21話 秋葉原事変
遅れました、申し訳ないです。
「テステス、望田さん聞こえますか?」
「聞こえますよクロエ、私は今貴女より更に後方の総合指揮所にいます。情報管理は任せてください、ユニーク出現時は・・・急行してください。」
「了解しました、情報管理はお願いしますね望田さ・・・。」
「香織です。」
「え?」
「私の名前ですよ、な・ま・え。呼び捨てにしてるのに・・・敬称で呼ばれるのは変じゃないですか?」
「えっ、あ〜、女性を名前で呼ぶのは何だか照れますね。・・・、分かりました、カオリ。なら、私も司でいいですよ。遊びに来た時名字だと誰が誰だか分からなくなるでしょう。」
「・・・ツカサ。ツカサは帰ってきますか?」
「ええ、帰りますよ。必ずね。サヨナラは言いません。」
「・・・分かりました。ただいまを聞かせてください。」
通信を切る。先程までの喧騒はなく、兵は波が引くように消えた。彼等は粛々と何者かにいたる道を探しに行ったのだろう。願わくは、彼等の道が優しくある事を祈る。
「あんな約束してよかったんですか?」
「人は軽くすぐ消える、約束は繋ぐ為に必要でしょう?」
「そんなもんですか?」
「そんなもんです。帰る理由なんて、ただいまを伝えるだけで十分です。」
「俺には残念ながら相手がいませんね。」
「またまた。酒を飲むんでしょ、私と。」
「そうでしたね、素顔の貴女の方が俺は好きでしたよ。行ってきます。」
「ええ、行ってらっしゃい。」
残った兵藤も支給品の回復薬を俺に渡し、街へ消えていった。空には無数のヘリが死体に群がる蝿の様に飛んている。先手は必ずモンスター、奇襲からのスタートなら不利は必須。ただ、奇襲より早く討てばどうにかなる。キセルを取り出し1吸い。
『まだ行かないのかしら?』
『いくさ。定刻は近い、娯楽に耽りたいのだろ?』
『ええ!私は1人だけどサバトは楽しまないと。メインディッシュは何かしら?楽しみだわ!』
『僕は傍観したいけど、君は許さないんだろ?楽しむとするさ。』
『ああ、お前らは俺で、俺は俺だ。誰かの仕事は俺の仕事だ。遠慮はしない、引く事もない。逝って進め。』
『Yes、マイマスター。さて魔女、バックアップは任せて欲しい。』
『Yes、御主人様。賢者、娯楽は受け持つわ。』
『『指示を。』』
「前へ・・・、前へ、その先へ。炎を駆けて誰其れの先へ。遠く離れた日常へ。」
バイクのエンジンに火を入れる。進む先は互いに相容れぬ主戦場。和解はない、威嚇も降伏も意味はない。在るのは存在を認めないという、一方的な排除意識!バイクを走らせ遠くもない距離を進む。その目の先に映ったのは、この世に産まれた事を示すように、オフィスビルから伸びる一条の光がヘリを穿く姿と盛大な爆発音。
戦端は開かれた。唸るバイクのエンジン音を聞きながら、目に付いたモンスターを倒して走る。
「初めまして、さようなら、付き合ったら、別れましょ?アナタは私の好みじゃないの、結びはないの消えて頂戴灯火の様に。」
燃え上がったモンスターか、蝋燭の火の様に燃え尽きる。雑魚はいい。まだ、出会い頭の魔法で、或いは武器の一撃で倒せる。木霊する罵声も銃声も、それは生きる人の叫び。
「ヨドバシカメラ、小骨出現!向かってください。」
「分かったわ、カオリ。」
小骨、兵藤で手こずったアレ。魔女の言う小骨はモンスター何体分か?分からないが、残せば死者が積み上がる。
「早く、早く、流れ星、瞬く暇さえ許さない。」
バイクを流星の様に変え高速で回す。道すがらの駄賃だ、見えるのならば、それは娯楽として喰い尽くす。
「う、腕が!持っていかれた・・・!殺ってくれ・・・気にするな!」
「クソ!何で背後なんだよ・・・!」
「撃て討て、剣なら斬れ、拳ならなぐ・・・ぐきゃ!」
「魔術師!俺ごと・・・、俺ごと仕留めろ!」
「俺の背中はお前しか・・・クソ先に逝くなよ・・・。」
