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街中ダンジョン  作者: フィノ
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26話 チヨダと言う人々

娘の年齢考えてたら遅れました

穏やかな夕暮れ時、どうお過ごしでしょうか?夕食の準備に忙しい?仕事が終わり、家への帰路へ就いている?俺は今、ハイエースでドナ・ドナされている・・・。迎えは頼んだ。しかし、拉致してくれとは言っていない!


「すいません、すいません、すいません!私達も逆らえないんです!」


「・・・、危うく車ごと消し飛ばす所でしたよ・・・。」


 目の前で人拐いの警察官が平謝りしている。車にはドライバー含めて3人。家族に会って欲しいと言う千代田の願いを受け、自衛隊病院の前の道路に面した場所で待つ事暫し、夕暮れ時で人は少ないが何人かに握手やサインをねだられて、愛想笑いを浮かべながら対応し、人が居なくなった頃。そいつ等は人の良さそうな顔をして現れた。


「ファーストさんですよね?握手してもらえませんか?」


「あ~。まぁ、いいですよ。」


 道路を挟んだ対面のパン屋で買い物していた若者が2人、俺に気付いた様で近寄ってきて握手をお願いされた。これも有名税か、最近は色々な所で握手したり、サイン書いたりしている。さっきまでもそうだった事から、警戒心が薄くなっていた。 


 握手をし、もしよかったらと、目の前のパン屋で買ったアンパンを紙袋から取り出して差し出してくれたので、断るのも悪いしと一口頬張った。パン屋でパンを買っているのは見ていたし、特に危ないものでもないだろう。焼き立てで小麦の香りと、餡の甘さが鼻と舌に嬉しく、ついもう一口と頬張った。


「感激だなぁ、僕も握手してください。あっ、そのままでいいですよ。頬張る姿も可愛いですし、ちょっとこれから行くところもありますから。」


 ニコニコとしながら先程と違う青年が、パンを頬張った直後に手を差し出したので、飲み込んでから握手しようとしたが、そのままでいいと言うし、片方は自衛病院の方に一歩を踏み出していた。そろそろ面会時間も終わるし、急いでいるのだろう、行儀が悪いがスーツで手を拭いて握手した。


「もが!?」


 結果、握手直後に狙い澄ましたように走ってきたハイエースに、一歩踏み出した青年に背を押され、握手した青年に手を引っ張られた上、アンパンを口に押し込まれ、悲鳴上げる事なくスムーズに拉致された。アンパンは旨かったよ・・・、窒息する所だったが。2人1組プロの犯行かな?白昼堂々だけど人は疎らだし、先程までの人々は満足していなくなったエアポケットの様な空白地帯。人は急ぐと視野狭窄で視界が狭くなるので、多分こちらを見ていた人もいない。


 どこの関係者か知らないが、なかなか思い切った事をする。秋葉原の資料には軽く目を通したが、報道関係には俺が最後のモンスターを倒した事や、その他のモンスターを倒して回った事、ビルを消失させた事も情報として流れている。


 海外にでも売り飛ばせば、さぞいい値段が付くだろう。どの国も力は欲しいし、千代田からは海外がキナ臭い事、望田からは誘拐への警戒を示唆されていたが、ここまでスムーズ且つ大胆に拉致されるとは思わなかった。


 しかし、俺とてただの少女ではない。千代田との約束もあるし少々痛い目を見てもらおうと、意気込んだ矢先に警察手帳を見せられて、平謝りされている現状である。逆らえないと言う事は、彼の部下か何かなのだろうか?それでは、なんでまた拉致に?


「・・・、経緯を。納得の行く説明をお願いします。事と次第では暴れますよ?」


 キセルを取りプカリ。立場(首輪)は貰ったが引きずり回される謂れはない。流石に機嫌が悪いのを察したのか、青い顔をして理由を、ポツポツと話しだした。


「・・・、ファーストさんはチヨダの事を、どれぐらい知っていますか?」


「ビジネスライクな関係です。千代田と言う苗字と、政府の関係者であろうと言う事しか。他は名前すら知らない。」


 そう話すと、手を引いた警官は更に顔を青くした。何やら行き違いでもあったか?


