索する者も増えたでござる。飛行機は便利でござるが高いでござるからな・・・。個人単独での飛行と言えば青狸や野菜戦士を思い出すでござるが、飛び方一つとっても千差万別。フワフワ飛ぶ者もあれば弾丸の様に直線的な者もおる。
練習場所はもっぱらセーフスペースが多い様でござるが、怪我の耐えぬ訓練になる者も多く胡散臭い話では、個人飛行講師なる者もおるとか。拙者自身、一応飛べるので気にはせぬが飛ぶイメージの作りにくい職の者は試すようでござるな。
「飛行そのものはいいとは言えないけど、当初の予定にもあった通り大丈夫なんです。問題はその高度でストップがかかってるみたいで・・・。」
「高度でござるか?よく分からぬが高すぎると駄目と言う事でござろうか?しかし、飛行機にしろスペースシャトルにしろ結構高い所を飛んでいるでござろう?それが今更駄目とはどうも腑に落ちぬ。」
高すぎる所を飛んで大丈夫ではないのはパイロットではなかろうか?その辺りも考慮してリキッドアーマーを付けたり、ヒーターによる保温をしたりと、下手をすると機体制御以上にソースを食っているでござる。ただ、超高高度で使用するに当たり熱電発電システムを使い外の寒さと、機体の熱による温度差で発電もするのでそこまで電力は食わぬ。
「外務省の方曰く『そのロボは高高度から他国に侵略できますよね?』とクレームが入ったそうです・・・。確かに飛行ユニットはそれが出来てしまうからなぁ・・・。」
「あのユニットはフワフワ飛ぶものでは無いのでござるか?拙者は現物を使った事がないゆえ分からぬが。」
「違うよ。あの飛行ユニット、神志那さんや宮藤さんが使ってる物自体オーパーツと言うか、人類だけで作成しようとすると向こう数百年はかかるんじゃないかな?そもそも人類は引力や斥力を知ってるけど扱えない。でも、あの円盤はそれが扱えてしまっている。あっ!因みに引力と重力は同じ様なものだけど、地球に引っ張られるのが重力で、引力は力を指定せずに単純な引っ張る力だと覚えてくれればいいよ。」
「それはいいのでござるが、何が引っかかってるのかいまいち掴めぬ。」
空から人が!美少女が降ってきて旅に出るなら大歓迎でござるな。父さんの思いと母さんの眼差しは拙者には最近まで重たかったので鞄に詰めて置いていくでござる。寧ろ、今は嫁達さえおればいい。なんだかんだで大会に出て以降、色々な知り合いが増えて今が楽しいでござるからな。
「有り体に言ってしまうと、宇宙から階段を降りる様に地面にたどり着けるよ。」
「・・・、大気圏突入で大騒ぎする楽しさはないのでござるか?爆散して燃え尽きる1つ目を見ながら愉悦に浸ったりしたいのでござるが。」
ザクにその機能はないのでござる・・・。横を通り過ぎるのが拙者ならシールドで余裕でしたと笑っているでござろうな。ただ、ビームより大気圏突入の方が長時間高熱にさらされているような・・・。しかし、軌道エレベーターを作ろうとしていただけあって斎藤殿は物知りでござるな。
「大気圏突入で高熱になるのは、地球に向いた面に空気が圧縮されてそれが超高温状態になるから。人類が作る宇宙船は軌道上を大体8km/sで回っててその速度で突入する。藤君が考える燃え尽きる1つ目がどんな宇宙船かは知らないけど、地球の重力加速度は9.80665 m/s2とされているからそれに耐えられないんだね。」
「では、拙者達の作ろうとしているものは耐えられると?」
「違うよ。耐えるんじゃなくてその熱が存在しないんだよ。あの円盤は地面から一定高度で停止できる。つまり空中に固定された足場だと考えていい。そして斥力、物が反発する力で浮いているんだよ。僕達が組み込もうとした飛行ユニットの原理を言うと、引力に対して対等な斥力で機体を固定して小田さんみたいに空を歩く様にして進みもするし、取り付け位置を腰か背面にして引っ張って貰う様に飛ぶ。イメージするなら輪ゴムと棒だね。」
