135話 久々だな 挿絵あり
コンテストは駄目でした
「必要な電話は済ませたから、一旦待機。なにかする事があったら今のうちにしといてね。」
プカプカと煙を吐いて糸玉を量産しながら話す。同時に何個も作れるので量は賄えるだろう。モノは試してみるもんだ、スムーズに作れるから何個か同時に行けるかなぁ?と考えていると、賢者と魔女が手伝うと申し出てくれた。嫌に協力的だが準備期間も分からないので手伝ってもらっている。
大きさは毛糸玉くらいで、色々な人との繋がりをイメージしてそれを糸とする。出産や子供よりはよほど他人に渡す物なのでそのイメージの方がいい。どうしても、里子やら結婚やらが頭をよぎるからな。一応、煙がなくとも糸は出来るので、迎えが来るまでは糸製造機となってジャンジャン作ろう。
「我が国が欲しがってる物があんなニ・・・。」
「今はいいですけど、最初は大変だったんですよ?」
「製造にそれほど労力を使うト?色が変えられる事はこちらで知ったガ・・・。」
「いえ、最初の頃は子供とか出産をイメージしてたらしいんで、子供を離したくない親的な?切るのも嫌がってたみたいですし。」
「なら私はクロエの子供に包まれてるト?」
「キモい事言わないで下さい。もうあげませんよ?」
「キモい・・・。」
エマが落ち込み望田が慰めているが、後で慰めればいいのかな?落ち込む程傷付くとは思わなかったがそんなに繊細だったのだろうか?いや、女性には優しく。確かに酷い事を言った。
「エマ、気がはやっていたようです。すいません。イメージは貴女のモノなので好きに解釈してください。キモく・・・、ないですよ?」
「そうカ・・・、ありがとウ。」
「それよりこんなに糸出して・・・。あっ!転がる!転がってベッドのスキマに入ってく!」
遥が猫の様に糸玉を追いかけてベッドの下を手で探っている。玉より楕円に束ねた方が転がらなくていい?いや、ラーメンとか素麺とか麺料理を思い出して上手く行かなさそうだ。今更イメージ変更して作り上げるよりは今のまま行こう。ベッドの下を探っていた遥の手に御札っぽいモノが握られているが・・・、見なかった事にしよう。多分、ベッドの値札とか保証書とかだろうし・・・。と、そう言えば。
「遥、靴もお願い。最悪後から話が行くと思うけど、多分いっぱいいるから話しといて。」
「いいけど、芽衣さん達も仕事あるから頼むだけね。代金は?」
代金かぁ・・・、取り敢えずポケットマネーで賄って政府に請求書回す・・・。いや、買い取ろう。一旦ギルドとして正式に買い取ってスタンピード用の備蓄として持っておこう。指輪様々でこれに入れていれば邪魔にもならない。もしかして、ソーツの作ったもので1番実利があるものって指輪なのでは?
昔は手作業で書類を作ってパソコンなんて邪魔、ワープロはまぁ?認めない事もない。なんて人もいたが、今となってはパソコンないと仕事にならない。報告書作成やら表計算に勤怠管理、それと同じ様に指輪が無いと仕事にならないとかもありそうだな。主に運送業とか?大型トラックの免許はいらないけど、指輪無いと雇わないはありそうだ。実際、燃費とか考えるとコスト抑えるなら軽自動車で荷物指輪に入れて運んだ方が相当にCO2も減らせるし、ガソリン代もかからない。まぁ、ガソリンもCO2もクリスタルやら職でどうにかしようという試みがなされているようだが・・・。
「クロエ、そこまで焦るほどの事を話し合うんですか?」
「ん〜、内容は会議室で。カオリは檻とか壁とかのイメージ作っといてね?」
「えっ・・・?えぇ!それは簡単なんでいいですとも。大きさはどれくらいですか?檻とかなら3m四方とか?」
「ううん、内側4kmの円形。ケーキみたいに切り分けられると尚良し。外側は5kmで2重円構造。切り分けるのは中だけでいいよ。」
「軽く言ってくれますねぇ・・・、いいでしょう。ハイパワーな私はそんなイメージを作り上げましょう。必ず!」
範囲でピンと来たのか望田の顔が真剣になる。4kmの円。ただ話すだけなら何でもない事だが、知っている人間がそれを聞くと嫌でも思い出してしまう。多分、どんな作戦を考えても望田は要になる。被害想定をするなら、ゲートを囲う城壁は必要で限定区域を策定出来ればモンスターが逃げ出す事を抑えられる。中で戦う人間は蠱毒の様と捉えるかもしれないが生き残ればいいのだよ。