「チヨダとは、そもそも名前ではありません。公安に属する警察庁協力者獲得工作・特命作業指揮本部、それの総称がチヨダです。主な任務は潜入や囮、協力者の獲得・・・、貴女が何時も話しているチヨダは本来コードネームで、彼の本名は・・・、本人から聞いてください。立場としては参事官、室長です。」


 つまりは、公安のガチガチの武闘派でそこのトップ。なるほど、配信後のゲートを出てすぐの時、橘達が逆らえなかったのも、議員を殴って辞職させたのも、俺への対応が彼1人に一任されていたのも、権限や組織図を考えると話が繋がる。しかし、何故それで拉致に?


「千代田さんの事は分かりました。しかし、なぜ拉致に?普通に話して連れていけば、いいではありませんか。」


「いくつか理由があります。1つは、我々は常に偽名、身分の偽装、私生活の隠蔽を行って影のように過ごしています。彼の家族も、彼がチヨダである事を知りません。しかし、離婚等の弁護士を通してバレる事態は避けなければ、後の行動に大きな支障が出ます。


 それが1つ、もう1つは、彼のバックグラウンドを教えるためです。増田 竜一それが、家族としての名前です。大手百貨店 フロア担当責任者 知り合った経緯は貴女が服を買いに来て知り合い、今回は配達の為、貴女の衣類を積んでいたが、下着が落ち椅子の下に入ってしまった。」


 話は分かる。分かるが、やはり拉致に繋がるのはおかしい。いくら影とて普通に接触する分には、問題ないのではないか?拉致なんていう、こんな危ない橋を渡る理由にしては弱すぎる。仮に、望田に俺を迎えに・・・、望田は駄目か。彼女はSP、そもそも所属が違うし、話し合いの席では常に千代田が退室させていた。なら、何かしら他の理由がある?


「その話のみで、今回の件を信じろと?これだけの強行手段に出るくらいなら、千代田さんを切り捨てた方が効率が良いではないですか。」


 確かに室長というからには、その部門のトップなのだろう。だが、これを指示したのは誰か?彼等は逆らえないとは言ったが、誰にとは言わなかった。そこから考えると、千代田以上の誰かが指示した事になる。


「・・・、誰からとは言いませんが、今彼を失うのは国益に反すると結論が出ました。理由は・・・、貴女です。」


「私?少なくとも恭順は示しましたよ?」


 千代田と国益と私・・・、歌の歌詞のようだが、国益と私ならある程度繋がる。少なくとも、戦力にはなる。役職も就いたので仕事もするし、今回の要請も蹴ってない。とりあえず、扱いやすそうな従順さは示した。しかし、何故そこに千代田が絡むのか・・・?


「貴女は無欲過ぎたんですよ・・・。私達は国に殉じます。自分を捨て、身分を捨て、時に愛する人を捨て。今回の拉致は彼は知りません。国としての行動だと思ってください。」


「無欲過ぎた?」


 はて、欲をかき過ぎるとは聞くが、無欲過ぎるとは?別に清貧に生きているつもりはない。ルームサービスはたらふく食べたし、服も用意してもらった。法律も変わったし、仕事もある。何なら役職に就いて給料もいいはず。後は妻や家族と過ごせれば、特に望むものはないが・・・?


「10億くらい要求したら安心できます?」


「欲しいなら直ぐに用意しますよ?」


「はぁ・・・、素直に言ったらどうです?理解出来ず恐ろしい(・・・・)、と。」


 まぁ、なんとなく理解した。ゲートの情報を無料で流す。モンスターを退治しても、特に何かを欲しがらない。地位や名誉に反応しない。欲しがるのは食事や衣類で、それも特に高価とは言い難い。なんなら、金品の話もしない。そのくせ、持てる力は恐ろしい。そりゃあ、上も怖いわな。


 いつ見限る(・・・)のかと。或いは、どこでキレるのかと。国として出せる報酬は限りがあり、ほぼなくなってしまったのだ。仕事をしたら報酬を出す。しかし、相手の望む報酬が分からない、色々出したが反応は薄い。なら、最後に頼るのは誠意であり、情である。


