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街中ダンジョン  作者: フィノ
18/837

15話 何事?

不定期ですが、出来るだけ毎日投稿はしたい。

しかし、仕事が・・・。

本編→閑話→投稿出来ないの順で忙しさが変わります。

「クロエ、あれを見せてもらえませんか?」


「あれって・・・これかしら?」


 アンプルの瓶を3つ取り出して高槻に手渡す。これの面倒な所は、一度開けると保存が効かない事だ。千代田に聞いたが、どういう原理か分からないが、アンプル1本でひと一人を水浸しにする量は有るらしい。


 しかし、揮発性が高いのかすぐに無くなるのだ。それは人に掛ける掛けない関係なく。人に掛けたモノが乾燥するなら、皮膚から吸収されたと考えてもいいのだが、速度が変わらないらしいので多分、揮発性が高いのだろう。


「ん〜、配信で橘さんが鑑定してましたが、私では分からないですねぇ。開けたらダメですし、今は見た目と効果だけ表にまとめましょう。回復薬の上から3つ、これが私の目指すか探す所になりそうですな。」


 そう言って高槻が返したアンプルを指輪にしまい、キセルでプカリ。彼は彼の潜る理由を見つけたらしい。


「そろそろ行きましょうか。」


 兵藤のその声で、みんな動き出し先へ進む。5階層へ進み6階層のゲートまでは変わった事もない。途中、何度かモンスターは出たが、前回とは違い全員が戦えるので問題は無い。


 モンスターをバラバラにし、燃やし、雷で焦がし、風で吹き飛ばす。実に楽しい、前回は5階層までだったが今回は更に先へ行ける。一度行けば次は6階層以降からまた先へその先へ。


「砲撃型 撃破3、観察型 撃破2。周囲に脅威無しオールクリア。」


「砲撃型、名前かしら?」


副官さんが、三目とデカブツをそう呼んだ。


「ええ、名前が無いのも色々面倒なので。仮称ですが、部隊内でそう呼んでます。」 


「そう、ゴミでも名前があるのは嬉しいわ。みんなに教えてあげなくちゃ。」


「・・・仮称なので、正式に決まれば公表しましょう。」


「ええ、そうね、良い名があるといいわね!」


 5階層のゲートを抜け、出た先は仄暗い草原だろうか?上を見れば水に浮かぶ巨大な油膜のような色の光る星?でいいのだろうか?それが浮かび、足元には背の低い草と呼ぶには太すぎる、人の中指ほどの太さの物が生え、その指先からは鈴蘭のようなものが淡く光りながら生えている。


 遠くに見える木のような物は、セス氏の動画で見た物とは違い、細いガジュマルの根の様な部分からバオバブの様な幹が生え、その先の枝はアケビの様に見える。


「セーフスペースか?副官、記録と記憶は?」


「・・・無いですね。動画を見て記憶してきましたが、合致するものは無しです。」


「ファーストは何か知ってますか?」


 兵藤達が周囲を見回しながら聞いてくる。幻想的か悪夢的か、それは感性に寄るところが大きい。例えばゴッホの星月夜を美しいと感じるか、不気味と取るか。それは人それぞれ、大衆の意見は関係なく、個人に回帰する。


「さぁ?彼らは動物も植物も果ては、水さえ知らないわ。そんな彼らの作品なら、こんな事もあるんじゃない?」


「作品?」


「人やこの星の在り方は伝えたけど、作品を作るのに固定観念は必要ないでしょ?作って捨てて、捨てて作って。完成品に意味はない。さあ、仕事をしましょ?」


「そうですな、採取しましょう。」


 人の手の様にも見えるそれを触ると人肌ほどの温もりがありブヨブヨして、死肉色をしている。握手するようにして引っこ抜くと根っこの部分は人の舌を出した魚の口の様に見える。


 ・・・食えるのかな?食いたくはないが。人を知った所で寄り添う気は無いらしい、趣味に生きているのだ仕方ない。


「うわぁ~、気持ち悪るっ・・・。」


 各々に採取するが見た目の気持ち悪さの為か、おっかなびっくり触っている。気持ちは分かる。できれば触りたくないし、色も感触も生理的に嫌悪感がある。


「いゃあ、素晴らしい!なぜこの形状を選んだのか話してみたい!」


 ・・・若干1名ノリノリで片っ端から、引っこ抜いている高槻は見ないものとする。しかし、固まって採取していては効率も悪いし、何より先へ進むゲートも探さなければならない。


