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街中ダンジョン  作者: フィノ
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19話 さてさて

「まぁ、カレ等は侵略者ではないので、善意とやらを信じましょう。」


「傍迷惑な存在ですがね。」


 意見交換も終わり部屋を出る。あまり長居しても身体に障るだろう。溢れる事については、ある程度の目処が付きそうだ、かなり心が軽くなった。これで後は検証を重ねれば、いずれ正解にたどり着ける。目下の問題は秋葉原ゲートだが、これもある程度対応が出来るだろう。スキップしながら小躍りしそうな気分である。何なら今サインをねだられたら、サインを書いてキスマークとかつけるかも知れん、やらんけど。


「話は終わりましたか?」


「ええ、有意義な会話でした。懸案事項にある程度、目処が立ちそ、・・・う?」


 外で待っていた望田が話しかけてきたが、ふと思えば難関が残っていた。これは流石に何とかしないと、テヘペロでは済まされない。しかし、1〜2日程度でどうにかなるものなのだろうか?いや、インカムとか使えば・・・。


「どうしました?」


「私は、地方の人間です・・・。」


「そうですね、温泉県の方と伺ってますよ。いいですよね、温泉。」


「それが問題です。」


「問題?何がありますか?終わったら東京でもネズミの国でも楽しんでください。何なら一緒に行きます?」


「私は土地勘も地名も、建物も何も知らない・・・。」


 例えば公民館にモンスターが出たと言われても、俺は何処に公民館があるのかも、そもそも公民館が1つなのかも知らない。というか、例えで出したけど公民館あるよね?


「至急!・・・至急どうしましょう?」


 どうするか・・・ここに千代田はいない。いても問題はないが、多分小煩い。しかし、やるしかない。願わくはバレない事を祈るしかないが、芸能人とて外を歩く東京、大丈夫だろう。


「望田P、貴女はそう名乗りましたね?大至急ジーパン、パーカー、キャスケット帽を準備してください。色やデザインは任せますが、髪をしまうので帽子は大きめで。」


「分かりました、任せてください!では行きますので、橘さんの病室にいてください。」


 そう言葉を残して、彼女は走っていった。何だろう・・・出戻りって恥ずかしい気がする。しかもなんかお互いカッコよさげに別れたばかりというのが、胸に来る。はぁ、ここに立っていても仕方ない・・・中に戻るか。


「あれ、クロエ?」


「気にしないでください、やんごとなき事情です。」


 お互い何だか微妙な感じになったが、先程の事を千代田に連絡して、検証の用意もする。後はゲートのアナウンス次第だが、定刻までの猶予は秋葉原散策と、選定されるメンバーとの顔合わせになるだろう。


 橘と雑談しながらキセルでプカプカしていると、望田が袋を持って帰ってきた。橘は残念な事に中位には至っていないようだ。第2職の習得もないらしい。ただ、本人の感覚ではそろそろという感覚は在るようなので、もしかすればゲートに入る事がトリガーとなり、至るのかも知れない。ただ、療養中では今回の件には間に合わないだろう。


「指定の物は買ってきました、着替えたら変装するので呼んで下さい。帽子もありますが、髪は染めても大丈夫ですよね?」


 変装か、髪は無理だな。試してはないが、前もその事を考えて無理だと判断した。


「髪は無理です。多分色が馴染まない。その他でカバーしてください。」


 病室の備え付けのシャワー室で着替える。脱いだ服は指輪に収納し着込んでいく。パーカーはシャチを模したのだろう、白黒ダボダボで太ももまでの長さが有り、フードの部分はデフォルメされた顔が書いてある。


 薄手だが下着が透ける事はないだろう。パンツは黒の細身のジーパンで正面から見ると、まんま魚のシルエットに見えるだろう。靴はパンクな感じの厚底ハーフブーツで、キャスケット帽にはちょこんと猫耳がついている。


 一度、髪をキャスケット帽に丸めて詰め込んだが、これなら多分、俺がファーストだとバレないと思う。ついでにドッグタグも首から下げておこう、何があるかわからないし。


「こんな感じでどうでしょう?おかしくはないと思いますが。」


 シャワー室から出て、長いパーカーの裾を弄りながら話しかける。袖も指先しか出ず若干煩わしい。ダボダボの服自体は好きなのだが、この袖では箸が持ちづらいし、料理を食べたらソースが付きそうだ。


「クロエ、お兄ちゃんとか呼んでみませんか?」


「クロエ、街中でお姉ちゃんと呼んでください。」


 2人とも疲れているのだろう。橘はニヤニヤしているが本当は脳細胞がかなり死んだんだと思う。洒落抜きで昏睡してたんだし。しかしそうだな、財布の中身は心許無い。ATMにも行けてないし、普段使ってるカードは有るが、情報抜き取りとか東京だと有りそうで怖い。


「お兄ちゃん、お金がないのちょうだい!」


 手を差し出しながら、笑顔で言ってやった!顔が熱い、やるんじゃなかった。寧ろおっさんが金の無心など、人としてどうかと思う。いや、姿は少女!傍目から見たらおかしくない・・・はず!


