266話 いざゆかん 挿絵あり
「はい・・・、ええ、・・・、はい・・・、お願いします。ああ・・・、これからの動きは分からないですね・・・。では!」
松田との電話が終わって少ししてから望田も電話を切る。口振りからするとなにがあったか何もつかめていないように思うが、話してみないとわからない。少なくとも国連がちょっかいかけていると言う前提は理解できたし、理由も納得はできる。賛同云々は別として勝手に宇宙開発する分には問題ないが、目の付け所が悪いし引き下がってくれるならいいが下がらない場合が怖いのでさっさと回収に動こう。
斎藤に指輪に収納して保管してもらってもいいが、最悪拉致まで考えられるのでお願いしたくない。やはり今から出向くしかないか。警備に誰か残せればいいがあまり表立って動くと感づかれた時にゲート内で追い駆けっこをする羽目になる。
「どうだった?」
「宮藤さんが回復薬受領がてらに見張ってくれるそうです。必要なら収納するそうなので大丈夫だと思いますが、今から行きます?」
「後手後手に回るよりも即行動。夏目さんも今日辺り帰る予定だし青山もいるから・・・、出くわしたらどちらが連れて行くよ。流石にさっきの今で動きがあるとは思えないけどね。」
「分かりました、増田さんが知る限り動きらしい動きはないみたいですね。議員の方も国外の方と話したとしても不用意にゲート関連事項で約束はしないみたいですし。良く言えば慎重、悪く言えばビビってるとか?権力があって振り上げても振り下ろす先がないみたいです。」
「そりゃぁそうだろうね。国防担ってる組織と政府がまるっと関わり持ってるギルドに1議員が何か抗議したとしても打ち負かされる。余程影響力がないと負け戦は確定だよ。」
「それもそうですね、暴力ですべてを解決するわけじゃないですけど、その暴力がないわけじゃないですし。」
昔なら自衛隊いらないと声高らかに叫ぶ人もいたが、今叫ぶと次の当選はなくなるだろう。世論としても自衛隊の維持開発費がGDPの1%以内は少ないのではないかと言う話も出て来ているし、目標も明確にスタンピード対策と戦争する為の費用でない事を明言している。
日本のそれも首都で発生したと言うのはセンセーショナルで、スタンピードが発生しなければ外は安全といくら言われても、ゲートがあれば発生する可能性があるので自衛意識は高くなっている。それに米国での拍車を受けて更に声は高い。今年度は1%以内となったがギルドとの協力予算が盛り込まれたりして実際は3%くらいだろうか?
特に新兵含めて職に就く事を推奨したり、ゲート内でモンスターとの実践を防衛白書にも盛り込んできたので開発費と同じように医療費と言うか遺族見舞金も増えている。残念な事に俺がいた時の様に訓練さえしていればいい組織ではなくなりつつあるのだよ・・・。大井によろしくされてから自衛隊が迷彩服でうろうろするのも増えたし・・・。
ただ、前は早朝とかが多かったが今は堂々とその姿で日中も入っている。たまに迷彩服ではなく私服の人も何ならコスプレしたような人もいるが、イメージがモノを言う職なので許可されている。まぁ、俺もゴスロリで戦っているのでそれを否定されると立つ瀬がない。それに染めているのか髪の色も赤やら青なんてのが増えた。単純に魔術師の属性を指揮者が分かりやすくする為らしいが伝統として残るのだろうか?
