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街中ダンジョン  作者: フィノ
221/849

172話 立ち上がりは軽やかに 挿絵あり

「定刻です、排出を開始します。」


「通りゃんせ 通りゃんせ ここはどこの 細道じゃ


天神さまの 細道じゃ ちっと通して 下しゃんせ


御用のないもの 通しゃせぬ この子の七つの お祝いに


お札を納めに まいります 行きはよいよい 帰りはこわい


こわいながらも 通りゃんせ 通りゃんせ・・・。」


 苛立つ声を頭の片隅に追いやり先を見る。望田は既に檻の構築に入り朗々と歌を歌い上げる。更にスピーカーが増えて今は6つ。歌は通りゃんせか、確かにこれなら入口にちょうどいい。入る俺達や外からの攻撃は行きなので、よいよいと投げ込めるがモンスターからの攻撃は中から出る=帰りなので安くはない。そして籠目歌を歌い出す。かごめは籠目、つまり竹で出来た籠。それの網目は無数にあり編んでいるのなら広げるも狭めるも望田の思い次第。明確に檻と入口を設置してくれるいいチョイスだと思う。


 そして、その歌を邪魔する様に構築された檻の中に極光と爆音が走る。出現と同時に地雷を踏んだか。効果がある事は分かっている。持ち込んだ地雷は約4000。既存の爆薬を調整して作ってもらった特注品。更に警察側が特注したモノは橘が装備してるとか。立ち上がり1発の初手は間違いなく人が貰った。ならばエマが叫ぶだろう!


「先手は我々人類が取った!!ならば何も憂うことはない!銃と共に歩み銃と共に過ごし、腹から出ても寝ても覚めても聞いた咆哮を響かせろ!」


 下されたオーダーに兵が答えて一斉射撃。米兵は1発の銃弾を大切にしない。それをしなくても済むだけの財力があり補給がある。そして、職に就いたガンナーなら無限弾倉は当たり前だろう?鳴り止まぬ銃声はモンスターを食い破らんと檻に殺到し、一条に伸びた黒い光は勲章を彩る飾り紐のように見える。雑魚減らしとしては十分だ。


 エマ自身も浮遊機雷や銃、ドローンやペンデュラム、地雷にトラバサミを檻の中に無差別に放り込ま火力に色を添える。対面に吹き上がる水や炎は兵藤や卓に宮藤か・・・。手をこまねいて雑魚減らしを見る必要はない。本番はこの後にしろ既にモンスターは出てきているのだ。遠慮なんて言うものは投げ捨てればいい。


「対岸より入電!大佐に誘われる前にパーティーが終わっちまうと、ご機嫌な声が来ています!」


「同じく左右より入電!キル数判定不能!食えるだけ食うそうです!」


 蜂の巣にされながらも檻にぶち当たるモンスターもいるが、望田がビームも体当たりも引き受けてくれている。今の所そちらの損害は0、理想的な推移だ。これで終わる訳では無い、しかし、この光景は否が応にも士気を高める。


「このままありったけの弾をごちそうしてやれ!ありったけとは即ち!食べ放題への招待だ!!追加を切らすな!」


「エマ、私も上空へ上がります。後の指揮は任せましたよ?」


「任されタ!」


 俯瞰的に見る為に上空へ。空中で指揮する為のヘリが数機上がっているが、ヘリに搭載されているミニガンが火を吹き地上に向けて掃射している。ヘリにもガンナーか。徹底した遠距離打撃で一陣も二陣も関係なくクリスタルへ戻されていく。普通に考えるなら鉄だけで数トン分の極小地点への絶え間ない掃射。こう考えた事はないだろうか?勇者1人で魔王を倒せるのなら、国の総力を上げて魔王に突撃し、1人で1ヒットしてHPを1削り続ければ倒せるのではないかと。