 いかんな、肩の荷が大分降りてテンションが高くなってる。手を差し出した姿に望田は固まり、橘はニコニコしている。そして、堪えきれなくなったのか、声が漏れた。


「はっはっはっ!かわいい妹の頼みです。カードを持って行っていいですよ。額は限度額までなら許しましょう。」


 多少フラつきながらベッドから降りた橘は、財布を取り出してカードを一枚を差し出して手にのせた。うわぁ、棚ぼたでカード貸してくれたけど、怖くて他人のカードなど使えない。


「冗談です、返しますよ。流石に怖くて使えない。」


「それは貴女の稼ぎですよ?配信の収益口座から引き落とされます。いつ渡そうかと思ってましたがちょうどいい機会です、公務員は副業禁止なので貰ってください。フフッ・・・いいものも見れましたし。」


 騙された!いや、乗ったのは俺だが、手の上で転がされている気がする。カードを見ると俺の名前が記載されてるし、本当に俺名義のカードなのだろう。配信者は華やかなイメージがあるが、税金とかどうなのだろう?仕事も辞めて対策員になったが給料は聞いていない。ありがたく貰うとしよう。


「カードはありがたくいただきます。望田さんメイクお願いします。」


 そして始まったメイクは、はっきり言って煙たかった。望田は雑に髪を丸めた事が気に入らないのか、お小言を言いながら何やらファンデーションやら下地やらを顔にかなり塗られて粉が舞うし、荒れてもリップも塗らなかった口に口紅を塗られて違和感があるし・・・。極めつけは、カラコンだ。確かに紅い瞳は目立つ。だが、裸眼で過ごしていた俺にコンタクトはハードルが高い。


「メイクもしたし、サングラスでいいのでは?正直コンタクトは怖い。」


「えっ!クロエって怖い物あったんですか?」


「人を何だと思ってるんですか?私は少し魔法の使える一般人・・・に、なりたい一般人です。秋葉原の件が終わったら国へ帰るんですから。・・・妻に会いたい、家族と飯食いたい。」


(橘警視、あれは百合ですか?)


(望田さん、対外的に見れば百合です。中身を知っている私としては、愛妻家です。)


 最近やる事が多すぎて妻に電話してないし、今晩あたりしよう。橘と望田がヒソヒソ話しているが、俺の優先順位のトップは妻と家族である。安全の為に俺が泥を被るのは安い。


「望田さん行きましょう。とりあえず、秋葉原ゲートから4km圏内・・・いや、千代田さんから封鎖区域の情報が有るなら、その範囲を歩いて回りましょう。」


「分かりました、確認して回りましょう。秋葉原ゲートから広がるように歩けば、主要な建物なんかも抑えられます。」


 望田の車に乗って、連れて来られたのは秋葉原駅近く。一度ゲートまでは飛んで行ったが、降りてみると辺りは高い建物が多く見通しは余りよろしくない。秋葉原のイメージといえば、メイドさんやアニメのイメージで、駅付近にはアニメのポスターが多数貼ってある。


 過去に事件があったせいで、ホコ天は期間が決まっていると望田に教えてもらった。ゲームのイメージで何かある町という印象が強い。例えば吸血鬼になって人の服を脱がして回ったり、ラジオ会館に何かが降っていたりと。


 現状はゲートの件もあり、迷彩服の自衛官や警官がウロウロしながらゲートを守っているが、街の雰囲気のせいでコスプレに見える。あの中に普段なら、兵藤も混じっているのだろうか?いや、特殊作戦群なら私服で紛れるか。


「さて、どこから周ります?お腹すいたならメイド喫茶とかにします?」


「あー、何も食べてないですしオススメで。その後、主要な建物と名称を見て回りましょう。」


 メイド喫茶でオムライスに猫の絵を描いてもらい、ペロリと平らげる。室内で帽子とサングラスは行儀が悪いと思うが今回ばかりは仕方ない。食べ終わり食後の一服と行きたいが、禁煙なので仕方なくガムを噛み、望田に手を引かれて建物を見て回る。