「班を分けましょう?ゲートも探さなくちゃいけないし。」


 キセルを取出しプカリプカリ。吸えば煙は出るが、吸わなければ煙は出ない不思議なキセルは、振ればロッドほどの長さに伸びる。説明は補助具。ただその1点のみ。喧嘩キセルと言う物もあるし、叩いて使う事も出来るのだろう。幻想的な草原は風は無いが歩きやすい、生物の音はしないが多分何かいるだろう。


「危険では?」


「安全地帯にモンスターが居たら、それはただの無法地帯。居ないわよ、そんなモノ。」


「・・・分かりました。副官、俺は同行する。後の指揮は任せた。」


「了解です。」



ーside 兵藤ー



 特殊作戦群とは、海外及び国内における要人警護から、テロリストの制圧までを請け負う公安とは別の、国から正式に認められた特殊部隊である。実弾の訓練は元より海外の特殊部隊とも共同訓練を行い、普段はほぼ海外か日本に居ても、親にさえ自身の存在を知らせる事はない。まぁ、俺の両親は既にいないのだが。


 薄気味悪い野原を、浮世離れした少女の頭頂を見ながら歩く。美しい彼女の足取りに迷いはなく、給料日の俺の様に軽い。キセルから出た煙は、消えることなく漂っている。ゲート開通と共に隊員数名で一般人としてゲートに入り、終わってからは秘密裏に民間人を補助しながら更に数周。


 公安とはテロリスト対策で何度か話し合いをしているので、今回の民間人の補助は職に就いたばかりの俺達にとっても、優先的にゲートに入れるということで願ったり叶ったりだった。当然、民間人に偽装するため賃金は要求する。


 開通後夜通しゲートを周り終わって部隊に帰り、寝ようかと言う所に今回の任務。眠さも体力も問題ないが、今回の任務に就くに当たって受けた説明は頭の痛いものだった。


「兵藤君、今回の任務だがファーストの護衛。・・・、という建前で彼女を監視及び脅威を測って欲しい。君は魔法職だ、何かしら気付く事もあるだろう。」


 与えられた任務は護衛、それも今1番ホットな彼女をだ。任務であれば従うが、監視と脅威測定とは中々物騒だ。ゲート開通後、個人がメディア等の力を借りずとも、容易く腕っぷしで世論を動かせる様になった。事実、たまにそう言う輩を見つけては、叩きのめし警察に突き出している。


「ファーストというとあの配信の?命令であれば従いますが、職に就いている関係上、どこまでが脅威か測れませんが?」


 足立のゲートで職に就き5階層まで降り、退出してから補助に回って職への理解を深めようとしたが、魔法職は多分難しい・・・。他の職に就いた者とも話したが、説明は全部雑で、説明が説明の体をなしているのか、疑問な点も多い。しかし、職と言うモノはなかなかに偉大で、就けさえすれば何らかの恩恵は得られる。少なくとも、彼女は我々より一日の長がある。


「脅威測定は努力目標としていい。本題は監視だ。」


「なにか根拠が?」


「ああ。これを見たまえ、公安から提出された彼女の資料だ。・・・内容は真とする。」


 差し出された資料に目を通す。真とは、内容に間違いが無いという事か。氏名や現住所等はすべて黒塗り、いや、公安の嫌がらせか。読める場所の方が少ないが、彼らも彼らで彼女の手綱を握るのに手一杯と言う事だろう。対象は中々お転婆らしい。・・・これは?


