208話 頭の痛い話 挿絵あり
青山が頭の痛い事を言っているが取り敢えず不干渉な所を決めて見れば多少はマシになるのかな?下手をすると家に押し掛けてきて平穏な自宅暮らしが荒らされかねない。視点を変えつつまともな策を打ち出す方向で考えよう。確定事項としては勝手に付いてくるというのは前提だろうし・・・。
「まず1つ目として私と妻が一緒にいる時は干渉してこない。緊急事態云々は別としてプライベートは守ってもらいます。ここの緊急事態と言うのは生命的な危機等です。」
「なるほど・・・、酸素吸入等の場合はいいと?」
「よろしくないですね。なんで私が呼吸不全前提の身体になってるんですか・・・。私は健康で基本的に病気等はありません。介護は不要です。」
「なっ!育児書や医療書で読んだ知識は!AEDだって買ったんですよ!?次の職に就く時は治癒師となって合法的に服を脱がせて治療する計画は!」
「私以外にどうぞ。確認を取りますがそれは探索者も合意していると?」
「探索者はお風呂に入れて身体を洗う方を勧めていますね。あの御方を綺麗にできるならいくらでもすると。本来は必要のない行為らしいですが、こうしてそう言う機能を必要とする生物なら何でもしてあげたいそうです。俺としては奥さんといる時も影から見守りなにか必要な時はそっと差し出し、ファーストさんの延長線上で寵愛を受ける奥さんにも奉公するのは吝かではありません。」
吝かしかない。プライベートに首を突っ込むなと言うのに何で影から見守る方向に行くかなぁ・・・。日本語は通じているはずだよな?こうして対話も出来ているよな?まてまて、視点を変えようと考えていたんだ。SP的なモノと考えれば今までと変わりな・・・、くはないな!少なくともSPはポカもするけど基本的に必要以上の干渉はしてこない。
その点を考えるとコイツは干渉しかしてこないおじゃま虫!まて、怒るのは後からでも出来る。今は冷静に考えて話をまとめよう。来るな、あっち行け!では今の所全く持って意味はなかったんだし・・・。そうか、青山が主体となって話すから何かおかしく感じるのかもしれない。なら、探索者の方ならまともに話が通じる?そうだ!魔女に長く奉公して魔女も好きにさせているなら、少なくとも目障りではないはずだ!
「探索者と変わって下さい。そちらと話をします。」
「?、変わるってどうするんですか?アドバイスは貰いますけど変わり方とか知りませんが?」
「・・・、は?いやいや、入れ替われるでしょう?」
(ちょい魔女変われ。やって見せればわかるだろう?)
(いいけどいいのかしら?)
(さっきも言ったが探索者はお前の領分だ。探索者はお前に尽くしたい。その延長線がお前を宿す俺なら、探索者を宥めれば面倒なのは青山だけになる。寧ろ、探索者がストッパーになれば多少はマシだろう?)
(ん〜、存在意義の否定に繋がらない範囲で話すなら出来ない事はない。ただ、アレは奉公する者。それを忘れない事ね。)
そう話す魔女と入れ替わる。賢者は相変わらず面白いショーを見る様に記憶の映画館に座りポップコーンを食ってやがる。まぁ、コイツの場合何処で何していようと目が繋がってるから視えるんだろ?多分。
「久しいわね、奉公する者。表に出られないならそのまま聞きなさい?奉公するのは構わない。ただし、干渉・・・。」
「久方ぶりの御拝顔かたじけのうし。吾、奉公する者として末席に連なり幾星霜、お声を賜る事は剥奪されて意味を頂いたとき以来と存じ、此度の再会にして御御方にこうして話し掛けられた事、未来永劫忘れるにあらず!誠心誠意この原生生物と共に奉公する事を誓う所存。どうか吾を使い潰してくだされ!この星にはお早うからお休みまで暮らしを見つめるライオンなるものがいるそうですが、吾はお休みの後も見守りますぞ!」
多分探索者だろうモノが青山の顔でにこやかに話している。最初は土下座する勢いだったが、椅子を勧めていたのでその場で突っ伏すに留まったが顔を上げてからは頭の痛い事しか言っていない。寧ろ、主の言葉を遮るってどうなの?いや、先を喋らせる手間を取らせずに察したと言う事になるのか?タイミング的にどう考えても否定を吐かせないようにしているとしか考えられないのだが・・・。
「干渉しな・・・。」
「言わずともわかります!肉の身とは不自由なモノ。お手を煩わせぬよう、吾が全て取り仕切りましょう!痒ければ言ってくだされ!何処であろうと掻きましょう!栄養が欲しければ言って下され!最高級の物を用意しましょう!夜伽の相手ならコヤツが多少心得があるようなので、それもまた思うがままに・・・。原生生物の3大欲求でしたか、全て滞りなく満たしますとも!」
(・・・、引っ込んでいいかしら?)