 考えたくないが、地下鉄がある関係上モンスターの警戒は地下もしないといけないのか・・・。そんな事を考えながら説明を聞きながら歩くが、行き交う人々にもまた、目が行く。


 足立ゲートに行った時もそうだが、スーツのサラリーマンとローブの集団、黒いゴスロリ服を着て白塗の年齢バラバラで性べ・・・ソフトモヒカンでサイドにラインを入れた、イカツイ青年が居心地悪そうにゴスロリを着て、同じ様な格好の女性、彼女だろうか?に手を引かれている。


 何を着ても構わないが、あれは可哀想だ。他にも全身黒尽くめで、エアガンだろう銃を持った女性や、羽織袴の青年等々。多分ゲートに行くのであろう人々の格好はバラエティー豊かだ。しかし、だ。


「黒のゴスロリ服が多いですが、あれはもしや?」


「ええ、貴女の影響ですね。制服効果って知ってます?有名なのだとスタンフォード監獄実験とか。」


「確か映画にもなって有名でしたね。看守と囚人に分かれるやつ。」


 あの実験には賛否両論あるが、事実として制服を着るとスイッチの様に仕事モードにはなる。ゲート内はセーフスペースこそあれ、安全か否かで言えば間違いなく危険な場所。特殊条件下で、何かしら心の拠り所があるのは良い事だろう。


「ええ、それです。魔法関連の職に就いた方は、確固なイメージがあれば別ですが、イメージの薄い方は大なり小なり貴女の格好を真似ていますよ。上がってきた情報では一定の効果はあるみたいですね。」


 背に腹は代えられないと言うけれど、行き着いた先がゴスロリ服。まぁ、死ぬよりはいいだろう。職に対してのイメージで事をなす、ゲート内で活動するなら職とイメージは大事である。


「男性の服を着て配信とかした方がいいんですかね?」


「さぁ?私は職に就いていないので、その感覚は分かりません。」


 そのうち革鎧とかフルプレートアーマーとか、或いは鎧武者なんて物でも歩き回るのだろうか・・・いや、動きづらそうなのはないか。歩き回って概ね地形は分かった。後はインカムとかで指示してもらえば、何とか迷わずに行けるだろう。


 秋葉原ゲート周辺に帰ってきて、辺りに一般人は減ったがそれでも人は多い。千代田と話を詰めるのは明日で、多分リミットも近い。


 メーターではないかと言われていた赤い光は、もうすぐゲートを1周しそうに見える。辺りは、大分暗い。そろそろ引き上げるとしよう。汗でメイクが崩れる事はないが、何だか気持ち悪くてメイクも落としてしまったし。


「てめぇ!職はなんだ!前衛をバカにするのか!?」


「ファーストは魔法職だ、なら魔法職の方が上だろう?僕は魔術師だ。君のような脳筋とは違う。」


 声が上がり、2人を囲う様に人集りが出来る。喧嘩か、喧嘩と火事は江戸の華と言うけれど、今やらんでもいいだろう。背が低いせいでよく見えないが、前衛と魔術師の何かが言い争っているらしい。


「武器は抜いていますか?」


「私もよく見えませんが、まだ・・・抜きましたね。長い棒が見えます。ここでじっとしていてください、職に就いた警官か自衛隊の方を探してきます。」


 ゲート内で兵藤と話したが、職に就いた人間の小競り合いや喧嘩は多くはないが、ゼロではないらしい。当然と言えば当然だが、力を持ったら使ってみたくなる。ゲームで新しい魔法を覚えれば、エフェクト見たさにザコ敵にも使ってみる。


 ただ、問題なのはここはリアルでゲームではない事。彼等はゲームの様な力を持って、ゲート内で何かしらの対決をするなら構わないが、外でそれをされると被害は甚大。守ろうとしている街を、今壊されるのは辞めてほしい。


「抜いたのなら、被害が大きくなる前にどうにかしましょう。確か、現行犯逮捕なら一般人でもできましたよね?それに、望田さんは警官でしょう?」


「貴女は要人です。今怪我でもされたら、これからの予定に・・・日本国にとっての損失は計り知れません。ご理解願えますか?」


 気さくに話してくれるが望田はSP、警護対象が危険に飛び込む事に賛成はしない。顔を引き締めた彼女は、俺の手を放さぬ様握りしめてくる。


「魔法職?俺より早く動けるか?」


「動く前に灰になるか?」


 2人ボルテージは上がっている。冷水でもかけたら落ち着くとは思うが、生憎兵藤は見ていない。望田は職に就いていないし、やり合う前ならやりようはある。


「約束しましょう、怪我1つなく抑えると。実際に動き出せば面倒ですが、今ならまだどうとでもなる。」


 彼女の顔は晴れない。ただ、このまま行けば多分どちらかが死ぬ。剣士の彼が魔術師を撫で斬りにするか、魔術師が剣士を火だるまにするかは知らないが、和解しない以上、結果は出る。


