190話 バトルロイヤル 挿絵あり
開始されたバトルロイヤルは静かな立ち上がりを見せる。正面切っていきなりやり合わないのは別にいい。単純に相手を警戒しているから。当然だろう。戦いというのは正対して『ハイ!始め!』で始まるものではないのだから。一応、慣れる為にR・U・Rには全員触っているが、選手達の練習相手がおらず、当初選手同士で模擬戦紛いの事をしていたが本番前に手の内を知ってしまうのはまずいのでは?との意見が上がり、急遽仮想敵の『スィーパー君ver1.0』が訓練用の敵となった。
コレは割と高性能で、使った人のデータを寄せ集めて作ったものだが講習会メンバー。つまりは中位の動きまでギリギリあるデータをトレース出来るらしい。まぁ、全力でやったと豪語するメンバーはいないので強いけどボチボチといった所か。まぁ、色んな職にデータ変換して使えるので普通に強い気もする。
「おっと!ここで動きがありました!山の荒れ地を悠々と歩く・・・、お相撲さん?回しは着けていませんが上半身裸!脂肪を纏っても見える背筋はバッキバキだぁー!」
「制限時間いっぱい待ったなし。見合い相手がいないので出てきたんですかね?体力的には山岳地帯を歩いたり走り回るので登山家並みには持久力はあるでしょうし。」
「ここでルールの再確認です。武器は自由。回復薬は1人3本。一試合制限時間は45分、休憩15分で一コマ1時間としています!気絶判定でドロップアウト。ただ、倒れた身体は一定時間残ります!武器等の奪い取りは違反ではないです!中央スクリーンのアップは勝手に実況席でアップしているので、撮影クルーは好きな所を撮影して下さい。と!ここで銃弾がとんできた!!」
体力だけ考えれば相撲取りは長時間の戦闘には向かない。体重もあるし競技自体が制限時間付きで幕内4分、幕下2分。まぁ、100kgを超える者同士がド突き合うので限界と言えばその辺りが限界なのだろう。息子も鍛えて空手の大会に出るが、乱打戦になればなるほど息は上がって辛そうにしているし。
だが、それがスィーパーとなれば毛色は変わってくる。空を飛ばず、車を使わず。ひたすらに足場の悪い山岳地帯を歩き回ればそれだけでトレーニングになるし、回復薬を飲めば筋肉の超回復なんてものを待たずとも切れた筋繊維は元通り。ただ、1つ言うなら、あからさまに的が歩いているのを見逃すスィーパーはいない。
飛来する弾丸は、サイレンサー付きの銃でも使うかイメージしているのか無音で且つ高速。それに対してどう出るのか?目立ちたいだけの蛮勇ならここで退場だが・・・。
「ふん!豆鉄砲はぁー、きかんでぇーごわす!」
張りて1発、飛来する数発の弾丸はその手で地面に叩き落され、撃たれた弾丸の方角からガンナーのいる位置を割り出してそちらに走っていく。ただ、走り方はマラソンのそれではなく、ぶちかましスタイルなので遅くない!
「鍛えられた足腰にあの速度!よっ!はっけよいのこっただぁ!」
「口火が切られましたね。なんかお菓子の家が別方向に建ってますよ?」
「は?お菓子の家?と!本当に建ってる!おとぎ話の世界はここにあった!ヘンゼルとグレーテルは何処か!」
「1人で迷い込んだら食われるんでしょうね。やだ〜。」
チョコレートの屋根にクッキーの壁。マカロンをあしらった外壁は普通に旨そうに見える。あからさまな罠だが、それを無視するのか偵察するのかは中の人達次第。そして、その中に隠れるのかもまた、作成者次第。多分と言うかトロンプルイユだろう。一応、使用者のイメージ次第でダメージ判定はある。ただ、お菓子のダメージ判定って腹壊すとか?