 上は考えたのであろう。家族を大切にしているなら、その情に訴えるのが一番効率的であると。そして千代田には前に言った、近しく在ろうと思うならクロエと呼べと。それ以後、彼は俺をクロエと呼ぶ。しかし、今回千代田家は崩壊の危機で犯罪者でもない奥さんはある意味無敵。


 家族を大切にする人間が、家庭崩壊を容認するか。個人的には幸せならいいが、性格の不一致等で別れるのは仕方ないと思う。しかし、問題は俺であり、刺激したくない国である。俺も千代田も軽い気持ちで「タスケテー」「イイヨー」と言ったつもりが、離婚劇とか見せたらヤバいんじゃね?と国が噛んだから話がややこしくなった。


 更に付け加えるなら、千代田は俺に対して今まで強制と言うモノはしていない。事ある毎に話し合ってはいるが『理解していただきたい』等は言うが、明確にするなとは言わない。それは彼の誠意であり、あくまでお願いベース。その誠意を汲んで動いていたかも知れない俺が、「えっ!名前から違う・・・、騙された!」と怒り出すのも避けたい。まぁ、千代田とは軽口が言える程度には、仲がいいと思っている。


 詰まる所、誰かさんの早合点。うん、ベルリンの壁は崩壊するべくして崩壊したな・・・。しかし、国は俺をハンニバル将軍か何かだと、思っているのだろうか?国内の敵認定とか止めてほしい。


「はぁ、経緯と行き違いは理解しました。・・・、指示した人に伝えてください。とりあえず、五体投地で土下座しろと。それで私は開放してもらえるんですよね?」


 話は理解した、経緯も分かった、魔女マジ自重。まぁ、事ある毎に、配信と違いますねと言われれば、嫌でも初期イメージの強さを理解させられる。しかし、これで話も終わりだろう。そもそも、彼等が迎えで無いのなら、本当の迎えは待ちぼうけである。


「・・・、悪い知らせがあります。」


「・・・、聞きとうない。ポイ捨てでいいので、下ろしてもらえませんか?」


「分かりました。下ろした後、我々はちょっと東京湾に浮いてきます。」


 ・・・、それはちょっとで済む話ではないのでは?えっ?こいつ等ミスったら殉職なの?・・・、潜入捜査とか見つかったら殉職だわ。この場合、悪い知らせを聞かないと彼らが殉職すると・・・。


「話を聞きましょう。後、指示した方には、私の名前で石抱きでもさせてください。」


「分かりました、やらせましょう。」


 警官の顔が悪魔の様に歪んでいる。まぁ、こいつ等もおかしいとは思ってるんだろうなぁ、知らんけど。千代田は議員を殴った、ならこいつ等もやるだろうな。


「悪い知らせというのは・・・、我々が拉致する現場を見られ、ネットユーザーに情報をばら撒かれました。」


「大根かな?役者的に。」


「面目ない・・・。」


 情報がばら撒かれた・・・、俺は・・・、被害者だ!やった、ちょうどいいこのタイミング!自作自演は流石に駄目だし、外国人に拉致されたら問答無用で逃げ出すが、コイツ等ならちょうどいい!ピンチはチャンス!後は確認だけ。


「貴方達はスィーパーですか?」


「一応、スィーパーですが、1回入っただけです。」


 怪訝な顔で俺を見るが、それはどうでもいい。千代田絡みの勘違いで起こった拉致騒動だが、主犯(飼い主)はいるし、俺と面識はないし、何なら千代田に貸しを更に押し付けられる。


「なるほど、なるほど。それは、それは。実にいい、ちょうどいい。この車は特定されていますか?」


「今は大丈夫ですが、時間の問題ですね。監視社会・・・、我々は影なので、捕まればそのままです。我々のバックグラウンドは人身売買の工作員です・・・、ほら。」 


 車の後ろには手錠や縄や、睡眠薬や大きいトランクなど。もう少しマシなバックグラウンドはなかったのかな?流石に人は拐われていないが・・・。しかし、これだけお膳立てされているならやりやすい。


