179話 事後処理 挿絵あり
エマさんからツカサが一人で最終決戦に挑んだと聞いた時、私は檻を作るのをやめようかと思った。でも、それの維持を止めてしまうと、またいらない被害が出てしまう。この役回りは辛い、最初からそう言われていて、スタンピードの始まりから終わりまでずっと辛い。突入する仲間や米軍の方を安全な場所から間近で見る。
音が響けば距離は関係ない。でも、私はここから離れたくない。目に焼き付けて知っておく必要がある。要なのだから。守る者として、守れなかった者達の姿を忘れ無い為に。幸いモンスターの攻撃で檻が壊れる事は最後までなかった。最終排出の宣言後も中層の3体は被害を広げる事なく中位メンバーが倒し、負傷の具合も薬と治癒師でどうにかなるレベル。
残党狩りも進み、後は虱潰しにモンスターを倒し尽くせばすべて終わる。ただ、その終わりにはツカサの張る濃い煙が晴れる事が条件だ。不思議なほど中の見えない煙は、他者を拒絶する様に中に入ろうとも直ぐに外に帰ってきて進めないらしい。そして、下手に入れば負傷する事も覚悟しなければならないと・・・。
日の高いうちから歌い始めた歌は既に何度目になるか数えていないし、たとえ喉が潰れようとも薬で治して歌い切ってみせる。それが私がここに来た意味なのだから。ツカサや高槻さんから貰った薬は既に残り数十と言う所まで来ている。他にも分配したけど、一番多かったこの本部にそれしか無いと言う事は他の所はもう底をついている可能性がある。
ただ、これのお陰で死者は少ない。最終排出迄にこの本部に、報告が上がった数字は約1500名。更に増えるかもしれないけど、秋葉原よりは圧倒的に少なく、薬や治癒師を上手く運用できたのが大きいのだろう。歌う私の横を負傷して死戦期呼吸の様な兵士が運ばれていく・・・。助かればいい、助かってくれると嬉しい。私のいる位置は檻の外、ここなら落ち着いた治癒も出来れば少ないけど薬もある。
既に夜は終わり駆け回るエマや米兵からのモンスター発見の知らせはなくなり、朝焼けの空を望む頃、戦いの激しさを示すかの様に幾度も光を見せた煙の領域は一陣の風と共に吹き飛んだ。そう、煙は晴れたんだ!全員が見守る中で!この状況は記憶にある!秋葉原の最後だ、ならきっとあの人は・・・。
誰よりも先に駆け出す。ここまで防衛に徹し歌う以外に体力を使っていない。風の様に〜♪と歌を頭の中で歌い、たどり着いた先にいた彼女はやはり全裸だった。そして、自身の薄い胸に両手を当てて膝をついて天を見ながら涙をながしていた。
「何処か痛むんですか!?何か必要な事は!怪我は!?」
初めて彼女が泣いているのを見た。当然といえば当然だ。彼と私の付き合いは1年にも満たない。その期間でどんなに言葉を交わそうとも全ての顔を見る事なんて出来ない。ただ、私に取っては彼女が涙を流しているというのが余りにも予想外だった。それも、叫ぶ訳でもなく痛みを堪える訳でもなく、ただ静かに祈る様に。
「大丈夫・・・、大丈夫だ。ただチョット形もなく産まれて消えた者を悼んでいただけだ。」
「それは・・・、メンバーは全員生き残っています。米軍も被害こそあれ、多数の生還者がいます。それでも尚、泣く理由があるんですか?」
「あぁ、あった。でもそれももう終わる。うん・・・、大丈夫。確かにそれはまだ中にあるから。」
落ちていたキセルを拾い上げ、立ち上がりながら服を出して着替え手の甲で涙を拭い、朝日の昇る方を見る。長かった・・・、丸半日強と言った所か。アブザと名付けた者は消えてなくなり、しかし、俺の中にはやはりそれがいる。有無と言う訳だ。確かにあの時あの場には有った。しかし、同時にあの場には無く俺の中に有った。文字通り終わりを生み出したと言う事だろう。何となくその内包されたモノも俺の中に戻って有る様な気もするし、無いような気もする。まぁ、あると思っておこう。少なくとも俺は生きているんだから。
「立って大丈夫ですか?必要ならおんぶしますよ?」
「いや、大丈夫。自分の足でここに来たんだ、なら自分の足で歩いて帰るよ。・・・、ただいま。この言葉を伝えにね。」
遠くから走ってくる人影が見える。あれは・・・、エマや宮藤達に一部の米軍か。小田と夏目の姿は見えないように思うが、負傷者の救護に奔走しているのかな?望田は全員無事と言っていたので大丈夫だとは思うが・・・。
