表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街中ダンジョン  作者: フィノ
208/847

163話 その一言が出た 後 挿絵あり

「核もエマ少佐も望み薄。今だされている犬の映像さえ私達は恐怖を覚える。・・・、ならば問おう賢者殿。我々に一体なにが出来る?」


「さぁ?私には首を傾げるくらいしか。私は米国側が何が出来て何が出来ないのか知らない。判断材料もなしに適当な事は言えないし、それを軸にされると本番で何があるか分からない。必要な事は事実の積み上げです。」


 米国側が出している作戦は普通に戦争する分には有効だろう。核を3発もぶち込めば普通の都市なら陥落するし、国としても立て直しするのに相当の時間がかかる。


 エマを主軸とした作戦も対人戦闘なら有効で、下手をすればワンサイドゲームも可能。だが、相手は人でないモンスター。空を飛べばいつ降りてくるかも分からず、拳銃で撃てば玉を消す。職に就かずに殴りかかれば溶かされて、そもそも近寄る前に殺される。


 互いに理不尽を通しているし、そもそも最初に貰った警棒もただの警棒ではなく分解ロッド。それの頭には一般的なとさえ付く。出土品はこちらの理解を超えているし、薬1つとっても効力は人の作るそれ以上。さてはて、次の作戦は何を出してきてくれるのかな?


「クロエ、端的に聞ク。クロエが出した作戦以上のものを立案できるカ?」


 静観していたエマが聞いてくる。積み上げる事実と記憶にあるピース。難しい事ではない。必要なのは知っている範囲の事を当て嵌めていきその中で出来る事を模索する事。お願いもされていないので、俺の事は省いて考えるとすれば・・・。


「ん〜、場所が砂漠というのはいいです。不意打ちもしづらければ、視界もいいので砂埃が巻き上がらない限り連携は取りやすい。オタワ条約で地雷を嫌うなら、頭数を減らす為に総掛かりで袋叩きにするのが有効でしょう。ゲート内で我々も不意打ちされているので、アレをやり返すと思えばモンスターの対処が若干遅れる。当然ですが、モンスターは外の世界を知りませんからね。その分付け込みやすい。


 航空機を使うならヘリですね。自衛隊と検証しましたが、戦闘機では小回りが効かなさ過ぎる。ホバリングして空のモンスターを集中的に倒せば、下への被害を減らせます。まぁ、何が出るかによりますが、ヘリの搭乗員は1番死にやすいでしょう。撃墜されても個人で飛べるならその限りではないですが、ランダム軌道で好き放題飛ぶモンスターを仕留めるないし回避しないといけない以上楽観視はしない方がいい。


 砂漠で戦車は無理でしょうが、装甲車を使うならガンナーのイメージ次第。当然と言えば当然ですが航空機に乗るのもガンナーです。良かったですね、エマが前に言いましたがガンナーは豊富なので、既存の兵器に載せても仕事をしてくれる。それが立ち上がりとして出せるもの。


 広範囲を消し飛ばす魔術師がいるなら、かなり余裕は出ますが先程言った、仕留めきれなかった場合の対処は難しくなる。エマが1人で4km圏内を殲滅できると言うなら、更に分は良くなりますが最後の1が残るし、そもそも今回のスタンピードが秋葉原と同等と言う保証はない。」


 そこまで話してキセルをプカリ。米国にガンナーが多い事は聞いているし、自衛隊からの要請で装甲車もヘリも試した。戦闘機は流石に離発着が出来ないので試せていないが、そもそも砂漠に滑走路はない。中層近くのモンスターは魔法を当てても生き残るものもいるし、付け込む隙は外界に興味を示した瞬間くらい。


 出せと言われて米国の状況を考えると、出せるのはこれくらいだろう。それに、賢者は前回が少量だと言った。なら、今回はそれ以上の可能性がある。中層のモンスター2、3体でも今の米国だと滅びる可能性まであるな。


「まっ!待って欲しい!秋葉原以上の可能性があると!?」


 誰かがそう口走ると、他の参加者も一斉に口を開き話し出す。ある程度予測していたであろう人間は顔をしかめる程度だし、帰ってきたウィルソンは疲れているがキリングの息子とか言う奴が駄々を捏ねたのだろう。あの話以降米国側に全く良い風が吹いていないので本当にプライドが暴走しただけとか?


