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街中ダンジョン  作者: フィノ
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閑話 59  ゲートに籠もる前の話

 ゲートに籠もる。そう宣言すると兵士達がどよめいた。米国に帰ってからというもの日々訓練に忙殺されているが充実はしている。そう、日々兵士達に出来る事が増えると言うのは事の他嬉しいものだ。見直されたメニューは思った以上に効果的で魔術師達も上手く魔法を出せている。ただ、日本で見た彼等に及ばないと言うのは仕方ない。だが火の玉や水球が飛んでちゃんとモンスターを倒すないしダメージを与えているので良しとしよう。ただ、元々兵士なので銃と魔法のハイブリッド型が定着しつつある。本来なら銃より魔法をメインにして欲しいが、今後の課題と言ったところか。


 実際彼等も配信の映像を見てイメージを固め、その上でその魔法の使い方なのだからあまり兎や角言うとイメージが崩れて振り出しに戻る。それをするぐらいなら今のイメージを下地に発展させる方向性がいいだろう。私に瞬間発火の手解きが出来るのか?それが問題だがそもそも私のトラップも虚空から出るのでどうにかなると思いたい。


 クロエに連絡を取って話すのは簡単だが、先ずは自分でトライして問題点を明確にしなければただの世間話で終わってしまうかもしれない。いや、その世間話でも割と何らかのヒントがあるので話すに越した事はないのだが、帰って早々に泣き付くのもおかしな話だ。


 ゲート籠もり宣言をして行く兵士達に準備を任せ、私はアライルに呼ばれてペンタゴンに来ている。クロエの可愛らしくないイタズラにより全ての扉には物理的なキーがつき前時代的だが魔術師の嫌がる仕掛けが施されているので、万全とは言わないだろうが時間稼ぎは出来るだろう。実際私も検証に付き合わされて何度忍び込んだか・・・。駄賃として光学迷彩の様なモノも使えるようになった。完全に対人スキルの様なモノだがクロエの姿隠しの魔法まで精度が上げられれば更に使い勝手も良くなるだろう。


「今到着したが・・・、それ?そいつ?はなんだ?到頭MARVELヒーローを登用しだしたのか?」


  挿絵(By みてみん)


 ノックをして部屋に入るとアライルとウィルソンという知った顔ぶれとともに全身鎧を着たモノ。多分人だろうが誰かは分からない。見た感じ日本で大統領が買い漁った鎧を改造して赤と青のアメリカンカラーにした物の様に見える。この鎧の使い勝手は悪くないのだが、フルフェイスなのでイマイチ視界が悪い。まぁ、それ以外のボディ部分はインナーと同等にビームや触手にも一定の防御力を示すので重宝する。


 スタンピードに参加せずインナーが貰えなかった者はこの鎧を着けるのが主流となり、マイナーチェンジと日本企業との提携でかなりの数を揃えている。そんな鎧をゲートでもないのに装着してソファーに座るコイツは誰だ?


「来たかエマ、兵士達の尻は蹴り飽きるほど蹴ってるか?教導の成果に大統領もお喜びだ。」


「やぁ大佐。忙しい中来てくれて嬉しいよ。今回呼んだのはゲートに籠もって訓練すると言う話についてだ。好きな所に座ってくれ。」


 促されるままに鎧の人物の対面のソファーに座るが、男か女かも分からない奴は喋らない。何となくコチラを伺っているような雰囲気があるが・・・、ファンなのだろうか?自惚れる訳では無いが帰国してファンやパパラッチに追われる事が多くなって、人の視線と言うモノに敏感になっている。どうしても仕方ない時はクロエの残り少なくなった魔法を使っているが、そろそろ光学迷彩の方を更にイメージを発展させて使いやすくするか・・・。


 アパートそのモノはアライル達の指定した所を使っているので早々侵入される事はないが、それでも場所がバレているので家の前に張り込むジャーナリストは多い。有名税と言われたが日本政府はクロエにかなり気を使っていたのだろう。たまに記者に捕まる事はあったが取り囲まれる事は少なかった。