「あぁ、家が焦げた。避雷針無いけど落雷とは災難だ。」
「いい匂いがして来そうですが丸焦げなら仕方ない、焼き上げ温度は注意して欲しい・・・、また家が建った!あからさまな囮ですが見逃す訳にも行かないでしょう!おっ!あちらでは格闘家同士が睨み合いを始めた!メンチビーム炸裂!前田光世方式かぁ!?」
「ボクシングと柔道かな?どうでもいいけど、モンスターと睨み合うなんて自殺行為。あぁ・・・、動けないのか。足地面に武器刺さってるし多分結合されて・・・、あ〜あ、背後から頭砕いて終了か。いい治癒師がいるな。」
「運営側からのお知らせです。政府公式HPにもありますが、過激な演出は全て仮想のモノです。選手管理場にいる東海林さーん?」
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選手会場
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「はいはーい!本部長殿独占インタビュアーの東海林です!女は度胸!本部長殿のアルバム写真に釣られて一昨日スィーパーデビューしました!写真は許可もらったので本社のHPに大会期間中のみ公開予定!それでは、先程頭割られた2人はこちらにいますが、インタビューは後からになります!」
カメラに映し出された先には地面を殴るボクサーと胡座かいてうなだれる柔道家。武道家としては不本意だろうな。異種格闘技戦をすると思ったら暗殺されたんだし。まぁ、考えが甘い。バトルロイヤルとは闇討ち上等ルール無用、勝てば官軍負ければ賊軍。言い訳は聞かないし本来ならモンスターに頭やられて死んでいる。
恨むなら自分の準備不足だろう。頭に刻印か防具でも着けていれば一撃即死はないのだし。事実、会場で続く戦闘では全身ガチガチ装備の人が、頭に一撃を受けても切り返しの剣閃で相手を叩き潰していた。この前パワードスーツも見たし、企業と契約しているのかあれと似たような風貌だ。
しかし東海林よ。ゲート内で黄色いヘルメットいる?台風中継じゃないんだよ?場所は6階層セーフスペース。護衛と言うか選手引率も講習会メンバーがやっているし、外に出るにも上昇アイテムがあるので直ぐに帰れる。
ただ、ラボや駐屯地は流石に映せないので適当なだだっ広い所に大型化したR・U・R装置を置きその中に選手を入れて戦闘してもらっている。当初問題視された暴発は視覚情報優先接続設定と言うもので回避できたらしい。技術的なモノなので詳しくないが、トレースモードではなく思考優先モードがあったとかなかったとか。ん〜、サイコミュ行ける?まぁ、望田はスピーカーファンネル持ってるしな。
「落ち着いてきたようなので話を聞いてみたいと思います。お二人共どうでした!?」
「・・・、現代忍者に影縫いされるとは思わなんだ。地面や壁は柔道家の武器でもあるんだがなぁ・・・。」
「フットワークを多用するスタイルにアレをされたらな・・・。いや、治癒師を見誤っていた。サポート枠と決め付けて仲間の治癒師は後方に置いてるけど、あんな事ができるなら肩を並べる方がいい。」
「新しい発見は戦闘中に産まれる!いいですね、生きてれば再戦可能!明日以降も頑張ってもらいましょう!何かあれば連絡しますが、一旦会場へお戻ししまーす!」
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中継席
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「落ち込みは分かりますが元気そうでしたね!お菓子の家はそろそろ10回くらい壊されていますがどう思います。」
「単純に離れればいい。どんなに壊しても作成者は出てこないでしょうし、壊している本人が位置を特定されれば誰かの餌食になる。バトルロイヤルならではの戦法ですね。実際、モンスターは興味が惹かれればそちらに行くので実戦でも使えます。」
「おぉ~、理にかなっているという事ですね!ん?爪を研いでいる女性がいますね。今大会は男女別やウエイト制限、年齢制限はありません。完全ガチンコです!」
「文句あるなら私は今後ゲート入りませーん。寧ろ、身長140cm体重22kgの私がガチンコでモンスター倒してるのに泣き言は許しませーん。」