「推測の域は出ませんが可能性はあるでしょう?最初に交渉したのは私です。そして、掃除が遅いと尻を叩かれているのも、また私です。中層のモンスターを倒せばいくばくかの猶予は貰えるようですが、どの程度倒せばいいか私にも分からない。」


 クリスタルをどんどん外に出せば、猶予は増えるのだろうが今のメンバーでどうにか45階層。中層に向かうのは少し時間的に厳しい。他のスィーパーに継続して中に入ってもらい、少しでも猶予は稼いで欲しいが、それはもうゲートのメーターを見ながらやる以外方法がない。


「手詰まりかな・・・、私も出来る事を積み上げたがもう積むモノがない。ミスィーズファースト、君はまだ積むものがあるかい?」


「積むとするなら他国の事と捨てるくらいでしょう。日本政府は静観、私も要請なしには動かない。なら、それ以外に積むものはない。顔を知った誰かの為なら骨を折るのも吝かではないし、家族の為なら喜んで折りましょう。でも、顔を知らない誰かの為に勝手に折る骨はない。」


 エマは助けたい。ただ、そのワガママで国や人を動かす訳にも行かない。取って付けて与えられたような本部長と言う役職だが、それでもその役職には意味があり必要とする人もいれば、守る家族も日本にいる。初撃で失敗したなら次弾を、それで駄目なら次を・・・。


「やれやれ…親愛なる愛国者諸君!誰も頭1つ下げずに何を願うというのだ!共に矛握ろうという東方より来たりし賢者殿!お願いだ(プリーズ)!再度言おう!プリーズだ!クロエ=ファースト!米国民の為!君の友人の為!私は声を大にしてお願いしますと叫び頭を下げよう!」


  挿絵(By みてみん)


 画面上、アライルの後ろにあった扉が蹴り飛ばされるように乱暴に開けられ、1人の良く知っているが、全く面識のない男がカツカツと足音を鳴らしながら入って来て、カメラの前で叫んだ後に90度に腰を折って頭を下げる。アライルがプリーズを言うと思っていたが、まさか彼が頭を下げるとはね。


「おやめください大統領!貴方の頭はそんなに軽々しく下げるものではない。」


「耄碌したかアライル局長!私は必要な時以外頭を下げない主義だが、必要な時は頭どころか肩書さえ質に入れる。」


 テレビで見た事はある。印象としては演説が上手い。俺より歳上だが活力に溢れている。来日した際は割と日本観光を楽しんでいたとか?しかしまぁ、ここまで熱烈にお願い(プリーズ)と言われたら断るなんて出来ないじゃないか。少なくとも、千代田にも言ったが俺は最初から行く気ではいる。要はそれを納得させるだけの材料がなかったのが問題だったのだが、今とびきりの材料が舞い込んできた。


「改めて名乗ろう。現米国大統領ジョージ・ハーワードとして、同盟国日本にいるスィーパーの長に尽力を願う!」


 なんだか暑苦しいな。フロンティアスピリットとでも言えばいいのか、国を回すならこれくらいグイグイ来ないといけないと言うのか、度胸や行動力が必要と言うか・・・。横のエマもあっけに取られているし、ウィルソンは額を手で打っている。アライルは宥めようとしているが、既に言葉は放たれ引っ込みはつかないだろう。


