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街中ダンジョン  作者: フィノ
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25話 二人組

 朝起きてシャワーを浴びる。昨晩の甘い感覚が心に残り気だるさもあるが、日は上り今日は来る。下着を着け、そのままキセルでプカリ。登る紫煙をボーッと眺めるが、そろそろ望田も来るし、妻も匂いがあるのでシャワーに入ってもらおう。


「莉菜起きて、朝だよ。」


「目覚めのキスが必要です。」


 そういった妻の唇に軽くキスをすると、パチリと目を開いて挨拶を交わしシャワーへ向かう。さて、今日は可能なら宮藤達に会いたい。どの兵士もボロボロだったが、宮藤は片腕を無くしていた。


 千代田からは重症とも聞いているし、経過も気になるな。他の知り合いは無事らしいが、秋葉原のゴタゴタで多分兵藤には会えないだろうし、橘は警視という立場上警察関連で引き回されているだろうし、会えるとすれば赤峰達くらいかもしれない。


 キセルを吸っていると、犬が近寄ってきた。昨晩、人の腕をムシャムシャしたコイツだが、命令には忠実だし言う事も素直に聞く。出生はともかくとして、そろそろ名前を考えるか。戦場でもモグモグ、昨日も腕をモグモグ・・・。ふわふわの毛を撫でながら、顔を見ると犬と目があった。つぶらな瞳は何かを期待にしている様だが、流石に腕はやらんぞ!


「ん〜、決めた!お前はバイトだ。いいか、バイトだ覚えろよ?」


「x56s6u5・・・、ワン!」


 聞きたくもない声が聞こえたが、納得はしたようだ。とりあえず、耳の後ろをグリグリ撫でる。やめろ、気持ちいいからと立ち上がるな。俺とお前は同じくらいの身長だ、四つん這いでいろ。


「上がったわよ〜、なんだかその子嬉しそうね?」


 服を着た莉菜が髪を拭きながら、バイトを見る。四つん這いのままだが、あまり反応はない。尻尾も垂れてるし、俺以外の人への認識が薄いのだろうか?触れば反応するが、声にはあまり反応を示さない。


「ああ、名前が決まったからかな?バイトだ。」


「へー、わん太とか犬吉とかにすると思ってた。おいで〜バイト〜。」


 人のネーミングセンスをなんだと思ってる、両方候補にあったに決まってるじゃないか。僅差でバイトだが、第2候補は犬次郎だ。その場合、長男坊はにゃん太である。


「ほら、バイト。莉菜にも服従だぞ。」


「・・・、わん。」


 話の分かる犬である。バイトは妻の所に行くと、座って頭を差し出す。何を考えているか分からないが、犬なので忠誠心は高いと思いたい。


「そう言えば、今日の予定は?無いなら服買いに行こ?」


「いや、今日は宮藤さんの所に行こうかと思ってる。重症だったし、変に気負ってないといいんだけど・・・。莉菜はカオリと買い物してくるといいよ。何かあればスマホで連絡取れるし。」


「そう?ん~、そうね、子供達の事もあるし1回向こうにも帰らなきゃだし・・・、分かったわ。明日か明後日には一旦帰るから、それまでは楽しむとしましょう。司が私のだってちゃんと瑕付けたしね・・・。」


 ハニカミながら軽く頬にキスをしてくる。やはり妻には敵わない。まぁ、昔からこうなので今更か。煙を吸ってプカリ、プカリ、プカプカリ。


「ああ、そう言えば服を選んでくれないか?男で見舞いならスーツでいいんだが、女性は何を着ればいいのか分からない。学生なら学ラ・・・、この姿ならセーラー服?」


「多分トランクに入ってるけど、着る?」


「別のでお願い。」


 そして、出てきたのは黒のフォーマルスーツ。下はタイトスカートである。上着を着ないとバーテンかカジノのディーラーに見える。まぁ、スーツはスーツか。前の仕事では制服があったので冠婚葬祭くらいしかスーツは着なかったが、これからは着る機会も増えるだろう。


「おはようございます、スーツ似合いますね。」


「ありがとうございます、余り着慣れませんけどね。今日は見舞いに行こうかと思います。宮藤さんや他の負傷者の方はどこの病院ですか?」


 話をしながら望田が資料をくれた。軽く目を通すと、中身は新しい法律や秋葉原での今わかっている概要、そして死者数。内円に六千人動員し、外円にいた有志の総数約五百そのうち分かっているだけで、内円死亡者4856名、外円負傷者268名。有志は別として、内円の兵士は大なり小なり皆傷を負っている。