(逃げ出すなよ魔女!お前はまだやれる!下層のモンスターだって嬉々として倒したお前ならやれる!)
(よく聞いて、アレはおかしな事は言ってない。奉公する者として正しい。本体同士ならアレで問題ないのよ・・・。肉の身がなければそれをする必要はないのだし。あるからこう言う奉公を考えつく。)
(いやいや、俺は巻き戻るし死なないしお前はここから出られない。なら、どうしようとアレはこのままここに居座るのだろ?数十年後に死んだとしても新しい青山(仮)として次の宿主に乗り移って帰ってくるんだろ?)
(・・・、先送りにしましょうか?今いるコレが死ねば次が出るまで時間稼ぎ出来る。)
(稼いだとしてなにか案は浮かぶか?)
「代われ探索者!俺がファーストさんと2人きりの時間を楽しむ!」
「黙れ原生生物!吾があの御方と話をして奉公する!安物の缶コーヒーなぞ出しおって!1杯10万円のコーヒーを常備しておかんか!」
「それは・・・、済まないと思っている・・・。ただ、この缶コーヒーはどれも抜き取りで雑味を抜き取り、豆本来の味わいと奥深さを出してあるものだ!そんじょそこらのコーヒーよりは断然美味しい・・・、はず!」
「知っておる!吾が指示したしやり方もおしえた。ぐぬ!システムによる修正が!吾はまだあの御方に奉公しておらぬ!せめて一言だけでも労いを!」
青山が一人二役しだしたが、多分乗っ取れないという部分に探索者が抵触したのだろ。そりゃあ、青山の人格に黙れと言えば乗っ取りを疑われても仕方ないし、奉公するとまで言い切れば言い逃れはできない。しかし、こうしてはたから見ると騒がしい二重人格だな。俺の場合、上位と下位がお互い認めた上で入れ替わったりして居るからシステム的な干渉はないのだろうし、強制的な取り返しも出来る。
『奉公する者。励みなさい?私の為に、尽くしなさい?意味の為に。そして、それを上手く制御なさい。』
考えてるそばから扇動しやがったよ・・・。ギリギリ奉公する者が表に出ていたと考えていいのかな?青山に向けて今の言葉を言ったなら更に干渉が激しくなりそうなんだが・・・。いや、そもそも青山も奉公する者も同じ身体に入っているのだから、2人とも扇動された?面倒事しかないじゃないか・・・。
(次はゲート内で呼びなさい。主様)
(やりきった感じで逃げようとしてないよな?何かあれば奉公する者関連はすぐに呼ぶからな?逃げれないだろうが逃さないからな?)
(そろそろ僕声出して笑い転げていい?コレが喜劇で愉悦なんだろう?いやはや、魔女様にあらせられましては家臣の手綱をしっかり握っていてほしいモノだね。)
(貴方もここの居心地悪くなるような手綱をかけてあげましょうか?)