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「クソっ!最後まで戦えんかった!クソっ、クソっ!!」
「落ち着きなされグリッド軍長殿。俺も軍長もダレスもズタボロだ。まぁ、ディルが1番の功労者かねぇ?」
「その点は同意するな・・・、で、ハミング。利き手と利き目を失ってどうやってガンナーを続ける?除隊か?」
「そう言うダレスよぉ、お前だって片腕ねぇじゃねぇか。軍長は両肘から下と左足がねぇ。ちいせぇ傷はいいとして、どうすっかなぁ・・・。」
檻が消え地雷は全てモンスターが踏んで1つもないそうであります。モンスターの残党狩りと共にエマ大佐や他の追跡者等で隈なく探しその結論を出したと聞きました。そして、煙もなくなり終戦だとも。救護所のテントの周りからは勝鬨をあげる戦友達の野太い声が聞こえるのでありますが・・・、自分は自身の事を振り返り悔いています。
悪態をつくのは仕方がないでしょう。クソみたいな戦場でありましたから・・・。攻撃が貧弱なのも、今は諦めるしか無いでしょう・・・。自分はまだ職と言うモノを全然理解したとは思えませんから。ですが、自分のすべき役割をあの戦場でこなせたのか?そう、自身に問いかけずにはいられません。
エマ大佐と合流し辺りのモンスターを狩る中、ファーストが1人最終決戦に向かったと目のいいハミングから聞きました。それは、この戦場の終わりを意味する。そう考えて一瞬全員の気が緩んだその時に、中層のモンスターと思しきものに襲撃され最初はダレス、次に軍長、そしてハミングと負傷し自分も結合中に背中を撃たれましたが、インナーのお陰で吐くに留まり宮藤さん達の到着までどうにか3人を生かす事ができました。
いえ、生かす事はです。負傷の度合いは四肢の一部欠損。或いは軽いハミングの利き目と手。薬があればどうにかなるとは思います。しかし、それも高額で今回の特別報酬で足りるかどうか・・・。まだ3人とも自分よりは年上ですが若いであります・・・。先の長い人生、その人生を自分は守り切る事ができなかったのであります・・・。
「湿気た面すんなディル。俺たちゃ生き残った。形はどうあれ生き残ったんだ。・・・、誇れよ。」
「たまにはハミングがいい事を言う。短かろうがグローブと思えば殴れん事もない。足は義足でも付ければいい。クソみたいなゲートに入って薬が見つかれば多分生える。と、葉巻を咥えさせて火をつけてくれ。」
軍長は両腕がない。奮戦中に切り落とされ、それもビームで焼かれて結合も出来ないであります。増殖するにも腕2本分を捻出するのはなかなか厳しく、自分がすれば他の所の肉を持ってきて増殖するしかありません・・・。軍長に咥えさせた葉巻に火を付け、その煙を見ると不安と安心と申し訳無さが入り交じり心の整理がつかないであります・・・。
「俺は片腕があるからどうにかなるか。ハミング、一緒にゲートに来い。片腕分仕事すればツケをチャラにしてやる。」
「そいつぁいい。下手したら特別報酬まで使い込む所だった。」
強い人達であります・・・。しかし、その強い人達が去るのを自分は見ているしか出来ないのでありましょうか?何ができるのでは?彼等を助けるた為に出来る事は!
「夏目早く来て、ここのテントで最後のはずだから。」
「行くのはいいが、私にも限界というものがある。流石に昨日からぶっ続けで搾り取られれば干からびもする。はぁ、これで相手が女性なら何も文句はないんだが・・・。」
外から女性の声が聞こえたと思うと、テントの扉が開き現れたのは治癒師の二人組です。尻を蹴られてモンスターだと思ったナツメは何だが最初より少し小さくなった樣に見えますが・・・。それよりも、治癒師の中位オダの方が大切です!確か復元師と言う職になっていたはずであります!
「自分はディル伍長であります!この3人をどうか!どうか助けてほしいのであります!!至らない自分では命までしか・・・、未来を守ることが出来なかったであります!」
深く頭を2人に下げて言葉を待ちます。薬を融通してもらえればどうにかなるはずであります!少なくとも遙か先の階層を旅する日本のメンバーならその薬を所有している可能性も、職で治せる可能性もあります!頭で足りないなら、ケツを出して好きなだけ蹴ってもらっても構わないであります!