「皆さん一緒で自衛病院です。橘さんがいたあそこですね。莉菜さんもご一緒に?」


「いえ、今日は私1人でいきますよ。どの道この身体で生きていくんです、少しずつでも外に出ないと、本当に引き籠もりになってしまう。」


 お見舞いは1人でいい。宮藤の姿は妻には刺激が強過ぎるだろうし、何より彼とは秋葉原で別れた後の話も聞きたい。薬を多少使って回復したが、それでもかなり辛い状況だったと思う。


「・・・、分かりました。病院までは送りますよ。」


「お願いします、その後は莉菜と買い物でもしてください。」


 バイトを留守番させ妻と望田と車に乗り込み、やってきたのは自衛病院。高槻が居れば、時間次第では検査を受けてもいいかもしれない。入口で下ろして貰ったが、帽子も被っていないので、やはり注目は集める。遠巻きにヒソヒソとしているが、これは慣れるしかないだろう。


 受付で宮藤の名を出すと、看護師が案内してくれる事になった。歩きながら話すと、ここには秋葉原の件で負傷した人の殆どが、収容されているらしい。その中でも宮藤は酷い方の部類らしく、個室にいるようだ。宮藤が終われば、他の方達にもお見舞いに行こう。


「失礼します、宮藤さん大丈夫ですか?」


 看護師に別れを告げ、ノックをして中に入るとどうやら先客がいたようだ。若い・・・、大学生だろう男2人組片方は顔にいくつかの傷があり、ヤンチャな感じを受ける。髪もツンツンだし。もう片方は切れ長の目に細いメガネ、落ち着いてそうだが、我の強そうな感じ。てか、この2人確か・・・。


「秋葉原の高校生?」


「その節はどうもっす。2人共に大学生です。」


「あの時はすいません・・・。お互い頭に血が上ってました。」


 2人共に揃って頭を下げてくる。大学生か、口添えしなければ刑務所か留置所送りだった事を考えると、ファインプレーだったと思う。流石にあの件の前に戦力は削りたくなかった。


「あっ・・・えーと、ファーストさん来てくれたんですね。」


 ベッドの上宮藤は右腕が無く、無数の傷痕はあるが元気そうだ。しかし、なんとも妙な組み合わせ、接点が見えて来ない。あるとすれば、戦場で知り合ったくらいか?しかし、大学生なら有志だと思うが…。それはさておき。


「宮藤さん、クロエでいいですよ。それで、そちらの2人は?」


「雄二君と卓君です。外円で助けてもらって共闘した仲です。」


 有志組か、2人で居るという事はパーティーなのだろう、雨降って地固まるというやつか。青春してるな、雄二の方は怪我もあるようだし、外円も結構負傷者が出ていた。そんな中で宮藤を助けてもらったのだ、お礼を言わなくては。


「2人共、宮藤さんを助けていただきありがとうございました。雄二君、怪我は大丈夫ですか?」


「あっえっと、大丈夫です。こちらこそ口添えありがとうございました。怪我は・・・、大丈夫っす。」


「僕からも、あそこで喧嘩を穏便に鎮めていただいて、ありがとうございます。」


 ふむ。意外と好青年だ。宮藤の見舞いにも来てくれてるし、根っからの悪ガキではないのだろう。急に力を持って自身を見失ったか、あるいは気分が大きくなったか。どちらにせよ、若気の至りはあるものだ。俺にも覚えの1つや2つあるし。


(おい、なんかスゲーイメージ違うな。もっとこう・・・。)


(君はやはり馬鹿だ、対応を見れば分かるだろ。)


「2人共、こう見えてクロエさんは自分より年上ですよ?」


 宮藤が苦笑しながら歳の話をする。コヤツは人の情報、しかも元の姿の情報も知ってるので厄介だ。まぁ、外見=年齢とはならないこの身体。タバコも配信で吸いまくってるので今更か。橘なんか余裕で配信時も勧めてたし。


「「マジ!」」


「宮藤さん、あまり言うと身バレします。まぁ、43。それが実年齢だよ。あんな格好でウロウロしてるのを笑いたければ笑ってくれ。」


 肩を竦めながら冗談ぽく話したが、2人共に固まったまま。この話をジョークと取るか、真実と取るかは2人に委ねよう。歳など知られても痛くも痒くもないし。固まっている2人はいいとして。