 ゲームには制約がある。話の関係上勇者の血筋でないと駄目とか、伝説の剣じゃないと駄目とか。しかし、ここにあるのは何もかも最新式の武器でモンスター。古いルールなんて犬にでも食わせればいい。上空から見る限りはかなり有利に進んでいる。出て来たモンスターは漏れなく蜂の巣にされて即退場し、残されたクリスタルだけがそれがいたという証を残す。このまま一筋縄で行ってくれればいいが、そうも行かないだろう。ガンナーの弾を受け止めるものがちらほら出だし、地雷も耐える個体も見える。


「現状はいいみたいですね。」


「橘さんも上ですか。今の所逸って飛び出す者もなければ、逆に飛び出してくるヤツもいない・・・。アレ鑑定できます?」


「耐える個体ですか、やりましょう。・・・、やはりと言う何と言うか、ここから視ただけですが他の雑魚より強い。クリスタルをぼちぼち溜め込んでいるんでしょうね。」


 集中砲火で抜けない事はないが、手をこまねいていても仕方ない。ここでどれだけ減らせるのか?余裕があるうちに楽する道を探すのも1つの手だろう。流石にあの中に飛び込めとは言わないが、こうして空にいれば流れ弾は来ない。寧ろ、それをしたガンナーは戦犯ものだ。狙わなくてもいいが当てろよな?だが、すり潰せるなら潰して貰った方が余力を残せるのもまた事実・・・。


「ん!?」


「あれは・・・、捕食ではなく食事・・・。」


 考えてみれば檻と言うがモンスター達にとっては、ある意味餌場なんだよな。戦う事なく無償で1面にクリスタル(食事)の用意された未知の世界。確かに弾丸は痛いし、下手をすればすぐに死ぬ。しかし、それさえ耐えられるなら激ウマのボーナスステージで見渡す限りごちそうの山。興味を持つ対象は離れているし『空が青いなぁ〜』と、呑気に観光するモンスターなんていない!耐えたモノが落ちているクリスタルを食べ、それに倣うかのように他の耐えたモノも食べだす!


「動くなら今ですね。各員前へ!雑魚がボスに変わる前に攻撃を!」


「了解です、行動を開始します。皆さん暇でしょう?ようやくパーティーに連れて行ってもらえるようです。楽しみましょう!」


「クロエ!何があった!?コチラでは順調に見えル!この火線の中を歩むのは自殺行為ダ!」


「モンスターがこの場で食事を開始しました。このままでは大量のクリスタルを食ったボスが出来上がる!上空から叩きます!」


 インカムを通して動くと宣言した宮藤や、それに誘われた他のメンバーは動き出す。まぁ、この中でまだ空へ来れないのは夏目かな?他の人間は漏れなく空を気ままに散歩する。エアウォークをマスターした小田は揺るぎない歩みでモンスターを仕留めるし、赤峰は空を蹴って進める。


 兵藤は言わずもがな、砂漠に潤いをもたらす様に水を操り、卓は炎の羽で飛翔する。雄二の場合飛ぶと言うよりは跳ねると言う言葉の方が正しいだろう。モンスターを斬った次の瞬間には何事もなかったかの様に元の位置にいる。確かに弾幕がはられた中に進むのは怖いだろう。だが、それでもまだ人の背丈の幅の更に極小点から放たれる弾丸なら、立体的に・・・、それこそ上下からなら倒しに行ける。


「エマ、全体を俯瞰して何処を緩めて何処を厚くするか指示しなさい!上手く誘導出来れば狩り場が作れる!」


「了解しタ!全隊に通達、予定通り私が12時のシンデレラだ!真反対にいる継母は私がビビるくらいに弾幕を濃ク!他はドレスのように包み込メ!」


 兵藤と赤峰の所が1番弾幕が厚いか。まぁ、あの2人なら大丈夫だろう。何だかんだで年も近いせいか遊びに行くこともある様だし、職が対極的な分フォローもし易い。エマの指示で正面の弾幕が緩み、散発的な火線になる。本来指揮本部の守りを固めるのが定石だが、そこの守りが一番固いのもまた事実。望田の歌は未だに戦場に響いているし、後は飛び込めば終わりまで出られないだろう。