「1つ前置きとして、日本政府がどういった見解を出しているかは知りません。そして、個人が何を考えているか、或いはどういった思惑があるかもまた、私は知りません。」


「それは日本政府に先に願い出ろと言う事かな?」


 松田に大井、この2人が来ているなら派遣要請の件は既に読んでいるだろう。ただ、面倒なのは国同士の面子。お願いされなければ勝手に行く訳にも行かないし、サポートもなければ報酬や怪我や死亡保証もない。極端な話、すべて自前で揃えろと言われかねない。だが、たった1言お願いしますと言われれば、全ての事態は好転する。ただまぁ・・・。


「それがスムーズでしょうし、最適解でもあります。まぁ、それで突っぱねられたなら、私は個人として渡米(・・)するとしましょう。友人の家を訪ねるとして、ね。」


「!、その時は国賓待遇としてこっそりと持て成そう!見たまえアライル局長、ちゃんとお願いしないから話がややこしくなる!たった1言頭を下げてお願いしますと言えばこうも話がスムーズになるではないか!」


(クロエ良かったのカ?個人で約束してしまっテ。)


(必要な材料は貰いましたからね。報酬云々は後から話せばいいですし、代価に見合わないと思うメンバーは来ないでしょう。ただ、自身の足で歩むというのは、そう言う選択肢を取れると言う事でもあります。全員が全員渡米すれば何が起こるか分からないのもまた事実。鬼の居ぬ間のなんとやら、残ったメンバーは国内の守りを、着いてきたろくでなし共には報酬を。そして私は友とろくでなしを守る為、仕事をするとしましょう。)


(ありがとウ。その言葉以外今は送るモノがなイ。)


(友人ならそれで十分でしょう。)


 指定された戦場は存外に制約も少なく、事前の策を行うのに支障はない。しかし、交渉次第では檻をはる人間がないかもしれないという問題はある。ただ、松田達との会談では、派遣そのものは要請があれば吝かではないと言っていたし、材料ももぎとった。後は決断力と行動力。誰が行くにしても行かないにしても、進めた準備の分だけ生存率が上がる。


「大統領、それでは今までのパワーバランスが・・・。」


「パワーもパスタもない!人民の人民による人民のための政治、我々政治家は国民を守る為にあり、そのトップである私は危機的状況に対して如何なる手段をもちいようとも、終息の目処を立てねばならない。ならば、最適な人物にお願いするのはとても自然な事だろう?ここでボサッとする暇はない、すぐさま日本政府と会談を開きスタンピードによる派遣要請を行う。」


 ジョージがバンバン指示を出しているが、こちらも千代田達に連絡を入れるとしよう。あちらはあちらで損害やら派遣規模やら、何なら望田を連れて行ったなら檻の強度について激論を繰り広げているかもしれない。ジョージがコチラに来たのは仕込みか勘か、はたまたどこかで話を聞いていたか・・・。ウィルソンが話を漏らした?まぁ、どうでもいい事だ。


クロエ:プリーズを大統領から貰いました。


千代田:了解しました、松田さんに連絡します。

    我々より先にその言葉を引き出して頂いて

    ありがとうございます。

    コチラはお願いされたと言う立場で話を進めます。


 あちらは立場が明確になったので、更に踏み込んだ話をするだろう。さて、話が終われば人選か。松田や大井は何人出す気でいるのだろうか?初っ端から全員派遣とはならないだろうが、10人程度は出すと思いたい。個人に任せてもいいが、多すぎても少なすぎてもなぁ・・・。再起の為に予備戦力は必要で、全員で行けば確かに安全性も増すが、それと同時に嫌な話だがモンスター次第では全滅もあり得る。


「ふぅー。ミスィーズファースト、今回の会談はとても有意義だったよ。歳を取ると面子を気にしすぎてプリーズの一言が出ない。渡米して来て会える日を心より待っているよ。」


「ええ、アライルさん。渡米した際には豪華な料理とガッポリな報酬を楽しみにしています。なにせ、遊ぶ暇なく砂漠に行って、終われば帰って半月もしない間に選出戦が開催される。」


