118話 タイプライター 挿絵あり
仕事とコロナと草刈りで時間がなく短いです
中野が電話をすると基地の方から誰かが歩いてくる。身長はあまり高くないし、がたいもよろしくない様に見えるけど、研究員だろうか?薄暗いせいでよく見えなかったが、近づいて来るにつれて分かったがどうやら女性のようだ。
こんな薄暗い所によくもまぁと思うけど、研究施設をここに作ったなら、男女何方ともここに勤める人は出るのか。日焼けとか気にしなくていいのは良いかもしれないけど、その前にビタミンとかは大丈夫なのだろうか?食事でも取れるらしいけど、日光を浴びるのが手っ取り早かった気がする。まぁ、治癒師がいればそれも増殖出来るのかな?
勤めるのも薬学部の人とかだろうし、素人が心配する所ではないと思うけど、環境が環境なだけにあまり長期で籠もると外の喧騒が煩わしくなりそうだ。高槻ももう少し人選を考えたらどうだろう?年取って余生を静かに過ごしたい人とかを・・・、歳だったら最初に入るのも躊躇しだすか。ある程度年取ったら逆に気にならなくなるけど。
「はじめまして、高槻製薬研究員の山口です。社長から来る事はお伺いしています、どうぞこちらへ。」
「はじめまして、クロエとエマです。遥も一緒だったんですけど、今は自衛隊の方で仕事してます。」
「エマ=ニコルソンだ。今日は視察に来タ。よろしく頼厶。」
山口に連れられて敷地の中に入っていく。電気は発電機を使っているのかと思っていたが、どうやらバイクと同じクリスタルリアクターらしい。稼働しだして未だに燃料切れは無いらしいけど、仮に切れてもそこら辺でモンスターを倒せば調達出来るのでそこまで問題にはならないな。外は灯台を思わせる大きな電灯が建てられていて、近寄って見ると本当に大きかった。
これならある程度離れていてもいい目印になるだろうし、国旗以外を目印にするなら間違いなくこれになるだろう。まぁ、ここに来ても入れる人間は限られているし、基地の近くにゲートも見えたので中に入らずとも外に出る事は出来る。
そんな敷地内を歩き研究施設の中に入っていく。研究所というだけあって、中は白一色で塗られアチコチに光源が置かれている。普通に蛍光灯を天井に付けたのでは固定処理がしづらく、結果的に置いたり持ち運べたり出来るモノを光源として使っているらしい。何なら、外よりも中は暗いので首から下げるライトや懐中電灯は必需品。適当に置くと消えるので、すぐに指輪に収納する癖が付いたとか。
「ライトはすべての面を固定処理すれば中の電球は消えません。ちょうど宝箱と同じ原理ですね、これは面白い事に食材や生物も腐りません。パスツールの白鳥の首型実験はご存知ですか?この実験は白鳥の首のように口を流線型にしたフラスコの中に沸騰した肉汁を入れ腐るのか?と言う、言わば微生物の発生実験だったのですが、この実験では肉汁は腐らず保存出来ました。それと同じ原理だとすると、固定処理された箱の中のウイルスないし菌は死滅するのか或いは、開封まで冬眠状態で内部の食材を腐敗させる事なく保存できるのではないかと考えています。それだけではなく、箱の蓋を開けていると今度は内部の食材は消えていくんです!不思議だと思いませんか?手に持つと長時間外に出していても消えないのに、離した途端消え始める。更に変わるのは大きさです。様々な物で消える実験をしましたが、消える速度は概ね等速でしたが、物体が大きければその分時間がかかるし、消えるのも外側から。不思議なのは半透明状態でも持てる事です。これはファーストさんが配信でも持って見せていたので分かっていた事ですがこの状態でも物品・・・、例えば懐中電灯でも扱えるんです。なら、この状態はどの様な状態変化なのか?これの研究もしているのですが今の所は成果が芳しく無く・・・。」
山口のマシンガントークが銃声のように静かな施設内に響く。静かだから余計に反響して大きな声ではないのだが、耳については情報を頭に響かせる。チラリと横のエマを見れば熱心な顔をしているが、多分右から左へ話されている事は抜けていっているんだろうな・・・。かく言う俺もパスツールは知っているけど、その後は右から左へ受け流している。
学者とはやはりお喋りなのだろうか?まぁ、自身の研究分野について語れる相手がいるなら、語って議論して新たな見解があるならそれから又、研究して次のステップがあるならそれを試したくなるのだろう。話半分だが話す山口は楽しそうに笑顔を浮かべている。浮かべているが、この話はどこまで続くのだろう?回復薬の話ならもう少し身を入れて聞くけど、物質変化についてはあまり興味ないしな。
聞けば後々為になりそうではあるが、生憎俺はそこまで頭も良くないし、研究者でもないのでイマイチ身が入らない。連れられて歩いて、何人かの研究員とすれ違って軽く会釈をしながら進んだ先、途中で板前っぽい人と会ったけどあの人は料理人かな?
「あっ、そこの角を右に曲がるです。それからですね・・・。」
(クロエ、今のはキャラクターのセリフなのカ?どれくらいいるかは分からないガ、精神をやられているのカ?厨二病カ?)
(語尾にですを付けるのは方言であります。私の産まれでもとっとっと?とっとっよ!等で話が通じます。なら、方言でしょう。)
だっちゃやにゃーも語尾についたなら方言。俺も自衛隊の時に全国色々な所から人が集まってたから方言では苦労したな・・・。日本人なのに日本語が通じないという不思議空間、まぁ、ニュアンスでどうにか成るけど成らないモノはトコトンどうにもならない。
(クロエも方言を話すのカ?)
(ん〜、語尾にちゃを付けるのは偶にありますよ?私の場合、方言も色々混ざったので、どれが標準語でどれが方言か分からなくなっています。)
話して通じるなら別に方言だろうと、標準語だろうと構いはしない。まぁ、色々な人と話せばそうなっても仕方ない。英語耳についてはならぬ方言耳、特に地元の人と話すと不思議と方言がでるんだよなぁ・・・。妻と話してもいいっちゃ、いいっちゃと口に出ている時もあるし。
曲がった先を少しは歩いて着いたのは、所長室の文字が掲げられた部屋。そこはかとなくゾンビとかを閉じ込めてそうなトビラだが大丈夫だよね?
これで本当に出て来たらビビって逃げる。生き返りの薬もあるし、それを死体で検証してるとか・・・、いや、倫理的にそれは流石にないはず・・・、いや、ゲート内は治外法権。中世の医者宜しく隠れてやっているとしたら・・・。よそう、高槻はマッドドクターではないはず。仮にそうなっていたら引導は渡してやろう。
「所長、失礼します。ファーストさんとエマさんをお連れしました。」
「どうぞ〜、手が離せないので入って下さい。」
山口がノックをすると高槻の声が返ってきた。手が離せないらしいが、何か研究でもしているのだろうか?山口が入るのでエマと2人で入るが・・・、カタカタとタイプライターを叩いている。古風だが何か理由があるのだろう。
「お疲れ様です、このタイプライター中々古風でしょう?PCも使えるんですけど、何かの際にデータが消えると困るんでもっぱらこれで打ち出して指輪行きです。」




