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街中ダンジョン  作者: フィノ
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250話 マスターとして仕事をしよう 挿絵あり

 理由のわからないものは本来なら調べて明確にするのが筋なのだが、神志那が鑑定して分からないなら後は橘くらいしか分からないだろう。個体成長薬、名だけを聞けば成長促進剤なのだが最適化の件もあるのでただパワーアップを促すものではないと思う。俺が被験体になるのが効率的ではあるが巻き戻る関係上、外見的な要員を引き出すモノなら何も変わらない。


 橘に会うまでは金庫に保管するかな?繋ぎとして指輪に収納していれば早々使わないだろう。この指輪に干渉出来るのは今の所本人か俺の場合バイトだな。アイツは犬の形をしているが指輪に収納出来る。中の様子を聞けば乱雑にモノが点在しているらしい。そして、そのモノに干渉できるらしいので持ち出しも多分出来る。


 緊急時には代わりに回復薬をばら撒けもするらしいので簡易的なヒーラーにも出来るが、本人にその気がなければ使わないだろう。まぁストック自体はかなりあるので使われても分からないかも知れないが・・・。


「買い取りはいいとしていくらを提示するぅ?」


「ん〜、まずはすり合わせからでしょう。ランクAなので払い下げ不可と言ってもいいですが、それは接収と変わらない。そして、ギルドは出来たばかりの組織なのでそれだけは避けたい。」


「そんなに避けたい?法律を盾にダメーって押し通せるよ?」


「絶対駄目ですね。この薬を回収するだけならそれでいいですが、相手がそれに対して悪い印象を持つと悪評に繋がる。下手に出るわけではないですが、公平に納得の行く取引をしないと個人間売買でわけの分からないものがあふれる羽目になる。なので、良くも悪くも話し合って落とし所を見つける方向性しかないです。」


 ゴシップは馬鹿には出来ない。特に信頼のない今の段階で1度悪評を立てるとそれを引きずっていく。誰でも身に覚えがあるだろう、例えば仲間内で取引先の誰々さんってなんかとっつきにくいよね?と言った様な話を聞いた事が。その一言で見ず知らずの誰々さんに対して聞いた人は話しづらいと言う印象を持つ。本当かどうかの真実は分からないが、少なくも知らない誰かよりも知っている身内の言葉をすんなりと一定数の人間が信じてしまう。


 現段階で言えばギルドとはその知らない誰々さんなのだ。実績も何も無い以上、支払いを渋るや持ち込んだら接収されたと言う噂はいい噂以上に早く広まる。それこそ他人の不幸は蜜の味と言う様に。


「ふ〜む・・・、私が話してもいいけどクロニャン直接話す?」


「そうですね・・・、たまには書類整理ばかりではなくてマスターらしい事もしましょう。発見者とはすぐ連絡取れますか?」


「下で待機中〜。話した感じよく分かってないから説明も必要かな?誰か立ち会う?」


「忙しくなければ神志那さんお願いします。鑑定した本人がいる方が補足もしやすいでしょう。カオリと夏目さんは今ドッグタグの捜索でいないし、青山はひき逃げ犯探して出払ってるから・・・、2人でしましょうか。」


「なら呼んでくるよ〜。」


 そう言って白衣を翻し神志那が部屋を出る。今はスーツだがそのままでいいだろう。部屋での喫煙が解禁されたのでプカリ。空気清浄機やら脱臭機が音を上げているので多分臭わない。こちらに来る時にそれぞれの住む所を確認したが神志那の住所はギルドである。ホテルやアパートでなくていいのかと聞いたが、本人曰く飛び回る事や至急の出土品鑑定も想定するならギルドに住む方がいいとして鑑定室の横の空き部屋に住み着いている。


 実際ギルドは24時間営業で腹が空けば食堂はあるし、そこには酒も摘みもある。風呂も温泉があるしフィットネスやR・U・Rもあるので広さに目をつぶれば快適空間だろう。そんな神志那は奥に行くと言う目標に偽りはなく朝からギルドの周りを歩く速度で走ったり、フィットネスルームでエアロバイクを漕いだりして体力を付けようとしている。


