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街中ダンジョン  作者: フィノ
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閑話 妻 33 挿絵あり

「空さんありがとう!莉菜さん、莉菜さんはあっちの人治して!」


「任せて!って、うわぁ~痛そう・・・。」


 ゲートができて夫が美少女になって単身赴任した。心配、凄く心配、物凄〜く心配!他の人は外見で何であの人と結婚したの?って聞くけど、うん。清潔感はあるよ?着たきり雀だけど、毎日洗濯はしてたし出ちゃったお腹の分コッソリ洋服もさり気なくサイズアップして買ったし、何なら美味しい料理を作る為に本も読んだ。まぁ、服は全部買い替えなきゃいけなかったけど、可愛い服いっぱい買えたから満足。うん、娘が作る方が可愛いけど、既製品には既製品の良さがある。


 昔からあんまり物怖じしなかったけど、黒いレースの下着とかTバックとかヌーブラを躊躇なく着ける所には惚れ直した。うん、とってもカワイイし似合ってる。元の姿も私は大好きだったし、今の姿も大好きだけど、今の姿だと夫の有り余る魅力が放出し過ぎで辛い。だって、小さくてかわいい子がさり気なく、誇るわけでもなく、気負う訳でもなく困ってる時に手を差し伸べてくれる。


「ここっていつから野戦病院になったんだっけ!?コレ病院レベルよ病院!治すけどさぁ!」


 割りと差し伸べた後は本人が納得するまでは、手を繋いでいてくれる。そして、あの人は結構気が長い。そこが心配。伸ばした手を掴まれて、繋いだ手を握り締めて、そうするとあの人は手の離し方をいつの間にか忘れて執着しちゃう。


 望田さんがいい例で、言葉を交わしていったら、いつの間にか手を絆いでた?その手には絆があるんだろうけど、それが好意に変わるのには多分そこまで時間はかからない。うん、連れ去られて次に会った時には望田さんが夫の魅力にノックアウトされてたんだもん。やっぱり夫は魅力的なんだと思う。


「はい、取り敢えず腕があってよかった。ちゃんと繋げたけど病院に行って増血剤はもらって下さいね。血も増殖出来ない事はないですけど、流れた量が分からないんで下手したら弾け飛んじゃう。レバーとほうれん草を食べるのよ!違和感あったらすぐに言ってね。」


 夫が本部長なんて言う長職に就くからと始めた簡易治療所。他にも色々と考えて始めたけど、うん。やっぱり一番は愛する夫の為、海の中の人工島に本部長舎の姿がほぼほぼ出来上がって見える。アレの建設が終わればここで治療している人達も、そのまま治療スタッフとして入る予定。


 嫌な人は断ってるみたいだけど、私は夫と仕事出来て幸せかな。夫とはオフィス・ラブの経験は無いし、初めて付き合ってそのまま結婚しちゃったから他の男の人も知らない。うん、知る必要性はないかな。だって夫が、司が好きだから。私達の出会いは在り来りなもの。


 夫の先輩と私の友達が知り合いで、私が友達に彼氏が欲しいと言っていたら、友人も知らない司を紹介された。ある意味すごい話だと思う。友人と夫の先輩は知り合いだけど、その下につく私と司は紹介されるまでその先輩と友人も知らないと来た。でも、多分それが良かったんだと思う。


 次の日友人から『私も初めて会ったけど、ごめん!全然かっこいい人じゃなかった。』って言われた。うん、事実、事実。出会った当初の司は太ってこそなかったし、服とかにシワもなかったし短髪で優しそうなイメージだったけど、全然格好良くはなかった。そりゃあ、花も恥じらう乙女だったんだからカッコいい俳優とか男性アイドルが嫌いな訳はない。そんな司は私の友達と司の上司さんが退散した後、何を話そうか迷っていた私に色々と話しかけてくれたし、本人の出来る範囲で楽しませてくれようとした。


