153話 エネルギー充填完了 挿絵有り
普通の馬を早く走らせたければ足で合図を送ったり、ムチを入れればいい。しかし、コイツは普通ではないのでそんな事をしても速度は変わらない。まぁ、強いて言えばイメージを明確にする事が合図になるのか。幸いあそこのイメージはそれなりに作りやすい。飯食ったり爆弾貰ったりしたしね。国旗もあれば灯台もある。キセルをプカリと吸いながら、両手で魔法で作った糸を操る。操ると言っても形だけで落ちないようにするだけだし、キセルは煙で口から離したりしている。
「ねぇ、司。」
「何だ?」
「待ってるって言ったわよね?」
「ああ。」
「今この時だけ顔見えないから言わせて。待ってるのは辛い、離れた所で危ない事をするのを知ったうえで送り出すのは怖い、そして、愛する人を送り出したくない。」
背中に暖かいものが触れる。多分、額と涙だろう。負担をかけているとは思う。1人で家を守って救護所を開設して息子の世話をする。専業ではなかったにしても結婚後はパートしかしていない。俺も妻とは離れたくないし、早く帰って日常とは言わないが家で生活したい。
猶予にスタンピードにモンスター。いいさ、俺であっても問題ない俺の仕事だ。やり方がどれくらいあるかは知らないし、冴えたやり方なんてクソ喰らえ。必要なのは幕引きで俺が出張らなくてもいいシステムだ。それさえ構築出来てしまえば、時間が出来る。
「何度でも・・・、何度でも言うよ。ただいまと。それを伝えに帰る場所に君がいる。だから、そこで待っていてくれ。」
「はい・・・。」
馬上で手綱を少し長く持ち替えて、妻とキスを交わす。長いキスは互いに舌を絡め求め、濃厚になり互いの口内を犯す。燃えるような恋は十代までと思っていたが、燃えるような愛は永遠だろう・・・。
「…それで、俺はいちゃつく2人を見せつけられたと?頭冷やすなら水出しましょうか?いくらでもずぶ濡れにしますよ?」
「いや、まぁ、ほら、犬に噛まれたと思って諦めて下さい。きっと兵藤さんにもいい人できますよ?」
「そうそう、他人に嫉妬するよりは自分を磨いた方がモテますって兵隊さん。」
妻と2人で慰めるがこれもコミュニケーションの1つだよなぁ。いきなり迷彩服の兵士がいたとして威圧感はある。それを払拭するなら何かしらのユーモアで第一印象を取っつきやすい人や、ちょっと変わった面白い人に持っていく方が後々動きやすい。
事実として言葉のニュアンスから妻も警戒を解いているし、対応としては成功だろう。残された問題点としては兵藤に本当に彼女がいない事だが、俺の交友関係では紹介できる人も講習会メンバーくらいだし、それはもう共通の友人枠だろう。他で探すならタバコ買いに行くコンビニ店の店員とか?
流石に話し込む事はないので、紹介するしないの段階でもない。そうなると、後は他のメンバーからの紹介を待つか、ナンパをしに行くしかない訳で・・・。スカウトがてらそういう子も探せばいいと思うよ?うん。
「慰めはいーですー、2人で来るのも知ってましたしー、おっ始めてなくってよかったですしーしーしー。」
誰が来ても良かったが来ても良かったが、これは明らかな人選ミスでは?まぁ、兵藤も本気で言っているわけでもないし、内輪ネタと言うやつである。セオリーとしては・・・。
「まぁまぁ、中で飯でも食べましょう。両手に華、2人から御酌されれば『おっ!あのイケメン実は凄い人なのでは?』って感じで株も上がりますよ?」
「職務中なんで飲酒はちょっと・・・。」
「真面目か!っと、今日までは休みのはずでは?」
「まぁ、御上の事情です。アレの設置見てこいってね。」
背後を親指で指すのでそちらを見ると地面を弄る人が1人。暗いが迷彩服を着ているようなので自衛隊員だろう。触っては少し移動してを繰り返している。
「何してるんですかあれ?」
「採掘家の穴掘りですよ。前にクロエさんが要請したんでしょう?太くて長いのが欲しいって。埋設部分20m、露出部分50m合計70mの電波塔を設置するにはまず穴を掘らないとね。ただ、掘削機でチンタラ掘るには時間がかかるってことで穴掘りのスペシャリスト、採掘家の隊員に穴掘り依頼したって所です。俺も初めて見ましたけど、中々壮観な掘りっぷりですよ。」
