閑話 仕事する人々 41 挿絵あり
「大会運営委員長・・・、まぁ、それはクロエなんですが代理として任命さられたので各方面とも協力をお願いします。」
スタンピードの対策会談を経て。こうして集まっての話し合い。経理とは何なのかと自問自答したいですが、あってないような役職なので我慢しましょう。ここで役職変更しようとも、誰にも迷惑はかからずそもそも、全員がほぼ幽霊社員の100%政府直轄のダミー会社。他の方が何をしているかは私も知りません。
そんな私が代理で大会運営とは中々人生分からないものです。クロエは知らずに言ったのでしょうが、貴女が私の会社に要請を出せばそのままその仕事は私の所に来る。誰も彼もどこかの組織で何かの仕事をしているんです、ある程度の暇があるのは私くらいなんですよ?
「優先度の問題だろうが、嬢ちゃんも忙しいと言うか泣きっ面に蜂だな。もうすぐ帰れるって時にスタンピードの知らせ?連絡?なんてものを受けたんだろ?松田さんや千代田・・・、増田君はそれを真と取るか?なぁ、大井さんよ。」
「俺は取り敢えず各都道府県の自衛官にゲート監視の指示をするくらいだが・・・、米国のエマ少佐まで呼んで話したんならクロエさんの中では真なんだろう。確かに、情報は少ないが準備を全てクロエさんに投げる訳にもいかん。まぁ、聞かされた作戦ならウチらは全員裏方だがな。」
作戦内容は既に書面に起こされ各組織へ配布済み。組織の長は他の同組織長と話し合いをしないといけませんが、こうして先にある程度の方針を決められるのはいいことです。しかし、スタンピードを真ととるか・・・。黒岩さんと大井さんがそこをどう扱うかと言っていますが、私達は経験上ゲート関連は間違いと判定が付けづらい。
理由は明確で、クロエの事がトラウマになっている関係者も多い。初動で確かに橘君から情報は上がっていましたが、それを誤情報として精査もせずに破棄してしまった。その結果があの配信であり現状。タラレバの話で初動で動いたなら、別の方向へ・・・、例えば民間を挟まないやり方で決着を付ける事も出来たかもしれません。まぁ、スタンピードの対応に彼女は不可欠だったので、出来る事は少なかったでしょうが。
「それは否めませんね。まぁ、大会運営をイジりやすくなったと喜びましょう。粗方の枠組みは出来ていますが、組分けはまだです。こちらの息がかかった者が、勝ちやすいように組むくらいは目くじらもたてないでしょう。」
「そうは言うがよ、松田さん。前乗りした一般参加者は見たか?それとなくR・U・Rでの訓練状況見たり、同行させてゲート内での活動報告を受けたが、安い相手はいないぞ?」
「同感だ。警察にしても自衛隊にしても規律と規則に縛られて、或いは入ってから叩き込まれて凝り固まる。自由な発想とでも言えばいいのか、訳わからん奴が多すぎる。」
大会は約1ヶ月後、気の早い参加者は既に東京に集まりR・U・Rの扱いに慣れようとしています。警察や自衛隊の参加者が先に扱ってそれを教えるという形ですが、誰も手の内は見せたくないというのが本音。それでも、中々ユニークなモノが見れます。
大会は本部長を選出する。それは政府の発案ですが、裏の目標として、出来る限り多くのスィーパーのデータを回収して後の犯罪抑止に繋げるというものもあります。今時点で腕に覚えのあるスィーパーを集めて、実戦をしてもらえるなら他の犯罪者は概ねそれ以下の練度として対処する時の指標となる。
まぁ、それも下位までが限界で中位以降は手が付けられないのでは?と言う疑問も囁かれますが、そこはクロエ達に出張ってもらいましょう。ギルドを完全独立組織とされたなら、お国柄面倒な手続きがありますが、中間組織とした事で積極的に要請も出しやすい。それとは別に各組織に合いそうな人材確保は急務です。
