264話 激論 挿絵あり
「あれは言わばメインコアの身体です。制作者側からしても本人からしても勝手に身体の中を弄られるのも嫌でしょう?調査程度ならいいかもしれませんが、下手に改造やら解体するとなにがあるか分かりませんよ?」
「それはそうなんですが我々としても先の未来を見据えて動いています。斎藤さんや高槻先生から多少は話を伺っているのでは?」
住む場所がなくなる話は聞いている。しかしそれはかなり先の話で今すぐではないし、アレを使わなくても研究を続ければ何れ似た様な物を作れるだろう。これが明日地球が滅ぶと言うのなら、なりふり構っていられないが、リスクを侵して調査以上の事をするかと言われれば考える。
まぁ、中途半端に直してガーディアンのいる所に行きたいとは思うし、再起動できるならガーディアンは再起動させたい。ただ、停止させて半年以上立つので起動して直ぐにガーディアンが外に出ようとしないとも限らないんだよなぁ・・・。警告はしたがそれで大人しくモンスターを外に出していないとも限らない。
辺りを壊滅させて不当持ち出しモンスターを倒すらしいが、中位が混ざってようやく倒すようなやつを再度引き止めて無力化するとか中々厳しいオーダーだ。知らんぷりでお前が持ち出したから悪いでもいいのだろうがバカのせいで被害を被るのは何も知らない人達。
重大なエラーの件がなければお好きにどうぞでいいのだが、人数集めてやりだすとこのくらいいだろうと言う人が出てくるんだよなぁ・・・。人ならば許容範囲ないなら許してくれる事もあるがアイツ等の場合意味を侵害されると何をするか分からない。ただ、魔女や賢者が関わればある程度はいいのかな?前に賢者が『僕達や』と付けていたし。
「色よい返事と言うのなら今は駄目としか。調査はいいですがアレの自動修復ユニットを含めて、あまり変な事をすると何があるか分からないというのが現状です。」
「それの交渉は出来ないんですか?駄目と言われても貴女からそう言われたでは根拠として薄い。具体的にこうなるからやめろなら分かりますがそうでないなら我々としては、期限を定めて頂くかこちらに全面協力をして欲しい。こうして話しているのも個人的なものではなく内閣府からの正式な要請として話していますからね。」
「内閣府からの要請と言うのは分かっています。ならば、事を急ぐ理由はなんですか?明日明後日人口が数十倍に膨れ上がる訳でもなければ食糧危機が来るわけでもない。それに私は今はと言いました。時間をかければもう少し安定した方法で詳しく調査できるかもしれません。」
「それでは遅い!今ある優位性を活用し宇宙開発分野で我々は先に進みたい。新型ロケットの開発も宇宙エレベーターもマスドライバーさえその先に行く為の技術だ!貴女にも分かるでしょう?我々は人類の歴史に新たな1ページを刻めるんですよ?」
そんなもん好きに刻んでルーズリーフの様に好き勝手増やせばいい。野心的と言うか名誉を欲しがってると言うか・・・。そりゃあ無重力体験はしてみたいし温泉にあったマッサージ機は無重力体験を売りにしていた。ただそこに至る話が飛躍しすぎているし、リスク管理もおざなり。前に魔女達に緊急呼び出しシステムとして使えないかと言ったらドン引きされたしなぁ。
「田辺さん。そんなに急かすって事は何処かの国に動きがあったんですか?私も本部長であるクロエも聞いていませんが。」
「日本のギルドに国際情勢を話す必要性がありますか?」
「思い違いをしていますね。ギルドは警察と自衛隊の中間組織です。国防や治安の面からそう言った話は回って来ない訳が無いでしょう?JAXAは内閣府・総務省・文部科学省・経済産業省が管轄省庁になるにしても、そのどれからも動きの話がないのはおかしい。」
「あくまで経済活動としての動きです。宇宙ステーションの対応年数が差し迫り民間事業へ移行しようとしているのはニュース等で見ませんか?」
2011年に完成して2030年に太平洋だったかに落っことす予定のISS(国際宇宙ステーション)だが、その後釜は政府機関主導から民間へ委託される予定である。残念な事に宇宙開発って儲からないのよね・・・。宇宙ステーションで養殖出来た!うん、それって地球なら大規模養殖出来るよね?火星でジャガイモ育てたった!うん、そこに行くのも大変なら何故人は芋を食べるのか?という話でしょうか?ではないんだよ。
それしかなかったし育てやすかったのもあるだろうが、そこに行くまでにコロニーなり月面基地なりあるだろう?補給なしに火星とか途中で燃料や食料尽きて死ぬぞ?燃料節約飛行でも8ヶ月かかるし往復なら周回軌道考えても3年はかかる。月からなら多少短縮されるしコロニー経由ならもう少し早く行けない事もない。
