132話 臨死体験中 挿絵あり
人は死ぬとどうなるの?ある人は俗に言う三途の川に行くと言う。対岸で知り合いが手を振っていたり、追い払っていたなんて人もいる。友人の訃報は聞いていないので、いるならじいさまかばあさまだが、2人に手を振られても行く気もないし久々に会えたから懐かしいと思うくらい。仮にこれが妻ならバタフライかクロールで泳いで渡る。赤峰に烈海王の様に水の上を走れるかと聞いたが無理らしい。まぁ、普通に考えて沈む前に反対の足を出すなら、その勢いで水面は下がるし反対の足はその波で沈んでいる。ただ、波の上を蹴って進むのは出来るらしい。実にファンタジー。
またある人は、花畑に行くと言う。一面の花畑で心地良日差しでずっといてもいいかなぁ〜、と思うらしい。花を愛でるほど乙女ではないのでどうでもいいな。むしろ雑草は死滅しろ。畑の邪魔だ。夏はすぐ伸びるし、梅雨は草刈りできないのでどんどん畑が荒れていく。
他には暗いトンネルを進むという人もある。なんでかなぁと考えれば産道かな?おめでとう転生者諸君。チートはその前で貰えてたならラッキー、暗いトンネルで覚えていないなら一般人に転生だ。まぁ、生まれい出た後に前世の記憶が残っているなら、学力チートくらいはあるのかもしれない。知らんけど。
意外と少ないのは地獄落ち。どこまでも落っこちる体験や顔のない死者?がいたり、骸の平原をひたすら歩くような体験。まぁ、地獄に行くならそれだけ悪い事をしたのだろう。生き返って悔い改めるか、笑い飛ばすかはその人次第。まぁ、生き返れればの話だが・・・。
何でそんな事を考えてるのかって?多分爆散したからだよ!暗い中全裸であぐらで地べたに座って、眼の前には映画館のスクリーンくらいありそうな大きな三面モニターがコード教材の様に点滅している。取り敢えず、ポップコーンと椅子はないか?せめてポスターを撮影した時の椅子くらいのやつ。死にはしないが多分臨死体験なんだろ?記憶はあるんだからはよ寄越せ。・・・、無いならイメージしよう。赤いベルベットに白い木製の枠、座り心地は良かったな。一度座って撮影までされたのだ、身体で覚えてるよ。後は、キセルも欲しいな。上映しないのか何も映らないので暇なんだよね。
透明で中に煙が詰まって吸ってよし、タバコと違って香りもよし。禁煙グッズではないが、タバコからこちらに乗り換えても問題ないような気がする。補助具は本当に禁煙補助具だった・・・?まぁ、口寂しくないし吸えればいいか。手元に出て来たキセルでプカリ。そろそろ上映しないかな?見なくてもいいけど、起き方も分からない。
ジーーー・・・
「ん?上映音?」
古めかしいことだ。今の映画館は上映音なんてないし、暗くなれば宣伝映像が流れて、カメラ頭とパトランプ頭が追い駆けっこして始まる。
最初に明かりがついたのは左側のモニターだった。内容はひたすらに文字が渦巻く映像。読んだ本や知識として納めているものだろうか?ライトノベルにドグラ・マグラ、FBI心理分析官の手記、自衛隊の教範。ネットで見たこと知ったことに、テンセグリティ構造の作り方等々。アフリカでは、老人が1人亡くなると図書館が1つ消えると言うらしいが、生きていればそれだけ知識が溜め込めるし、先進国なら図書館1つと言わず何個か消えてそうだ。面白いのは忘れたと思った知識も割と上映される。ほうほう、骨相学とかドマイナーなモノどこで読んだんだろう?