「・・・、信じろと?」


「秋葉原ゲートの件で戦う者の実力、少し見てみたくはありませんか?」


 見上げた俺と彼女の視線が交差する。彼女の瞳の中には好奇心と職務への葛藤が見て取れる。やはり、彼女はいい人なのだろう。職務に忠実で、人の傷付く様を見たくない。


「長居はしませんよ、車を回して下さい。事を収めたらすぐ撤退しましょう。」


「・・・分かりました。人を呼んですぐ車を回すので、それ迄に収めて下さい。信じてますよ。」


「ええ、すぐ収めましょう。」


 その言葉を聞いた彼女は、遠くに見える警官達の方へこちらを気にしながら走って行く。望田は配信しか知らないので、戦う姿は気になるのだろう。要警護対象でもあるし。魔女は人のイザコザなので興味はないのか囁いてこない。


 それは賢者も同じ事、見ているかもしれないが興味はないようだ。ガムを飲み込みキセルを取り出しプカリ。ニコチンが入っているのかは知らないが、揺蕩う煙は心地良い。


「ちょっと通して下さい。」


「えっ、あ?」


 道が開くイメージを載せた声を聞いた人々が、徐々に道を開けて彼等の姿が見えるようになった。どうやら高校生くらいかな、息子を思い出す。ボルテージは上がっていると思ったが、魔術師は火の玉を自身の周囲に浮かせ何時でも発射出来るようにしているし、剣士は脇構えで少し腰を落としている。突撃して下段から斬り飛ばす算段なのだろう。


 お互い相手を倒すイメージは固まっているのか、いつ飛び出してもおかしくない。なら、イメージを壊す所から始めよう。


「2人ともそれまで、これ以上は死ぬよ?」


「外野は黙れ!俺の剣は無敵だ!魔法なんかに、負けない!」


 煙を吐きながら邪魔なサングラスを外し歩く、剣士の彼はコチラに反応した。無敵・・・そのイメージは弱い。だって、それに成れない事を人は理解している。


「君の方こそ、死にたくないなら来ない方がいい。僕の炎は一度着いたら消えない。」


 魔術師の彼は悪くないイメージだが、それもやはり破綻しやすい。火は着いたら何時かは消えるのだ。それこそ、蝋燭の灯火が永遠でないように。


「職に優劣はない。君達の職は君達が自身で択んで、何者かに成ろうとしているのだから。・・・他人は関係ない。今言った事、君達は確固なイメージができるかい?」


「え?」


「な!」


 魔術師の炎は煙に巻かれて、小さく消えた。動揺して揺らいだ火は白煙上がれば鎮火の証だ。火災現場後を見れば、それは当然(・・)。剣士の彼は激昂したのか斬り掛かってきたが、煙に巻いて前後不覚にする。見えない剣は振るっても届かない。


「クソ!秘剣・風神の太刀!」


 ふむ、煙を切るなら風か。彼のイメージも悪くない。荒れ狂う風が迫るが、神を名乗ろうと真空ではないただの風。見た事ないそれをイメージしても、いずれは霧散する。


「風は吹くものだ、残念ながらソレは空に上って凪いで行く。」


 煙が風に入り込み、雲の姿で霧散する。ああ、失敗した。荒れ狂う風は確かに消えた。だが、確かに風は吹くのだ。帽子を飛ばされ白い髪がフワリと広がってしまった。


「ファースト?」


「え?いや、服が違う。」


「でも、あの声ファーストだろ?普段着?」


「普段着も可愛いじゃん!」


 やばい、このままではもみくちゃにされる。望田の車は・・・よし、こっちに向かってきている。何なら自衛官達も車に並走して走って来ている。


「聞いてほしい、君達は力を得た。その力は自分の力で、誰かと比べるものじゃない。人と同じで得手不得手は有るが、優劣はない。自分だけのイメージを持って考えてほしい、自分が何をすべきかを。・・・そこの2人。筋はいいんだ、頑張って!」


 言葉を残して浮び上がり、望田の車の近くに降りて急いで乗り込んで、窓を開けて叫ぶ。今回被害はないし、力を急に持ったんだ。しかも高校生と言う多感な時期に。それなら、これくらいでいいだろう。


