229話 職質って何回も受けるよね? 挿絵あり
飲み会して頼むものは頼んだし、引き継ぎと言う引き継ぎもあらかた終わり後数日で帰るばかり。まぁ、一旦帰ってギルドの中を最終チェックしてもう一度東京に帰らないといけないのだが・・・。ただ、今回は地元に帰省するのに千代田がついて来ている。ネゴシエーターと言いつつ何でも屋に仕立て上げられている彼だが、今回ついてくる目的は現地視察だそうだ。図面でギルドの中身は知っているが、実際に目で見て不具合箇所を洗い出し本稼働が可能かの判定を2人で行う。
まぁ、まだゲートを収納していないので、この最終チェックで不具合が判明すれば収納を見送る手はず。俺も図面や建設中に内見はしたが、完成してからは初めてなので新築を内見する様で楽しみだ。そんな事を思う横で千代田はノートPCとにらめっこしている。チラリと覗いたが内容は他国で誕生した中位に付いて。
エマは同盟国で且つ、日本で至った為能力的な検証や考察がかなり出来たのでそこまで注意はしなくていい。しかし、未知の中位となると話は変わる。中国で誕生した中位は一切の接点がなく誕生したという報告のみでウチの様に配信やテレビで何が出来ると公表はしていない。なので国防的な面から見ると未知の脅威が生まれたと取れる。水際対策にしてもかなりピリッいており、観光目的の来日者に対してもかなり厳しいチェックが実施されている。
必要措置だとは思うが密入国されたら最後、潜伏されたら発見は至難の業だろう。だって、職を使おうにも相手が誰か分からなければイメージの作りようがない。仮に作るなら敵意や悪意を探る事になるのだろうが、事を起こす前にそんなモノを振りまいていたら、一般人でも怪しいと思うだろう。それに、潜入するならそういった事に慣れた人を徴用するのは当然の事で見つけるのは更に至難の業となる。
まぁ、仮に尻尾掴んで見つけたとしても事を起こす前なら監視程度しか対処できない。密入国なら拘束でも送還でも出来るだろうが、正面からチェックをすり抜けて観光目的で潜入されたなら、その人はただの客人なので対処する法も根拠もない。一時期スパイ防止法が叫ばれたが結局制定されなかったので仕方ないだろう。未だにこの議論は続いているが、何でこの時期になっても慎重に検討するとして制定させないのかは謎である。
考えられるのは、それだけ情報漏洩対策に自信を持っているのか売国奴が多数潜んでいるのか、或いは今の情報垂れ流し状態が既に防衛対策として機能しているかだろう。実際、掴んだ情報の精査というのは多大な労力を使う。文書やデータでさえ真実か確かめなければ足元を掬われる時代。木を隠すなら森の中理論で隠し通している可能性もある。
俺や松田達が話し合った内容も文書として残ってはいるが、似た様な偽の文書も多数あるらしいので、本当にその場で話し合った人間しか分からないと言われればそれまでには。まぁ、そうなると言った言わないの水掛け論が勃発するのだが、真とするモノは何処に保管しているのだろう?松田の指輪の中とか?