「あ〜、小春。肉は?」
「ここに来る前に完売、七海は戦闘で食べ尽くしたんでしょ?」
「仕方あるまい、どんどん削られる分を増殖するだけで補うのは些か厳しい。ディルと言ったか?何か肉はないか?一番いいのはゲートの馬肉だが無いならなんでもいい。」
「・・・、あんな不気味なものをどうする気でありますか?」
「私が食うに決まっている。」
押し黙るほかありません・・・。あんな不気味なモノを食う・・・。怖気が走りますが、その前に何で食事なんでしょか?自分は間違いなく助けを求めたはずでありますが・・・。軍長の葉巻から灰が落ちるのを見て、我に返ります。
「じ、自分は持ってないでありますが・・・。」
「俺が持ってるよナツメさん。生憎脚一本程度だが足りるか?」
「はぁ~、足りんが出してくれ。今回は特別に我慢するが本当は女性以外に使いたくない・・・。」
ハミングが不気味な馬の肉を出すとナツメはそれに手を突っ込み、すると肉は消えてしまいました。アレが食べたと言う事なのでしょうか?腹が膨れたなら助けて欲しいのでありますが・・・。
「出すから後は頼む。流石にこれ以上は絞り出せんぞ。子供体型でも厳しくなる。」
「はいはい、なんだかんだでそうやって無理してでも出してくれる所は好きよ?七海。」
そう言うナツメは背が縮み本当に子供の様な姿になり、代わりに手の先からは大小の赤黒い肉の塊がいくつか生えているであります・・・。デーモンとハミングが言っていましたが、その姿はまさに悪魔です。そんなナツメから肉の塊がボトリボトリと地に落ちていくであります・・・。
「ライクよりラブが欲しい。帰ったら凪夏に会いに行くか。行かないと怖いし。では、私は先に出て休む。クロエもそろそろ帰還するだろう。」
「分かった、後は任せて。・・・、さてと。ディル伍長その肉を持ってきて。先ずはそこの両腕と片足も無くなってる貴方からね。」
オダに言われて慌てて不気味な肉を拾い上げ軍長の元ヘ。傷口の観察は終わったのか手には灰色のエピパンの様な物を持っています。灰色の武器と言えば中位の物らしいのですが、あのリボルバーグレードランチャー以外も扱えるのですね。
「取り敢えず腕から行こうか。その肉塊押し付けて。貴方は治癒師?」
「は、はい!輸血等は必要でありますか?」
「その肉塊の血液型はrh null型、ゴールデンブラッドの塊。七海が無理言って取り寄せて今回の為に準備したの。治癒師なら見ておくといいわ。この肉は無理でも馬肉なら代用できるから。」
言われるがままに肉塊を傷口に押し付けていると、オダが目を細めながら肉塊と本人の腕を武器で突いていくであります。この肉の塊とあの不気味な馬の肉は符合するモノでいいのでありましょうか?むしろ、あんなモンスターみたいな馬を取り込んでも大丈夫?
「これは私のイメージだけど、突いたのは腕を縫い合わせるイメージ。それは、表面だけではない神経や骨とかもね。ここで使うのは結合と再生。そしてある程度くっついたら増殖と再生。あんまり古い傷になると身体がそれがあった事を忘れるから更に薬が必要になるけど、その時はあんまり等級が高くなくてもいいかな。・・・、はいできた。動かしてみて。」
赤い肉塊が腕に結合された後は目まぐるしい変化が!赤黒い肉は表面を皮膚が覆い、指の形になり爪が生え内部は見えないでありますが、多分骨もあるのでしょう。言われた軍長は恐る恐ると言った感じで手を・・・、握り込めた!
「すげぇ〜・・・。いや!本当にすげぇー!!」
「はは・・・、ハミング。腕が・・・、俺の腕が生えたぞ!見ろダレス!葉巻だって握れる!」
「除隊は先か・・・、軍長取り敢えずバカンスを楽しんだらゲートに行きましょう。あの糞虫共に俺の身体が負けたのは許せない!」
「それよかやっぱり一番の功労者はディルじゃねぇか!生きてりゃどうにかなる!生きてなきゃどうにもならねぇ!俺たちゃ全員あいつに救われたんだ!やったじゃねぇか!新米伍長殿!」
「痛い!痛いでありますよ!・・・、ぷっははは・・・!」
願いは通じたであります!今ならこの不気味な肉がアンブロシアにさえ見えてくるであります!奇跡です!いや、これは人がなした事です!なら、オダはブラックジャック?取り敢えず、神の手は持っているのであります!