「へ〜、スコップで掘るんじゃないのね。」
「莉菜は見た事あるのか?採掘家。」
「ええ、庁舎の柱を立てる時にスコップ持った人がいて、すごい勢いで穴掘ってたの。真っ黒いスコップだったから多分武器よね?」
法律的には外で武器を出してはいけないが、それが武器と断定出来ないものはグレーゾーン。まぁ、スコップで穴を掘るのは犯罪でもないし、その辺りは細かい使用要項があるだろう。草案の時は明確に武器と判断出来なければ大丈夫と書いてあったし、キセルも武器なので駄目と言われたら外で吸えない。
ライセンスを発行するようになれば、そういった物のガイドラインも作られてくるだろう。既に国内では出土した武器の売買もやってるのだし、全てを取り締まるのはナンセンスだ。
そんな話をしていると、隊員が立ち上がって歩き出しこちらへやってきた。見た感じかなり若いな。20代前半・・・、下手したら任期制で入隊したばかり・・・。いや、階級が3曹なので自衛隊高等工科学校卒とか?それなら18でも3曹になれるし、防大出なら部隊配属の時点で曹長なので階級が合わない。
「準備完了!これより掘削開始します。そちらの方達は・・・、いえ!危険は少ないですが離れて下さい。」
「了解した。範囲が分からんから指示を頼む。」
ビシッと敬礼した隊員に兵藤が答礼し隊員を先頭に歩き出す。ただ、若いので仕方ないが後ろをそんなに気にしなくていいぞ〜。振り向きたいけど、振り向いたら悪いと思っているのか時折顔がこちらを見たそうに動いている。
「兵藤さん紹介してくださいな。」
「一木3曹、年は今年19だったかな。自衛隊学校卒でSではないですけど、珍しい職なので1番能力を使えそうな施設科に配属されて早々とここの建築やらに携わってます。」
「一木です、ファーストさんですよね?感激だなぁ、本部長に会えたのも嬉しいのにファーストさんにも会えるだなんて。後で握手して下さい。」
兵藤の紹介が終わるとくるりと回れ右して話しかけてくる。坊主頭が初々しい。しかし、まだ20代でもなかったか。人懐っこそうな笑顔を浮かべている。しかし、スコップを持ってない所を見ると何かしら別の方法で穴を掘るんだろうか?
「一木、さっさと始めよう。これが終われば後ちょっと仕事して俺も休みだ。」
「了解です。では、発破!」
ポンッとワインのコルクを抜くような音がすると、先程一木が触っていた所に見る見る穴が空いていく。発破と言っていたのでダイナマイトでふっ飛ばすようなやり方を考えていたが、こうも静かにあっさりと掘れてしまうなら楽ちんだろうな。特に土が周囲に飛び散るような事もなければ、掘った土が積み上がる事もない。・・・、えっ?空間歪曲とか?
「あれってモンスターに使ったらどうなるんですか?」
「小さい穴だとそこまでダメージないですけど、広げて行って輪部を超えると倒せます。ただ、材質というか鉄とか硬そうなものだとあんまり広がってくれないので、何個か差し込む必要性がありますね。なので色々と工夫が必要です。それに、ある程度までは広がるんですが、自分が未熟なせいか更に広げようとすると爆弾とかを使う必要があります。
なので、戦う時はもっぱらくり抜きや刈り取りで攻撃して、穴掘り自体は落とし穴とか作る時に使うくらいですね。他の採掘家の人はドリルとか持ってるってネットでは見ましたけど。」
一撃必殺とは行かないのか。近寄ってみると直径40cmくらいの縦穴が空いており、穴の近くにダーツの矢の様な物が落ちていた。多分、これが一木の武器なんだろう。しかし、ダーツ一本でコレだけ穴が掘れるなら相当楽だろうな。
自衛隊の教育時代に何度穴を掘らされて手に豆ができたか。そもそも穴1つ掘る時の単位が教本には、1人時どれくらい、つまりは1人で何時間という表記で書かれている。戦場で掘るので仕方ないだろうが、班で掘っても軽く2〜3時間。正式な物を作るなら更に時間が必要。そして!教育が終わると言われるのだ、近くに林とか隠れる物があるならそれに隠れろと・・・。野原なら仕方ないが、もう2度と手掘りで穴とか掘りたくない。
