124話 新年早々 挿絵あり
クリスマスも終わり、年明けに神社で秋葉原で亡くなった方達の冥福を祈る。忘れないよ。君達の崇高なる働きを。安らかに・・・、宮藤の兵を見ると眠っているのかは知らないけど、確かにあの時あの場で戦った人達がいた事も、守るべき人達がいてその為に散った事も決して忘れないよ・・・。
貴方達が少しでも安心できる様、もうひと踏ん張り頑張るからどうか安らかに・・・、恨むなら俺を恨んで欲しい。恨むなとは言わない、貴方達は俺を恨む権利があるのだから。覚悟して戦いに挑もうとも、その結果が死ならば悔いは残る。
「・・・、よし。行こうか。」
「うん、長かったね。」
「去年は色々あったからな・・・。今年はきっといい年になるさ。」
「そうなるといいナ。しかシ、着物というのは動きづらイ。」
「まぁまぁ、これでも人の少ない穴場の神社選んだんですよ?エマも眼福でしょう?クロエの振り袖ですよ?」
「それには同意しよウ。まァ、みんな振り袖なのだがナ。クロエ、似合ってるゾ。ちょっと型を取って土産人形にしよウ。」
市松人形でも作る気だろうか?どちらにせよそんなモノは作らなくていい。しかし、遥も気合を入れたものだ。職で事を成すのでミシンは要らないが、その分鮮明なイメージがいる。振り袖なんてややこしいモノを事細かにイメージして作るのなら、相当大変だっただろう。それを4着、確実に成長していってるな。講師の件もあるし、スキルアップに余念がない。これが作れるなら、十分にやっていけると思う。しかし、エマは事あるごとに褒めてくれるがそんなに似合っているだろうか?白髪で着物・・・、はっ!月陽炎か!いや無いな。メインヒロインと似たような容姿だが性格が違いすぎる。そもそも中身は元おっさんだし。
「エマさん、型とって人形作ったらフィギュアですよ。縫い包みなら売ってあるのでそれを買いましょうね?」
「私は許可した覚えはないけどな〜。」
「いいじゃないですか、莉菜さんも喜んで買ってましたし。」
「いや、普通に許可くれと言われれば許可するよ。あれだけデフォルメされたら分からないしね。じゃぁまぁ、飯でも食べに行こうか。」
女性4人振り袖で歩くと華やかでいい・・・。素直に自分も女性にカウントしているが外見が女性なので問題ない。集合写真を撮ってLINEで妻へ送って適当な店へ。写真撮影を頼んだ人が仕切りに自分のスマホでも撮影したいと言うので、みんなの許可を得て撮らせてあげた。みんな美人さんだからさぞ華があっただろう。しかし、正月早々幸運がキター!と叫んでいたが、そこまでのものだろうか?確かにうちの娘は可愛いが・・・。
そんな正月、生まれた所の近くの県では餅すすりなんていうデンジャラスな行事もあるが、そんな事をする訳もなく過ごした三が日。大人は冬休みも夏休みもないのでつらい。代わりに平日休みがあるのでいいものとしよう。そんな今日はセーフスペースに行ってR・U・Rを起動している。
「新年明けましておめでとうございます。」
「おめでとさん。で、今回はガチかい?」
「ええ、ガチですね。R・U・Rは完成して後は武道館をR・U・R仕様にするだけ。エマが前に言っていた軽さも講習会メンバーの惜しみない協力・・・、と、言う名のお遊びで解消したとか。」
腕っぷしで選んだせいかバトルジャンキー多数。まぁ、対スィーパー拘束訓練と称して、色々な人が色々な職と手合わせしていた。実際、エディターと戦った復元師は泥仕合か速攻かで勝敗が分かれる。時間をかければかけるほどエディターは攻撃を記録しては編集して返し、復元師はそれを突破するために編集された攻撃を相手に結合して倍返ししようとする。
