218話 保険は大事 挿絵あり
朝から訪れて話し込んだが中々有意義な会話だった。分かった事実は早めに講習会メンバーや研修生にも伝えておかないとな。正式な文書が出てからでも遅くはないが本人達の身体の変化の関係もあるので遅らせるよりは早めの方がいいだろう。最悪LINEで流してしまってもいいだろうし。胃もないので腹時計は使えないが感覚だけなら夕方とか?スマホで確認するといい時間である。飯も食べずに話し込んでしまっていたか。高槻と別れて外に出ると聞き慣れた声が聞こえてきた。
「なぁ藤よぉ。可愛いドールとか球体関節系のやつでもいいからくれよぉ〜。金貨ならそれなりに積むからさぁ。」
「う〜む、ラーメン屋よ。購入者にとやかく言うのは筋違いかもござらんが『でもいい』は言うな。作り手として妥協されたようで不愉快になる。」
「それは・・・、悪かった。なら、徹底的に欲しい物を伝える。」
「そちらの方がまだよい。それと青山殿はどうしてこちらへ?拙者が行くは依頼を受けた生産者の仕事場ぞ?」
「香りが・・・、ファーストさんが居ると言う香りがする。それに宮藤教官からも機会があればゲート内駐屯地は確認しておくよう言われてるからね。今日は見学に来られなかった。なら、会いに行くしかないだろう?」
「香りとやらは分からんがまぁ、拙者は拙者の仕事をするゆえ好きに過ごされよ。ただ、施設内の無断立ち入りは怒られるので控えるのが良かろう。」
帰ろうと思ったら珍しい組み合わせで藤達が現れた。依頼やら仕事と言う辺り本当に何か作らされているのだろう。元々の仕事もそっち系なので戦艦にしろ機体にろ、或いは戦闘機にしろイメージさえ伝えられれば形にはしてくれそうだ。相変わらず嫁達が藤に引っ付いて電気を食べている様だが改善の見込みはないのだろうか?
ついでに言えば青山の言う俺の香りって何?毎日風呂に入るし精々してもタバコかキセルの香りだろ?と、言うか階層をぶち抜いて香る香りとか寧ろ臭い兵器だろう?あったなぁそんな短編アニメ映画も。古きよき作画だったが中々楽しめた。
「人を臭い様に言わない。それで、藤さんのお仕事とはなんですか?」
「青山すげー・・・。本当にいた!えっ!何お前捜索系のイメージカンストしてんの?」
「違うしファーストさんへの奉公精神がカンストしてるんだ!聴いてください、今日もメンバー1モンスターを狩って危ない仲間は助けて研修会全体のサポートを行いつつ人間関係の円滑化に努め・・・。」
「あ〜、分かった。後で頭でも撫でてやるからちょっと黙れ。」
「撫でられるより抱きしめたいんですがどうでしょう?ここは少し冷えるでしょう?」
「取り敢えず黙っとけ。追って沙汰は下す。」
奉公ってなんだろう?やっている事は立派なはずなのだが毎回その立派な事の請求が俺の方に飛んでくる。まぁ、変に無償でやられるよりはその方が分かりやすいのでいいのだが、いいからと言って請求していいとも言いたかないんだよな・・・。スタート地点のハードルが結婚とか子作りとかだし。
「仕事というのはアレのパーツ作成と作業用Botの作成依頼でござる。まぁ、まだ拙者は魔法を渡せない故、動力源がないのでござるがな。」
「ふむ、魔法受け渡しはそれなりにハードルが高いですからね。必要なら宮藤さんに集中的に習うといいですよ。現状はどの段階です?」
「糸を紡ぎ始めた段階でござるな。奏江殿はその辺り器用なのでござるが、拙者は裏技込みならどうにかなるかなぁ?と言う所でござろうか?嫁達の動力源はどうにか確保は出来たものの効率的なモノとは程遠い。」
藤が目配せすると嫁達は着物の袖を襷掛けしてまとめながら輸送機の方へ向かっていった。ついでに指輪からも小型の人形達がちょこちょこ出たかと思うと嫁達に追いつく速度で走っていく辺り、藤1人いればマンパワーが足りないと言う事はなさそうだ。
「魔法はまた後で見せてあげましょう。そうでもしないと悪評だけが先行しそうですし。」
