137話 職の話 挿絵あり
すいません、ゴタゴタして短いです
「待ちくたびれタ。ようやく仲間に入れてもらえるのカ?」
はみ子だったエマが席について会議を再開。さて、開口一番は誰が口火を切るかな?初っ端から職を開示してもいいが話としても持って行き方と言うモノがある。今まで伏せていたものをいきなり『私賢者なんすよぉ〜。スゲー知識あるんスよぉ〜。』と、言った所で『いや、なんかいきなりこいつ言い出したぞ?ブラフ?』と受け止められてしまう。なので、職を明かすのは後々でいいとして、最初に話すなら・・・。
「エマ少佐、今回の話し合いはスタンピード発生時に日米の協力体制についてです。少佐も中位に成られた。一存とは言いませんが、今後の協力体制を考えた際に駆け付けるのは少佐自身と思い、こうして内々に骨組みを作れればと考えて話し合いの席に着いていただきました。」
松田が柔和な顔で最もらしい事を並べる。会話の何処をとっても違和感がない辺り、流石政治の世界を歩く者という風格である。更に言うなら、意見は欲しいし来るのは君だろうけど、決めるのは上と話してからになるよね?と言う逃げ道を用意している所だろうか?ここで話したとしても、後から『上司が駄目だって。』と責任を投げる事も出来る。
「先ずハ、成るではなく至るダ。そこを間違うと後から大変な事になル。」
ドヤ顔でエマが松田に返すが、それって日本に来た当初の俺からの受け売りなのでは・・・?まぁ、間違った事を言っている訳ではないので構わないが、そんなに嬉しそうにドヤ顔しなくてもね。
「失敬、私もスィーパーでしたが言葉やイメージは大切でしたね。流石は少佐、至らない私にも指摘して頂けるとは恐縮です。では、至られたエマ少佐は協力要請を出した際に助けていただけると考えても?」
話術か。一言要点を間違えてそこを指摘させて華を持たせてヨイショする。いい気分にはなるだろうが、相手を見くびり過ぎではないか?外見こそ20代だが中身は戦地叩き上げの将校だぞ。それに渾名はマッド・ドッグ。猛犬どころか今は何処までも敵を追い詰める猟犬だ。
「情報量次第ダ。秋葉原の映像検証は進ミ、我が国でも被害想定というモノを算出していル。貴国でも分かっているだろウ?死亡率80%の戦場においそれと派兵できなイ。私は軍人で政治家ではないガ、死ぬ事を仕事として受け入れようとモ、そこに何かしらの希望がなければ話にならなイ。」
スッパリとエマが切って捨てる。兵を作戦もなしに見す見す死地へはやれないよな。元々エマは上からの命令でゲート調査を行い、その過程で仲間が自爆したり、本人もボロボロになりながら20階層まで潜ったという経緯がある。
そんな彼女に、なんの策も提示せずに首を縦に振らせるのは至難の業だろう。まぁ、策と言っても先程俺が提示したもの以外があるのかは知らない。戦術学者とか日本ではあまり聞かないが自衛隊のアドバイザーとかならいるのかな?
流石に秋葉原以降は政府も遊んでいた訳でもないし、法にしろ技術発展にしろ目覚ましいものがある。その中に必ず次のスタンピード対策は盛り込まれているだろう。まぁ、それでも今チョイス出来るものが、松田の頭の中に入っているかは別の話だが・・・。
「希望と言うにはアレですが、有用な戦術があるとしたら?」
「戦術は聞ク。しかシ、貴国にはクロエがいル。その時点で協力体制の必要性に疑問をもツ。私が言うのは下卑た気分になるガ、中位最多の貴国へ救援要請を出す事はあれド、そちらから請う事はないのではないカ?」
エマの指定は的を射ているな。スィーパーを戦力として見た時に、現時点でこれ程潤沢な国は他にないだろう。下位は国民数としても、その先に至れているのは現状日本と米国のみ。数の暴力もあるだろうが、その暴力を振るう前に無力化されたら?中位とはそれが可能なポジションだろう。まぁ、人を殺しだした時点で残念ながら敵認定させてもらうが。
「エマ、それじゃあクロエは誰にも頼れなくなっちゃう・・・。」
「それハ・・・、今は軍人であって個人ではなイ。多数を助ける為に個を犠牲にするのは残念ながら仕方のない事ダ・・・。」
毅然とした態度でエマは答える。究極の選択の1つだよな。多数を犠牲に1人を助けるのか、1人を犠牲に多数を助けるのか。俺は既に答えを出している。本人がなんと言おうと1人を助けるである。悪いが知らない数多は目に入らない。ただ、こうして動いているのはあくまで、危険の芽を摘む為であってそれ以外の理由はない。そりゃあ、親しい人が困っているなら助けるけどこれが本当に知らない所なら・・・、戦いに行かないといけないのか。放置した方が後々危ないし。
他国の中位はよ!至りたくて至れるモノじゃないが、シンクロニシティとかで取っ掛かりくらい掴めててもいいんじゃない?まぁ、それが発表されたらされたでまた一波乱アリそうだが・・・。
「その犠牲を減らす策をクロエが持ってきたとしたら?」
松田が表情を崩さず口を開く。そこでこっちに振るのかよ!丸投げもいい所じゃないかと思うが、職を明かすならタイミング的にはここだよな。振ったと言う事は明かすGOサインと受け取って構わんのだろう?
「知的だとは思うガ、軍事作戦を立案できるかは疑問が残ル。そもそも秋葉原で戦いこそすレ、作戦自体は政府の立案ではなかったのカ?」
エマがチラリと俺を見る。見られても職の名前くらいしか出んぞ?まぁ、それが出ればエマの作戦に対する信用度は多少は上がると思うが。
「作戦立案は別として相当走り回りましたね。」
「懐かしい・・・と、言っていいかは分かりかねますが相当な時間話し合いましたね。作戦立案と言うよりクロエは作戦全容を作ったと言った方が正しい。必要なピースを集め、今ある事実を淡々と積み上げて本質を作り上げていく。」
「なんたって私はEX賢者ですからね。」
「・・・、EX賢者?」
おぉ~、鳩が豆鉄砲食らうというが成る程。これ程まんまる目なら確かに鳩と形容してもいいだろう。サラッと言ったが割りと聞きながしてもらえないものだな。
「ええ、私の職はEXTRA 賢者。前に職のイメージの話をしたでしょう?私のEXTRAのイメージは私の職からきています。」
そもそも下位から育ててないので本当に努力、友情、勝利を経ていない。行き着いた先でやりはしたが、本当にプロセスとしては逆だよなぁ。まぁ、選んだのは自分で引き受けたのも自分なので今更泣き言は言わないが。
「憶測としては当初から上がっていタ。たダ、誰も確証を持てなかっタ。該当者が誰も報告されていなかったかラ。米国の人口は約3億3千万人ダ、それほどの人がいてもいなかった職にクロエは就いているのカ・・・。」
何と言うかそうしみじみと言われると照れくさいな。棚ぼた的に職を選んで就いて、偉そうに適性とか言っているがその本人は無理やり職に就いたと言う経緯があるわけで・・・。