う〜ん・・・、仮に名誉を欲しがってゲートの技術を先駆け的に使って宇宙船を作りたいなら分からない話でもないが、多分今なら気球と宇宙服、後はやる気のある人材さえいれば宇宙ステーションを新たに作るのはどうにかなるんだよなぁ・・・。大気圏突入して燃えるのは摩擦熱じゃなくて圧縮熱だし。気球から人を飛ばせば割とどうにか・・・。まぁ、成層圏から宇宙ステーション作る所まで上がるとすると350km程度は上昇ないといけないが、そもそも人とスペースシャトルでは重さが違うので必要な推進力も変わってくる。ただ、寒さに耐える必要はあるが・・・。
「見ましたがあの残骸が必要かと問われれば答えはNOです。貰った資料を見る限り先行して作るのは宇宙エレベーターでしょう?浮遊ユニットを使えば短時間かつ安定した作業も出来る。」
「確かにユニットそのモノは実用レベルです。ただし、なんでそうなるのかと言う原理自体は我々は理解していない。教科書通りに車を作ったらF1カーが出来た、それも数世代先の代物が。我々としてはそれでは駄目なんです。きっちりと技術として手に入れなければ先がないじゃないですか・・・。」
文明崩壊して車が残ったけど、原理不明で運転するのは怖いとか?言わんとしている事は分かる。言われた指示通り作ったらなんか凄い物出来た!で、何でそれ動いてんの?知らん!では流石に怖かろう。いつ止まるのか、いつ壊れるのか、対応年数は?考え出すときりがない。そして、確かに原理を知らなければ応用できない。
内閣府が話を持ってくる辺り動きと言うのも、新しい宇宙ステーションを何処かが作ろうとしていて対抗したいとかだろうし、そうでなくともゲート出現を通じて宇宙人はいると言う認識になっている。いや・・・、もしかしてもしかすれば交渉権の話が他国にも回った?
表立った動きはないし中々ぶっ飛んだ話になるかも知れないが、宇宙に出て設置者を・・・、ソーツを探そうとしている?地球に来たなら今は観測出来なくとも宇宙なら接触できると思ったなら・・・?仮に見付けられないなら宇宙開発してますで話は済むし、何らかの方法で発見出来たなら、そこから交渉なり対話なりが出来ると考えたら他国が急ぐ話も分からないではない。
何を交渉したいかは別として文字通りの超技術を持つモノに教えを請えるなら、それを成し遂げた国は頭1つ所か覇権国家にも文字通り地球限定だが世界の中心にもなれる。そうでなくとも不老と不死の薬の作り方だけでも聞ければ莫大な金にもなる。
投資家は集めやすいだろうな。前に不老の薬を売ったのでその話と事実が合わされば求める人は多いだろうし、ジョージが若返って演説したので世界的にもゲートの薬の信憑性は高い。つまり根底にあるのは他国に負けたくないと言う闘争心とか?
現時点で言うなら日本は1つ先にいる。だが交渉権を何処かの国が得て、支払う代価が支払える範囲内なら間違いなく負ける。勝ち負けかと言われると微妙だが少なくともリードはなくなる。せっかくトップに立てたのにそれをみすみす手放したくはないだろう。
「それでも現時点ではアレを動かすのは待てとしか言えません。私は何かあった時の責任は取れないし、尻拭いもゴメンです。」
「待て・・・、ではどれほど待ちましょう?先ほども言いましたが具体的な期限を示して欲しい。待てと言われたままズルズルと話を伸ばされても困る。」
「それは私としてもおいそれと決められません。具体的な危険と言うならモンスターやゲートを設置したようなやつが目の色変えて攻めてくる。いいですか?お願いしに来るのではなく警告するとともに、最悪攻めてくるんです。1999年は無事に終わりました。しかし、今年恐怖の大王が来ないとも限らない。そして、その引き金に手をかけようとしてるんです。正規のルートで修理するなら調査は大丈夫でしょうが、下手にやると宇宙開発どころか宇宙戦争勃発ですよ!?そんなに何かイニシアチブが取りたいならクリスタルとか光を逃さないモノでも研究したらいいじゃないですか!」
「動力は研究しています!ただ、それも地上では厳しいでしょう!」
「動力?それってなんですか?」
望田がポカンとしているが、マジか!やりやがったのかこいつ等!祭壇探して設計図なくせと言った癖にブラックホールエンジンの設計図研究し出してたのか!前聞いた時は極一部しか知らず厳重保管してあるとしていたが風向きが変わった?いや、風向きが変わったも何も設計図を元に既に色々作られている。実際にブラックホール自体はセルンが研究して作ろうとしていたが、生成まではいっていない。
ゲート内でブラックホールを作ろうとも下手すればゲートが故障して地球がなくなりかねないし、その為の研究場所を宇宙へ求めたと?いやいや、宇宙だから制御不能になってもいいってもんでもないんだぞ!?知的好奇心どころか好奇心に殺される猫じゃないか!