「他の方も処置するんでお静かに。じゃあ、ディル伍長やって?」
「・・・、はいぃ?」
「教えた通りやって?失敗したら結合解除するか、切ればいいだけだから。」
「・・・はいぃ!?」
「見ててあげるから。私達なんて常にトライアンドエラー。空を歩くのだって慣れるまでは、下手したらロケットになる危険を感じながらやってたんだから。他人の身体いじるぐらい余裕余裕。」
ス、スパルタァー!!でも、それに対して逃げないであります!逃げたり悪態を突くのはもっと後からでも出来るであります!今は自分に出来る事からやるしかないのであります!
「ハミング曹長、指を付けるであります!」
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「・・・、局長。こちらの終結は見ているでしょう?」
「あぁ、流石は日出る国。朝日と共に終わったのは嬉しく思う。オーダーは?」
「エマの身柄は大丈夫でしょう。少なくとも今は友軍に囲まれている。ファーストも無事なようです。煙が晴れて直ぐに姿を見ました。」
悪いがスクリプターなので目に焼き付けさせてもらった。ちょうど双眼鏡で状況確認している時だったが、何を見たかは生涯の秘密とする。そう、記憶を扱えるスクリプターとしての俺の生涯の秘密。
「実にいいね。それで、Unknownはヒューストンへ?」
「作戦区域には入っていないと思います。外部支援の米兵からもその話は出ていません。ただ、散発的に発生したUnknownは国連軍、マスコミ、学者、野次馬、義勇軍とバラエティー豊かでしたよ。」
「面倒なのは軍以外だね、よろしい。全て覚えているのだろう?現時点で無理を通そうとしたマスコミは締め上げるとしよう。こちらは既に祝賀会の準備と今回の生データを日本と共有し、更に一般人向けの映像を編集する作業に移行している。」
砂漠の地平線から登る太陽を眺めながら、Unknownへの対処を精査する。全くこんな危ない砂漠に好きこのんでくるヤツの気がしれない。1000名を動かし、それに同行をする羽目になったが成果はあった。檻の周りは内部を視認しづらくする煙が漂い、飛ばされたドローンは撃ち落とした。
面倒な事に報道の自由を叫ぶ連中?モンスターと戦う姿が見たいのだろう?余りにも過激な奴等はヒューストンゲートへご招待して、好きなだけモンスターを撮影してもらう。駄賃は本人達の命だがここで撮影しようとゲート内で撮影しようと変わらないだろう?
「事後処理が終わらばこちらも撤収します。」
「分かった、と。最後に1つ頼まれてくれないかい?なに、簡単な事だよ。ゲート周辺。スタンピード発生地点内を隈なく調査して欲しい。もしかすれば、箱があるかもしれない。」
「箱・・・、ゲート内の?スタンピードはモンスターが外に出てくるだけでしょう?」
「あぁ、だがスタンピードは日本が命名した。ファースト曰く本来は名などなく溢れると言う事だそうだよ。」
何処でその駆け引きをしたのか?いや、それは後だ。仮に箱があったとして、どこの箱だ?ファーストの配信を穴が空くほど見て彼女の言葉はすべて思い出せる。ひっそりこっそり隠されたモノ。その隠された奥の箱が表に出てくる?最後は下層と言っていたが、その付近のものがあるならそれは・・・。
「至急追跡者総動員で探します。日本側が確保した可能性は否めませんが、それでも終了して直ぐに全て回収したとは思えない。」
「頼むよスクリプター。記憶を頼りに追跡者達と探して欲しい。これで0なら私の勘が鈍ったと思ってくれていい。」
「相手は賢者ファースト。相手にとって不足はないでしょう。では!」
「あぁ、帰還を待っているよ。」
電話を切り死体と死骸とクリスタルのある砂漠を見る。終結宣言前にエマや日本からの派遣組、米軍の走り回った地は薄暗かったが、日は昇り鮮明になっている。仕事が終わったと思ったら残業か。ただ、その残業場所が終結地なら恐怖はない。何せここはゲート内ではなく人の住む地だ。モンスターに襲われる心配はない。ジープから無線を引ったくるように手に持ち、外の支援組にフルオープンチャンネルで檄を飛ばす。
「外で見ていた諸君、君達の仕事の時間が来た。これより支援部隊に属する追跡者は私、ウィルソン=スミスと共に終結地に入り隈なく全ての物を回収する。この際ゲート内の箱に酷似したものがあれば即時私に報告するように。とある情報が判明した。その箱は地雷の様に爆発する可能性がある。解除方法は私が知っている。滞り無く連絡をよこせ。」