 筋肉だけ付けたいなら動けなくなるまで運動して、プロテインやら肉やらを食べて回復薬を飲むとすぐに超回復状態となり筋肉が肥大してくれるが、急激な変化の為バランスは悪いし本人のイメージもついて行かないので魅せ筋肉以上の効果はないし、今度は邪魔だと思っても寝て過ごして筋力を落とした上でその身体のイメージを固定しないと、回復薬を飲んだらマッチョに戻るとか。


 真意は定かではないがそういった話がまことしやかに流れている。ん〜、痩せるイメージで回復薬を飲むと痩せるのだろうか?いや、そもそも理想の体型と戦う者の体型は明らかに違うので多分無理だろう。痩せすぎても持久力なくなるしね。そんな事を思いながら資料や書類をさっさと指輪に収納し部屋にはデスクと椅子2つだけ残す。デスクの後ろはガラス張りで逆光になる。なら・・・。


「こちらです、さっさと入るといいよ。」


  挿絵(By みてみん)


 椅子に座って口の前で両手を組む。やはり偉い人と言えばこのポーズだろう、渋い声は出ないがやるしかない。流石に相手側に机がないのは失礼なのでテーブルは置いておく。扉が開くとそこには神志那と2人の男が立っていた。見た感じ20代後半で服装はジーパンにパーカーとラフな感じだ。緊張しているのか目が忙しなく動いているような気がするが、さてどうしようかな?


「始めまして、ご存知だとは思いますがギルドマスターのクロエです。今回呼んだのは持ち込まれた薬についてですが・・・、立ち話も疲れるでしょう。座って下さい。」


「はっはい!」


「スゲー、本物だ・・・。」


「馬鹿!変なこと言うな!」


「すいません相棒が。」


「いいですよ。神志那さんコーヒーでもお出しして下さい。」


 席についてひと息入れた所で話しだそう。あまり落ち着かないようだがこう言った場は慣れていないのかな?年齢的にも働いていればオフィスくらいしか入った事ありそうだが、業種次第ではなくても仕方ないか。


「さてと、今回来ていただいたのは貴方がたが発見された薬についてです。まずどの辺りで発見されましたか?」


「35階層を探索してる時に箱からだったと思います。開封自体はセーフスペースでやったんで正確には分からないですけど、行ったのが25階層と35階層に36階層のセーフスペースだけなんで。ただ、箱も溜め込んでたんで確かとしか・・・。」


「分かりました。今回発見されたものについてはAランク相当の品であるとして取り扱いたいのでギルドとして買い取りたいと考えています。その点はなにか先約等ありますか?」


「いや、俺達も分からないから持ち込んだんで特には・・・。そんなにヤバいものなんですか?」


「正直に話すと分かりません。こちらにいる鑑定師の神志那さんが名前しか分からなかったそうです。」


 チラリと神志那の方を見ると伝わったのか口を開く。心做しか余所行きの顔をしているので普段を知っていても知的な才女に見えなくもない。まぁ、実際に知的な才女なので真実に近づいただけとも言う。


「持ち込まれた品の名は個体成長薬でした。ただ、成長と一口に言っても何がどう成長するかは分かりません。服用、販売すると言う前提で買い取りを拒否した場合は、その後に発生する不利益等はギルドとして保証しかねます。」


「訳のわからない物を飲む気はないなぁ。お前もそうだろ?」


「いらないな。個人で売って後から文句つけられても面倒だし、スィーパーって信用商売な所あるし。それで、提示額はいくらくらいですか?」


 色々と考えてみたが基準のない物に基準を付けるとするならいくらが妥当なのか?階層から考えると結構深い所の品となるが、回復薬と同等の物と考えるとそこまでの額は提示しづらい。仕事料として考えていくとして・・・。