「お先に行きます、初舞台なので特等席で遊んできますよ。」


  挿絵(By みてみん)


「橘さんの場合武器=攻撃力です。早々に壊れることはないでしょうが、気をつけて下さい。」


 言うが早いか吹かしたバーニアで最高速に乗り、空から地上へハサミを振るう。それは編集されたがゆえの光景、バリアを出すものはバリアの内に弾丸が出現して撃たれ、そうでないものは鑑定したであろう弱い部分に弾丸が重ねられる。効果は高いバリアを張るものはその有用性に疑問を持つかのようにバリアを外せば、そこになだれ込む狙撃の嵐で蜂の巣にされ、そうでないモノも弱点と思しき場所に弾丸が叩き込まれる。


 ほかを見れば宮藤はやる気に満ち溢れているな。炎の兵と共に弾丸の中を低く走り、突入後は出るモンスターは残さずクリスタルへ還す。炎術師であると同時に記者の職に就く宮藤は伝達と炎を熱と捉えれば、人の熱を伝え聞きそれを自らの兵に拡散し伝承させて戦力強化を図っていける。それに、それだけではないのだ。記者本人は最初に情報を得る第一人者。つまり、ゴシップだろうが過大評価だろうが、納得させられるだけの材料があれば能力を飛躍できる!


「あの日見た光景、怒れる兵士達の咆哮(銃声)、忘れ得ぬだろう・・・、思い出すだろう。あの日の無念を、あの日の無力さを。4856名・・・、ここはあの時のあの場所だ!無念は過去に捨て、先を見よう!」


  挿絵(By みてみん)


 あの戦場で会った兵達は言っていた。また戻ってくると。言った彼が生き残ったのかは知らない。慰問に行った際も何処で何をしていたという問いは一切していない。彼等の戦場は彼等だけのモノ。おいそれと他人が踏み込んでいいものではない。雪崩込む兵達はモンスターを押し潰し炎に巻き確実に、仕事をこなし生者の為の礎となる。煌めく炎はあの日差し出した未来への光か・・・。先頭を征く宮藤さえも炎に霞み、しかし彼の炎は消える事なくクリスタルを回収しながら生き残りのモンスターを処理する。


「クロエ!飛行型を多数確認!手が足りなイ!」


「了解!私も遊んでいる訳には行きませんね。空は貰いますよ。」


 檻に突入すれば辺りは炎の熱気でクソ暑い。当然だろう、外から見ていただけでも吹き上がる炎は多く、橘は時限式にした地雷を空爆よろしくばらまいている。頼もしい反面暑すぎて倒れないか心配だ・・・。まぁ、兵藤がいるから水分は心配ないか。


 エマの言う様に上空にも飛行型がどんどん転送されてきている。見たことあるヤツから本当に初見のやつまでバラエティー豊かだ。しかし、確認している暇はない。エマの不意打ち浮遊機雷で常に先制攻撃している状態だが、確かに数が多くなってきている。


「月の砂漠に舞う砂塵、吹き荒れれば起こる磁気嵐、汝は何モノなりや?肉か機械か化生か賊か?逃れる術はなかろうて。」


 銃撃にしろ地雷にしろ巻き上がった砂は視界を奪う。なら、先にその砂を使わせてもらおう。溢れてからの流れで既に地雷は完売状態、仮に残っているなら突入の邪魔になる。地表の砂も邪魔にならない範囲で巻き上げて上空に作るは砂嵐。機械だろうと生身だろうと帯電させた砂嵐の中ではひとたまりもなないし、コチラに撃ってくるビームも減衰出来る。