「どんどん掩体掘って手掘りしないで済むようにして下さい。」
ガッチリと両手握手。握った掌がゴツゴツしているので、職に就く前は手掘りでも掘らされていたのだろう。施設科なので穴掘りは日常作業だとしてもご苦労な事だ。
「えっと、ファーストさんも石とか好きなんですか?」
「いえ、特には。どちらかと言えば嫌いですね。」
「そうね、畑の邪魔な石どかす時大変だったもんね・・・。」
掘っても掘っても埋まっている大きな石。耕運機入れるにも邪魔だったので、軽い気持ちでどかそうとしたら結局の1日作業になって最後の方は意地だったな。
「しかし何でそんな質問を?」
「コイツは石が好きなんですよ。前に大学の先生だかの地質調査任務に同行した時も、2人で盛り上がってましたからね。」
「違いますよ兵藤さん、石が好きなんじゃないです。石を割るのが好きなんです。中に宝石とか入ってないかなぁ〜とか、黒曜石出てこないかなぁ〜とか。そう言えば、ファーストさんは大分の方でしたよね?いいですよね、姫島とか。天然記念物なので採れないですけど、黒曜石の一大産地じゃないですか。」
うっとりしながら話しているが、石割りかぁ。小さい頃テレビ見てそこら辺の石をハンマーで割った記憶はあるな。大体何も出てこないが、たまに黒曜石とか葉っぱの化石っぽい物はあった。好きが高じて採掘家か、適性もあったんだろうし天職だろう。
その後他の自衛隊員が駐屯地から出てきて、電波塔と言うか柱を数人がかりで立ててしまった。普通ならクレーン車とか必要な作業を人力でしてしまうのは中々壮観で、ちょっと棒倒しの棒を立てているようで面白い。防大では伝統的に棒倒しもするので、割とお手の物とか?
「莉菜、外観とかは覚えられそうか?」
「大丈夫よ?今見てるものを記憶に結合するから。」
「奥方は器用ですね。小田、講習会にいる治癒師は戦う方は出来ても記憶をイジるとかは出来ないっぽいです。夏目の影響かダイエットは出来るみたいで・・・。」
「兵藤さん!そこ詳しく!乙女の問題解決の為にも!そのダイエット術を事細かに詳細に教えてください!」
「こ、今度詳しく聞いておきます。」
妻が兵藤に詰め寄るがそんなに太ってるとは思わないんだよなぁ・・・。まぁ、女性の永遠の課題と言うやつか。最近ではファッションショーでも痩せ過ぎのモデルは健康的でないのでやめようという動きもあったが・・・。それはさておき一旦半田の所へ。時間は13時を過ぎてボチボチ腹の虫も暴れだす頃だろう。
味楽の扉を開いて中に入ると、相変わらず板前衣装の半田がカウンターの椅子に座って読んでいた新聞を折り畳んで元気に『らっしゃい!』と声をかけてきた。さて、前の約束を果たそうとしよう。
「お疲れ様です半田さん。生きの良いのが入ってますよ。」
「そいつぁありがてぇ。それにしても、旦那も良いご身分ですな。両手に大輪の花、男冥利に尽きる。ファーストさんは別として、こっちのべっぴんさんは旦那の好い人かい?」
「あら大輪の花だなんて大将さんお上手!でも、私の相手はもういるのよ?」
妻が嬉しそうに半田の肩をバシバシ叩いているが、俺の横にいる兵藤は真顔である。そして、どこか考えあぐねる様な声で半田に。
「・・・、大将。夫婦の間にドカリと座る男ってどう思う?」
「そいつぁお邪魔虫だ。夫婦仲がいいのはいい。」
「だ、そうなので端っこに・・・。」
「行かなくていいんで真ん中に座る。御酌されて水っ腹になるまで飲む。」
「冗談ですけど、端でいいですよ?久々の夫婦の再会でしょう?」
「お礼も兼ねた御酌だと思って下さい。そのうちちゃんとお酒も飲みましょう。今回は烏龍茶でいいですか?」
気遣いは嬉しいが、まぁ烏龍茶を飲め。飲みすぎても水を操れるんだから問題ないだろう?俺から御酌をされて1杯、妻から御酌をされて1杯と飲む横で半田に大量の魚を渡す。生きがいいとは言ったが打ち上げられて3日物。普通なら腐っているが、この魚は腐る気配もなく水に入れると泳ぎだす。
エラ呼吸の魚に謝れと言いたいが、腐っても邪魔にしかならないので、総合的に見て許してやろう。そんな魚を蜘蛛のようになった半田が捌きながら口を開く。