「やった、やってやったぞ!10体目だ!」
「ファーストか、はは、喪服かウエディングドレスか知らないが逝く前に見るには・・・いいも・・・。」
叫びは多く、溢れるモンスターは後を絶たない。腕を無くし這いずる者、勇敢にモンスターを撃ち殺す者、友を殺され嘆く者、俺を見て・・・笑顔で逝った者。
「気合を入れて楽しみなさい?臆すれば喰われるわよ、笑って騒いでお祭りを楽しみなさい?静寂を楽しむのはまだ先よ?」
バイクで目の前に現れたモンスターを、引き潰しながら兵を鼓舞する。残念ながら休んでもらう訳にはいかない。17倍の戦力差・・・ビルを壊すか。本来なら盾になるはずの遮蔽物が、今回はモンスターの不意打ちに1役買っている。
「カオリ、ビルを消すわ。避難させてくださいな?時間は・・・10分後、秋葉原ゲートから直径600mよ。」
「了解、間に合わない場合は?」
「残念ね。時間は教えてちょうだい。」
祈るべくは避難が間に合う事。ビルが消えれば、いた人は落下する。飛べる者はいいが、それ以外は厳しいだろう。謝りはしない、覚悟してもらうだけ。
ヨドバシカメラまで来ると、小骨と多数の兵が戦っている。ある者は銃で肩を撃ち抜き、ある者は胴体へ回し蹴りを当て吹き飛ばし、小骨は瓦礫に挟まった。
「あら、赤峰。お邪魔だったかしら?」
「いいや、喉が傷んだ所だ。」
バイクから降りて彼を見ると、指は殆どが折れているのかネジ曲がり、メリケンサックもボロボロで片方は砕けている。職に就けば武器がなくとも戦える。しかし、あの手は厳しいだろう。
「これあげる、だから小骨をくださいな?」
「どうぞどうぞ、骨の駄賃にいただきます。」
回復薬と最初に貰ったロッドを赤峰に渡し下がらせる。彼はアンプルの頭部を歯で噛んで割ると、中身を一気飲みし指を確かめた後、別のモンスターを探しに他の兵に声を掛けて駆け出した。
「さぁ、小骨さん。残念だけど時間がないの。さっさと消えてくださいな?」
瓦礫から出て来た小骨は前に見たモノと違い、両手もビーム砲なら、背中からせり出すのもビーム砲、顔は観察型に似ているので、アレが砲撃型を取り込んだのだろう。一瞬赤い光が周囲を照らし、すぐさまビームが飛んでくる。
「瞳は曇り、見抜けない、光りは翳り、届かない、アナタは何を見ているの?っ・・・!・・・そこには誰も、いないわよ?」
ビームの威力を弱め身体を変化させて躱す魔法なのだろうが、残念ながら俺の身体は外見の変化を許さない。魔女が紡いだ魔法は発動と同時に瓦解し、ギリギリで紡いだ魔法でスルリと身体を動かして避けるが、どうやらホーミングがついているようで、直角に曲がって迫ってくる。
『面倒ねぇ、この身体。でも、ハンデにはちょうどいい。』
『御託はいい、叩いて潰せ。』
『えぇえぇ、そうねぇ。前菜で汚れるのも嫌よねぇ。』
「鬼さんこちら、手のなる方へ、追って追われて、絡まって、さてさてこれは、誰のもの?」
キセルでプカリ。手を叩きながらビームを避け、煙を絡め制御を奪う。嫌がるように変則軌道を描くが、それは許さない。そのビームは俺の物、キセルから出る煙をチェーンの様に繋げ、振りかぶって振り下ろし、そのままモンスターを叩き潰す。ひしゃげて潰れて残った姿も煙の様に霧散する。
「カオリ、次は?いないなら適当な相手と踊るわよ?」
「そこから北へ1km地点、ユニークです。それと・・・定刻です。」
「そう、なら消しましょうか。」
通信を切る。願わくは、兵がいない事を。
「優しい風は知っている、アナタの弱さを知っている、疲れたでしょう?佇む姿は過去のモノ、アナタは風と遊びなさい。」
吹き出した風は優しくビルを風化させる。形あるものは何時かは崩れ風化し、風に飛ばされる。悲鳴は多分聞こえない。大きいビルが消えると、兵もモンスターも見やすくなった。次は北へ1km。バイクを走らせながら魔法を紡ぐ。