 まぁ、こっちの人じゃなかったから何処かデートに行く時は私がナビで司が運転。カーナビの着いてない車だったけど、それがお互いの口を開かせて色々と話した。目的地の事。好きな音楽の事、食べたい物に今までの仕事で面白かった事とか。そんな普通のデートだったけど、話し始めは司なのにいつの間にか私の方が喋ってた。司マジック、いつの間にか話させるの術である。


 あの人は口下手だから、話すよりは聞き役に徹した方がすんなりと事が進む事が多い。別に意見がないわけじゃ無いけど、必要な時に必要な事を話すタイプとか?知らず知らず私の恥ずかしい話とかを話してしまって、それが楽しくて告白してほしいなぁ〜、付き合ってほしいなぁ〜ってアピールしてた。いや、アピールと言う名の包囲網。胃は掴んだ、服も着たきり雀だった事に愕然として選んだ。フハハハ・・・、私無しじゃいられない身体にしてやろう!


 実際、同棲するまでの期間は結構あったけど、付き合いだしたのは会って半年くらいしてから。クリスマスに告白されたけど、それまでは手も繋がないし、キスもなし。後から聞いたら『大切な人だから、付き合う前にそう言う事をするのはダメと我慢してた。』と、言われた。奥手、圧倒的奥手!仮に、私がアピールしなかったら、多分付き合うまでに更に時間がかかっていたと思う。


「莉菜さん、クロエさんをお礼に僕に下さい。」


「やるかバカ!夫はモノじゃないの!空さんは顔がいいんだから他にいい子を探してらっしゃい。」


「いえ、僕はクロエさんと決めています。彼女の白髪は月を思わせる。空と月、僕と彼女、絵になるとは思いませんか?」


「思いません。そもそもクロエも断ったでしょ!」


 ビンタを躱されたので、ボディがお留守だよ!と、遅い拳を突き出すけど、腹筋何で出来てるの?痛い!拳が痛い!多分、下に防具つけてるな!黙って拳を貰って悶絶・・・、したらいいな。多分しないだろうな、この人強いし頭さえまともならいい人なのに勿体ない。最初は丁寧に返していたけど、今は拳で語る仲になってしまった。夫は渡さんよ!


 救護所に来る困った人。青山 空さん。何で既婚者狙うの?まぁ、司は靡かないだろうし嫌がるのは目に見えている。前に断ってたし。ただ、元が男だから他の女の人に靡かないかは不安。娘の目があるからそんな事はないと思うし、司を信じてるけど男職場の前の会社辞めて東京へ行った途端、女の人の影がわんさか増えてるのはどうして?


 ハニトラだよ!ついでにお父さん子だった娘が一緒にお風呂に入ったよ!大丈夫かな・・・。ない、流石にそれはない。夫を娘に略奪されるとか無いから!外人さんもなんか増えたらしいけど、毒牙に・・・、かけようとしてないといいな。あの人は無自覚に人に優しくして必要な時に手を貸してくれる。必要じゃない時も勝手に助けてくれる。


 平々凡々、ちょっと考え込んだり本読みだしたら読み終わるまで集中してたりするけど、至って普通の人。まぁ、今は普通に?が20個くらいつきそうだけど、私の好きな夫である事は変わらない。息子の運動会で会ってそれ以降もあくせく東京で働いてるけど、それももう少ししたら終わりらしい。娘の遥はもしかしたら東京に残る事になるかも知れないと言っていたけど、子供が巣立っていくのは自然な事で私も夫も寂しいけど、その巣立ちを邪魔しちゃいけないし帰る家を守る仕事もある。うん、母親と父親だもんね!愛の巣で愛し合っても子供は出来なくなっちゃったけど、それはそれこれはこれ。


 巣立った後にも帰る場所があると言うのが大事。根無し草になってフラフラするくらいなら、一度帰って来てゆっくり考える場所を作ってあげるのも両親の務め。あんまり長くプー太郎されても困るからほどほどにね、休むのは。