次に右のモニターが移りだす。人間関係かな?友人知人、子供達の顔が出て来て遊んだ時の記憶や、懐かしい思い出が浮かび上がる。桑原よ、つるんで遊んで女っ気はなかったがここに紅一点が出来たぞ?同い年のおっさんで腹の出た仲間だが、今は美少女だ嬉しかろう?それと原口よ、筋トレする前に肉を付けろ。元々細いんだから、そのまま筋トレしても筋肉は太くならんぞ?前なら超回復がいいと言っていたが、飯食って筋トレして回復薬飲め。多分すぐマッチョになるから。
あっちは・・・、那由多の地上絵か。懐かしい寝る前にジュースを飲みすぎるなと言ったのに、ガブ飲みしておねしょした4歳の冬。こっちの布団まで濡れて寒さで目覚めたな。空手の大会で優勝した時もあれば1回戦敗退もある。千尋ちゃんが世話焼いて慰めてたなぁ。遥の方は絵のコンクールか。入賞したのに不貞腐れてるのは絵に納得してないから。よく描けた絵だが本人曰く!絵の具を混ぜて作った色が気に食わないとニコリともしなかった。全く頑固な事だが俺の子なので仕方ない。
好きでやっているのだ、刻限があるのは仕方ないにしてもせめて納得はしたい。ただ、不貞腐れている遥はまだ小2、匠の技を求めるのは少し早くはなかったか?子供らしく喜べ、俺も喜ぶから。女の子は成長が早いと言うし、遥はおませさんだったからなぁ。よく莉菜の化粧道具とかもこっそり使ってたな。定番の口裂け女は見るとやっぱり笑ってしまう。バイク乗せたら化粧っ気もなく性格も更にサバサバしてしまったが・・・。
講習会メンバーとも濃い時間を過ごしたな。腕っぷしで選んだのでやんちゃと言うか、ノリの良いメンバーが多い。それぞれと話して酒を酌み交わして無事を喜び飯を食う。脱落者が・・・、死者が出なかったのは喜ばしい。命の保証のない講習会、全員遺書を書いてそれを預かったが、近々破こうと思っていた。不要と断定はできないが、これは既に俺が預かるものではない。喧嘩していた雄二と卓は今に思えば成長したな・・・。
流れる映像は懐かしいモノから新しいモノまで様々。千代田と会議室に籠もって連日話し合った事や、望田と無くなる前の秋葉原を回った映像。エマと出会って彼女が驚いた顔なんかも流れてくる。最近よく服を褒めてくれるが、エマもゴスロリとか着たいのだろうか?メイド服を着て目覚めたとか?女性なので着飾るのは好きだろうし、何時も飾り気のないラフな格好なので、興味が湧いたのかな?初日の夜は赤いドレスで飲みに来るなんて事もしていたし。
そして、最後に中央のモニターが移り出す。内容は・・・、ふむ、当然だな。妻と・・・、莉菜との出会いから。いや、あの時は参った。先輩の紹介だったが、その先輩も妻と会った事が無いと言うのだから、事前準備もなにもあったものじゃない。それに年の差がね・・・、当時妻は成人式前だったんだよね・・・。大きく歳が離れているわけでもないけど、十代と二十代半ばではそこはかとない犯罪臭が・・・。まぁ、成人式は翌年で誕生日はその先だったので、尻込みするしかなかったさ。そもそも、生まれがこちらではないので、どこに行くにも妻に案内して貰っていたな。ハンドルを握る俺の横に座る妻は、よく話して口を挟むのは至難の業だった。
ある意味、これが功を奏したのかもしれない。仕事の愚痴から友人関係、行き先についてまで色々話してくれるので、聞き役として相槌を打ちながら彼女の事を知って行った。次いでに一人暮らしで自炊していたが、家に来ると料理を作ってくれるので、古い話なら胃を掴まれたと言う事になるのだろう。今では既に母親が作る料理より妻の料理を食べた方が長い。彼女の目論見はストライクで見事に餌付けされ、ガンガン押してくる押しの強さに終始防衛さえままならなかった。
いや、一目惚れとは言わないが、綺麗な娘だと思ったのは確かだ。まぁ、俺は普通?程度でカッコよくもないので振られるなり、自然消滅なりすると思っていた。釣り合いと言うモノがあるなら相当に天秤は傾いていただろう。全く持って釣り合わない。だからこそ誠実であった。記念日は忘れないし、デートするなら出来るだけ楽しませる。彼女といるのは俺なので、楽しませて笑わせるのは俺の仕事。彼女には笑っていて欲しい。莉菜は綺麗に笑うから。