「えっと・・・、ファーストさん?そちらの方は?」
「妻です。今回は地方への回復薬搬送ルート確保の名目で同行しています。」
「はぁ〜、昔なら美男美女。今の時代は美女と美女。そのうち美男と美男もあるのかねぇ。長く生きてみるもんだ。」
歴史的にはハーバイ聖歌隊とかあるが、今からそれを立ち上げてもむさ苦しいだけ。美女と言われた妻は嬉しそうに出された魚を食べているので良しとしよう。今更性別の話をするのはナンセンスだ。ある程度飲み食いして店を出る。悪戯心から妻にマロングラッセ味の魚を食べさせたが、憤慨してこめかみをグリグリとされた。骨はないが痛い。
駐屯地の外まで来ると、相変わらず不気味な馬が何処からともなく走ってくるが今はお前達に用はない。これからするのは地方と地方の者が手を繋いだら途中からでも一緒に潜れるのか?という実験である。これが可能なら在宅ワークならぬ地方ワークも捗るし、何よりゲートに入るメンバーが各地に分散したとしてもチームを崩す事なく探索出来る。
弊害と言えば悪用されると犯罪が起こりやすいと言うところだろうか?数は少ないがゲートを連れ込み宿の様に扱うクズもいるらしく、返り討ちに出来れば問題ないが出来なかった場合は被害届も出せない。治外法権の弊害だが、早くギルドを稼働させて正式な補助者を作りたいな。
仮にゲート内でそんな輩を見つけたら簀巻きにして奥へ投げ込もう。大丈夫、生きて出られれば心を入れ替えるさ。入れ替えなければ見つけ次第何度でもどんどん奥へ投げ込む所存である。まぁ、現状として中継地点はこの駐屯地くらいしかないので、少ないとは言え、入ってすぐに襲いかかるようなバカもいないだろう。
他で怖い事と言えば麻薬の密輸とか?ゲート内ならほぼ素通りで国内に持ち込めるので1番面倒なのはコレ。政府としてはかなり意見が割れているらしい。と言うのも麻薬による脳の萎縮が回復薬で回復できるらしい。ただ、幻覚とかの症状や中毒性はあるようなので引き続き取締を願いたい。
「それで、どの検証から始めます?」
「地続きなのは少ない結果ですが証明されました。なら先に退出検証をしたい・・・、と、言いたい所ですが妻もいるので脱出アイテムを先に試しましょう。どの道コレも試さないといけないですからね。お時間取らせてすいません。」
「いいですよ、帰ってくるまで駐屯地の奴らに稽古付けときます。どの道本部長になったら指導も入ってきますからね。帰ってきたら呼びに来てください中にいます。」
そんな兵藤を見送って顔を隠し妻と手を繋ぎ外へ。有り得る可能性として、脱出なので1番近くのゲートへ放り出されるんじゃないかとも考えたが、それは杞憂に終わり入った時に見た町並みが見える。顔を隠しているので騒がれないが、ボチボチと学生服の若者達もいる時間帯に差し掛かっている。
「それじゃあ、また行ってくる。今日はここでお別れだ。」
「うん・・・、怪我に気をつけて早く戻ってきてね。いくら巻き戻るからって無茶しちゃ駄目よ?何処にどんな落とし穴があるか分からないんだから。」
「肝に銘じておくよ。じゃあ、行ってきます。」
「ええ、いってらっしゃい。また、ただいまを聞かせてね。」
妻と別れの口付けを交わしてセーフスペースへ。名残惜しいが送り出されたのだ、兵藤も待っているし仕事を片付けるとしよう。現れた馬をとっ捕まえて駐屯地をイメージ。速度は最速で加速なりワープ出来るのなら、どんな形でもいいので疾く速く。こんな事を思っていたせいか、馬の走破速度が上がっているような・・・。
体感だけなら前よりも早く、時間としても30分くらい短縮してゲート内駐屯地へ到着。警衛に許可を貰って兵藤の場所を聞き、駐屯地内へ入る。うん。わざわざ場所聞かなくてよかったかな?男達の声と水の音が聞こえる。その方へ行くと、グランドの様な場所があり、空を飛ぶ兵藤が水球を浮かべ楽しそうに地面へ撃ち出し、下にいる兵達はひたすら打ち払うなり受け止めるなりしている。何だかバレーの練習を見ているようだ。球数も速度もソレの比ではないが・・・。