「おや、おやおやおや?顔が死んでいますよ公安?夢は殉職ではないのですか?」


「国の為ならいいですが、今回のこれは・・・。」


「ええ、ですから国の為にちょっと、ボロボロになって下さい。なに、死にはしませんよ、死には。」


「は?」


 さて、筋書きはある程度ある。最終目標は千代田家として、それまでの間にやる事は2つ。やりたくはないが、この格好の素の状態で目立つと同時に組織を宣伝する。特別特定害獣対策本部 本部長。その肩書を広めて、まだ形もない組織だが犯罪抑止の足がかりとする。ちょうどいい事に俺の指輪には薬は殆ど無いが、ゲート産の武器がそれなりにある、それを使ってこいつ等を人身売買組織から武器密売組織へ変更。


 次に、こいつ等にスィーパーの力を使って、暴れてもらいヒーローショーよろしく、全員お縄に付いてもらう。それをモデルケースとし、今後のスィーパーによる犯罪抑止に繋げる。こいつ等は・・・、まぁ、腕の1本くらいは我慢してもらおう。幸い、ゲートの薬があれば骨折程度なら数日で回復するらしいし、高槻の薬も秋葉原の件で有用性は示された。


 ここで捕物劇を行うと、犯罪を起こそうとする輩が増えるかもしれないが、そもそも警察とは受身の組織である。事が起こらなければ動かないし、動けない。なら、実際に事が起こったなら、動かざるをえない。大分軽くなったが、俺は一応要人(仮)である。


「今からゲートの武器を渡します。トランクに詰めて下さい。車は多分、そろそろ位置が特定されるでしょう。私のスマホのGPSで。後は、報道にでも情報をリークしてください。」


「いや、しかしですね・・・。」


「特別特定害獣対策本部 本部長として命令(・・)です。この肩書は千代田より遥かに上と、本人よりお墨付きがあります。・・・、やれ。」


「了解!」


 封建社会とは、一部のサディストと多数のマゾヒストによって成り立つ。何かで読んだが的を射ている、命令する側は無茶を言う代わりに責任を持つ、される側は無茶を言われるが、考えなくても責任は無い。そして、今回の責任は此奴等に命令した人間に取ってもらう。うむ、Win-Win。国の為だ、責任持って辞職でもしてもらおう。顔の見えない誰かさん。


「積み込み完了しました!」


「よろしい、車の進路は千代田邸付近。近くになったら、車の屋根を爆破します。その後、私と全力で敵対しなさい。貴方方は捕まる前提のゲート密売人です。」


「バックグラウンドは、どうしやす?」


「決まってるではないですか、貴方方に命令した方の汚職です。ゲートの武器なら海外に高値でよく売れる。」


「・・・、了解しやした。」


 ザコっぽい口調になったが、まぁいいだろう。さて、自身の格好は朝から同じスーツ姿。ゴスロリ兄ちゃん、これで服は関係なくなったと感じてくれ。流石に、見ていられないんだ・・・。イカツイ兄ちゃんも、筋肉兄ちゃんもゴスロリ着るの・・・。さて、千代田にメール送っておこう。


『コレヨリ、犯罪抑止作戦敢行ス。貴殿ハ自宅ニテ待機セヨ。特別特定害獣対策本部 本部長クロエ。返信不要』


 これでよし、スマホの電源は終了まで切っておく。キセルでプカリ。顔の知らない誰かさんは、どんどん刑が重くなった様にも感じるが、まぁ、命はあるのだ、安い安い。


「そろそろでっせ。」


「分かりました。では、やりましょう。爆破後は車を安全に停めた後、アドリブで敵対。手加減は不要です。」


「了解しやした!」


 報道がどれくらいいるかは分からないし、これで全てが抑止出来るとも思わない。しかし、行動を起こせばそれに伴って動き出すモノもある。なら、これは、試金石だろう。ドカンッ!と音がなり車の屋根が飛ぶ。屋根は消し炭、車は安全駐車。怪我人無し、被害なし。