付き合ってプロポーズした時の映像は中々だな。クリスマスプロポーズなんてベタな事をやった。指輪ではなくネックレスを送り、後日正式な婚約指輪を買おうとしたら断られた。曰く、私を思って考えて選んだものなら、それでいっこうにかまわん!との事。男らしい返しだったが、こちらも気分が盛り上がっていた。まぁ、盛り上がったけどそのまま結ばれる事はなく、妻は熱を出してばたんきゅー。今でも2人で飲む時は時々話に上がる。あれは熱ではない、嬉しさと恥ずかしさと盛り上がった気分が額から放出されただけだとのたまう妻だが、放出するなら別のタイミングが良かった・・・。
熱があるので襲えない。しかし、気分は盛り上がってるし、何より泊まりできていたので、横で寝る妻の吐息が艶めかしくて何度手を出そうかと思ったか・・・。まぁ、流石に病人は襲えないので濡れタオルを変えたりした。うん・・・、襲えないのに背中拭いては卑怯じゃない?そんなプロポーズから結婚し、遥が産まれ那由多が産まれ、平々凡々から今の状況へと流れていく。
しかし、どういう感情が正しいのか分からないが、どの映像を見ても旧俺の姿はない。まぁ、主観で見ているので仕方ないが、鏡にチラリと映る姿も白いのは如何なものか?受け入れているので仕方ないとは言え、この記憶だと妻とは元から百合カップルにならない?
んー・・・、思い出というか、走馬灯を壊さないでもらえるかな?見てくれはいいし不思議パワーも全開な身体だが、別にそんなモノは欲しくない。根本的な俺の望みは妻の夫であるという事なのでそこは譲らんぞ?それに、走馬灯がどんどん細かいエピソードを放映しだしたのだが、記憶のストック切れ?点滅も・・・、はよ起きろと言っている気がする?てか、言ってる。感覚だけだけど、確かにそう言っているが起きろと言われてもどうやって起きろと?
・・・、あぁ。成る程、確かに望みは光で希望は導くのか。気絶しているのか何処にいるのかは知らないが、ここで走馬灯鑑賞をしている間にも、いや、もう既に身体は戻っている。なら、戻ればいいのか。望みと希望の方へ。椅子から立ち上がり歩き出す。向かう先は分かる。何せ真っ直ぐ歩けば妻の方へ行けるのだから。意気揚々と歩き出してモニターの前。多分、これを抜ければ起きれるのかな?さて、起きたら岸辺とかがいいなぁ・・・。
ゴッ!
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水中生物はエラ呼吸をする。湖底?で寝ていたが、ありがたい事に背中が地面なら上を向けばそこは水面で、身体が動くなら上へ行けばいい。水をどんなに飲んでも腹は膨れないし、中身が無いので息苦しさもない。認識の問題だろうか?アンパンは苦しかったのに・・・。不気味な魚が目の前を泳ぐが、こいつ等あの爆発で数を減らしたりしないのだろうか?馬もいなくならないし、どこかで生産されているとか?
まぁ、それはいい。しかし、深さを調べたいと爆弾は貰ったが、反響ではなく自身が沈む事になるとは思わなかった。寧ろ山口よ・・・、あの威力は反響調査ではなく、周辺をふっ飛ばして掘削する用だろう。まぁ、それのお陰で痛みはなかったからいいのだが・・・。しかし、巻き戻ったはずなのに頭がズキズキと痛むのはなぜだろう?
タンコブが出来たような鈍痛があるような気もするが、触っても腫れていないしそこだけ巻き戻らないと言うのも不可解だ。不可解なのだが、鏡もないし水中なのでさっさと浮上を目指す。相当深そうに思うが潜水病とかあるのだろうか?薄暗くてイマイチ湖面までの距離がわからない。ブルーホールから浮上するのはこんな気分なのだろうか?せめてもの救いは入り組んでない事か。
えっ、ちゃんと起きてるよね?頭痛いし。そんな宇宙遊泳っぽい水泳を熟して湖面へ。
「あ゛〜、今はいつだ?」
と、声を出したのが今しがた。本当にどれほど時間がたったのだろう?身体の巻き戻りは多分、タイムラグ無く起こったと思う。湖底に沈んで堆積物も積もっていたので、爆発で舞い上がったものが積もったんだと思う。
 




