138話 何処までバラそうかな 挿絵あり
まぁ、経緯はいい。一般的な入試や入社と一緒。入る試験を受けて入ったなら誰もがスタートラインは同じ。問題は入った後で何をするかによる。荒っぽい考え方をするなら、裏口でも替え玉でもそのスタートラインにさえ立ってしまえば、後は自分がどれだけ周りのレベルに合わせて成長できるのか?と、言う事になる。
当然、不正であれ無理してであれ、周りのレベルに合わなければ取り残されるし、苦しんで藻掻いても結果の出ない事など山ほどある。寧ろ、結果が出せる方が凄い。その結果を本人が認めるか、それとも一人きりの一番を目指すかは自由だ。エマの場合、ミスコンなら一人きりの一番を周囲に示したかったのだろう。
今の様に持て囃されて思う。結構面倒くさいぞ?オンリーワン。俺自身は雄二に言った様にわがままで図太いからいいのだが、繊細な人は辛いだろうな。成れないだろうが芸能人とか成ったらすぐ辞める自信がある。淡々粛々、変化は一つまみのスパイスで十分。濃い味が好きだが濃すぎても年齢的にもたれるのだよ・・・。今は気にならないけどさ。
「まぁ、色々ありましたからね。米国でも話は出ているでしょう?私が最初の被害者であると。被害内容は伏せますが、それによって私は職に就いて、他の人よりちょっぴり高性能なだけです。」
フルスクラッチボディは優秀です。実際消し飛んでも齧り取られても元に戻るし戦う事を想定したなら、これほど優秀な事はない。ただ、能力値に回した過剰分ってなんだろう?身体については捧げ物の副次効果なので能力とは関係ないと思う。それに、巻き戻りは出来ないらしいが、夏目のような職選びと薬の効果ならかなり死にづらい。寧ろ、夏目の場合死のうと本人が決意しないと中々死ねない。
・・・、よくよく考えると捧げ物の副次効果は嫌と言う程実感出来ているが、肝心の能力ってどの部分?魔女と賢者が意思を持ったと言うのはなんだか違うし、言語力は前に動画を見て英語が分かるようになったけど、元々ヒヤリングは出来た。少ない能力値を指定なしに伸ばしたから実感できないとか?
『気付いてないのかしら?』
『気付く?気付く程能力が上がっているなら、実感できるはずだが?』
ん〜、なんか上がった?魔女が気付いてないのか?と問うならなにか上がっているはずだがなんだろう?飯は一杯食える。中身がないからだがこれは能力ではないな。捧げた結果だ。魔法が使える。これは職に就いて魔女と賢者の職を得たから。能力という意味では確かに破格なのだろうが、これはあくまで職業なので上がった下がったではなく、元性能が破格と取るべきだろう。
他は・・・、魔法を使わなければ基本的な身体能力は一般人程度。魔法有りきで考えるならこの限りではなく、寧ろ逸脱しているが、それでも他のスィーパーから見れば驚くほどのものでもない。そもそも能力と言う考えが曖昧なんだよなぁ。人は数値では表せない。身長体重スリーサイズに各パーツの配置なんかは出来るが、学力を考えるとどうだろう?