「私は進む、茨の道を、影なき道を、消えなさい、アナタの影はもうないの。」
モンスター達が透過して消えてゆく。影がないなら幽霊と同じ夢の果へと消えていけ。ここはお前達のいる場所じゃないんだから。
「休むなら下がりなさい?駄賃はモンスターをいただくわ。」
「すまない、下がらせてもらう!」
「ありがとう、またくる!」
「頼んだぞ、ファースト!」
「帰りの駄賃は貰うぞ!」
「お好きにどうぞ、私は行きの駄賃を貰うだけ。」
笑顔を交わし、視線を交わし、声を交わしてひた走る。プカリプカリ、吐き出す煙は増えていく。唸るバイクは常にフルスロットル、私の愛馬は絶好調!雑魚など煙に巻いて消していく。
「あら、パーティーに間に合わなかったわ。残念ね。」
「ファースト、ギリギリでした。」
「命があるなら完勝よ?」
「・・・そうですね。でも、これ以上は無理です。」
無数のクリスタルと兵の死体、その中心で宮藤が上半身裸で無数の傷から血を流し、無くなった右腕を押さえて立っていた。傷口を焼き固めたのか、指の隙間からはケロイドが見える。
「薬は?その血だと引くにも保たないわ?」
「残念ながら、指輪は腕ごと持ってかれました・・・。どこにあるやら。」
出血多量の為か視点は合っていない。話す声に反応するように答えるが、状況は厳しい。足りればいいが、全て渡すわけにもいかない。
「そう、ならこれあげる。2本で我慢してちょうだいね?」
「・・・かけてもらえますか?」
「ええ、どうぞ。」
片膝を付いた宮藤に頭から薬を掛け、一本を飲ませる。身体の傷は癒えるが、腕は生えない。しかし、楽になったのか目の焦点があってきた。
「下がります、死ぬつもりで来ましたが・・・すいません。」
「いいわよ?貴方の分は私が貰ってあげる。だから・・・、引くなら死ぬ気で生きなさい。」
「・・・分かりました、ご武運を。」
泣きながら宮藤は、早くもない足取りで北の救護所を目指す。願わくは、終わりの後に一杯飲もう。数はかなり減ってきているはずだ、ユニークは俺でなくとも倒せる。宮藤はそれを示した。なら、命をかけて倒した者はいるはずだ。
「カオリ、死者の多い所は?」
「そこから北西約2km地点。ツカサ、怪我は?」
「ないわよ?さぁ、行きましょうか!」
進む進む、脇目も振らず、ひたすらに。死者とクリスタルの醜悪にも美しい野を疾く疾く速く疾く速く。行きの駄賃にキセルで叩き煙で殺し、篝火の様に燃え尽きた兵の魂を慰めて、死の原をひた走る。
「いらっしゃいませ!そしてお帰りくださいな!アナタはこの場にお呼びじゃないの!」
クリスタルと死者の玉座の上にそいつはいた。銀色の球体は前見た物ほど大きくはない。出会い頭にバイクで轢き殺そうとしたが、不定形に姿が変わりタイヤに巻き付いてきた。ありがとう相棒、良い走りだったよ。
飛び降りながらバイクに炎弾を撃ち爆発させる。銀色の球体は衝撃でベロリと広がるが、直ぐに元の形に戻る。銀の球を壊すイメージ。真球、完全な球体。衝撃、流される。炎、溶けない。雷、伝導して流される。イメージしろ、壊すのだ。叩き潰すのだ!壊すイメージを定義しろ。それは当然殺せると。
球体から無数の針が伸び迫ってくる、下がって交わして、斜めに跳ねて、足が飛ぶ。巻き戻されるが、相手は待ってくれない、バリアを張ってしなる触手を受け止めるが、花のように広がって、細い針が背中から貫通して胸から生える。
『邪魔ね、まだ固まらないの?』
『不定形で真球。球体は壊しづらい。』
『はぁ、僕がやろう。君は確かに上手く魔法を使うけど、小賢し過ぎる。』
「光る輝く銀の色、汝の姿は鉄の玉、溶けろ溶けろ。汝が触るは猛毒ぞ!」
触れた触手が溶けて落ちる。胸から生えた触手を素手で掴めは煙が上がり、引っ張れば簡単に千切れる。魔法で加速し貫手で串刺し。障子を指で穿くほど簡単に、指先はモンスターを貫いた。これは・・・酸?
