109話 大使館
すいません、短いです
「千代田さん、千代田さん。凄い割のいいバイトの話が来たんですけど受けていいですか?」
「ほう、どんなものですか?」
「お話するだけで20万?くらい貰えるバイトです。」
今のレートだと円換算で20万〜くらいだろう。エマの持ってきたバイトというか、質疑応答するだけの仕事の話。日雇いなのでバイト感覚である。いや、そう言えば1日で終わる保証はなかったか。まぁ、それでもある程度話せば後は勝手にしてくれるだろう。
そもそも公文書はエマが書いたものであって、俺はそれに横から口を出したに過ぎない。コピーを貰って読んでみたけど、内容的にも、そんなに間違った事は書いてないし大丈夫だと思う。ただ、全部日本語で書いてあるし、公文書をコピーして俺に渡してよかったのだろうか?怖いので早々に指輪にしまい込んで記憶の彼方に追いやった。まぁ、燃やして灰にしても良かったけど、魔女と賢者が見て覚えているので灰にしようが、記憶の彼方に追いやろうが、思い出したければ聞けばいい。
魔女は興味を示さなかったが、賢者は割と興味深そうに内容を考えていた様なので、何か思う所があったのかも知れない。しかし、それを聞こうにも。
『面白いけど内容としてはやっぱり及第点だね。今後の進化に期待するよ。まぁ、視点はいいよ、視点はね。』
と、言われたので最低限の点は取れたものと思いたい。しかし、中位に至ったエマの視点で及第点だとすると、満点はどこにあるのだろうか?別に満点を出す事が目的ではないので、いいといえばいいのだが・・・。
「なんですかそのいかがわしいバイトは・・・。破廉恥な店で接客とかしないでくださいね?」
「いや、店じゃないです。大使館です。」
「確かクロエの地元に大使館ビルというものがありましたね?そこでスナックでも開くんですか?この忙しい時期に地元に帰るのは御一考願えませんか?店を開くとなるとそれなりの期間地元に残る事になるでしょうし、そもそも何故スナックなんて・・・。」
懐かしの大使館ビル。会社の宴会で何度か行ったな。店舗複合型のビルで居酒屋やらスナックやらが入っていて、どこで飲み食いしても旨かった記憶がある。久々に焼き鳥食べたいな。塩濃いめのモモとか、カリカリに焼かれているのにジューシーな皮とか。と、話がそれている。
「違います、米国大使館です。エマの作成した文章で聞きたい事があるから来て欲しいそうです。それのバイト代が、多分20万くらいという話です。」
「・・・、クロエ。貴女は貴女の価値が分かっていない!もう行くと返事はしてしまっているのですか!?」
電話で話していたが、珍しく千代田が叫んでいる。俺の価値と言われても、なかなか難しい事を言ってくれる。人に価値を付ける事が出来るのか?人命は地球より重いらしいが、それは政治家の方便。そもそも行って文章の説明をするだけなのに、そこまで目くじらを立てるものでも無かろうて。大使館で拉致やらの騒ぎになればそれこそ米国の方が批難を受けるし、状況次第では今後の付き合いをしない。
「行く方向で動くとエマに話しています。米国に回復薬の工場も作りたいので、高槻先生も誘おうかと・・・。あっ、手土産は魔法なので気にしなくて・・・。」
「クロエ・・・、久々に胃が痛いのですが、私はなにかしましたか?」
知らぬ間に千代田の胃を攻撃していたらしい。ちょっとお呼ばれしてビジネスと文章の話をするだけで、それ程までに胃を痛めるような内容になるだろうか?大使館パーティーとかなら一般人でも中に入れるし、今回は一応仕事として行くので許可はある。お呼ばれなので、当然お暇するし変なものに触る気もない。高い調度品とか壊しても事だしね。
「いえ?エマにお願いされたし、回復薬の工場の話は既に高槻先生とはついていますから、単純にビジネスですよビジネス。」
「手土産に魔法まで・・・。依頼主は分かりましたが、金額は正確ですか?20万なんて端金で貴女を1日拘束できるなら、それこそ依頼殺到で対応しきれませんよ・・・。」
「ん〜、正確かと言われると弱いですね。エマから端金でない。と、言われてピースサイン貰いました。日給換算で色を付けて2万。端金でないと言うので盛りに盛って20万だと思って話しています。」
ドルでくれるならそれでもいいし、振込なら配信用の口座があるので個人口座ではなくそちらを使う。しかし、千代田の感覚では20万は端金なのか・・・。20万って俺の初任給より多い金額なんだけど・・・、その額を稼ぐのは大変だし、いくら指輪に金貨がぎっしり詰まっていようと、それを市場に一気に流せば暴落して価値は下がる。安全資産とはなにか?株に為替に、現金貴金属。今なら設計図とかも安全資産かもしれないが、設計図を売ってしまっては元も子もない。渡すならある程度信頼の置ける人間じゃないと渡せない。