時間は有限だが刻限はまだ切られていない。今出来る事をするしか無いので出来る限り動いて被害を減らせるだけ減らそう。他に要請を出せそうな人と言えば、斎藤と高槻。山口も爆弾作りの腕は確かだよな。消し飛んだし。検証は必要だが埋設地雷とかでダメージが与えられるなら量産してもら・・・。
「エマ、地雷って国際法に抵触しますよね?」
「抵触するナ。オワタ条約・・・、ではなク!オタワ条約があル。なんダ?必要なら私が出すガ?戦争でも始めるのカ?蚊帳の外だが物々しい雰囲気なのは分かル。」
「戦争・・・、生存圏を賭けての戦いとすれば間違いではないけど・・・。」
スタンピードと聞いて宮藤は泣き言を言わなかった。千代田は知らせを受けて、モンスターと戦えないながらも対応策を練る為に動き出した。戦う事で選ばれただけあって、今の所誰もセーフスペースで暮らそうとは言わない。前回のスタンピードの後に何度か考えたことがあった。本気ではなくジョークとしてだが、セーフスペースに篭もろう或いは、移住しようと。事実としてセーフスペースには基地が建設され、他国には移住者もいる。スタンピードの際にセーフスペースがどうなるかは分からないが、安全圏として作られたのなら干渉はしないだろう。なら、外の世界をモンスターに明け渡して中に籠もって、掃除しながら生活したとしたら?
ゲートの捉え方の問題だ。どの国にも地底世界の話があるように、あの中を新天地として捉え移住する先と定めた場合、必要な物は取り敢えず揃っている。セーフスペースに外敵はいない。食事は寂しいが料理人がいれば味は楽しめる。水も住む所もどうにかなる。効率的な掃除と言うが、ゲートの中にソーツは不干渉。なら、避難先としてセーフスペースを選定して戦力が育つまでは外を・・・、地球を明け渡してしまったとしたら・・・。モンスターと人との立場が入れ替わり、人こそがモンスターと呼ばれる存在になり果てる。
(あらあら、それでいいのかしら?)
(ゴミ溜め生活をする気?やめてよね、面白みもない。)
・・・、闘争本能かな?それは容認できない。最終手段として、その事は頭の片隅には置く。再起不能ではなく、再起の為の最終手段。・・・、嫌なものだ。戦う前から撤退ルートを探すなどと言うのは。しかし、これもまた話す議題には挙げないといけないな。半年そこい等で再発するなら安全措置は必要だ。
(今回溢れるのは時期的に早いよ?まぁ、前回が少量だったからね。)
(早いのか?てか、あれで少量?)
(ええ、早いわね。本当ならもっともっと先だもの。何なら掃除さえしていれば溢れない。言ったでしょう?遅いと。)
(先へ行けか。OK、毎度人の星を荒らされても困る。猶予とやらを稼ぐ為に潜って先を目指す。2人共全力で手を貸せよ?)
怒られている訳では無いが尻は叩かれている。はよ行けと。確かにその通りなのだろう。2人の話・・・、いや、魔女の言い分なら掃除さえすれば溢れないのだから。
「戦地を歩くカ。間違ってもウチの国を攻撃しないで欲しイ。」
「しませんよそんな事。人をテロリスト扱いしない。」
そんな話をしていると、扉が開き千代田が入ってきた。彼が手配したホテルだからいいのだが、事前連絡無いと女の園だから下着とかあったら色々文句を言われるぞ?実際に帰ってきて疲れて脱ぎ捨てた下着が足元に落ちてるし。
「来てそうそうテロリズムの話とは穏やかじゃない。クロエ、他国を攻撃するなら先ず、言い逃れできない大義名分をでっち上げてからして下さい。」
何故千代田からテロを行う際の手解きを受けているのだろう?保身と言うか保国?の為だろうが、俺はそんな危険人物ではない。全く何を考えているんだか。実践してギャフンと言わせよう。
「・・・、すいませんが糸玉作りで手が離せないので、千代田さん足元の布を拾って貰えませんか?」
「これですか?」
よし拾った。なら、後はでっち上げよう。災いの種とはどこにでも落ちているもので、踏もうが拾おうが何なら育てようがいつの間にか襲いかかってくるものである。時と場所が悪かったな千代田よ!