◯◯だから出来ないはスィーパーには通用しない。スィーパーサークルで姫をするなら構いはしないが、最終的に一人残る事になる可能性がある。その時戦えればいいが、出来ないなら後は自分の命で支払いをするしかない。まぁ、そんな人は最初からゲートには入らないだろうが・・・。
「超説得力ありがとうございます!おっ、その女性が動きましたね。様子見は終了と言う事でしょう。って早っ!えっ!格闘家並みに速い!」
爪研ぎ女性は何なんだろう?獲物を見つけたのかどんどん地面を滑るように速度が上がっていく。そして、岩場の影にいたガンナーが発砲するのも受け止めつつ、その速度のまま轢き逃げの様にショルダータックルで吹っ飛ばし、急停止するかと思えばそのままの速度で宙返りして頭を蹴り砕く。ん〜、見ただけなら盾師だけどなんか違う。一連の動作が終われば移動しながら身体のあちこちを触っている。
「盾師でしょうか?クロエさんはどう思われます?」
「違うと思いますがなんとも言えません。実況で生きている選手の職を明かすのはご法度です。それだけで手の内が割れる可能性がありますからね。あっちは千日手してますよ?」
「え〜と・・・、あそこですね!魔法合戦ここにあり!走り回りながら魔法の撃ち合いだぁ!うねる炎に叩き落される水飛沫!おっと!落雷も降っていた!って、鉄パイプの束で散らしましたね。参加者よ・・・、魔法の貯蔵は大丈夫か!」
多分スクリプター。魔術師は今の所風・火・土・雷・水が確認されている。多分五行思想から来ているんだろうが、日本では風が一番少ないらしい。逆に米国とかには割と風がいるとか。多分ハリケーンとかサイクロンの影響だろう。
日本でも被害がない訳でもないが海外の衝撃映像に比べると、どうしても『そんな季節かぁ』で終わってしまう。この中で一番使い勝手がいいと言うか、潰しが利くのが土な様で土木現場から畑まで色々呼ばれるとか。まぁ、本人のイメージと違えば中々上手く行かないので試行錯誤次第だろう。
「お相撲さん頑張ってますね。回復薬を飲んで休息でしょうか?」
「最初に姿見せた分、自惚れと自信のある人は叩きに行きたいでしょうし、そうでなくとも無視はしづらい。既に30分は経過して人数も割と減りましたからね。」
見所は多い。Sも混じって殺り合うのでそれこそ、手を変え品を変え時に空を飛んで銃を撃つヤツもいれば、お菓子の家のヤツの様に潜伏しっぱなしのやつもいる。派手な所に目が行くのは当然で、今やってるのも注目の的だろう。あの男は確かトンコツの人!
「おめぇー逃げんなや!」
「拙者は無益な殺生はしたくないでござるし、ここでやり合わんでもよかろう。なぁ、ラーメン屋。」
「バカか!俺達ゃ出会ったんだ、なら殺らんでどうするよぉ、デブ。」
「明日以降を考えると消費は抑えたいのでござるが・・・。」
「あぁん?てめぇスクリプターかぁ?なら、先手必勝!」
白い特攻服に二丁拳銃。よく分からん装備の金髪が銃を撃ちながらトンコツに近寄るが、思いの外速い動きで弾を躱す。いつの間にか2人を囲む様にギャラリーと言うか武器を携えた人形が取り囲む。ちょっと不気味なのは、身体は外を向いているのに、顔だけは180°回って2人を見ている。
「反復横跳び〜♪更に反復横跳び〜♪からのムーンウォーク!」
「フザけた回避すんじゃねぇ!!」
「いやいや御仁こそ、この弾曲がってくるぅ〜!展開!ポスターシールドォー!」
ポスターと言うがどう見ても魔法糸の布。それで弾を絡め取って弾丸を振り払う。そして、そのまま突っ込みインファイトかと思いきや、1発ロッドで殴って直ぐに距離を・・・、増えた増えた?トンコツの人が2人に増えた。心なしか増えた方は綺麗なジャイアンの様にキリッとしているが・・・。
「ザッケンナコラー!見えてんだよ!その動きもロッドもなぁ!」
増えたトンコツは乱射で蜂の巣にされたが、その隙に忍び寄った本人がロッドで殴る。しかし、金髪は追跡者か。身体の稼働範囲ギリギリの所でそのロッドを銃本体で叩き落とす。あの銃自体も武器か或いは、改造してもらってその形にしてもらったのか?まぁ、普通の銃ならロッドで壊されて駄目になるはずだ。
銃は壊れない、近寄って殴ったロッドは防がれて金髪のもう片方の手には銃がある。もしかして、ガン・カタ動画の人はガンナーじゃなくて追跡者だったとか?ん〜、武器との相性としてはいいんだよな。ガンナーは必中、追跡者は曲芸的な?