 非常にタイトなスケジュールとなりそうだが、それでも時間がない。日本からダラスへのフライト時間を調べれば約12時間、そこからゲート移設予定のモハーヴェ砂漠へ移動したとして、目算で多くとも更に12時間。つまりは丸1日移動に費やす事になり、後は発生まで骨休めと現場の状況を確認すれば後は発生を待つばかりとなる。


「ゲートの移設は既に開始されているのですか?」


「ああ、米軍が総力を上げて作戦実行中だよ。ワシントンからモハーヴェ砂漠まで空中給油を繰り返しながら、ノンストップで進めば今晩にでも予定地点へ着くだろう。」


 喜ばしい事に動きは早い。これなら状況次第では砂漠直行ではなくダラスで一泊して身体を休める事も出来る。後は本当に内閣総理大臣が決を下すだけ。流石にこれは、松田の一存では決定できない事柄だろう。


 そんなバタバタの会談が終わり、駐屯地へ直行しメンバーの意思確認。みんな米国へ行きたいかー!と横断クイズのノリで聞くと、全員が応!と答えるあたり会談中に話は回っていたのだろう。その後真面目に本当に行きたいのか?死亡のリスクはあるし五体満足で帰れる保証も無い事を説明し、再度挙手による決を取った。しかし、井口が右手を上げれば赤峰がその手を降ろし、降ろされれば左手を上げるが、その手をまた赤峰が降ろし最終的に後ろから抱き締めるような形になったのは微笑ましい。


「各個人の意志は確認しました。全員派遣とはならないと思いますが、人選はこちらで決めさせていただきます。一旦ブレイクとして、なにかやる事がある方は用事を早めに済ませて戻ってきてください。」


「クロエ、私ゲートに行ってくる。」


「はいどうぞ。遥、危なくない様に誰か連れて行って。」


 スマホを見るが千代田からの連絡はまだない。多分、両国首脳電話会談が長引いているのだろう。流石にこの時期にわざわざ顔を突き合わせて呑気に話し込む余裕はないだろうし、エアフォースワンで飛んできてもそれなりに時間がかかる。揉めるとすれば派遣人数と国と個人に対する報酬と保証だろうか?まぁ、その辺りは上手くやってもらおう。アライルにガッポリ報酬寄越せとは言ったのだし。


「クロエさん、ちぃとばかしいいかい?」


「赤峰さん?それに井口さんもなんですか?戦地に行く前に『この戦いが終わったら結婚するんだ』なんて言うありふれた死亡フラグとか立てないでくださいよ?寧ろ、そんなフラグ立てるならへし折る為にお留守番決定ですが。」


 特に左手の薬指に指輪は見えないので、婚約報告ではないと思う。赤峰が井口の手を降ろさせていたあたり、既に婚約通り越して入籍報告とか?お熱い2人なのでその話もあながちない訳では無い。寧ろ、ゲートなんて死の近い場所にいるせいか、割と講習会メンバーの性欲は強い。セクハラ対策の為に大っぴらには話さないが、男性メンバーはどこどこの風俗行ったとか、女性陣は彼氏がさ〜とか言う話も聞く。


「当たらずも遠からずなんだがよぉ・・・。俺が全部背負うから裕子は今回の件から外してくれねぇか?」


「はぁ、それはまあこれから人選を考えるので出来ない訳では無いですが、鋳物師は現地で武器のメンテ及び複製要因として考えていました。なにか込み入った事情が?」


 赤峰が井口に目配せをし、井口はそれを受けて左手の薬指にシルバーリングを・・・。えっ!?ガチ死亡フラグを建設中なの?結婚や婚約は非常に喜ばしい。何なら人口減少中なので仲睦まじく産めよ増やせよは、俺は出来なくなってしまったが大いに結構。