ペーパーテストは暗記力を試している。教科書を丸暗記すれば悪い点は取らないし、記憶の宮殿なんていう記憶術なんかを身に着ければいい大学にも行けるだろう。まぁ、箱を作って記憶を仕舞い、鍵だけ持っているような感じだがこれもイメージが関わってくる。しかし、今の御時世スクリプターなら既存の本を読みさえすればテストで満点取れるし、そもそもテストとは人が作ったものなので回答が必ずある。
出題者の癖となっている所に論点となる箇所、対話していると仮定して問題を解くなら問題を何度か読めば自ずと何を欲しているのかが見えてくる。数学なら公式を覚えれば、後はパズルのようにそこに数字を当て嵌めれば回答は出る。高校の頃やったな。テスト開始と同時にテスト範囲の公式を用紙に書き出す事を。これが出来れば、少なくとも最低限の労力で赤点は免れる。
ん〜、知能指数とか測れば分かるかもしれないが、生憎とテストは面倒なので受けたくないし、そんな事をしている暇もない。他で考えると、どれもこれも値として考えれば明確なものはなく曖昧だな。
『ふふっ、そのうち分かるわよ。』
『分からなければ教えてもらうまでだな。』
そんな事を魔女と頭の中で話しながらエマ達と話す。本当に気付かなかったらヒントか教えを乞おう。一応、賢者は師となってくれているしね、取っ掛かりくらいはくれるだろう。
「EXTRAとはゲートとなにか繋がりを持つものなのカ?」
「どうしてそう思うんですか?」
「スタンピード発生時の協力体制・・・、今この話を持ち出すという事ハ、何かしらの情報があリ、職をわざわざこのタイミングで明かしたのなラ、そう考えるのが自然だろウ。あそこまでサラッと言われるとは思わなかったがナ。」
そう言ってエマはジト目で俺を見るが、畏まる程の事でもないしねぇ。そもそも明かさないのは血眼になって探されても困るからであって、中位も出て他の国も取り敢えずそこを目指すかと動き出しているであろう時期なので、今明かしても騒がれこそするだろうが、方針転換するには少し時間が経ちすぎている。同時進行を狙う所もあるかも知れないが、それは今明かした米国くらいで他の国はまだそこまで行き着いていないだろう。
「知った所で就こうと思って就けるモノでなければ、どんな適性が必要かも分からない。今なら分かるでしょう?エマ。貴女の中に賢者への適性はありますか?」
「ないナ。少なくとも出た3つより適性のあるものはなイ。確認するガ、これは定時報告で報告してモ?」
「どうぞ、松田さんも止めないのですからokなんでしょう?」
「ええ。米国へ少佐が報告後、逐次各国の上層部へ問い合わせがあれば公開します。私達としてもどこかの時点で情報公開は必要と考えていました。まぁ、あくまでクロエの個人情報としてではなく、スィーパーとしての立場としてですが。未だに個人情報を引き出そうとちょっかいを掛ける輩は多い。その中で職を公開すれば多少はそちらへ目を向けられるでしょう。」
ちょっかい・・・、詳しく聞いて家族が狙われていると言われれば、松田達の事前対応に対して礼を言わないとな。まだやらかしていないが、やらかす国が出たらその国へは、個人として何があろうと一切協力するつもりはない。
「人の尻を追いかける時間があるなら、さっさと自分達で鍛えればいいものを。ちょっかいかけた国の名前と内容を教えてもらっても?釘どころか杭を打ち込みたいんですけど。具体的には尾っぽ掴んでるから次はないと大々的に配信したい。」
「それは・・・、流石に実害がまだないので教えられません。その中で警告を発信するならお好きなように。誤情報を流して混乱させられますので。」
ふむ、思考を開始しろ。何か言っていなかったか?何処かにピースはないか?いや、このメンバーでなくとも聞いた話やニュースを見なかったか?最初は推測でいい。基本の骨子を組むなら確定している事から逆算しよう。対象は俺か家族。距離があるので複数国、或いはそれなりの規模で動ける国。除外は米国、無意味だ。何時だったか千代田の手に違和感があった時があった。掴まれて一瞬表情を歪めた。その時名を・・・、加納の名が出た。
外務省所属 加納 綾子。確定事項として所属は間違いない。米国大使館に送り込む人間がただの警官や自衛官ではない。補強するなら本人から確認も取っている。そして、モスクワと言う名が出た。ふむ、確かにこの2カ国としては面白くないだろうな。主義にしても主張にしてもコチラとは全く違う。問題はどの程度の規模でちょっかいを掛けたかによるが牽制する程度なら匂わせればいい。ただ、匂ったからには警戒はさせてもらおう。向こうから来ない限り手は出さないが。