(それは止めた方がいい。下手をすればあの子が暴れ出す。今だって目の前のアレを母親が面倒と思うなら消そうか悩んでるんだから。前に大丈夫と伝えてなかったら、問答無用で消してたかもね。)
知らなかった事実、青山は死の綱渡りをやっていた・・・。いや、勝手にやる分にはいいのだが、ここまで来て話が何一つ進んでない方が驚きだよ!頼みの綱の奉公する者は更に頭の痛い存在で感覚が違いすぎて話にならなかったよ・・・。寧ろ、火に油を注いだ的な?対話できるだけで暴走状態と言うか、青山並みにヤバい奉公方針を出して来やがった。
何だろう・・・、ソーツと交渉した時に最後の方は面倒くさそうにしていたが、なんとなく気持ちが分かる気がする。確かに必要な交渉だったがあちらからすればそれくらい分かれよな?的な意味合いもあったのかもしれない。奉公する者基準で考えると、あれくらい察してあげ無いといけないんだろ?ただ、アイツのアレはコミュニケーション不足とも言えるが・・・。
「紆余曲折ありましたが・・・、干渉しないで分からないなら定時報告以外干渉しない。で、どうです?報告時間は最長1時間。その時間内で互いの意見交換を行う。報告時以外は貴方への指示としてスィーパーの補助等の仕事をしてもらう。これなら分かるでしょう?」
「朝食やお昼を食べさせるのは?」
「却下です。どうしてもしたいならギルド稼働後に本部長室にでも来てください。ただし、妻がいたら退室。仕事でいなくても諦めて下さい。それと、食べさせるではなく、一緒に食べるです。あ〜んとか考えているならすぐにその幻想は捨てなさい。」
「緊急事態に直面したら指示を仰いでもいいんですよね?」
「本部長、ギルドマスターなので本当に緊急事態なら面会しましょう。但し、しょうもない話なら叩き出します。ここで言うしょうもない話とは、私の昼ご飯のおかずは何がいいとか言うくだらない悩みですね。」
「なっ!それは一大事ですよ!健やかに育ってもらう為にも栄養を考えて・・・、栄養士の資格も取ったのでちゃんと彩り考えて作りますからね?好き嫌いはメっ!ですよ?ナスも入れますからね?」
何で野郎から人差し指を立てながら、片目ウインクの笑顔でメッとされないといけないのだろう?殺意が沸々と湧いてくる。コレが妻なら笑顔で「肉多めがいい!」と笑顔で返すが、今は仏頂面しか出ない。いや、下手したら般若になってるかも・・・。言っている事は間違いないはずだし、身体を心配していると取れば真っ当なのだが・・・。とりあえず、ナスがあったら突き返そう。
「仕事を優先!休むなら休む、仕事をするなら仕事をする。メリハリを付けてやりなさい。それと、同郷何ですから早めに住む所は手配すること。間違ってもうちに転がり込むとかしないように。」
「えっ!一緒に出勤する喜びは?朝食も洗い物も洗濯もしますよ?あっ、コレどうぞ。」
コイツ人の家に住む気だったのかよ!あっぶねぇ、老婆心で言ったが言っててよかった。差し出されたものを手にとって広げると・・・、なくしたパンツが・・・。えっ、ナチュラルに下着ドロしてたのコイツ?スィーパー以前に人として終わってるよ?カピカピではないので未使用?いや、カピカピなら手にも取りたくないのだが・・・。そもそも、コイツが下着を盗んで喜ぶような人種なら近くにも置きたくない。
「・・・、下着ドロは犯罪です。即刻出頭して罪を償いなさい。」
「違います。これでクローンを作ろうとしていた輩がいたので、ソイツの指輪から抜き取って保管していました。」
クローンとな?ん〜、コイツ自体は疑わしいは疑わしいのだが、コレが「洗濯する為に回収して洗い方を研究していました。」なら、行動原理から分からないでもない。しかし、クローンは全くコイツの行動原理から外れている。仮に、俺が座ったままコイツが何か全てをする世界線があったとして、そこでコイツ1人が奮戦するなら思い描けるが、俺のクローンを連れて旅をするというのは全く違う。そもそも、クローンが出来たとしてもその中に魔女はいないし、賢者もいない。多分、巻き戻り諸々もないので産み出されて消費される命でしかない。
知らない所でクローンがダッチワイフにされるのは御免被りたいが、そもそも代謝がないのでDNA採取そのものが無理なのでは?朝起きてベッドを見ても髪が抜けた様な形跡もなければ、櫛にも髪は絡まらない。割とビビるのは唾液は口から出ると霧散するし、妻と致す時は濡れこそすれ唾と同じ様にすぐに霧散する。
ある意味、回復薬の霧散と似ているがそれよりも早く乾くような・・・。量が少ないからとか?まぁ、何にせよDNA採取はかなり厳しいものとなるだろう。この身体で暑さ寒さは感じるが汗ばんで気持ち悪いというのは感じた事ないし。そもそも、トイレにも行かなくなって久しい。やはり、代謝そのモノは無いと考えていいだろう。試しに高槻とDNA採取出来るか試してみるかな?
