122話 クリスマス 挿絵あり
視察も終わり月日は流れ世間では町並みに赤や緑の色が増える。寒さも本番真っ只中。世はクリスマスに浮かれているが、俺達にそんな暇はなく素材を集め、モンスターを倒し、会談したり写真撮影したりと忙しい。写真撮影は必要なのか?夏目リサーチによれば売れるからもう少し部数も増やした方がいいとの事。
何時そんなリサーチをしたかと言えば、ボツ写真を数枚ネットに上げたらしい。どの道写真集は売るつもりなのでいいのだが、一度ネットに写真が上がると消えないんだぞ?相談してほしかったが、好きにしていいと言った手前あまり強くも言えない。一冊に付き1枚シークレット写真を付けよう何て言い出したので、流石にそれは止めた。
資金集めはするけど、そんなアコギな商売をする気はない。国内販売再販なし、国外持ち出し厳禁で部数だけ増やして売る予定である。増やす部数はリサーチした夏目に責任持って決めてもらい、在庫が出たら買い取りしてもらおう。誰が買うかも分からない写真集、反響はあるらしいが怖くて見れない。
一応、魔法も込めて撮ったモノだけど『クロエ調子乗りすぎ、貧相な身体の写真プギャーm9(^Д^)』とか『いやいや、買うにしても一冊あればいい写真集をどんだけ売る気なの?頭、大丈夫?』とか評価されていたらかなり凹む。寧ろ地面にめり込む。そりゃあ、近しい人は綺麗だね!とか可愛いね!とか言ってくれるよ?しかしそれは近しい人からの評価であって、会った事もない人からの評価としては多分、エキセントリックな子供が何か写真集売るらしい程度だろう。
そして、モノを売るからにはその会った事もない人達が買う事になる訳で・・・。目一杯自己評価しても1000部売れたらいいなぁ程度。ポスター売れてるだろうって?あれはあくまで人目につく所にあるから売れるのであって、殆どは魔女と辰樹の腕のおかげである。確かに元はいいが、それを言うなら芸能人だって綺麗だ。本能に訴えたとして、それが何処まで働くかは不明である。
まぁ、販売は夏目以下他のメンバーに任せよう。製本は済んでいるので、後は講習会メンバーに記念品として配るだけ。松田達が噛んだ分、仕上がりは最高品質で撮影者が表紙以外は講習会メンバーだとしてもかなりいいと思う。そんな事を思う出勤前の朝。飯は食べたしキセルも咥えた。咥えたそばから視界の端に赤いものが・・・。
「ほい、サンタからの支給品。」
「その支給品がサンタの服というのは如何なものか?で、なんで私は娘からミニスカサンタの服を着せられそうになっているんだ?」
「兵藤さん以下男性陣からプレゼントはサンタコスでと頼まれたから?」
「却下しよう。」
娘よ断われ。家族なので遠慮はいらないが、父親への配慮は要求する。野郎共にミニスカサンタとか見せて何が楽しいんだ?見る側は楽しいのか、俺は楽しくないと思うけど・・・。
そもそも、夏目の事で確実になったが、俺が元男だと知っているメンバーは警察、自衛隊問わず必ずいる。そんな人間がミニスカ姿の俺を見てみろ?多分、裏で『アイツマジかよ!元は野郎でミニスカとか(笑)』と、笑われている。
宴会で女装した事もあるし、服自体に抵抗はないけど裏でそう思われてもねぇ・・・。今更感もあるけど、仮に俺が元男だと公表したらどうなるのだろう?ん〜、何も変わらない気もするな。仕事に支障はないし、家族にも受け入れられてるし。他は些事で好奇の視線を気にしなければあまり変わらない。
「あと、お母さんからサンタの写真を送れって催促されたから。本題はこっちで、写真送らないならスマホの周りにチキンとケーキ置いてテレビ電話するって。」
妻が末期だ。そっちの方が大変だ!毎日の様にテレビ電話しているのに写真いる?確かに結婚してからこれまでこんなに長く離れ離れになった事はないが、今の時代顔も声もテレビ電話で事足りる。しかし、妻が望むなら服くらい着るか。家の事や息子の事は任せっぱなしだし、地元の救護所の件ではかなり助けられている。帰える場所がある。帰ったらその後に必要な事の準備をしていてくれる。
俺には出来すぎた妻だな。この姿になって前よりほんの少しだけベタベタ加減が増えたような気がするけど、これだけ長く離れているので当然だろう。結婚してからこうして妻と離れてクリスマスを迎えるのは初めてだし・・・。
「莉菜に会いたい・・・。」
「ちょっ!お父さん。お父さんまでダメになったら家は・・・、平和は平和か、日常運転だし。私そもそも家出中だし。」
「何を騒いでるんですか?」
「お父さんが発作的にホームシックになってお母さんを求めたとか?」
「そこまで、幼くない。単純に最後に会ったのが運動会だったと思っただけだ。しかし遥、その衣装を着て男性メンバーに配る意味はない。部屋で着るから写真集渡す時は私服でいい。」
寸法?そんなもん後で合わせればいい。しかし、妻と話すとなるとエマが気がかりになる。妻がいる事は知っているが会わせていいものか・・・。信用はしているし、妻の所在地は調べれば多分すぐ分かってしまう。ん〜・・・。
「カオリ、エマに莉菜を会わせたとして考えられる問題点は?」