「テメェ!やりやがったな!囲め!殺せ!」


「もったいねー、なぁー。仕方ねぇーけどよ!」


「まて、ありゃファーストか!?」


 辺りは・・・、よし!ヘリが飛んでいる。なら、撮影されてるな。名も知らぬ彼等に目配せして、俺の名も呼ばせた。後は適当にボコボコにして、おしまい。


「君達、悪いがゲート内の武器の密売容疑で拘束させてもらう。」


「はっ、やられっかよ!」


 殴り掛かってきた彼は格闘家。って、流石は現役動きがいいな。ステップからのジャブとフック。ボクシングスタイルか、赤峰は空手だし他のスタイルを見ると可能性を感じる。


「濡れて取られて、転んで埋まる、あらあら、足はどこかしら?」


 地面を泥濘に変えて、文字通り足を奪う。ボクシングはフットワーク。なら、泥の上では動きも悪く、小柄な体を活かして懐に入って顎を打つ。


「まず1人。君、流石にそれは危ない。」


 信頼か全力への答えか、1人がおもちゃのリボルバーを取り出した。ガンナーか、おもちゃは微笑ましいが、威力は可愛くない。なんたってモンスター殺せるんだぜ、それ。


「うるせぇ!殺んなきゃ、殺られるんだよ!」


 流石に引き金を引かせるわけには行かない。仕方ない、彼は腕をもらおう。なに、嵌めればすぐにもとに戻る。


「へ?」


「勘違いしてないかい?魔法に詠唱は必要ないよ。ああ、したい人はしていいよ?いいイメージ補助になるかもしれない。」


 キセルでプカリ。イメージは圧縮空気、肘を真横から撃つイメージで肘を外す。力の抜けた手から銃が落ち、これで無力化完了。さて、最後の彼はどの道を選ぶかな?降参でも構わないのだが。


「2人目。君はどうする?降参ならしていいよ?」


 とりあえず、睨んでみる。怖さはないけど、威嚇くらいになるといいなぁ。そんな思いが通じたのか、最後の1人は手を上げて降参した。うむ、多少は威厳があったのかも知れない。遠くからパトカーの音と、詰め寄せる報道陣。さすが東京、フットワークが軽い。そして、遠くに見える七三分けでサマーベストを着た千代田。いや、今は増田か。


「ファースト氏、今回の事件はどういった経緯でしょうか?」


「街中での戦闘行動に見えましたが、彼等は?」


 報道陣から様々な質問が飛んでくる。まぁ、人前にあまり出なかったし、人間相手に俺が動いたというのもまた、新しい行動にみえる。見えるのだが、首輪をつけたのだ最後まで付き合ってもらうぞ。


「お静かに。今回の行動は特別特定害獣対策本部 本部長 クロエ=ファーストとして、ゲート内武器の海外密売の嫌疑があり、車両の追跡及び犯罪者の確保を行いました。特別特定害獣対策本部についてはまだ、構想段階ですがこれから国の組織として、スィーパーを管理運営する事になります。では、私はこれで。」


「ファースト氏、一言!一言下さい!」


 一言か、有るとすればこれかな。呼び止められたので、キセルを吸い、煙を吐いた後に口を開く。


「私は犯罪者を許す気はありません。特にスィーパーによる犯罪には、行動を以って対応していきます。」


 言葉を残し空を飛ぶ。さて、これだけやれば多少はイメージが変わるはず!適当に飛んで見えた千代田の後を追う。ふむ、あそこが家か。家の中に入ったのを確認し、玄関の前に降り立つ。さて、千代田はどんな反応をするやら。


ピーンポーン


「はーい」


 インターホンカメラの前で待つ。服装に乱れは無い髪にみだれもない、スカートの裾は乱れていない。


「えっと、ファーストさんですよね?何か・・・。」


「夜分遅くにすいません。増田 リュウイチさんは在宅ですか?先日私の荷物を配達していただく手筈だったのですが、どうも車に置き忘れが有ったようで回収に伺いました。」


 出てきたのは、気の強そうな女性。多分、彼女が千代田の妻なのだろう。Tシャツにジーパンとラフな格好をしている。そして、彼女の足元に人形を持った女の子が1人、小1くらいかな?