そう言って斎藤殿は輪ゴム机に置いての爪楊枝を輪ゴムの真ん中に立てたでござる。この状態がフラットな状態で輪ゴムが力場だとか。そして輪ゴムを引っ張れば爪楊枝は引っ張られた方に動き、輪ゴムが反対に引っ張られれば止まる位置がある。爪楊枝の下に輪ゴムが来れば爪楊枝は浮いているので足場ができる。
本来なら平面ではなく360度展開して使うので問題はないのでござるが、輪ゴムと爪楊枝でも中々分かりやすいモノでござるな。しかし、許可が降りぬ理由が分かってきたでござる。これは密入国し放題でござるなぁ。しかも大きいとは言え4m程度の物をレーダーで探すのは難しいでござろうし、何よりも隕石の様に輝いてもおらぬ。
ただ静かに空から階段を降りてやってくる者。まぁ、拙者は何千段或いは何億と階段を降りたくはないでござるが、飛べる者なら突入後は好きに飛べば良いので、その大気圏突入区間のみ歩けばよいのだろう。休憩ありのスカイダイビングみたいでござるな。
「ならばここまで作ったが中止でござるか?」
「それは惜しいから一旦駆動面を先に仕上げようか。ここからは藤君メインだけどいいかい?」
「よいでござるよ。腹も空いたし被験者をデリバリーするでござる。」
外装と言うか内装は既に出来てるのでござるよなぁ。4mにまとめる為に肘から下と膝から下は芯とバイオメタルで作った。イメージとしてはサーカスの竹馬乗りでござろうか?アレの手も長くなったバージョン。肘と膝に手足首が来るように設計したので関節の稼働もスムーズでござるし、手の平や指の稼働もクローブ型の操作ユニットを組み込み人の手と遜色ない様に動く。
拙者自身で操作試験も行ったでござるが、多少コツはいるものの反応速度も悪くなく延長された腕と考えるなら悪くない。ただ、どうしても拙者が扱うと電気操作を職で行う為に他の職の方とは遜色が出てしまうでござるが・・・。
「ちわ〜。出前に来ました〜って、普通に呼べよ藤!ラボに来んの結構緊張すんだぞ!暖簾返したのに何で俺にラーメン頼むんだよ!」
「藤君彼が?」
「うむ、ラーメン屋本部長事御堂に頼むでござる。」
「?、何かしらねーけど丼ぶりは洗って返しに来いよ?外に置いてたら消えるから。しっかし、三杯頼んでだけど後1人は?まさか藤が食うのか?またデブるぞ。って宇宙に行った斎藤さんもいるし何やってんの?」
「どうも、宇宙に行ってソーツ斎藤になって帰ってきました。御堂本部長これからよろしく。」
「違うでござるよ。これは御堂が食う分でござる。まぁ、食いながら話を聞け。」
「え〜、先に言えよ〜。俺の分ならラーチャンセットに餃子付けたのに〜。」
「お主の方が食い過ぎでござろう!」
3人でテーブルに座り麺が伸びる前に啜るが、舌の火傷を気にせず食えるのはいいでござるな。御堂が太ると言うが拙者の身体はパーツ交換可能ゆえいらぬ肉がついたら腹ごと取り替えてしまえばよい。気分としては人体模型でござるが、取り付ける新しいパーツを適当に作ると上手く付かずに痛いので細心の注意は必要でござる。今回は舌を交換するか迷うが、まぁ多少痛くとも治るのでよいでござろう。
「食べながらでいいので聞くでござる。お主にはこれから最新型機体の試験パイロットになってもらうでござるよ。」
「・・・、ぷはっ!それってヅダったりしない?」
「鉄雄の彼女展開はあるかもでござるな。」
「潰れて死ぬじゃねぇか!」
「藤君話が見えないんだけど?」
「アニメでござるよ斎藤殿。ヅダは加速し過ぎてエンジン爆発。鉄雄はアキラでござるな。肉に潰されてぺちゃんこでござる。」
「あ〜、バイオメタル制御不良で潰れると?う〜ん、過電流でもない限り引き締まり過ぎはないと思うけど、安全プログラムは佐沼さんに依頼して作ってもらおうかなぁ・・・。奏江本部長が何かプログラム方面で手伝ってるみたいだし。」