「そうですね・・・、最悪を想定するなら人質による交渉でしょうか?命の保証は確実ですが、それが最悪のパターンです。人質は生きていなければ意味はありませんから、拷問はあるにしても命はあります。」
やはりか、考えられる想定で最悪を思うならそうなる。怨恨なら殺害となるけど、人質はあくまで依頼完了までは生きていなければ意味はない。仮に途中で害成すにしても指を落とすくらい。その時点で相手はただでは済まさないが、まだ生きている。
そう考えると会わせるのは画面越しとは言えリスクがあるか。何かの際に友人を疑うのも避けたいし、今晩はどこか1人でテレビ電話するとしよう。
「了解。今晩はどこかで1人テレビ電話する。」
「なっ!私とのめくるめくクリスマスパーティーは!?お酒も料理もタップリ用意しますよ?ホテルのコックがですけど。」
「残念ながらキャンセルです。したいなら夜遅くですね。」
「はぁ~、仕方ないですね・・・。遥さんはどうします?」
「私はホテルでゴロゴロかな?人混みも苦手だしゆっくりするから相手になるよ?」
「なら、エマと3人で先に始めましょう。待ってれば帰ってくるみたいですし。」
「おはよウ、そろそろ時間ダ。」
エマが部屋に来てみんなで駐屯地へ。エマが残念そうな顔をしたいたので聞いてみると、サンタの姿でない事に落胆したらしい・・・。エマ、お前もか・・・。知らないにしても何で俺を着せ替え人形にしたがる?それは黄金比で出来てるからさ・・・。
「日本ではクリスマスにターキーじゃなくテ、チキンを食べるのだろウ?今晩は多めに買って部屋に行くとしよウ。」
「いいですけど、私は今日帰りが遅いので程々がいいと思いますよ?女性3人で食べられる量、残ったなら美味しく頂きますが。」
「なッ!私の楽しいクリスマスはどこへ行くのダ?」
「エマの楽しいクリスマスは勝手に来るんじゃないですか?私は妻と2人っきりでテレビ電話です。」
「ワイフとカ・・・、それなら仕方ないナ・・・。あまり遅くはならないのだろウ?」
「話の弾み方次第ですね。まぁ、帰るのは帰りますよ。」
「了解しタ。」
エマも異国でクリぼっちは寂しいのだろうか?軍人なら365日任務で・・・、1人ではないか。分隊にしろ小隊にしろ兵隊は隊を組むから兵隊なのであって、1人で戦争起こすのは赤鉢巻だけで十分だ。
「先にカオリ達と楽しんでおいて下さい。」
そんな車内での会話を経て駐屯地の教室へ。世間に釣られて教室内もクリスマスムードが漂いドコドコで食事しようか?とか、誰々とデートすると言う声が聞こえる。講習会の体制は解かれないが、やる事は本部長選出戦の準備くらい。素材の集まりもいいし、週休2日制くらいでやっているが今日明日くらいは休みにしてもいいだろう。と、言うかそれで話は通してある。まぁ、写真集とは別のクリスマスプレゼント。クリぼっちは考慮しないものとする。寧ろ、それで騒ぐのは世間の煽りに負けた人であろう。仕事してればクリスマスでも仕事に入る事もあるし、家族と過ごせば1人でもない。
人肌恋しい季節ではあるけど、そこは本人の努力次第。チャンスはどこにでも転がっているので、後はうまい具合に頑張って欲しい。
「クリスマスプレゼントとして、クリスマスとイブは休みとします。現状、本部長選出で忙しくなるのは年明けから。それまではある程度ゆっくり出来ますが、スタンピード等の事も考慮して気を抜き過ぎ無いようお願いします。このまま解散でいいので、写真集要らない人はそのまま出て下さい。」
みんな帰ればいいものを誰も帰らない。特に、男性メンバーは撮影の様子を女性メンバーから聞いただけなので、興味津々なのだろう。
「兵藤さん、はいどうぞ。大っぴらに見ると性癖を疑われるのでコッソリ見て下さい。先に言いますがエッチくは無いですからね?」
「そこまでキてませんよ・・・。うぉ!表紙滅茶苦茶気合入ってるじゃないですか!」
「アホほど寒かったんですからね・・・、晴れても冬の海。2度と撮りません。」
表紙だけはプロにお願いしたけど、まさか冬の海で撮ろうなんて言い出すとは思わなかったよ・・・。表紙では顔にだしてないけど、下にはホッカイロ貼って魔法で風を緩和したり、保温したりと中々忙しい撮影だった。
他のメンバーにも順次配り本日は解散。解散と言っても教室には割と人が残りこの後どうするかを話し合っている。仲のいいメンバーでも離れる時は近い、何かの際は連携しないといけないので、仲良く出来るなら仲良くしてもらいたい。
年が明ける前に最終打ち合わせに37階層以降の素材集めや動画撮影、他にもやる事は多いので、休める時は休んでもらうし、外遊する組はやってもらっても構わない。まぁ、そこまでして仕事をしたいならばの話だが・・・。さて、時間は早いけど妻に連絡を取ろう。ホテルを出る前に送っていたLINEは既読になり、返事は今日は休みだから何時でも連絡大丈夫との事。
(遥、先に出る。)
(はいはい、バレないようにね。)
望田やエマには悪いが、今日は夫婦水入らず。場所は取り敢えずセーフスペースでいいか。あそこなら邪魔は入らない。セーフスペースに行って数度のコールの後、電話は繋がり画面には妻の顔。
「メリー・クリスマス。莉菜。」