手持ちの武器も様々で改造しすぎて原型の分からないものや、小田の様に武器その物を変更しているパターンもある。実際、ガンナーの黒棒はいい護身アイテムなので人気は高いし、橘の武芸者の玉も欲しがる人は多い。逆に人気がないのはハサミとかエピパン。スクリプターのハサミは小さすぎるのがネックで、改造して貰ってククリ刀を合わせてハサミにしたようなものや、ハサミを諦めて別の武器で攻撃しつつ瞬間的に手でちょきを作って切り取るイメージをする人もいる。まぁ、武器と言っても元は掃除道具。慣れれば無くてもどうにかなるのだろう。身体への損傷は考慮しないといけないが・・・。因みに不人気エピパンは特定の人の心に刺さり棒手裏剣としてコアな人気があるとかないとか。
諦めていた防具問題はそのまま諦められて、講習会メンバーは魔法糸や調合師の糸を重ねて使っている。一応、弓道の胸当ての様に急所を守る為に、ダンゴムシの殻を加工した物を使う事が多い。フルプレートアーマーとかはモンスターのいい的になって一方的に嫐られるし、重さがあると連戦では体力消耗も馬鹿にならないので、この様な形になっている。実際、ビームへの対処ができない時点で5階層以降も厳しくなるので、逆を言えばちゃんと鍛えさえすれば布装備でもやっていける。寧ろ、インナー一枚あればいい!やった!やった!と、懐かしい声が聞こえてきそうだが、それは潜る人次第。フルプレ配信者はいつの間にか鉄壁体制で走り回っている。
配信での本人コメントでは『動けない?ハッハッハッ、鍛え方が足りない!剣士だろうと格闘家だろうと何なら魔法職でも基本は身体!的確にイメージして各部位の筋肉を愛でろ!!』と、書いてあった。実際その回の動画ではモンスターを体当たりで轢き殺していた。ただ、モンスターへの当たりどころが悪いとスプラッターになったり、F1のクラッシュを思わせる光景が見れる。
「お遊びねぇ・・・、確かにありゃお遊びだ。殴り飛ばそうが、ねじ切ろうが激痛はあっても死ぬことはねぇ。感覚は本物なんだがねぇ。」
「えぇ、勘違いで人は死ぬ事もありますが、少なくともR・U・Rには安全装置があります。突然死の様に不整脈を起こそうとも、AEDよろしく電気ショックも与えてくれる。」
真意は定かではないが、こんな話を聞いたことはないだろうか?拘束されて目隠しした人に軽い傷ないし、出血してると思い込ませて傷口になる部分に水滴を垂らしてあたかも血を流していると思い込ませると死んでしまったという話。R・U・Rの作りはどこまでも本物に近いが、最大限の安全措置は取られている。
「で、俺と模擬したのを当日流したいと。準備万端だなゴスロリだしよぉ。」
「当日と言わずR・U・Rのデモストメイン映像にしようかと。魔法職と物理職。わかりやすい構図ならこれが最適でしょう。今の所、魔法職+魔法職で職についた人は講習会メンバーにはいませんし。服は気にしなくていいです戦闘服ですから。私も既にセーフスペースで準備が終わってここに像が出てますからね。」
能力を補うという面で魔法職は身体強化出来ればどうにかなる。しかし、限界値と言う面であくまで強化は元の身体能力を強化するもの。物理職にはどうしても一歩及ばないし、赤峰の様に物理職+物理職相手だとその差を埋めるのは絶望的。一瞬だけ埋めるならどうにかならない事もないだろうが、そこまでするよりも魔法で牽制なり攻撃した方が効率がいい。
魔法職についた人の配信動画とかでは、重火器で武装してイメージを固める時間を作ってモンスターを攻略したりしている。まぁ、魔法職は固定装備がなく、取り敢えず武器を買えば攻撃手段は得られるので、剣を買う人も銃を使う人もいる。ローブを着た魔法使いが魔法と銃火器を持って走り回っているのは現代感を感じるな。どうやら現代の魔法使いは杖を失くして、代わりに銃火器を手に取ったらしい。
「おらぁいいぜ。初めてガチって言葉がクロエさんから出たから嬉しいしよぉ。当日やるんだと時間制限もあるだろうしなぁ。このタイミングならなんの邪魔も入らねぇ。」