「本当にその研究を日本は・・・、JAXAはやってるんですか?」
田辺は憮然とした顔をしているが、俺もこの表情をしたいし返したい。そりゃあゲート関連で一丸と成ろうともその仕事をしていない人にとっては誰かの仕事である。なら、誰が仕事している間に自分の仕事をしても問題ない。例えば俺達が砂漠で戦ってる間に自分の畑を耕す人がいるように・・・。
既にブラックホールの研究は元からあったとして、それが原理究明から取り扱い方法にシフトチェンジしたと考えればしっくり来る。しかし、だからと言ってならどうぞとは言えない。余りにもこちらの知っている事が少なすぎる。
「一般的な研究です。何を危惧しているか分かりませんが至って普通の研究です。」
「・・・、お引き取りを。貴方も1度の話し合いでOKが出るとは思っていないでしょう?」
「分かりました。今回は私も熱くなりすぎた、次の機会にまた話し合いましょう。」
そう言って田辺が退室し秘書がペコリと頭を下げて付いて行く。タバコを取り出してプカリ。冷えたコーヒーを飲み干すが情報がなさ過ぎる。確かに宇宙開発やら科学の分野なら俺の方に話がないのは分かるが、扱っている物は設計図やら出土品。それなら何か一言あってもいいと思うんだが・・・。いや、政府も一枚岩ではないのでやりたい人間としたくない人間で分かれているのだろう。
大臣が複数いると言う事はそれだけ考え方が違うのだし、そもそも大臣はその分野のスペシャリストではない。単純に監督役で決定権はあるが、その人に数値と理論を元に書いた論文を見せても分からないだろうし、面倒で出来るならやれよと言う事もある。当然だろう、専門家が自信満々にやれます!と言っているのに素人が口を挟む余地はない。
「結局動力ってなんです?」
「あの時カオリはいなかったのか・・・、事象の地平線動力。簡単に言うとブラックホールエンジンを作ろうとしてる可能性がある。」
「?、それと光を逃さないものって関係あるんですか?ブラックホールって宇宙にある何でも飲み込む黒い穴ですよね?」
「間違ってないけど多分認識が違う。ブラックホールってのは高重力の塊で質量はない。光を逃さないって言うのは光の性質上、空間にそって進むという性質があるから、ブラックホールの近くを通るとへこんだ空間、つまりはブラックホールに吸い込まれていく。たまにブラックホールを重力の井戸って例えるのは、そのブラックホールが底なしで脱出出来ない穴だと考えられてて、ずっと内側に入ろうとしてるから。因みにこのスピードが光よりも早いからブラックホールは黒く見える。」
理論だけ考えると光を脱出出来なくするなら、ブラックホールへ入る速度は光よりも早いんだよなぁ・・・。高重力なので空間が歪んで近寄る事も・・・、実体もなければ影響は受けないのか。事象の地平線はギリギリ光が脱出出来る所だが安全かと言われれば絶対にNO!光でギリギリと言う事は少なくとも光と同等の速度で常に走らないといけないんだよ!
逆に光よりも早い自信があるなら追い駆けっこすればいいよ?失敗すれば脱出不可能な落とし穴に入るだけ。救出も不可能なので座して死を待つばかり。まぁ、座せるかは知らないが・・・。
ただ確かに宇宙で実体は邪魔だな。何処かに移動しようとした時、そこにブラックホールがあるから迂回しようではどれくらい時間が必要か分からない。仮にアニメの様にブラックホールの近くで慌てて逃げようとしても推進力が足りないので無理。やるなら1G感知した時点で方向決めてバーニア吹かさないと燃料がいくらあってもたりない。
ブラックホールの近くを通り過ぎられるのにビーム砲が回避出来ない?はっはっはっ、甘えんな!前進速度と言うならその速度で突っ込めば間違いなく突破も離脱も出来るだろう?多少角度をつけた時点で勝ちである。まぁ、視認やらレーダーで感知してからなら仕方ないのかなぁ・・・。
「そんな物を地上で作ろうとしていると?」
「話した口ぶりからすればね・・・。誰発信の誰主導かは知らないけど宇宙開発と動力開発、それを同時にこなしたいから完成品っぽい輸送機が欲しいんじゃない?」
「完成品があってもどうこう出来ないと思うんですが・・・。」
「いるじゃない。分からなくても理解出来て使いこなせる。そんな初っ端から超ベテランパイロットなら。」
「鑑定師ですか・・・。まさか輸送機武装させたって言ってましたけど・・・。」
「多分イメージの補強だろうね。輸送機よりは戦闘機の方が分かりやすいでしょ?」