「クロエ殿の追っかけでござるな。R・U・Rのモンスタープログラムを作ったと聞いて私もと喜び勇んで作りに行ったでござるよ。」
「なら、俺は帰っていいな。危なそうだしまた次の機会・・・。」
「今年は久しぶりにサークルで参加しようと思っておったが、忙しくて買い専になるでござるなぁ〜。出来のよいファーストちゃんフィギュアは直し込んでしまうし、気晴らしに人形の整備をしようかと思っておったが帰るなら・・・。」
「てめぇ!卑怯だぞ!それが人間のやる事か!?」
「同人道とは製作者の自由によって決まるもの。ゆえに、拙者とて何度追っていたサークルが消滅して泣いたか・・・。ウチは元々仕事の合間産業故、個人で出ぬ時は何年も出ぬよ。まぁ、企業参加は毎年お願いされていたでござるが。」
「くっ!殺せ!」
「お主は死なぬよ。拙者が守るでござるから。」
「僕が口出していいか分からないけど、制御プログラムの不備は懸案事項だよ。解決策があるのかい?」
「現時点なら有線接続でござるな。拙者がコードを持っていざという時は制御すればいいでござる。」
ラーメンを食べ終えて機体の置いてある部屋へ。装甲板もなくリキッドアーマーも付けておらぬ故、首のない筋肉むき出しの人体に見えるでござる。実際人型ロボを作るなら人体構造への理解は避けて通れぬし、重量を軽くすると言う面では出来る限りシャープにしたい。
飛行ユニットが本当に使えぬままなら機体重量はそのまま人が請け負う事になるので更なる軽量化が必要でござろうか?最悪、肘と膝部分にアシスト用のモーターを仕込んで足首と手首にかかる負荷を削る?当初の話では軽ければいいが、そこまで重量を気にしなくてよいと言う事で、バイオメタル量が多くなっているでござるかそれを中抜きして軽くすれば力は減るがその分軽くはなるでござろう。現時点で総重量500kg。織り込んだバイオメタルと糸、後は延長された腕と足骨格維持及びフレームに使われた部分でござるが、密着操縦故に胴体は外部装甲がなければむき出しで銀色の腹筋が見える。
「背中から入り込めばいいわけ?」
「そうでござるな。これの肘辺りにグローブと手の平に当たる棒の様な物があるでござろう?起動させた時にそれが前腕を動かすコントローラーになるでござる。強く握り込めば手は閉じ、五指それぞれの強弱に対応して延長された指も独立して動く。
足の方は膝辺りに足首が来るでござるな。これの踏み込みと言うか、足首を動かせば連動して曲がるでござる。仮にもも上げしたくば、蹴り上げるようにすればよい。ただ、それなりに重量はある故、あまりすすめぬぞ?」
「結構癖あるかもな・・・、一旦外から見てイメージするわ。」
高槻先生曰くスィーパーの脳は空間把握能力が高くなっているでござる。御堂が外観を見てイメージをするのはあながち間違いではなかろうな。拙者は持っておらぬが車の免許を取る時に手を広げて車幅の感覚を覚えながらコースを歩くとも言うし。
「うっし、職は使っていいよな?追尾させれば身体についてきそうだしやってみっか。そう言えば、相棒乗せれる?」
「お主に渡した人形・・・、ヒナか。囁いてほしくばそうなるようにしよう。」
「なら頼むわ。この子にもバイオなんちゃら使ったんだっけ?」
「うむ。一応、今回は有線を噛ませる故に出来るであろう。後頭部から背中付近にスペースがある故、そこにマウントすればよい。ただ、ヘルメットをつけるとかなり狭いぞ?」
「それくらいいいぞ?ヒナ、何か機械が言い出したら教えてくれよ。」
ヒナがコクンと頷き、後頭部へ。複座式は考えておらなんだが利点があれば良いかもしれるな。例えばパイロット気絶時の物理安全装置とかでござろうか?