『君は身体のせいで、どうも魔法は定義しても相手を定義する事を忘れてしまう。あんな物、ただのパチンコ玉じゃないか。』
あぁ、そうか。燃焼現象をイメージして火を起こしていたが、そもそも、燃える対象そのものはイメージの範疇外だった・・・いや、それを定義するのが怖かった。魔法の制御はかなり・・・いや、ほぼミスしない。だが絶対がない以上、他者をイメージするとそれに塗り替えてしまうのではないかと。
『同族ならいざしらず、ゴミなら何にでもしていいさ。』
『わかった、やってみよう。』
「カオリ、終わったわ。次は?」
「数はかなり減っています・・・モンスターも兵も。そろそろ掃討戦に移行します。」
「そう、パーティーもお開きね。結局、メインディッシュは・・・。」
言い終わる前に妻の声がした。それは終わりを告げるものではなく、最後の戦いへ駒を進め口火となる。掃討戦まで漕ぎ着けたと言う事は、17倍の戦力差をどうにか覆したと言う事なのだが・・・。
『これより中層部のゴミを排出します。総数は1。これにより、強制排出は終了となります。速やかに掃除してください。』
「あぁ!メインディッシュじゃない!カオリ!どこかしら?あぁ、中層のゴミなんて久しぶりよ!」
「不明で・・・は?えっ?ツカサ・・・今、秋葉原ゲート正面の方達の映像が消失しました・・・。多分、最後の1はそこにいます。・・・行きますか?」
既に1歩踏み出している。兵は死に土ヘかえり、化け物は姿を消して結晶になった。帰るものは無機質なドッグタグのみ。被害が減らせたのかは分からない。巻き込んだ本人はペテン師で生きて帰る。なら、これは娯楽であり義務だ。
「えぇ!もちろん行くわ!他は下げなさい。中位にも至れてないなら、足手まといどころかただの無駄死によ。」
「それは・・・ツカサも同じでは?」
「さぁ、どうかしら?でも、誰かが行くしかないのよ?私は私の足で赴いてモンスターを倒すの。それは、強制ではなく私が私の為にする仕事なの。」
「・・・サヨナラは言いません。ただいまを・・・聞かせてください。」
「ええ、必ずね。カオリ、行ってきます。」
インカムを指輪に収納し、荒野に1人。コンクリートジャングルの秋葉原は、今や火と血とクリスタルの海に沈み見る影もない。外に漏れたと言う事を、泣き声の望田は言わなかった。それが気遣いか、有志の頑張りかは分からない。もしかすれば、数は思ったよりも少なかったのかもしれない。
「さぁ・・・行きましょうか!」
風よ風よ私を運ぶ風よ、送り届けてちょうだいな。暗い所から来たお客さん、私はアナタを待ってたの、遊びましょう?語らいましょう?アナタは虚空に何を見る?
空を飛んで秋葉原ゲート附近まで来たが、音もなく静かだ。
それはまるで、ゲート内の耳の痛くなる様な静寂に似ている。しかし、ゲート内には人の声があった。
「あら、私のお人形さん?」
「uavwj'j@3tj2rmjptjgj6tgtj」
「!」
答えると思わなかった相手が、意味不明な何かで答えた。ソーツのそれではない。そもそも、それが声か叫びか産声かは分からない。ただ、やる事は決まっている。
「ごめんなさい?好みじゃないの、消えて頂戴。」
顔は大型の犬の様に見えるが、どこを取っても地球上にいる生物とは似ても似つかない。身体は無数の黒い針が生え、肉と機械を無理やり混ぜ合わせた様な醜悪さがある。
キセルを吸い煙を吐く。先に動いたのは犬だった。何をどうしたらそうなるか、全く分からない。開いた口が閉じる、それだけの動作で左腕が喰われた。
『何がどうなった!?』
『うふふ、いいわぁ。あれ、空間ごと食べてるのよ?面白いでしょ?痛いかしら、苦しいかしら?』
喰われた腕は巻き戻る様にすぐに戻る。煙で巻くが、その煙も喰われ、足が喰われ、腹も半分持ってかれ、中身の無い俺は血も少なく、すぐに元通り、戻ったそばから齧られる。水は飲まれた、火は消された、雷は針で広がり消えて、避けるさきから齧られる。
あぁ、頭も半分喰われた。元に戻る、喰われる、喰われて元に戻る。痛みは残っている、激痛が走り、止み、また激痛が走る。考えるな、ある一言を。その一言を考えれば、途端に全てが瓦解する。
『あはは・・・なら私が聞いてあげる怖いかしら?私は貴方になれないけれど、貴方も私になれないの。ねぇ、怖い?恐ろしい?無理そう?逃げたい?』
怖いかって・・・?無理そうかって・・・?逃げたいかって・・・?