「心音がない?現在43歳?妻有り?・・・妻!?上官に言うのもなんですが、これを真と?」


 そう聞くと、彼は1つ大きく頷いた。これだけでも頭が痛い。心音の件に関しても、公安が現地の病院まで詳しく聞き取りを行い、東京に来ていた主治医は守秘義務を盾に黙秘したものの、多数の証言や心停止のナースコールが有った事を加味し情報部が情報を真とした。


「兵藤君、彼女は公安の話では協力的で、どちらかと言えば配信の人物とは真逆らしい。あの言動も配信用の演技という話だ。そのはずなのだが、時折本当に別人なのでは無いかという意見が出ている。」


「二重人格等の精神障害があると?」


「最後に診断した医者の話では、彼女は特段おかしな所は無かったという話だ。・・・荒唐無稽な話だが、上は精神の乗っ取りを疑っている。どこぞの有識者がSF的に考えるなら、有るそうだ。」


「・・・それで動けと?」


 その有識者と、それを本気で信じたやつを銃殺刑にしたい。精神の証明を何に求めるというのか・・・。この任務は上へのパフォーマンスなのだろう。上官の顔も疲れが滲んでいる。ここ最近、ゲート出現から今の今まで俺達に休みはない。


「不安の種は常に潰さなければならない。今回君が同行し、何事もなければ、それで良し。悪意が有れば、彼女への対応を考える必要があるという事だ。それと、これを。」


「分かりました。それで、その任務はいつからですか?」


 そう聞くと上官はチラリと時計を確認し、1つ大きな、とても大きなため息を付いた後。


「準備時間は今より20分。集合場所は足立ゲート前。装備については屋内装備一式。詳細については現地把握、公安がいる。人員はガンナー2スクリプター1ほか、対象以外に1名同行者がいる。それと、君はタバコは?」


「いえ、吸いません。」


 そう言うと、上官は机の上にワンカートンほどタバコを置いた。配信でもタバコを吸っていた、彼女への手土産だろうか?配信を見る限りかなりのヘビースモーカーの様だし、無下にされる事はないだろう。


「手土産ですか?」


「いや、切札・・・ファーストの言動がおかしいと思った時は一服を勧める。橘氏からの忠告だ。偶然だが、彼はこれで功を奏した。無いよりはマシと言ったものだそうだ。」


 ドミノの様に並ぶ箱が切札・・・頭が痛い話だ。そもそも、言動云々言われても、普段の彼女を知らない俺では、どの時点で疑わしいのかの判定が付かない。全く、時間と労力を無駄にした合格前提の合否判定など、勝手に個人でしてくれないものか・・・。


 出会った当初の彼女は、配信で見た彼女のままだった。同行者の高槻医師は、ファーストの主治医と言う事で面識が有り、お互いニコニコと話し合っていた。素面と演技の判定などつかない彼女にタバコを勧めたが断られ、本名だろうクロエと呼んだら、拒否された。


 それどころか、職を見抜かれ怯えるなと諭された。ニコニコと楽しげに微笑む彼女は、確かにこの場では異質だろう。新人ではないにしろ、ここにモンスターが居る事は周知の事実。そこを、軽い足取りで歩いていた。


 そして彼女がプレゼントといったボックスから、キセルを取出しプカプカと吸うと、今までの楽しげな姿がなりを潜め、無表情に近い冷静な彼女が姿を表した。最初はどうなるかと思った探索だが、彼女はこちらの指示に素直に従い、高槻医師とともに中央位置を歩き、時には雑談程度の言葉を交わした。


 素面で話す彼女は見た目以上に、落ち着いていて資料の年齢も頷ける。外見が少女のそれで服もそれなのでチグハグな感じだが、年老いて豹柄や髪をカラフルに染める人もいる。趣味はそれぞれだろう。ゲートを進み、5ゲートへ進む前に休憩を取り、副官と話し合ったが、彼女に怪しい所はない。アーカイブで見た美しい少女は言い回しこそ独特だが、別段おかしくはない。職に就いた今なら分かる。


 多分、彼女の職は魔術師:火なのだろう、身体強化も炎弾も空を飛んだと言う報告には些か驚いたが、理解の出来る範疇だ。戦闘時には炎弾で援護してくれたりと、見た目以上に周りのフォローを卒なくこなしてくれる。


 しかし、よく分からなくなったのが5ゲートから6ゲートに入るまでの戦闘。俺達に敵意を向けることはなかった、しかし、いつの間にか微笑んでいた彼女は、人が変わったかのようにモンスターを殺しだした。時に水の刃でサイコロの様に切り刻み、時に一瞬で燃やし尽くしてクリスタルに変える等・・・魔法職に就いたばかりの俺では、余りにも理解できない魔法の行使。