「莉菜さん今日は上がって〜、いつの間にか夜間シフトまで出来ちゃったけど、スィーパーが減らないのよねぇ。結城もちょくちょく入ってるし、本当は危ないから止めたいけど・・・、時代なのかしらねぇ?」


「工藤さんありがとう〜、学生は5階までしか行くなってローカルルールで酸っぱく言ってるんだけどね・・・。」


 嫌な思い出と言うのも救護所ではある。中で死んでしまったら帰ってこない。でも、瀕死なら出て来てその後は外の人の努力による。回復薬は偉大で少しの怪我なら治るし、即効性も高い。けど、それでも死ぬ人は死んでしまう。それは・・・、割り切れるものじゃない。時折ゲートの縁に献花をする人もいれば、何日もゲートの前で立っている人もいる。多分、その人達の大切な誰かが死んでしまったんだろう。


 救護所でも間に合わずに・・・、死んでしまった人の亡骸に縋り付いて泣き崩れる人もいる。私達には罵声を浴びせる人達もいるけど・・・、それには言い返さない。多分、そこで言い返しても誰も幸せにはならないし、ただ虚しさと憎しみだけが残る。私はカウンセラーでも何でも無いけど、たまに来てボランティアでカウンセリングしてくれる人がそう言っていた。


 そもそも、この救護所も多少の金銭は貰うけど、大本は私が夫の為にと勝手に始めたボランティア団体。だから、当初ママさんボランティアで特定の人が常駐する訳でもなく、機材も何もなかった。それが今は国と連携をも取るし、研修医が研修に来たりもする。ゲートが開通した当初は救急車がタクシー乗り場みたいに溜まっていたけど、今はその影もない。あっ!一応救急車はあるよ?残念な事にここで救急車が出るというのは、一般人が出来ない死亡判定をお医者さんにしてもらうって意味が強いけど・・・。


 そんな事を考えながら車を走らせて家路を急ぐ。辺鄙な場所だった我が家の周りには家が幾つも建とうとしている。農業用地は宅地にクラスチェンジしてしまった。家庭菜園というか、家の裏の畑の草はもう焼けないかな・・・。ゴミ出しが面倒です。


「ただいま、那由多が晩ごはん作ったの?」


「お帰り、千尋が来てる。課題を終わらせて帰るかと思ったらご飯を作ってくれたんだよ」


 千尋ちゃん・・・、ナイスファイト。押しかけ女房で幼馴染、勝利の方程式は完璧よ!突然謎の美少女とか現れない・・・?一件ヒット!夫か!その枠を夫が埋めるのか!


「息子よ・・・、父親は好きかな?」


「母さん、父さんは母さんの。俺は要らないよ。最近父さんにテレビ電話でしか会ってないから病が悪化した?お薬出しときます。」


 息子がそう言ってスマホの画面を私に見せてくる。テレビ電話出来ない時はいそいそとコンビニで何でしたか分からない夫のアニメ応援ボイスを聞いてるけど、それ系の処方箋かな?遥も私に送ってくれれば昼休みにでも皆で堪能したのに。


  挿絵(By みてみん)


「魔法少女とな?」


「父さんは魔法使って少女だから間違いないけど・・・、消していい?何だかずっと目があってる気がするんだけど。」


「ダメ!消すなら転送してから!こんな美少女の画像を転送せずに消すなんて・・・、精神大丈夫?」


「親父の写真だから消すんだよ!トラウマ増やさないでくれよ・・・、この画像に親父の顔が被さるとかホラーなんだよ・・・。めっちゃ綺麗だけどさぁ!」


 息子が叫び奥からの千尋ちゃんの声がする。広い家で娘が県外に出て、夫が出張した家は何処か寂しかったけど・・・。うん、私は貴方の妻、家でいつでも貴方を待ってるわ!



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[一言] この魔法少女カワスギ・・・これ書籍時にこれを表紙にすれば、手に取る人増えそうやなぁ・・・
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