「ファーストちゃん?」


「はじめまして、私はクロエ=ファースト、よろしくね。貴女のお父さんにはお世話になってるよ。」


 軽く頭を撫でると、気持ちよさそうに眼を細める。昔は遥もよく撫でたな。あやつは行動的だが、寂しがり屋な所がある。逆に那由多は甘えん坊だが、意外と芯は強い。


「わぁ、本物だ!魔法見せて!」


「こら、亜沙美!すいません、うちの子が。」


「いえいえ。ではお嬢さん、何もない手にこんにちは、握って開いて夢つかも、甘い甘い幸せの夢、キャンディーお1つ、はいどうぞ」


 掌に前に売店で買ったアメ玉を出す。流石に夜なので袋いっぱい渡すのは避けた、虫歯になっても嫌な思いしかしないしな。


「わぁ、凄い!本当に魔法だ!アメありがとう。」


「どういたしまして。それで、荷物の方は?」


「あっえっと・・・。すいません、夫を疑って開けてしまいました。本当申し訳が・・・。」


 そう言いながら、ペコペコ頭を下げてくれるが、下着程度そこまで問題でもない。ここは千代田をヨイショしとくか。 


「いえいえ、彼には服の配達等で頼りきりですから。その、ほら。最近まで色々有って外出もおちおち出来ませんでしたから、旦那さんには良くしてもらいました。」


「堅ブツのあの人が・・・。なんだか最近家に居なかったから疑っちゃった、どうしましょう・・・。」


 意外と奥さんはそそっかしくて、思い込みが激しいのかもしれない。彼女の後ろには仏頂面の千代田が立っていた。


「早織、普通に謝ってくれたらいいよ。クロエさん、夜遅くにわざわざ来ていただいてすいません。替えの品は準備しています。夜も遅い、早織彼女を送ってくる。」


「分かったわ、ごめんなさい貴方。秋葉原の時も出掛けて帰らなかったし、愛人でも出来たのかと・・・、本当にごめんなさい。」


「分かった。今回の事はいいから、もっと僕を信じてくれ・・・。クロエさん、行きましょう。」


「ファーストちゃん、バイバイ。」


「バイバイ、亜沙美ちゃん。ちゃんと歯磨いてね。」


 仲のいい家族か・・・、妻には会ったが子供達には、会っていない。遥は家を出たにしろ、隣の県と言う近さがあった。・・・、どこかで一度、自宅に帰るかな。久々に温泉とか入りたいし、地元でのんびりするのもいい。車に乗り込み、窓を開けてキセルでプカリ。


「さて、今回は何事ですか?私は家に招待し、迎えも自衛病院へ送ったのですが?」


「さぁ、チヨダが暴走させられたとしか。」


 それを聞いた千代田の顔が青褪める。まぁ、良い関係ではあるが、お互い踏み込まないビジネスライク。或いは、自分の組織が暴走した事に対する信頼の喪失。


「クロエ、私は・・・。」


「いや、千代田さんその先はいらない。私と貴方の関係は、今が一番いい距離だ。下手に近寄るとお互い出来る事も出来なくなる。大人なんです、嘘=不誠実ではないでしょう?」


 言葉を聞いた千代田が暫し黙り込み、逡巡したあと口を開く。その声は何時も会議で聞くものと変わらない。


「分かりました。しかし、今回指示したものは早々に処分しないといけませんね。状況は?」


「ハイエースドナドナからの作戦乗っ取りですね。今回の首謀者は辞職するでしょう。なに、対策本部の宣伝も私がエキセントリックでない事も、犯罪者に対して断固とした態度を取る事も伝えられた。スタートはあれでしたが、結果は上々です。」


 キセルでプカリ。今回の事はどうにかいい方向に持っていけたから良かったものの、拉致など二度とゴメンだ。それが俺だけならまだしも、妻や家族が対象になったら間違いなく、それ相応の何かを受けてもらわないといけない。


 なら、犯罪者への厳しい対応は一定の効果が出るだろう。あくまで抑止だが、するとしないではやはり歯止めが違う。


「今回はとりあえず、ありがとうございました。私も色々とやることができた。」


「いえいえ、久々に家族というものが見れてよかったですよ。」


 そうですか。千代田がそう言葉を発する頃には既にホテルは目の前、今度こそ下着を受け取って部屋に入る。妻はゴロゴロしながらテレビを見ているが、やめろ。テレビに出ている俺は、見ないでほしい・・・。


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[一言] 国も含めて全員コミュニケーション不足・・・圧倒的なコミュニケーション不足・・・
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