 終始楽しげな彼女は、成る程精神を疑われるのも頷ける。高槻医師の話では、そもそも彼女は人前は苦手だし、目立つのも好きではないらしい。配信前も車に籠もりブツブツ自己暗示を掛けていたらしいのだから、本当に苦手なのだろう。イメージがモノを言うゲート内で、ある意味彼女は誰よりも強いイメージを持って戦闘が出来るのかもしれない。


「ファースト、どこまで行きますか?」


「あぁ、もうじき迎えが来る。・・・ほら来た。君の後ろだ。」


 振り返って話した彼女は同じ人のはずなのに、年老いた少年の様に見える。いや、それより迎え?音はない、気配も感じない。そもそも、感じたなら背後に水弾を撃っている。なら、なにが?こちらを向いている彼女は相変わらず、キセルをプカプカしているが、戦闘時の笑顔ではなく、穏やかな顔をしている。


「敵じゃない。只々走る乗り物だよ。」


 そう言いながら、俺の横を通り過ぎる彼女を見送るように振り返れば、目の前には黄金の瞳!


「うわっ!こ、これは?」


 とっさに周囲に水を出す。モンスター?なら、なぜ攻撃しない!いや、迎え?これが?不気味な黒に金眼三目の馬?は開いた口から舌が伸び地面にヨダレが滴るが、無音のゲート内で響くはずのそれは、音一つなく消えていく。


「お馬さん、少し乗せてくれるかい?」


 ファーストは事もなげにその生物に近寄り、正面で手を上から下へおろした。すると、馬は膝を折る事はないものの、首を下げるような姿勢となった。その馬にフワリと浮かんだ彼女が、背に横掛けて座る。


「君も乗るかい?あの木まで行こうと思う。」


「・・・いえ、自分は歩きます。」


「分かった、行ってくれ。彼に合わせた速度で。」


 馬は歩きだす、蹄の音もなく滑るように進む。前後の足が同時に前や後ろと左右で交互になるのは、何処か壊れた遊園地のメリーゴーランドを思い出す。


「・・・これは何で三目なんでしょう?」


「さぁ?左右は見れるのに、正面が見えないのは不便だろ?実際は見えているが、ソーツはそれを知らない。なら、付けるだろ?」


 答えるとは思っていなかった質問に彼女は答えた。なら、雑談でもするか。ゲートはどこもほぼ無音だ。現れるモンスターでさえ、倒されるその時も鳴き声一つ上げない。


「これが乗り物だと、どうして?」


「ん?当然じゃないか。セス氏は食料にする事を選択したが、こんなに広いんだ、僕は乗り物にする事を選択するよ。」


(僕?)


「彼等は無駄を嫌う。馬なら移動と食欲両方を満たしてくれる。前も言ったが、セーフスペースは間違いないよ。支払い超過までして作ったんだ。これを正常に作れないなら、彼等は自滅を選ぶ。」


 煙を吐く彼女は、やけに断定的にものを話す。セーフスペースの情報は、海外の動画で偶に上がってくる、階層数はバラバラだが概ね6〜8ゲート付近で現れる。ここまで不気味ではないが、動画を見る限りだとセーフスペースで、モンスターに襲われるという姿は見ていない。


「セーフスペースの事は最初から?」


「ああ、ないと困るだろ?出来はともかく、文字通り身銭を切った甲斐がある。」


「早く公表していれば、先に逝った者達も助かったかもしれませんよ?」


「発言力の有るものが、誤情報を流す訳にも行かないよ。

そもそも、ソーツからはセーフスペースも探せと言われたからね。と、着いたよ。」


 目の前に見える木は、悪夢の様に気持ち悪い。特に葉だ、葉が気持ち悪い。腫れぼったい唇の様に見える葉の中には、無数の人の目のような種が入っている。彼女は馬を降りると、手を下にして待たせ上を見上げると。


