259話 進化中 挿絵あり
『コレより第8シーケンス。特殊兵装による戦闘実験を開始してください。目標は的及びドローンの撃墜です。』
両手足と背中や頭にゴテゴテとしたパーツを付けて手にはスナイパーライフルを持った人物が音声ガイダンスと共に動き出す。設置された的は動かないようだが地面から浮かび上がったドローンは思ったよりも機敏に・・・、そもそもプロペラじゃなく室内探索用ドローンなのか球体で音もなく縦横無尽に飛んでいる。
スナイパーライフルの人物は1人だが、ライフルは単発ボルトアクションではないので薬莢排出も必要なく形的にもビームライフルを連想させる。それが引き金を引くたびに狙い済ましたかのようにドローンに吸い込まれて撃墜するが見てる分には面白い。
ドローンはモンスター程の速度ではないが確かに動いている。そして、どう動くかの軌道は隠れているので読めない。必要か分からないスコープを一瞬覗き引き金を引けばドローンが落ち、地面に向かって撃っても跳弾して当たり、背中のパーツから射出された物が上空で漂うとスナイパーライフルからマシンガンに様変わりしたかの様に弾丸が吐き出され、それも必中が約束されたかの様に当たる。
ドローンは確かに直撃の瞬間に左右に回避している様に見えるが、それでも当たる。ついでに言えば、ライフルの人物は足を動かさずスキーを滑るかのように地面を舐める様に滑り、更に背中のパーツから展開された銃口からも弾を吐き出し撃ち落とし、ドローンからのペイント弾は瞬間的に吹かされるバーニアで躱していく。ん〜、車のサテライトビューとかあるとガンナー楽そうだな。距離にもよるがそもそもガンナーは目がいいので全周囲自衛が出来れば待ち伏せ時の安心感はあるだろう。
そんなトリガーハッピー状態の人物が上空に跳ね上がりそのまま浮遊して、ライフルを地上に向けて構えるが・・・。アレって明らかに橘がクレーム付けた銃と似たようなもんだよな?武器では飽き足らずコッチも実用化を目指してたか・・・。薙ぎ払うように発射されたビームは当たってるのに途切れない?1つの的に吸い付くように当たり、途切れないビームが銃口を振る度に鞭の様にうねり理不尽にビーム上のドローンを落としていく。両手に持ってやるとダブルダッチができるかも。失敗したらドローンの様にバラバラになるが・・・。
『シーケンス終了。オールシーケンスクリア、浦城 コウ3尉装備を収納し帰還して下さい。』
どうやら彼?彼女?が噂の破天荒パイロットと言うかテスターの様だ。名前だけ聞いていたがそのうちガトーとイチャイチャ核弾頭取り合いとかしだすのだろうか?まぁ、核はどんどん廃棄の方向で各国動いているので南極条約前に骨董品になりそうだが・・・。オールドタイプ云々よりもやっている事は強化人間っぽいのもミソだ。
コチラに気づいたのか片手を上げながら歩いてくる。いや、コチラが視認できる距離で浦城が視認出来ない訳はないのか。頑張ればそのうち分子さえ見えるようになるんだし。
「始めまして、浦城です。見学は楽しんでいただけましたか?」
「ええ、勝手に覗き見した様な状況になって申し訳ない。特殊兵装とはそのライフルですか?それとも弾頭の方ですか?」
「あ〜。ちょっと待って下さい・・・。ええ、そうです。ファーストさんです。・・・、分かりました。許可が降りたので開示しますね。弾頭とライフル、それに背中やらこの手足のもそうですね。」
耳に手を当てて話していたが、多分相手は装備庁の人間だろう。ライフルと言いつつ最後は撃つと言うよりも照射に近かったように思うがどうなのだろう?そもそも屈折するような仕組み・・・、例えば鏡なんかもなかったがビームはロープの様に自在にうねっていた。
「生身の方が速いんじゃないですか?確かにその装備も速かった様に思いますが。」
「高機動型バランス制御迎撃システム。コレ自体は早い話が補助装置です。コケない様瞬間的な反応を補助してスライド移動を可能にし、即座に反撃でき背中にマウントした銃身からも射撃できて手数も増やせる。と、いってもコレは自衛隊正式採用初期装備の試作品なんですけどね。」
生身で浮遊して火力のある攻撃手段もあって、突発的なアクシデントに対して回避する手段がある。もう少し職別にカスタマイズ出来るといいのかな?
「基本装備はパワードスーツですか?」
「そうですね。背中のは浮遊ユニットなんで空中散歩散歩したいなら飛べない人は必要です。後は各所のバーニア、コレがないと移動が不便になります。ただ、慣れと対G訓練をしないとブラックアウトの可能性がありますね。」
「対G訓練って言うと椅子に座って踏ん張るやつですよネ?」
「だいぶ古いやつですねそれ。今だとミキサーの中みたいにグルグル回されたり対Gスーツ着て耐えたりと色々ですよ。ただ、体験してから扱えば何となく身体が限界を覚えるんで何事もチャレンジしてからです。」
ふむ・・・、人が進化するのに合わせて装備も進化すると言う事か。まぁ、その内民間にまで払い下げされるといいな。パワードスーツ自体は販売されているが、現時点では防御全振りでアシストがあるとすればそこそこ重いものが持ちやすいとか?他は特にないが死ななければどうにか出来ると言うタイプなら大丈夫なのかな?
そんな事を考えながらラボを後にしてギルドへ。脱出アイテムを使おうかと思ったが使うと東京に放り出されそうなので上昇アイテムからの退出ゲートでちゃんと手順を踏んだ。なのでギルドのゲート前に出た。う〜む。金庫の中には色々と放り込んでいるので早々中に出る事はないだろうがもう少しみっちりと詰めておくかな。
そう思い金庫を開けて中にクリスタルをみっちりと詰めておく。多分部屋の半分くらいまで詰めとけばいいよな?わざわざ這いつくばって帰ってこないだろう。金庫を後にしてマスタールームに戻ると明かりは消えていた。書類も今は山がないので上がったのだろう。時刻も21時を回ってので、いたら残業だな。これなら夕食は外出しますと連絡を入れておけば良かった。
帰れば夕食はあるが・・・、たまには夜のギルドの様子も見るか。そう思い一階の食堂へ。流石にと言うか警察も出入りするので学生服でウロウロする猛者はいない。代わりに私服で若い人がいるが16歳からスィーパーに成れるのでライセンスさえ持っていれば補導の対象にはならない。
これはゲートからの退出が何時になるか分からないからという措置でもある。ただし、一歩ギルドを出ると見た目で補導されるので気を付ける事。経験者は語るよ?補導のプロとは言わないがかなり補導されて開放されたし・・・。流石に最近は補導されないけどさ。扉を開いてカツカツとカウンターに向かい椅子に飛び乗ってウイスキーを頼みタバコで一服。
「お疲れさん。珍しいねマスター。こんな時間にここに来るなんて。夜勤かい?」
「夜勤と言うか思った以上に色々あったんですよ。まぁ、収穫も多いですけどね。」
「仕事の話はあんまり突っ込めないな。下手に知るとしがらみが増える。」
「そのくらいがいいですよ。何なら私がここで話す事は全て冗談だと思う方が気楽でいいし私も話しやすい。」
「そんなもんかい。ただ、ここのこの立場を狙うやつは多いぞ?なんたってこんなに綺麗なマスターとサシで喋れて酒も飲める。」
そう言ってショット・グラスに少しウイスキーを注ぎ乾杯をするかの様に掲げて一口で飲み干す。酔っても直に酔い覚ましが出来るからいいがアル中には気を付けて欲しい。