爆散しても多分飛び散るものは無かったと思うし、仮にDNAが採取出来たとしても多分、俺とは別の綺麗ななにかが出来るんじゃないかなぁ?完璧な人間と言えばアンドロギュノスとか?腕四本に足四本の両性具有。見た目化け物だがまぁ、神話や精神的なものならありなのかなぁ・・・。ある意味俺もその状態といえばその状態だし。男の俺と賢者、女性の魔女と身体。腕と足が増えなくてよかった。
「行動から見て信じましょう。少なくとも貴方が私に不利益をもたらすとは考えづらい。それで、それをやった輩は?」
「さっさとゲート内、30階層付近に置き去りにしましたが?本当は手に掛けても良かったんですが、死刑はいけません。ただ、人のクローン作成はルールに反するので、そのあたりが妥当と思い放置しました。まぁ、放置してすぐにモンスターと戦って死んだようでしたが・・・。」
有能は有能。ただ、相手の素性が分からないところが難点だがそれまで求めだすと収集が・・・。いや、もしかしたら。何か情報を抜き取って放置した?その可能性は高い。寧ろ、クローンの件まで情報を掴んでおいて何も吐かせずにゲート刑にしたとは考えづらい。まぁ、やった事が褒められた事か否かは横においておくとして、身の危険である事は確か。千代田がこの情報を掴んでいるかも分からないし、何より近しい人間を襲わないとも限らない。
妻と息子は昨日もテレビ電話で話した。流石にこちらに来ても俺は仕事で会えないと知っているので、家で観戦しながら仕事するとしていたので東京で事件に巻き込まれるとは考えづらい。そもそも、パンツをなくしたのはかなり前、それこそ去年の話だ。青山がこちらに来て回収したと考えればかなりの間保管していた事になるが、クローンを作ろうとしたのはどこだ?日本は取り敢えず除外していい。本人がいるのに秘密裏にクローンなんて作ろうものなら、愛想を尽かされて国外に行かれる方が不味いと考えるだろう。
そうなると海外からのアプローチだと思う。あのホテル自体は他の客も泊まるので出入りフリーとまでは言わないが、それなりに人の出入りはある。ん〜、女児のパンツを郵送で海外へ・・・。税関辺りが見付ければ国次第ではヤバいブツではあるが、娘の為に買ったと言い張れば送れない事もない?いや、かなり海外との取引やら往来は制限がかかっている。出土品の密輸なんてものが有れば困るので、今は基本的に海外へ出す荷物は全て開封が義務付けられている。そこで大量の女児の下着を出すのは中々のチャレンジャーだろうし、欲しいならネット通販なんて言う手もあるのでわざわざ手荷物にしなくてもいい。なら、指輪に収納する?
この線が一番高いがスィーパーの往来は更に厳しい規制がかかるんだよなぁ・・・。中身が分からない指輪だが、鑑定師が相手を鑑定する様になっているのでスィーパーというだけで国外に出るのはかなりの時間を要する。タイム・ラグを考えるなら海外に持ち出せなかったとか?確かに体液のついてそうなものって下着だろうけど、逆にそれで持ち出しが難しくなった?ん〜、取り敢えず聞くだけ聞いてみるか。
「相手の素性は分かりますか?何人でどこの誰とか。」
「ん〜、捜索で調べようとしたんですが。ホングヌスと言う単語まででした。何やら壊滅しているみたいなので、それの生き残りがなにかだったんでしょう。俺が見つけられたのも大会前の物販会場をウロウロしている時に感じた些細な違和感からでしたから。」
スゲー、あの青山が有能に見える。いや、そもそも周りの評価は高いからな優秀ではあるんだろう。単純に俺がコイツに対する評価が宇宙の果てに飛んでいっているだけで。しかし、物販会場で違和感ってなんだろう?誰も彼も人混みの中売買したり商談していると思ったが、人混みに紛れて受け渡し相手を探していたとか?大会前でも企業ブースはそれなりに賑わっていたし、フライング商談は別に規制されていなかった。大会後も一日伸ばす様に要求される程だったのだから、盛況ぶりは言わずもがな。いや、もしかすれば受け渡し相手は要人だった?