「あれを取ろう。実なら食べられる。」


 そう言った途端、実がぼとぼと落ち地面に衝突する前に指輪に収納されていく。そして、最後の1つから目玉の様な実を2つ取って収納した。・・・拒否・・・出来ないよな?そう思っていると、俺より先に彼女が食べた。


「うん・・・君も食べるかい?」


「・・・いただきます。」


 表面はわらび餅の様にぷるぷるとして、芯はおろした山芋の様にネトネトしている。吐くわけにもいかず、咀嚼して飲み込む。本来ならパッチテスト等をする所だか、彼女が食べてしまった以上、毒ではないと思う。


「・・・食べられないことはないね、ただ、無味無臭だ。」


「・・・調味料が欲しい所ですね。」


 そして、どちらともなく笑い出す。ここに来て久々に笑ったような気がする。彼女は用事は終わったと、乗っていた馬に横掛し俺を手招きする。


「戻ろうか、それなりに遠くへ来た。君も乗るといい。」


 彼女は白く美しい手を差し伸べてくる。その手を掴み、彼女の後ろに跨るようにして乗る。肉でできているのか、異様な弾力はあるが骨は無いようだ、指で突いても感触が無い。意外と座り心地はいい。


「馬とは速く走るモノだ。しっかり掴まりたまえ。」


 そう言うや否や走り出した馬は、風景を置き去りにして飛ぶように走る。慌てて馬の背を握れば、指が食い込む。


「フ、ファースト!速い!もう少し速度を!」


「コレが走りたがってるが、仕方ない。」


 落とされた速度のおかげで、振り落とされる心配はなくなった。静かで不気味な草原を馬が煙をたどり走る。


「ファースト、魔法の事で聞きたい事が。」


「いいよ、乞われれば答えてあげよう。」


「魔法のイメージを固めるのに、その、呪文は有効ですか?」


 これは部隊内でも話題に上がっていた事だ。ある者は呪文を唱えると安定するといい、また、ある者は邪魔になると嫌う。魔術師は少ないが、少ないからこそ思い思いそれぞれで模索している。しかし。目の前に恐ろしいほど魔法に熟達した者がいる。道中での彼女の魔法を見れば、魔法職に就いた者は嫌でも分かる。あそこまで自分は自在に扱えないと。


「そうだね、うん。君は量産品とオーダーメイドどちらが好きだい?」


「そりゃ〜、オーダーメイドですけど・・・。」


 そう言うと彼女はキセルを指示棒の様に振りながら答えた。


「呪文は有効だよ。イメージを言葉にしてくれる。でも、それは未来を潰すことだよ。」


「未来を?」


「ああ、呪文を使えばイメージが固まる。開けゴマなら扉が開く。でも、ちちんぷいぷいに、アブラカダブラ。もし呪文を使うなら、入口の補助輪まで。それ以降は現象を固定してしまう。さっきの扉のようにね。小難しく考えるより、心のままに自由な方が魔法はより面白くなる。それに、色々聞いたけど、職の詳細は雑じゃない。アレで正解なんだよ。」


「職の説明が正解?」


 言われ考えてみる。格闘家なら殴る、蹴る、投げる。ガンナーなら見る、撃つ、当てる。スクリプターなら管理、編集、記録。簡単に言えばこれだが、どう考えても雑だ。何の事かさっぱりわからない。


「どう考えても雑では?」


「違うよ、アレで正解。職は補助、事細かに書いては在る可能性も潰してしまう。そもそも、職は適正が無いと選ばれない。逆を考えると職に就けると言う事は、既にその職に対して何らかの理解を示しているという事だよ。後は自分で意味を考えればいい。何を成し、何を行い、何者に至るのかを。可能性を狭めるのは無粋だよ。」


「つまり、出来る事を考えろと?」


 ファーストは親が子を見るような、優しい目で俺を見る。親愛だろうか?抽象的な言い回しの彼女より、素の彼女の方が好ましい。


「なに、仕事をすれば何れ分かる。まぁ、分かる頃には色々とやりやすくなってるよ。さぁ、着いたよ。」


それ程長い時間話していたような気はしない、時計を見ると行きの半分の時間で帰ってこれた。しかし、別れたメンバーも大変だったようだ。4匹の馬の死体と細長い内臓の様な物が見える。分解速度は他のモノより遅いようだ。