赤峰がニヤニヤ笑っている。早まったかなぁ。少なくとも前に処理落ちさせたし、改良したから大丈夫という太鼓判も貰っているが、あまり派手にやるとまだ落ちる?う〜ん、一応今日は佐沼達も来ているので大丈夫だろう。
「佐沼さんガチバトル大丈夫ですか?」
「寧ろやって下さい。前よりパワーアップしたハイコンの力を見せましょう。」
佐沼からも大丈夫が出た。なら、憂いもないし仮に壊れても対処してくれるはず。中位でも割と激しくやりあってるから杞憂で終わってくれるといいな。そんな事を思いながらキセルをプカリ。
「なら、胸を借りるつもりでやろうかねぇ。」
「私は接近戦の経験なんて無いので、寧ろ私が借りる側ですよ。ギャラリーは静かにしてくださいね?」
集まっていた望田やエマなんかも話しながらコチラを見ているが、出来る限り静かにしてもらいたい。集中すると言う事もあるが変に気を逸らされても煩わしい。
「合図は?」
「いらないでしょう?モンスターはいつも急に襲って来る。」
「はいよ!」
言葉を置き去りにした赤峰は既に目の前。見えない踏み込みの速さにモンスターのビームの様な接近速度。普通なら迫る拳でそのまま頭を砕かれているだろう。しかし、始まってそうそう退場では流石に面白みも何もあったものではない。
「流石に速い、速いですが赤峰さんは人です。」
突出されて迫る拳で。しかし、突き出し切る前に肘関節付近を爆発させて腕を折り曲げさせる。しかし判断が速い、折り曲げられたのならと今度はそのまま肘鉄砲。前腕分距離は稼げたが、それは刹那。しかし、刹那あればどうにかなる。吐いた煙はあり、力を込めるために踏み込んだ片足は浮いている。なら、残りの地についた足に煙を巻き付け後ろに引っ張ってすっ転ばせれば・・・。後ろに飛び避けながら、魔法を発動させるが。
「流石に一撃とはいかないねぇ!」
「それはこっちのセリフ。糸を引きちぎりますか・・・。」
巻き付いた煙は糸となり後ろに引きずり倒す予定だったが、届かない肘鉄の踏み込みと共に残った足を振り抜いて蹴り払われてしまった。いや、わざわざハイキックだった辺り首を刈り取るようなイメージで足を鎌に見立てたのか。確かに、強力だろうと糸なら鎌で切れるだろう。それが互いのイメージなら十分に刈り取れる。
休んでいる暇はない。後ろに飛んで距離は取れたが、それでも赤峰にとってはまだ間合い。しかし、魔法職に間合いの話をするにはナンセンス。
「先制は取られましたがこちらから行きますよ?」
圧縮空気弾3連に正面以外の場所を爆破。防御を固めるか、殴って払うかさぁどっち?
「軽いねぇ!堅牢な身体にカバーリングで急所攻撃は捌ける!顔面、鳩尾・・・、金的まで狙うのはいいねぇ!ガチっぽくてよぉ!!」
股間以外は防御もなしか流石に金的は当たれば痛いのかな?しかし、堅牢はメタルザンギエフを思い出すな。爆発も仁王立ちでたたらさえ踏まない。なら、もう少し力を入れても大丈夫?
「身体も爆風で温まったでしょう?」
「おう!半信半疑だったガチって言葉が本当だってのは分かったからねぇ。」
両手に嵌められたガントレットを胸の前で拳を合わせてカチンカチンと鳴らしている。さて、小手調べはお互いおしまいという所か。引きずり倒しがてらの心臓マッサージでは勝たせてもらえないらしい。キセルをプカリ、更に煙を増やして第2ラウンドと行こう。初撃より速い踏み込みにハイキックからの斜め下へ蹴り落とす刈り取り、身体が小さい分ハイキックと言っても赤峰にとってはとってはミドルぐらいの感覚なのかもしれない。
その蹴りを姿勢を低くして避けたけど、フワリと浮いた髪は蹴り飛ばされている。髪が長いのはやはり邪魔だな。次するなら結ぼう。下手をすれば掴まれて引きずり回される。追撃の刈り取りは軸足側に抜けて逃げる。
(賢者、少し手伝え。たまには仕事したいだろ?)