「お前も鍛えてやろうかウィルソン?尻は蹴らないが噛み千切られる事があるかもな。」


「映像で見た。ベアトラップ使って追い掛け回すのは良い訓練の様だな。兵士が死物狂いで逃げてたぞ?」


「あれで噛まれても数十針縫合するくらいだ。それに、治癒師の練習台も必要だろう?私はまだ優しい方で、日本メンバーはゲートの中でモンスターと常に追いかけっこさせられて、最終的にモンスターを追いかける側になっていたぞ?」


「モンスターは逃げるのかい?」


「いや?相手は一歩も引かないから常に真正面からの激突だな。別にこちらが逃げてもいいが、逃げた先にもモンスターがいるから結局叩き潰した方が早い。それで?そこのアメリカンヒーローは何だ?」


 座ったまま一言も話さない人物は顔も見えないので何を考えているか分からない。ウィルソンとアライルがアイコンタクト取ったが、この人物はそれほど重要なんだろうか?籠もると宣言した手前私自身も準備はしたい。先ずは食料。セーフスペース以外の場所にも不気味な草は生えているが、食べられない事もないが進んで食べたいものではない。指輪に入れておけば保存も効くのでせめて食べる物くらいは豪華にしたいし、馬も食べる食べないは別として何頭か潰して指輪に放り込みたい。


 小田達の治療のせいか米軍の治癒師達は一定数馬の肉を指輪に入れるようになった。自分の仲間達が眼の前で治療されていれば嫌でもイメージは湧いてくるだろう。ただ、夏目方向に走れる肉壁がまだいないのが痛い。彼女とまでは言わないが、怪我した後の輸血には増血剤と回復薬を使用するしかなく、小さな欠損には肉を切り分けて対処するしかないので、治療速度そのモノは早くない。まぁ、前よりも死にづらくはなっているのだが・・・。


「コレはジェーン若しくはジョンドゥ。ドゥとでも呼んでくれ。」


「いつからペンタゴンは名無しの仮装パーティーを許すようになった?ハロウィンにしてもイースターにしてもまだ先だろう。ただでさえ情報の取り扱いには厳しくなってるのに顔も見れないのか?」


「大佐、見れないんじゃない。正確には見せないだよ。本名は先程の通り差し控えるけど・・・、彼は我が国の2号だ。」


「2号・・・、中位の鑑定師か!?」


 経験と情報それが揃えば答えは出る。わざわざ顔を隠してここにいて2号と言われればそれしかない。我が国としても次は鑑定師の中位を狙いたいとしていたが、私が教導する者の中に鑑定師はいなかった。そうなると軍人ではなく一般人の可能性がある。鑑定師は戦えるのか?その解答は橘だが彼の身体能力はスィーパーとしては高くない。どちらかと言えば技巧派な立ち回りで手数や装備でモンスターを倒す。まぁ、そもそも鑑定したモノを使いこなせるなら1つに括らず臨機応変に使えと言う事だろう。


 強い装備があればどんどん強くなる反面、装備品や武器がないと弱くもなる。まぁ、ゲートに入って箱を探せば武器は調達出来るのでスタンピードと違って誰かに貰ったりする必要はない。ただ、鎧を着けていると言う事は橘と同じアイアンマン路線で行くのだろか?鑑定されたくないなら目と手を隠せばいいだけなのだが・・・。


「正解だ。頭の回転が早いじゃないか。」


「中層に行ったからな。なんか最適化されるらしいぞ?何がかは分からないから日本に問い合わせろ。それで、連れて行って鍛えればいいのか?それとも別メニューか?連れて行く事自体は問題ないが。」