「平時なら暴力よりも調査員が欲しいけどね。くっ!ここでも青山か!あいつ捜査持ってるし職に隙がない!」
「まぁまぁ、信用はできるんでしょう?ストーカーでお節介焼きですけど不思議なくらい法律とか犯罪行為には手を染めないんですよね彼。」
「それが意味でもあるからね・・・。ただし雇用者の精神にとっては莫大な負担を強いるけど・・・。」
青山と話したが奉公するなら悪評は出来る限り避けるらしい。当然と言えば当然だがその評価の先が俺に来るから。ヤツの持論として胸張って堂々と奉公せずして代価は貰えないらしい。まぁ、元々異世界勇者の雛形なのでさじ加減と言うか、許容範囲さえ分かればその中で収めるとか?まぁ、魔女に対して暴走したり俺に対して暴走したりと面倒ではあるが、やつ曰く見ている対象が魔女と俺とで別な所も接し方に拍車をかけるらしい。
「だいぶマシにはなりましたけどね。残業してたら急に夜食と寝具持ってきたのにはびっくりしましたが・・・。」
「その後の快適に寝る為に温めていきましたは引いたな・・・。布団乾燥機じゃなくて青山の体温でだし・・・。ハンバーガーは美味かったけどさ・・・。と、そろそろいくよ。帰りは分からないから何もなければ定時で上がって。」
「了解です。莉菜さんはどうします?」
「行きがけに寄ってからいくよ。」
キセルをプカリ。こっちは匂いがつかなくて済むし、身体にも多分悪くない。医務室と言うか医務室のあるフロアは託児所もあるから割と小さい子もうろうろしてる事があるんだよな。流石に託児している人は長期で中にいる事はないし、そもそも託児所利用者は1日で帰るのが原則なのだが・・・、残念な事に蒸発する人もいる。特に最初の1人を出したのが痛かった・・・。ソロで入ると言ってフラフラとゲートに入りそれっきり。
まだ赤ん坊だったので数日待って施設に入れたが、それから大急ぎで託児所利用者はソロ禁止令を出した。この件だけ言えば誰が悪いわけでもない。仮に悪者を探すなら多分俺だろう。彼女の生活環境を知っている人がいれば違うと言うかもしれないが、そういった事態想定がない訳ではなかった。
ゲートに入って残された子は施設へ。それはギルド稼働前から話し合って決められた事だが、蒸発ではなく死亡として考えていたし、子がいるならある程度複数で入って死亡リスクを抑えたり浅い階層だと思っていた。しかし、明確にソロ禁止とは言わなかった。それは紛れもない落ち度たろう。それ以降蒸発者はいないのでいいのだが。
「あー、クロエちゃんだ!抱っこ抱っこ!」
「お人形遊びしよう〜!」
「空飛びたいから飛ばせて〜!」
「あ〜、少しだけ浮かせてあげよう。先生も乳母車押してるしこれから散歩に行くんでしょ?待たせると悪いしね。」
「すいませんお忙しいのに。」
「いいですよこれくらい。子供は明るく我儘言ってるくらいがちょうどいいですし、我儘言わなかったら何が悪いかも教えられないですからね。」
子供達が廊下で浮かびながらキャッキャッと騒いでいるが特に怒る人はいない。そう言うスペースとして作ったので文句言う人は来なければいいよ?一応医務室方面とは反対側に作ったがスィーパーと出くわすのは仕方ない。緊急エレベーターではなく、ただのエレベーターや階段で来る人もいるからね。ただ、ゲートから出てここに来る人的には気が立って面倒と思う人もいるが、嫌なら外で診察してもらえばいいだけの話。
保険料は貰っていて利用してもいいのだが、ここで真っ先にされるのはトリアージ。緊急運び込みだと命に関わる。基本的に外科的なものが多い現場だが開放骨折や粉砕、複雑骨折でもなければ後に回される事もある。場合によっては回復薬自分でかけて待ってろと投げ付けられてる姿も見たな・・・。
浮いていた子供達を降ろして医務室へ。顔を見るとすぐに莉菜を呼んでくれたが今は急患もいないのだろう。代わりに静かに順番を待つスィーパーがこちらを見ている。怪我も様々で軽いのは腕が逆パカしてる人とか?見た感じ骨折ではなく外れているように思う。待合室には外科的な医学書が多数寄贈されて割と読んでいる人は多い。
雪城からの持ち込みたが元々引退した医者なので専門書が多いのだろう。実際応急処置してる人も多いし、痛みさえ我慢できれば待つ事は出来る。麻酔薬も市販から医療用まで取り揃えられているので耐えられてるし、回転率自体は悪くないのでどんどん人が吸い込まれていく。その脇を通り過ぎで救護長室へ。中はカルテやらPCやらがおいてある。
「お疲れ様〜、ちょっと昼からラボ行ってくるから帰りは遅くなるよ。」
「あらいらっしゃい、行くのはいいけど先になり神志那さんの所に行ってくれる?何か話があるって言ってたけど。」
「神志那さんが?前に言った検索エンジン絡みかな?あんまり無茶は言ってなかったと思うけど・・・。」
「そこまで聞いてないかな?ここに来るって事は今日は遅くなりそうなの?」
「向こうの状況次第かな。早ければ夜には戻るけど場合によっては泊まるかも。面倒事が増えてるみたいだし。」
「無茶はしないでね?後ついでに回復薬の受領もお願いできるかしら?今朝電話で聞いたら発注かけてたのがラボにまだあるみたいなの。」