(ん〜、本当に少しだけね。君達の争いに関わる気はないし、そもそもこれは終わりもない。結果のない仕事なんて無意味だ。)
(なら、暇だから私がやりましょうか?殴って蹴って壊して消して、いなくなれば事もなし。)
ん〜、魔女はよく表で戦うけど賢者は裏にいて、戦うのは秋葉原の玉の時に見た以来。手伝ってもらうだけだから表に出るわけでもないが、今回は賢者に手伝ってもらおう。
(今回は賢者に手伝ってもらう。)
(そう、なら次はゲート内で呼びなさい?たまには運動?しないといけないんでしょう女性って。)
(なら、強化と言うものを受け持とう。君の中で殴り合いはするけど、格闘家が技を見せてくれるなら観察したいしね。)
さてと、賢者を引っ張り出したから魔法の出力は上がったはず。体術師+盾師。純粋物理職攻略と行こうか。
「煙よ目を覆い、枷となりて妨げよ。」
「小手先は聞かんよ!押す!」
衝撃の乗った言葉は煙を散らし、視界は健在だろう。しかし、その一瞬で膝裏を魔法で打つが膝カックンは出来なかった。強化を受け持つと言う賢者の言葉は正しく、赤峰の動きは見えるし身体も軽く蹴りも避けられた。
「煙よ集まり形を成し、思うがままに動き出せ。」
「そりゃぁ、手数を増やしたって事かい!」
「さぁ?魔法は魔法です。残念な事に近接職と正面切って戦うほど思い上がってはいませんよ!」
背中から触手の様に紫煙の手を2本、残りの煙は空間に薄く漂い何処からでも生み出せる。近寄ってもらっては困るんだよ。体術師の拳って痛そうだし。赤峰の背後から触手を出して打ち付けようとするが、その前にコチラに更に速度を上げて突っ込んでくる。通るだろう所に触手を出して妨害するが、衝撃を纏っているのか叩いた瞬間に弾き飛ばされる。しかし、コチラも棒立ちではない。円を書くように距離を取りながら煙を撒いて魔法を紡ぐ。
「それは音より早く、暗雲を纏い現れ、したたかに天より人を打ち付けるだろう!」
紫電一閃、方向は赤峰以外に散る事はない。既に赤峰は人であると定義している。なら、それ以外に当たる事はない。当たる事はないが・・・。
「忘れたかい?俺は雷を既に耐えたんだぜぇ?」
直撃し煤けはするがダメージ軽微、痺れでもすればいいが頑丈にも程がある。歩む足は地をしっかりと踏みしめているあたり殆ど痺れもないようだ。なら、更に紡ごう。
「集まり集い苦しめよ。」
「けはっ!」
「立ち止まる者よ、侵された者よ、過去の痛みを思い出しその傷を身に刻め。」
古傷が開き血が吹き出す。過去に骨折等はしていない様だが無数の傷から流れる血は、エフェクトだとしても痛々しさをか持ち出す。それでも止まらず飛び蹴りを放ってくる。
「まだまだあぁ!堅牢な肉体はこの程度の傷じゃぁあ止まらねぇ!」
「えぇ、知ってます。ただ、空中ですよ?」
触手で足を掴もうとしたが、飛び蹴りの姿勢から無理やり上半身をひねって避けられる。ただ、それでもまだ空中。そこにも触手はある。捻った身体を触手で包み地面に強かに叩きつけるが、地面を殴りつけてその衝撃でまた煙を散らされる。コンボで押し切りたかったが流石にこれでは無理か。
「毒か?」
「オゾンです。呼吸障害を起こしたのですが、それでも動かれましたけどね。」
呼吸を整える暇を与えるほど優しくはない。近づかれたらヤバいのはどんな状況でも変わらない。賢者が強化を受け持ってくれるので、赤峰が見えるが更に速度を上げられると多分厳しい。触手を出して止まらせず、地面からも棘を生やす。
(厳しくないよ?見たいなら見ればいい。君の目は僕と繋がっている。なら、魔法の煙を通して視ればいい。)
(急に言われてもねぇ!)
(不甲斐ない。君の目は体表についている部分以外ないというのに。でもまぁ、助けるって言ったし、一度だけ視せてあげよう。)
(・・・、?)
視界が一瞬ブレたが今度は何を見ているか分からない。煙揺蕩う視界しかないので、赤峰が・・・、見える?人影の様なモノは覆われた視界の中でも確かにあり、寧ろそれだけ浮き出て見える。これが賢者の現実での視界?凹凸もなくフラットな地面に煙に覆われた世界・・・。いや、ここは訓練場で煙は俺の煙か。
証拠に先程まで攻撃していた場所には煙が変形したような跡が見て取れる。なるほど、あれが動けば攻撃になり、煙の中で動くものは感知出来る。エマに領地と言ったが、この煙覆われた世界が俺の領地か。
「立ち止まってるとぶち当たるぜぇ!」
「それにはおよびません。」
影が目の前で言葉を発する。それは赤峰の声。殴りかかろうとする初動が手に取るように見える。なら、空いた部分に横合いから攻撃すればいい。殴ろうとする腹はがら空き。拳は眼の前にあるが煙はすぐに動く。
「・・・、突き出ろ。」
空いた腹部にクリーンヒット。吹っ飛んで行った影に追撃するように背後から更に煙を突き出す。尖らせたイメージだが貫通はしない。多分、堅牢かカバーリングで護ったのだろう。なら、更に追撃しよう。火も水も他の魔法も瞬着出来る。なら、それの原理はこういう事か。ここまで視えて操作出来るなら簡単に事を成せる。