「うむ、もとよりデブやオタクと言われておったが今ではスケコマシやハーレム野郎と言われている。悪い気はせんが、嫁達を見た後に本気で愛する気もないのにただ寄越せと言う輩もおれば、最初からそういう目的で作成依頼する者もあるからな。簡単には負けはせぬが連れ去られて電力切れしたらと思うと怖くて仕方がない。」
話を聞いていた御堂が胸を抑えているが、心当たりがありすぎるのだろう。前も作ってくれとお願いしてたし。まぁ、思いの込め方云々を無視するなら職員が足りないギルドへの支援要員として作れるなら作ってほしい。まぁ、ギルド職員になりたい人は割といるらしいので現状では足りている。問題は何か大事が起こった時に人が離れた際の増強要員として確保したい。具体的にはスタンピード後の復興要員とか・・・。
「その辺りは追々いいイメージを模索しましょう。それで、どちらから先にやるんですか?」
「うむ、斎藤殿がアレの原型予想図を描き起こしたのでそれに必要な外装加工でござるな。まぁ、昔のゲーム機理論でその穴何の為に必要なの?と考える所もあるでござるが・・・。」
「そうそう。予想図と依頼品の図面見ると明らかにいらないだろう?て所がいっぱい発見出来るんだよなぁ・・・。砲身でも付けんのかな?」
御堂が鋭い事を言っているが設計段階でバレる穴って割と目立つような・・・。試しに図面を見せてもらったが確かにコレ何の穴?排気口?と言いたくなるものが多い。外装という話だが流石に動力パイプやら配線剥き出しはないだろう。
そんな話をする横で藤はテキパキと武器を装備してさっさと箱を指輪から出すといじくりだした。複数の箱を一枚板に変えてそれを流線型にしたり穴を開けたりしているので、取り敢えずは図面通り作るつもりなのだろう。俺としては作業用Botを作る方を見たかったが、作り手がこれをやると決めたなら外野がとやかく言うのはお門違いだ。
「それで、2人はこの後どうするんですか?私はそろそろ帰ろうかと思って出て来た所だったんですが。」
「俺は一応見学兼手伝いだったんでこのまま藤を手伝います。なんでも穴の微調整に発見とかあると楽みたいなんで。」
「なら俺と帰りましょう!ついでにカフェでお茶とかご飯とか食べに行きましょう!」
なんか青山と二人きりと言うのは危機感しかないが、ここで断ってもなぁ・・・。まぁ、一応望田に連絡を入れて安全を確保してから食べに行って見るかな?一回の成功体験で何回も誘われそうで嫌だけど、延々と無下にし続けると闇落ちとかしそうで嫌なんだよなぁ・・・。元々ストーカーで今でこそ言う事をそれなりに聞いてくれているが、本質的に見ると俺以外は基本切り捨てても良いような考えだし。
まぁ、そこで機嫌を損なわないように指標としてルールを守る事に着目しているのだろう。少なくともルール内ならなにかやらかしても重大なミスとは言えない。と、コイツって他の星の記憶はあるのだろうか?あるなら中層以降の話ももしかしたら聞ける?
「・・・、いいでしょう。」
「本当ですか!?なに食べます?肉ですよね!?肉でしたね!ステーキにとんかつすき焼き、肉寿司他にも多数食べ歩いて口に合いそうなものは一通り網羅しました!言って下さい!何処へでも案内してあ〜んしてげます!必要ならすりつぶして流動食や鮮度が大事なら今からでも牛を・・・。」
「いかなくてよろしい!取り敢えず量の食べられるリーズナブルな店でいいです。」
「はい!わかりました!」
一旦外に出て路地裏で一服。室内禁煙だった為にタバコのニコチンが心地良い。青山は車を調達してくると言っていたがタクシーでも捕まえに行ったのだろうか?頭が痛くなるような奴だがそれでもなにか情報を持っているなら話してもらわないとな。最適化の話やら中層やらの話。そもそもコイツはゲートに関しては先輩でもある。スタンピード後に中に入ってるかは知らないがまぁ、何かしらの有用な話は聞けるだろう。