「少々尋ねますが、仮に中位がスパイ活動ないし敵対行動を取ったとして、貴女は完全に拘束ないし無力化出来ますか?」
「職によるでしょうね。どれくらい引き出しがあるか分からない箪笥が勝手に開いて中身が飛んでくるんですよ?人が幽霊に勝てるのか?その幽霊をどうしたら枯れ尾花に出来るのか?難しい問いだと思いません?」
「昔なら・・・、単純に足の骨でも折れば逃げ道はかなり防げましたが、今の時代骨折程度では重症扱い出来ませんからね・・・。そう言えば神志那さんに貴女がお願いした検索エンジンが完成したようで法務省を交えて検証するそうです。」
「それは良かった。裁量権があるからと言って万引き犯を50階層に放り込まなくても済む。」
「それは寧ろ連れて行く方が大変でしょう?」
「ものの例えですよ。裁量権があると言う事は極端な話、それをしても咎められない。なら、でっち上げで邪魔なやつをどんどんゲート送りにしてしまってもいいのでしょう?まぁ、それに対する措置としての検索エンジンでもありますならね。」
嫌な奴は皆殺し。数式でもそうなっている。18782×2=37564そうすればさっぱりするが不信感は残る。実際万引き程度・・・、まぁ、程度とは言えないし下手すると損害で店をたたまないといけないので軽くするつもりはないが、5階層まで降りてクリスタルと降りるまでに回収した金貨没収刑が妥当だろう。寧ろ、これが一番軽い刑だし。
ただ、千代田が気にすると言う事はリーさんか他の国にも動きがあった?開通して1年経っていないが、それでも中位に至る者は出てきているので、いないとは考えられない。焦ってそうなのはEU諸国とか?アジア、米国と中国と中位が出た。北欧はまだ聞かない。まぁ、秘密裏に存在しているならそれはそれで構わない。
「ものの例えだとしてもです。寧ろそこへ連れて行ってもらえるなら、喜んで犯罪を犯すスィーパーが出るのではないですか?特に中国で誕生した中位はどの階層まで進んでいるか不明です。51階層がセーフスペースと言うのは公の事実なので、危ない橋を渡っても行く価値はあります。」
「中位は相変わらず中国のみですか?他の国にもいればそちらに目を逸らせるんですけどね。中国で誕生した中位は情報が少なくてほぼ分からずじまいなんでしょう?」
「最終確認はゲートへ入ったと言う情報のみです。政府からの情報開示要請にも出来ないの一点張り。まぁ、軍事力とするなら当然ですし、我が国も貴女の事を個人情報として開示していないので仕方ありません。ただ、国連を通じて改めてスィーパーのスタンピード時の協力体制等を話し合わないかと言う話が来ています。」
スタンピード発生時の協力体制の話が本格化してきたか。まぁ、米国でも発生したし当然といえば当然なのだがどのレベルの話し合いなのだろう?スィーパーを公務員としている国は出兵という形でもいいだろうし、自国で発生するなら最終始末はその国がすればいい。しかし、うちはそうではない。官民一体の元、一般人が公務員よりも強い事もある。現に本部長選出線で選ばれたのは公務員ではなく一般人。そうなってくると、要請に対しての回答はかなり難しい。俺の所に話を持って来たとしても俺も中間組織の長で準公務員くらい。なので当然蹴ろうと思えば蹴れる。
「そもそも話し合ってどうするんですか?ヘルプを出すのは自由ですがそれに対してYesと回答するかは別ですよ?それこそこの先その国に対する好感度がモノを言う様になる。現に米国スタンピードで助けを出そうか?と聞いてきたのは遺憾ながら赤い国の人達だけと聞いています。」
まぁ、国連軍=多国籍軍で自国の兵も含んでいるからそれで!と、言われればそれまでなんだろうし、国の付き合いとして赤い国の軍を米国が受け入れるとも思えない。日本には共産党が政党としてあるが、海外の人にそれを言うとかなりビックリされる。だって明らかに資本主義に反するものだし。それはいいとして、多国籍軍に日本人がいるとは聞かない。だって自衛隊であってあれは軍ではない。国連職員ならいるけど、それはあくまで職員であって戦う兵ではない。
つまり、話し合おうと言われても出兵させる軍人がいない。たとえ自衛隊がジャパニーズアーミーと海外で言われていてもだ。仮に現時点で出せる解答って後方支援するよ〜くらいなのでは?まぁ、掃除さえしてくれれば簡単には発生しない事にはなっているが・・・。逆にゲート内スタンピードは日常の出来事なので考慮しないものとする。
「それは米国政府を通じて正式に聞いています。この国連からの要請には今の所後方支援の一点張りですね。貴女の言う掃除さえしていればと言うのが本当ならこれから先は準備期間と取れるでしょう?」
「出来れば永遠の準備期間であってほしいですね。と、そろそろ降りますよ。テンション上がってきた!」
フライトを終えてそのまま車でギルドへ。千代田が運転してきた車を指輪に収納して持ってきて俺がハンドルを握っているが、顔を引きつらせるのをやめろ。ちゃんと免許も持ってるし運転出来る。例え椅子を思いっきり前に出して座高調整を最大まで下げていたとしてもだ!久々の地元、妻に会えるのでテンションマシマシ!