「お小言で済ませて上げてくださいねー!」


「窓締めて、行きますよ!」


 望田が乱暴に運転する車に揺られて、ホテルに到着。ゲートを出て漸く一息つける。今回も同じ部屋で外には男性SPが立っていたので軽く挨拶をして、さっさと中に入り湯船を張る。ゴスロリ服じゃないので、すぐに脱がなくていいか。


「怪我はないですか?痛い所は!?暴風が吹いてましたよ!脱いでください!」


「いや、怪我はないですよ?服を引っ張らないでください。」


 望田が服を引っ張って脱がそうとするが、何で風呂も溜まってないのに服を脱がにゃならんのだ。寒くはないが、裸族ではない。


「本当になんともないですから止めてください。SPとしての職務もあるでしょうが、どこも怪我してませんから。」


「本当ですね?ならいいですが・・・何かあったら言ってくださいよ?」


「ハイハイ、悪かったら望田お姉ちゃんに言いますよ。」


 おどけた後に椅子に座ってタバコで一服。地形は分かった、一般人の職に就いた人も先程の感じなら、そこまでは悪いわけじゃなさそうだ。まさか技名を叫ぶとは思わなかったが、あれもまたイメージを固めるなら有りだろう。兵藤も呪文の事を言ってたし、剣士や格闘家がイメージを固めるのなら有りだろう。


「聞いてもいいですか?」


「なんですか、かしこまって?」


 変に望田がソワソワしているし。何か聞きづらい事だろうか?それならまあ、全てを答えられる訳ではないが、答えられる事なら答えよう。彼女に対面の席を進めると、素直に座り口を開いた。


「事が終わったら国へ帰るのは、本気ですか?東京は楽しいですよ?美味しいものも、娯楽もありますし。」


「本気ですよ?東京は確かに、余り回ってはいないですが、秋葉原も楽しかったです。でも、妻も家族もいない。出張ならいいですが、留まる事はないですね。」


 そう答えると、彼女は悲しそうな顔をする。会って数日だが、彼女とは何だかんだでほぼ毎日一緒にいる。せっかく出来た新しい友人と離れるのは寂しいと言った所か。


「死ぬ訳じゃないんです、会おうと思えば会えますよ。」


「・・・そうですか。怖くはないんですか?」


「モンスターですか?そりゃ怖いですよ。何がどうなってるか分からない化け物なんですから。でも、まぁ、逃げたら逃げたで、逃げ切れる訳でもないし、先の未来を考えると、ね?」


 モンスターの溢れた世界は、異世界転生よろしくな世界になるのか、はたまた押し負けて荒野になるのか。分からないが、1つ確実なのは俺は生き続けると言う事だ。


 世のため人のためと殊勝な心持ちはあまりないが、家族や妻に害が及ぶなら、それは叩いて潰す以外ない。最初からやる事は決まっている、迷う事もない。


「・・・クロエ、私も護って貰えますか?」


「ん?当然ですよ?お世話になってますし。」


「・・・はぁ、分かりました。当日私は貴女のバックアップに回ります。同じ戦場に立てませんが、頑張ってください。」


 何やら吹っ切れたような顔の彼女だが、バックアップしてくれるのはありがたい。後は千代田や自衛隊がどう作戦を練って持ってくるか。そして、それが上手く行くか。いや、行くかではなく行かせるんだ。


 人一人の手で守れるモノは少なく、その少ないモノも指の隙間からポロポロ溢れていく。今回の溢れる件で知ってる人、知らない人含めて多分死人が出る。だが、その事で悩むのはナンセンスだ。残念ながら俺の背には、既に背負うべきものがあり、守るものも決まっている。


「死なないでくださいね?」


「その点については保証しましょう。必ず生きて帰ると。」


「貴女の所に、があれば完璧でしたね、1本貰っていいですか?」


 彼女が吸うとは知らなかった。タバコを口にくわえ1本取り出し彼女に渡すと、魔法で火を付けるよりも早く彼女は、俺のタバコの火に長めに自身の加えたタバコの先を押し付けて、火を灯して吸い出した。プカリと吐き出された煙は互いに混じり合い、どちらの煙とも分からなくなり1つになって消えていく。


「お風呂沸いたみたいですね、今日はゆっくり休んでください。では。」


「・・・ええ、では。」


 彼女が去った後の部屋には、無花果の香りがした様な気がした。


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[一言] タバコ同士をくっつけて火を貰う・・・ブラック〇グーンとかだと男女だけど百合タバコとは新ジャンルやな・・
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