「100万でどうでしょう?効果不明品である事、深い所から出た事、偶然発見した物であると言う事。これらを加味してこの額を提示します。」


「それはそれぞれに?」


「ええそれはもちろんです。この額でいいかはお互いに話し合って決めてください。」


 そう言うとヒソヒソと話し合い出す。取り敢えずの額として一般人が大金と思う額を提示してみた。少なくともこれでケチとは言われないだろう。問題は相手がチキンレースを仕掛けてきた時だがわざわざそれに乗るつもりはない。ただ、少ないと言われれば倍までは出してもいいのかなぁ・・・。命の価値と言う訳ではないが話し合って妥当な額を出すしかないというのが本音ではある。


「・・・、もう少し色って付けれます?モンスター倒したりすると、やっぱり回復薬とか使うからそれなりに出費もあるんで。」


「俺は色の変わりにポスター欲しい!」


 色は分かるがポスター?なんのポスターが欲しいんだろう?今の若者が欲しそうなポスターと言うとアイドルとか?限定品の何々とか言われると流石に渡せると言う保証はない。と、言うかお金貰ってそれで買えばいいのでは?まだ出土品の武器が欲しいとか回復薬を融通して欲しいとか、年間保険料を1年分免除とかの方が分かりやすいような・・・。


「色はプラス50万でどうでしょう?指輪の肥やしにされてもいいですが、これと同名の品が売買されたと判明した場合、私達は真っ先に貴方達を疑う事になります。」


「う〜ん、プラス70万は?これなら俺は納得します。」


「分かりました、貴方へは170万を渡しましょう。振り込みか現金支給か、また金貨か円かは選んで下さい。それと、ポスターとは何のポスターですか?流石に古い限定品を指定されたりすると用意出来ませんが?」


「秋葉原で売ってた靴を履くクロエさんのポスターのオリジナルです。今売ってる物って最初の頃のと違うんで初期の頃のものが欲しいです。」


「初期と言うと・・・、ナンバリングしてないやつですか・・・。」


 確か指輪には何枚があったな。なんだかんだで欲しがる人が多かったので買い込んでそのまま放置していた。贈与品にするには自意識過剰過ぎる自分のポスター、忘れたままなら2度と指輪から出る事もなかっただろう。まぁ、欲しいなら渡すか。元々1000円ちょっとの品で70万近く出費を抑えられるなら御の字だろう。


「分かりました、手持ちのもので良ければ渡します。」


「よっしゃーー!サインもお願いします!裏に橋田 至君へクロエって!倫太郎!俺は勝ったぞーー!!!まゆりに留守番頼んで奥へ行って良かったー!」


 小躍りしそうな勢いで至が叫んでいるが、どこかで聞いた名だな。顔を覚えていれば思い出せるかもしれないが、全く記憶にない。なら、名前を聞いたのかな?いたる・・・。いや、名を聞いたと言うか中位に至ると言っているので口が覚えてたのか。


 さっさとポスターを出し裏に指定された事を書いて手渡す。握手もお願いされたので行うが倫太郎は細身で至はふくよかなので凸凹感がある。まぁ、仲は良さそうなのでこのまま育ってくれればいいかな?倫太郎がポスターを見せろと言う側で至が嫌がり指輪に収納して2人は部屋を後にした。


「クロニャン良かったの〜?」


「ポスター?どうせ指輪の肥やしだからいいかな。1000円のポスターで70万値切れるなら安い安い。」


「・・・、クロエさんコレ見てみ。」


「ん?ネットオークション?」


 スマホを向けられたので見るが、中には見たくない画像が・・・。さっき渡したポスターと同じ物の出品履歴だがロットナンバー付きに、つまりはコピーのコピーに変えた辺りから出品は減り値段はどんどん釣り上がっている。最終取引のあった額は・・・。


「1、10、100・・・。300万!?馬鹿ですか!?馬鹿なんですよね!?馬鹿なんだろうなぁ〜・・・。」


「ちゃんとした取引にゃ。今回のお仕事は赤字で失敗だにゃ〜。」


 神志那がゲラゲラ笑っているが、この世界大丈夫か!?

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[一言] クロエにとってはなんぼでも量産が効くものだしねぇ 黒歴史が印刷された紙くず? それで交換できるなら大成功だよね
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