「千代田さん、貴方は下着ドロにクラスチェンジしました。言い逃れの出来ないでっち上げられた大義名分です。警察へ行きましょう。」
「なっ!詐欺ではないですか!」
「ええ、でっち上げですからね。下着が嘘だと思うなら広げてもいいですよ?見たくはないでしょうが、次からは入る時連絡してくださいね?この部屋は女性しかいないんですから。」
「・・・、今朝の連絡で私も浮ついていたようだ。肝に銘じておきましょう。他の方からの視線も痛いですからね。それと、話が引っ張られるようで嫌ですが行き先は警視庁です。」
「出頭するのカ?カツ丼が食えるらしいゾ?」
「エマ少佐も変な事は言わないで頂きたい!そもそも、クロエはそこまではズボラではなかったでしょうに。」
そう苦言を呈しながら持った下着をどう扱おうか悩んでいる。ポケットに入れたらガチで犯罪者だが、そのままベッドの上に置いたので良しとしよう。元男でおっさんの下着とか持ち去っても使い道ないだろうしな。昔なくした下着は依然として行方不明だが、多分置き忘れで捨てられたのだろう。再発はないので、多分大丈夫。どうせ、あの時なくしたのは望田が買ってきたものだしね。
「日付が変わって帰ってきてからの今ですからね、身体は元気ですが精神は疲れた気になります。本当は洗濯までしたかったのですが、そこまで行き着きませんでしたよ。亅
「状況的には厳しいですが、ご自愛下さい。それで、行くメンバーは望田君、エマ少佐、クロエでよろしいですね?」
「ええ、行きましょう。高槻先生と斎藤さんにも声をかけたかったですが、車でLINEを送るとします。遥、後は頼んだ。」
「分かった、私も出るから鍵はフロントにね。」
フロントに鍵を預け千代田の運転で警視庁へ。久々に行くが橘達は元気だろうか?缶詰刑事からもゲートの作りで進展があるなら聞きたいがどうだろう?前に話を聞いた時は本調子ではなかったし、あの後はゲートについて話す機会が殆どなかった。まぁ、中位になったりエマに実演して見せたりと、会う事はあるのだが話し込むかと言われると中々ね。
まぁ、スタンピードの話が出れば彼も駆け付けるだろう。どこかの機会でゲートについてじっくりと話を聞く必要があるな。推測と推論で話すよりは地固めが出来た確定事項を元に作戦をたてた方がいい。そんな事を考えながらスマホを取り出して高槻へLINEを送り、斎藤へ電話する。
「もしもし、斎藤さん?」
「はいはい、斎藤です。新年ぶりですね、どうかされましたか?」
「少し話を聞きたいのですが、硬度照射装置はどれくらい連続使用出来ますか?」
「難しい質問ですね。対象の大きさや材質等に左右されます。何か照射したいものがありました?」
「インナー、講習会メンバーが着ているモノへ照射実験はしましたか?」
「いやぁ、モノがないのでしてませんね。一応、糸へはしましたよ?」
あちらへもインナーを回さないといけないな。結果が良ければ作るものへどんどん照射してもらって防御力を高めてもらおう。逆に折り合いが悪ければ、モンスター素材を加工した後に照射してもらって簡易防具として扱おう。しかし、照射してるものってなんだろう?そこは聞きそびれていたけど、量は賄えるだろうか?
「分かりました、インナーを届けるようにします。照射するモノは足りますか?接着剤的なモノとは聞いていますが。」
「インナー1枚くらいなら大丈夫ですよ。材料は色々有りますけど、セーフスペースのぷるぷるした玉が大量に必要です。」
セーフスペースのぷるぷるした玉・・・、目玉ワラビか!アレが大量にあればいいと。それなら民間でも取りに行けるな。積極的に取りに行ってもらおう。ギルド稼働前に依頼を出すのはどうかと思うが・・・、小遣い程度にキロ金貨何枚とかでクエスト発注する?大々的にやると色々怪しまれそうなので、あくまで次いでにお願いする形がいいだろう。ゲームっぽくギルド設置記念とか?どうせ稼働後には照射装置もギルドに置いてもらいたいので、素材は邪魔にはならない。
「それの調達はどうにかしましょう。斎藤さんは装置をどんどん作って下さい。各ギルドにも置きたいので。」
「分かりました。と、言いたいですが資金不足がですね、足を引っ張ってですね、端的に言うと援助とか出来ます?」
「あ〜、どっちがいいですか?ギルドとしてか高槻製薬としてか。」
「えっ、高槻製薬って確か回復薬作ってる所ですよね?未来の大企業にそんなにポンポンお願い出来るもんなんですか?」