「・・・、魔法の金額はいくらだと思います?」
「さぁ?元はただですし、今回は手土産なので金額を出すのは・・・。」
手土産のお菓子に値札が付いていたら流石に失礼だし、お歳暮の値段を調べるなら、貰った後にこっそりネットを見ればいい。しかし、エマも元値がただの魔法よりは東京バナナとかの方が失礼がなかったように思う。眼の前で作るのもなぁ・・・。手土産と言いつつただの物を渡すのもなぁ・・・。
「込める魔法は決めているのですか?」
「ん〜、危なくないようなパーティー用の魔法とかですかね?ちょっと音が鳴るクラッカー的な物とか、ちょっと眩しい光る玉とか。米人ってホームパーティー好きそうですし。」
サタデー・ナイト・フィーバーならミラーボールみたいに光るやつとかいいな。ジュリアナ東京とか行った事ないけど、なんとなく活気があってテレビが元気だったように思う。まぁ、ホームパーティーでそんな物を使えば盛り上がること間違いなしだろう。
「流石に攻撃魔法や隠蔽魔法は渡しませんか。理性があってよかった。」
「人をなんだと思っているんですか?手土産に武器とかマフィアじゃあるまいし。今回の話は大使館で公文書の内容聞き取り、それと米国に工場を作る話。それ以外はする気はないですし、国を出る気もありません。精々大使館の職員と話してお茶するくらいですよ?英語は余り読めないのでエマにもついてもらいますし。」
「その話は松田さんは知っていますか?」
「個人案件なので話してないですね。そんな事まで話しだしたら最後、昨日何食べたまで報告してほしいと言われそうで嫌です。」
「その報告は必要ありませんが、大使館に行く事は先に話してほしかった・・・。個人で約束してしまった以上、行くなとは言えません。しかし、高槻氏と貴女だけを行かせる気もまたありません。日時や人員の指定はあるのですか?」
「まだ全くありません。私は行く気でいますが政府として大使館が不味いのなら別の場所で話すだけですし、大勢で押しかけても相手に変な気を使わせるでしょう?」
指定はないけど大人数はちょっとね。これが何らかの抗議活動なら詰めかけても良いかもしれないが、やることは話すだけ。金銭が発生する以上ビジネスであり、その金額分は相応の働きをしないといけない。
「調整しますので、追って報告してもよろしいですか?」
「構いませんよ。正式な依頼として受けて向こうの出す金額を書類にしてもらってもいいです。ただ、人数は絞ってくださいね?」
そう話して大会の準備を進めつつ高槻と連絡を取る。エマが連絡がつかないと言っていたが、確かにホテルからはつかないだろう。いた場所はゲート内のセーフスペース。ほぼ無傷のモンスターを弄くり回していたらしい。面白い発見はまだ無いらしいが、モンスター解体に手間取っていた時に気晴らしにとS料理人の主催するキャンプツアーに参加。そこで高槻は見たのだ。料理人がモンスターを三枚におろす姿を・・・。
セーフスペースの馬や魚は普通?に料理出来る。しかし、モンスターは切り刻んだりすれば消えてクリスタルになる。しかし、料理人が手を加えると残るし食えはするらしい。安全の為に言うが、食えはする。高槻曰く食うと認識と味の差で脳がバグるらしい。
高槻の参加した時は豚鼻をローストして食べたらしいが、切り分ける時に食べたい味を言うとそれを再現してくれるので、見た目はキモくて食べる気などおきないようなモンスターでも美味しくいただけるらしい。実際高槻は食べたらしいが、シュークリームの味のする豚鼻を食べたら、流石に二口目は食が進まなかったとか・・・。まぁ、うん。俺も食べたくないよ。
そんな料理人にモンスターを解体してもらっている最中に俺から連絡が来て、大使館への同行者に正式に加わった。そして、政府からは誰か来るのかな〜と思っていると来たのは加納。自衛隊カルテット娘と仲がよさそうだったが、所属は外務省だったのか。まぁ、今更誰がどの所属とか言っても仕方ない。
「今日はよろしくお願いします。」
「いえいえ、こちらこそよろしく。まぁ、参加者だから顔はよく合わせてるんだけどね。」
「しかし、喧嘩しに行くわけじゃないんですよね?」
「当然、お仕事です。ほら、証拠に高槻社長も来てますよ。」
はっはっはっ・・・、正装で行こうとスーツを着ようとしたら、これで行ってくれと頼み込まれたんだぜ・・・。