一応、参加者はギルド職員待遇で迎えたいとクロエは言っていましたが、先に各組織がツバを付けた所で問題はないでしょう。秋葉原参戦の古参兵は全てクロエが持っていって各ギルドに配置予定としてしまいましたし。
「名簿で言えば誰ですか?共有情報として回せればどの組織とも有益でしょう。公安は離れましたが、協力者に仕立て上げるならまずは人柄からです。」
「ふむ、増田さん今名簿あるか?自衛隊としては数人抑えたい人材がいる。公安は離れただろうが、協力者に仕立て上げてもらいたい。どうしても、自衛隊側は国内で協力者を作るのに向かない組織だ。」
自衛隊員は全国にいてゲートへ入る希望を出せば、補助を付けて集団で入る様に安全管理をしながらスィーパーを増やしています。警察も同様ですが、仕事の性質上日常の仕事=訓練としている自衛隊の方がスィーパー数は多く、警察は日夜事件解決を叫ばれるのでどうしても時間のある人員から希望者を集めてとなりやすい。
いずれは各組織に入る時にゲートへ入る事が必須となりそうですが、命の危険があるので早々義務化は難しいですね。言い方は悪いですが半年経ってスタンピードは日常に埋もれつつあります。人間は先を見て動けますが、同時に目の前になければ先送りしてしまうものです。
「ふむ、ありますが。私も公安は離れています。民間会社の社員として登録して、ギルド稼働後に指名要請出来るよう取り図れるようリストを作りましょう。」
「それはありがたいな、最初ダミー会社の経理なんかに増田さんを回すと聞いた時はもったいないと思ったが、そう言う絡繰りが出来るなら色々やりやすい。策士ですな松田さん。」
「いえいえ、表に出来るも出来ないも色々とありますからね。政府とギルドの関係は対等とは出来ず、あくまで政府組織の中の1つ。その1つが余りにも影響力がありすぎるのが問題です。仮にクロエさんが政治家になるなんて言い出したら、手がつけられなくなります。非公式世論調査ではクロエさんが出馬するなら投票するという意見が大多数でした。」
クロエが総理。誰でも成れるモノではないですが、誰が成っても変わらないものですね。ただ、クロエが成ると毛色が変わってくる。最高の武力に最高の権力。それは、封建社会より質の悪いものでしょう。まぁ、強硬姿勢で色々と前には進みそうではありますが・・・。
「票もイジれなければ、落選も無理だろうな。当選したなら後は民意で大臣になって後は総理か。適度に物臭で助かる。そう言えば、橘を奥に向かわせる事が正式に決定した。代理室長は五十嵐だ。人員は判定機で賄えるから遅ればせながら警察の方もボチボチゲート調査に乗り出せる。最終的に橘は装備庁のテスト要員兼務が妥当だろう。子供じゃないが、ウチも橘以外に秘密兵器の1つや2つは欲しい。頼むよ、大井さん。」
「いいだろう、大っぴらな開発はゲート内。派手なことはせんなら簡単にはバレないさ。高槻製薬の山口さんだったか。要請を出すならあの人だろうな。研究一筋って感じであの人は扱いやすい。お喋りなのが玉に瑕らしいけどな。」
私は会った事のない人物ですが、優秀でお喋りなのでしょう。高槻医師の元で回復薬や、他の研究もしている研究員という話でしたが、若さと言う名の情熱が溢れているようです。高槻製薬自体は秋葉原以降紆余曲折あって、今はゲート内と郊外の安い土地にいくつかの生産プラント、他はエナジードリンク系の飲料水を主力としています。
医者と言う人種にしては狡猾でクロエに投資をお願いして、そのまま大株主とする事で諸々の手続きを最速で済ませてしまいました。まぁ、元々秋葉原の件でスィーパーには多少認知があったので早いか遅いかの違いですね。問題なのは国益に組み込みづらい所でしょうか?