「む!パワーアーップ!フッフッフッ!御仁!拙者の本気を知るでござるぅ〜!?」
「なんだ!?って、山ぶっ壊れてんじゃねぇか!何だこりゃ!?」
「世の中摩訶不思議でござるな。ラーメン屋、腹が減って興が削がれたから、後でラーメンを食べに行くでござるよ。」
「・・・、店休ですお客さん。」
金髪は割と真面目なようだ。まぁ、それはいいとして・・・。山が本当に粉砕ではないが崩落した。まぁ、やれる職は1つしかないと思うが崩落に巻き込まれた選手は気絶かな?お相撲さんもその山にいたので巻き込まれたと思うが・・・。まぁ、モンスターと戦闘して楽にダメージ与えるか数を減らしたいならこの方法も有りだよな。
「実際にやられると開催者涙目現象来たー!山1つ崩落です!お菓子の家は残ったのに山は残らなかったぁーー!!」
「あの家は別の場所だからね。いいと思いますよ?装置の負荷は分かりませんけど、動いてるなら大丈夫なんじゃないですか?装置販売は公式サイトからリング探して注文して下さいーい。ギルドには降ろしてもらう予定でーす。」
多数対1をするよりは数減らして1対1にした方が楽だし、土の中ならモンスターも身動きしづらいだろう。そんな崩落した山の中から2mくらいありそうな男が出て来た。穴掘る人ってどうしても樽型体型を思い浮かべてしまうが、この人は兵藤の様に細身のマッチョそれに青い作業着。ないか、やらぁーないか、ないか、やらぁーないか・・・。コレは公式掲示板が悪い。
「計算通りだが・・・、残ったか。」
「この程度で潰れるような鍛錬はしてないでごわす。・・・、そっちの気はないでごわすよ?」
「何の話だ!?それより、やらないか?」
「何をでごわす!」
「それは、殺るか殺らないかだが?」
「ヤるか、ヤらないか!?ほ、法律上はいいと思うでごわすよ?」
「いや、実際にやったら捕まるだろう?」
「そこまで咎められるものではないでごわすが・・・。えぇい、時間も少ないでごわす!尋常に勝負!」
「おう!来い!」
そうして殺り合い出したが、思った以上に一進一退だな。ぶちかましで飛び込むかと思ったが、ジリジリとすり足で近寄り左の張り手1発。この人メインは衝撃かな?職の説明3つ、その中でどれを多用するのか?まぁ、どれでも使えるのだがそれでも、頭を使えば最後に縋るものは出て来る訳で・・・。雄二とか受けられない訳じゃ無いけど切る捌くに置くウエイトが大きいし。
そんな張り手を青つなぎは再開を喜ぶ様に手を広げながら姿勢を低くし、左脇の下に頭から肩までを差し込み右の手で背中の肉を思いっきり掴み、左足を上げて相撲取りの足を刈り取って地面に転がす。可変式大外刈とでも言えばいいのか、相手が服を着ていなければ掴むのは肉しかない。
そして、青つなぎどんな握力してんだろうな?相撲取りの背中の皮と肉が引っ剥がされてらっしゃる。しかし、相撲取りも転がされて距離を取り回復薬を背中で押し潰して回復する。ボルテージ上がってんな。相撲取りとしては背中に土を付けられて頭に来ているだろうし、堅牢を突破するだけの握力というか腕力?も脅威だろう。
そして、それをお菓子の家から双眼鏡で覗くちんまいのと蹴り殺してた女の人は観戦モードかな?お菓子食ってるし。キル数も見れるが小さい方は0人。まぁ、ありだな。手の内を明かさないのも作戦だし、通用しない攻撃を隠れながらすればパーティーにも貢献はできる。どの道個人技能は明日から見れるのだし。
「それでちびっ子、あんたそれでいい訳?」
「ええよ、ええよ。疲れるし物販気になるし。それに、ウチ考えてん。全部モンスターで共食いするなら、残ったモンを倒せばええやん?」
「時間あるけど?」
「ホントはなぃ。ゲートん中なら気にせんでええから、待てばええ。でもまぁ、1人くらいは倒しとこか。おっ!あのにーたん回復薬3本目やね。サクッと殺ってくるわ。」
動かなかったちびっ子が動いて魔術師らしき男の首を背後から掻っ捌く。ん〜、隠密かな?気配もなく忍び寄った様だし、相手は何が起こったか分からなかっただろう。漁夫の利狙いなら正しい選択だな。
そんなこんなで一回戦が終了し遺恨を残した人もいれば、決着のつかなかった人もいる。ただ、一つ言えるのはどれだけ言葉に踊らされたかだろうか?本部長が強いに越した事はない。しかし、長と言うのは指揮官でもある。なら、撤退を選ぶ勇気も戦う勇気も必要で、何より生きて帰らせる知恵がいる。そう、知恵が。中で勝手に全滅されても困るんだよ。生きて帰って何がどう危なかったかのデータがなければ何1つ次へ活かせない。
講習会メンバー全員で話し、バトルロイヤルは特に点数を定めなかった。まぁ、当然と言えば当然なのだがここの場面で見るのはあくまで本人の資質。いくら任命しようとも向き不向きは必ずある。なら、その体制を取れる人選をしなければ意味がない。この戦いだけでもコレだけバラエティー豊かな性格の人がいるんだ、どうにかこうにかいい組み合わせを探らないとなぁ・・・。
 