「話が早くて助かるよ。同行という形で訓練参加させてもらいたい。経歴等は伏せるが戦える。最適化の件は日本側も調査中として明確な解答は控えているよ。」


「ふむ・・・、最適化の件はそちらに任せる。と、ドゥ、アナタの職はなんですか?」


「セカンドジョブとして肉壁を選んだ。おかげで危険人物扱いされてこのざまさ。両方先人がいる分警戒度が高いんだと。」


 答えると思っていなかった鎧の・・・、ドゥが答えた。声は電子音声なのか機械的だが話した感じ口振りからして男性だろう。体格的にも男性の様に見えるがあの鎧自体アシスト機能しかないので、女性が着けても体格がよく見える。まぁ、戦えて意思疎通が出来るなら連れて行くのも吝かではない。ただ、到達階層が問題で鑑定師ならゲート外で鑑定し続けていた可能性もある。階層次第では一旦計画を練り直して先にドゥとある程度潜る必要があるかもしれない。


 橘と言う存在を見た後でその手心が必要かは疑問だが、新たな中位で鑑定術師なら死なれると困る。寧ろ、連れて行く私の責任がただ漠然と増えたのでは?いや、連れて行けと言うからにはなにか保険があるのだろう。なければ研究方面で引っ張られるだろうし。


「それはまた災難だな。で、ビビリの鑑定術師は何時までその鎧を脱がないんだ?別に顔は見なくていいが暑いだろう?まさか暗殺を恐れて着ている訳でもないのだろうし。」


「ビビリじゃないがここは気持ち悪い。時々奇妙な色が漂っておっかないんだ。最初は・・・、ここに呼ばれて来た当初は英雄に会えると喜んでたんだが、あの色は見たくもなければ理解できない分警戒させてもらいたい。」


 奇妙な色?アライルとウィルソンを見るが2人共首を降る。ただ、なんとなくその色と言うモノには心当たりがある。やれやれ、我が師は遊び心で人を惑わすのがお好きらしい。元々謎多き人物で詳細をゲート内で聞き口外するつもりはないが、口外したとしても元男性等は早々信じてもらえないだろう。一応、大会中に姿が変わった藤と言う者もいるがこっそりと知らない所で変化されてはどうしょうもない。


「アライル、クロエのイタズラは継続中だ。」


「イタズラが継続中?まさかなにか置き土産をされたと?PCを全て取り替えるのにかなりの額を使ったけど?」


「局長、多分何かしらの条件で発動する魔法でしょう。ポスターや写真集も継続して魔法が発動しているようですし・・・、おい鑑定術師、その色って言うのは何時漂う?」


「メット取っていいか?そしたら分かる。今も目をつぶっているし色だってここに来る前に外で見ただけなんだ。」


「いいよドゥ君。遅かれ早かれ素顔は晒してもらう予定だからね。君の事を公表して公にするつもりはないけど、外出時はサングラス必須で能力を切り忘れない様に頼むよ。」


 アライルの言葉でドゥは鎧を指輪に収納する。黒人で私よりも身長は高い。ガッシリしたと言うよりは靭やかと表現する方がいい様な体型でスキンヘッドが男らしさを醸し出している。兵士ではなくどちらかと言えば健康目的でジムに通っていたとかだろうか?若干左右の目の高さが違うので印象には残りやすい。


「そんじゃま、視て感じて・・・、うぐっ!」


 手袋も外し周囲を見ながら床に手をつく。途端に口を抑えたが多分魔法を視たのだろう。橘と話した時に魔法の鑑定は気持ちが悪いと言っていた。意識を集中してそれを視ると何だか気持ち悪い色をした何かが視えるそうだ。吐き気はもよおすが攻撃でもされない限りそれだけらしいので意識せずに全体を感覚で捉えるといいらしい。


「意識を集中しすぎるなよ?魔法の鑑定は気持ち悪いと橘が言っていた。」


「早く教えて欲しかったよ英雄さん。ばぁさんのケツの穴よりひでぇ色を見た。そこかしこに漂ってるが・・・、多分ドアだ。自動ドアが開くと色が浮かぶ様に思う。」


「よく分かるもんだなドゥ。アレか?ペンタゴンの構造を鑑定したのか?」


「構造と言うかペンタゴンと言うモノを鑑定したと言う方が正しいかな?人の配置とかは分からんけど、何から色が出てるかは分かる。ドアが開くと色が建物を走り回ってるんで間違いないだろう・・・、コレはファーストの?」