「私達入籍しました。それとですね・・・、一月ほど月のものがですね、遅れていましてですね・・・。」


 あ〜、うん。生理不順は聞く。一般的にもあるし、ストレスなんかで遅れることはある。しかし、講習会メンバーには当てはまらないんだよなぁ・・・。言わずもがな、回復薬がぶ飲みしているので、身体は健康以外あり得ない。


「色々と調べてもらって妊娠2ヶ月。回復薬のおかげか悪阻もねぇ・・・。事態は分かってるし、それと同じくらいあぶねぇのも知ってる。だから、どうか全部俺が背負うから外しちゃくれねぇか!」


 本日2度目の90度お辞儀。全部背負うねぇ・・・。なら、背負ってもらいましょうかねぇ。クソほど重い家族ってものを。しかし、言い出すタイミングが今でよかった。これが後になればなるほどゴタゴタが起こる。それに、行くメンバーにも良い目標ができるじゃないか。


「分かりました。これから2人には厳しい事を言います。」


「はい・・・。」


「おう・・・。」


 神妙な面持ちの2人だが、別に何も悪い事をした訳ではないので堂々としていれば良い。2人での人生設計に横からとやかく言われたからと言って、捻じ曲げる必要性もない。まぁ、スタンピードの知らせは寝耳に水だったのだろうが、次に同じ様なメンバーがいないとも限らない。


「井口さん。本部長として名がありましたが、その任を解き赤峰さんの副官として赴任先に同行する事。赤峰さん。今回のスタンピードには参加、不参加は自身で井口さんと話し合って決めてもらいます。家族の為に引く勇気、仲間の為に戦う勇気。話し合った結果を私は最大限尊重しましょう。


 そして最後に!盛大な結婚式にメンバー全員ご招待する事!怖いですよ〜、ビール攻めに冷やかし、結婚したい勢の殺意の眼差しに恐怖の余興。と、まぁここまで言いましたが、結婚とご懐妊おめでとうございます。メンバーにも公表してください、生きて帰るいい目標になる。」


 2人共ぽかんとしているが、話した内容が頭に入ったのか顔はそのままに抱きしめ合っている。よきかなよきかな。キセルを取り出して窓開けてプカリ。兵藤の彼女欲しいアピールが結婚したいパフォーマンスへクラスチェンジして、そろそろ殺意の波動に目覚めるかもな。


「クロエさん、結果はあるんだよ。井口の分も俺は背負う。だから、連れてってくれ。子供に安全な世界を見せなくちゃならねぇ。」


 抱き合っていた井口もそれは納得していたとばかりに離れて、赤峰の手に手を添える。しかし、これで人選と本部長の席について練り直すことになった。まぁ、席については選出戦前なので枠を1つ増やすだけで済む。問題は人選で鋳物師がいないなら、個人でどうにかする方向になるな。鍛冶師を取ったメンバーもいるが、複製するのと改造するのは別物で時間の掛かり方が違う。


 人数報告は来ていないが、考える人選としてはエマは番外として、望田は必要。小田と夏目は回復要員として連れていきたい。あの2人がいれば欠損までどうにか出来る。宮藤は連れて行かないという選択肢はない。寧ろ、残れと言ったら俺が焼き殺されそうだ。米軍との連絡役で兵藤と答えを出した赤峰、雄二と卓も外円にいたので、スタンピードに対する思いは強い。コレに俺を含めて9人か。一応、9人選んでおけば大丈夫かな?赤峰と井口が教室に戻ると程なくして声が上がる。どうやら早々に発表したようだ。



 9人選んだとして、他のメンバーもそれぞれ思う所はあるだろうし、割と責任感も強いので行けない事を嘆く人もいるかも知れない。だが、連れて行かないからと言って遊んでいてもらう訳ではないのだよ。どれだけ稼げるか分からないが、45階層付近のモンスターを狩ってもらう。そんな算段をつらつらと立てているとスマホがなった。着信は松田から。珍しい、千代田ではないのか。


「もしもし、どうしました?松田さんからなんて珍しい。」


「急ぎが良いかと思いまして。今電話会談が終了しました。今回の件は出来る限り外部に情報を漏らさず2国間のみで処理する事になりました。」


 ふむ、それは全然構わない。構わないが、どこかがちゃちゃを入れようとでもしたのか?テレビで速報が流れるくらいだから、耳の早い国は既に何かしらの応援準備をしている可能性がある。国の関係性だけで考えるならカナダとかイギリスかな?


