265話 そこかよ!
多忙で短いです
「取り敢えずこの件を知ってそうな人となると・・・、松田さんかなぁ・・・。あの人が主導してたら元も子もないけど、少なくとも宇宙開発よりも現状維持か、先に飛び出した日本から後ろの国見て愉悦に浸る部類の人間だろうし。」
「なかなか酷い事言っていますが情報元として信頼できるんですか?それ。」
「信頼と言うよりは信用かな?今の時期・・・、ギルド1号が稼働して本部長も決まって、残りのギルドの建設も着々と進んでる。言ってしまえば国として今の日本は何処よりも安定した未来モデルに近いんだよ。」
「なら野心があるんじゃありません?『次の一手は宇宙開発だー!』とか『他の追随を許さない日本の技術は世界一!』とか。」
「ない。近いだけで手中に収めてないから、まだ美酒になる程発酵してない。仮に今飲むとするならボジョレーヌーボーくらいかな?不味くはないけどコスパ悪いし、フレッシュ過ぎて松田さんには軽いんだよ。」
松田と言う人間は胡散臭く見えるが手腕と目標は明確である。官民一体構想の時にかなりの時間話し合いを重ねたが、自身の武器と使い方そしてタイミングを理解しているように思う。そして、彼は政治家だ。それも表に出ないタイプの政治で影響力もある。でなければあの時期に会う事もないだろう。
そんな彼は今着実に酒を育てている段階で国内が完全に安定した時こそ、それを飲み干し悦に浸れる。そう、世界にこれがゲートと共に歩む理想都市として。それに他が先駆けしようとも輸送機と浮遊ユニットのアドバンテージはデカい。先にスィーパーをスペースシャトルに乗せて宇宙ステーションを作った国があったとしても次を飛ばすのは先になる。当然だろう。飛ばすのには莫大な費用がかかり、それは国の財政を圧迫する。
それならば安価でスペースシャトルよりも安定した宇宙エレベーターを推進するはずだ。1度建設さえしてしまえば宇宙エレベーターは物資運搬から人員交代まで全てをこなしてくれる。それこそ宇宙ステーションの遅れを一気に巻き返せるほどに。流石にそのメリットを無視しないだろう。
ただ功を焦ったなら推進派のトップである可能性もある。引き離せるだけ引き離し他の追随を許さない絶対的な勝利。確かにこの美酒も旨い。書類上一番に作るのは宇宙エレベーター。その技術はすでにあるからその先を見越した動き。今がトップでも明日は2番手の可能性も捨てられない。昔一番じゃなきゃ駄目ですか!と言った人がいたが駄目ではない。駄目ではないが一番である事のメリットもまたある。簡単に言うとお金と権力。
最先端であると言う事は学びの場を提供できるに等しい。それはもう講習会で体験した。ただのおっさんであった俺でさえ、助言役になったり米国の大統領と話したりするくらいには優位に立てる。そして、米国の重鎮と話すだけで莫大なお金も貰った。トップがトップであり続けられるなら、交渉もお金も強気に出る事が出来る。まぁ、あまりアコギなことをしていると失墜した時にひどい目に合うのだが・・・。その他も色々ありそうだが、松田が推進派か否かを天秤にかけると否の方に傾く。
「なら私は増田さんの方に電話かけてみます。ダミー会社だからこそ集まる情報もあるでしょうからね。特にネゴシエーターである増田さんから連絡がない以上、ちょっかいかけたいのは別派閥の方の可能性もありますし。」
そう言ってそれぞれ電話を掛ける。暇な人間ではないので繋がらなければ他のルートから電話しよう。一応ギルドと政府は連絡を密にする事とあるのでいくつかルートもあれば、全部駄目なら大井か黒岩、或いは東京にいるメンバーに接触してもらってもいいし、状況次第なら先に輸送機を確保すれば済む話。そんな思いとは裏腹に松田はすぐに出た。
「もしもし?松田さん?クロエです。今大丈夫ですか?」
「お久しぶりと言うほどではないですがどうされました?」
「単刀直入ですが宇宙開発って今急いでる雰囲気ありますか?テレビを見る限りそのニュースはない。なら、後出しで情報を出してきそうな所とか。」
