263話 宇宙を見上げよう 挿絵あり
長湯でのんびり家族風呂。大浴場行こうと誘われたが何と言うか、妻の前で大浴場とは言え望田と風呂に入るのはイケナイ事をしている気分になる。実際中身おっさんなのでアウトかセーフで言えば外見考慮でギリギリセーフ。そもそも駐屯地では散々女風呂に入ったし・・・。
ただ、息子もついて来ているので父親が堂々と女風呂に突撃して、尚且つそれがウエルカム状態なのを見たら何を思うか・・・。まぁ、男風呂に入るわけにもいかないのだが何が正解かは迷う。いっその事息子と2人で入るかと言ったら、それなら帰ると拒否された。青山ならハイかYesの2択なんだろうがアイツと共に風呂に入る事はない。
襲われない事は分かっているが代わりに『全身くまなく洗いますね!大丈夫です!前も後ろも上も下も丁寧に丁寧洗いますから!痛くありません!かゆみなんて抜き取ります!』と豪語するに決まっている。のんびりしたいのに余計に疲れる事は確実だろう。
「前は大浴場だったけど今回は家族風呂。私の夫は何時になったら覚悟を決めるのでしょうか?」
「流石に那由多が見てるしなぁ〜。息子が温泉に来てまで心労を患うのはしのびない。」
「番台とか女風呂って男の人の夢じゃないの?」
「個人の夢の為に不特定多数を捧げるのはなぁ・・・。てか、他の人ガン見してたら君は怒るだろう?」
「何を当然の事言ってるの?視界を私のアップで塞ぐに決まってるじゃない。居心地悪そうに辺りを伺いながらコソコソ入る貴方を見ながら優しく声を掛ける・・・。乙だと思わない?」
「俺の羞恥心が妻のSっけの生贄にされた瞬間である。」
「ふふ・・・、冗談よ。ただ家族風呂も広いけど私以外の人と触れ合うのも怖がらないで欲しいなぁってね。私がいなくなった後も一人寂しく家族風呂だと・・・。」
「だと?」
「お風呂の時限定で化けて出ようかしら?地方なら入れたんだし、私の前以外では綺麗な女の子でもいいのよ?それこそ那由多の前でもね・・・。」
「それは・・・、時間が解決する事だよ。少なくとも那由多が巣立つまでは父親だし巣立ってからも父親である事に変わりはないさ。まぁ、孫が出来たらその時は大人しく男の俺とは・・・、折半が限界かなぁ・・・。少なくとも野郎に靡くつもりはないし。」
年下とは言え妻も30を超えている。不老も不死も飲まないので多分、若返りも使わないだろう。その中で後どれくらいこうして一緒に風呂に入ったり笑い合えるのか。死にづらい世界とは言え望まない限り確実にそのリミットはやって来る。
「男に靡くのは確かにイヤね。貴方が男の人に愛を囁いてる姿なんて想像したくないし。」
「いや、俺もしたくない。風呂入ってるのに想像したら鳥肌が!」
そんな無駄話をしつつ温泉を堪能し、上がった後はドライブがてらに適当に走り車内でワイワイと話しながらソフトクリームを食べたり唐揚げを食べたり、変わった所ではジビエが食べられる道の駅で鹿サンドを食べたりと休日を満喫!長湯が山手なので今回はジビエだが海方面も走りたいなぁ〜。そんな事を思いながら最後にコンビニで一服。
妻達は中で軽く摘む物を買ったり飲み物を見ているがよく入る。ここに来るまでに結構食べたと思うんだが・・・。まぁ、夕食をそれで済ませてもいいし食べきれなくても保存が効くのでいいか。そんな休みを経てまた仕事なのだが、今日は珍しく内閣側からの肝入で話の場を設けたいとしてギルマスルームに俺と望田の他にJAXAから田辺理事と言う人と秘書が来ている。
「お初にお目にかかります。ご活躍の程は言うまでもなく、その麗しさもこうして出会えば間違いなく絶世のものだと確信できます。JAXA理事の1人田辺と申します。」
「ありがとうございます。改めて特別特定害獣対策本部 本部長 クロエ=ファーストです。こちらは副長を務める望田です。内閣府からの肝入と言う事でしたが今回はどの様なご要件で?少なくとも宇宙開発とゲートはあまり関係ないと考えていますが?」
「それはまずこの資料と・・・、宇宙港プロジェクト頓挫は県として残念でしたね。」