「何があった?」


「隊長こそ、それは?」  


「ああ、ファースト曰く馬、乗り物だそうだ。乗ったが敵意はない。」


 その横でヒラリと降りた彼女は死んだ馬に近づくと、3体を回収し一体を短冊切りにした。


「おや、それはどうするんです?」


「潰して肉にしたんだし、食べるんでしょ?焼いてあげる。」


「え?」


 彼女はニコニコとしながら、肉を焼く。多分演技なのだろう。出会った当初の様な彼女は、手際よく肉を浮かせそのまま炎で包み焼き上げる。匂いはない、時折油の弾けるような音はするが、滴ることはない。


「さぁどうぞ?」


(隊長、食えるんですか?コレ。)


(俺はついて行って、更に奇妙なモノを彼女と食べた。)


「美味そうですね、頂きましょう。他の部族の料理よりは見栄えがいい。」


 高槻先生は出された肉をハンカチで包んで手に取り、躊躇なく頬張る。結構大きめの肉だが、口やハンカチに油が付くことは無い。大きくかぶりついたが、咀嚼回数は少なく難しい顔をしてすぐに飲み込んでしまった。


「・・・旨味はあります。寧ろ、旨い。しかし、それしかない。」


「旨いんですか?」


「ええ。歯ごたえは・・・そうですね、オートミールやポリッジの様です。味は旨いですが、旨い以外無いですね。クロエ、栄養はあると思います?」


「あるわよ?食べ物にソレがなかったら、意味がないじゃない。多分、完全食じゃないかしら?中で長期活動を想定してセーフスペースや食料、水は作ってもらったんだし。さぁ、他の方もどうぞ。」


 先生が食べた手前、拒否するのもはばかられる。それぞれが手に取り、顔を見合わせたあと、おっかなびっくり口に運ぶ。先生の言うように、歯ごたえはほぼない。個人的にはコンビーフの様な食感で何がかは分からないが、旨いとは感じる。先程の目玉わらび餅よりはまだ、食料の体裁は保っていると思う。


 残した班はこの周りを調査して、水場を見つけたらしい。確認はしていないが、副官の話ではアイテムの入っている様な大きめの箱に、水が満たされていたらしい。汲んでも減らずなみなみと。流石に飲むのを躊躇い、採取だけにとどめたという。


「私は意外と好きですね。」


「俺は・・・微妙かな?1食ならいいけど、飽きるし歯ごたえがな。」


「自分はこれが飲み物なら許せましたね。だし汁的な感じで。」


 各々に食べた感想を言うが、どうやら副官は気に入ったらしい。ファーストも食べているのかと見ると、彼女は馬の首を撫でるだけで食べようとはしない。


「食べないんですか?」


「お友達の前で、お友達を食べたくはないわね。後で頂くわよ。さて、お腹いっぱいならそろそろ先に行きましょうか。お迎えも来たようだし。」


 彼女の視線を追うと、そこには寸分違わない馬が人数分静かに居る。彼女も俺も乗った。なら、乗り物で間違いないだろう。不気味だが、齧られる事も蹴られる事もなかった。


「乗り方は?」


「乗って行きたい所を思うだけ。でも、ここから先は貴方達にはきつくなる。忘れた玩具は遊ばれたい、壊れた人形は動きたい。捨てたナニカは探し物。イントロダクションはおしまいよ?」


「・・・本番はここからだと?」


「さぁ?ゴミは底に溜まるものよ?楽しく行きましょう?私もそろそろ遊びたいの!」


 会った当初の様に彼女はニコニコと微笑む。彼女の言ならここからが本番だ。目的は退出ゲート、あるのは15ゲートと情報が上がっている。戻るなら、ここ以外ない。


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[一言] ~ゲート開通後、個人がメディア等の力を借りずとも、容易く腕っぷしで世論を動かせる様になった。事実、たまにそう言う輩を見つけては、叩きのめし警察に突き出している。  まだゲート解放から二日もた…
[気になる点] 前話では「足立ゲート」とある。今話では「安立ゲート」とある。
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