「分かった、行き違いにならないように電話しといて。もう送った後なら仕方ないけど、行き違いは避けられるなら避けたいしね。じゃあ行ってくる。」
そう言って妻とキスを交わして部屋の外へ。用事があるみたいだし神志那の所にも寄らないといけないな。チラリと見える医務室の中では雪城が問診や診察をこなし治癒師が治している。処方箋はないので内科は外へ行けと指示しているので分かりやすいが、回復薬まで売り払うスィーパー何ているのだろうか?自分で箱から探してもいいし、買ってもそこまで高くはない。
かなり安定して供給出来ているし、米国で稼働した工場も軌道に乗ったと高槻が言っていた。エマからのメールでは回復薬のせいで無茶するヤツが増えたとボヤくものがあったが、お国柄と言うか気質と言うか米国なら俺1人犠牲になれば他は助かるよな?と言う場面で特攻するので仕方ないだろう。
エレベーターで1階へ行くとロビーは結構賑わっている。時間的にはまだ学生が来るような時間ではないので、スーツ姿の人と私服や鎧の団体が話していたりと、ここでなくとも何処かのカフェで話せばいいのだろうが、すぐにゲートに送り出したいのかここで話す人は多い。まぁ、専属契約せずに手頃なスィーパーに金額と依頼品を提示して交渉している事もあるのでなんとも言えない。ただ、俺がここを通るたびに毎回注目しなくてよろしい。
今日はスーツだしどちらかと言えばロビーにいる人達の方が何処か浮世離れしてるんだからな?まぁ、見た目で強さが分からないので装備品で強さを示そうとしている人もいるのでこんな状態なのだが邪魔じゃなければいいか・・・。そんなロビーを通り過ぎて鑑定室へ。中はゴチャゴチャとして所狭しと物がおいてある。
断言しよう!ここは鑑定室であり神志那の自室では・・・、寝泊まりしてるから彼女のテリトリーなのか?置かれている物はフィギュアだったり漫画だったり、あからさまに鑑定したであろう物品であったりと様々。ストーンチョコが皿一杯に置いてあるのはなにか意味があるのだろうか?
「お疲れ様です、なにがありました?」
「クロニャンオッスオッス。頼まれてた検索エンジンがロールアウトしたにゃ。後、ゲートに入って奥行きたいからシフトを弄りたいんよ。」
「シフトを?私はその辺りに口出さないので好きにしていいですよ?ただ仕事が貯まると後からしわ寄せが来るので配分はしっかりして下さいね?」
「それは大丈夫!体力付いて鑑定数は鰻登りにぁーー!っと、検索エンジンはあいまい検索と単語検索、文章中に挟まれる単語も含めての検索と色々パターンを作ったよ。千代田さんも使いやすいかモニタリングしてくれるって言うから丸投げしたにゃ。」
「それって試作段階って言うんじゃ・・・。」
「無作為な検索と違って用途が法律限定だから、更新頻度を考えた時に年数回から多くても十数回。法律だから高頻度の原文改定は悪にゃ。だったら問題はエンジン側になるからモニター数増やして問題点の改善にシフトチェンジ。ただ、既存のエンジンをモデルに作ったからそこまで改善点もないかなぁ〜。」
「なる程。要は作り手よりユーザー側の意見が欲しいけど、そのユーザーも使用した事あるシステムだからほぼ違和感なく使えると。」
「うん。ただ、依頼の斡旋やら新しくB+以上になる物とかのページに飛んだり出来る様にリンク貼ったりしてるから扱いやすさはあるかな。上位にスィーパー用の総合検索エンジンっぽいものも作ったし。鑑定課からデータ引っ張ってきて名前検索出来るようにしたし、写真取れば画像判定も出来るから簡易判定機っぽい事もできるにゃ。」
軽く依頼をしたけどなんか凄そうなもん作ってるなぁ・・・。グーグルレンズっぽいものって1人で作れるんだ・・・。まぁ、古巣だしそれだけ多くの物を鑑定してデータとして残したからだろう。人の手作業があってのデータベース。鑑定師様々である。実際ギルドの鑑定師は神志那だけで後は判定機を借りに来てそれでも分からなければという話だが、暇かと聞かれる人は多いそうだ。
稼働当初に理由の分からない薬も持ち込まれたしなぁ・・・。あれからは早々おかしな物はないと聞くが、何時それが出るとも限らない。神志那には頑張ってもらおう。
「そう言えばなんで急に来たの?救護長さんしか用事があるって話してなかったけど。」
「その救護長と話したからですよ。これからゲートに入って輸送機の所まで行きます。何かあったら・・・。」
「私も行く!斎藤っちや藤っちが楽しく話してるのリモートすると現地行きたくなる!だから行く!出張要請!出張要請!チケットは今から取るにゃ!」
「いや、ゲート内を馬で走っていきます。」
「なら余計行く!最近ゲート入ってないから絶対行くにゃ!」
腰に縋り付いて離そうとしない。夏目か青山連れて行くつもりだったし引き離そうと思えば引き離せるが、不貞腐れられても困るんだよな。まぁ、神志那が居らずとも後日鑑定してもらえば済む話。そんなに行きたいのなら連れて行くか。
「いいですけどいない間の指示は出しておいてくださいね?」
「分かったにゃ!すぐさま指示出してゲートに入るにゃ!」
そうして神志那と共に馬を捕まえていざ輸送機へ。流石に回収するだけでまだ動きはないよな?