「宮藤さん、体調はどうですか?」


「身体は大丈夫ですが・・・、腕は何とも。名誉の負傷ですが、職務復帰は・・・。それより、あの時は、すいません。力及ばず後をまかせてしまった。本当にすいません。」


「いえ、こちらこそ小骨討伐に回っていたのに、間に合わずすいません。」


 お互いに頭を下げる。時の運や、運命、仕方無いと言う言葉で片付ける事は出来るが、やはりこれは俺の落ち度だ。ifの話をしても仕方ないが、どうしても考えてしまう。もし早ければ、もし間に合えばと・・・。


 しかし、職務復帰は難しいのか・・・、警察官という仕事上、どうしても隻腕というハンデはついて回る。犯罪者を取り押さえようとも、片腕ではどうしても出来る事の範囲が狭くなる。・・・、よし。


「宮藤さん、警察を退職するなら一緒に働きませんか?警察官なら、法の知識もあるし、何より今回生き残ったという実績もあります。勿論、嫌ならば蹴ってもらって構いません。仕事内容はゲート関連ですから。」


「・・・、モンスターと戦いますか?」


「ゲート関連ですから・・・。」


 そう話すと宮藤は考え込んでしまう。腕を無くす恐怖、それはトラウマになっても仕方のないもの。何もゲートに入るばかりが仕事ではない。本部立ち上げがあるなら、事務方も必要だし、なにより俺の肩書は本部長。宮藤は遊ばせるには惜しい、小骨討伐も成した英傑だ、指導と言う面でも期待ができる。ただ、彼が平穏を望むならそれまで。これ以上の引き止めはしてはいけない。


「あ、あの〜、ファーストさん?クロエさん?小骨って何っすか?あのブタ面のやつですか?」


 雄二が申し訳無さそうに、小さく手を上げて質問してくる。彼も傷だらけて、ブタ面と言うからには何らかの形でユニークと関わったのだろうか?或いは、宮藤を助ける時に出くわした?いや、望田からユニークの知らせは受けていないので分からないが・・・。 


「雄二、あのブタ面は5ゲート以降のモンスターだ。総称としてユニークと言うにはちょっと違うと思う。」


「ふむ、ブタ面の特徴は?」


「なんか、刀身の無い剣持った奴っす。極細の鉄糸振り回す。」


 それは多分セス氏の動画で見たものだろう。戦場では数こそ少なかったが、同じ様なモノを倒して回った。アレが素体なのかどうなのかは分からないが、多分中にはまだいるのだろう。


「雄二君、アレはユニークじゃないよ。ユニークはもっと、こう。ゴテゴテしてたり、他と全く違ったりしてるんだ。そして強い。」


 宮藤が、ない腕を触りながら答えた。ユニーク、事前のセーフスペース調査で出くわした奴は強かったし、外で見た鉄球は賢者が働かなかったら突破口が見えなかったかも知れない。


「あれで、普通なんっすか・・・。卓、危なかったな。喧嘩してなかったら俺、奥潜ってたわ。」


「君と一緒にされたくはないが、確かに僕も1人で奥に行ってただろう・・・。」


 知らぬ間に命を繋いでいたようだ。確かに街中で喧嘩するほど増長していたなら、後先考えずに潜って行って、人知れず消えていたかも知れない。


 秋葉原の件でモンスターのデータも集まっているだろうし、早急にモンスター図鑑的な物も作らないといけないな。兵藤達は仮称だがモンスターに名前をつけていたし、その辺りと連携が取れるならスムーズに事は進むかもしれない。


「そう言えば、ファーストさんはあそこで、どれくらい倒したんですか?」


「ん、クロエでいいよ。宮藤さんの礼もあるし、何よりそろそろファーストは源氏名にでもしたいと思ってる。正確には数えてないけど、小骨は5〜6体、後はラスボスかな。雑魚は分からないよ、見た瞬間に倒してたから。」


「パネェっすね・・・。」


「前、掲示板で見た時に強いか弱いかの論争があったけど、次元が違う・・・。」


「そうでもないさ・・・、力は及ばず、かなり逝ってしまった・・・。」


 傲りは多分無かった。死なせる事も覚悟していた。でも、もっと上手くできたのでは無いか。と、言う考えは常にある。これは悲観ではない、次に繋げる為の大切な思い。考えれば悲しくなるからと、目を逸らすのは、ただの逃避にも劣る愚かな行為だ。今回はかなりの死者が出た、しかし、次は今回より少なくする。なら、今回の教訓を活かす為に、死者を見つめなければならない。