「前に好きにさせた時の置き土産だろう。降参したからと言って手を緩める必要はないし、ハッキングしてそれが見つからないならやめる必要もない。まぁ、文句くらいなら笑って受け流すだろうが、口が回るからこちらに問題定義してくるぞ?」


 アライルとウィルソンがゲンナリしているが、好きにしていいなら彼女は好きにするだろう。今は物理的なキーも付いたので簡単には盗み出せないだろうがPCで文書を作るならネットに繋がっていないものか、電源ケーブルからの侵入を恐れるならタイプライターを持ち出した方がいい。コレでまた情報戦がややこしくなる。


 情報垂れ流しの日本にハッキングをかけたとしても全ての情報が誤りで、真実は手書き文章とされたら現地まで探しに行かないといけなくなる。しかし、大統領が核廃絶宣言をし軍もそれを承諾したのは英断だったな。まぁ、モンスターに核が効果がないと判定されたので、人同士の戦争以外では無用の長物だ。作る技術は残しつつ現物はゲートに投げ込むか指輪に収納して肥やしにする。実際このハッキングを見るに、現物があれば本当にどこからともなく核が発射される可能性がある。


「一応抗議と言う名の文句は言っておこう。そうでもしないとやめてくれなさそうだしね。大佐、この技術誰なら出来る思う?」


「ハッキングに長けたギークが魔術師:雷にでも就けば可能だろう。なんにせよ早めに気づいてよかった。この警告がなければウチの国は知らない間に丸裸になっていた。彼女も鬼じゃないから多分他の国にはしていないだろうさ。」


「そこまでされたらうちの管轄外だ!大統領がファーストの味方になると話したが、守るものも守れなくなる!やれやれ、可愛いお人形で座っていてくれれば嬉しいんだがな。」


「やめろウィルソン。お前の人形遊びなんて見たくない。噂では市井ちゃんフィギュアを買ったと聞いたが?」


「資産運用だ。後から売れば高値がつく。それでドゥではこの魔法はどうしょうもないんだろう?出来るなら対処してほしいが・・・。」


「無理だなウィルソンさん、相手が悪すぎる。流石に魔法には精通していないし鑑定したとしても使いこなしを拒否と言うか毎回違う形になる事で逃れられている。」


「物品ではないからな魔法は。人に渡す時の様に形としてあればまだ可能なのだろうが、形ないシグナルを使いこなすというのも酷な話だ。しかしドゥ。お前は何を鑑定して至った?」


 疑問はそこだ。橘はヤバいものを鑑定してぶっ倒れた後に至ったらしいが、ついぞ何を鑑定したかは明かさなかった。日本からの警告としてゲートを鑑定するなとあった事から多分、橘はゲートを鑑定したと推測はできる。ただ、それを元に鍛えるにしてもS職を失うリスクと言うのは避けて通りたい。


 私自身が言うのも何だがS職の価値と言うのは出づらさもそうだが、至った後に第2職を得ると更に凶悪になる。イメージという前提は確かにあり得手不得手もあるが、それをカバー出来る様に構成できたなら殲滅力は格段と上がる。まぁ、それでも手の付けられない職と言うのもありはするし、どれだけ鍛えたかでも変わってくるが・・・。


「大佐。米国でのスタンピードの折、私はファーストと交渉しスタンピード本来の姿・・・、溢れると言う言葉を引き出した。そして、事実その言葉に偽りはなかった。」


「偽りはなかった?確かにモンスターは溢れかえってきたがそれと何の関係が?」


「箱だよ箱。下層の化け物が出てくる様に下の箱も一緒にゲートから排出されたんだよ。スタンピード終了直後、ウィルソン君に調査と回収をお願いして回収出来たものは10箱。それ以外はウィルソン君とは別に砂漠を走り回った橘に回収されたのだろうが、これについては我が国としては事を荒立てるつもりはない。仮に設計図があったとしても、今の所我が国では有効活用出来ないから日本預かりで物品を生産出来るなら、その生産品を買うと言う方向で動いている。」