国としてもバックアップはしていますが、現状国営にするのは厳しい。何たって2人共株を売ろうともしないし、主治医と患者という関係で離れようともしない。生命学者はクロエを調べたいと嘆願書を書いたそうですが、いつの間にか揉み消されてしまったそうです。
「あそこなぁ〜、俺も株が欲しい。何なら孫達を社員にしたい。クロエさんが大株主で中位が社長だろ?末永く安泰だろうし、親心としては、今から自衛官にならせるにも警察官にならせるにしても、ましてやスィーパーになるなんて事があったら命がいくらあっても足りないな。」
「黒岩さんの言いたい事も分からんではないが、俺は自衛官にさせたいな。少なくとも職について基礎的な事は教えられるし、辞めたら辞めたで潰しはきく。この前のニュース見なかったか?半グレだかの未成年が中年のおっさん襲って全員返り討ちにあった話。松田さんの仕込みじゃないよな?」
「私ではないですね。増田君も手は回してないでしょう?後は黒岩さんが知らなければ本当にただの事件。いい広告にはなりますよ?16歳未満は大人に逆らうなとね?ゲートへの立ち入り制限は相当に厳しいのでしょう?」
未成年の暴走族や半グレ集団は軒並み壊滅してしまいました。事の発端は様々ですが、大人が大人として物理的に力強くなったのが原因かもしれません。暴対法によりゲートにも入れないので、下手な事をしても相手がスィーパーならヤケに成られたら対処できません。私がアガフォンに対処できたのは綱渡りの末の結果でしかないし、再度戦えと言われれば間違いなく断るでしょう。
「厳しいな。警察としても未成年の犯罪者がスィーパーなら相当に手を焼くと予測している。初期の混乱は仕方ないとして、早々に厳重警備対象とした。まぁ、やる事は身分証やら住民票の確認。他は親の同意の確認だな。政府としては秘密裏に施設の子供達の同意が取れればスィーパーにしてるんだろ?」
スタンピード初期からの構想。スィーパーの量産化計画は進んでいるようです。エマ少佐とクロエが共同で作成した文書を元に運営しているようですが、成果が出るのはもう少し先でしょう。非道な様ですが、選択権は本人達にありスィーパーになればギルド登録され職と身分は保証されます。雇用という面では優秀で資源回収をメインにし、同じ施設出身者でチームを組めば同年代よりは集団行動が取りやすいでしょう。
「ええ、各施設運営者には希望者が出た時点で、その子達を集めてスィーパー用の法律を教えるようにしています。教育の手間は省けるし、学校教育でもスィーパーに関する法律は必修科目としようと文部科学省が動いています。・・・、こういうモノは早期に教育して物事の善悪の基準を作るに限る。人が何故人を殺してはいけないのか?明確な答えは無いでしょうが、無意識にいけない事と思うでしょう?」
「生死が曖昧な世界になりつつあるがそこは大事だな。さてと、色々話したが作戦の検証は、日本側としては米国がどうするか決めてからでいいんだな?松田さん。他の作戦はないか自衛隊内でも話し合うが。」
「ええ構いません。その為に米国にボールを投げたんです。よくも悪くも他に作戦がなければ、日本はイニシアティブを取る事が出来る。他の作戦を提示するなら米国に全て負債を背負わせられる。潰れてもらっても困りますが、大人しくしてもらえるならしてもらいたい。要は立場の明確化ですね。」
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ー 米国国防総省 会議室 ー
悪夢の再来は曖昧な形でもたらされた。対象が我が国とは限らないのが救いだが、ゲートの多さ=国土の広さ。米国には人の集まる所が多い。ゲート総数だけなら日本よりも遥かにある。そう、ゲートが多数あるのだ。確率だけなら高確率でウチで発生することになる。提示された作戦は検証したいが、残念な事に人材がいないのだ!