そう言えば、斎藤は俺が大株主な事を知らないのか。表舞台は社長である高槻が全面に出ていて、株や為替に興味ないと株主とかに興味ないからな。有名会社の社長は会見とかするかもしれないけど、株主はお金出すだけなので全く関係ないし、モノ言う株主だとしても、俺の場合総会とか開く前に高槻連絡してるし。
「一応大株主でして。ギルドなら今の所ポケットマネーなので、援助した分は物品払いで構いません。会社の方なら販売代金として現金をギルドが立て替える形になります。ただ、会社のメリットを言うならセーフスペースにラボがあるので、そこで実験が出来て材料取り放題です。まぁ、高槻先生に話を通して了承を得てからとなりますが。」
セーフスペースに会議室作らない?と、前に言われたので行く行くは作って行きたいが、現時点では自衛隊の基地とラボで事足りる。斎藤にも勧誘をかけたいが、回復薬と照射装置では方向性が違いすぎるんだよなぁ。それに、本人の意向もあるし、無理強いはできない。今の所は話を出す程度で下るか。量産さえしてもらえれば、ライセンス制の貸出でも構わないし。
「一度考えてみます。書類が無い状態ではどちらにもYesとは言いづらいですから。」
「分かりました。特に急ぎはしませんしインナーは早めに届けるようにします。書類は作るとすればこれからになりますので待っておいて下さい。」
電話を切りLINEを確認。高槻の方は既読がつかないので、忙しいのだろう。一応、ゲートの近くで送ったので届いてない事は無いと思う。まぁ、いつもスマホを見ている訳ではないので仕方ないか。
「チヨダ、私は到着後何処で待機すればいイ?」
「応接室を準備しています。何かご入用ですか?」
「橘と話せるなら話したイ。鑑定師を鍛える手段について聞きたいことがあル。」
若干、千代田の顔が曇るがどうなのだろう?地下は駄目だとしても応接室ならいいとは思うが・・・。
「私の一存では決めかねます。彼は警察官なのでそちらの方に打診は出来ますが、会えるかどうかは分かりません。」
「分かっタ。打診だけ頼厶。」
そうこう話しているうちに警視庁へ到着。正面からではなく裏から入り会議室へ。エマは途中で別の警官が案内していった。無事に橘と会えるといいが打診する相手って黒岩だろうか?上は警視総監だと思うが会った事はないので分からない。まぁ、会いたいとも思わないのでいいのだが・・・。
「なんだかここも久々に歩きますね。古巣なんで前は毎日ウロウロしてましたけど。」
「カオリは元警護課の人間だもんね。どう?後から古巣に挨拶行く?」
「ん〜、会議の長さ次第ですね。肩書自体は偉くなったんですけど、昔の上司とかに会うとどうしても下っ端根性が・・・。」
「望田君、君は肩書だけなら私よりはるかに地位がある。あまり萎縮せずに堂々としていなさい。下手に萎縮していると、変な頼み事を聞く羽目になりますよ?」
「千代田さんはなにか無茶振りされたんですか?まぁ、顔怖いんで無いと思いますけど。」
「無茶振り・・・。いえ、なにもないですね。私を相手に軽口が叩けるなら度胸は大丈夫でしょう。さて、この部屋です。松田さんは既に来ていますよ。」
扉を開き中へ。それほど広くない部屋には松田がタバコを吸いながら待っていた。顔には苦々しいものがあるが、それは俺も千代田も通った道。悪いが政府の人間として顔を見せたなら、最後まで付き合ってもらうぞ?その付き合いでそのうち起こるスタンピードへの対処が良くも悪くも左右されるんだからな。
戦う人間とそれをサポートする人間。ソレが別の方向を向いていては勝てるものも勝てないし、抑え込めるものも抑え込めない。要は事前の打ち合わせと方針でスタンピードの被害が変わる。前回は刻限ギリギリだった。しかし、今回はまだ、時間がある。なら、その時間は有効活用しないといけない。
「松田さん新年明けましておめでとうございます。」
「ええ、おめでとうございます。おめでたついでにドッキリだった事になりませんか?今なら怒りませんよ?」
「残念ながらならない・・・と、思われます。」
それぞれが席に付き会議を始めるとしよう。まぁ、一言目はこれしかないよな。望田は感づいているが正式に話していないし。
「近いうちに何処かでスタンピードが発生します。猶予を稼ぐ方向と発生時の被害を最小限に抑える。この両面から話しましょう。」
いらん案件だが、手は尽くす。それによって被害も死者も変わる。どこまで抑え込めて準備できるのか?一番の問題点はそこしかない。
 