ジープに乗って檻の中へ。もうそれはないが、そこに漂う香りはまだ戦地を思わせる。今の姿を記憶しろ。それは記録となり精査する武器になる。死んだ兵達に少しでも安全な明日を堂々と見せてやらにゃならん。これでも俺は愛国者だからな。
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「やれやれアライル老。またなにか悪巧みかな?まあ、国の為ならいくらでもしてくれて構わないが。我が国はスタンピードに勝った!弔いは後として、先ずは生きる者達への労いだ。」
「ええ、ハーワード大統領。終わりましたが始まりました。今回の件でまた世界は騒がしくなります。我々が今回の件で得た最大の報酬はファーストとの繫がりでしょう。」
「うむ!アライルが前に言ったくだらん事は一切合切忘れて、私は見目麗しいファーストを見る。・・・、所でファーストは祝賀会に来ると思うかね?食事は大量に用意しよう。プレゼントも多く取り揃えよう。しかし、肝心の本人は来ると思うかね?そろそろ本人とご対面したいんだが。」
「それは・・・、どうでしょうね?日本の時は終了宣言こそ要請で行いましたが、今回の彼女はあくまで巻き込まれた人物。仮に終了宣言を依頼したとしても橘か宮藤に譲るでしょう。むしろ、橘が来るなら覚悟が必要ですな。」
「見るだけで情報を抜く・・・、目隠しでも要請してみるか。功労者を呼ばない訳にはいかないが、抜かれていい情報はない。何より対面して私が視られれば米国は丸裸で、昨日誰と遊んだかさえ知られてしまう。」
「昨日はスタンピードに掛り切り、どこかで誰かと遊んでらしたと?」
「言葉の綾だ。私としては今回派遣されたメンバーとエマ大佐。他にも内部で戦った兵士諸君を招いて大々的にやりたいと思っている。」
「国外に対する牽制と同盟国の親密さのアピールですか。映像の編集は逐次進み、日本側も生データを共有している分早く済みそうです。仮に祝賀会をするなら編集された映像データを公開してからでしょう。勝利はその事実を使わないと価値が下がる。」
「その通りだとも。先ずは国連をサンドバッグの様に丁寧に無視する所からだな。日本側はなんと?」
「今回の件で国連側には不信感を抱いているようですね。そうでなくともファーストは国外行きを相当に拒み、仮に彼女を国外に引っ張り出す方法を探れと言うなら、情に訴えるしか無いでしょう。それも、親密になってからね。逆に滅ぼされていいなら、奥方を攫って人質にするという手もありますな。」
「わざわざ逆鱗を触るどころか引っ剥がさなくてもいいだろう。私は普通に仲良くしたい。キャンディーとかを渡せばよいだろうか?」
「タバコでしょう。銘柄は判明しています。」
「なるほど、プレゼントリストに追記しよう。さて、現在までに分かっている公式、非公式な被害は?」
「米兵死亡者数1702人。負傷者数については限定的に0。これについては派遣メンバーの小田と夏目の尽力が大きい。欠損した四肢や眼球さえ元に戻したという報告がありました。そして、治癒師に手解きをしたとも。他の雑費的な損失としては米軍の支給装備品や買い取ったインナーの破損。この破損については修復機能が働きもとに戻るそうですが、着たまま死亡した場合はマチマチだそうです。残るものも有れば、消えるモノもあると。」
「インナーか、私も一着ねだってみよう。さて、それが表として、裏は?」
「義勇軍は全体数の把握までに至りませんでしたが概ね1万程度と推測し、その中で名を出した人物は半数が死亡か或いはゲート内で行方不明。本当の有志として参加した者は自己責任なので、損失に含みません。仮に損失とするなら、一部有名なスィーパーがいたのでそれの死亡が確認されたことでしょう。」
「裏も表も悪くない数だ。特に表は喜ばしい。秋葉原で80%、今回は更に多く排出されたにもかかわらず、突入する部隊6000名からすれば3分の2以上は生き残っている。」
「ええ、我々はベットする相手を間違えてはいなかったようですね。後は・・・、更なる中位が誕生すれば喜ばしい。あの時のハッピーバースデーが予見する様に。」