「まぁ、話を持ちかけた会社が破産したら元も子もないでしょう。宇宙船や宇宙人のオブジェ作ったりして結構力入れてたみたいなんですけどね。」
いゃあ〜、話を持ちかけた米国の会社が破産するとか中々ビビる。そんな折にゲートが出現した訳だが米国は泣いていいと思う。上手く破産せずに事業を継続していれば共同開発基地として色々と出来ただろうに。まぁ、目標は人工衛星の打ち上げだったのであまりおかしな事も出来ないとは思うが・・・。
「我々としてはその建設予定地や、地質データを廃棄する前に貰っていたので渡りに船ですよ。今は種子島ですが他の所にも打ち上げ基地が作れると言う良いデータです。」
「それで、今回の用向きはなんですか?わざわざ発射台を作ると話しに来たわけではないのでしょう?」
望田がコーヒーを入れてくれたので互いに一口飲んで資料に目を通す。かなり分厚いがタイトル的にはそのものズバリ宇宙開発について。前に高槻が言っていたが本格的に宇宙へ上がる算段をつけたいらしい。宇宙開発で一番の問題はなにか?答えは重量物の運搬。
スペースシャトルで宇宙に行くにしても如何に荷物を減らすのかが争点になるくらい問題視される。重力から逃れて宇宙に行くにはその重量に対して必要な加速や燃料が事細かに計算され発射されるが、それでもチャレンジャー号の様な悲劇がないわけではない。
ただ、現状から考えるとリスクはかなり減った。1つ目の重量問題は指輪が解決し、探索機だろうと開発物資だろうと収納できれば人一人の重さで済む。次にスペースシャトルについても人さえ飛ばせればいいなら小型化出来るし、浮遊ユニットを使えば可燃性燃料を使わずとも浮ける。
更に言うなら成層圏までなら気球で行ける。費用は確か2000万円くらいと高額に思うが、スペースシャトル打ち上げと比べると数十分の1の価格で飛んでいける。なら、そこから飛べれば宇宙はすぐそこである。ん〜、橘スーツ改造して宇宙開発用にしたいとか?今の所藤が作業用の物を作っているが、完成品は見ていないのでどういった方式とかは知らない。
ただあのスーツってギルドや俺が作った訳ではなく装備庁、詰まりは自衛隊が作った物なので、許可を取るなら俺ではなく防衛省だろう。一応中間組織でもあるので話がくればその部署に回せない事もないが、わざわざそんな遠回りをする必要性もないしな・・・。
ただ面白いのは宇宙エレベーターとマスドライバーをそれぞれ作りたいとしてある。技術的な話をするならマスドライバーはレールを使って打ち出すカタパルトの様な物だが、加速に対しての空気抵抗があるから厳しいような気もするが・・・。パイプで中を真空にでもするのだろうか?いや、付与師なら下限で空気抵抗を減らせばお手軽に解決できる?
「発射台は確かに作りたいですが用向きはそこではない。端的に言うとあの残骸を好きにしていい権利をもらえませんか?」
あの残骸と言うと輸送機か・・・。確かに浮遊ユニットを使用して現実に飛ぶJAXAが作りたい物の完成品ではある。しっかしどうしたもんかなぁ・・・。メインコアをセットして自動修復ユニットを動かせば警告は来ないが、輸送機はそのまま仕事に戻る為に飛び立つ。逆にメインコアをセットせずに自動修復ユニットを動かせばソーツが殴り込んでくる可能性がある。
なら、メインコアだけセットして自動修復ユニットを破損状態にしたら?結果としては発見時と変わらない。ただし手作業で修理する人間がいるので、修理してという要望には答えられる。問題があるとすれば輸送機は既に外装をいじられたり武装させられている事。これをメインコアがどう受け取るのかが争点になりそうだが、先に武装解除してお願い通りに修復するとしたらどうだろう?いや、それだと自動修復ユニットを最優先に直せになるのか。
「無論ただで欲しいとは言いません。ギルドとして提示された要件や譲渡費用、自動修復ユニットの解析にはラボの方にも参加してもらいます。」
「う〜ん・・・、あれの話はどの程度聞いていますか?」
「自動修復ユニット単体では絶対に動かすなとは聞いています。」