「宇宙開発?政策としてはありますが今の所あまり議題には乗りませんね。どちらかと言えば今は基礎科学とゲート出土品の研究がメインですし、私もそれを推す。言い方は悪いですがロマンより現実です。」
話しぶりからだけなら松田は関わっていない様だ。確かに宇宙開発と聞けば最初に思い浮かぶのはロマンか。現実にあるとは言え行くのが困難でまだ一握りの人しか行っていないならロマンだろう。
「話は分かりました。日本としては急いでいないと言う認識でいいんですね?」
「流石に私も全容把握している訳ではないので一概には言えませんね。各省庁はそこの仕事をする。分散している分知らない事の方が多いですよ。しかし何でまた宇宙開発なんて言葉が?祭壇はゲートの中のはずでしょう?まさか宇宙で相手と待ち合わせしてるなんて言いませんよね?」
「言わないですよ。ただ、今日内閣府から正式に会談要請を受けてJAXAの田辺理事と話しました。彼の口振りからするとかなり急いでいると印象を受けたんです。」
「JAXAの田辺理事・・・、クロエさん。スタンピードは2度起きました。その中で1番損したのってどこだと思いますか?」
「損した所?」
それは発生国だろうが、1番と言われると違う。米国と日本を天秤にかけたとして、どちらの被害が大きいかといえば日本だ。死者数にしろ壊れた建物にしろ多い。ただ、その後のリカバリーで中位を多数抱えたので1番かと言われると少し違う。優位性はありゲートも多分1番奥まで行っている。なら、米国かと言われると同盟強化と人的被害に留め国内は比較的安定している。
なら他に目を向ける?少なくとも発生していない国は同列で被害はない。日本にしろ米国にしろ他国からの応援は断ったし、日本の場合発生までの期間も発生そのモノもすぐだったので体制も何も無い。なら、ここで考えるのは2回目だ。発生して脅威が分かり終結させる。そして終結後に助けてやったとマウントを取って色々とその国でやりたい所?
いや、その前だ。先ずは助けてやろうと言ったのに手を振り払われて面子を潰された所。そうなると国というか組織になるか。国際的な協力組織でありながら蚊帳の外に置かれ、何一つ活躍らしい活躍が出来ずに自尊心を潰された所。更に言うなら日本と米国の蜜月を見て面白くないあの国がトップである組織。
「国連ですか・・・。」
「御名答。色々やらせようとはしていますが、現状どの国も自国で手一杯で資金にしろ国際協力にしろ、やりづらいし要請しづらい。更に言えばスタンピードを2カ国で抑え込んでしまったので国連軍の存在意義も囁かれる。平たく言えば私物化していた強力な組織が急に崩壊しかけてるんです。」
「それの目眩ましで宇宙開発に乗り出したと?」
「プロパガンダには持って来いでしょう?宇宙より来たりしモノは守り手を定め空高き場所へ誘う。ならば我々は会いに行こう無限の彼方に旅立って。抽象的で出来るかも分からないのに声を上げ、さも出来るかの様に話せば乗る所も少なくないでしょう?現実問題としてゲートを神が渡したと言うより、異星人が持ち込んだと言う方が納得できる。」
「分からない話ではないですが・・・、変に話せばまた情報開示要請が来るのかぁ・・・。サクッと配信でゲート設置者の事を伝えるかなぁ。質問不可で話せばある程度納得するだろうし・・・。」
ソーツにふれる配信はほとんどしていない。職を開示していなかったというのもあるし、俺自身もそこまで詳しく分かっていなかったから。しかし、もう増田には明かしたし国内のある程度の政治家は知っているだろう。ダブルEXTRA。それが俺の職の正体だと。
そこまで踏み込んだ話をするかは別として、そろそろその辺りの話もしてもいいのかなぁ・・・。実際重大なエラーを引いたとして何をされるかわからないし、田辺は多分国連の息が多少なりともかかっているか、かかった誰かに指示されているかだろう・・・。
「その際は協力して台本を作りましょう。と、その輸送機は早めに回収した方がいいでしょう。強硬策はないにしても、うっかりやったと押し通されたらたまったものではないでしょう?」
「それもそうですね、有意義な話ありがとうございました。ちょっとゲートに入ってきます。」