どこの誰か正体不明で国籍も地位も隠す為に仮面を付けているので、お互いは仮面の柄さえ分かれば受け渡しはスムーズだし、それ以外の人間は警察の目もあるので接触を控える。ダメだ、キャパオーバーで推測に推測を重ねてしまう。
「確定事項としてクローンの話は真実ですか?」
「ゲート内で話した時にそう叫んだので多分。やはり拷問して吐かせれば良かった!捜索も抜き取りも限界が!」
叫びだしたがいないものは仕方ない。もうゲートの養分となっているのでどうしょうもないし、後出来る事とすればコレを鑑定してもらうとか?会話をシミュレーションしてみよう。
「橘さんコレ鑑定して。」
「これは・・・、クロエのパンツですね。羞恥プレイにでも目覚めたんですか?」
ナイナイ。流石にない!少なくともまだ実害はないしクローンは作れないだろうから放置路線で行こう。って、話がまた脱線してるし・・・。何で遠ざけようとする度に話が脱線するかなぁ・・・。まぁ、クローンを未然に防いだのはファインプレーだと思いたい。一応、組織名だろう名前も覚えておこう。
「この件は預かります。それで、えーと・・・、そう!住む所は勝手に決めてうちに転がり込もうとしない。妻と私や家族の時間に首を突っ込まない。プライベートです。少なくとも青山と言う人物は日本で今の年齢まで生きてきたので常識は分かるでしょう?」
「それはもう分かっています。それで、この溢れ出る愛と奉公したい欲はどうしたらいいですか?あぁ!飛行機のチケット!海外で女性になってないから遠ざけられても当然なのか!すいません!切り落とすのは未来の為に勘弁してもらえませんか!?それ以外はどうにかこうにか女性になって来ますから!」
前に言った事を実行するつもりかよ!何でこんなにアグレッシブなんだろうな・・・。多少見直したけど、また評価がなくなった。そもそも俺への溢れ出る愛と奉公欲は他で発散してほしい・・・。あぁ・・・、地元に帰るだろ、青山を邪険にするだろ、知らない人から見たら酷い奴に俺が見えてくる?対外的な評価が高いと言う事は、少なくともソイツを認めている人間が多いと言う事。そして、ソイツを邪険にすると言う事はそれだけ評価した人間を敵に回す可能性がある・・・。
分かってしまうからたちが悪い。真面目な学生がズルして早退するのと、ヤンキーが体調悪くて早退するのでは周りの目はかなり違う。日頃の行いがモロに返ってくる事柄だが、地元での俺の評価はほぼない。何せゲートが出て初っ端の配信した後は東京にドナドナされて地元に関わる暇なんてなかったんだし・・・。その点、青山は地元で有名なスィーパー。初心者の手伝いを積極的にしたりと評価は高い・・・。邪険にするのがいい手ではないのは分かるが、どうしたもんかな・・・。なにかご褒美を渡すとか?
「切り落とさなくていいので代わりに愛と奉公精神を投げ捨てませんか?」
「それを捨てるなんてとんでもない!それを捨てるくらいなら下層まで1人で行く方がマシです!」
「ですよね~・・・。なら、頭を下げる撫でる。これでどうです?人間らしい生活をして、真っ当にスィーパーとして活躍して、定時報告以外、緊急事態以外は干渉しない。それが守れるなら頭を撫でて差し上げましょう。」
「キスは?」
何でそこで高望みしてくるかな・・・、野郎にキスとかしたくない。やっぱりどっかに飛ばすか。その方が評価よりもいい気がしてきた。帰って来る度ににほんまんゆう派遣の旅、これが最大なのかなぁ
(こっぅら青山!あの御方が譲歩してくださったのだぞ!素直にハイと言ってその御配慮に咽び泣き、感謝の意を示すのが筋!奉公の精神とは見返りを求めず、あの御方に寄り添いすべての事柄を先に済ませるものぞ!)
(分かっている!しかし、俺は人間なんだ・・・。愛しの君がそこにあり、ここに俺がいるなら愛を囁いてもおかしくない!これは人間として当然なんだ!)
(まてまて、お前の知識から考えるに早急すぎて照れているのではないか?出会って間もないのだぞ?わかり合える以前の問題でなのではないか?)
(なん・・・、だと・・・。・・・、そうだ!俺は顔を褒められすぎてその点を失念していた・・・。女性からは求められ、愛を囁かれることは合っても、自ら囁く機会はほぼ無かった・・・。そうか・・・、これが愛を囁くと言う事!これがお友達から始めましょうと言う事かぁ!)
「すいません!頭撫で撫ででいいです!お友達から始めましょう!」
「・・・、まぁ、いい距離から始めましょう。」
距離を縮める気はないが、本人が納得するなら良しとしておこうか・・・。何だかどっと疲れが押し寄せてくるがこれ以上今は話したくはない。
「では、私は帰ります。青山さんは自分の宿に戻り研修会に備えてください。」
「ファーストさんはその研修会に来ますか?」
「時と場合と時間次第です。」
部屋を出て外で待っていた千代田と望田に取り敢えず青山は大丈夫と伝え、望田と共にホテルへ。今日は最終日だったが長かったな・・・。