「そんでその中の物を鑑定したのが俺だ。指名されて光栄だったし至れたが2度目はしたくない。」


「残念だなドゥ。次もお前だ。一度関わったら最後まで関わらにゃならん。その為に優遇やら何やらを国としてやってるんだ。裏切れば殺されるどころじゃすまんぞ?」


「へいへい、それで俺はドゥになったんだしな。あぁ、先に言っとくが俺の本来の姿はこれじゃない。別の・・・。」


「説明はいい、夏目を近くで見た。この一言で分かるだろう?お前の精度がどれくらいかは知らないが・・・、体型と人相後は髪だけか?後、目の高さが違う。」 


「ご明察。小さくなるのは難しい分、大きくなるのは簡単だ。飯をたらふく食って蓄えればいい。髪も剃る手間はあるが生やす方は楽でそもそも人は成長する。人相は鏡見ながらこねくり回して再配置だ・・・、後で目の高さは直そう。そう言えば、猫耳は難しいがエルフ耳なら出来るぞ?」


 そう言いながらドゥが両耳を引っ張ると横に水平に伸びた。物語に出るダークエルフは巨乳で扇情的な格好が多いが、コイツは男で筋肉がある分残念感が否めない。どうせなら巨乳で骸骨と旅したり、面倒くさい治癒師の方が私としては・・・。


「性別を変えてやってくれ。そうしたら私も兵士達の士気も上がる。教材と言う名の漫画とアニメと小説のおかげで今の兵士達はみんなギークだ。」


「ん?英雄さんもなにか見るんで?」


「缶詰にされて嫌と言うほど見たよ。それでそのヤバい物とはなんだ?話せないならドゥの戦闘スタイルなんかも見たいし籠もる準備もあるから帰るが。」


 そう言うとアライルが指輪からアンプル瓶を取り出す・・・。黒い中身に時折光るなにか。忘れる訳もない。初期の配信マラソンで何度コレを目にしたか。鑑定した者は現在橘のみ。他の国で出たならそれまでだが情報もないので分からない。ただ、それが入った瓶はこう呼ばれていた。


「欠片からでも特定時間内なら回復する薬か。実質蘇生薬だろう、間違いないか?」


「間違いないと思うよ?ドゥ君の鑑定を信じるなら蘇生薬で合ってる。この他にもヤバい物が多くてね。遠隔イマジネーション操作装置とか不死薬に、固有振動分解装置の設計図とか・・・。大佐?耳を塞がないでくれるかい?」


  挿絵(By みてみん)


「嫌だ!クロエも言ってた!設計図はヤバいから変に語りだしたら耳を塞げと!コレは聞こえている訳では無い!読唇術だ!」


「エマ・・・、日本に行って教育を受けてまともになったと思ったがポンコツのままだな。こちらの世界へようこそ、読唇術と言う事は聞こえなくとも何を話したかは分かるんだろう?」


 邪悪なウィルソンが疲れた顔で目だけを輝かせて口を開く。他の面子もにこやかな顔だが私を引きずり込もうとしている!聞かなければよかった!橘が至る前に時にヤバい物を鑑定したと知っていたのに見通しが甘かった!せめて読唇術と言い切らなければ逃げ遂せたのに!


「どの道エマ大佐には出たモノの管理を任せるつもりたから逃げられないよ?」


「拒否する!私もゲート内で教導する身、死亡して喪失するリスクがあるので管理は出来ない!」


「ハハッ、愉快なお嬢さんだ。大丈夫、大丈夫英雄殿。蘇生薬は2つ出た。これの意味は分かるだろう?1つは俺でもう1つは君。どちらかが生き残れば問題ないし籠もる階層的にもエマさんなら軽い所と聞いてる。まさか到達階層の半分にも満たない所で落とされないだろ?」


 ここぞとばかりにドゥが軽口を叩いて煽ってくる。冷静に、冷静になれ私。ここで噛みついては思うツボだ。発見で退路を探せ。逃げる口実はあるはずだ。私が管理しなければならない理由はない。それこそアライルが今の今まで指輪に収納していたのだからこの老人に持たせておけばいい。ウィルソンでもいいが、コイツも使いっ走りで割と動き回るので押し付けるならウィルソンではなくアライルだろう。大丈夫、私はやれる。