 それだけではなく巻き上げた地雷がこの中には詰まっているんだ、踏ませるなんて言う確率論は投げ捨てて、相手に叩きつけて起動させる。…ちっ、全損するモノもいるが半壊でとどまるモノもいるか。


  挿絵(By みてみん)


 ヘリからの火力支援で半壊から全損へ。クリスタルを食われる前にさっさと処理してしまおう。ヘリとて燃料が無限ではないので、後退すれば地上からの射撃だけが頼りとなる。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



ーside ホワイトハウスー



 ウイルソン君から報告が来て定刻となったけど戦力差は50倍。はっきり言って、撤退という文字が頭から離れない。情報局局長として、言わせてもらうならこれは、作戦云々ではなく単純に数の暴力ですり潰される戦力差で、本来なら戦闘続行不能を進言しなければならない。しかし、それを進言しても後はない。


 ちらりと国連軍と言う保険を手放した事が頭をよぎる。この国に入れたくない相手だけど、全くコントロール出来ない相手でもない。口を開き言葉が通じるならまだ交渉の余地はある。そう、交渉の余地が。ただ、今はもう駄目だろうね。義勇軍に忍び込んだ国連の息のかかった者は既にゲート送りにして未だに帰ったという知らせは受けてない。当然と言えば当然だけど、戻ってもすぐにまた入ってもらう。その為に名だしまでしてもらったんだからね。


 仮にこれで逃げ出して行方を眩ませたなら、そいつは2度とこの国の土は踏ませない、人の国で勝手に工作をして失敗したら雲隠れするなんて、私が局長をする間は許さないよ。ただでさえマスコミ対応で追われて何処から漏れたか定刻と戦力差が実しやかに噂されてるんだからね。今の所はまだ否定や沈黙で受け流せる。しかし、場所まで割れたなら面倒だ。追跡取材をした報道局はデータ一式全てを破棄させたけど、人の口は塞がらない。報道の自由を叫ぶのはいい。しかし、それでも時と場合を考えてからにしろ。


「映像でます!」


「・・・、これは・・・。」


「ははっ!いい塩梅じゃないか!出されたオーダーはこなした。その見返りがこの報酬なら、確かに代価に見合う!」


 戦場ジャーナリストとして送り込んだ者は、確かに戦地の映像をホワイトハウスの会議室へ届けてくれた。それも最も理想的な映像として。檻を作る。地雷で嵌める、そして一斉射撃で雑魚を減らす。出させた作戦は何1つ問題なく順調に推移している。そう、恐ろしいほどに型には嵌めた嵌殺し作戦は何1つ問題なく、出現したモンスターを狩り尽くしクリスタルへ変えていく。


 成る程、賢者か。統計学の鬼の様にある材料で最適を炙り出す。このまま順調に推移すればいいけど・・・。排出開始から約1時間、終わらぬ火線は未だに黒いビロードの様にゲートに向かい広がるけど、到頭ここで動きがあった。ファーストが飛び立ち上空観察を初めて数分、日本から来てくれた戦友達が到頭檻の中に入った。米軍にまだ動きはない。しかし、檻の中は既に火と水、砂嵐に包まれている。恐ろしい光景だ。それだけの魔法が使われているのに、視界を邪魔するモノが恐ろしいほどに少ない。本来なら砂塵や土埃で視界を奪われる所をファーストが全て宙へ持っていってしまった。


「アライル、このまま推移すると思うか?」


「いえ、それは希望的観測というものでしょう。作戦は順調です。被害も今の所無い。ですが、それはあくまで立ち上がり。本番はこれからでしょう。」



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[良い点] 橘さんかっこいいけど凄いことになってる… 行き着く先が一番気になる人かもしれません 盛り上がってきましたねこれからどうなるか楽しみです
[一言] サイボーグ説が確定しそうな見た目になってるな >国の総力を上げて魔王に突撃し、1人で1ヒットしてHPを1削り続ければ倒せるのではないかと システム次第では削れない場合もあるしねぇ この世界…
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