「じゃあ僕はデータ取るから通電頼むよ。」
「了解したでござる。」
本来なら足の裏か踵から通電する予定でござるが、今回は拙者がそこへ繋がるケープを持っている故、自家発電で賄おう。規定電力・ガス等供給されればシステムが立ち上がり、機体のバイオメタルが引き締まって直立する。この時人はちょうど背骨の役割となる。引き締まって人に吸い付き動きをトレースしてくれる半人力ロボ。半人力と言われるとなんだか古めかしく感じるが、性能的には何者にも負けぬと自負する所ぞ!
「お〜、立ち上がったけどバランス取るの難しいな。これって歩いてもコケない?エヴァみたいに。」
「竹馬感覚でござるからなぁ。通電中はメタルが締まって自分の足と同じ様に動くはずでござるが・・・。取り敢えず行動あるのみでござるな。」
元々無重力空間や飛行ユニットを使うとしていたので、使えなくなると不安は残る。バランスそのものは悪くないはずでござるし、御堂の今の感覚は自身が大きく成長したと言うところでござろうか?プログラム的にはこの時点では電気管理くらいしかしてないでござる。
「重い・・・、のか?歩けるけど前屈みは厳しい?」
「そこはシステムアシストが入る故、素早くやるでござる。ゆっくり前に曲がる方が重量管理で負荷がかかる。バネの様にチャッチャと。それが嫌ならしゃがむでござるな。」
「しゃがむって片膝付けて?」
「両方でも構わぬが、空気椅子は良くてもそれより下がると後ろへ転がる可能性はあるでござる。それより指はどうでござるか?」
「そっちは良さそうかな?指は自由に動かせるし・・・、歩くより走った方が楽かも。」
「御堂本部長それは正解ですよ。直立は抜きにして動かしてた方が遠心力や斥力でバランスは取りやすいです。今のデータを見るとバイオメタルで作った人工筋肉は凝り固まった状態です。」
「分かりました。やっぱりここは言わねーとな。御堂いっきまーす!!!」
「これ!急に走るな!!」
「大丈夫、電池は拾ってやるよ!」
「シャッター開けるよー!」
結果から言えば御堂はかなり動けたでござるな。部屋から出て拙者を小脇に抱えて走り飛び跳ね、スピードスケートの様に手をついて斜めになり、そこからまた直立に立て直す。ただ、これは試作機であるが故、問題もあるのでござるよ・・・。
「なんか足おかしくね?」
「お主がバカをやるからでござるよ・・・。多少走ったくらいなら大丈夫でござるが、これは試作機故にバイオメタルが何本か断線したと見える。う〜む・・・。遥殿ともう一度靭性の高いメタルを用意しないといけないでござるなぁ。」
「おぉ~い、大丈夫かい?」
「大丈夫でござるよー!4時間近くぶっ続けで稼働させてガタが来ただけでござる〜。」
「わりぃ・・・、調子乗った。」
「いや、寧ろ現行の稼働限界が知れてよかったでござるな。元々試作機はお主が来る前から動かしていた故に疲労は仕方なかろう。報酬は後でメールを送る故選ぶとよい。」
御堂にメールを送りながら考える。アレに装甲等を付与した場合重量は増す。何か打開策はないでござろうか・・・。