「クロエさんはやるだけやりましたよ・・・、自分達と会ってたった10日で、よくまとめたと思います。・・・、クロエさん、今回の話謹んでお受けしたいと思います。何処までできるか分かりませんが、共に戦った仲間の為にも自分の為にも、やるだけやってみます。」


 話す宮藤の目に活力が溢れている、彼は思った以上に強い人なのだろう。どのように生き、どのような道程を歩んだかは知らないが、前を向ける人は強い。


「分かりました、本部長権限で採用は確定です。お飾りの首輪みたいな役職ですが、長を冠するなら無下には出来ないでしょう。寧ろ、駄目と言われたら、私が役職を投げます。権力の無い役職など意味はない。」


 そう言うと、3人共ポカンとしている。ああ、本部長云々はまだ構想段階だったか。どの道助言役として動くなら、手駒の1つや2つは欲しいが・・・、目の前の2人は・・・、どうだろう?スィーパーではある。有志としてあの戦にも参戦している。宮藤を慕って見舞いにも来ている。ん~、直感を信じるなら悪くない。しかし、話が急すぎるのも確か。なら、うん。


「えっと、俺達を見つめてどうかしました?」


「雄二黙ってろ。多分何か、考えてるんだろう。事と次第じゃどうなるか分からん。配信でも中々突拍子も無い事をしていたし。」


 メガネの方は確か魔術師だった、宮藤に付けてサポートさせれば学ぶ事もあるだろう。逆にツンツン頭は剣士、風を起こしていたが、武器は剣なので間違いはないと思う。そもそも、今回の助言役、相手が全て公務員というのなら、民間の入る隙間が殆ど無くなってしまう。


 なら、この2人が了承するなら民間からの登用と言う名目で、飼い慣らしたい奴らへの多少の牽制として置いておくのも悪くない。多分、国としてはゲートを国営運用したいのだろうが、それでは多分手が足りない。


 ソーツの生産速度がどれくらいか見当がつかないが、次溢れた時にまた今回の様に公務員だけ動員して、民間が育っていなければ、同じ事の繰り返しになる。なら、官民一体が目標とするべき姿になってくると思う。助言を行う人間の名簿は貰っていないが、貰ってからでも捩じ込むのはどうにかなるだろう。


「君達、私の助言を受ける気はあるかい?」


「クロエさん、話が飛んでます。」


「ああ、すまない宮藤さん。オフレコですが、特別特定害獣対策本部と言う物を各都道府県に設置する流れになっていまして。宮藤さんは、そこの要員として採用する予定なんですよ。それで、民間出身のスィーパーとして、その2人を起用しようかと。ここで会ったのも何かの縁だしね。答えは急がないよ、決まったら宮藤さん経由で連絡してもらえれば、捩じ込むとするよ。」


 そもそも、特別特定害獣対策本部というのが国の何処(・・)に属する組織なのか、或いは独立組織なのかで方針も変わってくる。千代田曰くこちら側、流石に管理職おめでとうではないだろう。さて、俺の身柄は何処が受け持つのやら。


「えっと・・・、強く、なれますか?」


 雄二が純粋な目で見てくる。横の卓も気持ちは同じなのだろう、熱の籠もった目をしている。強くなれるか・・・、か。


「さぁ?背中を押すのと、引っ張るのは訳が違うからね。自分次第だよ、何を思い、何を感じ、何に至るのか?時には休んでもいいし、逃げてもいいけど、その全てと折り合いをつけるのは結局自分1人だよ。」


 何を以って強さとするか。それは千代田に出した問題と一緒で、腕っぷしでもいいし、ボードゲームなら頭の良さだろうし、或いはチームとしての強さ何てものもある。スィーパーになって強さを語るのなら、先ずは自己の定義をしっかりしないといけない。


「クロエさん、今回の件を受けたら僕は、宮藤さんの下につけてもらえますか?どうしても、あの戦いで見た宮藤さんの魔術が忘れられない。」


 何やらメガネ君は、宮藤に魅せられたらしい。前は仲良く炎弾を飛ばしたが、今は多分違うのだろう。魔術を使えば確かに珍しいが、それで人を魅せるとなると、よほどそのイメージが強くないと惹かれてはくれない。