「ナビもあります・・・、運転を変わりませんか?」
「土地勘のない人にハンドルを握らせるわけにもいきませんよ。シートベルトもしてるしキセルも吸ったので事故くらいでは死にません。」
「死ぬ前提がおかしいと言っているんです!」
「貴方は死なないわ。私が守るもの・・・。」
「不吉な事を言うのはやめていただきたい!貴女が死んだらそれこそ私の責任問題どころでは済まない!パーキングに寄って運転を代わってください!後方からパトカーも来てますよ?」
「笑えばいいと思うよ?毎回職質されてるんです・・・。何でピンポイントで私の運転する車を特定するんでしょうね?運転中は魔法をといて姿も見えるのに。」
「多分頭しか見えないからですよ。」
「知ってますぅ〜、前も同じ事警察から言われましたぁ。でも、諦めたらそこで試合終了だと思いませんか?」
『前の車、車を左に寄せて止まりなさーい。』
「久々の地元でテンションが高いのは結構ですが止まらないと怒られますよ?」
「怖い顔の知らないおじさんに面白半分にやれって言われたと証言する所存です。」
「何で未成年誘拐チックな言い訳をしようとしてるんですか!変に目立とうとしない!さっさと左に寄せなさい!私とて元警察組織の人間ですよ?しつこさは知っています。」
ワイワイと話しながら運転しているが法定速度である。ゲート内ならどれだけ出そうが構わないが、外では法定速度を守るの大事、ゴールド免許じゃなくなるのも保険的によろしくないし、何より人を轢いたら事だ。車を左に寄せて窓を開け頭を下げながら両手を差し出すと警察官が千代田を睨んでいたが・・・。
「久しぶりですね黒江さん。」
「懐かしい声を・・・。あら、伊月さんこんな所で何してるんです?」
「何してるも何も警邏中ですよ。帰る帰る詐欺はおしまいですか?柊婦警とかはもう一度メイクしたいとよくよく愚痴ってますが。」
懐かしい名前だな。初期配信の時にメイクしてくれた婦警さんは元気らしい。しかし、伊月さんは警部で交通課の人間ではなかったような・・・、春休みの巡回警備にしてもわざわざ回るような立場の人でもなかったと思う。ん〜、空港から車走らせてギルドまでもうすぐの所だから、スィーパー絡みのゴタゴタが無いか見て回ってるとか?ゲートも近くにあるし。
「伊月・・・、伊月警部ですか。あの時はお騒がせしました。」
「あぁっと・・・、どう呼べば?」
「千代田か増田で構いません。尤も私は既に警察組織の人間ではないので公には増田としては生活しています。」
「分かった分かった、いらん事には踏み込まんよ。お〜い若いの!この人達はいい。寧ろ変に切符切れば俺達がやられる。そもそも、何も違反はしてないんだ切符の準備はやめろ。」
伊月が若いの警官に指示しているが本当に何もしていないので大丈夫。しかし、何で切符してきたんだろう?路駐でもなんでもないんだが・・・。
「それで、何でこんな所に?伊月さんクラスなら署でデスクワークじゃないんですか?」
「春休み入って学生がスィーパーになろうとこっそり忍び込む事案が何件がでてな。それを抑止する増強配置だ。ゲートを早く格納してくれれば問題も解消されるんだが・・・、そろそろか?」
「ええ、今回は最終チェックに来ました。これが終われば格納するのでもう少し待ってください。因みに何人くらい忍び込みました?」
「確認して10名程度。この前女の子・・・、確か時枝だったかな?メガネの大人しそうな娘だったが就職に有利になるんじゃないかと忍び込んで、父親に連絡入れて一緒に帰ってたかな。」
女の子も就職の為にゲートへ、か。まぁ、企業もスィーパーは欲しいしそれが生産系なら食いっぱぐれはないので、文字通り一発逆転の切り札でもある。早くに職に就きたいと言う事は就職までに鍛えるつもりだろうか?まぁ、個人の考えなので何とも言えないが、早めに扱えるようになれば確かに有利でもあるな。ネット求人でも経験不問16歳〜バイトで入り正社員へ!なんて言う触れ込みも合ったし。
「ぼちぼち取り締まってください。稼働すればライセンス制で免許発行と言う手はずです。」
「ええ、早めに頼みます。ギルド行くなら先導はいりますか?」
「いえいえ、かって知ったるなんとやら。迷わないのでそのまま仕事してください。では!」
「ええ、又何かの機会にでも。」
伊月と別れてギルドへ。海の上に浮かぶ様に見えるギルドへは3車線の橋を渡って進む。先に妻に会いたかったが忍び込み事案の事を考えると先に視察だな。
「駐車場はないので指輪に収納しますね。さて、中を見ましょうか。」