「疲れているなウィルソン・・・。」
「ダグラスお前モナー。」
「含みのある言い方だが・・・、お互いやる事は多い。私が前に言った強行策をしていれば多少は憂いが晴れたんじゃないか?私はそう確信している。国家安全保障局としても総意はそこにある。」
前に言った強行策、ゴリ押しによるエマ2号か。打診はウチからそれとなくしてみた。結果はたった1言。『不可』だ。エマ少佐がいる間に更なる客人を招けばファーストの心労に繋がり体調を崩す恐れがあるとされたが、面倒なのは否定材料がない事。いや、エマの報告やテレビ会談の様子を見れば健康そのものなのだろうが、あの外見を見ろと言われたら黙るしかない。
年齢を持ち出せば身体にガタの来る歳の者が、日夜ゲートで教育しているのを楽と取るのか?と否定され、タバコや食事量を指摘すれば個人の嗜好に口を出すのかと返される。いや、皆薄々分かっているんだ変に彼女に睨まれて不興を買いたくないと。
「スタンピード関連は我が国でも最優先対処事項だ。それを先行的に情報が貰えただけでもありがたい。たとえそれが少女の起床時間の様に曖昧でもな。」
「分かっている。分かっているが軍としても人材不足なんだよ。情報局側からなにか有用な情報は出ていないのか?いくら米軍の総力を上げて職を取らせてもSは希少だ。作戦内容を精査しようにも中位もいない。絶望的な気分とはこの事だろう?」
「はん!絶望なんざ少佐に報告された時に売り切れた。救いはどこで発生するか不明な事だ。ウチの国でなければ恩は売れる。ポジティブにいこう。」
そう言えばウチで発生すればファーストは来てくれるらしい。本物を見るまたとないチャンス。どのみち駆り出されるなら一度会ってお茶でもしたい。何なら名前を呼んで握手会をしてもらうだけでもいい。まぁ、起こらないに越した事はないが、起こった後に悔いは残したくない。しかし、アイドルとファンはこういう構図なのだろうか?
「慰めてくるなんて気持ち悪いな、本当にうちの国で起こるんじゃないか?」
「それが起こった時の対処を話し合うのはこの会議だ。ボールは投げられたんだ、撃ち返してホームランを狙うのが常だろう?ウチの局長は日本の球筋を読んで狙いを探るらしい。」
「球筋ね・・・、日本が考えてるのは下剋上的なモノだろう?渡されたボールは毒リンゴだ。否定するなら代替え作戦を出させてウチを主力にする。肯定するなら主導権を取られて次に発生するまで頭が上がらない。ほら、どちらも無理筋だ。」
ダグラスの言いたい事も分かるが、良くも悪くもエマが鍵になる。作戦の要2号はエマで彼女を最大限にアピールすれば面目も立つ。そもそも、日本は自国と米国以外で発生した場合、要請があるまでは静観する構えらしい。
この点だけ見ればおかしな点はないが、恩の売り買い、政治を無視して作戦なんて立てるだろうか?それこそ、人命もかかれば後からの被害への精算も要求される可能性がある。いっその事不和を狙っている?文句を付けらたなら、次は自分達で対処しろと切って捨てる?分からん話ではないが・・・、それを考えると確かに日本にデメリットはないな。
例えその国が滅んでも、後から入って退治してしまえば感謝こそされても恨まれる事はない。仮に恨むとするなら、早期に救援要請を出さなかった自国の政治家だ。
「賢者か・・・、知力で勝てる相手か疑わしい。それに・・・。」
「それに何だウィルソン?」
「いや、これは今回の会議に必要のない事だ。」
局長の出すパズルのピース。第2職を有しているのではないか?話された後に再度動画をマラソンした。美しかったので苦にはならないが、配信を素とするなら普段が賢者としての振る舞いなのか?うぅむ。あれが素ならオフィスレディーは無理だと思うが・・・、そもそもファーストが雇用される側と言う構図が頭に浮かばない。なら、最初は他の・・・、前には言われた様に男性だったとしたら?
・・・、全力でぶん殴るかドタマぶち抜くかだな。野郎があんな喋り方で来たならそうする自信がある。ただし、ファーストの姿なら別物とする。あの姿でやるから成立するのだ。
「そろそろ会議会開始だ、プレジデントも来る。お互い立場があるが、有意義なモノにしよう。」
「分かっているダグラス。少なくともこの場には愛国者が集まる。少しでも国の為に働くさ。」