「いいよ。受けてくれるなら、それなりの融通は利かさないとね。こちらにも打算があるのだし。」


「あっ!ズリぃぞ。俺も受けます、融通は・・・、考えときます。」


「分かった、2人共受けてくれてありがとう。雄二君、融通はするが、私を狙うのは止めてくれよ、既婚者なんだ。」


「ちょ!えっ!しないっす!そんな事!」


 からかうと中々面白いやつである。それはさておき、結構話し込んでしまった。いい手駒も出来たし、宮藤も元気そうで良かった。


 宮藤に別れを告げ、ゲットした2人に負傷者部屋に案内してもらい、彼等と話した。内容は様々で怪我の程度から家族や、亡くなった仲間の話。追悼式には出ない事を伝えると怪訝な顔をされたが、理由を話すと理解してもらえた。ただ、式には出なくても、個人的にコッソリでも良いのでしてほしいと言われた。・・・、式の後なら良いのだろうか?曖昧にしか答えられずモヤモヤする。


「2人共、今日はありがとう。何かあれば宮藤さん経由で連絡してほしい。」


 そう2人に言葉をかけて、別れたが直ぐに電話が鳴った。着信相手を確認すると千代田。はて、数日は自由でいいはずだが、状況が変わったのだろうか?嫌な想像なら、他国のゲートがスタンピード寸前で救援要請とか?或いは、どこかで打ち漏らしたモンスターが出たとか。


「もしもし、どうしました?何か問題発生ですか?」


「・・・、問題は発生しました。しかし、個人的なものです。」


 何やら声が非常に憔悴している。しかし、個人的な問題で俺に連絡をよこすと言う事は・・・、あれか?


「個人的な・・・?議員を殴ったのは、不味かったですか?それで首になったと?」


「・・・、違います。殴った議員は辞職したので問題ありません。」


 殴って辞職ではなく、殴られて辞職とな?まぁ、何かしらの不正があったのだろう、裏金とかパーティー券とか。しかし、他に問題になりそうな事はないと思うが、なんだろう?


「話が見えませんが、経緯を説明してもらえますか?」


「・・・、クロエ、渡したトランクは見ましたか?」


「ええ、服をねだってすぐさま渡されるとは、思いもしませんでしたよ。」


 中身は有志からの物だったが流石に驚いた。まさか、千代田も一枚噛んでるとか?


「アレは服だけではなく、望田君が買った貴女の下着とセットだったんです。急ブレーキの拍子に座席から落ち、座席の下に入り込んでいたようで・・・、私も今朝まで気づきませんでした。」


「ほう、確かに私は服も下着も、殆ど望田さんに買ってもらっていましたね。」


 最近までホテルと職場の往復で、服や下着は望田に頼んでたな。朝早くても用意してくれてたのは、買い置きが有ったからか。まぁ、最近ではコンビニでも買えるが、それよりは何処かに用意していた方がいい。


「ええ、ホテルの移動時に私の私有車で、荷物を運び込んであのトランクと下着が最後だったのですが、トランクと下着の入った袋が無くなっていたので、貴女が持って行ったと思っていました。そして。今朝娘を送った時に・・・。」


「娘さんに見つかったと?」


「いえ、一緒に乗った妻に見つかり、嫌疑をかけられました。不倫、ロリコン、女装趣味です・・・。」


「ご愁傷様です。ロリコンは街に出るとヤジが飛び、犯罪史上に名が残るそうですよ?」


 どこぞの掲示板は上手い事を書いていた。確かに(少女)は空をとんだ。


「冗談を聞く気分ではありませんね・・・、お願いと言うのは・・・、その・・・、娘と妻に会って貰えませんか?貴女が来れば解決できます・・・。」


「仕方ありませんね、貸しで良ければ。迎えをお願いします。」


「・・・、分かりました。」


 憔悴した千代田からの電話を切る。よし、貸しができた。借りを作るのは嫌だが、貸しならいい。回収しなくてもいいし。しかし、千代田も大変そうだ、ここは一つ魔法少女好きな娘さんの為にも、ゴスロリで行くとするか。

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[良い点] この落差で次へという気持ちが軽くなる構成、まあ千代田氏個人にとっては重い話なんですが。
[一言] 死亡率約80%かぁ・・・高いな・・・
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