辺りがうるさいので多分叫んでも聞こえないだろう・・・。キセルをプカリ。煙を見る練習がてら水球を消してしまおう。吐いた煙は辺りと混じり色はない。ただ、それは普通に見た場合。煙を通して見るのは兵藤の法であり、その法を打ち破る手順・・・。ふむ、手順としては大気中の水分を集めているだけか。辺りは乾燥しそうだが、撃ち出した水があるので大丈夫だろう。ならばこちらが操作する手順はその水分を集める前の段階でいい。何処に水球が生まれ、何処にそれが進むのか。なるほど、よく見える。
「元ある場所に戻りなさい。解散、解散、散らばって。煙の様に消えていく。」
集まりきれずに形を成せず水球にもなれない水分は霧散していく。ちょっと湿っぽい気もするが、初めてやるならこんなモノだろう。対スィーパー訓練でイメージを否定していたが、見ながらやればより効率的に出来る。
「早かったですね、もう帰ったんですか?」
「待たせるのも悪いんで超特急ですよ。まだ訓練するなら待ちますけどどうします?」
「いや、ちょうどいい頃合いでしょう。風邪は引かないにしても皆ずぶ濡れだ。」
「分かりました、では行きましょうか。」
兵藤を連れて訓練場を後にする。立ち去る間際にずぶ濡れの訓練生達が手を振ってくれたので振り返し外へ。次へ行くゲートは駐屯地のすぐ側にあるのでさっさと手を繋いで入ってしまおう。
「さてと。さっきの事は根掘り葉掘り後から聞くとして、これに入ったらどうなると思います?」
「色々と考えられますけど、多分一緒の所に出るんじゃないですか?パーティー登録と言うものが最初の入口でしか出来ないと言われたら、それはそれで効率が悪い。なら、中で合流するのも想定のうちでしょう。変な所で彼等は親切ですからね。」
ゴミ掃除しろと言われてモンスター退治をしているが、コチラを知らずに設置したせいでチグハグ感もある。しかし、効率という面を考えると、感情論を抜きにすれば良く出来ている。これで溢れさえしなければ文字通り金の卵なんだけどなぁ・・・。
「そんなもんですかね、では行きましょうか。」
「ええ、行きましょう。」
手を繋いで次の階層へ。繋がれた手は放されず、気付いた時には7階層のゲート付近。隣に兵藤もいるのでこれでまた1つ検証結果が出た。後追いは今回検証出来ないし、外に出た時に地元だったのでゲートを使っての国内旅行は無理なようだ。
「兵藤さんはこれからどうします?」
「退出ゲートまで飛んでそこから退出ですね。クロエさんは?」
「飛行機の時間があるので脱出アイテムで外に出て、そのままバイクで空港に行きます。」
「そうですか、ではまた明日。」
「ええ、また明日。いなかったら飛行機に乗り遅れたと思って下さい。」
「いやいや、飛んで帰ってきて下さい。皆待ってるんですから。」
見送られてゲートから出る。さて、今から移動すれば夕方の便に間に合い夜までには東京へ帰り着くだろう。色々とやる事は多いが妻とイチャイチャしてエネルギーチャージも出来たし、1つずつ熟していこう。差し当たって、明日はゲートを進むかな?宮藤達と交流もできているし、中層へ入る前の残り5階層分。更に厳しさも増すだろうが、不確かな猶予を稼ぐ為にも先を急ごう。さてはて、スタンピードと本部長選出戦。どちらが先にくるのかな?
バイクを飛ばして高速を走り、空港からギリギリ間に合った飛行機に飛び乗って羽田へ。夕日沈む飛行機の窓辺は眩しいが、修学旅行終わりのような物悲しさがある。一応、望田達にお土産も買ったが口に合えばいいな。
そんな事を考えながら空の旅を終えて羽田に降り立つ。1時間半のフライトで外は真っ暗。まぁ、冬場なので日暮れが早いのは仕方ない。ホテルまではどうやって帰ろうかな?バイクでもいいし、タクシー捕まえるのも吝かではない。この時間からホテルへ向かえば晩酌くらいは出来るだろう。
「すいませんそこのアナタ!」
「はい?」
「テレビ局の東海林です、インタビューにご協力を・・・、クロエ=ファーストさん?」
「人違いです。先を急ぐのでまたの機会に。では!」
黒服はよ!こんな所でインタビューなんてされたくないし、早く帰って休みたい。