「アライルが持てばいい。今まで情報は漏れていないのだろう?」


「多分漏れてないよ?ただ、君はドゥをゲートに連れて行く事を承諾したね?なら、我々に出来るのは安全に行動できるよう保険(・・)をかける事。1日で帰って来るピクニックじゃないなら最上級の保険がいるだろう?」


「諦めろエマ、大統領からの命令書も来ている。なに、悪い話じゃないさ。」


 いや、悪い話だろう?危ない装置や設計図を持ってゲートを旅しろと言うのだ。保身に走る訳では無いが私としても兵士達を守る義務がある。遅れを取るつもりはないがいざとなれば最前線で戦わなければならない。その時にどの程度戦えるか分からないドゥを気にしながらと言うのは正直面倒この上ない。


 そう思いつつウィルソンが持つ命令書を見る。大統領署名入の命令書には出土品の品名と私に預ける指示。保管期間は中位の複数誕生までとしてあり、以後は秘密裏に他の人物に保管させるとある。任務達成後の報酬は金銭及び権利。その権利とは日本での臨時米国大使か若しくは日本米軍基地専属教導官とある。つまり、中位が複数誕生すれば合法的に日本に行けると言う事だろう。大きな釣り針で餌も大きい。


 どちらの道を選んでも多分身分が違うだけで私の扱いは変わらない。言ってしまえば米国と日本の蜜月のシンボルとしたいのだろう。大使拒絶発言以降、日本に大使館はあってもその中身がまともに機能しているかは別で、職員はいても迂闊な発言を恐れてか臨時の大使を缶詰にして政府関係者と話す事が主だと聞く。


 米国は真の意味で賭けに勝ったのだろう。仮に米国スタンピードで日本の援護なく、私も至らない状態で国連軍を頼りつつ日本に後方支援を頼むに・・・、いや、下手をすれば自国のみで処理出来ると勇んで戦ったならこの国は地図から消えていたかもしれない。どこで何がどう反応し合うかはその時まで分からないものだ。


 蹴ってしまえるなら蹴ってしまいたいが、保管の件は請け負う他ないだろう。大統領命令もあるし何より中位をただ誕生させるだけよりも目標があった方がいい。ただ、曖昧で不明な点があるな。


「命令は分かった。それで複数とは具体的に何人だ?ポンポン至れる訳でもない。腰を据えてやるとすれば年単位の可能性もある。それに、私がどちらの立場でも日本に行ける確証はあるのか?」


「人数は少なくとも10人は見て欲しい。戻るのは大丈夫だよ。あちらとしても孤立は避けたいと言っていたからね。ある程度情報や内情を知っている人間が赴くなら喜ばしいと言っていたよ。」


「分かった、なら任務を引き受けよう。それにしても兵士外から中位が誕生したか・・・、他国はまだなのだろう?少なくとも私の耳には入っていない。」


 そう聞くとウィルソンか口を開いた。嫌な予感がするがどこかの国で誕生したのだろうか?出来れば仲の良い国であって欲しいが、そうでないなら静観するしか無いな。今の世界、他国にちょっかいをかけるリスクは計り知れない。


「秘密裏に通達されたものとして中国で誕生したらしい。公にはするのはあの国の自由だが職や人数も不明。ゲート内でかち合う様な事はないと思うが一応念の為に伝えておく。」


「了解した。稀に出会う場所で稀に出会って殺し合いなぞしたくない。こちらから探さなければ出会う確率も低いだろう。では、ドゥ行くとしよう。籠もる準備もあるしお前の戦闘も見たい。」


「OKボス。で、一緒に買い物か?」


「飯は恵んでやらん。自前で好きな物を調達しろ。」


 ドゥを連れて部屋を後にする。ヘルメットに私服というチグハグな格好だがこれから先、こういった人物も増えてくるのだろう。


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[一言] ドゥ君は鑑定師に肉壁とか超重要人物じゃないか 便利に使い倒されまくるという意味で あと重要視されそうなのは諜報向きな職かな
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