「赤い国とは仲良くなれなさそうですね。私個人としてはその国に向ける目は厳しくなる。」
「・・・、参考までにどうしてその国を?」
「手持ちのパズルピースを組み立てただけです。まぁ、何が赤いのかと言うのは言いませんが、修学旅行で行った事があったのに残念です。それに、広場も見てみたかった。」
大人しくしていれば何もしないよ?ホントだよ?手を出したら知らないけど。まぁ、個人で出来る事なんて高が知れているのでそこまで面倒な事にはならないだろう。松田と千代田の顔は冷静だが、さっきの千代田の発言でほぼ確定となった。
「それよりも私は賢者に付いて聞きたイ。報告に名前だけというのは信憑性にかけル。カオリや千代田達はどの程度賢者と言う職を知っているのダ?同一認識があるならそれぞれの話を擦り合わせれば確認の手間が省けル。」
そう言われた松田と千代田は顔を見合わせ、望田は頬に手を当てながら宙を見る。ほぼ公開情報ってないんだよなぁ。そもそも説明は空白だし。魔法職で事足りるので周りもその認識で動いてたし、何なら魔女については未だに伏せてるし。
「そうですね・・・、私達より本人に聞く方がいいかと。」
「私もその意見に賛成です。私はスィーパーではありませんし、松田さんはペーパースィーパー状態。望田君は分かるかもしれませんが・・・。」
上手い具合に逃げたような気もするが仕方ない。不老不死は多分伏せた方がいい情報だろうし、必要なのは賢者についてなので取り敢えず、魔法職でイメージ集合体とでも伝えればいいのかな?上位の先なら間違いなく2つの職は混ざってるはずだし、魔女の言い分だとそれ以上に様々な側面を持っている。
「クロエは取り敢えず死にませんよ・・・。」
「ちょっ!」
「不老と不死を飲んだと言う事カ・・・、いヤ、被害者とするならその薬の被験体にされタ?」
「えっ、クロエ不味かったですか?」
望田がキョトンとしながら聞いてくるが、伏せようと思っていた事をピンポイントで話し出すとは・・・。まぁ、話してしまったのなら仕方ない。スタンピードで協力体制を取る際に戦って死ぬのは仕方ないにしても、俺を犠牲にしない為に誰かが犠牲になるのはゴメンだ。
「伏せようと思ってましたが仕方ありません。基本的に私は死にません。それこそバラバラになろうが木っ端微塵だろうがすぐに動き出します。なので、戦う際に私と言う個人は前提犠牲で構いません。必要なら背中からモンスターを串刺しにしてください。その程度なら我慢できます。ただ、これはオフレコ、エマの心に留めておいて下さい。話が広がると色々面倒です。」
戻るけど積極的に死にたいものでもないし、何より排除不能ならアキレス腱を狙うのが世の常。この情報が拡散すると家族が危ない。人質という話が前にも出たが、それがより現実的になる。流石にそれは看過できないので広げてもらっては困る。
「分かっタ。その話については口外しない事を誓おウ。それ二、その件についてハ、職とは関係ないので報告義務はなイ。」
そうきっぱりと言って捨てる。ありがたい事だ。ただ、オフレコついでに巻き戻りの件ははっきりと訂正しておこう。そうでもしないと、なにかの際に話が漏れたとして、不死薬飲んだのに爆散したら身体ないのに死ねないと枕元に立たれても面倒だ。
「1つ訂正をしましょう。私は一切薬を飲んでいません。職に就いた時のゴタゴタでそうなったに過ぎないので、薬の効果については自身で検証して下さい。さて、本題と行きましょう。職の傾向としては魔法職です。これは間違い有りません。ただし、説明はいっさいありません。ただの空欄です。」
「空欄・・・、他のメンバーにも聞いタ。中位になった時点で説明が1つ消えたト。なるほド、最終的には全て消えれば正解なのだナ?」
「多分ですがそうなります。カオリは確か距離が消えたんだっけ?」
「ええ、どこからでも守れます。ただ、音が響かないとダメなのでアンプとか欲しいですね。」
ある意味電話とか無線機とかあると、かなり効率よく防衛範囲が設定出来るのではなかろうか?最初の作戦で範囲を分かりやすくするなら柱でも立ててそこに、大きなスピーカーとかを括り付けてもいいかもしれない。
「正解かは別として、多数の方が消えているので間違いではないと思います。なくなればそれは自身のモノとして当然のように扱える。最終的には全て消えるか、上位まで行けばマスターでしょう。」
 