「それはかまいません。行く人員数さえ決まればコチラはすぐにでも動いて現地入りしたい。」


「人員は10名。国内を空っぽにする訳にも行かず、さりとて少ない数では疑問が残る。1名は橘警視正を連れて行って下さい。米国からの要望です。それと、動こうとしたのは国連軍です。」


「人員は了解しましたが・・・、国連軍ですか。確か、今の国連のトップは赤い国の人でしたね。どさくさに紛れて何かしようとしていたと?」


 最近仕事をする国連だが、何か良からぬ事を考えていた?あり得るのは国連主導で解決したと公表し、俺や中位を根こそぎ顎で使えるないし、協力関係があるとアピールしたかったとか?もしくは、逆に戦力が足りないから教育者として誰か派遣しろと言いたかったとも考えられる。派遣して見守るだけで漁夫の利は得られそうなので、旨い話に乗りたかったのだろう。


「そこまでは不明です。ただ、貴女は橘くんとゲートに姿を現して以降、日本にいなかったと言う事になります。」


「それは・・・、アライルさんに言った様に友人の家に遊びに行っていたと?」


「ええ、米国側の配慮です。貴女はエマ少佐の家へ遊びに行っていてたまたま(・・・・)知らせを受けた。米国はスタンピードの件で日本政府へ(・・・・・)頭を下げた。これで米国は個人へ頭を下げたのではなく国同士の・・・、同盟国へ頭を下げて要請を出したとし、貴女は偶然居合わせたから友人を助ける為に奮戦した。こういう筋書きです。これなら今後誰かが貴女へ要請を出そうとも突っぱねる事ができるし、国としても同盟国同士の強固な繋がりをアピール出来る。」


 流石政治家と言った所か。ここで国益を出すあたりタダでは派遣する気もなければ、派遣代金を吹っ掛けるだけ吹っ掛けるつもりだろうし、向こうの面子を立てる事も忘れない。大きな貸しと言うやつだろう。幸いというか、ここ数日はゲートとホテルの行き来だけだし、誰かに見つかった記憶もない。問題はエマが見られていないか?という点だがそれは夏目にお願いしよう。似たような姿になって『それは私だ!』とでも言ってもらえば確かめるすべはない。


 しかし、こちらはプリーズを求めたが、あちらは他の一言を求めていたようだ。それこそ、友人の家に遊びに行くと言うようなニュアンスの一言を。大統領に頭を下げるのはめろと言っていたが、あの場には日本側からは俺しかおらず、仮に下げたのを見られたとしても俺が言いふらさない限り外に漏れる事はないだろうし、何なら映像もあちらが持っているので証明できない。


 予想外だったとすれば煙で映像を流した事だろうか?あれに音声があれば、もしかすればジョージは来なかったのかもしれない。まぁ、いずれにしても推測の域は出ない。決まった仕事もあるし、動ける範囲でさっさと準備に移ろう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
評価、感想、ブックマークお願いします
― 新着の感想 ―
[一言] 橘が指名!アメリカわかってるな〜 アメリカのスタンピード後では橘の方が人気でそう(笑) 前から怪しいと思ってました!橘ロボット説は本当だと思う(キリッ!
[一言] ヘリは墜ちるだろうね 今でさえ安く撃墜されるから高価な攻撃ヘリの出番は減ってるんだし むしろ盾師とガンナーをグライダーとかに乗せたほうが安全かもしれない >今の国連のトップは赤い国の人 赤…
[良い点] 「クロエと会えるよ!」「やったねウィルソン!」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