否、否!
怖いさ、無理そうさ、逃げれるなら・・・逃げたいさ。だが、俺の大切な人達をコイツは傷つける!倒す、こんなに訳のわからないモノ、野放しには出来ない!必ずここで仕留めて殺す!
『ふ~ん、僕も君にはなれないけど、君も僕にはなれない。そんな君に1つの助言しよう。君はアレがなにに見える?』
・・・、イメージしろ、あれはなにか?出会頭に何を感じた?何をイメージした?犬だ、ただの犬だ!それ以上でも、それ以下でもない。唯の犬ころだ!加えたキセルから大量の煙が吹き出しモンスターに覆い被さる。
『成る程、ならエノコロ鍋にでもするといい。』
『イメージは固まったわね。』
思考しろ、あれは犬だ。存在を定義しろ。ただの毛の生えた動物だ。動物なら牙で噛み、咀嚼機能するのは当然。
妄想しろ、眼の前の生物は地球にはいない物の仮装だ、ただ殻をかぶっただけの存在だ。ゲートにはいても地球にはいない。
空想しろ、あれはただ、そこにある虚像。本当の姿はそれじゃない。姿はすでに思考した。
操作しろ、塗りつぶせイメージを被せろ。ここは、お前の世界ではない。お前の理は通用しない。その牙は食いつかなければ届かない。
具現化しろ、お前は犬だ。ただ、人の歴史と歩んだ相棒でペットだ。それに間違いはない。
法を破れ、以上の工程をもってお前の姿を確定しよう。お前は力なき犬だ。人と歩み人と過ごした歴史を待つペットだ。
『あはは・・・いいわぁ、面白いわぁ、あれをペットにするなんて。』
『鍋はお預けかぁ、食べてみたかったんだけどね。』
犬からなにかが吹き出し、煙を伝って・・・口から中に入ってくる?キセルを放すわけにもいかないし、口から入っても痛みは無いから大丈夫だと思うが・・・。何かが入らなくなった頃には煙が晴れ、後には静寂と一匹の黒い犬が残った。大型犬程の大きさのそれは、俺がイメージしたモンスターの成れの果て。
すり寄ってくるので、とりあえずおっかなびっくり撫でてみる。猫派の俺では分からないが、多分普通の大型犬だと思う。出生は普通ではないが。とりあえず、ラスト1体は倒した?でいいのだろうか?
「「司ーっ!」」
空を見るとヘリが飛んでいる。撃墜されたヘリを見て以来、飛んでいるのかも分からなかったが、こうして飛んでいるのを見ると、終わったと考えていいのだろうか。名前を呼ばれているが、ヘリの音で誰のものか分かりづらい。
「「司ーっ!」」
犬を撫でながら、降りたヘリをみる。降りてきたのは妻と望田。2人とも泣きながら走ってくる。あぁ、終わったのか・・・。辺りを見回すとモンスターが俺ごと食べたのか、穴の空いた建物が無数にある。復興は大変そうだ。
「司ーっ!生きてる?大丈夫?痛くない?」
妻が駆け寄り、抱きついてくる。
「ツカサ!服、服着てください!全裸です!カメラ来てますから!」
望田が顔を赤らめながら、タオルをかけてくれる。戦いの後だ、服がまともに残るわけがない。ただ、そんな事より早く2人に謂わなければならないことがある。
「帰ったよ、ただいま。」
「「おかえりなさい、司。」」